びっくりビスケット
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「二度焼かれたもの」

 

 

ビスケットの語源。

それと知ったのは、つい最近の2月28日。

なんでも、ビスケットの日なんだって。

 

 

 

 

 

それなのに。

知らずにビスケットばかり食べていたのは何かの因縁に思えて仕方ない。

 

 

 

 

 

――二度も同じ人に熱くなってしまうなんて。

 

 

 

 

 

5年前、中学3年生。

 

 

大好きだったのに、想いも伝えられなかった淡い初恋。

卒業と同時に高校も別になって会うこともなかったから、忘れかけていたけど。

成人式で再会して、より素敵な男性になっていた彼に再びときめくことになった。

 

 

 

 

 

そして今、そんな彼からの連絡を待っている。

二次会で酔っ払った勢いに任せて連絡先を聞いた自分に感謝だ。

 

 

♪ポケットの中にはビスケットが1つ

 

 

鼻歌交じりにたまたま入れていたビスケットの小袋をポケットから取り出す。

 

 

サクサク

 

 

小気味良い音。

心と同じように、口の中まで甘さが広がる。

 

 

サクサク

 

 

恋って、こんなに楽しい気持ちだっただろうか。

女子高、女子大と進んできた私にとっては、しばらくご無沙汰になっていた感情だ。

 

 

サク…

 

 

 

 

 

と、震えるケータイに気づいてとっさに飛びつく。

 

 

ところが、焦った私の口の中で、粉になったビスケットが気管に入ってしまった。

 

 

「けほけほけほ!」

 

 

「どうしたの!? 風邪ひいた!?」

 

 

電話口から焦った声が聞こえる。

いけない、お茶を飲んで、一呼吸。

 

 

「ごめん、ビスケットが…」

 

 

「ビスケット?」

 

 

「つまっちゃって…」

 

 

「ははは、食い意地張ってんだ」

 

 

「! 食い意地って!!」

 

 

好きな人の前でこの始末…なんてだめな私…

 

 

「…ビスケットか。バレンタインにデパートで買ってただろ。見かけたんだ」

 

 

「え? なんで声かけてくれなかったの!?」

 

 

「一生懸命選んでたみたいだったから声かけにくかったんだ。彼氏用だろ?」

 

 

「違うよ! 彼氏なんかいないし、あれは…」

 

 

今食べてるこのビスケット。

それに、今好きなのは…

 

 

「二度目だったよ。焼いたの」

 

 

「二度焼いた?」

 

 

「君の彼氏に。中3のときと、今年のバレンタイン」

 

 

「?」

 

 

「中3のバレンタインにも、君はきれいにラッピングした箱持って、友達に後押しされてたのに、その箱は僕のところにはこなかったから…」

 

 

中3のバレンタイン、確かに私はチョコレートを用意して、プレゼントしようと思ってた。

でも私より先にあなたに渡してる女の子に恐れをなして、結局渡せなくて…

 

 

「それって…?」

 

 

「…うん。君が、好きだ。…ごめん。突然にこんなこと言われても困るよな。でも…連絡くれたから…もしかしたらって、期待しちゃったんだ。彼氏いないようだったら、考えてみてくれないかな」

 

 

すれ違ってしまった5年前。でも、今確実に幸せがやってきたんだ、ということがわかった。

 

 

「ねえ、ビスケットの語源て知ってる?」

 

 

これが、因縁だったのかな?

焼いたのはお互い5年たってからのこと――

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