超次元ゲイムネプテューヌ 未知なる魔神 リーンボックス編
[全1ページ]

一瞬の交叉。音速の壁を貫き速さで魔爪が伸びる。

一撃目をギリギリで躱し、続いて迫ってくる振り下ろしの二撃目を刀で弾く。

奴にとっては、それが相手を量るお試しの攻撃だったのか、一度触手で形成されている翼で跳び距離を取った。

リーンボックスの辺境にある特に特徴的な物はない雪山で魔龍と対峙している。

光を全く反射せず独特の光沢感を見せ、脈を打つ生々しい鎧。それには、合計25個の汚醜に溶け腐って流れた汚水のような翠色をした瞳。兜のマスク部分から大きく前に出た部分は、ドラゴンらしい口で肉を裂く牙が並んでいる。

先ほど切り裂いた触手は、地面でまだ生きている様に蠢くが時期に消えて、斬られた触手から新たな触手が再生されていく。

見た目は、ドラゴンらしい荒々しい姿だが、その中身は全く異なる邪悪で埋め尽くされている。

煉獄を現世に埋め尽くすことが出来る聖魔剣『煉獄ヲ裁断スル切ッ先』を水平に構えながら、僕は魔龍を睨む。

 

「ア…ア……アア、ザ…トース」

 

「はいはい、意識は完璧に飲み込まれている訳じゃないわけね」

 

忌々しく口を開く。

本当に飲まれていたのなら、僕が来るまでにパープルハート達は確実に殺されている。

今の紅夜が抵抗したのか、それとも僕の知っている紅夜がそれを防いだのか流石に検討できる要素が少なすぎるから断言できない。でも、本当にアザトースの意思が反映されていたのなら最初から、相手の力量を図ろうとはしない。何気なく人が草を踏むように、アザトースは全力でこの世界まるごと破滅させに来ただろう。

 

「貴方、確か夜天 空よね。一体、何が起きているの!?」

 

後ろから声が掛けられる。声で判断できる変身時のパープルハートだ。

相手と対峙している以上、意識は一片も他に回すほど余裕はない。後ろに振り向かず僕は、パープルハートの問いに答える。

 

「紅夜が邪悪なる者に憑りつかれて、半分殺戮マシンと化している。以上」

 

「なっ、なんですって!」

 

驚愕の声を上げて、立ち上がり魔龍の元に走り出したパープルハートの肩を掴んで強制的に停止させる。

 

「離して!」

 

「君じゃ話にならない」

 

「でも……紅夜は、私達の仲間なのよ!!」

 

……仲間、ねぇ。僕にとって、((こういう状況まで追い詰めた本人|・・・・・・・・・・・・・・・))がそんなこと言っちゃうと、正直なところ滅茶苦茶、腹が立つんだけど?

まぁ、こんなところで怒っても何もいいことないので、とりあえずパープルハートの肩を掴んでいる手を引いて、倒れているアイエフとコンパの元に無理やり戻す。倒れるようにパープルハートは、地面に腰を打つ。

僕は、剣先を魔龍に向けたままで口を開く。

 

「そこの少女二人を担いで、とっとと離脱しろ。豹に追われる鹿のように全速力で、じゃないと巻き込まれて間違いなく死ぬぞ?君の妹からお願いされてはいるけど、アレは一筋縄じゃいかないからね。巻き込まれたら間違いなく死ぬぞ?大事なことなので二回言いました」

 

警告のつもりで伝える。一応だけど、ネプギアとは『約束』しちゃった身だし、神とか、地位とか、そんなことは一先ず置いといて、僕自身の意思で言うならば、姉を心配する妹に向かって『任せてよ』って思わず言ってしまったんだし、裏切るわけにはいかないでしょ。

 

「でも……それでも…!」

 

「はいはい、そこで主人公らしい苦悩を見せなくてもいいから、言うこと聞いて逃げて?結構まじで」

 

まぁ、君なら補正で生き残るかもしれないけど、そこで気絶しているアイエフとコンパは無理無理。

世界的に考えて、女神のストックは貴重だけど、人間のストックなんて安いからね。ぶっちゃけた話。

 

「一人を助けるために、自分の命だけじゃなくそこの二人を危険に晒させるつもり?聞いておくけど、策とかあるの?」

 

「−−−ッ」

 

「……分かったのなら、逃げる逃げる!」

 

強めに言う。魔龍はじっと僕達の会話を興味深く聞いている様子を見せる。

だけど、いつ飽きて、襲ってくるか分からない。いや、既に何かをしているかもしれない。……例えば、自分を影にして触手の一部を地面に潜らせているとか!

 

「きゃぁぁ!?」

 

「−−っと!」

 

魔龍に背を向けて、地面を蹴る。

『煉獄ヲ裁断スル切ッ先』の柄を口に銜えた、パープルハートを右手に、左手でアイエフとコンパの服を掴んで一気に跳躍する。

地面を粉砕して、幾多の触手が空中に逃亡した僕等を目標に定めて伸びてくる。

 

「−−−うんむっ!」

 

口に銜えた『煉獄ヲ裁断スル切ッ先』から、かなり本気の灼熱の炎を発生させて、首を激しく右から左右に振って斬撃として火炎を飛ばし触手を焼き斬る。

プロセッサユニットの恩恵で飛べるパープルハートは適当に放り投げる。いきなり投げられたことに体制を崩しが直ぐに整えてこちらに抗議の視線を送ってくるがガン無視、残虐的な触手プレイがしたいのならどうぞどうぞ、あっちの気分次第で殺され方が変わるよ。僕の反応に無駄だと思ったのか、パープルハートはこちらを見上げる魔龍を見下ろす。僕は空いた手に『煉獄ヲ裁断スル切ッ先』を握る。

 

「……紅夜…」

 

あー、もう……そんなに悲壮感溢れ表情で魔龍を見ても何も変わらないよ。

また切り裂いたところから新たな触手が再生される。絶対にあれって制限無さそうだよね。とりあえず、今度こそパープルハートに逃げてもらおうと、アイエフとコンパを渡そうとしたら、こっちに力強い意思を感じる瞳でこちらを見てきた。

 

「貴方なら……助けられる?」

 

「………一応…かな?」

 

「一応って、どういうことよ」

 

「確信と確実性がないのよ。似たようなことは前にもあったけど……」

 

あの時は、紅夜自身の意識がはっきりとしていたからなぁ……。

 

「その時は、どうしたの」

 

「物理的に跪かせた」

 

「…………」

 

えー、そんな半眼で見ないでおくれよー。力には力でしょ?ってかあの時、僕の方がダメージ多かったし。気合で立ち上がって、なんとか勝利って形になったけど。

 

「あなたも策が無いに等しいじゃない」

 

「仕方ないでしょ。僕そんなに頭いい方じゃないし、なによりこういう時に役に立つヒロイン補正の欠片もないし」

 

あ、自分で言っておいてちょっと悲しくなってきた。

 

「あなた、なんていうか……マイペースね」

 

「良く言われる」

 

嫌でも絶望と希望の交互を見てきたからね。どんな状況でも、自分のペースが乱れるのは戦いにおいて、不利に傾くことを知ったから、長く生きた原因かもしれないけど、いつの間にかこうなっていたんだよね。

 

「とりあえず、はい少女二名。出来るだけ遠くに逃げてね」

 

「でも、紅夜が……」

 

「年長者&経験者の言う事なんだから少しは聞いてよ……」

 

この頭でっかち!妙な所でプライド出さなくていいから!僕の方が嘆きたくなってきたよ……。

 

『爆ぜよ。星々を焼き尽くす焔』

 

「……やばっ」

 

冷や汗が流れた。魔龍の周囲にバラバラっとどこからともかく、冒涜的な魔術術式が書かれている((紙|ページ))が魔龍を包む。目を凝らして良く見ると予想通り、魔龍の傍にはあのナイアーラトホテップの忌々しい叡智の全てを綴られた最悪の魔導書『((死界魔境法|クロノミコン・ディザスター))』が浮かび、開いてページが勢いよく外に飛び出ている。

世界が再び、恐がるように震える。既にページに?まれた無機質な魔龍が聖句を読み始めると、漆黒色で書かれた文字が紅く、燃えるような色になっていく。

 

「パープルハート!こいつら持って、僕の後ろに隠れろ!!」

 

「え!?ちょっと!!」

 

アイエフとコンパをパープルハート目掛けて放り投げる。

上手くキャッチ出来たどうか、その有無を確認している暇はない。本来の力なら、詠唱途中に懐に潜り込んで強めの攻撃を叩き込んでやるところだけど、今の超絶弱体化した状態だとまず間に合わない。

 

「『煉獄ヲ裁断スル切ッ先』解放!−−−今度は、今出せる((全力で|・・・))!!!」

 

『生ける((火炎|ほのお))の意思は、万物を灰燼と化す灼熱の息吹』

 

今の僕だと出せる出力は、せいぜい30%くらい!?それで相殺できるかなんて、一々考えて後先だったら余計に勝率は絶望的になる!

魔力充填、術式展開、魔力燃焼。あと『旧神の鍵・偽典』からのブースト強化!

莫大な魔力と聖なる加護により『煉獄ヲ裁断スル切ッ先』は赤く真紅の炎ではなく、どこか安らぎを感じる灰色の火炎へと姿を変える。

 

『((霊刃天成|アームズ・コネクト))』

 

「聖なる領地を見守り、天空へと登る光輝の星!!」

 

魔龍を覆うページが赤く、紅く、悍ましい魔力が駆け巡り焼結していく。

熱い、数十メートル離れた僕等からでも伝わるほどの熱波。

『((死界魔境法|ネクロノミコン・ディザスター))』ーーーあれは、ありとあらゆる邪神の召喚に必要な生贄であり媒体である。そして、それを応用したのが((霊刃天成|アームズ・コネクト))、邪神の力だけを召喚して自分に憑依させる荒業。

無限に広がる暗黒宇宙から見えぬ力を召喚して刃に変える。

そして、世界を構築する四属性の一つがここに爆誕する。

 

 

「((破壊と創造に輝く凶星|グラン・ミラオス))!!!!!!」

 

 

『ーーー((獄炎|クトゥグア))』

 

 

万物を塵芥にさせる邪悪な炎と邪悪に憎悪する煉獄の火炎が吼えた。

 

 

「ーーーッッッ!!」

 

腕の筋肉がバラバラになってしまいそうな衝撃が襲う。

((破壊と創造に輝く凶星|グラン・ミラオス))を放った瞬間、周囲に防御魔法陣を展開していたのだけど、一瞬して消えた。

『煉獄ヲ裁断スル切ッ先』を握りしめ、色を無くした空間の中で必死で堪える。

互いを相殺し合い焔と焔は、空間すら焼き尽くす。ここは虚無、ゲイムギョウ界にぽっかり空いた穴。

 

「−−−っと」

 

風が吹く。世界がこの消えた部分を修正していき、景色が広がる。

森がどころか、((大地が無くなっていた|・・・・・・・・・・))。スプーンで取られたように大地は、強烈な力のぶつかりに生じた衝撃波に塵ひとつも残さず消滅していた。

 

「パープルハート、怪我ない?」

 

「な、なんとか……」

 

あまりの衝撃に意識が飛びかけたのか、ふらふらとパープルハートは見ているこっちが不安になるほど二人を抱えたまま空中に浮かんでいた。

 

「さ、さっきのはいったい…?」

 

「この辺一帯の((存在そのものが消えて|・・・・・・・・・・))虚無となった。世界の修正力が働いてくれたおかげで、存在は再構築されたんだけど、存在が消える直前に消えた物理的な物は消えたままだね」

 

「……これが…私たちがいた森なの…?」

 

呆然とその光景を見ながら、パープルハートは呟く。

僕は、それに背を向けてとりあえず魔龍を探す。次元までは傷つかなかったから、この世界から落ちたなんてことはないだろうけど……。おっ、いたいた。

 

「……紅夜の色が変わっている?」

 

パープルハートも見つけてたのか、魔龍に向かって呟く。

全体的に姿は変わっていないが、魔龍の装甲は真っ赤に見る者が目を傷める程、太陽の如く赤く染まっていた。

魔龍は、クレーターの中から相変わらず僕達を見上げる。

 

「ねぇ、さっきのあれは……」

 

どこまで行けるか、分からないけどやるしかない。

懐から、シェアクリスタルを取り出して魔龍に対して意識を高めた時、パープルハートが声を掛けてきた。

 

「なに?質問は手短に」

 

「紅夜のさっきの技は?いったいなにが…!」

 

「超簡単に言うなら、あれは仮面〇イダーでいうタイプチェンジだよ」

 

「………えっ?」

 

又も呆然の表情を見せて、周囲を見る。

森が無くなったその光景を。

それに、僕はため息を吐いて口を開く。

 

「元からあれには強い精神力と集中力が必要。今の魔龍は、いろんな意識がミキサーの中で回っている様な状況だからね。さっきの爆発は、ただ((コントロールが出来なくなって|・・・・・・・・・・・・・・))((漏れた魔力の一部|・・・・・・・・))です。はい終わり」

 

「−−−−−」

 

危なかったな〜。

((破壊と創造に輝く凶星|グラン・ミラオス))を放たなかったら更に被害が酷いことになっていたし僕等もただじゃすまなかった。もし、撃ち負けていたのならバットエンド突入だったし、今日の運はきっと大吉だったね。

魔力を壁として形成、それに足を置いて、魔龍に目掛けて突っ込む並びに女神化(笑)の準備はOK!

 

「……そんじゃ、逝きますか!!」

 

一瞬、二人を抱えているパープルハートの表情を見た。−−−恐怖だった。

目の前の存在に震えている。たったタイプチェンジで大災害が起きた。嫌でも分かる。−−−自分じゃ、何もできない現実を叩きつけられたそんな想いをしているだろうか?

………下らない。とりあえず、戦意消失以上の消失状態となったパープルハートに逃げろとか言っても無駄だろう何とか魔龍を遠い所に誘導した方がいい。

 

「世に福音に満ちることを願い。

 世に禍音が満ちることを憎む。」

 

シェアクリスタルを潰して、その欠片は光へとなり、それを纏いながら静かに詠唱を始める。

風を切りながら、魔龍目掛けて突進する。

 

「虹神の骸殻にして理を掴み、汝の名を世界に示すーーー((零神化|ゼロハート))」

 

真紅に染まった魔龍の手に魔導書の((紙|ページ))が集まり形を造る。

それは巨大な二つの大剣、白と黒の包丁のような剣。僕の知っている紅夜が愛用していた『((黒の狂気|ミイヴルス))』『((白の虐殺|ヴンヴロト))』だ。

 

僕専用に造ったプロセッサユニットが呼吸を開始するように黄金のラインが走った。

他の女神とは異なる形、それは纏うというより、パワードスーツのような装着イメージだ。

重厚な装甲に、あるギミックが搭載された大きめのガントレット、四対の天使の様な機械的翼を広げ、シェアエナジーで構成した幅の広い剣を手に握り、二刀流で魔龍に斬りかかる。

 

「……聞こえる?紅夜」

 

互いに二つの剣が交わり、また白痴の王の名前を唸りながら呟く魔龍に向かって僕は、バックプロセッサのブーストを吹かして押しながら、語りかける。

 

 

「今、君の為に泣いている人がいる」

 

パープルハートは泣いていた。悔しそうに、悲しそうに、苦しそうに。

変わり果てた君を見て、何もできない自分を悔やみながら、自分を責めていた。

 

「その涙を裏切るようなことは絶対にダメだ。だからーーー」

 

鍔迫り合い状態からからクトゥグアの炎を放出され、急いで退いた。

だが、一気に距離を詰められ『煉獄ヲ裁断スル切ッ先』を弾かれ、回転しながら僕の手から離れていく。

『((黒の狂気|ミイヴルス))』の漆黒の刃を剣でガード、追い打ちに迫ってきた『((白の虐殺|ヴンヴロト))』

の白磁の刃を僕はガントレットで抑える。

少し前に言った。僕が君をあっさり倒したあの模擬戦……、あの時、君が力を欲しがっていたよね。

力に、正しいも間違いもない。問題は、その使う人次第だ。今の君は、武器の重みも知らず自分が強くなっていると過信する子供だ。

 

 

「頑張れ」

 

 

精一杯の言葉と一緒にクトゥグアの炎に焼かれながら、僕は紅夜を蹴り飛ばした。

 

説明
その20
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超次元ゲイムネプテューヌ なんて凶悪な技だ→ただのタイプチェンジだ→なんだって!? 

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