『舞い踊る季節の中で』 第141話
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真・恋姫無双 二次創作小説 明命√

『 舞い踊る季節の中で 』 -群雄割編-

   第百肆拾壱話 〜 幸せの赤き布は夕暮れに舞う 〜

 

 

(はじめに)

 キャラ崩壊や、セリフ間違いや、設定の違い、誤字脱字があると思いますが、温かい目で読んで下さると助

 かります。

 この話の一刀はチート性能です。 オリキャラがあります。 どうぞよろしくお願いします。

 

北郷一刀:

     姓 :北郷    名 :一刀   字 :なし    真名:なし(敢えて言うなら"一刀")

     武器:鉄扇(二つの鉄扇には、それぞれ"虚空"、"無風"と書かれている) & 普通の扇

       :鋼線(特殊繊維製)と対刃手袋(ただし曹魏との防衛戦で予備の糸を僅かに残して破損)

   習得技術:家事全般、舞踊(裏舞踊含む)、意匠を凝らした服の制作、天使の微笑み(本人は無自覚)

        気配り(乙女心以外)、超鈍感(乙女心に対してのみ)、食医、初級医術

        神の手のマッサージ(若い女性は危険です)、メイクアップアーティスト並みの化粧技術、

        

  (今後順次公開)

        

【最近の悩み】

 よく人より若く見られる。人より老けて見える。そんな話をよく聞いたが、そんなものはこの世界においては当たり前なのだろう。

 翡翠やシャオや美羽なんかは、そう言う意味で良い例と言える。

 え?逆のパターン? ……そんなものは無い。例えあったとしても存在しない。と言うかそう言う事を聞くのはお願いだから止めてくれ。

 とまぁなんで、そんな事を今更言っているかといえば、まぁ、毎度ながらやらかしてしまったわけだ。

 翡翠に聞いていた翡翠の妹の年齢。それがまさか妹と最後に別れた時の年齢だとは気が付かずに、その年齢だとばかり思い込んでしまっていた。

 当然ながら、一緒にいた娘も同じくらいだと思ってしまっていた訳で。

 

「わ、私、そんなに子供じゃありませんーっ! うえ〜〜ん。 お姉様の馬鹿〜〜〜〜っ!」

 

 と翡翠の妹である朱里を泣かせてしまった。

 何故そこで翡翠への罵倒が出たのかは分からないけど、きっと姉妹で色々あったのだろうと思うが、謝ろうにも朱里は泣きながら駆けだして行ってしまうし。雛里は雛里で…。

 

「………流石は朱里ちゃんの御姉さんです」

 

 と、此方も訳の分からない所で、納得されてしまった。

 幸い雛里の方は、これ以降は以前とは逆に怖がられる事は無くなったけど。

 朱里は何やら相当にショックだったらしく、その日は目を合わせてもくれなかった。

 星からは「貴公はもう少し女心を勉強すべき」だと言われるし。

 詠からは「実の妹相手に容赦ないわねぇ」と何故か同情されるし。もう訳が分からん。

 だいだいあれくらいの見た目の娘を相手に、十歳だと言われたら普通は信じるだろ?

 いや、勘違いと言うか聞き違いをした俺が悪いんだけどね。

 あの時は、何となく翡翠の声が小さかったし。それくらい仕方ないだろ?

 

 はぁ、どうやって謝ろうか。

 

 

 

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蓮華(孫権)視点:

 

 

 所々雲が出てはいるものの、昼下がりとは言え初夏の強い日差しの前では、日差しを和らげてくれるには程良く。

 数日前に雨は降りはしたものの、ぬかるんだ地面は何処にもなく。多くの人間が忙しそうに足を運んでいる。

 まぁ何が言いたいかと言うと、特に大した事では無いわ。

 言うなれば街を歩くには良い日だと言うだけの事。

 たったそれだけの事だけど、足取りは自然と普段より軽くなる。

 心はまるでシャオのように、軽く興奮気味になっているのが自分でも自覚できる。

 

「どうだこの街は? 素晴らしいだろう」

「凄いなぁ。話には聞いていたけど、此処までとは思ってなかったよ。

 此処までするのに凄く苦労しただろうに。きっと街を良くしたい一心だったんだろうね」

 

 まっすぐな一刀の言葉が自然と私の中に入り込んでくる。

 世辞でも大仰でも無く。まずは街を此処までするのに頑張った者達の苦労を労い、深く敬意を表す言葉。

 それが言葉だけではなく、心からそう思っているからこそ、心に沁み渡ってくるんだと今の私は理解でる。

 姉様から王の地位を譲り受け、一刀が傍にいなくなってからも多くの失敗をしてきた。そしてその度に周りの多くの者達がそんな私を支え導いてくれた。でもだからこそ、私は更に頑張れた。王家に生まれた姫だからでは無く。むろん王だからと言う訳でもなく。人として、そしてその後で人の上に立つ者として自覚をする事が出来たからこそ、私は今日まで王として歩んでこれた。

 まだまだ未熟な事を自覚しない日はないけどね。

 

「翡翠はもちろんだが主に深月達がな。お前の書いた懸案を元に此処までやってくれた」

「それって朝議の場に居た人だよね。たしか魯粛さんだったかな。凄く可愛い感じの? 此処までやれるって事は、もの凄く有能な人なんだね」

「………ああ」

 

 まったく、戻ってきても一刀は相変わらずだ。そう言う事を当たり前の事かのように自然と口にする。

 その癖して、私にはそう言う言葉を一度も発した事が無いと言う事に気が付いていない。

 べ、別にヤキモチとかそう言う訳では無いわ。ただ、やはり私も王である前に一人の女として、そう言う言葉を自然と言われたいと思う気持ちが無い訳では無い訳で…。

 

「え、えーと、蓮華?」

ぎゅう〜〜っ!

「いい゛っ! 痛い痛い、思春脚踏んでるってっ!」

「………すまんな。 だが黙って踏まれるお前にも非はある」

「いや、だって避けたら、絶対に踏むまで繰り返すだろ?」

「………ふっ」

「いや、其処で何を当たり前の事を。と言った感じで目を瞑られても困るんですが」

 

 私も思春のように、もっと一刀に踏み込めたらと思う。

 あっ、別に踏み込んで一刀の足を踏みたいと言っているわけじゃないのよ。ただのものの例えと言うだけ。

 とにかくそう言う意味もあって、一刀がこの街に帰ってきて二日。もう大丈夫だろうと以前から天の知識を活かした政策を施したこの街を一刀の目で実際に見てもらおうと、王である私自らかって出た機会を無駄にするわけにはいかない。

 むろん、今日は街を軽く見せるだけで終わる訳じゃないわ。

 王である私が幾ら天の御遣いとはいえ、一刀を案内する理由は別にある。

 それは我等孫呉が一刀に対する感謝を形に表すため。

 一刀が齎した数々の知識が、この街を此処まで発展させただけではなく。今もなお、多くの地で天の知識と技術が民の生活を手助けしようとしている。

 ううん、天の知識がじゃない。一刀が天の知識を私達の住むこの世界で生きるように、考え抜いてくれた結果であり、心を尽くしてくれた結果よ。

 一刀は以前に言ったわ。

 知識なんて活かす者が居なければ、戸棚で埃の被る書物と一緒だと。

 世界を変えるのは英雄でも力を持つ者でもなく、明日を一つ一つ築く事の出来る民一人一人なんだど。

 そう、確かにこの街を此処までにしたのは、深月を始めとしたこの街に住む民。

 今もなお多くの地で天の知識と技術を活かしているのは、その地に住む多くの民。

 でも、それでも私は天の御遣いでもある一刀に、多くの感謝をしている。

 だって、一刀もこの地に住む人間の一人として、心を砕いて来た事を私は知っているから。

 一人の人間として、そして多くの民を代表する王として、我等は天の御遣いである一刀に謝儀を示す必要があると感じているの。

 そう感じているのは、決して私だけでは無い事を示す事が出来る。

 皆の想いを形にした物を、やっと一刀に与える事が出来る。

 

「さぁ行きましょう。

 時間はあるかもしれないけど、今は時間が惜しいわ」

 

 

 

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「しかし、もう戻るだなんて、もっとゆっくりと見てきたかったな」

「此れからこの街に住むんだから幾らでも時間を取れるでしょ。どうせ一日じゃ半分も廻りきれないでしょうしね。

 それにまだ戻らないわよ。他に案内する所があるもの」

 

 城への帰り道にも見える中、一刀の勘違いに心の中でほくそ笑んでしまう。

 確かに、この道を真っ直ぐ行けば城の正門だし、道の右手には城の壁かと思える立派な白い壁が遥か先まで続いているから、一刀がそう思うのも仕方ない。

 ふふっ、思春ったら左眉の端が小さく震えてるわ。きっと思春も楽しいのね。そして一刀が驚く顔を楽しみにしているのね。

 

「それにしても立派な門だな。流石に城の近くとなると偉い人が住んでるんだろうな」

「ふふっ、なにを言ってるのよ。一刀もその偉い人の一人よ」

「あはは、そう言われても自覚が沸かないよ。 肩書はともかく俺自身はそんな大したもんじゃないしね」

「ちなみに、此れ霞の屋敷よ」

「げっ! マジ!? 流石は将軍様と言った所だな。 はぁ〜凄げぇ〜。実家の数倍はあるんじゃねえか?」

「言っとくけど、思春達だってこれに負けない屋敷を持っているわよ。 この街ではなく自分の領地にだけどね」

「嘘っ!?」

「……どういう意味だ」

「いや、てっきり城に住んでいるとばかり思ってたから」

「……その通りだ。屋敷にはほとんど帰っていないし、領地も家の者にまかせっきりだから、そう思われても仕方なしだが。……つまり、北郷は私等を宿無しだと思っていたと? …ほう、それは面白い事を聞いた」

「あっ、いや、その……とにかく色々と御免なさい」

 

 ふふふっ。

 ニンマリと笑ってみせる思春に、ひたすら謝る一刀の姿につい笑みが毀れてしまう。

 人のことは言えないけど、思春も一刀に出会ってから本当にに変わったわよね。以前の思春なら、ああやって一刀をからかう姿だなんて信じられなかったもの。でもきっと一刀に対してだけでしょうね。

 それでも思春は変わったと言えるわ。物腰も少しずつだけど柔らかくなってきたし、以前より心に余裕があるように見えるもの。きっと良い方向へと変わっているんだと思う。

 とりあえず、助けてあげる事にしようかな。あんまり一刀を思春に取られるのも面白くないしね。

 

「霞には流石に多くの領地はあげれなかったのよ。

 せめてこの街で親子仲良く暮らせるように取り計らったのよ。むろん、此れだけの屋敷をこの街で与えるんだから、それ相応の役割が与えられてはいるんだけどね」

「へぇ〜。この街の守備隊長とか?」

「残念、外れよ。でも守備隊と言う意味では合ってはいるわね」

 

 一刀に簡単な問い掛けを投げかける。

 何度も何度も、ちょっとした問い掛けを。

 言わば時間つぶしと一刀の気を惹きつけるため。

 その間に足を進めることで景色が移り変わり。目的の場所が見えはじめてくる。

 ううん、それは本当は正確じゃないわ。目的のものはもうとっくに見えていたもの。

 ただ、そうだと理解できる場所までもう少しと言うだけ。

 

「うわあ、さっきのも大きかったけど、今度の門も大きいなぁ。

 これだけ大きいと役所かなんかだろうけど、そう言う作りでもない気が…。人気もないし裁判所みたいなものかな?」

「ふふっ、なにを言ってるのよ。あなたの家よ」

「………………………………………………………………………………、えー……と…」

 

ほじほじ。

 

「……………………………………………………………………、はっ?」

 

 たっぷりと、途中で耳掃除をした上で、さらに時間をかけてやっと出た一刀の間抜けな声と表情に、私は我慢できずに笑い声を洩らしてしまう。

 

「………蓮華様」

 

 思春が諌めてくるけど、思春だってそれが限界じゃない。

 此方に背を向けてたって肩が大きく震えているのを隠せてなきゃ、説得力なんて欠片も無いわ。

 だいたい一刀も一刀よ。幾ら驚いたからって、其処まで間抜けな顔をしなくたって。 ふふふっ、だ、駄目、声に漏れるどころかお腹が痛くなってきたわ。

 そんな私と思春の態度と先程の言葉に困惑の表情を隠せない一刀は、それでもいつもの一刀らしく苦笑を浮かべながら頬を掻いて、私達が治まるのを待ってくれる。

 

「はいはーい、お待ちしておりましたよ〜」

「主様お帰りなのじゃ〜っ♪

 妾は毎日主様が帰ってくるのを待っておったぞ」

 

 其処へ、まるで空気を読んでいたかのように、門から飛び出してきた黄色い塊が一刀の腰へと飛び付く。

 もう少し一刀の反応を楽しんでいたかった気もするけど、此れで少しは実感が持てると思えば良い頃合いだったのかもしれないわね。

 そして、いまだに呆然とする一刀を余所目に、張勲の案内で門の中へと一刀と共に足を入れる。

 もっともまだ其処は外門で、いずれ屋敷を世話をする使用人達の居住区とも言える場所。奥にある塀と門を潜れば大きな庭と幾つもの蔵や客人用の建物が並び建ち。更に奥にある塀と門の中にこそ、天の御遣いである一刀とその家族が住まう居住区がある。

 その居住区だけでも、霞の屋敷を大きく上回っており。その広大な屋敷を前に一刀は呆然としているばかりか、いきなり頓珍漢な事を言いだす始末。

 

「で、結局この屋敷ってのは蓮華のとか?」

「………馬鹿者」

 

 私より先に思春が馬鹿な事を言う一刀の言葉を否定する。

 今回ばかりは私も思春の言葉に一言一句同意するわ。

 

「王である私の屋敷と言ったら城以外何が在ると言うのよ。後宮とか言うならともかく、私にはそう言うものを作る趣味は無いわ。

 言ったでしょ。この屋敷は貴方の家だと。この屋敷はね、言わば私達の感謝の証なの。だから黙って受け取ってちょうだい」

「無理っ! と言うか俺には身分不相応だって!

 だいたいこの屋敷いったいどれだけ広さあるんだよ。向こうの塀が霞んで見えるような屋敷を貰うような事なんて、此れっぽっちもしていないってっ!」

「そう思っているのは貴方だけよ。

 これくらいの屋敷が必要だとみんなが納得したから、こうしてあるのよ。

 じゃあこう言っても良いわよ。 王命よ。一刀、貴方は今日から此処に住みなさい」

「だから幾ら王命だと言っても無理なもんは無理っ!

 俺には四畳半の部屋でもあれば十分だから」

 

 まったく、何で一刀はこういう事に関しては無頓着なのかしら。

 自分に欲が無いにしても程があると思うわ。

 確かに一刀の感覚からしたら、気後れするかもしれないけど。其処まで拒絶する必要はないと思うんだけど。

 だいたい、天の御遣いたる一刀を、四畳半の部屋なんかに住ませられるわけないじゃない。見たことはないけど、寿春の街に在った一刀の部屋だって其処まで小さくはなかったはずよ。

 

「まぁまぁ、御主人様落ち着いてください」

「七乃からも言ってくれよ。だいたい俺がこんな屋敷と言うか、もう城と言えるような大きな屋敷が似合う訳ないよな」

「そうですね。確かに御主人様には似合わないかもしれません」

「だろう」

「お前はいきなり何を・」

 

 いきなり横から口を出すだけならともかく、我等が謝儀を断ろうとする一刀に賛同しようとする張勳に、私は思わず喰いつきかける。確かに一刀の奴隷と言う立場である彼女からしたならば、主である一刀の意見に賛同するのは当然のことかもしれない。

 だがこの屋敷の重要性を張勳は理解している筈。それでもなにかを更に言い出そうとする張勳に思わず詰め寄ろうとする私を、張勲の瞳と微笑みが止める。諌めるでもなく、射抜くでもなく、笑みでもって私を制止する。

 此処は私に任せて下さい。と。 そうか、なら貴様のやりたいようにやるがよい。

 

 

「いいですか御主人様。確かにこの屋敷は広大で、もの凄くお金が掛かっています。

 きっとどれくらい掛かっているか聞いたら、御主人様気絶しちゃうかもしれませんね」

「お、脅すのは止めてくれ。いや、とりあえず想像もつかないくらい掛かっているんだろうなぁと言う事くらいは分かるんだけど」

「ふふっ、後で教えてあげますけど、それはおいておいてですね。

 こう見えてもこの屋敷、言うなれば【巨大な借家】なんです」

「「「ぶっっ!」」」

 

 張勲のあまりと言えばあまりもの物言いに、一刀だけでは無く私や思春も思わず吹き出してしまう。

 待て、だいたい何処をどうやったら、そう言う発想が出てくるんだ!?

 

「この屋敷は税金で建っていますから、当然ながら国の所有物です。

 それに王である孫権さんの前でこういうのもなんですが、王がいなくなればこの屋敷は、この地に住む民全員の所有物と考えれなくはないんです。

 むろんそんな【巨大な借家】に住む事になるわけですから、御主人様にはそれ相応の役割が課せられるんです」

「役割?」

「ええ。今まで通り天の御遣いとしての知識は当然ですが、孫呉としては賓客を此処で持て成してみせれば、来られたお客様は喜ばれますし、天の御遣いを保護していると言う孫家の立場も保てます。

 つまり御主人様はこの広大な【宴会場の管理者】であり、宴会に出すための料理を作る【調理長】でもあるんです」

「おおおー。それなら納得できるかも」

「「納得するなっ!」」

 

 張勲の酷い説明に納得しかける一刀と、更に酷い説明をしようとする張勲に私も思春も静止の声を掛けるが、張勲は此方の静止の声に気付いていながら、欠片も気が付かない振りをして、更に調子に乗って一刀に酷い説明をして行く。

 

「屋敷も見た目こそは立派ですが、実際は天の知識を使った実験的な側面が強く出ているんですよ」

「ああ、そう言えば以前に冥琳に、賓客を持て成すのにこの世界で再現できそうな屋敷や設備の設計を頼まれた事があったな。規模が全然違うけど」

「ちなみに屋敷の裏には畑とかもあって、荘園以外でも此処で色々な作物を試していたりするんです」

「そっかそっか色々試すなら広さも必要だよな」

「そうですよ〜。ちなみに此れだけ広いと流石に屋敷の維持が大変ですから、使用人を雇う事になりますが、それだって碌な職に就けないダメダメさんな身内を雇うといった縁故採用です。まぁそのあたりは必要悪と思ってみられたら如何ですか?」

「ようは【借家の管理人】兼【宴会の幹事】みたいなものか」

「だいたいそんな感じですね♪」

 

 限界だった。

 幾ら一刀に納得してもらうためだとはいえ。

 張勲の説明はあまりにも我等を陥れる言い方。

 

「ちがうっ!」

「貴様なんて事をっ!」

 

 だからきちんと説明しなおす。

 思春も一緒になって説明してくれる。

 この屋敷が感謝の意の表れであり。此処に一刀が住む必要性と重要性を語って聞かせる。

 確かに張勲の言うような側面は無い訳では無いけど、国としての客を迎え持て成すにはそれ相応の場と料理は必要だし。その場とてそれは国としての力を示す大切な場で、それが見た事も聞いた事も無い設備の整った屋敷の上、天の御遣いを擁護している事を同時に指し示す事の出来る場所。

 そうする事によって多くの民を守る事が出来るのなら、それは必要な事。

 むろん、城とは別にこうして大きな屋敷を建ててみせるのは、孫呉が天の御遣いの重要性を天に示し、今後を遣りやすくするためだし、天の技術の中で秘匿性の高いものをこの屋敷内で開発することにより技術の流出を防ぐといった目的もあるわ。。

 使用人の話にしたって、縁故採用だと言えば確かに民から批判は出るかもしれないけど、天の御遣いが住まう屋敷を信頼できない者を居れる訳にはいかないだけ。 おそらくは諸葛家と周家の遠縁の者が入る事になるでしょうけど、その中に例え不届き者がいたとしても一族から追放を受ける事とを天秤に掛けたなら、そうそう天秤が傾く事は無いわ。何より互いに顔が知れているから、見知らぬ誰かが侵入してきても分かりやすいと言う利点の方が多いの。

 だと言うのに……。

 

「蓮華達の気持ちは十分に分かったよ」

 

 ちっとも分かっていない顔で、屋敷の管理人になる事を了承してくれる。

 ………くっ、なんでこうなるの?

 確かに一刀の性格を考えたならば、こうなるのも仕方ないかもしれない。けど、せめて【巨大な借家】と言う戯言と【宴会場の管理人】と言う誤解だけは打ち消したかった。

 だいたい管理人も何も、この屋敷の家令ならば、立場上張勲と袁術のどちらか。

 能力的には張勲だろうが、張勲の性格上袁術を前に立たせて、裏ですべて取り仕切ると言った形になるはず。

 結局、一刀の誤解というか勘違いを解く事の出来ずに大きく肩を落とす思春と私に、張勲はそっと囁いてくる。

 

「ああ見えて、御主人様は頑固な所がありますから。くすくす」

 

 まったくだ。どうして、こういう変なところで頑固なんだろうと呆れさせられるわ。

 張勲の言葉に想う所はあるけど、結果的に一刀が我等の謝儀を受け入れてくれた事を良しとすべきなのかもしれないわね。

 この屋敷の主としての自覚は、此れからじっくりと身に付けさせれば良いだけ。そう思うことにするしかないわね。

 

「そう言えば翡翠達は?」

「ええ、御二人とも荷物はこの屋敷に入れてありましたよ。先日まではですけど」

「へっ?」

「あっ、大丈夫ですよ。荷物は引き上げたと言っても、台車に乗ったままですから。

 まぁ、こういうのはどうかとは思うんですけど。御主人様のこの屋敷での最初のお仕事ですかね。

 あっ、別に断ってくれても良いんですよ。私的には全然問題ありませんし」

「いや説明してくれないと分からないし」

「え〜、此処は男らしく何も聞かずに断っちゃってください。その方が面白いですから♪」

「………頼みます教えてください。何か断ったら後々後悔しそうだし」

「ん〜、どっちにしろ後悔しそうな予感がするんですけどね」

 

 一刀を説得する事を諦めた私達を余所に、一刀と張勲は話を進めて行く。

 どうやら翡翠と明命がこの屋敷に居ない理由についてなのだろう。

 ならば、さっそくこの屋敷の主としての自覚を少しだけ教授してやれそうだ。

 

「一刀。何度も言うけど、この屋敷の主は貴方よ。

 ならば其処に住まう人間を主たる一刀が迎え入れるのが作法と言うもの。

 そして屋敷の主として、最初に迎え入れるべき者は当然ながら決まっている。違って?」

 

 そう、家族を迎え入れる事。

 張勲と袁術は既に人権は剥奪されているうえ、一刀の所有物でしかない二人は例外だし、今回は屋敷の主を迎え入れると言う役割を担わせていると言う事もあるわ。

 当然ながら私と思春も例外。私達は一刀をこの屋敷まで連れてくる案内人であり、この屋敷を一刀へと引き渡しをするために此処にいるだけに過ぎない。

 今、この場での主役は一刀で、たった今より一刀はこの屋敷の主になったの。

 だから一刀の最初の仕事は、一刀の家族である二人を迎え入れる事。

 すぐそこのお城から、此処までの間と言う短い道程ではあるけど、それでも広大な敷地を持つ屋敷のため、街一区画分ほどはある道程。

 

「一刀。二人を迎えに行ってあげないの?」

「まさか」

 

 小さく首を振って、そんな選択肢は最初からないと一刀の瞳が答えてくれる。

 丹陽では明命の所の居候として。

 そして南陽では翡翠の所で使用人として身分を隠し。

 寿春の街では、一刀が気後れするだろうと、仮の住まいとして翡翠達全員の屋敷として。

 そしてこの建業では、まだまだだけど、それでも少しずつ天の御遣いとしての自覚が出てきたこの街で、一刀はこの広大な屋敷を持つ主として屋敷の門を潜ろうとしている。

 まだ屋敷の中を見ていないにも関わらず。

 家族である二人を迎え入れる為に……。

 共にここまで歩んできた二人と……。

 この屋敷に住む喜びを分かち合うために……。

 

 そんな一刀の背中に、私は思わず呆然としてしまう。

 見た事も無いほど力強い一刀の後ろ姿に。

 陽が傾きかけ赤みを帯び始めたせいか、私の顔を赤く染めたかのようにみせる。

 

 ぎゅっ。

 

 強く胸が締め付けられる。

 目の前のこの人が、他の誰かの所に向かう事に。

 知っている誰かの所へ向かう事に、心が締め付けられる。

 ……駄目。……姉様との約束。

 あの二人は一刀には必要なの。

 一刀が一刀でいる為に。

 だから、駄目……。

 

 

 

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「うわぁ凄い。二人ともすっごく綺麗だ。

 それに赤い服も似合うよ。横から見たら顔が隠れてしまっているのが勿体無いぐらいだ」

 

 城の一室に入るなり、一刀の歓声が上がる。

 その言葉と一刀の嬉しそうな横顔に、先程以上に胸が締め付けられる。

 だって、いきなりこんな場面で、そんな顔をされたら仕方ないじゃない。

 確かに二人ともいつもと比べて化粧を施しているし、髪飾りも一歩間違えれば過剰とも言えるほど飾っている姿は、一刀では無くても感嘆の息が毀れ出る程二人を美しくしているわ。

 翡翠は一刀が迎えに来てくれた事に嬉しそうに笑みを湛え…。

 明命は戸惑いながらも、それでも一刀の顔に幸せの表情を浮かべ……。

 だけど、無邪気に喜びをあげているのはその三人のみで、私も思春もその光景に唖然としてしまう。

 むろん途中で翡翠に呼ばれたとかで偶然出会い、此処まで同行した姉様も驚きの表情を隠せない。

 

「……此処までする? 普通?」

 

 小さく呟く姉様に、私も首だけ動かし同意する。

 別に、翡翠と明命の二人が特別可笑しな格好をしている訳では無く、問題があるとすればその格好にこそある

 いつもより豪華な刺繍を施してある赤い服を身に纏い。

 同じく刺繍をふんだんに施した肩掛けを幾つも重ねてかけ。

 更に赤い絹布で顔を隠すかのように頭から掛けているだけ。

 今はまだ顔を覆ってはいないため化粧を施した顔が窺えるものの、おそらくこの部屋を出る時は、その赤布で顔を隠すつもりなのだろう。

 私の知っている作法では確かそうするはず。

 そう言えば翡翠に、仕事があるからこの時刻になるように頼まれてはいたけど、まさかこんな事を企んでいるとは夢にも思わなかったわ。

 そして夕暮れ間近と言う事も手伝って、早々に部屋を出る三人を呆然と見送りながら姉様が訊ねてくる。

 

「一刀、意味分かってるのかしら?」

「し、知らないと思います」

「でしょうね。知っていたら普通は緊張してあんなに燥げないわよね」

「姉様、こんな勝手を許しても良ろしいんですか?」

「やっちゃったものは仕方ないわよ。

 それにあの娘の事だから、いつもの悪戯と言う事で済ますつもりでしょ。

 久しくしていなかったから、みんな驚くでしょうけど呆れて終わりでしょうね。

 もっとも本音は牽制といった所でしょうね。よく明命がのったものだわ」

「い、悪戯で済むんですか?」

「済まなかったら、済まなかったで問題は無いと考えてるんでしょうね。

 遅かれ早かれ結果は一緒だもの。そうでしょ思春」

「……御意」

 

 姉様の言葉に、思春は黙って頷くなり姿を消す。

 きっと、火消しをするために奔走するのだと思う。

 ああ、…きっと姉様や思春がそう動く事を最初から計算にれていたんのだろう。

 そうでなければ、このような事を黙って突然できる訳がない。

 本来ならば時間をかけて準備をし、多くの客を呼ぶべき事。

 姉様は牽制とか言っていたけど、いったい何を?

 あっ、もしかして、うるさい連中を黙らせるために?

 

「それもそうでしょうけど。違うわね」

「え?」

「勘よ勘。 ……後は自分で考えなさい」

 

 まるで私が考えている事が分かっていたかのように、言葉を残して姉様はこの場を立ち去って行く。

 ……いったい翡翠は何を考えてあんな事を?

 ……姉様の言う牽制というのは何なの?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

つづく

-5ページ-

あとがき みたいなもの

 

 こんにちは、うたまるです。

 第百肆拾壱話 〜 幸せの赤き布は、夕暮れに舞う踊る 〜を此処にお送りしました。

 

 お待たせしました。何処でもすぐさまお届けします鮨飛脚です。

 と、冗談はさておき。ついついお昼ご飯の内容が出てしまいました(w

 

 さて今回は建業に戻った一刀君の様子を、蓮華視点で描いてみました。

 天の御遣いに相応しい屋敷を用意したのに、言葉の魔術師こと七乃さんのおかげで、せっかく立派な御屋敷も凄い暴落してしまいましたよね(汗

 まぁ庶民派の一刀君なら、それも仕方なしですよね(笑

 さて、作品の最後の方にある翡翠と明命を迎えに行く場面については、詳細は描く予定はありません。

 ヒントは【夕暮れ】【赤い服】【豪華な刺繍の施された布地】【赤い布で顔を隠す】です。

 漢王朝末期の風習らしいですが、興味が在ったら調べてみてくださいね。乙女の夢ですから♪

 さて、次回はもう少し庶民派の一刀君の事を描きたいと思います。

 ………結局、一刀君言われるまで気付かないんだろうなぁ。

 

 では、頑張って書きますので、どうか最期までお付き合いの程、お願いいたします。

説明
『真・恋姫無双』明命√の二次創作のSSです。

 屋敷、それは力の象徴。
 屋敷、それは家族の象徴。
 そして、蓮華は一刀に力と家族を与える。
 多くの役割と重責と共に。そして夢と希望を託して。

拙い文ですが、面白いと思ってくれた方、一言でもコメントをいただけたら僥倖です。
※登場人物の口調が可笑しい所が在る事を御了承ください
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コメント
誤字報告です。張勲が長勲になっている箇所が多数あります。(影)
mokiti様、それは原作の設定のお話ですとだけ(w  ちなみにこの外史では【成人】という言葉だけを使っています(ぉw(うたまる)
にゃものり様、この速度は次話にも続くのですよぉ〜。  (うたまる)
Alice.Magic様、次話にも多少のヒントが隠されていますので、頑張って答えを探し当ててください。  蓮華ちゃんの件ではお気持ちは分かります。………でも、み〜んなと仲良しと言うのも、私からしたら気持ち悪い結果ですよ(汗(うたまる)
恋姫達は皆十八歳以上だ…と、とりあえず言ってみる。そしてきっと七乃さんがああ言わなければ一刀は本当に四畳半の部屋に籠ってしまいそうでしたね。(mokiti1976-2010)
これほど短期間に連続更新されているなんて嬉しすぎる。夢でも見てるのでしょうか?(にゃものり)
七乃さんマジ三国一の悪女wwだがそれがいいw調べ方が悪いのか、サッパリ分からない。(ヒントの件)それはさておき。思春が大分柔らかい態度でちょっと驚きですw一刀が、一途なのは大変いいけど、周りの報われない娘達とかみるとちょっと悲しくなりますねー(Alice.Magic)
劉邦柾棟様、誤字報告ありがとうございます。さっそく修正いたしました。(うたまる)
誤字情報です。 「翡翠の妹である雛里を泣かせてしまった」ではなく、『翡翠の妹である朱里を泣かせてしまった』では無いでしょうか?(劉邦柾棟)
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