真・恋姫†無双 異伝 〜最後の選択者〜 第八話
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第八話『再び御遣いとなりて』

 

 

―旅立ちの日が、来た。

 

 

 

この日のために、突如として向こう側に飛ばされた前回はできなかった準備は色々とやった。

 

 

 

役立てられそうな新たな知識や技術を吸収、あるいは修得した。

 

 

 

化物としか言いようがないほどの人から恐るべき戦闘技術を教わった。

 

 

 

…あるいは、本能的に感じていたのかもしれない。

 

 

 

再びあの外史へと旅立つ日が来ることを。

 

 

 

こちらの世界で過ごした年月は、せいぜい18年かそこらでしかない。

 

 

 

しかし、あの世界で過ごした年月は、もはや正確には認識できないほど長い。

 

 

 

だからなのかもしれない。

 

 

 

天の御遣いだとか、そんな与えられた役割でしかないものは関係ない。

 

 

 

そうだ。

 

 

 

あの世界は、あの世界の出身ではない俺にとっても、俺を育んでくれた、魂の故郷だ。

 

 

 

だから、俺は往く。

 

 

 

最愛の人を伴って、再び戦いへと旅立つ。

 

 

 

あの不可思議にして過酷な、それでもこの上なく美しい世界へ。

 

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俺と朱里、両親と鞘名、祖父母、淋漓さんと珠里さんは、俺達が住んでいる家に集まっていた。

 

そして、なぜか自然にその場に溶け込んでいる貂蝉―

 

 

「―ってオイ!何故にそんな自然にいるんだ、お前は!」

 

「あら、ご主人様ったら。わたしみたいな美女が自然に場に溶け込めるわけないでしょ〜う?」

 

「別の意味で浮きまくって違和感バリバリだ!」

 

 

さっきまでの締まった雰囲気はどこへやら、ギャーギャー騒ぐ俺達を前に、この面子の中では唯一貂蝉との

 

面識がない鞘名はといえば、

 

「お兄ちゃんもすごい人と知り合いだねぇ〜」

 

などとのたまっていた。

 

この妹は相手の容姿がどうであろうと驚きはしない。「人間は中身が重要」を地で行っているからだ。

 

「よく驚かないわよね、鞘名ちゃんは」

 

「人間は中身が重要だから♪」

 

淋漓さんのやや疲れたような調子の台詞に笑顔で応じる鞘名。

 

…うん、やっぱりなんだか鞘名は桃香に似ている。あの笑顔とか仕草がそっくり。中身は全然違うけど。

 

ややあって、じいちゃんが手を叩いて場を締め、言った。

 

「貂蝉よ、話を進めようではないか」

 

「はぁい♪」

 

しなを作って応じる貂蝉。安心のキモさだ。

 

…………………………

 

 

 

「―そういうわけで、外史に旅立つにはあの鏡が必要なの」

 

 

 

貂蝉が言うには、条件が完全に揃うのは今夜。月が中天に昇った頃。

 

つまり、かなり遅い時間だ。そんな時間にあの鏡が置かれている聖フランチェスカの歴史資料館に入るのは

 

不可能だ。

 

それでも、行くしかないとなると…

 

「強行突破か」

 

「そうなるわねぇ…でも、安心して。わたしはすぐに外史に戻らなくちゃいけないけど、管輅ちゃんが

 

 なんとかしてくれるわ」

 

「管輅が来るのか?」

 

「ええ。ご主人様達が外史に降り立つことで、ひとまずご主人様に想念の力が指向し、集束されていくから、

 

 わたしと卑弥呼だけでも大丈夫になるの。そこで、あの外史と繋がっているこの世界に『綻び』の影響が

 

 生じた場合に対処するため、管輅ちゃんがこっちに残ることになったのよ」

 

「そうか。管輅がこっちに来るのはいつだ?」

 

「日が沈むころね。それまでは待っていて頂戴」

 

「わかった」

 

今夜は快晴の予報。俺達に相応しい出立になるだろう。

 

『始まりの外史』へと飛ばされた時も、ちょうど夜だったからな…。

 

「それじゃあ、わたしはもう行くわね。頑張ってね、ご主人様♪」

 

無駄に暑苦しいサムズアップと共に、貂蝉は消えていった。

 

「消えた…」

 

「…それじゃあ、管輅が来るまでは寛いでいよう」

 

俺の提案で、時が来るまで各々が思い思いに寛ぐことに決まった。

 

皆で朱里が作った昼食を摂り、談笑し、時が来るのを待った…。

 

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夕刻、日が沈みそうになる頃、インターホンが鳴った。

 

「…来たみたいね」

 

そう言って淋漓さんが玄関に行き、来客を招き入れた。

 

淋漓さんと共に居間に入ってきたのは、((月琴|ムーン・ギター))を携えた女性だった。

 

「はじめまして…それとも、久しぶり、になるのかしらね」

 

「そうだね。あなたとはどこかで会っているような気がするよ」

 

記憶の片隅に残る姿のまま、目の前に現れた女性。外史の管理者の一人にして、俺を『天の御遣い』とした張本人。

 

「思い出してくれたのかしら?」

 

「ああ」

 

「記憶が多すぎると、抽斗も重くなって大変でしょうに」

 

「精神修練の賜物かもね」

 

「立派になったわね」

 

そんな話をしていると、俺の向かいに座っていた鞘名が、

 

「綺麗な人…」

 

と感嘆したように呟いていた。

 

「あら、あなたは…確か、鞘名さんね?」

 

「え…は、はいっ!北郷鞘名です!」

 

「…やはり、血は争えないのね。劉一族の血脈の影響が強いわね」

 

「…えっと、おばあちゃんが高祖劉邦で、お母さんが光武帝だから、あたしも劉一族になるんですか?」

 

「その通り。悠刀君が桜花さんと結ばれたその時から、天の御遣いと劉一族の因縁は始まったと言っていいわ。

 

 尤も、一刀君は違ったようだけど」

 

そう言って、俺の方を見やる管輅。

 

「一刀君の代で終わることになるみたいね。あの始まりの外史で劉備玄徳という人間がいなかったのも、それを

 

 暗示していたのでしょうね」

 

そうだ。

 

あの始まりの外史にいた劉姓の人間と言えば、荊州の劉表や、益州の劉璋、そして少帝・劉弁や、献帝・劉協だ。

 

劉備という人物は影も形も無かった。

 

そして、俺は朱里―諸葛亮孔明と結ばれた。そうなると、俺の代であの外史との因縁は終わることになるようだ。

 

そう考えていると、管輅がまた話し始めた。

 

「…さて、外史に赴く前に、注意事項を言っておこうかしらね」

 

「注意事項?」

 

「そう…」

 

そう言って、管輅が申し訳なさそうな表情になる。

 

「…あなたには辛いかもしれないけれど、他の女の子たちと「関係」を持っては駄目。

 

 最終的な目的は新たな『想念の集積点』…つまり『外史の後継者』を見出し、外史をその後継者に託して『綻び』を

 

 修復すること。でも、そこにあなたの血が流れる子どもが生まれたりしたら、外史の外…つまりこの世界に繋がる

 

 因子となって、外史は再び安定を失ってしまう。安定を取り戻そうとして、輪廻が再び始まってしまうかもしれない。

 

 だから、あなたはここにいる朱里ちゃん以外の誰とも関係を持ってはいけない。

 

 向こう側にも修正力で生まれた朱里ちゃんがいるけれど、その朱里ちゃんも例外ではないわ。

 

 このことを、しっかりと心に留め置いて」

 

「…」

 

…確かに、辛かった。

 

でも、外史が再び安定を失い、輪廻の中で翻弄される皆をまた見ることになるのは、もっと辛いだろう。

 

だから。

 

「…わかった。元より、そのつもりだ。いずれ別れることが決まっているんだ、情は交わさない方がいい」

 

「一刀様…」

 

「…朱里、これでいいんだ。俺は大丈夫だ」

 

心配そうに見上げてくる朱里の頭を撫でてやる。

 

「…管輅、他には?」

 

「他に…特に何もないわね。貂蝉が言っていたけれど、あなた達はもう修羅を背負う覚悟を決めているようだから

 

 問題ないわ。でもあと二つだけ」

 

「何だ?」

 

「降り立つ場所は、一刀君があの外史の中で最も強い因縁を持つ場所になるわ」

 

「最も因縁の強い場所…となると、あそこか」

 

「わかったの?」

 

「ああ、あそこしかないだろうね」

 

管輅が言いたいことは大体分かった。俺達はあそこに降り立つことになるのだろう。

 

「それと、朱里ちゃん。向こうにはかつての貴女と全く同じ姿をした諸葛孔明がいることは知っているわね?

 

 取り敢えず、この仮面をあげるから、人前ではこれを付けておきなさい」

 

「は、はい」

 

管輅から渡された仮面を受け取った朱里は、それを付けてみる…うん、これはこれでいいな。

 

そういえば貂蝉もそう言っていた。つまり、諸葛孔明が現れる恐れがある場所ではこれを付けておかなければならないと

 

いうことだろう。別人とはいえ、外見だけ見たらほぼ同じなんだし。

 

「それでは、私の話はこれで終わり。貂蝉がだいたい話してくれていたみたいだから。

 

 月がある程度昇ったら、聖フランチェスカに行きましょう」

 

管輅の話が終わると、ちょうどお袋が作っていた夕食の用意ができたようで、管輅も誘って皆で夕食を摂った。

 

 

 

これが最後の晩餐にならないことを祈りながら。

 

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―月が明るい夜。

 

俺達は聖フランチェスカに忍び込める抜け道の付近に来ていた。

 

ちなみに、ここを教えてくれたのは及川だ。

 

「ここからは私と一刀君、そして朱里ちゃんの三人で行くわ。ご家族の方々とはここでお別れね」

 

「わかった。

 

 …皆、俺達は必ず戻ってくる。何年先になるかわからないけど、必ず」

 

「…んむ。行ってこい、一刀。お前なら大丈夫じゃ」

 

「そうだ。男なら胸を張って行ってこい」

 

じいちゃんと親父が、力強い言葉をくれる。

 

「身体には十分気を付けるのよ。向こうはこちらのように医学が発達していないのだから」

 

「命を落とさないようにすること。絶対に無事で帰ってくるのよ」

 

ばあちゃんとお袋が、優しい言葉をくれる。

 

「私たちが教えられることは全て教えた。後はあなたたち次第。精一杯頑張りなさい」

 

「二人なら、きっと大丈夫だよ」

 

淋漓さんと珠里さんが、激励の言葉をくれる。

 

そして…

 

「…お兄ちゃん、朱里ちゃん。無事でいてね」

 

「鞘名ちゃん…わかりました!」

 

「ああ…鞘名、ありがとう」

 

鞘名が、ただ静かに見送りの言葉をくれた。

 

「…じゃあ、皆。また会う時まで」

 

「「「「「「「行ってらっしゃい」」」」」」」

 

そして、七人分の「行ってらっしゃい」をくれた。

 

必ずここに帰ってくる。必ず―!

 

「行くぞ、朱里。管輅!」

 

「はい!」

 

俺達は学園の外壁を飛び越え、学園の敷地内に侵入した。

 

 

 

夜間は警備員が数名見回っている。監視カメラも完備だ。

 

俺達はその監視網を避けながら、歴史資料館を目指す。

 

ちょっとしたプロフェッショナル気分だ。なんだかこういうのも良いよな。

 

でも、この手のことは思春か明命ならもっと上手く、素早くやれるだろう。あの二人はこういう隠密行動の手練れだし。

 

そんなことを考えながらも俺達は進み続け、ようやく歴史資料館に辿り着いた。

 

当然、ここにも警備員がいる。しかも正面。抜ける隙はない。

 

月が中天に差し掛かっている。もう時間は無かった。ここは―

 

「―あなた達はこの学園の生徒なのだから、顔を覚えられては面倒でしょう。私がやるわ」

 

そう言って、管輅は一瞬で警備員に肉薄すると、手刀を頸椎に叩き付け、昏倒させた。

 

管理者だけあって、彼女も相当な武の達人のようだ。

 

「…さあ、行きましょう。間もなく人が来るわ。見つかったら面倒よ」

 

「わかった」

 

「はい」

 

扉には鍵がかけられていなかったので、俺達は思ったより易々と侵入に成功した。

 

そして、鏡の置いてある場所に来る。監視カメラは管輅が短刀を投げてコードを切断し、映像が送れないように

 

してあるので、もう身を隠す必要は無かった。

 

「私はこちら側に残って『綻び』の影響が出ないかどうか監視を続けるわ」

 

「わかった。

 

 …それと、鞘名を頼む。あいつ、心配性だからさ…」

 

「ええ、いいわ。

 

 常盤さんに頼んで、北郷家に滞在させていただくことにするわ。鞘名ちゃんのことは

 

 私に任せておいて」

 

「頼む」

 

「…それでは、始めましょうか」

 

そう言って、管輅はどこに隠し持っていたか、刀を抜いてケースの窓を切り取った。

 

綺麗に四角に切り取られた強化ガラスは、床に落ちる前に俺が受け止め、脇にそっと置いた。

 

大きな物音がしては困るからな。

 

「さあ、鏡を二人で持って。そして、外史の光景を心に思い浮かべて」

 

管輅の指示に従い、俺と朱里はケースから取り出した鏡を二人で持ち、外史の光景を心に浮かび上がらせた。

 

すると、俺達の周囲に光の粒子が奔り始める。

 

「門が開くわ………いい、忘れないで。選択肢は、多くは無いわ」

 

「わかってる。きっと見つけてみせるさ」

 

粒子がとめどなく湧き上がり、ほとんど照明が落ちて暗い資料館に光が満ちていく。

 

「お願いします。

 

 …一刀君、あなたは私が選んだ切り札。あの外史を救えるのは、あなたしかいない」

 

「ああ………行くぞ、朱里!」

 

「はい!」

 

 

 

 

 

「「再び、あの外史へ!!」」

 

 

 

 

 

激しい光が、俺達を包み込んで行った――。

 

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「…なんだ、あの流れ星は…?」

 

東の空から流星が落ちてくる様を、馬に乗った少女は目撃していた。

 

太陽が中天にある真昼間だというのに、流星とは。

 

「…!もしや、あの流星がそうなのか?だとしたら…ハイッ!」

 

思い当たるあの予言を思い出した少女は、愛馬を流星が落ちた方向へと疾駆させた。配下の兵達もそれに続く。

 

 

 

管輅とかいう占い師が大陸中に告げた予言。

 

『東の空より出で来たる流星は、天の御遣いが乗りしもの。

 

 流星に乗り舞い降りし二人の天の御遣い、その知と徳を以て乱世を救わん』

 

 

 

しばらく前に告げられたその予言を、少女は胡散臭いと思っていた。

 

確かに、今の世の中は乱世と言えるほどではないにせよ、中央は腐敗し、民の生活は苦しくなる一方だ。

 

欲は際限無いくせに無能な十常侍どもは、そんな状況を無視している。

 

しかし、地方の一太守でしかない少女に、中央に意見するほどの力があるはずもない。

 

まして反乱を起こす力など、あるはずもない。

 

自分が治める土地の人々の生活を守っていくので精一杯だ。

 

 

 

―だが、そこにあの流れ星だ。

 

 

 

あの占いは真だったのか。

 

もしそうでないとしても、確かめに行く価値はある。

 

『天の御遣い』とやらがどれほどの力を持っているのかわからないが、もし民達の希望になれる人物ならば。

 

この国を、この病んでしまった大陸を救えるかもしれない。

 

そう思って、少女は配下の兵達を連れ、野を駆けて行った。

 

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「―っと、ここは…?」

 

光が消えていったかと思うと、俺は、見覚えのある場所に降り立っていた。

 

「一刀様、ここは…どこでしょう?」

 

傍らの朱里も辺りを見渡す。

 

「…まさか、ここは…幽州の?郡か…?」

 

「…!そうでした!一刀様は、ここで愛紗さんや鈴々ちゃんと出会ったのですよね」

 

そう。ここは幽州?郡、五台山の麓だ。

 

愛紗や鈴々と出会った、始まりの地。外史の突端となった地だ。

 

 

 

するとそこへ―

 

 

 

「―よう、兄ちゃんに姉ちゃん。珍しい格好してんな」

 

おなじみの三人組が現れた。しかも、後ろに数十人…いや、数百人規模の集団を引き連れて。

 

 

しかし、よく見るとこいつらは黄色い布を身に付けていない。

 

黄巾党はまだ発生していないようだ。これまではここに降り立った時にはもう黄巾党が発生していたのに。

 

そんなことを考えていると、中央に立つリーダー格の男が再び話しかけてくる。

 

「どうした?怖くて何も喋れねえか?」

 

…随分となめてくれるじゃないか。今さらお前らなんかに遅れなんてとるかよ。

 

「…あんた、それなりに場馴れはしてるみたいだけど…相手の技量は見抜けなきゃ駄目だよ」

 

「なにぃ!?」

 

さっきまでのニヤついた表情から一転、怒りに顔を歪める男。

 

「野郎ども、やっちまえ!!」

 

「「「「「「「「「「「オオーッ!!」」」」」」」」」」」

 

気勢を上げ、今にも襲い掛かってきそうな盗賊どもに向けて、俺は言い放った。

 

「…自分は強いと誇るつもりはない。ただ…俺達をあまりなめるなよ」

 

そして、『五行流星』を抜き放つ。傍らの朱里も、剣を抜いたのがわかった。

 

「そんな細っこい刀で勝てると思うなよォ!!」

 

あのチビがキーキー声を上げる。

 

「んだ。一捻りなんだな」

 

あのデブが野太い声を上げる。

 

「やれーッ!!」

 

「「「「「「「「「「「オオーッ!!」」」」」」」」」」」

 

襲い掛かってくる盗賊ども。

 

俺達は恐れ気も無く応戦する。敵の剣を叩き落とし、決して致命傷にはならないが痛い傷を与えて動きを封じ、

 

そして連中の行動を阻害しながら次々に叩きのめしていく。

 

「アニキ!こいつら、強いですぜ!」

 

「ええい、束になってかかれ!!あのチビっ子からだ!!」

 

どうやら敵は朱里に標的を絞った模様だ。

 

だが―

 

「―それが命取りです!受けなさいッ!!」

 

朱里の鋭い叫びが、襲い掛かっていく盗賊どもの集団の中から聞こえた瞬間―

 

 

 

『―((舞踊剣|ぶようけん))!((双龍乱舞|そうりゅうらんぶ))!!』

 

 

 

朱里の蛇腹剣が展開され、恐るべき剣の舞が始まる。

 

「ぐぁぁぁぁぁぁぁあああああ!!」

 

「がぁぁぁぁぁぁあああ!!」

 

乱れ舞う二頭の龍に、盗賊どもの肉体は切り裂かれていく。竜巻の中心に立つ朱里は、ただ舞い踊る。

 

盗賊どもは死にはしない。だが、幾つもの傷をつけられ、地面に折り重なって倒れていく。

 

「ちッ!なんだあの武器は!?…こうなったら、てめえだけでもッ!!」

 

「この野郎ッ!ぶっ殺してやるぜぇッ!!」

 

「叩き潰してやるんだな!!」

 

あの三人組が向かって来る。まだ盗賊は残っているが、まずはこの三人を潰す!

 

「―はぁぁぁぁッ!!」

 

気合と共に愛刀を一閃する。かろうじて俺の刀を避けてたたらを踏んだチビに、返す刀でもう一撃をくれてやる。

 

「ぎゃぁぁぁぁッ!!」

 

チビが倒れる。次いであのデブが向かって来る。

 

「いぇあぁぁぁぁぁぁッ!!」

 

さっきまでの野太い声ではなく、なんか鶏を絞め殺す時のような声に似た気合と共にデブが大斧を振り下ろしてくるが、

 

難なく躱し、腹は脂肪が厚いから、その体重を支える足を狙う。

 

「そこだッ!」

 

「いぎぁぁぁぁぁぁッ!!」

 

さっきの気合よりも哀れな声を上げてどうと倒れるデブ。

 

「―てんメェェェェェェェェェェェェッ!!」

 

あのリーダー格の男が刀を手に向かって来る。他の二人よりも動きがいい。それなりに手練れてはいるようだ。

 

「死ィねぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇええッ!!」

 

振り下ろされる刀をいなし、そのまま奴の刀を蹴りで叩き落とす。

 

「うッ!?」

 

そして、愛刀で奴の太腿を貫いた。

 

「ぐがぁあああああぁッ!!」

 

地面に倒れようとする男の横腹を蹴り飛ばし、気絶させる。

 

―まだ盗賊どもは残っている。次は―

 

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そこへ、地鳴りのような音が響いてきた。

 

「―な、何かが来るぞ!」

 

「―官軍かッ!?」

 

盗賊たちに動揺が走る。盗賊たちが見やる方向を俺も見やった―その時。

 

 

 

 

 

軍勢が、鬨の声と共にこちらに向かって駆けてくる。

 

あの軍勢の旗印は―!

 

 

 

「盗賊どもを捕えろ!突撃ーッ!!」

 

 

 

懐かしい声が聞こえる。

 

 

 

始まりの外史に落ちた時、色々と世話を焼いてくれた少女。

 

 

 

「「「「「「「「「「オオーーーッ!!!」」」」」」」」」」

 

 

 

白馬を駆る赤髪の少女。

 

 

 

「あの見知らぬ勇士たちを掩護せよ!!」

 

 

 

王の器ではないにせよ、人々を率いる優れた才覚を持った少女。

 

 

 

そして、俺がかつて愛した女性の一人。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

―白蓮!

 

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戦闘は、もちろん俺達と公孫賛軍の勝利に終わった。

 

公孫賛軍は損害軽微、俺達は無傷。

 

俺達が無力化した盗賊ども(あの三人組含めて)は捕えられ、連行されることとなった。

 

だが、負傷したのに無理をして公孫賛軍と戦った連中もいたようで、生きているのは十数人程度だった。

 

 

 

―そして、俺達は公孫賛と面会していた。当然、ここでは初めて会うので真名は呼ばない。

 

 

 

「―数百人規模の盗賊相手に、たった二人で戦ってたって!?」

 

俺達の話を聞いて、公孫賛は仰天していた。

 

「突然来たから対応しただけなんだけど…まずかったか?」

 

「え?い、いや、まずくはないんだ、むしろ感謝する。

 

 …だけど、私達が到着するまでにかなりの人数を仕留めてたみたいだな」

 

そう言って、今は盗賊どもの遺体が転がる野を見やる公孫賛。

 

…やっぱり、ああやって死人が転がっている光景は絶対に慣れないな。

 

「…ああ、そうだ。この辺りに流星が落ちなかったか?」

 

「いや、流星は見てないけど」

 

「そうか…いや、いいんだ。私達はそれを目印に来たんだが…」

 

公孫賛の話によると、この五台山の麓辺りに流星が落ちていくのを目撃し、ちょうど盗賊どもへの対処のために

 

引き連れていた兵達と共にここまで来たら、俺達と盗賊どもが戦っていたということだった。

 

「………!もしかして、お前達が…『天の御遣い』か?」

 

話すうちに何かに気づいたらしく、恐る恐ると言った風に、公孫賛が訊いてきたので、

 

「…『天の御遣い』?」

 

「…ああ、もし今天から降りて来たなら知らないのも無理はない。少し前に、管輅とかいう占い師が大陸中に

 

 予言を告げたんだ。『東の空より出で来たる流星は、天の御遣いが乗りしもの。流星に乗り舞い降りし二人の天の御遣い、

 

 その知と徳を以て乱世を救わん』って。

 

 そこで、流星が落ちた先を辿って行ったら、お前達がいたというわけさ」

 

やはり、管輅は俺達の世界に来る前に予言を大陸に広めていたようだ。

 

「今、この大陸は乱世なのか?」

 

「ここが大陸だということは知っているようだな。そうだ。ここは幽州?郡、五台山の麓だ。

 

 …ああ、名乗るのが遅れたな。私は―」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

―公孫賛。字は伯珪だ。

 

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あとがき(という名の言い訳)

 

 

皆さんこんにちは、Jack Tlamです。

 

遂に外史に降り立った二人。降り立った場所は幽州琢郡、五台山の麓。

 

始まりの外史の突端ともなった地です。

 

故に、最初に出会う恋姫武将は公孫賛伯珪…つまり白蓮となりました。

 

原作の白蓮はオチ担当みたいであんまりいいところが無かったけど、

 

今回はカッコいい姿をお見せしようと、大勢相手に二人で戦う主人公達の援軍として現れるという

 

中々おいしい役どころに。

 

 

え、なんで桃香たちじゃないのって?

 

…作者が白蓮好きだからです。それ以上でも以下でもありません。

 

桃香たちも管輅の占いを聞いているんですけどねー…何があったかは次の機会に。

 

 

一刀君はどうも泰山をイメージしたらしいですが、あいにくそこはそれ。

 

終わる場所から始めるわけないでしょうに。

 

 

ここでルートが決定したわけではありません。まだ先です。

 

少なくとも、第三章に入らないと決定しません(遠いな…)。

 

 

さて、次回から第二章に入ります。

 

ではでは。

説明
『真・恋姫†無双』を基に構想した二次創作です。
無印の要素とか、コンシューマで追加されたEDとか、
その辺りも入ってくるので、ちょっと冗長かな?

無茶苦茶な設定とか、一刀君が異常に強かったりとか、
ありますが、どうか生暖かい目で見守っていてください。

恋姫らしさがちょっと少ない気もしますが、
あえて茨の道を行く一刀と朱里を描きたくて、こんな
作品になりました。

今回は遂に外史へと旅立ち、ある恋姫武将と出会います。
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コメント
>>みぞれ寒天様 コメントありがとうございます。これについては、完全に私の失敗です……前後の整合性を見失いました。改訂作業中なので、もう少々お待ちください。(Jack Tlam)
妹が貂蝉の姿を受け入れていた場面で一刀が妹は「人間は中身が重要」を地で行っているとまるで器が大きいみたいに評してますが少し前に思いっ切り朱里を容姿でバカにしてましたよね。身内贔屓か(みぞれ寒天)
>>qisheng様 コメントありがとうございます。ああ…私も読者です。そっくりさんが居るって事前にわかっていたから朱里も仮面を付けられたんですよね。これでわかってなかったら確実にトラブルの元になりますし。仮面の軍師っていうのを描きたかったというのもありますけど…(Jack Tlam)
そっくりさんがいるか、、  某小説では紫苑がそうだっだなぁ(qisheng)
>>mokiti1976-2010様 コメントありがとうございます。そうなりますね…でも、彼女も無印からいる恋姫武将なので、存在の重さはあります。(Jack Tlam)
このまま白蓮さんルートになるわけではないのか…。(mokiti1976-2010)
>>naku様 コメントありがとうございます。そうですよね…本当にところどころ矛盾してますよね…(Jack Tlam)
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