第4話 ヴェストリ広場の決闘 前編
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「諸君、決闘だ!」

 

ギーシュの宣言と同時に、周りの貴族たちが歓声を上げる。場所はヴェストリ広場。そこにはギーシュ達を取り囲むように貴族で満たされていた。

 

「ギーシュが決闘するぞ! 相手はルイズの平民だ!」

 

その歓声な中にヤマトはいたが少し真剣な目をした。

 

「とりあえず、逃げずに来たことは褒めてやろうじゃないか」

 

「褒められてもあまり嬉しくないですけど…」

 

 薔薇の杖をかざすと、ギーシュは気障ったらしくそれをヤマトに向けた。

 

「あの…本当にやるんですか?決闘」

 

「当たり前だ!この期に及んで逃げる気か!?」

 

「いや…そういう事じゃあ」

 

ギーシュはヤマトの言葉に耳を傾けず、見てもいないモンモランシーに対しウインクをすると、改めて声高に宣言し、周囲を歓声で包ませた。

 

「僕はメイジだ。だから魔法で戦う。よもや文句は言うまいね?」

 

「まあ…」

 

そう言って、ギーシュは薔薇を一振りした。ヤマトはそれを見てみると、なんとそこから一枚の花弁が落ち、それが見る見る内に女性の甲冑へと変貌したのだ。

 

「へぇ〜凄いですね」

 

「ああ…ちなみに僕の二つ名は『青銅』。青銅のギーシュだ。従って青銅のゴーレム『ワルキューレ』がお相手するよ」

 

ギーシュはその言葉と共に鋭く杖を振った。 指令を受けたワルキューレは、青銅とは思えぬ速さで間合いを詰めた。

 

(まずはそのマヌケ顔に一発――!)

 

と、ギーシュのワルキューレは銅の硬さにものを言わせた拳での一撃を、打ち放とうとするが。

 

先読みしたヤマトがワルキューレの拳を避けて、ワルキューレを両手で押し倒した。

 

「だから自分は決闘する気はないと…」

 

「なめるな!」

 

 ギーシュが杖を振ると同時に、ワルキューレは再び動き出してヤマトを襲う。しかし、繰り出す攻撃は悉く外れ、空振りの音が虚しく響くだけ。

 

 しまいには、足をかけられバランスを崩されたワルキューレは、盛大にすっ転び周囲の笑いを誘った。

 

「おいギーシュ! いつまで平民に華持たせてるつもりだよ!?」

 

「流石ギーシュ、決闘にそんな遊び心を入れるなんて余裕だなぁ!」

 

 笑い飛ばす観衆を見て、ギーシュは引きつった笑みでそれに応える。歓声がうざったいと思ったのは生まれて初めてだ。しかし、それらを忘れるように振り切ると、ヤマトの方に杖を向けた。

 

「ふふん、少しはやるようだね。なら僕もちょっと本気を出そうかな」

 

「本気って…決闘は本気でやるのが常識じゃあ?」

 

「だ…黙れ!」

 

 今度は、杖から二枚の花弁が舞い落ち、二体のワルキューレを精製する。その二体が同時に、ヤマトに飛び掛る。 しかしヤマトは動じない。むしろ最初のワルキューレを見た時より反応が薄かった。四つになった拳を特に気にせず、ヤマトは捌き続ける。

それを見て、ギーシュはニヤリと笑った。

 どうやら気づいていないようだ。このワルキューレ達の攻撃は、いわば本命のための布石。上手く攻撃をかわさせて、背後から重い一撃を与えるための―――。

 そう、ギーシュはワルキューレを操って、ヤマトを避けさせながら実は誘導させていた。

 背後には、先ほど足をかけられ、倒れたワルキューレ。それがムクリと起き上がり、前方の回避に集中している剣心に向かって殴りかかった。

 

「あっ!危ない!!」

 

 ルイズの叫びも虚しく、ワルキューレの拳はヤマトの目がけ殴ろうとしたが、彼は正面を見ながら後ろにいたワルキューレの一撃を掴んで止めた。

 

「セイッ!」

 

ヤマトはワルキューレの拳を掴んだ状態で群衆に向けて放り投げワルキューレはピクリとも動かなくなった。

 

「全く、この…ワルキューレだっけ?後ろから殺気を放ちながら不意打ちして来るなんて驚きました。」

 

ヤマトはワルキューレを投げた群衆に一礼で謝ったが、ギーシュの読みを完璧に読んでいた。

 

「……くそっ!!」

 

策を看破され、またもや恥の上塗りをしてしまったギーシュは、苦い顔で杖を振るう。今度は挟み撃ちの形で、ヤマトの眼前と背後、両方から拳が飛んできた。

しかし、ヤマトは変わらず動揺一つ見せず、何とそのまま拳の間へと割って入った。

 当然、拳の行き先は、互いのワルキューレの頭部。自分で自分の銅像をぶっ飛ばすと、最初のものと同じく動かなくなった。

 結局、最後まで立っているの放り投げと攻撃を回避しただけのヤマトだった。

 

「あらら…よっぽど必死だったのかな?」

 

 ヤマトの呑気な態度にギーシュは最早、気障な格好を取ることすら忘れている。最初から最後までコケにされた事に、怒りで肩を震わせながら言った。

 

「さっきから癪に障るんだが…君は本気で僕に勝てると思っているのかい? メイジであるこの僕に! 平民が!!」

 

「勘違いしないでくださいよ。自分はただこの広場に来ただけで決闘する気は全く無いです」

 

「………ッ!!!」

 

笑顔で話すヤマトにとうとうギーシュはキレた。あらん限りの勢いで杖を振り回すと、今度は7枚、花弁が舞い落ち、7体のワルキューレを精製する。

……だけでなく、それぞれのワルキューレ達は、その手に武器を持っていた。剣、槍、斧、ハルバートといった得物を抜き放ち、ギーシュの左右に並んだ。

 

「さあ、訂正するなら今のうちだぞ! 素直に実力の差を認め、土下座して詫びるなら許してやろう!!」

 

 声高にして叫ぶギーシュに対し、ヤマトは周りのワルキューレ達を見る。ジリジリとこちらへと、にじり寄って来る形で恐怖心を煽る演出をしているようだ。

 

この様子を、ルイズはただ気が気でない表情で見つめていた。

ああ…いよいよギーシュが本気になってしまう。ルイズは胸の中がモヤモヤし始めた。

 

 止めるべきだろうか…うん、止めるべきだ。このままでは間違いなく半殺しに…いや、今のギーシュの状態からしてそれ以上だろう…に、されてしまう。

 

これから始まるのは、決闘という名の公開処刑。

 

確かに平民だし、どこか抜けてるけど、全く使えない訳じゃない。片付けの時だって、自分から率先して手伝ってくれて――私を…ゼロじゃないって言ってくれた。

 

本当は、あの時『ありがとう』って、言いたかった。この学院に来て、初めてかけてくれた優しい言葉……嬉しかった。でも、そんな簡単な事が言えなかった

それが今の今まで、ルイズの胸の中でグルグルと渦巻いていたのだ。

せめて本当に『ありがとう』だけでも言いたい。もし言えずに彼が死んでしまったら、多分一生後悔してしまうだろう。

 

「ヤマト!もうやめなさい!! 本当に殺されちゃうわよ!!」

 

 気づいたら、ヤマトに向かって叫んでいた。でもヤマトは、ルイズの言葉に反応し、いつもどおりの優しい笑みでルイズを見た。

 

「やっと名前で読んでくれたね、ルイズ」

 

「そうじゃなくって! お願いだがら私の話を――」

 

 必死になるルイズに、ヤマトは微笑みながら手を前に出して制止した。まるで、それだけで言いたいことが伝わったかのように……。

 

そしてギーシュを見るヤマト。

 

「…一つ聞きます。何故あなた方は、ルイズをそう邪険に扱うのですか?」

 

「君も見ただろう? あの授業での爆発を。それと君みたいな使い魔を召喚したという事実だけで、充分説明はできると思うけどね」

 

「女性にだけは優しく紳士的に振舞っているのにもかかわらず…何でルイズは例外なんです?」

 

「彼女はその資格と器が無いからね」

 

ギーシュの言葉にヤマトは強く握り絞めた。

 

「資格…器…たったそんな偏った理由だけか…」

 

鋭い眼でギーシュを見て、ヤマトが指差す。

 

「あんたをそのくだらない理由と一緒に砕かせてもらいます」

 

「フン、言いたいことはそれだけかい? だが今の君にはそんなことを言う余裕はどこにもないのだぞ!!」

 

 気づけば、ワルキューレ達がどんどんヤマトに迫っていた。逃げ道はほとんどどこにもない。

 

 ギーシュは、ついに勝ちを確信したのか、ほくそ笑んでヤマトを見た。

 

「今際の際だ、何か他に言い残すことがあれば聞いてあげよう」

 

一瞬の沈黙。そしてヤマトが口を開く。

 

「自分が勝ったら私のご主人の事侮辱しないと誓ってもらいましょうかぁ?お坊ちゃん?」

 

「それが最後の言葉か…いいだろう! 行け、ワルキューレ!!」

 

 合図と共に杖を切る。

 様々な武器を持つワルキューレ達が、ヤマトに近づいた。剣が空を切り、槍が閃き、斧が重量を持ってのしかかる。

 

 ルイズは、思わず目をつぶった。貴族はおおっ、と歓声を上げる。

 

 ルイズも周りの貴族達も、何かしら言いながらも誰もギーシュの勝ちを疑っていなかった。

 

 メイジが平民に勝てるはずないと。あのゴーレムの壁の向こう側には、ボロ雑巾になった平民が倒れているだけだろうと、誰しもがそう思っていた。

 

だから、次の瞬間起こった出来事に、観衆はただただ唖然として見るしかなかった。

 

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何とヤマトがいないのだ。しかも彼は高くジャンプしていたのだ。180を超える身長の男が軽々と宙に浮いていた。

 

「よっ…と」

 

何事もなかったような様子でギーシュの後ろに着地したヤマト。

 

「なっ!?」

 

自分の後ろに立っているヤマトに驚いて後退するギーシュ。

 

「何だ?あなたが攻撃しないんですか?お得意の魔法で?」

 

「ああ、今攻撃するさ!ワルキューレ達がね!!」

 

ギーシュがそう言うとワルキューレ達は再びヤマトに襲い掛かろうとした。

 

「ライトグラヴィティ(ボソッ)」

 

ヤマトがボソッとつぶやくと周りには見えない青いオーラがヤマトの全身を包んだ。そしてワルキューレ達の猛攻を軽々と避け続け、再びギーシュの前に現れた。

 

「ども!」

 

「ま、また!?」

 

ヤマトの行動に驚きを隠せないギーシュと群集達。

 

「ギーシュさんだっけ?ここに来るとき他の生徒たちがあなた事をまるで自慢のように話してくれましたよ?陸軍元帥を父に持つ名門・グラモン伯爵家の四男だそうですね?」

 

「あ、ああ…僕は名門貴族の息子の事だからね」

 

ヤマトの発言に落ち着きを取り戻そうと平静を装って言い返すギーシュ。

 

「陸軍元帥のご子息という事は今の状況がお解りのはずですよね?」

 

「状況?」

 

「自分は貴方が魔法で召喚したワルキューレ達の攻撃を回避して貴方の前に2回立っている…その意味お分かりですか?」

 

ヤマトの問いに威圧がこもっていてヤマトの問いに後ろに下がりながら無言になるギーシュ、そして群集も無言となる。

 

「つまり自分がその気になれば…あなたはこの決闘で2回死んでいるんですよ?」

 

『!?』

 

ヤマトの答えに一同がビクッとした一同。

 

「じゃあ何故僕の前に立って攻撃しないんだ?」

 

「簡単です」

 

そう言ってヤマトは笑顔になってギーシュに言い放った。

 

 

 

「あなたのような軟弱・貧弱ナルシスト武門貴族のガキを攻撃したら自分の手が汚くなってしまいますから」

 

ブチィィ!!

 

笑顔で自分の事と自分の一族をも侮辱したヤマトに一気に怒りの頂点に達した。

 

「怪我だけで済まそうと思ったが…一族を侮辱した貴様を八つ裂きにしてやる!!」

 

もはや余裕の顔はなくなり完全に怒り一色のギーシュ。

 

「ギーシュ!もうやめて!!」

 

「!!」

 

ヤマトは驚いた。何故ならルイズが必死になってギーシュの腕を掴んで止めようとした。

 

「黙れ!ゼロの分際がぁ!!」

 

『バシィン!!』

 

怒りに我を忘れているギーシュはルイズの顔にビンタした。

 

「ゼロのルイズの分際で…僕の邪魔をするなぁーーー!!」

 

ギーシュは腕を振り上げてルイズを殴ろうとしたその瞬間だった。

 

『ガシッ!!』

 

目を閉じていたルイズが目を開くとギーシュの腕を掴んでいるヤマトが立っていた。

 

『何だあの平民!!』

 

『今度はもっと早かったぞ!』

 

群集が再びヤマトに驚愕していた。前には数体のワルキューレがいたにも関わらず、彼はそれを意図も簡単に抜けてギーシュを止めたのだ。

 

「・・・・」

 

無言でギーシュを片手でワルキューレ達に向かって投げ飛ばし、ギーシュを受け止めるワルキューレ達。ヤマトは倒れているルイズを起こした。

 

「何であんな事…」

 

「だって…あんたのご主人様よ…使い魔の心配ぐらいするわよ…」

 

「ルイズ…」

 

「それに嬉しかった…あの時ゼロじゃないって言ってくれた…お礼が言いたかった…ありがとうって」

 

ルイズの言葉に無言になるヤマトは周りを見渡して水色の髪色をしたメガネの少女の隣にいるキュルケを見つけてさっきと同じ速さでキュルケの前に立った。ヤマトはそこにルイズを預けた。

 

「ありがとうルイズ…ちょっと待ってて」

 

そう言ってギーシュとワルキューレ達がいる方へ歩き出した。

 

「ちょっと今から決闘に行ってくる」

 

ヤマトが前に歩いているのを見たギーシュはすぐに立ち上がった。

 

「平民風情が…行け!ワルキューレ!!」

 

杖を大きく振るとワルキューレがヤマトに向かって襲ってきた。

 

「へヴィーグラヴィティ…」

 

ヤマトが呪文のような言葉を言うと、ヤマトの拳が一瞬赤いオーラに包まれ、力強く拳を握った。

 

「インパクトスマッシュ!!」

 

1体のワルキューレが持つ斧を瞬時に避けてワルキューレに拳が直撃すると、青銅のワルキューレが細かくバラバラになった。

 

「来いよ元帥の息子さん…戦いというのを教えてやる!!」

説明
バトルシーンは結構難しいです。

ヤマトは戦いにおいては冷静で意外と頭を使う設定です。

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コメント
更新お疲れ様です。これからも頑張って下さい。(咲実)
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バトル オリキャラ ゼロの使い魔 駄文 Minosawa 

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