真・恋姫?無双 〜夏氏春秋伝〜 第十六話
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黄巾との大戦から早数日。

 

陳留の街は至って安穏とした空気を醸していた。

 

そんな陳留の中心にある城、その中庭にて唸り声を上げる人影が一つ。

 

「ん〜…」

 

「お?どうしたんだ、季衣?何か悩み事か?」

 

廊下からその様子を見た一刀は、季衣のその珍しい姿に思わず問いかけた。

 

声を掛けてきた人物が一刀だと分かると、季衣は顔全体に喜色を浮かべて答える。

 

「あ、兄ちゃん!実はね、邑にいるボクの友達を呼んだんだよ。でも、手紙出してから結構経つのにちっとも来てくれないんだ…」

 

「手紙が届かなかった、ってことは無いの?」

 

一刀の質問はこの時代ではよくあることだからである。

 

手紙の配達を一手に請け負うような組織を存在せず、手紙は主に行商人の好意によって運ばれる。

 

その為、行商人が届け先の相手がいる邑に立ち寄らなかったり、賊に襲われたりすれば、手紙は届かないままとなってしまうことがあるのであった。

 

ところが、季衣はその可能性を否定する。

 

「ううん、それはないよ。店のおっちゃんは確かに届けた、って言ってたし」

 

「となると、路銀が無いとかかな?」

 

「う〜ん、そうなのかもね〜」

 

特に危機感を覚えている様子もないので、そこまで心配するようなことでも無いのかもしれない。

 

そう考えていると、廊下の奥から声が掛かる。

 

「一刀〜?ちょっと来てもらえる?」

 

季衣はどうか知らないが、一刀はまだ仕事の途中と言うこともあり、呼ばれたならすぐに向かわねばならない。

 

「もしそれらしい子がいたら覚えとくよ」

 

「うん、お願いね、兄ちゃん」

 

それだけ言い残して一刀は残る仕事を片付けに中庭を出て行った。

 

 

 

 

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朝の仕事を片付けた一刀は、多少時間に余裕があることもあって街を散策していた。

 

すると、かなり大きな人だかりを見つけた。

 

何事かと近づいてみると、人だかりの中に警邏兵を確認出来る。

 

一刀は人垣を掻き分け、兵に状況を問う。

 

「これは一体どうしたんだ?」

 

「あ、夏侯恩様!それが、黄巾の残党が紛れ込んでいたようでして…盗みを働いて逃走を図り、失敗した後に人質を取られて膠着状態です」

 

「そうか。人質を取られる程にてこずったのか?」

 

一刀の質問に兵は少々躊躇した後、覚悟を決めたように話す。

 

「いえ、我々が着いた時には既にこの状態でした。実はその残党を捉えようとしたのは一人の庶民でして…」

 

「なるほど、な。時間的にも丁度見廻りの交代時間か。職務怠慢というわけでは無いんだ。余り責任を感じるな」

 

「しかし、人質を取られてしまっていることは事実です…」

 

一刀の慰めを受けても兵の顔は晴れない。

 

兵を安心させる為もあり、一刀は明るめに声を掛けた。

 

「何、大丈夫だ。見たところ一人のようだし、ちゃちゃっと済ませて来よう」

 

そう言って一刀は人垣を抜ける。

 

人垣の中心では2人の警邏兵に並んで1人の少女が残党相手に立ち往生していた。

 

「ここは我々に任せて退いてなさい!」

 

「嫌です!私の失敗で招いてしまった事態です。私も協力します!」

 

兵の勧告に一歩も譲らない少女。

 

少女は手に持つ巨大な円盤に力を込めようとする。

 

警邏兵の方も油断なく得物を構えてはいる。

 

しかし、どちらも残党にどうしても手を出せないでいる。

 

「て、手前ぇら!それ以上こっちにくんじゃねぇ!い、一歩でも近づいてみろ!こいつの命は無ぇぞ!」

 

見れば残党の左腕には声も上げられず啜り泣く子供が一人。右手には粗末なものではあるが、子供の命を奪うには十分な剣が握られていた。

 

幸いなことに、残党はそれほどの腕では無いようである。

 

わざわざ隠密を要請せずとも片を付けられると判断した一刀は、そのまま警邏兵の肩を叩く。

 

「足止めご苦労。後は任せておけ」

 

『夏侯恩様!』

 

一刀が声を掛けると2人の兵士は喜びの色の滲む声を上げる。

 

一方で少女の方は誰かも分からず困惑していた。

 

「君もよくやってくれた。危ないから退がってて」

 

「え、えと…」

 

どうすれば良いか分からずに戸惑う少女。

 

一刀はそんな少女より更に一歩出て残党に話しかけた。

 

「お前は黄巾の残党なんだな?何が望みだ?」

 

「へ、へっ!望みなんて決まってんだろ?俺を見逃せ!」

 

「ま、そうだろうな。いいだろう。見逃してやる。但し、その子供を離せ。そうしたら道を開けてやる」

 

犯人確保よりも民の無事の方が大事、と一刀は譲歩しようとする。ところが。

 

「ん、んなこと言って、子供離したら斬りかかってくる気だろ?!お、俺は騙されねぇぞ!」

 

長時間の膠着状態から来る緊張で、残党は既に興奮状態であった。

 

これ以上は押し問答になる。かと言って、このまま道を開けることは出来ない。

 

そこで一刀は次の返答で全てを決めることにした。

 

「いいか?これは最終勧告だ。今すぐ子供を離せ。それ以外にお前が助かる方法は無い」

 

「し、信じられるかぁっ!」

 

残党の興奮は更に高まり、何を仕出かすかわからない状態になってしまう。

 

一刀は残党を処理することに即断し、人質の子供に向かって叫ぶ。

 

「目を瞑れ!」

 

突然向けられた声に驚きつつも目を瞑る子供。

 

それを確認した一刀は懐で苦無を握り、取り出す動作に連動させて残党の右腕に向けて擲つ。

 

「ぐぁっ…」

 

残党程度の腕ではその早業に対処出来ず、苦無の刺さった痛みに耐え兼ねて武器を落とす。

 

その瞬間、一刀は腰に佩いた刀を抜き放ち、袈裟懸けに斬って落とした。

 

絶命し、力の抜けた腕から落下する子供を受け止める一刀。

 

一連の動作に、何が起こったか分からない民衆は静まり返っている。

 

一刀は残党の死体を背に隠すと人質から解放された子供に優しく呼びかけた。

 

「もう大丈夫だ。ほら、お母さんのところに行きな」

 

一刀の言葉を聞いた子供は脇目もふらずに母親の胸に飛び込む。そして声を上げて泣き出した。

 

その声を切欠として止まっていた時間が動き出した。

 

周りが沸き立つ中、一刀は警邏兵に指示を出す。

 

「こいつの処理を頼んでいいか?」

 

「はっ!お任せください!この度はご助力ありがとうございました!」

 

「いや、いいよ。これも俺の仕事さ」

 

兵に指示を出し終えた一刀は未だ呆然としている少女に話しかける。

 

「君もありがとう。警邏が来るまで、犯人の相手をしてくれてたんだってね。何かお礼をしないと…」

 

「い、いえっ!私の方こそ助けて貰ったので。本当にありがとうございました」

 

話しかけられた少女は緊張しているのか、一刀の言葉を遮る勢いで逆に礼を述べてくる。

 

その姿を微笑ましく感じながらも、一刀はどのようにお礼をすればいいかを考えていた。そして。

 

「ん〜…よし、こうしよう。君、何か困っていることは無い?残党の足止めのお礼に手伝える限りで手伝うよ」

 

このように少女に切り出した。

 

少女は少し考えた後、少しおずおずとしながら答えた。

 

「え〜と…あの、それじゃあ、少し話を聞いてもらえますか?」

 

「ん、いいよ。それならお昼がてら何処かの店に入ろうか」

 

そう一刀が提案すると少女が威勢良く切り出してきた。

 

「あの!それなら、私が働いているお店に来てもらえますか?ご馳走しますので!」

 

「へぇ、君料理作れるんだ?それならそこに行こうか」

 

興味を惹かれた一刀は少女の主張を受けることにした。

 

事が決まると2人は並んでその店を目指す。

 

歩きながら2人は互いに自己紹介を交わす。

 

「そう言えばまだ名乗ってなかったね。俺は夏侯恩。夏侯両将軍は知ってるかな?その2人の副官を務めているんだ」

 

「私は典韋と言います。よろしくお願いします」

 

少女の名を聞いた一刀は記憶を掘り起こす。

 

(典韋…あの『悪来』典韋か。持ってた円盤は多分この子の武器なんだろうけど、見たところ相当重量がありそうだった。渾名に恥じぬ怪力は健在、か)

 

正史、というよりも三国志演義の知識を引っ張ってきて、そう考察していた。

 

 

 

典韋が指定した店は、騒ぎのあった場所からほど近い所にあった。

 

そして、その店を見た一刀は少し驚いていた。

 

「この店かぁ。最近よくここを利用させてもらってるよ。とても美味しい料理を出してくれるもんだからね」

 

「そうなんですか?気に入って貰えたならありがたいです!」

 

典韋は笑顔で答えながら扉を開き、一刀を店奥の席に案内する。

 

その後、典韋は厨房の方へと引っ込み、しばらくの後に両手に料理を持って出てきた。

 

皿を並べ終えると、典韋は一刀の対面に座った。

 

一刀はそれを見届けると、手を合わせて食前の挨拶を唱える。

 

「いただきます」

 

「あの?それは何ですか?」

 

典韋はその行動を不思議そうに聞いてきた。

 

三国志時代の中国は仏教が伝来してまだ間もないこともあり、仏教由来の慣習を大陸の人間は知らないのである。

 

今までに何度か行われたこの問答は、一刀にとって説明し慣れたものとなっていた。

 

「ああ、これはね、食材に感謝してるんだ」

 

「食材に感謝?」

 

「うん。俺たち人間はこれらの料理の材料となった生き物、つまり動物や植物の命を貰う事で生き延びる事が出来る。だから、俺たちの糧となった生き物に感謝の気持ちを込めて、その命を”頂きます”、とそう言うわけさ。ちなみに、食べ終わったら、同じく感謝を込めて”ご馳走さま”、って言うんだ」

 

一刀の説明を聞いた典韋はその意味を理解すると目を輝かせた。

 

「なるほど!素晴らしい考え方だと思います。では、私も。いただきます」

 

典韋も一刀に倣って手を合わせて食前の挨拶を唱えた。

 

それを契機に2人は食事を始める。

 

食事の

最中に一刀が料理の味を褒めれば、典韋は嬉しそうに顔を綻ばせる。

 

会話をすれば実に楽しそうに笑う。

 

『ご馳走さま』

 

そのような感じで和気藹々とした雰囲気のままで、声を合わせて2人は食事を終えた。

 

「さて。それじゃあ、話って何かな?」

 

穏やかな雰囲気はなるべくそのままに、一刀は典韋に問いかける。

 

典韋は少し気を引き締めて、しかし雰囲気を壊し切らないようにして話し始めた。

 

「はい。実は私、友達に呼ばれてここまで来たんです。ですけど、その友達がどこにいるのか見つからなくて。今はこのお店に住み込みで働かせ頂きながらその友達を探しているんです」

 

「そうだったんだ。俺も一緒に探してあげるよ。その子の名前と特徴を教えてくれる?」

 

一刀が人探しを請け負う返事をすると典韋は顔を輝かせた。

 

「本当ですか?!その子の名前は許?って言います。特徴は…えっと、桃色の髪で背は私と同じくらいの女の子です」

 

「え…?」

 

探し人の特徴を聞いた一刀は一瞬間フリーズしてしまう。

 

「あの…?どうしかしたんですか?」

 

典韋の気遣うような声に我に返った一刀は、苦笑しながら典韋に聞き返す。

 

「ちょっといいかな、典韋ちゃん?その許?って子、真名が季衣だったり、する?」

 

その問いを聞いた典韋は鳩が豆鉄砲を食ったような顔をする。

 

典韋の驚きは非常に大きかったのか、数秒間固まっていたが、やがて動き出すと一刀に聞き返す。

 

「はい、そうです。もしかして、知ってらっしゃるのですか、夏侯恩さん?」

 

「うん、知ってる。季衣は城にいるよ。つい最近、曹操様の親衛隊に入ったことで気合いが入ってたから、今は調練場にいるかな?」

 

一刀が典韋にそう答えると、

 

「え、えええぇぇぇぇ〜〜〜?!」

 

店中に典韋の驚声が響いたのだった。

 

 

 

 

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一刀は未だに心が落ち着ききっていない典韋を連れて調練場を訪れた。

 

そこでは春蘭と季衣が仕合を行っていた。

 

「でぇりゃあぁぁっ!」

 

「おおおぉぉぉぉっ!!」

 

2人が一際気合を入れてぶつかり合う。

 

その様子を見ながら一刀は典韋に簡単に説明をしていく。

 

「ここは曹軍の調練場で、兵の訓練や将同士の仕合に用いられる場所なんだ。で、今季衣と仕合ってるのが曹軍筆頭武官の夏侯惇将軍。ん…あと少しで終わるね。ちょっと待ってようか」

 

「は、はい!」

 

言うまでもなく典韋の視線は季衣を追っている。

 

そこには確かに友を心配する視線があった。

 

一方で季衣は典韋の視線に気付く事無く、春蘭に果敢に打ち込んでいく。

 

しかし、強くなってきたとは言え、季衣の実力はまだまだ春蘭には及ばない。

 

一刀達が調練場に到着してから僅か数?目に、季衣の手から鉄球が弾き飛ばされてしまった。

 

「うぅ〜、参りましたぁ」

 

「また私の勝ちだったな!だが、季衣も大分強くなったな。華琳様の親衛隊長として考えても十分なものだろう」

 

「ホントですか?やったぁ!」

 

春蘭に褒められて季衣は無邪気に喜びの声を上げる。

 

春蘭も妹分とも言える季衣の成長が嬉しいのか、微笑みを漏らしていた。

 

2人の仕合が終わったことを確認して、一刀は拍手をしながら2人に近づいていく。

 

典韋は慌ててその後を追って付いて来た。

 

「いい仕合だったね、2人とも。春蘭の言った通り、季衣も強くなってるよ。教えたことをきちんと実践できてるね」

 

「おお、一刀か!…って、またなのか…」

 

「ん?何が?」

 

「いや、何でもないぞ。ところで、その子は何なんだ?」

 

「ああ、この子は…」

 

春蘭の言動に首を傾げながらも、一刀は後ろにいる典韋を紹介しようとする。

 

その一刀の言葉を遮って季衣が叫んだ。

 

「あ〜〜〜っ!流琉!やっと来たの?来るのが遅いよ!」

 

「遅いよ、じゃないよ、季衣!陳留に来て、だけじゃどこにいるかわからないでしょ?しかもお城にいるだなんて夢にも思わないよ!」

 

「え〜。だって陳留で一番最初に目に付くんだし、流琉ならわかると思ったんだけどなぁ」

 

「普通はわからないよ!」

 

一刀と春蘭そっちのけで季衣と流琉の言い争いが始まる。

 

一刀は苦笑しつつ、春蘭に向き直ると肩を竦めた。

 

「…そういうわけで、典韋って言う子だ」

 

「いやいや。どういう訳なんだ?」

 

「簡単に言えば、季衣が友達を呼んだ、ってことさ」

 

「ほう、なるほど」

 

頷きつつ春蘭は言い合いを続ける2人の方を向く。

 

その視線の先では双方武器を取り出しての喧嘩に発展しようとしていた。

 

「それで、典韋は腕が立つのか?」

 

「どうだろうね?ただ、武器とか季衣との喧嘩をああして受ける姿勢を見せているんだから、そこそこ腕が立つとは思うよ」

 

そう言いつつ一刀は2人の下に歩み寄っていく。

 

そして、2人がまさに武器を振り上げようとした瞬間に間に割って入った。

 

「はい、そこまで。2人とも一旦落ち着け」

 

「ちょっと、兄ちゃん!そこどいて!」

 

「どいてください、夏侯恩さん!」

 

しかし、既にヒートアップしてしまっている2人はそれでは止まろうとしない。

 

ならば、この状況を利用しようと考え、ある提案を投げ掛けた。

 

「そこまでやり合いたいなら、いっそ仕合ということにしようか。俺が審判をするからさ」

 

「いいよ!やってやる!」

 

「わかりました!」

 

どうにか話が纏まり、2人は一度離れる。

 

季衣と典韋が位置に付いたのを見届けると一刀は声を上げた。

 

「では、始め!」

 

「てりゃぁっ!」

 

「やあっ!」

 

開始と同時に2人とも攻撃を放つ。

 

季衣が放った鉄球と典韋が放った円盤は丁度両者の中央で衝突し、それぞれの持ち主の手元に戻っていく。

 

季衣は鉄球が戻ってくると、次は足を使って位置と角度を変えながら再び鉄球を放つ。

 

一方典韋は円盤を受け止めるとそのまま季衣に狙いを付け直して再び攻撃を放った。

 

2人の仕合の様子を横目に見ながら、春蘭が一刀に近づいてきて尋ねる。

 

「一刀、お前はどう見ている?」

 

「そうだね…多分季衣が勝つと思うよ」

 

一刀は然程悩まずにそう答えた。

 

それに対して春蘭は疑問を覚える。

 

「悩まないんだな。初撃の様子から2人は互角じゃないのか?」

 

「きっと邑にいた頃は互角だったんだろうね。でも、季衣はここに来てから、実戦を意識したちゃんとした鍛錬を積んでいる。初撃から二?目にかけて見てれば分かるけど、典韋の方は最初の頃の季衣の悪い癖が残ってるんだ。十数?も打ち合えば典韋は捌ききれなくなるんじゃないかな?」

 

自身の分析した結果をつらつらと述べる。

 

春蘭も一刀の説明で納得できたのか、なるほど、と一言発してから仕合に注目する。

 

そうこう言っている内も2人は互いの武器を次々にぶつけ合っていく。

 

その数は5を越え、10を数え…

 

およそ15?目程の撃ち合いで遂に均衡が崩れた。

 

それまでなんとか耐えていた典韋だったが、季衣の攻撃の撃墜が間に合わず、体捌きでもってギリギリのところで躱したのである。

 

しかし、無理な避け方をしてしまったために態勢は崩れ、そこからは完全に防戦一方となってしまった。

 

そのまま10?程を耐えていたが、最終的に季衣の鉄球に典韋の円盤は弾かれてしまった。

 

「そこまで!勝者、季衣!」

 

「やったぁ!流琉に勝った!」

 

「うぅ…負けたぁ…」

 

両者の顔ははっきりと明暗分かれたものであった。

 

「兄ちゃん、どうだった?」

 

「ああ、良かったよ。真桜のおかげで鎖での防御も使えるようになってるな」

 

一刀は季衣の頭を撫でてやりつつ、仕合の内容を褒めた。

 

そうしてから次に典韋の側までいってしゃがみ、目線を合わせる。

 

「君もいい仕合を出来ていたよ。季衣にしてもそうだけど、君にも相当な武の資質がある。今の季衣くらいの強さだったら、君ならすぐに追いつけるはずだ。どうかな?曹操様に仕えてみないかい?」

 

「夏侯恩さんにそう言って貰えるのは嬉しいです。でも、私はずっと庶民として暮らしてきたので、礼儀とか何も分からないですよ?」

 

「それは大丈夫。曹操様は才有る者を重用する。才能があれば礼儀はそれほど問われないよ。現に…」

 

台詞を途中で切って、一刀は視線を季衣に向ける。

 

典韋もその視線を追っていくと、その先には何故見つめられているのかわからず首を軽く傾げている季衣がいた。

 

典韋が季衣を見たのを確認して一刀は先程の台詞を再開する。

 

「というわけだ。改めて聞こうか。典韋、君のその才を曹操様の為に活かしてみないか?」

 

「…わかりました。私なんかの力で良ければ、是非」

 

「よし。それじゃあ、早速曹操様に謁見に行こうか。春蘭と季衣はどうする?」

 

問われた2人は少し考え、春蘭の方から口を開いた。

 

「あ〜、えっと…私はこの後に兵の調練があるのでな。また後で会おう、一刀、典韋」

 

「ボクは一緒に行くよ。華琳様に流琉のことお願いしたいし」

 

「そうか。また後でな、春蘭。それじゃあ、行こうか、季衣、典韋ちゃん」

 

それぞれに春蘭に一言掛けてから3人は並んで陳留の城、そこにおわす華琳の下へと向かって歩いて行った。

 

 

 

 

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「典韋ちゃんはちょっとここで待っていて貰えるかな?」

 

「はい、わかりました」

 

一刀は典韋に一つ頷いて微笑みかけると、華琳の執務室の扉を開く。

 

「華琳様、少しよろしいでしょうか?」

 

「あら、一刀に季衣?何かしら?」

 

華琳は読んでいた竹簡から目を上げて聞き返す。

 

一刀は特に回りくどい挨拶をすることも無く、典韋のことを話に挙げた。

 

「お忙しいところ申し訳ないです。かなり有能な武官候補を見つけましたもので、その報告に」

 

「へぇ…なぜその者が有能だと?」

 

「はい、それは季衣と仕合をさせた上で、その動きを観察した結果、春蘭と出した結論です」

 

「ボクの友達なんですけど、ボクと同じくらい強いんですよ!」

 

「そう。それで、一刀。外にいる子がその子なのかしら?」

 

その華琳の言葉に少し驚く一刀。

 

確かに、将レベルの武官になれば部屋の外の人の気配を探ることが出来る者もいる。

 

しかし、それを武官が本業でもない華琳が為し得るとは思っていなかったからであった。

 

一刀は内心の驚きを表に出さないようにしながら声を紡いでいく。

 

「お気付きでしたか。典韋、入って来てくれるか?」

 

「あ、はい」

 

一刀に呼ばれて典韋が執務室に入ってくる。

 

そして一刀を挟んで季衣と反対側に並んだ。

 

典韋が止まったのを確認してから一刀が典韋を紹介する。

 

「この子が今言っていた子です。名前は典韋。その武の資質は先程も申し上げた通り、私と春蘭が保証します」

 

「て、典韋と申します!えと、あの、季衣がいつもお世話になっています!」

 

「うん、ちょっと落ち着こう。一度深呼吸しよう。何かちょっと変なこと言ってるぞ?」

 

「は、はい。す〜、は〜」

 

ガチガチに緊張した典韋を落ち着かせようと、一刀は肩に手を置いて話しかける。

 

華琳はそんな典韋を見て微笑んでいた。

 

「ふふ、可愛いわね。典韋と言ったかしら。そんなに緊張しなくてもいいわ。一刀と春蘭が保証する、というのであれば武の方は十分でしょう。それに私は可愛い子は好きよ。いいわ、典韋、貴方を武官として採用しましょう」

 

「あ、ありがとうございます!私の真名は流琉と申します。よろしくお願いします」

 

「ええ。流琉、貴方にも私の真名を呼ぶことを許しましょう。私の真名は華琳よ。これからの貴方の活躍に期待しているわ」

 

随分とあっさり華琳からの許可は降りた。

 

右腕たる春蘭をそれだけ信用しているということなのだろう。

 

典韋の採用が決まってから、一刀はふと思い出したことがあったため、その内容を口にする。

 

「そういえば、典韋は料理が得意ですよ。食通の華琳様の舌でも満足できるのではないでしょうか?」

 

「あら、そうなの?それは楽しみね。流琉、今度何か作ってもらえるかしら?」

 

「はい!喜んで!」

 

 

 

 

 

 

典韋の役職等を簡単に決めた後、一刀、季衣、典韋の3人は執務室を後にした。

 

少し歩いたところで典韋が一刀にお礼を述べる。

 

「あの、夏侯恩さん。どうもありがとうございました!季衣と再会出来ただけでなく、華琳様に推薦までして頂いて」

 

「いやいや、残党足止めのお礼だからね。それと俺のことは一刀でいいよ。これからは共に戦う仲間だ。よろしくね」

 

「はい、一刀さん。私のことも流琉と呼んでください」

 

「兄ちゃん、ありがとう!これでまた流琉と一緒にいられるよ」

 

喜びの声と共に季衣が一刀にじゃれついてくる。

 

その季衣をどこか羨むように流琉が見ていた。

 

そんな流琉に気づいた季衣がより一層笑みを浮かべて流琉に言う。

 

「そんなに呼びたいなら流琉も呼べばいいじゃん。邑にいた頃に兄が欲しいって言ってたでしょ?」

 

「ちょっと、季衣!何言ってるの?!」

 

流琉が季衣の暴露に慌て出し、拳を振り上げて季衣を追いかけ始めた。

 

駆け回る2人を暖かく見つめながら、一刀は流琉に向かって声をかける。

 

「流琉も呼びたいのなら構わないぞ?妹分は何人増えても嬉しいもんだしな」

 

ピタッと動きが止まる流琉。

 

数秒固まっていたかと思うと、ゆっくり振り返り、少し照れた状態で俯き加減に、しかし目だけは一刀を見つめる。

 

元々背が低いことと相まって、まさにザ・上目遣いと言った表情で流琉は告げた。

 

「あの、それじゃあ…兄様、って呼んでもいいですか?」

 

「あ、ああ。勿論構わないよ」

 

「ありがとうございます、兄様!」

 

一刀の許可を聞いて流琉は満面の笑みを浮かべた。

 

それ程喜んでくれるとこちらも嬉しいな、と思いつつ、一刀は内心で他のことも考えていた。

 

(及川、スマン!俺が間違っていた。どうやらお前が正しかったようだ…)

 

一体何に対する謝罪なのか。

 

その真意は一刀のみぞ知ることである。

 

 

 

 

 

 

東京某所。

 

「くしゅんっ!あ〜、誰かわいの噂話しとんのかな〜」

 

傍から見れば阿呆なことを抜かしながら、一人の男がPCの前に座って呟いていた。

 

「ん〜!やっぱ妹キャラの上目遣いって最っ高やな!」

 

説明
第十六話の投稿です。

恋姫史上最高の妹(だと思ってます)たるあの子が遂に登場。
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コメント
>>はこざき(仮)様 案外及川は全属性持ってそう……ww(ムカミ)
ここの及川は妹属性か…許せるっ!(はこざき(仮))
>>marumo様 いえいえ、誤字があれば遠慮なく仰ってください。やはり他にも気になる方はいらっしゃると思いますので。今回もありがとうございます、修正いたしました。(ムカミ)
喜びの声と共に季衣が一刀のじゃれついてくる。 「一刀にじゃれついてくる」では?   毎回粗探し見たいになって申し訳ないです(-_-;)楽しく読ませていただいてます(marumo )
>>naku様 一度流琉に潤んだ瞳で上目遣いされてみてください。あなたもすぐにこちらの世界に来れるでしょう… ついでに、某Kさんが一言あるそうです。 K「男が変態で何が悪い!?」(ムカミ)
>>陸奥守様 ご指摘ありがとうございます、修正しました。始まりの外史で「大陸中の女の子を我が物にする」為に覇を唱えようとした人物ですからね。どうしようもない性なんでしょう。(ムカミ)
>>M.N.F.様 変態紳士にとっての正論は経験するまではただの戯言なんでしょうね…(ムカミ)
季衣と再開出来ただけでなく、華琳様に推薦までして頂いて→再会。地味に流琉をロックオンしてたな華琳。つーか全員してるんだろうが。(陸奥守)
及川が正論語ってた・・・だと・・・?(M.N.F.)
>>kyou様 自分の中では流琉と季衣がワンツーフィニッシュなんですよね〜。妹天国、『魏』!w(ムカミ)
>>アルヤ様 まあ、あれですね。よくいる独自の萌え理論を滔々と語るような人物では無いでしょうか。周りは生暖かく見守っている(遠まいている)ようなw (ムカミ)
>>本郷 刃様 自分は流琉にお兄ちゃんって呼ばれたら即座に昇天する自身があります!w(ムカミ)
甲乙つけ難い妹キャラまだまだ沢山いますよねぇ〜……(ぉ(kyou)
一刀の中での及川の扱いってwww(アルヤ)
流琉が恋姫史上最高の妹キャラであることに激しく同意します!(本郷 刃)
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