魔法先生ネギま〜疾風物語〜 第二十三話
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バッと自らに掛かっていた物を払い除けて飛び起きる

体は嫌な汗でぐっしょりと濡れ、シャツが張り付いて気持ちが悪い

此処は修行用に与えてもらった、アリアドネーに滞在している間の自分の部屋だ

何故此処で寝ていたのかは分からないが、気絶した自分を誰かが運んだのだろう

荒い息を整えながらベッドから降りてシャツを脱ぐ

部屋を見渡し、見つけたクローゼットから適当な服をあさって身に付ける

 

 

 

 

 

落ち着いたところで、先程の夢では我慢していた嘔吐感が首をもたげる

飲み込む暇もなく、胃の内容物をぶちまける

昨日の昼に食べたパスタと思われる物が消化されかけた状態で床に広がる

胃の中身を全部出し切ってもまだ、黄色い胃液を吐き出す

喉が焼け、饐えた臭いが部屋中に広がった

 

 

 

 

ドチャッという音を立て、吐瀉物の広がる床に膝を付く

着替えた服が汚れることもどうでもいい

あの夢で見たことは間違いなく、真実だ

夢は経験に基づいた映像や想像したイメージしか再生しない

当たり前だ。脳内に無い映像なんか見れるわけが無い

僕はあんな経験はないし、文献で『((漆黒の焔神|フラム・オブ・ノワール))』の記録を読んだことはあるが、あんなに詳細な物は残されていなかった

 

 

 

 

 

即ちあれは脳内に残されていた、まぎれもない僕の記憶で

あの町の人達を殺しつくしたのは他の誰あろう、この僕だ

その事に思い立った途端、僕は吐瀉物まみれの服と床に見向きもせず、ふらふらと頼りない足取りで部屋から出て行く

目的地は無い。ただ歩く

 

 

 

 

歩いて歩いてひたすらに歩いてたどり着いたのは、月が見えるテラス

今夜の月は満月で、なぜか異様に大きく見えた

 

 

 

 

 

テラスの手摺の上に立ち、下を覗き込む

見ると腰が抜けるほど高く、目測で30mはある

落ちれば魔法を使わない限りほぼ間違いなく死ぬだろう

 

 

 

しかし僕は躊躇わずに一歩前に踏み出す

そのまま僕は虚空に投げ出され、地面に吸い込まれるように―――

 

 

 

 

 

「馬鹿かお前は!自分が何をしたか、分かっているのか!?」

 

 

 

 

 

突然落下がとまり、罵声を浴びせられた

その声で、停滞していた意識が覚醒していく

 

「…あれ僕は何で、こんな事…?」

「…はあ、無意識か。意識的より性質が悪い」

 

溜息をつきながらエヴァンジェリンが頭を抱える

 

「で、何故飛び降り自殺などをしようとした?無意識とは言え、きっかけが無いわけはあるまい」

 

きっかけ?

確か僕は、部屋で寝ていて、変な…夢、を

 

「あ、ああ、ああああああっ!!」

「っ!?」

 

頭を掻き毟り絶叫する僕に、彼女が目を見開き驚愕する

 

「僕がっ僕があの町の人を!あの町の人たちをっ焼き、焼き殺し、て!!」

「おい、落ち着け!落ち着くんだハヤテ!!」

 

半狂乱になって叫ぶ僕

エヴァンジェリンはそれを混乱しながらも止めようとする

 

「『((漆黒の焔神|フラム・オブ・ノワール))』は、僕だった!僕は、テオドラ様たちを、裏切ってた!!」

 

嗚咽を上げ、頭を掻き毟る

目の前にお世話になった人たちの顔が浮かんでくる

 

 

 

ヴィルヘルミナさん

 

 

セラスさん

 

 

魔法騎士団のみんな

 

 

 

ヘラスやアリアドネーで僕を助けてくれた人たち

 

 

 

そして、テオドラ様

 

 

 

 

 

 

『例えば…そう例えばの話でありますが、もし彼が指名手配中の賞金首だったとしたらどうするでありますか?姫様と私だけでなく、帝国そのものが批判されるのでありますよ』

『彼は妾の恩人じゃ!恩を仇で返してなるものか!!』

 

 

以前、僕の目の前で為された問答を思い出す

あの時、テオドラ様は僕を信じてくれた

 

 

 

 

 

 

 

でも僕は、その信頼を裏切ったんだ

 

 

 

 

 

 

 

「うああああああああああああああああああああ!!」

「っく、なんて魔力の発露だ!!」

 

感情に任せ、自身に宿る力を開放する

高密度で開放された力は物理的な破壊力を宿し、周囲を破壊していく

自分の周りはクレーターとなり、大小様々な岩が浮遊している

 

 

 

段々と大きくなる慟哭に同調するかのように、力もまた破壊の力を強めていった

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「先程の言葉から考えるに、あの時の記憶が戻ったか?」

 

あの時、とは私とハヤテが出会った時の記憶

出会いの記憶、といえば聞こえはいいが、その真実は血生臭い虐殺の物語だ

 

「っちぃ、しかし完全に記憶が戻った訳ではないらしいな。であればあのように取り乱すはずが無い」

 

自分に向かって飛んでくる岩を避けながら愚痴をもらす

完全に記憶が戻ったのなら、あの村での暖かい日々も思い出している

 

確かにあの町はハヤテが焼き払い、生存者一人いなかった

しかし火炙りにされるはずだった私を救い、諸共殺される所だったメアリーたちを救ったのも、又ハヤテなのだ

 

「ハヤテ!確かにお前があの町のやつらを焼き殺したのは事実だ!!」

 

その言葉に反応したのか、先程より多くの岩が私に向かって飛んでくる

魔法で岩を叩き落し、氷と風の術で受け流しながら続きを言い放つ

 

「だが!その行動が多くの命を救ったのもまた事実だ!現に私はあの時真祖になり立てで、体の原形を留めないほど焼かれてしまえば死んでいた!!」

 

幾ら真祖の吸血鬼といえども儀式によって人間から変化したならば、力が馴染むのには年単位の時間が掛かる

その状態で焼かれ、灰になってしまえば私は死んでいただろう

 

「それにメアリーたちもだ!彼女らは私を庇った所為で諸共火炙りになる所だった!!」

 

飛んでくる岩の勢いは収まる気配が無い

一発ぶん殴ってやれば、話くらいは聞く気になるか?

よし善は急げ、だ。早速やろう

 

 

 

岩から岩へと飛び移り、避ける事が出来ない大きな岩は吸血鬼の腕力に物を言わせて打ち砕く

 

 

それを数回繰り返しやっとの思いでハヤテの近くに降りた時、いきなり足元の地面が隆起する

いきなりの事で対応が出来ず宙に放り出されたとき、腹部を鋭利に尖った岩の弾丸が貫通した

 

 

「ぐ、ぅっ!!」

 

 

口から出そうになる悲鳴を押さえ込む

腹からは血液が滝のように流れ出ており、ピンク色の内臓がはみ出てしまっている

 

 

 

大丈夫だ問題ない、これ位なら数分で再生する

痛みが消えないのが難点だが、それは致し方ない

ヤツを殴る回数を一発から二発にすることで許してやろう

 

 

 

 

シュウシュウと煙を上げつつ再生し始める腹を一瞥もせず、ハヤテの目の前に降り立つ

ハヤテは私がいる事にも気が付かず、感情のままに力を発散している

 

一歩ずつ、ハヤテに近づいていく

小さい石が体のそこかしこに当たるが、そんな痛みは無視できる

 

 

 

歩く

石が右足に当たる

骨が折れる音がした

大丈夫、まだ歩ける

 

 

 

歩く

左腕に尖った石が刺さる

腕に刺さっても歩くのに問題は無い

 

 

 

歩く

先程の石より二周りほど大きい石が頭に当たる

額を切ったらしく、視界が半分ほど朱に染まる

頬を流れる血液を舌で舐め取った

 

 

「いい加減っ…」

 

 

言葉と共に、左足を思いっきり踏み込む

右腕を天高く振り上げる

 

 

「人の話をっ…!」

 

 

拳を硬く握りこむ

腰を捻って、遠心力をたっぷり乗せる

 

 

「聞きなさいよぉっ!!!」

 

 

そして力を解放し、ハヤテの頭を上からぶん殴った

 

 

 

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はい、二十三話でした

如何でしたか?お楽しみいただけていれば幸いです

 

 

さて、今回はハヤテ君に暴走していただきました

ゼロ魔の方は割りと順風満帆にいっているので、そのぶんこちらでは苦労させようと思っています

 

 

 

 

 

さて、次回の投稿をお待ちください

説明
第二十三話です。お楽しみいただければ幸いです
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