楽しく逝こうゼ?
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前書き

 

 

THE・カオスwww

 

 

楽しく逝こうゼ?はTINAMIでしか更新していないwww

 

 

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「らんらんるー♪らんらんるぅぅぅ………HA!!ンッン〜♪今日も俺の呼吸が冴え渡るぅ〜♪」

 

テンションのおかしさ、というか妖しさ爆発状態でハイな歌を歌いながら、油揚げに酢飯を詰めていく。

その行程を繰り返して3つ程稲荷寿司を作ってから、次は金糸卵を混ぜ込んだ炊き込み風酢飯を同じ様に入れていく。

よしよし、出来は上々だな……え?歌のセンスは最悪?放っていてくれよセニョール。

 

「握れ握れ握れ握れいなり♪3分ちょっとで形が御成り♪これさえあれば世界は回り♪あの娘のご機嫌も鰻登り♪俺が繰り出す食の美味さはファイナリィイイ♪」

 

下手な韻を踏みながら即興で適当な歌詞を紡ぎつつ、俺は笑顔で作り上げた稲荷寿司を小さめのタッパーに収める。

食後のデザートにリンゴの兎さんを別の容器に入れれば準備完了。

 

「うし、これでもうバッチリだな……そんじゃ、行ってきまーす」

 

台所を片付けて服を着替えた俺は、2つの弁当箱と水筒をリュックに詰めて家を後にする。

目的地は、懐かしきあの場所、そして俺にとっての最強たる癒しの御許なのだ。

待ち遠しくてウキウキする心を感じつつ、俺は少しばかり雲の通う空へ視線を向けた。

 

「やっとこさ、闇の書事件が終わって、シグナムさんとの試合も終わった……長かったぜ……漸く落ち着いた日常にカムバックしたってモンよ」

 

ここんところの忙しさを思い出しながら、俺は万感の思いを胸に神社を目指して歩を進める。

久遠の奴元気にしてっかなぁ……最近会えなかったから寂しがってたりしてくれたりしたら嬉しいぜ。

 

 

 

……え?もうカメラ回ってる?マジ?……あ〜、ん、ん!!

 

 

 

HELLO紳士淑女の諸君、淑女の皆さん、会いたかったぜ(キラッ)野郎共はまぁ……うん、お久。

今日はシグナムさんとの試合、そしてリインちゃんMWS事件(もっと私を知って欲しい?)から2週間程経った休みの日であ〜る。

え?今更遅い?細けぇ事は気にすんなって、あんま気にしすぎっとハゲるぞ?

 

 

 

いやはや、あの試合の次の日は始業式ですよ?もう全身がダルくって仕方無かった。

まぁあの試合ならぬ殲滅戦の後でリインは謝ってたし、その辺については言及する気はござんせんがね?

え?フェイトとアルフに何もされなかったかって?……何故か目が醒めた時、同じベットの中で寝てたのはビビッたぐらいだな。

そんで何故かリインはと言うと、ベットの傍にある椅子に腰掛けながら、フェイトとアルフ(子供モード)を羨ましそうに見てらっしゃいました。

うん、もうね?何が何やら理解不能理解不能理解不能ぉおお!?って心境だったなホント。

あまりの状況にポカンと呆けた顔をしてた俺だったが、俺が起きた段階でフェイトとアルフも起きてくれたので状況説明を頼んだ。

ちょっと眠そうに目を擦りながらフェイトが言うには、俺はリインスペシャルのSLBを喰らって気絶したらしい。

まぁあの規模のSLBなんか生身で喰らったら気絶するわな、っていうか良く生きてたな俺。

フェイトとアルフは最初、俺がシグナムさんにエロい事したって事でかなり怒ってたらしいが、俺がベットに運ばれた時にプレシアさんにある事を言われたそうだ。

そのある事ってなんぞ?と聞いてみると、フェイトは恥ずかしそうに顔を赤らめながらあぅあぅ言うだけでダメでした♪

ならばとアルフに聞けばプレシアさん曰く『今ならゼン君と好きなだけ添い寝出来ちゃうわよ♪怒るよりもそっちの方が良いでしょ?』と提案されたそうな。

前に1度フェイト達と寝た事はあったが、そん時は別々の布団で寝た(途中引っ付いてきたアルフは例外だが)から、今回は一緒の布団で寝たいと欲求に負けたらしい。

顔から蒸気を吹きつつゴニョゴニョと呟くフェイトと、嬉しそうに笑ってたアルフを見て、まぁいっかって気持ちになったぞ。

ちなみにリインが椅子に座ってたのは、今回俺を気絶させた罰と、リイン自身が俺に謝りたかったかららしい。

「や、やりすぎてすまない」と必死な表情で謝ってくるリインを見て、俺が申し訳無い気持ちになっちまいましたよ。

まぁリインを責めるつもりは一切無かったから笑って許した。

だがなのはとはやて、テメエ等はダメだ。何時か必ずリベンジしちゃる、鼻から牛乳飲ませてやるッス。

 

 

 

まぁ以上が、あの日の後に起こった出来事の纏めってワケだよ諸君。

……え?フェイト達とはその後どうしたって?……リイン(子供vre)も交えて3人で仲良く寝たとだけ言っておこう。

いやだってさ?((山吹色の波紋|サンライトイエローオーバードライヴ))使った後だったから筋肉痛がマッハだったんだよ。

動きたくとも動けないあの地獄……まぁ最終的にリインが治癒魔法掛けてくれたから大分楽にゃなったが。

それと、3方向が可愛い女の子達に囲まれてとても、ディ・モールト気持ちえがったぜ。

結局その日は俺等4人でアースラのベットを借りて寝てしまい、帰りが夜になっちまいはしたけどな。

んで次の日、つまり学校の始業式の事だが、アリサが律儀に約束を守って語尾にニャンをつけて喋ってくれたのには思わず吹いちゃったぜ♪

だって出会い頭に『お、おはようニャン』って真っ赤な顔で喋りかけて来たんだぞ?

そりゃ爆笑もしたくなるってアミーゴ。

まぁその後もれなく真っ赤なお顔のアリサさんから竜巻旋風脚を喰らったけどな……アリサってストファーなのか?

と、今日までの出来事を思い返してる内に大分歩いた様で、俺は目的の神社の石段前に来ていた。

後はこの階段を上がるだけで、あのマイナスイオン溢れる久遠に会う事が出来る。

そう考えると自然に頬が緩んでしまう。

 

「へっへっへ……今日は今まで会えなかった分、たっぷりと俺の疲れきった心を癒してもらうぜぇ……毛繕いして待っててくれよぉ久遠」

 

階段の上に聳える神社に視線を向けながら、俺は手持ちの装備を確認していく。

 

弁当、良し。

 

水筒、良し。

 

久遠に飯と飲み物を分けてやる紙小皿、良し。

 

久遠を愛でる為だけに開発、修行、習得した『癒しの波紋』、良し。

 

装備に抜かりは無え、そして波紋の呼吸も問題無し。

時間はまだ昼をちょっと過ぎたぐらいだから、門限ギリギリまで久遠と戯れる事が可能。

 

「いざゆかんッ!!我が心の((理想郷|アルカディア))へッ!!コォオォォォ、波紋を篭めての全力ダッシュウゥゥゥッ!!!」

 

もはや階段を一段づつ上っていくのも億劫だったので、ここから足に波紋を使って階段を駆け上がる。

そのスピードは大の大人でも簡単にブチ抜く程のスピードなので、俺は僅か1分足らずで全ての階段を上りきれた。

まぁそれだけ俺の久遠を愛でたいっていう情熱が強いって事さ♪久遠マジ天使。

最後の段に足を掛けてから更に力を篭め、俺は空中に飛び上がる。

 

「とぉうッ!!ヒラリと着地ッ!!遣って参りましたぜ我が癒しの桃源郷へとぉおおッ!!!」

 

テンションが天元突破しそうな勢いを言葉に乗せて叫びつつ、俺は満面の笑顔で神社の境内を見渡す。

ココは山の中に建てられているが、そこまで奥深くにあるワケでも無い絶妙な土地だ。

だから緑が少なすぎず、空も良く見える絶好の景色が見えるスポットでもある、冬は葉っぱねぇけど。

だというのに何でかは知らねえが、この神社はあんまり人が寄り付かない。

まぁだからこそ、俺は何の憂いも無く存分に久遠を愛でる事が出来るってワケだが。

 

「久遠ッ!!くおーーんッ!!何処に居るんだーーッ!?橘さんトコの禅ちゃんが遊びに来たぜーーッ!!」

 

とりあえず視界の中には久遠を見つけられなかったので、少しばかり声を張り上げて境内に呼びかけてみる。

少しばかり山間に作られた造りの所為なのか、俺の声は小さく木霊して森の方まで響くが……。

 

 

 

シーーン。

 

 

 

森からも神社からもまるで反応が返ってこず、辺りに響くのは小さな風の音だけだった。

あれ?おっかしいなぁ……いつもなら俺が呼んだら直ぐに嬉しそうな鳴き声を出しながら駆け寄ってきてくれてたのに。

もしかして昼寝中だったり?そんじゃあもう一回……。

 

「スゥ……くおーーーんッ!!遊びに来たぜーーーッ!!出てこぉーーいッ!!」

 

今度はさっきよりも大きめの声で呼びかけてみる。

再び俺の声が森に木霊するが、やはり久遠は姿を現さなかった。

 

「んー?……こりゃもしかして、街にでも出てんのかなアイツ?」

 

幾ら呼んでも返事が無かった、というか姿を現してくれない久遠。

実を言うと久遠は結構な人見知り屋なのだが、冒険心というか好奇心が強くて、偶に街を散歩してたりもする。

しかも飼い主である那美さんとではなく、一匹で行く事も珍しく無い。

これだけ呼んでも出てこないって事は多分散歩にでも行ってしまったんだろう。

なんてこったい。肝心の久遠が居なきゃ俺の丹精篭めた弁当が食べてもらえないじゃねぇッスか。

っていうか久遠をモフれない=俺の癒しタイムがパー=無駄足ご苦労さんってワケですかコンチクショー。

俺はダルさから肩を落としてがっくりしてしまう。

 

「居ねぇんなら仕方ねぇか……出直すとすっか……ハァ」

 

とにかく、久遠がココに居ねぇなら居てもしょうがねぇし、休日に1人寂しく神社に居るのもアホらしいわ。

よし、クラスの男子とPSPのMMK(モンスター娘を狩りまくれ)で遊ぼう、狩りまくっちゃる。

 

「……くぅー」

 

と、俺が踵を返して神社から出ようと階段に向かおうとしたその時、俺の背後から心に響くふわっとした鳴き声が聞こえてきた。

こ、この胸にキュンとくる癒しボイスはもしやッ!?

慌てて足を止めてからもう1度神社の境内へと体を戻した俺の視界の先に、求めていた相手が入り込んでくる。

 

「……くぅん」

 

「く、久遠……」

 

俺の視界の先、神社の開けた床下の部分から、俺を窺う様に姿を現した久遠。

その姿は、俺が求めていた姿そのままでとてもチャーミングなままだ。

一見モコモコとしている様に見える体は、実は触り心地がグンバツの毛に覆われてるだけで、本当はかなり華奢なモノ。

まるでこの世全ての愛くるしさを詰めこんだと思わせるキュートな顔。

そして今俺をジッと捉えている、見る者に癒しと心の平穏を映すくりっとした可愛らしい瞳。

一鳴きすれば聞いた者の憂鬱な気持ちはフッ飛び、抱きかかえて撫でれば幸せな気持ちで満たされる。

あぁ、間違い無く久遠だ……あのチャーミングな姿と鳴き声は間違い様が無え。

 

「……すぅ……会いたかったぞ、くおーーんッ!!(ダッ!!)」

 

「ッ!?くぅー!!(ダッ!!)」

 

まるで10年ぶりの恋人に会う様な気持ちにさせられて、俺は久遠に向かって手を差し伸ばしたまま駆け寄っていく。

それを見た久遠も嬉しそうな鳴き声を挙げながら俺に向かって走りだした。

互いに嬉しそうな表情を浮かべて走り寄る狐と少年。

もしこれが漫画ならキラキラとしたエフェクトが掛かってる事間違い無しだろう。

待ち侘びたぞこの瞬間を……ッ!!さぁ久遠!!俺の胸に飛び込んでおいで、マイスゥイートベイビーッ!!

今日は今まで遊べなかった分、タップリとモフモフさせてもらうぜぇええッ!!

そして、俺達の距離が狭まり、もう直ぐ久遠が俺の傍に来るというタイミングで、久遠はその小さな体をピョンと軽やかに空中に踊り出した。

 

「くぅーーーッ♪(ピョーーンッ!!!)」

 

「うおっとととッ!?(ボフッ)久しぶりだな久遠、俺はもうお前に会いたくてしょうがなかったぜ〜♪(ナデナデ)」

 

「くぅ〜ん♪くぅ〜〜ん♪(スリスリ)」

 

飛び込んできた久遠を優しくキャッチしてやると、久遠は甘える様な鳴き声を出しながら俺の胸元でコロコロと小さく身動ぎし始める。

そしてご満悦したのか、今度は俺に凭れ掛かったまま首元や胸の辺りをスンスンと鼻を鳴らしながら匂いを嗅いでくるではないか。

そんな久遠の動き、そして匂いや毛のモフモフ感を堪能しながら、俺は胸元の久遠を万感の思いを篭めて撫で回す。

あぁ〜……究極にやさぐれたハートが癒やされるうぅ、やっぱり久遠は俺にとって最高の癒やしだな。

 

「く?……スンスン……く、くぅーーッ!!!(ジタバタ)」

 

「おぉおッ!?ど、どうしたんだよ久遠ッ!?何をいきなり暴れてんだッ!?」

 

「くぅーーーッ!!!(ジタバタ)」

 

ところがどっこい、俺が久遠の柔らかな毛並みを堪能していたというのに、いきなり久遠は俺の腕の中で暴れ出した。

その動きに戸惑って腕の力を緩めると、久遠はピョンと飛び跳ねて俺の腕から逃げ出して地面に着地する。

しかも何やら俺の事を非難する様な目つきでジーッと睨んでいる(目つきが優しいので全く怖くない)。

え?何?一体何なのさこの展開?オカシイナー?俺の頭ン中じゃ今は久遠に癒やしの波紋を使ってる筈ナンダケドナ―?

そんで門限いっぱいまでたっぷりと久遠を愛でてる筈……お、俺のこの予知はッ!!絶対にこれから起こる『真実』なんだッ!!

俺のキング・クリムゾンが指し示した勝利の予知の筈なんだよッ!!だからこっから久遠が俺に向かって再度飛び込んでく……ッ!!

 

「クンクン、クンクン…………くッ!!(プイッ)」

 

「がーん」

 

どうやら俺の予知は何処ぞの誰かによって無かった事にされたらしい。

さっきまで俺に甘えていた久遠は鼻をスンスンさせたかと思えば、今度は思いっ切り首をプイッと外に向けてしまったのだ。

余りのショックから口でがーんとかバカみてーな事言って地面に膝を着いてしまったよい……。

しかしそんな俺の情けない様にすら久遠は見向きもせず、久遠は相変わらずそっぽを向いている。

擬音にすれば「つーん」って感じだ。

ってちょっと待ってくれベイビーッ!?な、何がそんなに気に入らねぇってんだよマジで!?

さ、さっきまであんなに嬉しそうに俺に抱かれてたってのに、少し匂いを嗅いだと思ったら急に離れちまっ……ん?匂い?

 

「ま、まさかッ!?」

 

かなり最悪の予想が俺の頭の中で立った瞬間、俺は急いで弁当と水筒の入った手提げカバンを神社中央の階段の部分に置き、自分の服に顔を近づけて匂いを嗅いだ。

何時も以上に真剣に、且つ念入りに匂いを嗅いでみるも、洗剤の匂い以外は特に変わった匂いはしない。

自分の体の匂いだって変じゃねぇ。

しかし俺はこれに似たある事実を良〜く、それこそ身に染みて理解しているのだ。

 

 

 

そう、俺が半年振りに『アイツ』と再会した時……俺はあの時も洗濯したての服を着ていたのです。

 

 

 

なのに……。

 

 

 

『ッ!?……良くもまぁそんなことが言えたもんだねっ!?

 じゃあアンタに染み付いてるそのあたし以外の雌の匂いはなんなのさっ!?

 ここにいてもプンップン匂うよっ!!イヤラシイ雌の匂いがねッ!!

 あたしがいないのをいい事に別の雌と遊び回ってたんじゃないかッ!!

 あ、あたしが…ゼンに会いたくて、会いたくて必死に…が…頑張ってる、時に……ひっぐ……

 …アンタは…ぐすっ……他の雌とイチャイチャしてたんだぁッ!!うわぁあっぁぁぁんっ!!!』

 

 

 

ガブガブと体中を噛まれてボロ雑巾にされた後でそんな事を言われた、あのクッソ苦い記憶がフラッシュバック。

脳裏に過ぎったそれが、俺の心に今の状況を裏付ける確信を持たせてくれた。

 

 

 

久遠は、俺に染み付いたアルフの匂いを嗅ぎとっちまったんだッ!!?

 

 

 

本来動物の嗅覚ってのは人間とは比べ物にならねーぐらいの鋭さを持ってる。

勿論それは久遠にも言える事だし、この状況から見ても久遠は俺の体に染み付いたアルフの匂いに過敏に反応したんだろう。

そ、そういえば俺がフェイトやアルフ達と一度お別れした日も、久遠は俺の体に自分の体を擦りつけて……ありゃ匂いを上書きしてたのかッ!?

アルフも俺が久遠と会った次の日とか、最長で1周間経ってたってのに鼻を鳴らした瞬間ガブガブと噛み付いてきてたな……。

えっと、コレってつまり……久遠とアルフで縄張り争いしてたって事だよな?

アルフは疑う余地も無く女の子だし、久遠も雌……あ、あれ?俺ってもしかしなくても久遠に浮気したと思われてる?

もし、久遠がアルフ並に嗅覚が鋭いってんなら、俺の喉元をあんだけペロペロされた匂いなんか筒抜けって事だ。

結論。今の俺は久遠に『浮気してから何食わぬ顔で帰ってきた亭主ポジ』と認識されてまんねん。

 

「ち、ちち、違うぞ久遠ッ!?こ、この匂いは別にややややま、疚しい事してきたとかじゃねぇからなッ!?」

 

「……くー(ジト目)」

 

もし久遠が人間なら「堂々とウソ吐いて恥ずかしくないの?」とか言ってそうな目で見られたぜ、くそぅ。

っていうか多分言ってると思うぞコレ。

今までもアルフを抱っこした後で久遠に会ったら、何か必死な感じで体を擦りつけてきたけどよぉ……それすらも無しですか。

何故に俺は自由に動物を愛でる事すら出来ねーんでしょうか?何かの呪い?

と、とにかく今は目の前の問題を片付けてしまわねーと……。

 

「あー、そのよ?俺の新しい友達がワンちゃんを飼っててだな?その子と遊んでたからその匂いが付いちまってるのかと思う、って待て待て待て待てぃ!?森に帰ろうとしないでお願いだからッ!?」

 

「……くぅ(ウルウル)」

 

俺の言い分すら途中で切り上げて森へ帰ろうとする久遠の前に回りこんで、行く手をディフェンスする俺。

そんな俺に対して「他の子の方が良いんでしょ?……飽きちゃったんだよね?」みたいな感じで訴えてくる久遠のつぶらな瞳攻撃。

ぐばぎゃッ!!?む、胸に言い知れぬ罪悪感が立ち昇りやがるぅうぅうッ!!?

だ、だがしかしッ!!ここで久遠を帰したらまず間違いなく、二度と俺の前には姿を見せちゃくれねぇだろう。

何せ俺を非難する様な眼差しの7割は、悲しみに彩られてるのが良くわかるんですもの。

故にッ!!ここで引くは俺の癒やしを失う事に他ならないッ!!なればココで踏ん張らなくて何処で踏ん張るってんだよッ!!

 

「ほ、ほらッ!!今日は今まで会いに来れなかった分の詫びも含めて、久遠の大好きな稲荷寿司握って来たんだぜッ!!しかも普通のお稲荷さんと炊き込みご飯を混ぜたお稲荷さんのトゥーバリエーションだッ!!これこそ、俺がちゃんと久遠の事を考えてた証拠に他ならねぇッ!!」

 

兎に角何が何でも久遠の気を引こうと考えた俺は、急いで鞄から作ってきた稲荷寿司を取り出して久遠に見せてみた。

この寒い時期に稲荷寿司ってのも可笑しな話しだが、敢えて久遠の大好物を持って来てご機嫌を取ろうって作戦よッ!!

最初那美さんに久遠の好物聞いた時は狐が稲荷寿司が好きってどうよ?なんて焦ったが、今は聞いといて良かったと思える。

 

「くぅッ!?…………く、くぅ〜〜♪(パタパタ)」

 

そして俺の目論見は功を奏し、久遠は先程までの悲しそうな鳴き声から一転してとても嬉しそうな鳴き声を挙げた。

何故かその鳴き声が「しょ、しょうがないなぁ♪」と聞こえたのは幻聴じゃ無いと思う。

シュンとしょげかえっていた尻尾をパタパタと左右に振りながら、俺の周りをクルクルと回っている。

よ、良しッ!!まだ天は俺を見捨てて無かったぁああッ!!!

久遠の食い付きが好感触だと分かった瞬間、俺は鞄から紙皿と箸を取り出して紙皿の上に稲荷寿司を2つ乗せて、神社の階段の上に置いた。

更にもう一枚の紙皿に、水筒に入れてきた温かいお茶を入れれば、久遠の為の食事準備完了だ。

そうやって俺が食事準備をしている間に、久遠はそそくさと自分の紙皿の前に移動しお座りして待っている。

視線は完全にお稲荷さんに固定されてて、俺の良しが出るのを今か今かと待っていた。

ふうぅ〜……やれやれだぜ……一時はどうなる事かと思ったが、どうにか久遠に機嫌を治して貰えたようだな。

だが、まだ完全に許してもらったと油断しちゃいけねえ……兎に角、今はこの愛らしい久遠と飯を食おう。

俺は久遠の現金な様子に苦笑しながら、自分の分を久遠の側に置いて俺も階段に腰掛ける。

 

「さて……そんじゃあ食おうぜ、久遠……いただきます」

 

「くぉん♪」

 

俺が手を合わせて挨拶すると、久遠もソレに同調して一鳴きし、目の前の稲荷寿司に口を付け始める。

モフモフとその小さな口で頬張って口を膨らませた久遠は目を細めていて、人間で言うなら笑顔になっていた。

もうその笑顔だけでほっこりした気分が味わえてくるが……今回の本命はそれじゃねぇ。

止むを得ない諸事情があって使っちまったが、本来は久遠の為に習得したあの波紋……使う時は今日しかねぇ。

そんな事を考えながら俺も自分の弁当を食べ、最後に温かいお茶を啜って久遠と一緒に一息吐く。

 

「ふぅ……ごちそうさまでしたっと」

 

「くぉ〜ん♪」

 

今回の弁当もご満悦だった様で、久遠は満足そうな表情を浮かべながら俺の隣で上機嫌に声を出してくれた。

チ、チャ〜ンス……このままリラックスしてる久遠を何気なく抱き上げ様と手を伸ばし……。

 

「……くぅ♪(ヒョイッ)」

 

「お?お、おぉ?」

 

しかし俺が抱き上げようとしたその時、何と久遠の方から俺のあぐらの間に乗り込んできてくれたのだ。

その突然な変わり身の速さに驚くも、久遠は俺の膝の間から更に詰め寄って……。

 

「くぅ、くぅ(ゴソゴソ)」

 

「お、おい久遠?一体どうしたってんだ?」

 

「くー♪(ゴソゴソ)」

 

久遠の行動の意味が判らず声を掛けるが、久遠はそれに楽しそうな鳴き声を返すだけで、俺のトレーナーと中のシャツを口で噛んで引っ張っている。

ワケが分からずそのまま行動させてみると、やがて俺のトレーナーと肌に隙間が出来て1月の肌寒い空気が俺の肌を冷やす。

うへぇ、今日は雪が降ってねぇけど、やっぱ寒くて叶わねぇや。

と、肌を冷やす寒さにブルリと体を震わす俺のトレーナーの中に、何やらモコモコした感触の物体が滑りこんできた。

いやまぁそれは言うまでも無く……。

 

「くぅ〜〜ん♪」

 

久遠ちゃんしかあるめぇ。

 

「……いやいやいや、お前俺のシャツの中に入って何してんの?」

 

俺のシャツを引っ張ってた久遠ちゃんなんですがね?何故にWHY?

どうしてかは知らんが、久遠は俺のトレーナーの中に入り込んで俺の肌に体をゴシゴシと擦りつけ始めたのだ。

おぅふ。モコモコの毛が体に擦れてるからくすぐったくも気持ち良いッス。

 

「くぅ〜……(ポンッ)く♪」

 

「え?外に出るんじゃなくてそっから出てくんの?いや、まぁ可愛いけどよ」

 

一頻り俺の体にスリスリしてご満悦したのか、何故か久遠はトレーナーの首元から顔と前足だけチョコンと出して満足そうに鳴いた。

あぁチクショウ、何やっても癒してくれんじゃねぇか〜この子狐ちゃんはよぉ〜。

 

「く?……くー♪くー♪(ペロペロ)」

 

「ぬおう?こ、こら久遠、くすぐってぇよ〜」

 

「くぅ♪(ペロペロ)」

 

「のははっ。や、止めろってコイツー♪(ナデナデ)」

 

「くーーー♪(ペロペロペロペロペロペロ)」

 

俺の声に反応した久遠は体を俺と向かい合う形に動かし、俺の首回りをペロペロと舐め始めた。

何この子?むっちゃくちゃ可愛いんですけど?持ち帰って家の子にしちゃいたい……直ぐに足が付きそうだから自重しよう。

いきなり首辺りを舐められてビビりはしたが、まぁ久遠のしたい様にさせときますか。

柔らかく止めろと注意するも、久遠は知ったこっちゃないとばかりにペロペロすんのを止めない。

俺も言葉では注意しつつも別に嫌ってワケじゃねぇから、口では言いつつも久遠の頭を優しく撫でていた。

だって久遠は可愛い過ぎるから、ついつい許しちまうのさ(キリッ)まぁ久遠に対して怒るなんて事は出来ません、というよりしねぇ。

良し、ここでいっちょ畳み掛けますかね。

 

「なぁ久遠?ちょいと面白えモノを見せてやろーか?きっと気に入ると思うぜ?」

 

「……?」

 

「へへ……コオォォォォ……((波紋疾走|オーバードライヴ))(ギュオォォォッ)」

 

俺の言葉に可愛らしく首を傾げる久遠に微笑みながら、俺は波紋の呼吸を始めて体に波紋エネルギーを蓄積させる。

その余波ともいうべき力が、((青緑|ターコイズブルー))の光を迸らせながら俺の体から沸き上がってきた。

 

「くぅッ!?」

 

俺の体から光が立ち昇ってくる光景に、久遠はビックリした様な鳴き声をあげていた。

まぁ今まで久遠にはスタンドも波紋も見せた事が無えから驚いてんだろう。

俺の波紋にビックリしてる久遠を放置して、俺は手の平に癒やしの波紋を集中させる。

但し今までと違って、波紋の力は極弱、振れられても暖かい気持ちになれる程度のモノだ。

ん?何で全力じゃねぇかって?……こんな可愛らしい久遠に強い波紋なんて浴びせられるわきゃ無いでしょJK。

今回はアルフにした時の様な強い刺激での暴れ止めでも、シグナムさんにした悪戯目的でもねぇ。

純粋に久遠に夢心地な気分を味わせてやりてぇんだよ。

さぁ久遠、俺がお前の為に編み出したこの波紋……心ゆくまで味わってくれ。

最近の多忙さに巻き込まれて、明日こそは明日こそはと久遠に波紋を使う日をずっと先延ばしにしてきた俺。

お袋は俺の「あ、明日……やってやらあ」って独り言を聞いた時に、「あんたの言う明日って何時の明日よ?」って聞いてきてたけどよぉ……。

 

 

 

母ちゃんッ!!((あした|・・・))って((いまさ|・・・))ッ!!!

 

 

 

俺が波紋を帯びた手をゆっくりと久遠に近づけると、久遠は最初少しビビッていたが俺の事を信用してくれたんだろう。

手が触れそうな直前になって、キュッと目を瞑ったまま俺の手を受け入れてくれた。

そこから、ゆっくり、ゆぅっくりと、久遠を脅かさない様に撫でていくと……。

 

「…………きゅぅ〜?」

 

あのクリッとしてつぶらな久遠の目が、とろ〜んと蕩けたモノになって、鳴き声まで蕩けてたッス。

おぉ〜し、どうやら受け入れてもらえた様だな。

 

「へへっ。お前にもっとリラックスしてもらいたくてなぁ……まっ、そんだけ寛いだ表情を見せてくれたんならよぉ。俺も苦労してこの波紋を習得した甲斐があったってなモンだぜ(ナデナデ)」

 

「きゅうん?……くぅ〜〜?」

 

「って聞いちゃいねぇか……いや、それ以前に俺の言葉が分かる筈もねぇよな」

 

そう1人ごちて、俺はグデ〜っと凭れてくる久遠の頭をゆっくりと撫でていく。

幾ら久遠が普通の動物より賢くても、俺の言葉の全部を理解出来てるとは思ってない。

それは結局人間並みの知識が無いと無理だし、例外があるとすりゃアルフとかザフィーラの様な使い魔だけだろう。

そこら辺はちょいと寂しくもあるが……まぁ今は余計な事は考えず、この可愛さと愛らしさの権化たる久遠をたっぷりと可愛がってあげるか。

俺の服の中で目を閉じたままうにゅうにゅと弱く動いてる久遠の頭をゆっくりと撫で、俺はココ最近のストレスを消す事に専念した。

 

「……くぅ(ウトウト)」

 

暫くそうしていると心地よすぎて眠くなってきたのか、久遠の動きが殆ど無くなっていた。

なので、俺は空いた片方の手で服の中に居る久遠のお尻を支えて赤ん坊を抱っこする様な形を取ってあげる。

更にトレーナーの中に居るので、久遠は現在ハンモックの様な状態で俺の服に凭れかかっているから落ちたりする事は無い。

 

「眠いか久遠?眠かったら無理せず寝てな。ちゃんとお前が起きるまで抱っこしててやっからよ」

 

かなり眠そうにしてるが、それを我慢して起きようとする久遠に言葉を掛けつつ、俺は撫でる手を止めない。

ぶっちゃけ久遠の寝てる姿だけでもご飯3杯はイケ、げふんげふんっ。癒されるからな。

と、俺の言葉を理解してくれたのか、久遠は目尻を下げた瞳で俺を見ると……。

 

「……く?(チュッ)」

 

「……へ?」

 

自分の口を俺の口に軽く押し当てて、そのまま俺の肩にポテンと首を寝転がせた。

しかもそのままくーくーと寝息を立て始めるではないか。

あれ?今俺って……久遠にキスされた?

記憶を確認してみよう。

 

軽く見詰め合う。

口と口の部分を押し当てる。

誰がどう見てもキッスですどうも有難うございます。

別にムーディーブルースが無くても分かるわな、こんな事。

い、いやでもだぜ?久遠は動物だし、そんな大それた意味合いは絶対無いだろう。

多分鼻先を擦らせようとして口が当たっちゃっただけだそうに違いない。

 

 

 

 

 

そうさ、久遠にアルフ達みてーな人間に近い感情なんてあるワケ――――。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――――いつも――――ありがとう――――大好き?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「――え?」

 

自分の中で完結しようとしてた感情を真っ向から否定するかの様なタイミングで、俺の頭に直接響き渡る声。

それは今まで聞いた事の無い、少女の様でもあり女性の様でもある声だった。

久遠を起こさない様にゆっくりと回りを見渡してみるが、この神社には俺と久遠の他に誰も居ない筈。

その証拠に俺の視界には誰も映らず、聞こえてくるのは風の音だけだ。

ちょっと待て……さっきの声は間違い無く俺の頭の中に直接響いてきた……魔法の念話?

いや、それはありえねぇ。リンディさんに検査してもらった時に俺にはリンカーコアが無いのは確認済みだ。

って事はだ、あの声は魔法でも念話でもねぇ……もっと別の『何か』って事になる。

 

「まさか――――」

 

俺は自分の胸元を見下ろして、そこでスヤスヤと寝息を立てている愛らしい狐に目を向けた。

何でそう思ったか、理由はねぇ。

けど、何でかは知らねーけど、俺にはもしかしたらって思いがあった。

俺に語り掛けてきたのはひょっとしたら――――。

 

 

 

 

 

「――久遠、お前な「―――んのぉ」の……ん?」

 

もしかしたらと言う予想を口にしようとした所で、突如聞こえた更に別の声。

そちらに視線を向ければ、何故か俺の視界いっぱいに広がる橙色の塊。

え?ちょっとまっ……。

 

 

 

 

 

「浮気者ぉーーーーーーーーーーーーーーーーーーッ!!!(ドグチャァアッ!!!)」

 

アルフは ロケットずつきを つかった!

 

こうかは ばつぐんだ!

 

ゼンに 450の ダメージ!

 

 

 

 

 

なんか妙なテロップが流れたぞ。

 

次に訪れたのは、俺の鼻っ柱に伝わるトンデモねぇ激痛、そしてグチャリという鳴っちゃいけねぇ嫌な音。

アレだ、トマトが潰れたっぽいヤツ、潰れたのは俺っちの鼻だけどな、うん。

更に、俺を沈めんと突撃してきたアルフの怒りに満ちた慟哭の叫びだった。

ってかオイ誰だアルフにロケット頭突きなんてデンジャー極まりない技覚えさせたのは?

わざマシン40号を作ったのはプレシアさんか?さすがオ○キド博士に並ぶ天才だぜ。

 

「くぅッ!?く、くーーーーッ!!?」

 

薄れゆく意識の中、頭の片隅でそんな事を考えていた俺は悲鳴も挙げずにドサリと神社の階段の上に倒れ伏した。

ヤヴァイ、鼻血がドクドク出て止まらん……色んな意味で堪らん。

そして今のアルフの声で飛び起きたであろう久遠は、悲鳴に近い鳴き声を挙げて俺の胸元から這い出ると俺の頭に近づいてきた。

そのまま久遠は前足を俺の頭に乗せると、片方の足で俺の額をペシペシと叩いてくる。

あぁ……久遠、心配してくれてんだな……でもワリィ、もう何か良い感じに眠くなっ……。

 

「くぅーーーーーーッ!!!?(ペシペシペシペシペシペシペシペシペシペシッ!!)」

 

「痛てててててッ!?や、止めろって久遠お前爪が出てる出てる出てるぅぅぅううッ!!?」

 

ゆっくりと目を閉じて微睡みの中にダイビングしようとした俺に、久遠は両足の手で渾身のラッシュをお見舞いしてきた。

しかも興奮し過ぎて普段は仕舞ってる爪が出てるという攻撃オプション付き。

これじゃ引っ掻かれてるのと大差ねぇよマジで。

その久遠`Sラッシュの雨に曝された俺は堪らず飛び起き、微睡みからの強制帰還を果たしてしまった。

 

「く……くぅ〜」

 

元気良く起き上がった俺を見て安心したのか、久遠はホッとした様な鳴き声を挙げて俺を見上げてる。

久遠ちゃんのラッシュのお陰で僕チンの額が傷だらけナンデスケド―?

ま、まぁこんな風に必死になられちゃ、怒る事なんざ出来ねえか……っていうか久遠に怒るとか無理です。

ってあれ?そういや俺さっき、久遠の事で重大な何かを考えていた気が……何だっけ?

今の衝撃ですっぽりと頭から抜けちまった大事な事に考えを巡らそうと唸る俺だったが……。

 

「ゼェ〜〜ン〜〜ッ!!?」

 

「んぁ?……ゲェッ!?アルフゥッ!?」

 

ジャーンジャーンとか鳴ってそうなオーラを引っ提げて子犬なアルフ登場。

もはや考え事どころじゃ無くなっちまったい。

 

「偶々、1人で散歩してたら、アンタが妙に嬉しそうな顔してどっか行くからそのまま後を尾けてみれば……まさか堂々と浮気しに行く処だったなんてねぇ〜ッ!!」

 

「いや待て待てッ!?う、浮気ってお前、そもそも俺達そーゆう関係じゃねーだろーがッ!?」

 

「そんな事はどうでも良いんだよッ!!このどーしようもない助平ッ!!」

 

「良くねぇッ!?そこ一番重要なトコだぜッ!?っていうか助平とか言うなッ!!俺だって傷つくんだぞッ!?」

 

付き合ってねぇのに浮気が成立するとかどんな関係よソレ?

俺のツッコミも意に介さず、アルフは怒りに染まった顔で久遠にキツイ視線を浴びせる。

オー、ノー……これが噂に聞くシュ・ラーバってヤツかよ。

そんな事を考えて現実逃避してると、アルフは俺の傍にお座りしてる久遠にキッと強い視線を向けて口を開いた。

 

「アンタが久遠とかいう雌狐だねッ!!この際だから言っとくけど、耳の穴かっぽじってよーく聞きなッ!!ゼンはア・タ・シの雄だッ!!人様の雄に色気づくんじゃないよッ!!」

 

待てぃ、俺は別に誰のモンでもねぇよ。俺は世の中の可愛い娘や綺麗なお姉様のモンだ(キリッ)

心の中でそう考えたら、アルフからキッとした鋭い視線が飛んできた。

お願いだから人の心読まないで下さい。

 

「ッ!?くーーーーーーッ!!!」

 

と、アルフの大々的な宣言を聞いた久遠はと言えば、さっきまで状況が飲み込めていなかったという呆けた顔から一変。

今のアルフの言葉が分かってるかの如く猛烈な勢いで俺とアルフの間に飛び込んで立ち塞がった。

まるで俺をアルフに盗られまいって感じに、俺を背にしてアルフを威嚇してる。

って何となしにボーッとしてたけど、アルフが堂々と子犬モードで喋ってるのはマズくねぇか!?

幾ら相手が久遠だって言っても、もしこんなトコ他の人に見られたら誤魔化し切れねぇぞッ!?

 

「くーくー吠えてないでソコどきなッ!!アタシは今からゼンにたーっぷりと可愛がってもらうのさッ!!雌狐はお呼びじゃあ無いんだよッ!!」

 

ちょ!?だからそんな堂々と喋るんじゃねーってオメェは!?

遅くも大変な事に気付いた俺は、今も目の前で久遠を威嚇してるアルフに注意しようと思い――。

 

 

 

 

 

「――――ヤダッ!!禅は久遠のッ!!泥棒犬はどっか行っちゃえッ!!!」

 

「いや、だから俺は誰のモンでもな――――へ?」

 

 

 

 

 

立ち上がった所で、自分の足元から聞こえてきた聞き捨てならねぇ言葉に反論し……おんやぁ?と首を捻る。

待て待て待て?今俺は誰の言葉に対して反論した?っというか誰だ今の聞いた事のねぇ澄んだ声の持ち主は?

若干呆け掛けてる思考を無理矢理働かせつつ下に目を向ければ、そこにはさっきと変わらず2匹の犬と狐しか居ない。

だが、俺の正面に居るアルフは今の俺と同じ様に少し呆けた顔付きになってる。

つまり……今の声は幻聴じゃねぇって事、そして……。

 

「……久遠が……喋った?」

 

今の言葉が、俺を守る様に立ち塞がる久遠から発せられたモノだという事になる。

あっ、な〜んだ久遠が喋っただけかぁ……ちょぉおおおおおッ!?

く、久遠がッ!?久遠が喋ったッ!?しかも流暢な日本語をぺラぺーラとッ!?

最近の狐は喋るハイスペックなのがデフォなのかッ!?レベル高過ぎるぜ最近の癒し系小動物はッ!!

 

「ってそんなワケあるかぁああああああッ!!?」

 

「くぅッ!?ど、どうしたの、禅!?」

 

「いやいやいやッ!?どうしたのっておまッ!?ななな何で久遠が普通に喋ってんだよぉおおおおッ!?」

 

思わず心中と現実で1人ノリツッコミをした俺の大声に反応して声を掛けてくる久遠。

そしてその声に対して普通に言葉を喋る久遠、どうしよう僕ワケ分かんない。

何で何事も無かった様に話し掛けてくんのさ、この子狐ちゃんてば?

 

「く?……あっ!?」

 

「気付いてなかったんかいッ!?」

 

「く、く〜〜?」

 

「いや今更取り繕っても超絶遅えからッ!?もう手遅れだからッ!?」

 

もうヤダ何なのこの超展開?でもそんなちょっと抜けたトコも可愛いから許す。

でも何時までもこうしてるワケもいかねーので、ココはいっぺん心を入れ替えて深呼吸……っと。

 

「はぁ〜……色々ブッたまげたが、もうお前が喋れるのは判ったからさ?普通に話してくれて良いぜ、久遠」

 

「……うん」

 

心底疲れたって感じで絞り出した俺の言葉に、久遠は気まずそうな声で返事を返してきた。

それを確認してから、次は久遠の傍で唸ってるアルフに視線を向ける。

 

「とりあえずよぉ、アルフ。色々と考えなきゃならねー事が出来ちまったから、少し怒りを鎮めてくれ。さすがの俺も、これ以上ややこしくなるのは勘弁だからよ」

 

「……まぁ、何か事情があるってのは理解出来たけどね……仕方ないなぁ……今回だけだよ?後で埋め合わせしてもらうから覚悟してる様に」

 

「オーケー。とりあえず少しだけ席、外しててくれ」

 

「……ふんだ……雌ったらしのバカゼン」

 

アルフはつまらなそうに鼻を鳴らして悪態を吐くが、律儀に神社の出口まで向かい、席を外してくれた。

何だかんだ言っても、アルフは心の優しい女の子だと改めて考え直してしまう。

気ぃ使ってくれてありがとうよ、アルフ。

今はアルフの好意に甘えて、俺は階段の隅っこから俺を窺う様に見ている久遠の元へと歩み寄る。

 

「ほぉーら、久遠?怖がってないで出ておいで〜?」

 

中々階段の隅からコッチに来ようとしない久遠だったが、俺は我慢強く呼びかけて、久遠に歩み寄って貰うつもりだ。

本当なら今すぐにでも俺の方から抱きとめに行きたいが、コレも久遠の為と涙を飲んで我慢しよう。

 

「……くぅ」

 

そして、絶え間なく呼び続けた効果か、久遠は恐る恐るといった感じで隅から体を出し、俺にゆっくりと歩み寄ってきた。

よ〜しよし!!コッチおいで久遠!!

とてもゆっくりだが、確実に俺へと歩みを進める久遠に悶えつつ、俺は久遠の事を待ち続けた。

そして遂に、久遠はゆったりとした足取りで俺の元に辿り着き、俺の足元にごろんと座りこんでくれた。

俺は直ぐに癒しの波紋を使って久遠の背中を滑る様にゆっくりと撫でてやる。

 

「ん?……気持ち良い?」

 

その感触が心地良いのか、久遠は目を細めて俺の手から伝わる波紋に身を委ねてくる。

このリラックスしてる姿からは、何時もと変わらない久遠にしか見えないが……。

 

「…………まぁ、いっか」

 

「く?……何が良いの?」

 

俺のあっけらかんとした呟きに、コテンと首を傾げながら聞いてくる久遠。

クソ、めっさくさ可愛えぇ。

 

「ん〜?お前が喋れる理由なんか、別にどーだって良いかってな」

 

「え?……で、でも……変じゃない?」

 

「お前が喋れる事か?」

 

「……ん(コクン)……人前で喋ったら、おかしいって那美が言ってた……禅も、久遠の事――」

 

「変だなんて思ってねぇし、おかしいとも思わねぇぞ?」

 

悲しそうな表情を浮かべる久遠に笑顔を向けながら、俺は力強く言葉を放つ。

そうさ、例え久遠にどんな秘密があろうと、俺はそれで久遠を嫌いになる事はねぇ。

久遠と遊ぶようになったのは、俺が6歳ぐらいの時からだ。

まだそんなに付き合いも長いって訳じゃねぇけど……ぶっちゃけ、こんなに可愛い久遠を嫌いになれるわけがない(キリッ)。

詰まる所、俺が久遠の可愛さにどっぷりと浸かっちまってるだけですけどね?

っていうか、動物が喋るぐらい俺の周りじゃ日常茶飯事でっす。

俺の軽い返しを聞いて驚く久遠だが、俺は更に言葉を続けて久遠の反論を封じる。

 

「それに、動物が喋るのがおかしかったら、さっきのアルフだっておかしいって事になっちまうしな。あの子もれっきとした動物だぜ?」

 

まぁ、使い魔だから元ってのが付くけど。

 

「……くぅ……禅は久遠と一緒なんだから、あの子の事は考えちゃダメ」

 

と、俺がアルフの話題を出した事でジェラシーを感じたのか、久遠はつぶらなおめめで俺を睨みつけた。

まぁホントにつぶらでキュートな目だから、睨まれてるなんて感じが一切しない。

そんな可愛らしい嫉妬をぶつけてくる久遠の様子に、俺は目尻がだらしなく垂れ下がってしまう。

うへへへへ、どこまでも愛い奴よのぉ。

 

「へへ。アルフに嫉妬してんのかよ、くお〜ん?……そんな可愛らしい事言ってくれる子は、たっぷりと可愛がってやらねぇとなぁ?このこのこの〜♪」

 

「きゅッ!?く、くぅ〜ッ!?」

 

俺はそう言いながら、久遠の背中と頭を撫でている手に送り込む波紋の力をもう少し強くする。

その勢いにビックリしたのか、驚きの声を挙げる久遠だが、俺は久遠の身体に遠慮無く波紋を送り込んで、更に身体の淀みのある場所を優しく撫でたり揉んだりしていく。

最初こそ波紋の刺激に身じろぎしてたけど、段々とその動きも大人しくなって、今じゃ俺の足の上でぐったりと横向きに寝転んでしまう久遠であった。

俺はそんな久遠の背中から足の裏の肉球、そして顎の下までくまなく撫でて波紋を流しこんであげた。

 

「ぬっふっふ♪ほれほれここか?ここがええのんか〜?ん〜〜?今まで構ってやれなかった分、今日は久遠が動けなくなるまでいっぱい可愛がっちゃうぞー♪」

 

「く、くゅぅ……そこはダメェ?」

 

流れるような手付きで顎の下からお腹にかけてのラインをゆっくりとなぞる様に撫であげると、久遠はもう堪らないって感じに呟く。

ほう?つまりここをもっとして欲しいって事ですな?

久遠のリクエストに応える為に、俺はお腹の所で手を何度も往復させて捏ねくり回していく。

そうすると、久遠は首を弱弱しく左右に振ってイヤイヤと俺にアピールしてきたので、俺は手の動きをストップさせた。

 

「ふ〜ん?嫌なら別に止めてやるけどよぉ……本当に良いのか?」

 

「はぅ……くぅん……」

 

今までこれでもかと動かしていた手の動きを止めた事で、久遠は切なげに鳴きながら、俺を見つめてくる。

その瞳を見ながらニヤついた笑みを浮かべつつ、俺は焦らす様にちょっとだけ撫でて直ぐ止める、を繰り返し行う。

大体3〜4回繰り返した頃だろうか、久遠が前足を使って地面に着いていた俺の手の平を抱きかかえた。

 

「やらぁ……いぢわるしないでぇ……」

 

まるで蕩けたチーズの様にねっとりとした声でせがみながら、久遠は抱き抱えた俺の手に顎をスリスリと擦り合わせてくる。

チクショウ、可愛すぎてもう辛抱堪らんぜ。

イジメてやろうかと思っていた俺の心はあっという間に罪悪感に駆られ、直ぐ様久遠を愛でてやらねばという使命感に支配された。

 

「よぉ〜しよしよしよしよしよし。好きなだけ撫でてあげましょうとも」

 

「くぅ?……禅に撫でられるの、大好き?……もっとして?」

 

波紋を篭めて優しく撫でれば直ぐに狐ちゃんの機嫌は良くなり、俺に甘える様に身を任せてくる。

もうその様子が半端じゃなく可愛すぎて、俺の心がさっきからグリグリと擽られてしまう。

だからこそ動くこの手……撫でるッ!!止めずにはいられないッ!!

フッフッフ。門限ギリッギリまで可愛がってくれるわこの罪深き子狐ちゃ「――何を」……ん?

 

「やっとるかぁああああああッ!!(ガァブゥウウウウッ!!)」

 

アルフは かみつきを つかった!

 

きゅうしょに あたった!

 

ゼンに 998の ダメージ!

 

Take2ですか?

 

「あだだだだだだだだだだだだだだッ!!?」

 

和やかに久遠を撫でる事で完全に気が緩んでた俺が躱せる筈も無く、俺は怒れるアルフに心ゆくまで咀嚼される羽目になったとです。

もはやグゥの音も出ないぐらい噛まれた俺は頭を抱えて蹲るが、アルフの怒りはそれを見ても収まらなかった。

 

「なぁ〜にが色々と考えたいだよ、このウスラトンカチッ!!折角アタシが気を効かせて1人にしてあげようと思ったのに、良く考えたらそこの雌狐もセットで居る事思い出して戻ってきてみれば案の定じゃないかッ!!どうせ考えるよりも可愛がりたいって思ったんだろッ!!」

 

「よ、良くお分かりですね、アルフさんや……痛てて」

 

「あったりまえだろうがッ!!アンタはいっつもいっっっつもそうやって、アタシ以外の雌にちょっかい出してるんだから、いい加減慣れたちまったよッ!!悲しい事にねッ!?」

 

「も、申し訳ねぇです……」

 

俺の事をそこまで理解して頂けて感無量です、えぇ。この涙は感激の涙なんです。

決して痛みからくる涙では御座いませんのことよ。

噛まれた額の部分をさすりながら身を起こす俺だが、そんな俺の目の前に子犬モードのアルフが立ち塞がる。

おぉう、普段よりも3割増しで吊り上がってるこの瞳……色んな意味で心が激しくビートしちゃう。

 

「くぅッ!!禅を苛めるな、泥棒犬ッ!!」

 

「アァンッ!?人様の雄に手を出す雌狐の癖に、よくもいけしゃあしゃあと泥棒呼ばわりしてくれるじゃないかッ!!」

 

「違うッ!!禅は久遠のッ!!後から出てきたのはそっちッ!!」

 

そして、アルフに睨みつけられてオーマイガな気分の俺の目の前に割って入り、アルフと舌戦を繰り広げる久遠。

信じられるか?俺の目の前の子狐と子犬ってば、微笑ましくワンワンクークーじゃなくて、言葉で威嚇しあってるんだぜ?

っていうかアルフさんや、俺は決して誰のモノでもありませんから。

強いて言うなら、そう――。

 

「俺は全ての可愛い存在の共有財さ――」

 

「「アンタ(禅)は黙ってな(黙ってて)ッ!!」」

 

「ハイ、すんません」

 

にこやかに喧嘩の仲裁をしようとすれば、二人がかりで怒られるこの理不尽な展開。

おっかしいなー?これって俺の話なのに俺が入ったら怒られるシステムなの?

そんな事を思いながら2人に怒られた俺は、すごすごと引き下がり、石畳に正座する。

いやね、何か正座しないといけない気がしましてね……立場ねぇな、俺。

自分の立場の弱さに嘆きながら目の前で行われる舌戦の様子を眺めていると、アルフが何やらニヤリと勝ち誇る様な笑みを見せつけていた。

 

「フン。生憎だけど、どう足掻いたってアンタじゃゼンに本当の意味では、可愛がってもらえないのさ」

 

いや、その根拠は一体何処から出て来んのさ?

 

「そ、そんな事ないッ!!禅は、久遠の事いっぱいナデナデしてくれたもんッ!!」

 

「確かに動物なら、ゼンはたっくさん可愛がってくれるけど……『コッチ』の方が、ゼンにもっともっと可愛がってもらえるんだよッ!!」

 

もはや勝利を確信しましたって顔でアルフが久遠に言い放つ。

すると、アルフの周りが淡い光に包まれて、その大きさと形を変化させて……ってちょい待てぃッ!?

注意しようとする間も無く、アルフはその身体を子供モードへと変化させてしまった。

勿論、久遠はいきなり犬が人間に変わった光景につぶらな目を見開いて驚きを顕にする。

そんなビックリ仰天って感じの久遠にニヤリとした笑みを見せながら、アルフは俺の腕に絡みついて久遠を見下ろす。

 

「ふっふっふ……こっちの姿なら、ゼンの可愛がってくれる度合いは増々なのさ♪まっ、アンタには無理だろうけどねぇ♪」

 

「く、くぅ……」

 

悔しそうに呻く久遠に「勝った」みたいな表情を浮かべながら俺に擦り寄ってくるアルフ。

だから魔法の存在知らない奴の前でそうポンポンと魔法を使っちゃ駄目だろ。

そう思いつつ、軽率な行動を取るアルフを叱ろうと思えば――。

 

「ずっと待ってたんだからね?このいぢわる……アタシだけ、あの日からずっとお預けのまんまじゃないか……早くアタシを可愛がっておくれよぅ?」

 

「そ、そうだったなー。アルフには長い事お預けしてたし。ま、まぁさすがにそろそろ可愛がってやんねぇとな。よしよし(ナデナデ)」

 

「わぅ♪……あぁ〜♪……さいっこぉ?」

 

「くーッ!?ぜ、禅ッ!?」

 

何とも甘ったるい声で上目遣いに俺を見上げながら催促してくるもんだから、ついつい手が頭に伸びてしまうのはお約束です。

しかも俺が一撫でする事で見えるアルフの幸せそうな笑顔。

そのハッピーな笑顔に釣られて、俺の顔までだらしなくニヤけてしまう。

アッサリと鞍替えされた久遠は悲鳴に近い声を上げながら愕然とした表情で俺を見てくる。

ゴメンナサイ久遠、でも俺は可愛い女の子や動物には弱いんです。

どう足掻いても勝つ事は出来ないし、そんな可愛い子からの懇願を断る事=死なんです。

もはや久遠と目を合わせる事すら辛くなり、俺は自然とアルフの幸せそうな笑顔を視界いっぱいに捉えた。

 

「はふぅ?……狼形態で撫でられるのも気持ち良いけど、コッチもやっぱり格別だよぅ?」

 

「く、くー……くーーーーッ!!!(ピカァアアッ!!)」

 

「ん?うお眩しッ!?く、久遠ッ!?何だよこの光はッ!?くおーーーんッ!!?」

 

所が、アルフを愛でていた俺の視界の端から、突如として眩い光が俺の視界を覆ってきた。

その発生源は先程、気合の雄叫びの様なモノを叫んでいた久遠であり、俺は久遠に向かって叫んだ。

っていうか何この光はッ!?く、久遠に一体何が起こって――。

 

 

 

「――く、久遠も『なれる』ッ!!」

 

 

 

光が収まったその先には、ちょっと怒ってる様な表情を浮かべる『狐耳』と『尻尾』を生やした巫女服の『少女』が……。

 

「――はぁああああああああああああああああッ!!?」

 

い、いやいやいやちょっと待てぃッ!?も、もう何が何だか判らなくなってきたッ!?

な、何が起こってんだッ!?頭がどうにかなりそうだぜッ!?

光が収まった先に立っていた巫女服の少女……人間になった久遠を見て、俺は叫んでしまう。

脳内の処理力が落ちに落ちまくって状況の判断がまるでつきません。

そんな風に呆然とする俺だったが、アルフも負けず劣らず驚いてらっしゃる。

まさか変身できるとは思ってなかったんだろう、口をポカンと開けてボケッとしてるからな。

正にショックで固まっている俺達を他所に、久遠は少女の姿のまま、トテトテと俺に歩み寄って、空いてる腕に抱きついてきた。

 

「く、久遠も、いっぱいして……久遠じゃ、ダメ?(ウルウルウル)」

 

「ダメなわけないッ!!もうたっぷりとしてあげようではないかッ!!ほれほれほれほれッ!!」

 

「くぅ〜?」

 

久遠の可愛らしいおねだり、そしてウル目に逆らえず、俺はアルフから久遠へと可愛がる対象をシフトチェンジ。

あぁチクショウッ!!幸せそうな顔しやがってッ!!もっと幸せにしてやんよッ!!

口元を小さく緩ませながら頬を染めて嬉しそうにする久遠の笑顔。

俺の癒やしゲージが急速に充電されていきますッ!!

 

「あぁ〜ッ!?コ、コラ、あんたッ!?何横から割り込んで撫でてもらってるんだよッ!!今はアタシが撫でてもらってるのにぃッ!!」

 

「知らない♪……くぅ〜?」

 

「ぐぬぬぬぬぬぬぬぅぅううううッ!?……な、ならコッチだってッ!!(ピカァアアアッ!!)」

 

勿論いきなり、放置されたアルフからすれば面白く無い光景なワケで、再起動したアルフは久遠に俄然食ってかかる。

しかしその抗議を、久遠は幸せそうな顔を浮かべたまま受け流し、相手にしない。

そして軽くあしらわれたアルフは悔しそうに唸ると、一度俺から離れて光に包まれ始めた。

ってまたこのパターンかよッ!?今度は一体何をやらかそうってんだ――。

 

「――ムンッ!!お色気モードッ!!」

 

「待てぃッ!?何か大人形態の名前がぶっ飛んだ名称に変わってるぞッ!?」

 

何かズレまくった事をのたまいながら変身を終えたアルフだが、それは普段と同じ大人モードだ。

っていうか何故にお色気?

久遠も子供からいきなり大人に変わったアルフの姿を見てポカンとしてしまうが、アルフはそれに構わず俺達に歩み寄る。

え?っていうか何で大人形態に返信したんだアル――。

 

「ゼンはどーしようもないスケベ小僧だからねッ!!こうやって――」

 

「おいちょっと何を(ボヨォ〜〜ン)むぐーーーッ!?」

 

「んんッ!?……ふ、ふふ。オッパイに挟んでやるとスッゴい喜ぶのさッ!!アタシは可愛がられるだけじゃなくて、ゼンを気持ちよくしてあげる事だって出来るんだよッ!!」

 

何言っちゃってんですかコイツーーーッ!?

そう声を大にして抗議したいところだが、残念ながら俺の顔はアルフのビックマシュマロに挟まれて声が出ない状態だ。

っていうかヤベェ、呼吸が出来ないッ!?あ、圧力がスゴすぎるぅぅううッ!?

もう滅茶苦茶柔らかいってのに、それでいて弾力もあってぽよぽよしてるから、俺の呼吸を完全に塞いでる。

し、幸せだけどこんな死に方嫌過ぎるッ!?

何かこれでもかと抱き締めてくるアルフの腕を何とか外そうと藻掻く俺だが……。

 

「んッ!?あぁんッ!?ゼ、ゼン……ッ!?そ、そんなに動いたら……きゃぅッ!?……こ、声が出ちゃうよぅ?」

 

「んごーーーーッ!?(俺も魂が出ちゃうぅぅうううッ!?)」

 

俺が動こうとする事がアルフに強い刺激となって伝わり、アルフが身じろぐと更に俺も乳に挟まれていく負の連鎖。

なんてこった……ココ(乳)が死に場所だなんて……ふっ、俺に相応しい最期――。

 

「ん、んあぅ?……へへっ、どんなもんだい?こんな事、アンタにはしてあげらんないだ――」

 

「……くーーッ!!(ピカァアアアッ!!)」

 

「――へ?…………ア、アンタまさかッ!?あっ、コラッ!?」

 

と、いよいよあの世へと旅立つ時かと悟りを開きかけた瞬間、俺は強い力で引っ張られ、アルフの谷間から開放される。

 

「ッ!?ブハァーッ!!」

 

一気に開放された呼吸器が、新鮮な酸素を求めて大きく呼吸を繰り返す。

その動きに従って肺いっぱいに空気を吸い込んでは出す事で、文字通り俺は息を吹き返した。

あ、危ねぇ……危うく川を渡って綺麗なオネーチャン達も居る向こう岸に行く所だったぜ……。

何とかコッチの世界に戻ってこれた事を噛み締めていると、先程俺をアルフから引き剥がしてくれた腕が俺の身体をクルリと反転させる。

っというか、この場には俺とアルフ、そして久遠しか居ないワケで、俺を助けてくれたのは久遠だろう。

こりゃ感謝しねぇと……ん?……おかしいな、久遠にしては手の平が大きい様……な?

 

「……(ジー)」

 

「……は?」

 

自らの腕を掴んでいる手の大きさが、久遠のものよりかなり大きかった事に疑問を抱いていた俺だが、そんな些細な問題は消し飛んでしまった。

いやそれよりも、俺の腕を掴んでいる目の前の美人な『お姉さん』が誰かっていう重大な問題に差し掛かってます。

俺の事を無言で見つめてる金に近い黄色の髪の毛を翻すお姉さんは、先程久遠が着ていた巫女服よりも更に露出が激しくなっている。

腕の裾は途中で切り離されて糸だけで繋がれてるし、何より……下、穿いてない……。

 

「……?」

 

俺の視線が下に向いた状態から上に向きなおり、呆然とした表情でお姉さんを見上げると、お姉さんは可愛らしく首をコテンと傾ける。

いや、何でそんな「どうしたんだろう?」みたいな顔出来るんでしょうか?

アナタ下穿いてないんですよ?巫女服から伸びた前と後ろの長い裾で真ん中を隠してるだけなんですよ?

瑞々しいナマ足がおっぴろげられて開放状態なのにそれで良いんですか?っていうか誰だよアンタ?

 

「……くー?……どうしたの、禅?」

 

「え?な、何で俺の名ま……ん?『くー?』」

 

一体目の前のお姉さんが誰なのかと考えていた俺に、まさかのお姉さんから名前を呼ばれるという超展開が勃発。

しかも彼女の台詞の中に、俺の近くに居た筈である彼女の口癖が混じってるという不思議。

っていうか待て、そういえば久遠の姿が何処にも……ま、まさか?

色々と落ち付いて考えていくと、所々の会話や服装に、彼女の正体のヒントが見え隠れしている。

もしや?という思いを抑えこんで、もう1度俺の腕を掴んでるお姉さんに視線を向ければ……。

 

「……?(ピョコピョコ)」

 

彼女の両耳の辺りにピコピコ動く『狐耳』を発見しました。

良く見ると、彼女のお尻の辺りにフワフワした尻尾が沢山あるではないか。

……って事はつまり、この見眼麗しいお姉さまの正体ってッ!?

 

「く、くくく、久遠ッ!?お前久遠なのかーーーッ!?」

 

「ッ!?うんッ!!……気付いて、くれた♪(ピコピコ)」

 

そりゃここまで判断材料あったら気付きますともッ!?

っていうか耳をピコピコさせんな、可愛すぎるだろうが(パニック)。

しかも露出激し過ぎるッ!?あぁ、生足が、生足がーーーッ!?

このお姉ちゃんの正体が久遠の大人になった姿だっていうのは理解出来たけどエロ過ぎてヤバイッ!?

何で子供の姿の時の袴が無くなってるのでございましょうかッ!?GJ!!

そんな感じでパニックの渦に陥る俺だったが、久遠はそんな事お構い無しなのか、笑顔のまま俺に近づいてくる。

おーい?これ以上俺に何をなさるおつもりですか?

もはや精根尽き果てかけの俺だったが、久遠は俺の様子に構わず、腕から手を離すと――、

 

「……うんしょ?(ぐにゅう)」

 

「もにーーーーーーーーッ!!?」

 

そのまま俺の背中に手を回し、俺を自分の谷間へと誘った。

ってまたこのパターンですかッ!?しかもアルフに負けず劣らずの巨乳ッ!?

アカン、また呼吸が出来ない生き地獄に誘い込まれちまったッ!!

何とか逃れようともがくも、久遠のホールドがガッチリしてて外れない。

ヤベェ……またお花畑が見えてき……。

 

「コラァッ!!人の雄を勝手に誘惑してんじゃないよッ!!返しなッ!!」

 

「ごほッ!?ごほ、ごほッ!!」

 

しかし、今度はアルフに久遠のホールドから開放されて、俺はまたもや現世へと舞い戻った。

かと思えば即座にアルフの巨乳へと顔を押し付けられて呼吸を塞がれる。

ちょ、ちょっとま――。

 

「くぅッ!!禅は久遠のッ!!そっちが離してッ!!」

 

「あうぇ゛ッ!?」

 

そしてまたもや久遠に引っ張られて久遠の谷間ホールドの餌食に。

こ、この天国の様な柔らかさと地獄の呼吸困難は何時まで続くんでしょうか?

 

「あっ!?こ、このッ!?ゼンはアタシんだッ!!」

 

「違うッ!!久遠のッ!!」

 

「アタシのッ!!」

 

「久遠のッ!!」

 

「「うううううううううううううッ!!」」

 

終いには2人の豊かに実ったパイの実にサンドイッチされてしまう俺……もう好きにして。

 

 

 

頭上で聞こえる言い合いを聞きながら、どうやってもこの無限ループから逃れられないので――。

 

 

 

やがて俺は、考えるのをやめた。

 

 

 

 

-3ページ-

 

 

後書き

 

 

久々過ぎてゼンのキャラ間違えたかも?

 

まぁ大丈夫だろうwww

 

 

 

説明
第33話〜修羅場勃発ッ!?第1回、獣耳娘戦争ッ!!
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コメント
大丈夫ゼンなら何とかなります、スタンドなくても多分www(鬼姦)
その内リインとフェイトも獣耳と尻尾をつけて迫るかな・・・いやカオスになるだけかwww(HIBIKI)
赤石だとぉ!?俺の……俺の腹に風穴がァァァ!……死ぬかと思ったぜ、コジマが無ければ即死だった……そっちが赤石なら!コジマの緑石!何千倍に増幅されたコジマキャノンを喰らえェェェェェェェ!(非殺害)(ドゥルジ)
kikikuyaさん>暫くは4人居れば充分事足りますwww(piguzam])
クロノさん>さ、さざなみ勢のヒロイン化、だと……?何て難しい注文をwww(piguzam])
Unknownさん>狐鍋じゃあーーーー!!(piguzam])
biohaza-dさん>皆さん揃いも揃って修羅場増やそうとしてらっしゃるwww(piguzam])
絶対零度さん>楽逝はTINAMIのみですからwww(piguzam])
ケリー・衛宮さん>……え?(piguzam])
道産子国士さん>さざなみ一同もですか……癖が強くて書くの大変ですwww(piguzam])
匿名希望さん>普通に恐い!?(piguzam])
hikage961さん>ちなみに作者は天元突破モードです(#^ω^)ピキピキ(piguzam])
海平?さん>何だかんだで、俺の作った主人公達の中で一番リア充しとりますwww(piguzam])
匿名希望さん>わ、忘れてなんていませんよ?(;´Д`)(piguzam])
HIBIKIさん>だからカオス追加しちゃダメですってwww(piguzam])
プロフェッサー.Yさん>彼女には幾らでも巻き返しのチャンスがありますともwww(piguzam])
鬼姦さん>ほぼ死刑宣告!?(piguzam])
氷屋さん>更にカオス度がwww(piguzam])
青髭U世さん>禅「ほう?何でもと言いますか……だが断る」(piguzam])
デーモン赤ペンさん>奴は普遍の存在ですwww(piguzam])
ドゥルジさん>禅「ま、負けてたまるか!!エイジャの赤石!!」(piguzam])
匿名希望さん>出しましたよ!!(piguzam])
しおさん>ぐ、偶然ですよ(;´Д`)(piguzam])
闇の住人さん>禅「ドララララララーーーッ!!」(piguzam])
nikeさん>なっちゃうのですwww(piguzam])
ゼンハーレム1人増えたヒャッハー!(kikikuya)
フェイト、アルフ、リイン、久遠今で4人かもしかしてSAZANAMIにも複数いるのか?よろしい、なら戦争だ!『恋符「マスター、クボラーーーー!(クロノ)
ヒャッハー!久しぶりの久遠ダァー!新鮮な狐っ娘ダァー!!(Unknown)
・・・ご愁傷さま、後であの2人呼んでくるから!(biohaza-d)
更新、待ってましたぁぁ!(実は他の2作品以上に)(ケリー・衛宮)
正妻のアドバンテージ、昼間一緒(開校日限定)。神咲家、出なかったら意味無いんじゃね?久遠出てんのに。さざなみ寮一同もプリーズ。(道産子国士)
悔しいっでも嫉妬しちゃうパルパルパルパルパルパルパルパルパルパルパル(匿名希望)
久遠とアルフのお色気モードでパイの実サンドイッチとか俺の怒りが有頂天!!!(hikage961)
楽しく逝こうゼ?の続きがいやっとこさキタ━(゚∀゚)━!とりあえずヒロイン四人目(五人目?)の加入が決定しますた。今後の人外頂上決戦の行方をお楽しみにしております。えちょwwwリア充モゲロwwwww(海平?)
楽しく逝こうゼ?が更新しとるぅーーーー!!!(匿名希望)
禅君ご愁傷様。さてリインとフェイトを呼んでくるかwww(HIBIKI)
……フェイトちゃんメインヒロインだよね?なんか一番出遅れてる感が半端ねーんスけど?(プロフェッサー.Y)
さてゼンの目を潰しておこうかw(鬼姦)
とりあえず飼い主(フェイト・那美)呼んでこいw (氷屋)
ゼンそこ代わって!!なんでもするから!!(青髭U世)
やっぱりゼンはゼンと・・・(デーモン赤ペン)
修羅場キターーー(゚∀゚)ーーー!!!修羅場が見れて嬉しい限りだが……それは置いといて、ゼンくーん、うらやましい限りだねぇ?いっぺんしばかせろや!!この誑しがァ!グリーン・グリント!!コジマ制御術式解放!あの誑しに秒間五十発のコジマキャノンラッシュをくれてやれぇ!!!ヴルァァァァァァァァァァァァァ!!!!(ドゥルジ)
きたぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!(匿名希望)
あっちのイレインに続いて、こっちは久遠wwwとらハキャラの押しが続きますなwww(しお)
ゼンKITAaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaa!!!!!!久遠可愛すぎてヤバィwwwwwwwwてかゼンてめぇコノヤロウ!うらやましぃじゃねぇか!!このスケベがぁぁぁぁぁぁ!!!!!・・・・・・・・・あ、嘘ですだからクレイジーダイヤモンド出さないでっ!?ちょ!まっ!アァーーーーーーーーー!?!?!?(闇の住人)
やはり、カオスになっちゃうかwwwww(nike)
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