IS〈インフィニット・ストラトス〉?G-soul?
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今、俺の目の前には、俺の大切な人達の仇と思っていた亡国機業のメンバーがいる。

 

名前はスコール・ミューゼル。

 

そしてその隣のベッドには、もう一人の亡国機業が眠っている。短い間だったけど一緒に戦ったやつだ。

 

「スコール…今、お前を殺すことは簡単だ。この右腕一本で十分事足りる」

 

G-soulの右腕の装甲を展開してスコールに語りかける。

 

「ここでお前の首を握り潰すことだってできるんだ。そうすれば、俺の気持ちはいくらか晴れるかもしれない」

 

右腕を、その細い首に伸ばした。

 

「……………」

 

後は、思いきり拳を握れば、こいつを殺せる。

 

まだ白いベッドを赤く染めれる。

 

深層意識の『俺』がやりたかったことを叶えられる。

 

「……でもよ」

 

手の動きを止める。

 

「仮に、もし仮にお前がそんなことはしてなくて、誰かから大切に思われてるとしたら、俺にそんなことは出来ない。したくない」

 

その隣のベッドには、もう一人の亡国機業が眠っている。短い間だったけど一緒に戦ったやつだ。

 

「本当のことを話してもらう。俺にも、こいつにも」

 

俺は右腕を離して、装甲を解除した。

 

「だから、殺さない。これが俺の答えだ…さっさと目を覚ましやがれ」

 

壊れた洗面台に寄りかかって腕を組んだ。

 

「甘いのね」

 

「!」

 

「私があなただったら、間違い無く頭を粉々にしてるわよ?」

 

「起きてたのか…」

 

スコールが目だけを俺に向けていた。

 

「あなたがここに運んでくれたの?」

 

「汚れてない部屋を探すのに苦労したぜ。気分はどうだ?」

 

「殺されかけたから、良いとは言えないわね」

 

スコールは可笑しそうに笑う。

 

「あなたとオータムだけ?」

 

「いや、チヨリちゃんもいる。隣のオータムの脚の手当をしたのもチヨリちゃんだ。調べたいことがあるとか言って今は外してるけどな」

 

「そう。オータムも眠ってるみたいだし、ちょっとしたふたりきりね」

 

スコールの笑顔にドキッとした自分がいて、なんか知らんけど悔しかった。

 

起き上がったスコールはまだISスーツのまま。

 

「よかった…髪は切られてないみたい」

 

なんて能天気なやつだ。この状況で髪の心配かよ。

 

まさか、こんな状況でもどうとでもできるっていう余裕なのか?

 

「………お前、状況わかってんのか?」

 

スコールの隣に立った。

 

「さっき言った通り、俺は今お前を殺せる」

 

「もちろんわかってるわ。でも殺さないでくれるんでしょう?」

 

こいつ、俺をナメてるな? ここはちょっと怖がるくらいにしよう。

 

「ごほん…やっぱり前言撤回。いいか? 殺されーーーーー」

 

「『殺されたくなかったら俺の言う通りにしろ』…かしら?」

 

「……………」

 

もう七割方こいつのペースだった。でもそう簡単にはやらせないぞ。

 

「違うな。そこまで悪者みたいな言い方はしない。『殺されたくなかったら俺の質問に答えろ』だ」

 

「『殺されたくなかったら』の部分がある時点で十分悪者然としてるわよ?」

 

「あ、揚げ足とるな! とにかく俺の質問に答えてもらうからな!」

 

「いいわよ。何が聞きたいのかしら? スリーサイズ? それとも…エッチの回数?」

 

「はぁっ!?」

 

「えっと、あの時とあの時と…」

 

「数えんでいいっ!」

 

「冗談よ」

 

「こんなところでふざけんな! あとどこまでが冗談だ!!」

 

この女、楯無さんとどっこいどっこいなくらい面倒だ。下手すりゃあっちのペースに引き込まれる。

 

「あのなぁ…ホントにわかってんのか? 冗談言えるような立場じゃないだろ?」

 

「ごめんなさい。あなたの反応が面白くて」

 

したいわけではなかった談話を咳払いして切り上げた。

 

「…本題に入るぞ」

 

「楽しみだわ。何を聞かれるのかしら」

 

「ツクヨミを破壊したのは、本当にお前なのか?」

 

「……ストレートね。チヨリ様に聞いたの?」

 

「まぁな。でも、それ以上はなにも。だからお前に直接聞くことにした」

 

「そう…チヨリ様がね」

 

「教えてもらうぞ。お前の知ってることを全部」

 

「いいけど、あなたはいいの?」

 

さっきまでの笑みは消えて、代わりに真剣な表情があった。

 

「受け止める覚悟はある?」

 

「それが無けりゃ、ここにはいない」

 

「…わかったわ」

 

スコールは頷いて答え始めた。

 

「まずは、チヨリ様の発言ね。そうよ。私はやってない。ツクヨミを爆破なんてしていないのよ。その情報もニュースで知ったわ」

 

「なら、なんであの時あんなことを言って、俺を暴走させた」

 

「隠密行動をするために、あなたに囮になってもらったの」

 

「隠密行動? 俺のセフィロトのことは一部の人しか知らないぞ」

 

「その一部の人の目をこっちから逸らせればよかったの。こっちでもあなたは結構有名人なんだから」

 

「…次だ。ツクヨミを破壊したのがお前じゃないとして、じゃあ誰がやったんだ。誰がツクヨミのみんなを殺したんだ」

 

「それを答えるにあたって、一つだけ聞いておきたいことがあるわ」

 

少しだけ開けていた窓から入った風がスコールの金色の髪をなびかせた。

 

「それを知って、あなたはどうするのかしら?」

 

「なに…?」

 

「その犯人にあなたは復讐の炎を燃やす? 私を憎んだように」

 

「そんなことはしない。憎んだところで、死んだ人は戻って来ないんだ…それどころか、周りの人を傷つけちまう」

 

「……………………………」

 

スコールは一度目を伏せてから口を開いた。

 

「亡国機業幹部会」

 

「幹部会?」

 

「亡国機業を乗っ取った張本人達が集まった、今の亡国機業のトップってところね。チヨリ様から亡国機業の現状は聞いてるかしら?」

 

「亀裂が生じてるとかなんとか言ってたな」

 

「その亀裂の原因が幹部会よ。幹部会は亡国機業の存在を歪めてしまったわ」

 

「そこがわからねぇ。昔は違ったって言うけど、その昔っていうのはなんだ? 亡国機業ってなんなんだ?」

 

「私も人伝…と言うかチヨリ様から聞いただけだけど…」

 

スコールの話をまとめると、次のようになった。

 

亡国機業はもともと自警団のようなもので、ある天才科学者をリーダーにして裏社会の治安を守ってきたらしい。

 

でも、そのリーダーは部下達の裏切りにあって殺された。

 

そしてそれをきっかけに亡国機業は治安を守る存在から乱す存在へと変貌したそうだ。

 

そして、そのリーダーを裏切った部分達というのが、現在の亡国機業幹部会のことらしい。

 

ここまで聞いて、俺の頭に疑問が一つ。

 

「そんな奴らがなんでツクヨミを破壊する必要があった」

 

「それは……ツクヨミが亡国機業への協力を拒否したからよ。そして幹部会はツクヨミの破壊を決定した」

 

「当たり前だ! 悪の組織に誰がそんなことを…!」

 

自分でそう言った後、気づいた。

 

「待てよ。俺はツクヨミにいたから何度も技術提供についての会議に参加してる。でも亡国機業との会議なんて一回も無かったぞ」

 

「当たり前よ。亡国機業は世界中に存在してるけど、表舞台に出ることは滅多にない。常に隠れ蓑を持っているわ」

 

「隠れ蓑…」

 

「あなた達が会議にかけた何十…いいえ、何百の会社、企業の中に亡国機業がいたのよ」

 

「そんな…ただ断っただけだろ! なんでそこまで…」

 

「でも、それであなたの大切な人達は死んだの。ツクヨミの人間は、個人に殺されたんじゃない。組織に殺されたのよ」

 

「……………」

 

組織に殺された。その言葉が、重くのしかかった。

 

「なら、なんでお前は亡国機業を裏切る側に味方してるんだ?」

 

「簡単なことよ。ああいう偉そうな奴らのことが嫌いなの」

 

答えは、すごく単純だった。

 

「幹部会に会ったことがあるのか?」

 

「もちろんよ。私は実行部隊の司令として幹部会と話せるわ」

 

「どんな、奴らなんだ。幹部会は」

 

「下衆どもよ」

 

即答だった。

 

「私もそんな連中にのやり方に嫌気が差して、だから組織を裏切った。でも、あの無人機事件の日に攻撃を受けたわ」

 

イギリスの秘密基地でチヨリちゃんに聞いた話だ。

 

「お前を倒す程の相手って、何者なんだよ」

 

「顔は隠されてよく見えなかったわ。でも、見たことがないくらいのスピードとパワーのISを持っていたということだけは確かよ」

 

「亡国機業の目的はなんだ? 何の為にISを盗む?」

 

「わからないわ。盗んだISは回収班が回収してどこかへ運んで行くのよ。所詮私も実行部隊の司令という肩書きだけど、駒だったようね」

 

「駒…そうだ、お前、オータムのことを駒って言ってたけど、本当にそうなのか?」

 

「あの映像…見たのね」

 

「オータムはそりゃもうショック受けてたぜ。自殺しかけたんだからな」

 

「そんなことを?」

 

「あぁ。お前が生きがいなんだとさ」

 

「嬉しい事言ってくれるわね…」

 

「でも、嘘なんだろ? 自白剤を打たれて、オータムのことを駒だの道具だの言ってたんだからよ」

 

いくらツクヨミを破壊したのがこいつでは無いとしても、人の気持ちを踏みにじるのは許せない。

 

「…嘘よ」

 

「やっぱり…」

 

「オータムは私の、大切なパートナーなんだから」

 

「そうそう。大切な…え?」

 

こいつ、今、なんて言った? 大切なパートナーって言った?

 

「何かしら?」

 

「え、い、今更そんなこと言ってもダメだぞお前。そんな虫のいい話があるかよ」

 

「あなたとオータムが見た映像はね、全部芝居よ」

 

「芝居?」

 

「なかなかの演技だったでしょ? これでも、小さい頃は女優に憧れてたの」

 

「で、でも、あの変な男に…まさか!?」

 

「察しが良いわね。あの男は私の協力者。私達以外にも亡国機業を裏切った人間はいるのよ。あの映像は上の連中を騙す為だけに撮ったんだけど、相当な完成度だったみたいね」

 

「まんまと騙されたってことか…ん? じゃあ、あの爆笑も演技だったのか?」

 

スコールは口角を少し上げた。

 

「あれくらいやらないとね」

 

「じゃあなんでわざわざ言う必要もなさそうなことを言ったんだよ」

 

「この子を無関係だと思わせれば奴らはこの子は狙う事はしないわ。それにその甲斐あって私が壊れたと勘違いして他に尋問されたわけでもなかったし。だけど…」

 

スコールはオータムの髪を撫でた。

 

「連中を欺く為とは言え、この子を傷つけてしまったのね…」

 

その目は心底申し訳なさそうな、裏社会の人間とは思えない目だった。

 

「……………」

 

あれだけ憎かった相手のはずなのに、その憎しみが萎んでどこかへ消えちまった。深層意識の『俺』はどうしてるんだろう。

 

「他に聞きたいことはあるかしら?」

 

「いや、もういい。俺が聞きたかったのはそれだけだからな」

 

答えて踵を返す。

 

「どこへ行くのかしら?」

 

「帰るんだよ。お前達が何をしようとこれ以上首を突っ込む気はないし」

 

「待って」

 

スコールに引きとめられた。

 

「そこの袋、あなたの荷物?」

 

「ん? あ、これか。中身は知らないけど、チヨリちゃんが、お前が起きたら渡しておけって」

 

「取ってくれるかしら?」

 

手渡すと、スコールは袋の中身を取り出した。

 

ズボンとシャツ。それと上着。

 

「あら、服だわ」

 

「服だな。でもなんで?」

 

「ここから出る時に私がISスーツじゃ怪しいでしょ?」

 

「なるほど」

 

「老婆心ってやつなのかしらね」

 

スコールはシャツを着て上着を羽織った。

 

しかし、ズボンを手に取ったところで動きを止めた。

 

「困ったわ。脚、あまり動かないのに…」

 

「そんなにひどいのか?」

 

「自力じゃ動かせないかも」

 

そりゃ困った。

 

「そうだわ。ねぇ」

 

「ん?」

 

スコールはズボンを俺に渡してきた。ま、まさか…

 

「履かせてくれる?」

 

「はぁっ!?」

 

本日二度目の『は』をかます。

 

「なんで俺が!?」

 

「だって、ちょうどいいじゃない」

 

「ち、チヨリちゃんとか、オータムもいるだろ!」

 

「あなただから意味があるのよ。これまでのお詫びの印ってことで、やってくれないかしら?」

 

「こんな斬新なお詫びの印があるか!」

 

「安心して。脚が動かないから首をへし折ろうとしても出来ないから」

 

「その可能性に今言われて気づいた…」

 

「ほらほら、早くしないとオータムが起きちゃうわ。こんな状態で見つかったら、あなたオータムに殺されるわよ?」

 

「うっ…」

 

確かに、今起きられたらナイフでめった刺しにされるかもしれない…いや、される。

 

「早くしてくれる? 女を待たせる男は嫌われるわよ?」

 

「わ、わわわわかってらぁっ!」

 

そうだ、何を狼狽える必要があるんだよ。

 

ず、ズボン履かせるだけの簡単な作業じゃないか。

 

それに脚が動かないってのは大変だ。けしてやましい気なんてないから。善意だから。仕方ないからやってやるだけだから。

 

「…ならば!」

 

ズボンを持ってスコールに近づく。

 

「心頭滅却…失せよ煩悩…じゅげむじゅげむごこーのすりきれ…」

 

煩悩を消し去るための呪文を口にして、事にあたる。したがって目の前にスコールの、女の人の脚が否応無しに飛び込むわけだ。

 

いくらISスーツを着てるって言っても、恥ずかしくないのかよ。こっちが恥ずかしくなるわ。

 

…しかし、綺麗な脚だな。細くてスベスベしてそうで…『陶器のようだ』ってこういうーーーーー

 

「んっ…」

 

スコールの短かい声にハッとなった。

 

「ど、どうした?」

 

「ちょっと息がかかってくすぐったかっただけよ」

 

「す、すまん」

 

「じゃあ、腰上げるから、通して」

 

「あ、あぁ」

 

四苦八苦しながらもなんとかズボンを履かせる事に成功した。

 

「はい終わりっ」

 

「うふふ、ありがと」

 

さ、最後の最後にとんでもない戦いだったぜ…

 

「意外ね。学園の女の子達とはこういうことしないの?」

 

「するか馬鹿!」

 

「でも、意外とムッツリさんなのね」

 

「ど、どういうことだよ」

 

「ある程度まで履かせたら、私に自分でやらせれば良かったのに」

 

「え………あ!」

 

「気づいた? 気づくかと思ったら気づかないから、ちょっとからかってみたわ」

 

こ、この女ぁ…!!

 

「ふ、フンッ! じゃあ、今度こそ帰るからな!!」

 

乱暴に扉を開ける。

 

「近いうちにーーーーーーー」

 

「ん?」

 

「近いうちにまた会うことになったら、その時はよろしくね」

 

「いろんな意味で、しばらくその面は見たくないけどな」

 

そして扉をゆっくり閉めた。

 

「近いうちにって…俺は会う気ないっつーの」

 

愚痴りつつ、肩から力を抜いた。

 

「幹部会…ねぇ」

 

今日知ったことは楯無さんあたりに聞くとして、とにかく学園に戻ろう。シャル達を心配させたらいけねぇや。

 

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「…ん」

 

「目が覚めた?」

 

「スコール!」

 

オータムは勢いよく起き上がり、そして脚の痛みを感じた。

 

「くぅっ…」

 

「大丈夫?」

 

「平気だよ。それよりスコールは? もう起きていいのか?」

 

「えぇ。脚があまり動かないけど、それ以外は問題無いわ」

 

オータムは安心したように表情を弛緩させた。しかし、すぐに不安気な顔つきに戻る。

 

「そ、そう言えば、あのガキどこ行きやがった。ババァもいないみたいだけど…」

 

「彼ならさっき帰ったわ。チヨリ様は知らないけど」

 

「ふ、ふぅん…まぁ、別にどうでもいいや。ん? スコール、なんで服着てるんだ?」

 

「チヨリ様が用意をしてくれたみたいでね。彼に着せてもらっちゃった」

 

「前言撤回だ。あのガキ今度会ったらぶっ飛ばす」

 

瑛斗の安否が気遣われることになりそうであった。

 

「……………」

 

「……………」

 

しかし、そこからは沈黙である。

 

「……………」

 

「……………」

 

二人とも目を合わせない。

 

一人は待ち、一人は躊躇する。

 

「あ、あのっ」

 

先に沈黙を切り裂いたの躊躇していた方だった。

 

「あの…さ、スコール」

 

「なに?」

 

「き…聞きたいことが、あるんだ……」

 

「なにかしら?」

 

言おうとしてやめるを何度か繰り返しつつも、オータムはやっとの思いで言葉を紡いだ。

 

「わ、私のこと、どう……思ってる…?」

 

「どうって?」

 

「いや、その…」

 

オータムは、不安で胸が締め付けられ、続く言葉はなかなか出なかった。

 

「す、スコールが…私のこと……『駒』って言ってたから………」

 

「……………」

オータムの目はもう涙が溢れそうになっていた。

 

「本当のことを…言って、ほしい」

 

もじもじと指を絡ませるオータムに、スコールは声をかけた。

 

「オータム」

 

「なっ、なんだ?」

 

「こっちに来れる?」

 

「え、う、うん…」

 

オータムはベッドから出て、スコールのベッドに座る。

 

「覚悟はしてる…だから…言ってくれ」

 

言葉とは裏腹に、オータムはまるで少女のように怯えていた。

 

普段から気が強いオータムだが、スコールの前では一転して気弱になる。しかし、これが彼女の本当の姿だと言うことをスコールだけは知っている。

 

 

だから、スコールはオータムを抱き寄せた。

 

 

「スコール…?」

 

「バカね。私があなたをそんな風に思うわけないでしょう?」

 

オータムの手が、震えながらもスコールの背中に回る。

 

「あなたは私の大切な、掛け替えのない恋人よ」

 

耳元でそっと囁いた。

 

「愛してるわ、オータム」

 

「………! …っ! うわあぁぁぁぁ…!」

 

「ちょっと、なんで泣くのよ?」

 

子どものように泣きじゃくるオータムに、スコールは少し驚く。

 

「だって…! ずっと怖かったから…! 本当のこと…聞くのっ、怖かったから…!!」

 

ボロボロと落ちる涙を受け止めて、オータムの頭を撫でる。

 

「ごめんなさい。あなたをこんなにも不安にさせて…」

 

「ううん…! いいよ…! そんなの全然いいんだ…!!」

 

「もうあなたを悲しませるような事はしないわ…ずっと一緒よ」

 

「本当…? 本当にずっと一緒にいてくれるの?」

 

「えぇ…嫌?」

 

「ううん…! 最高だよ…!!」

 

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瑛斗はこの建物に入った扉の手前でチヨリと鉢合わせした。

 

「もう行くのか?」

 

「まぁな。それより…なんだそれ?」

 

「見てわからんか? 車椅子じゃ」

 

「いや、それはわかるんだけどさ。なんで車椅子なんか必要なんだよ? つか、どこにあったそんなの」

 

「やはりこの施設は病院としての機能もあったようでの。たくさん置いてあったから一台拝借させてもらった」

 

「誰が使うんだよ」

 

「無論、スコールじゃ。激戦の後に立って歩くのは酷じゃろ? あの馬鹿はスコールがいる手前強がるじゃろうがな」

 

「その激戦を制して結構疲労困憊な男がチヨリちゃんの前にいるんだけど?」

 

「男の子じゃろ。我慢せんか」

 

「えー」

 

「…改めて、礼を言うぞ」

 

「いいって。約束を果たしただけだから」

 

「聞きたいことは聞けたか?」

 

「まぁな。それと、亡国機業のことも聞けた。亡国機業幹部会…それが親玉なんだな」

 

「そうじゃ。ワシらの敵は奴らじゃよ」

 

「ツクヨミが技術提供を拒否したからってだけで、あんなこと…」

 

「奴らのやり方なんじゃよ」

 

チヨリは一拍置いてから瑛斗の目をまっすぐ見た。

 

「瑛斗、ワシたちと一緒に来んか?」

 

「え…」

 

「今回のように、またどんな障害があるかわからん。ワシ達には一人でも多くの同志が必要なんじゃ」

 

「悪いけど、それはできない」

 

瑛斗が首を横に振るのを見て、チヨリは指をピクリと動かした。

 

「チヨリちゃん達の事情はわかったよ。でも、俺には、学園のみんながいるからさ…」

 

「そうか…無理強いはせん。すまなかったの…」

 

「いや、まぁ…」

 

瑛斗は一度チヨリから顔を逸らして、頬をポリポリと掻いた。

 

「こんなこと言うのも、おかしいかもしれないけどさ…」

 

「?」

 

「…頑張れよ。影ながら応援してる」

 

チヨリはそれに言葉で答えることはせず、笑ってみせた。

 

「さて、帰るのなら急いだ方がいいぞ」

 

「え、なんで?」

 

「次のバスまで、もう時間がないぞ」

 

「えっ!?」

 

瑛斗の表情が引き攣る。

 

「次を逃すと…明日の朝じゃったかの」

 

「明日の朝!?」

 

「急がんと、乗り遅れるぞ?」

 

「や、ヤバい! チヨリちゃんじゃあな!」

 

瑛斗はそのまま悲鳴に近い雄叫びをあげながら建物から出て行った。

 

ちなみにチヨリの言葉は嘘だ。これ以上、瑛斗をここにいさせる訳にはいかなかったからである。

 

「…やれやれ。あの様子じゃと、そこまで聞いてはおらんのか…」

 

ため息の後に、息が詰まった。

 

「ゴホッ、ゴホッ…!」

 

口を抑えた小さな手のひらに、赤い液体が付着している。

 

「時は近い…か」

 

汚れを拭って、車椅子を押す。

 

「スコールめ…存外自分も怖いのではないか……」

 

ぼやきながらしばらく進むと、一人の女の泣き声と、それを宥める一人の女の声が重なって聞こえ始めた。

 

「……今はやめておくかのぉ」

 

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『 バー・クレッシェンド』は千冬や真耶の行きつけのである。

 

駅前商店街の地下にある大人達の社交場は仕事帰りの人々には人気であった。

 

「上手くいったようですね」

 

その店内。開店時間前カウンターで電話をする男がいた。

 

この店のマスターと呼ばれる男だ。

 

電話の相手の少し呆れているような声音に、苦笑気味であった。

 

「いやはや、少しばかり熱が入ってしまいました。はい。はい。ハハハ、でしょうね」

 

明るかった声が、少しだけ低くなった。

 

「私の持てるすべてを託しました。あとは、頼みます」

 

そして、開店を知らせるチャイムが鳴る。

 

「おっと。では、店を開けなければ行けないので。もう本業はこちらですよ。えぇ、では、失礼します……ご武運を」

 

受話器を置いた直後扉が開き、来客のベルの音が店内に響いた。

 

「いらっしゃいまーーーーーおや?」

 

今日最初に入って来た客を見て、少し驚いたように眉を上げた。

 

「珍しいですね。お一人ですか?」

 

「あぁ。仕事からの帰りでな」

 

来店客は、千冬であった。迷いない足取りで、男の前に設けられたカウンター席に腰をおろした。

 

「いつものでよろしいですか?」

 

「あの時は世話になったな」

 

「はい?」

 

準備する手を止めて、千冬の声に反応した。

 

「まさか、これほど近くにいるとは…最強と謳われていながら恥ずかしい限りだよ。探偵の真似事はするものじゃないな」

 

「失礼ですが…何のことでしょうか?」

 

「とぼけても無駄だ」

 

千冬の声は鋭く、冷たい。

 

「あなたの素姓は掴んでいる」

 

「……………」

 

「警戒しないでもらいたい。ここでどうこうしようとなどとは考えていないさ。正直言って私も驚いているんだ」

 

男はグラスを置いて、観念したかのように長く息を吐いた。

 

「今日は、開店時間を延長させる必要があるようですね」

 

「すまないがそうしてもらう。だがまぁ…喉が乾いているからビールをもらおうか。代金は払う。暑くてかなわん」

 

「かしこまりました」

 

男はグラスに注いだ冷えたビールを千冬の前に置いてから、店の入り口の看板を裏返して開店したばかりの店を閉めてからカウンターに戻った。

 

「さてと…私の素姓を掴んでいる、と言うことは、あなたは知っているのですね」

 

「差出人不明の情報に、一度は罠かと思ったが…本当だったようだ」

 

グラスを傾けて心地良い冷たさを喉を鳴らして飲み下し、男を見る。

 

「あなたは、一人で戦っていた」

 

「もう一人ではありません。そして、私は一線を退いた身です」

 

「だが、あなたはーーーーー」

 

「あの人の遺志を継ぐのは、私ではなく、もっと相応しい人間がいます。あの子なら、きっと…」

 

胸元のポケットから男は一枚の写真を取り出し、千冬に見えるように置いた。

 

古い写真であった。色も褪せて縁もところどころ磨り減っている。

 

数人の男女が集まり、中央は子どもを抱える男とそれに寄り添う女。

 

「あの時は、ただがむしゃらでした。自分たちは、世界を守っているのだと、そう思っていたんです…何にも気づかずに…!」

 

自分を戒めるようなその言葉には、どこか寂しさを感じる。

 

「この事を、あの子は?」

 

男の問いに、千冬は首を横に振る。

 

「…そうですか……」

 

「このまま、何も知らない方があいつは幸せなのかもしれない。真実を知れば、あいつのこれまではすべて嘘になる」

 

ビールが半分ほど残っているグラスを弄ぶ。

 

「かく言う私も、似たような状況をもっと身近なところで抱えているのだがな」

 

自嘲気味に笑ってから、グラスを置いてもう一度男の顔を見た。

 

「あなたの力を貸していただきたい」

 

男は、上の戸棚からグラスを取るために背を向けた。逃げるように、逸らすように。

 

「残念ですが…もう私にできる事はありません。私はこのバーのマスター。それ以外の肩書きは必要ないのですよ。世界を守る以前に、この店を守るので精一杯です」

 

「そうか…すまない」

 

「いえ、こちらこそお力になれず」

 

「今度は、ちゃんと客として来よう」

 

千冬はビールの代金を置いて、席を立った。

 

「上手い酒を頼むぞ」

 

「はい。お待ちしております」

 

千冬は男の言葉に少し笑顔を見せて、店を出た。

 

「……………」

 

再び男は店内に一人になる。

 

「もし生きいらっしゃれば、あなたは何を思うのでしょうね…」

 

写真の中で、変わることのない姿を指でそっと撫でる。

 

「ねぇ…『桐野博士』」

 

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瑛「インフィニット・ストラトス?G-soul?ラジオ!」

 

一「り、略して!」

 

瑛&一「「ラジオISG!」」

 

瑛「読者のみなさんこんばどやぁー!」

 

一「こ、こんばどやぁ」

 

瑛「なんだかなー。謎が解けたら、謎が出て来やがったよ。亡国機業幹部会だってさ。スコールも言うのがなんか悔しいけど、いい奴…だった」

 

一「うん、まぁ本編の振り返りをざっくりやるのもいいんだけどさ…何だコレ?」

 

???「……………」

 

一「封筒か? なんか中に入ってるみたいだけど」

 

瑛「お、気づいたか。それじゃあ今日の質問だ。ロキさんからの質問! 家に封筒が届いて、中では何かが蠢いています。開けますか?」

 

一「開けますかって…」

 

???「!!」ピチピチ! ピチピチ!

 

一「動いたっ!? 触ろうとしたら動いたぞ!?」

 

瑛「だから言ってんじゃん。蠢いてますって」

 

一「蠢いてますってレベルじゃないぞ! 跳ねてる跳ねてる!」

 

瑛「で、どうする? 開ける?」

 

一「瑛斗は中身知ってるのか?」

 

瑛「いや、知らん」

 

一「知らないのかよ!」

 

瑛「だから、若干ビビってます。なんだよコレ…」

 

一「一応、封はされてるみたいだな…」

 

瑛「というか質問は、コレが家に届いたら開けるか、ってことだからな」

 

一「こんな荒ぶってる物が届いても、開けたくないな…」

 

???「!!」ピチーン! ピチーン!

 

瑛「俺も…じゃあ、これは置いといて、次の質問に行くか」

 

一「カイザムさんからの質問。フォルテ先輩に質問! 修学旅行で一番思い出に残っている事はなんでしょうか?」

 

瑛「と言うわけで、今回もゲストはこの人! フォルテ・サファイアさんでーす」

 

フ「どうもっす。また読んでもらえて嬉しいっす」

 

一「IS学園の修学旅行か。俺たちも夏休み明けたら行くのか」

 

瑛「フォルテ先輩は去年行ったんですよね」

 

フ「そうっすよ」

 

瑛「どんな感じでした? 俺たち全然知らないんですよ」

 

一「楯無さんも教えてくれないからなぁ」

 

フ「いやぁ、話してもいいんすけど、なんか空気読めてなくて怒られそうっす」

 

瑛「いいじゃないですか。ここだけの話で教えてくださいよ」

 

一「気になるもんな」

フ「そうっすね…少しくらいなら大丈夫っす」

 

瑛&一「「おぉ」」

 

フ「えっと、」

 

???「!」ピチーン!

 

フ「へぶっ!?」

 

瑛「あぁ! 封筒がフォルテ先輩の顔面に!」

 

一「なんでだ!?」

 

フ「ちょ、な、なんすかコレは!? いたたた! 跳ねるな! 跳ねるなっす!」

 

???「!!」ピチピチピチピチ!

 

フ「いたたたたた!?」

 

瑛「ものすごい勢いでフォルテ先輩のおでこを叩いてるな。なんで落ちないのか謎だ」

 

一「もしかして、言うなってことなんじゃないか?」

 

瑛「あー、なるほど」

 

フ「わかったっす! 言わないっす! 言わないっすから!」

 

瑛「あ、封筒が剥がれた」

 

フ「ひ、ひどい目にあったっす。なんだか私最近散々っすよ…」

 

瑛「どうやら教えてもらえないみたいだな。さて、それじゃあエンディング!」

 

流れ始める本家ISのエンディング

 

瑛「今日はそこの女の子に達に歌ってもらったぞ」

 

一「それって、あそこの三人組か?」

 

瑛「あぁ。なんでも防衛隊なんだそうだ」

 

一「ぼ、防衛隊…?」

 

フ「なんすかそれ」

 

瑛「俺もよくわかりません。それじゃあ!」

 

一&フ「「みなさん!」」

 

瑛&一&フ「「「さようならー!」」」

 

フ「それにしても、なんすかこの封筒は。何が入ってるっすか」

 

瑛「実は俺たちも知らないんですよ」

 

フ「中身を確かめてやるっす」

 

一「あ、開けるんですね」

 

瑛「俺達が警戒してたのをなんの躊躇いもなく…」

 

フ「さぁ、出てくるっす」

 

???「はぁー、やっと出られた!」

 

瑛&一「「えっ!?」」

 

フ「な、なんすか!? ちっちゃい人が出て来たっすよ!?」

 

???「突然連れ去られちゃうんだから! びっくりしたぁ」

 

???「あ、見つけた!」

 

???「もう、どこに行ってたのよ!」

 

???「おーい!」

 

???「あ、みんな!」

 

一「そして飛んで行った…」

 

フ「飛べるんすね…」

 

瑛「あの女の子達と知り合いみたいだな」

説明
少年に虚構を、愛する者に真実を
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コメント
主人公sに質問です。37度を記録した日、貴方の家の水道が壊れ水が出なくなりました。あなたが持っているのは壊れる前に注いだ一杯分の水。さて、どう使いますか?(キリヤ)
更新お疲れ様です!! フォルテさんにまたまた質問です!! アメリカ代表候補生みたいですが、フォルテさんは本場アメリカのファーストフードでハンバーガー、ホットドッグ、ピザ  どちらがお好きですか?(カイザム)
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