旅路の果てに、光を求めて-魏史・張遼伝-
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長い旅やった

それこそ、果てが未だに見えないほどに

 

とても・・・長い旅やった

 

何処までも続く、砂の海を越え

古の香り漂う、残骸を跨ぎ

灼熱の太陽に、微かな苦笑い浮かべながら

 

そうして、此処まで歩いてきた

 

何年経ったのかは、もう数えとらん

どれくらい歩いたんか、そんなん覚えとらん

それでも、まだ

 

ウチは、“アンタ”を覚えとるよ

 

 

 

 

「はは、何・・・今そんなこと、考えとるんやろウチ」

 

 

 

暑い

あまりの暑さに、思わず零れ出た言葉

 

ああ、ホンマ何考えとるんやろ

アホらし

体力の無駄やん

 

あぁ、せやけど

 

 

 

 

「なんでかな・・・?

なんか、笑えてくるわ」

 

 

 

 

時間は、残酷や

 

老いていく体

霞んでいく記憶

 

ウチが長い事、苦労して手に入れてきたもんを

時間は、いとも簡単に奪っていく

 

せやけど

せやけど、それでも・・・

 

 

 

 

 

『霞・・・』

 

 

 

 

 

“一刀”

 

アンタのことだけは、いつまでも忘れへんから・・・

 

 

 

 

 

 

 

 

 

≪旅路の果てに、光を求めて-魏史・張遼伝-≫

 

 

 

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ーーー†ーーー

 

「なぁなぁ、一刀

羅馬には、いつ行くん?」

 

 

 

それは、いつやったろうか

まだ乱世も中頃

一刀との約束から、数日後やったと思う

 

城内を歩きながら

ウチは、一刀にそう言ったんや

 

 

「いや、いやいやいや

普通に考えて、乱世が終わってからだろ?」

 

 

そんなウチの言葉

一刀は、やや焦りながらそう言った

 

はは、焦っとる一刀も可愛いわぁ

 

 

「ははは、冗談に決まっとるやん

流石のウチでも、今の状況くらい理解しとるわ」

 

「なら、いいんだけどさ」

 

 

と、一刀

一刀はそれから、ピタリと足を止めた

“どしたん?”と、ウチも足を止める

 

 

 

 

「許されるなら・・・今すぐにでも、行きたいんだけどな」

 

「・・・へ?」

 

 

 

一瞬

本当に一瞬

ウチは、一刀が何を言っとるのかわからんかった

せやからウチは、少し苦笑しながら口を開いたんや

 

 

「一刀、どないしたん?」

 

「い、いや

なんでもない・・・今のは、忘れてくれ」

 

 

“頼む”と、一刀は困ったようにわらっとった

卑怯や

そんな顔されたら、断れんやんか

 

 

「わかった

しゃーないなぁ、一刀は」

 

「ははは、ごめん」

 

 

ウチの言葉

笑う、一刀

 

そんな一刀の背中を叩き、ウチは言ったんや

 

 

 

「ま、その変わり乱世が終ったら期待してるで?」

 

「ああ、そうだな

はは、頑張るよ」

 

 

 

 

あの日

一刀が言った、あの言葉の意味

それがわかったんは結局

 

 

 

あの“約束”が、破られた時やった・・・

 

 

 

 

 

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ーーー†ーーー

 

「は・・・はは・・・」

 

 

なんや、今日はおかしいな

 

なんで

なんでこんなに、昔のことを思い出すんやろうか

 

 

「ほんま、おかしいな・・・」

 

 

 

 

あの日

乱世が終った日

一刀が、天に帰った日

 

ウチの約束が・・・叶わなくなった日

 

ウチは、泣いた

ずっと、泣いた

泣いて泣いて泣いて

 

そんで、やっぱり泣いた

 

この涙が、溜まって、溜まって

いつか、天に届かへんかなって

そんなことを、本気で思うくらい

 

ウチは、泣き続けた

 

それから見あげた空

どっかに、一刀がいるみたいに見えて

また、泣いて

 

酒なんか、飲む暇がないくらい

ウチは、泣いてたんや

 

 

いっそのこと

全部忘れられたら、こんな悲しくないのになぁ

 

せやけど

全部忘れてしまったら、ウチの中にある“大切なモノ”まで失くしてしまう

 

そもそも

全部忘れられるほど、そんなちっぽけな“想い”やない

 

ウチは

ウチにとって、一刀の存在は・・・

 

 

 

 

 

「例えるモノがないくらい

比べるものがないくらい

世界中、どこ探したってないくらい

ウチにとって、唯一無二の・・・愛しい、“光”」

 

 

 

 

“クッ”と、零れる笑い

 

ああ、なんや

今日はホンマ、おかしい

それでいて、久しぶりに心地よい日や

 

 

「ははは、ああホンマ

こんな気分なったん、何年振りやろ?」

 

 

なんて、言ってみても

そもそも自分の年齢すら数えるのを止めとったのに

わかるはずないわな

 

少なくとも、何十年ぶりくらいやろうか?

 

ウチが、魏から出てった日からもきっと

そんくらい、たっとるんやろうな

 

あぁ、そうや

 

それからずっと

ウチは、歩き続けてたんか

 

 

「どうりで、疲れるわけや」

 

 

そうや

ウチは歩き続ける

 

この、砂の海の向こう

この、太陽の下

 

目指すべき場所へ

 

ウチは・・・

 

 

 

「約束を、果たすんや・・・」

 

 

 

 

 

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ーーー†ーーー

 

裏切られたとか

そんなん、思ったことはない

 

だって、わかるもん

簡単やもん

 

あの、一刀やで?

 

約束、守りたかったに決まってるやん

ウチらと離れたいなんて、思ってたわけないやん

 

消えたいなんて、そんなこと思ってたはずないやんか

 

 

 

 

せやから、思ったんや

 

 

ウチは、泣いた

一刀のことを想って、泣いて泣いて泣いて

たっくさん泣いた

 

けど

一刀だって、泣いたはずや

ウチらのことを想って、泣いて泣いて泣いて

たくさん、泣いたはずや

 

だから

そう思ったから

 

ウチは、行かなあかんねん

 

この、砂の海を越えて

この、太陽の下を歩いて

 

伝えにいかな、あかんねん

 

 

 

世界で一番、愛しい光に・・・

 

 

 

 

 

 

「一刀・・・」

 

 

 

 

 

-5ページ-

ーーー†ーーー

 

ふいに

ふと、ホンマ些細な瞬間に

 

ウチは、足を止めとった

 

長い間、歩き続けとった

その足を

 

ウチは、止めとったんや

 

 

 

「あれ、は・・・」

 

 

 

そして、見えた

 

視界の先

この、砂の海の向こう

 

広がる、“見たこともない景色”

 

 

「あぁ・・・やっと、やっと」

 

 

“辿り着いたんや”

 

 

 

 

 

長い旅やった

あぁ、ホンマ

 

とても・・・長い旅やった

 

何処までも続く、砂の海を越え

古の香り漂う、残骸を跨ぎ

灼熱の太陽に、微かな苦笑い浮かべながら

 

そうして、此処まで歩いてきた

 

何年経ったのかは、もう数えとらん

どれくらい歩いたんか、そんなん覚えとらん

それでも、まだ

 

ウチは、“アンタ”を覚えとるよ

 

 

 

「なぁ、一刀

見えとるか・・・ウチら、“約束守ったんやで”」

 

 

 

 

一刀は、いない

いや、それは違う

 

一刀は、確かにいないかもしれへん

 

せやけど、その想いは

その思い出は、記憶は

 

そして、あの“約束”は

 

 

あの日からずっと、“確かに此処に在ったんや”

 

 

 

「やっと、約束・・・」

 

 

 

 

あかん

力が、抜けてまう

そう思った矢先、ウチは其の場に力なく倒れてしまった

 

 

「あぁ、そか

もう、限界か」

 

 

ようもったな、ウチの体

 

正直

あの目の前の景色が、本当に“羅馬”なんか

ウチには、わからへん

 

けど、ええねん

ウチは、もう満足や

 

ホンマもう・・・満足や

 

 

 

「あぁ、なんや・・・心地いいなぁ」

 

 

 

滲む、視界

それでも尚、やっぱ太陽は明るかった

 

 

「こんな、終わりなら

こんな風に終れるなら、はは・・・頑張ったかいあったなぁ」

 

 

悔いはない

やることは、やった

 

あとは

最期に、これだけ

 

これだけは、伝えとかなあかん

 

 

 

「なぁ、一刀・・・」

 

 

 

一刀がいない日々の中で

この長い旅の中で

 

ウチな、気付いたんよ

 

 

 

「一刀は、ウチらの“此処”におる

いつだって、どんな時でも

一刀は、ウチらの“此処”におったんや」

 

 

力なく

叩く、自分の胸

 

 

「そんで、な・・・」

 

 

それから、見つめる先

太陽が、さっきよりも眩しい気がした

 

 

 

 

 

「一刀の中にも、きっと・・・ウチらは、生きとる」

 

 

 

 

 

 

どんなに離れても

どんなに時が経っても

 

 

「せやから、泣かんといて

泣かんで、思いっきり笑ってくれや

笑って、笑って、そんで・・・前を向いて、歩いて行ってほしいねん」

 

 

其処にいる

ウチらは、一刀の傍におる

 

 

 

 

「そんな一刀が、ウチは・・・大好きやねん」

 

 

 

 

ウチはずっと、それが伝えたかったんや

 

 

 

「聞こえた、かな・・・」

 

 

笑い、目を閉じる

 

ああ、なんや

眠くなってきたわ

 

ホンマ、眠い

 

 

「もう、寝るか・・・」

 

 

寝よう

寝てしまおう

 

そんで、夢でも見ようか

 

楽しい夢を

温かい夢を

 

 

一刀

アンタの夢を・・・

 

 

 

 

 

“おやすみ・・・一刀”

 

 

 

 

 

-6ページ-

 

魏において、その名を欠かすことが出来ない存在である将軍

 

張遼文遠

 

“神速”の名をもって恐れられた将軍であるが

彼女のその晩年は、謎に包まれている

 

乱世が終って間もなく、その消息を絶っているからだ

曹操をはじめとする、多くの仲間にも何も言わず

 

忽然と、その姿を消したのである

 

そのあまりに奇妙な行動は、多くの推測を呼び

様々な“伝説”が作り上げられた

 

 

ある者は、“倭国”に渡ったと言い

ある者は、“病死”ではないかと言い

またある者は、実は彼女こそが“天の御遣い”ではないかと言い

 

 

そんな中

最近になって、もっとも有力となった説がある

 

 

 

 

“彼女は羅馬の地において、その生涯を終えたのではないか”と・・・

 

 

 

 

 

ーーーとある、歴史家の論文より

 

 

 

 

-7ページ-

 

 

 

≪霞≫

 

 

 

-8ページ-

ーーー†ーーー

 

「んぁ・・・?」

 

 

目を開けた

瞬間、眩いばかりの光が飛び込んでくる

彼女は思わず、“うぅ”と唸った

 

 

「なんやねん、もう・・・人が気持ちよく寝とるときに」

 

 

などと、言いながら

大きな欠伸を一つ

 

そんな彼女に対し、声の主は苦笑していた

 

 

「それは悪かったな

けど、もうそろそろ帰らないと

こっからなら、今からでも帰るのは夕方になっちゃうし」

 

 

声の主は、若い青年であった

整った顔立ちをしており、とても優しげな目をした青年だ

その青年の言葉に、彼女は“わかった、わかった”と立ち上がった

 

 

「ふぁ・・・しっかし、よぅ寝たわ」

 

 

言って、彼女は体を伸ばす

そんな彼女の傍で

青年は、“あれ?”と声をあげた

 

 

「どないしたん?」

 

「いや、それはこっちのセリフだよ」

 

 

“は?”と、彼女

青年はそんな彼女の頬に触れ、笑みを浮かべ言うのだった

 

 

 

 

 

「なんで、泣いてるの?」

 

「え・・・」

 

 

 

 

言われ、彼女は自身の頬に触れる

そしてようやく、自分が涙を流していることに気付いた

 

 

「う、うわ

なんやねん、コレ」

 

 

“ハズいわぁ”と、彼女

彼女はそれから、涙を拭い苦笑する

 

 

「あぁ、そや

思い出したわ」

 

「思い出した?」

 

 

“うん”と、彼女は微笑んだ

 

 

 

「夢を、見とったんや

長い・・・とても、長い夢を」

 

 

 

“内容は、よく覚えとらんけど”

言って、彼女は笑みを浮かべ

 

そして・・・青年の手を、握った

 

 

 

 

 

「行こうか、“一刀”」

 

「ああ、“霞”」

 

 

 

 

走り出す、2人

 

繋がれた手は、けして離れることなく

繋がった想いは、きっとそのまま

 

2人は、走っていく

 

何処までも

何時までも

 

 

 

 

“長い旅やった

あぁ、ホンマ

 

とても・・・長い旅やった

 

何処までも続く、砂の海を越え

古の香り漂う、残骸を跨ぎ

灼熱の太陽に、微かな苦笑い浮かべながら

 

そうして、此処まで歩いてきた

 

何年経ったのかは、もう数えとらん

どれくらい歩いたんか、そんなん覚えとらん

それでも、まだ

 

ウチは、“アンタ”を覚えとるよ”

 

 

 

 

 

「そんで・・・」

 

 

 

 

 

“まだまだ、ウチの旅は終わらへん

ウチらの旅は、まだまだ続いていく

 

何処までも続く、毎日の中で

大切な人の想いの傍、手を繋いで

温かな太陽に、笑い返しながら

 

そうして、ウチラは歩いていく

 

何年経っても、ずっと一緒に

どんだけ歩いても、離れることなく

 

いつまでも

どこまでも

 

 

ウチは・・・一刀と一緒に、歩いていく”

 

 

 

 

 

「せやろ、一刀っ!」

 

「あぁっ!」

 

 

 

 

 

この、旅路を

温かな、愛しい≪光≫と共に・・・

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

fin♪

 

 

-9ページ-

☆あとがき☆

 

どうも、月千一夜です

 

久し振りの短編

リハビリを兼ねて、もう一作です

 

今回は、かなりシリアス

尻asじゃないです、シリアスです

 

 

次回は、一応≪ハルカナ≫を投稿予定

 

では、またお会いする日まで

説明
どうも、こんばんわ

リハビリ二作目
今回は、比較的シリアスです

次回には、連載ものが投降できそうです

では、とりまお楽しみください
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コメント
悠なるかなさん<安定の、僕ですw (月千一夜)
summonさん<霞さんのイメージを壊さないように書くのは大変でしたw(月千一夜)
観珪さん<盛大ですか?ww(月千一夜)
牛乳魔人さん<ありがとうございますw(月千一夜)
mokiti1976-2010さん<新たなキーワードに加えといてくださいw (月千一夜)
naoさん<お楽しみいただけたようで何よりです(月千一夜)
nakuさん<ホロっとしていただけたなら幸いですw(月千一夜)
せっかく一夜さんの復活ヒャッハーーーーーーー!!!とか思ってたら尻asのせいで一瞬で「なんだぶる夜さんかwww」とか思ったwwww(悠なるかな)
いい話でした!とっても霞さんらしい感じでしたね。(summon)
なんか、すごく霞っぽい話だったです。 しかし尻assとかいう盛大なオチがあるとは思ってなかったww(神余 雛)
いい話だったのに「尻as」が全て持ってっちゃったYO!あと前回書き損ねたのでここで 奥さんの懐妊おめでとうございます(牛乳魔人)
尻as…なんて斬新な響きですこと。それと、とりあえず霞さんお幸せに。(mokiti1976-2010)
ええ話やった!霞の一途な気持ちに感動した!(nao)
一丸さん<ありがとうございますwたまに書かないと、書き方忘れそうでホント恐いっす(月千一夜)
地球ジェット…さん<尻ASSが、やっぱ一番落ち着いて書けます (月千一夜)
うん。シリアスも良いですね。続き物の投稿楽しみにお待ちしています。(一丸)
劉邦柾棟さん<仕事した後に、徹夜して書いた不思議・・・いや、描きだすと止まらないし、仕方ないよね (月千一夜)
月光鳥〜ティマイ〜さん<嘘みたいだろ? これでも、嫁がいるんだぜ(遠い目 (月千一夜)
や〜よかった♪一刀がいなくなってから旅にってのが霞っぽくてイイ♪顔酢もイイけど尻asもイイね♪(地球ジェット…)
霞wwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwww!? 。゚(゚´Д`゚)゚。(劉邦柾棟)
物語にひきこまれたと思ったら、最後のシリアス♂(ウホッ  で台無しだよ!  ぶる夜さんが最近ノンケじゃないと思う今日このごろ。 でもそんなぶる夜さんに痺れる!あこがれるぅ!  アッーーーーー(mighty)
どらさん〈Σ(・□・;)(月千一夜)
尻ASSと書かれると日本語で尻、英語でも尻、なんか大発見したようにも思えます。(どら)
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