『真・恋姫†無双』 第二部「桃園の絆」
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「も、申し上げます! 呉軍が大挙して南郡に侵攻、江陵・公安共に陥落したとの由にございますっ……!」

天幕へと駆け込んできた伝令はそう言って、残り火を消した。

「……くっ!」

愛紗は歯噛みすると、倒れた伝令を手厚く葬るようにとの指示をとばした。

これで、前は曹魏、後は孫呉に挟まれることになる。

前にそびえる樊城に篭る魏軍は寡兵なれども意気軒昂。そして間もなく、魏本国からの増援も到着するであろう。

もしこのまま樊城の包囲を続ければ、後ろから来る呉の軍勢とに挟撃されるかたちになる。

そうなれば、蜀の精兵三万を以ってしても壊滅は免れない。

……しかし……。

ここで軍を撤退すれば、蜀は荊州における覇権を完全に失うことになる。

ご主人様と桃香様なら、荊州を失ったことよりも、愛紗が生きて帰って来てくれた方を喜んでくれるに違いない。

……だが……。

自分はどんな顔をして二人のもとに帰れというのか。

あわせる顔がないではないか。

愛紗は決断した。

「我らはこれより樊城の包囲を解き、江陵にいる孫呉の軍勢と対峙する! 同盟の誓いを破り、江陵に攻め入りたる卑怯者共に鉄槌を下す!」

そう号令すると、ただちに陣を引き払い、江陵に向け進軍を開始した。

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「前方に呉の軍勢を捕捉! 牙門旗には孫権、そして前曲には甘寧の旗。総勢七万の軍勢ですっ!」

江陵に近づいたところで、前方に放っていた斥候からの連絡が届く。

敵はどうやら篭城ではなく野戦を選んだようだ。

兵数こそ自軍の二倍以上あるものの、勝機はまだある。

篭城を捨てたということは、敵には援軍がない。

そして、江陵の民心はまだ蜀にあるということだ。

この決戦に勝利しさえすれば、失った荊州南郡の奪還もかなうであろう。

「全軍、鋒矢の陣を敷け!」

愛紗はそう号令すると、自ら陣頭に立ち突撃の合図をする。

軍師がいれば、もっと細やかな作戦が取れたであろう。

しかし今は、朱里も雛里もいない。

乾坤一擲。

自らが鍛えた兵と自らの武略、そして四海に轟く武とに頼るしかない。

愛紗は手綱を引き締め、加速した。

徐々にその全貌を現し始めるは呉の大軍。

そして、蜀と呉、両軍が激突する。

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「卑劣にも同盟の誓いを破り、我らが地に兵を進めたる孫呉よ。我が主劉玄徳に代わり、この関雲長の青龍偃月刀が成敗いたす! 我が青龍刀の血錆になりたい者はかかって来い!」

天に掲げられた青龍刀が味方を鼓舞し、敵の士気を挫く。

二倍以上あった兵数差も、今や無に等しい。

ここが攻め時である。

「天は我々の見方ぞ! 全軍、敵本陣にとつげ……っ!」

愛紗がそう言いかけたとき、後方から味方の悲鳴があがった。

「何事か!?」

「ふ、伏兵にございますっ!」

愛紗が振り返った先には、呂蒙の旗と、四散する味方の姿があった。

何たる不明!

江陵を奪われ樊城を落とせなかったばかりか、兵三万まで失うとは……。

もはや名将関羽を以ってしても、この崩壊は止められまい。

「……ご主人様、桃香様、鈴々……。すまぬ……」

そう言うと愛紗は、一人敵陣深くに切り込んで行く。

「こうなれば、我が命と引き換えに孫権の首級をあげるのみ!」

まさに一騎当千・万夫不当。

青龍刀は血の海をつくり、屍の山を築いていった。

……しかし、圧倒的な数の差。

軍神関羽と雖も、限度がある。

孫権の旗を目前に、とうとう敵兵に囲まれてしまった。

「……敵将の首も落とせぬ、か……」

愛紗は自らの生に思いを巡らせる。

鈴々と出会い、桃香様と出会い、ご主人様と出会い。

そしてあの、桃園での契り。

四人で力をあわせ、この大陸に平穏をもたらす……。

桃香の願いであり、全員の願いでもある。

……しかし、今となってはその約束も果たせそうにない。

「……ご主人様、桃香様、我らの悲願を! 鈴々、お二人を頼んだぞ!」

そう天に向かって叫ぶと、愛紗は静かに目を閉じた。

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益州・成都城、夜半。

「っ!?」

にわかには信じがたい情報が、俺たちのもとに届いた。

江陵にて愛紗が討ち死!

緊急に首脳陣を召集し、軍議が開かれる。

居並ぶみんなの表情は重い。

「も、申し訳ありません! わ、私の責任です……!」

軍議が始まってすぐ、朱里は泣き崩れながら平身低頭した。

たしかに、江陵に愛紗を派遣したのは朱里の提案からだ。

しかし、これは朱里の責任ではない。

まさかあの孫策が裏切り、魏と同盟を結び攻め入って来るとは、誰にも予測不可能な事態だった。

それはみなも同じに思ったらしく、隣にいた星は朱里を抱え起こし、落ちた帽子を頭に戻してあげた。

「うがー! 孫策は絶対に許さないのだ!」

鈴々が叫ぶ。

桃香もそれに同調し、玉座から立ち上がると、

「うん! みんなで愛紗ちゃんの仇を討つの!」

と、怒りを露にした。

みなの視線が俺に集まる。

愛紗たち三人と始まり、今の勢力を築き上げてきた。

もしここで俺が「うん」と言えば、呉との決戦が決まるだろう。

だが俺は、ここで絶対に「うん」と言ってはいけないのだ。

俺の知ってる『三国志』の世界では、この後「夷陵の戦い」が起こり、蜀は敗北。

張飛はこの戦いの前に殺され、劉備もこの敗戦がもとで病没することになっている。

この上、桃香や鈴々まで失うわけにはいかない。

「……俺は反対だ……」

そう言い終えると、真っ先に自分たちに賛同してくれるであろうと信じていた桃香と鈴々から驚愕と落胆と軽蔑の視線が向けられた。

どんなに冷徹な男だと思われてもいい。どんなに薄情な男だと思われてもいい。

しかし二人を絶対に死なせるわけにはいかない。

俺が押し黙っていると、鈴々が、

「翠はどうなのだ!?」

と、他の面々にも問いかけた。

しかし、「桃香様と共に戦う!」と答えた焔耶以外は全員が反対した。

「赤壁で大敗したとはいえ、曹魏は未だ健在。その上、孫呉と事を構えるのは得策ではない」

というのがみなの意見である。

だが、桃香と鈴々は、もはや仲間ではないと言い放つと、玉座の間から退出してしまった。

「みんな薄情者なのだ! お姉ちゃんと鈴々だけでも愛紗の仇を討つ。お兄ちゃんは今日限りお兄ちゃんでも何でもないのだ!」

との鈴々の最後の言葉が耳の奥で響いている。

俺は溜めていた息を吐き出し、白蓮に二人が飛び出して行かないよう止めておいてくれと頼むと、背もたれに背中をつけた。

こうなっては、開戦は止められまい。

だからと言って、何もせずただ座してその時を待つわけにはいかない。

俺たちは軍議を再開し、蜀の地に精通している紫苑と桔梗、動揺している朱里だけというわけにはいかないので詠も軍師とし、曹魏への牽制として成都に待機。そして、桃香・鈴々・焔耶に加え、星・翠・蒲公英・雛里と共に、明日出陣することを決めた。

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軍議を終え、桃香の部屋へ向かう途中、

「主、少しよろしいか」

と星に呼び止められた。

「……何というか……その……此度のこと……」

星にしては珍しく言い淀む。

しかしすぐに取り直すと、

「主はなぜ桃香様や鈴々に反対なされた」

と、今度はいつものように真っ直ぐ問いかけてきた。

「……うん。俺も愛紗の仇は討ちたい。その気持ちは桃香や鈴々と一緒だと思う。……でも……」

「でも曹魏の動きが気になる、ですか?」

「……まぁ、それもあるけど、それ以上に、今回のことで桃香や鈴々まで失うんじゃないかって不安なんだ……。絶対にあの二人まで失いたくはない、そう思うから反対した。まぁ、全部俺の勘なんだけど……。今は全て俺の杞憂で終わればと願っている」

「……天の御遣いの勘、ですか……。しかし今の主の言葉を聞けてよかった。もし曹魏の動きを恐れて反対しただけならば、今この場で主の首を叩き落としていたところです」

そう言って婉然と立ち去ろうとする星を、俺は呼び止めた。

 

桃香の部屋に入ると、白蓮が気を利かせて「じゃあわたしは仕事があるから」と言って二人きりにしてくれる。

しかし桃香は泣き腫らした目を擦りながら、俺に背を向け無視を決め込んでいる。

「……なぁ桃香」

そう俺が言っても、

「裏切り者の話なんか聞きたくない!」

と、耳まで塞がれてしまった。

このままでは埒が明かない。

俺は後ろから桃香を抱き寄せると、両耳を押さえている手を優しく離し、

「明日、出陣することになった。一緒に愛紗の仇を討とう」

と告げた。

すると桃香は、「え?」という表情をこちらに向けてくれる。

「……ご主人様……?」

との桃香の涙声に呼応するように、

「愛紗を失って辛いのは、俺も同じ気持ちだ。だから明日出陣することに決めた。……でも桃香、これだけは約束してくれ! 絶対に無理はしないこと。桃香も鈴々も、誰一人としてもう失いたくはないんだ」

と言い終えると、桃香は俺の腰に抱きつきひとしきり泣いた。

いや、二人で泣きあった。

こっちの世界に来てすぐ、桃香・愛紗・鈴々の三人に出会った。

領地も、兵士も、お金も何もないところから始まった俺たち四人。

でも、志だけは誰にも負けない自信があった四人。

誰一人欠けても、今の俺たちはなかっただろう。

こうして今があるのも、四人で力を合わせてきたからだ。

……しかし今……。

大切な一人を失ったのだ。

真面目で……でも誰よりも優しかった愛紗が今はいない……。

俺は今でも信じられない。

政務をサボっていると、愛紗の拳骨が飛んでくるのではないかとさえ思う。

だが、それももうないのだ。

愛紗は愛紗であって、代わりなどいない。

愛紗はいない……。

その事実が俺の中に、じんわりと深く染み込んでいった。

 

桃香が泣き止むのを待って、俺は鈴々の部屋へと向かう。

「主の予想通りになりましたぞ。鼠が二匹……」

と、扉の前に立っていた星。

星は暗闇の中でも、俺の目が赤いことに気づいたようだったが、そのことには触れずに、

「しっかりと始末しておきました。さすがは天の御遣いの勘、ですな」

と微笑んだ。

しかし、俺もそう言った星の目が赤く純血しているのを見逃さなかった。

俺は、

「……今日は俺もここにいるよ」

と言ったが、

「主の居場所はここではありますまい。鈴々はああ見えて意外に大人です。鈴々のことはこの私にまかせ、主は……」

と、星に釘をされてしまった。

この城には、愛紗を失って辛くはない者など一人もいないのだと思いながら、再び桃香の部屋へと引き返した。

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翌朝、出陣の準備をしていると、鈴々が俺のもとにやって来て、

「……えっと……、昨日はごめんなのだ……。……星に聞いたのだ、お兄ちゃんは鈴々たちが心配だからって……。それから、ありがとうもなのだ。お兄ちゃんが星に言ってくれなかったら、鈴々も……そしたら愛紗の仇も……」

そこまで言うと鈴々は笑顔で、

「お兄ちゃんはこれからも鈴々のお兄ちゃんなのだ!」

と言って、照れくさそうに走っていってしまった。

これで一つ不安は解消、か。

だが、もう一つ大きな不安がある。

「雛里、決戦になるとしたらどのあたりだ」

出陣して間もなく、俺は今回の遠征軍の軍師である雛里に尋ねた。

「は、はい。斥候を出しましたが、おそらくは長江の三峡、夷陵のあたりになるかと思います」

夷陵、か……。

嫌な地名だ。

「なぁ雛里。火計に強い陣形ってあるか?」

歴史通りに事が運ぶなら、呉の仕掛けた火計により蜀軍は大混乱。

その隙を突いた呉に襲撃され、大敗を喫することになる。

だがそれだけは何としても避けなければならない……。

雛里は少し考えたようだったが、

「陣営を分割して敷くという手もありますけど、呉は陸孫さんの軍勢も合流して総勢五万。対する我が軍も同じく五万。兵数は同じです。それに陣営を分けると連携がしづらくなって、今度は各個撃破されてしまうかもしれません……。ですから陣形はそのままで、警戒を厳にするしかないかと……」

と、役に立てなかったことを謝るかのように意見を述べた。

俺は、謝ることはないし、雛里の献策はいつも頼りにしている、と雛里をなだめる。

 

夷陵に着くと、俺たちはそこに陣をはった。

おそらく決戦は明日になるだろう。

その前にまず、今夜をどう乗り切るかだが……。

ある程度築陣が終わったところで、人払いをした天幕にて軍議を開くことにする。

そしてその席上で、鈴々・翠・蒲公英の三人が周辺警戒。焔耶と星は桃香と本陣にて、いつでも軍を動かせるようにと待機。俺は鈴々と共に周辺警戒にあたることが決まった。

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鈴々と俺は、その後すぐ一軍を率いて警戒に出る。

辺りはすでに日が落ち、暗い。

互いに無言のまま軍を進めていたが、沈黙を破ったのは鈴々だった。

「……また昔に戻ったみたいなのだ……」

鈴々は、ぽつりぽつりとだが語りだす。

「鈴々にはずっと家族がいなかったのだ……。あるとき、愛紗が鈴々の村にやってきて、鈴々の姉者になってくれたのだ……」

桃香や俺と出会う前の話だ。愛紗との付き合いは鈴々が一番長い。

「……それからずっと……愛紗の背中は鈴々が守って、鈴々の背中は愛紗に守ってもらってきたのだ……」

二人の絆は、実の姉妹以上のものがあった。

その姉はもう……。

鈴々の小さな肩に載った荷を、一緒に背負ってくれていた愛紗はもういない。

……俺ははたして、その荷を共に背負えるだろうか……。

いや、背負っていかなければならないのだ。

俺は鈴々の小さな背中を見つめながら、そう決意した。

 

「報告いたします。呉の別働隊と思しき一軍を、この先にて発見いたしました」

俺と鈴々のもとに、斥候からの知らせが届く。

やはり火計があったか。

俺は鈴々に合図し、敵に悟られないよう警戒しながら軍を進める。

そして接敵したところで、

「全軍、突撃なのだ!」

と、鈴々が号令、交戦を開始する。

こちらは相手に気取られないよう、少数の部隊だ。

だが相手も少数。

それに、奇襲をかけるつもりが逆に奇襲され、敵は準備も整わぬまま混乱。

あっという間に撃退した。

 

翌朝、本陣は嘗てないほどの熱気に満ち溢れていた。

各将軍はもちろん、末端の兵士までもが関将軍の仇討ちだとばかりに意気込んでいる。

それに、警戒していたため、本隊は無傷で済み、犠牲らしい犠牲は昨夜の戦闘で生じたのみ。

弥が上にも気勢があがる。

だが、油断は禁物だ。

火計を食い止められたというだけで、未だ兵数は五分と五分……。

……そしてついに、桃香の号令一下全軍が火の玉となり、敵陣に突撃を開始する。

「張翼徳の丈八蛇矛、今日より青龍偃月刀を兼ねるのだ! 覚悟しろなのだーっ!!」

「ふっ、私も負けてられんな。……我が友・関雲長の命、貴様らの首の千や万では安すぎる! この趙子龍が全て刈り取ってくれる!」

「おっ、みんなやってんな。あたしたちも行くぞ、蒲公英! ……錦馬超の一撃、天に背いたおまえらへの天罰と心得よ!」

「はい、お姉様! ……西涼の馬超が従妹、馬岱! わたしも絶対に許さないんだから!」

「桃香様を悲しませる奴は、この魏文長が許さん! 覚悟しろ!」

まさに破竹の勢い。

誰もが愛紗を失った悲しみを背負い、その穴を埋めようと必死に戦っている。

それだけ愛紗は俺たちにとって大きな存在だったのだ。

……そしてこれからは、その愛紗の思いをしっかりと背負い、前へと進んで行かなければならない。

「雛里!」

俺がそう呼びかけると、待っていましたとばかりに雛里が、

「はい!」

と、応え、全軍に突撃の合図を出す。

桃香も、

「うん!」

と力強くうなづいてくれた。

 

……ふたを開けてみれば、夷陵の戦いは俺たちの大勝に終わっていた。

呉軍は散り散りに敗走し、それを追撃。

だが、敵将の首は一つもあげられないまま、これ以上の深追いは危険であるとの雛里の判断により、みなはしぶしぶ追撃を中止。

晴れぬ気分のまま、成都へと帰還することになった。

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成都に凱旋してすぐ、俺は留守を守ってくれていた三人に問い詰められることになった。

「まったく、お館様もお人が悪い!」

桔梗に続き朱里にも、

「そうです、ご主人様はと〜ってもイジワルです!」

と、怒られてしまった。

紫苑もいたくご立腹の様子だ……。

紫苑は本当に怒っていると、微笑みで返すからなお怖い……。

そう、俺たちが成都に戻る少し前、恋とねねの二人が帰っていたのだ。

―愛紗を連れて−

そうなのだ。俺は愛紗が樊城へと出陣してしばらく、恋とねねの二人に「もし愛紗に何かあった時は頼む」と、すぐに後を追ってもらっていたのだ。

……樊城の戦い。俺の知っている『三国志』では、関羽−愛紗が討たれる戦いになっている。

本当なら愛紗が出陣する前に気づくべきだったが、何とか間に合ってよかった。

「まったく、恋殿の武勇と、ねねの知略には感謝すべきですぞ」

「…………愛紗が無事で良かった」

聞けば、本当にギリギリのところだったらしい。あとほんのわずかでも遅ければ、愛紗は本当にこの世にいなかったそうだ。

俺も、恋とねねを信頼していなかったわけではない。しかし、呉が動揺を狙って流したであろう虚報にすっかり騙されてしまっていた。

「恋、本当にありがとう……!」

と、俺は恋の頭をなでる。

「ちょっ、ねねのことも忘れてもらっては困りますぞ! ……たしかに恋殿お一人でも十分だったかもしれません……、しかし、ねねがいたからこそ、より完璧なものになったのです! そんなこともわからないようなへぼ主人には、ちんきゅーきっくがうなるのです!」

「ああ、ねねもありがとう……!」

「わかればいいのです、わかれば」とねねは納得してくれたみたいだが、他のみんなは不服顔だ。

俺がみんなに問い詰められていると、愛紗が玉座の間へと入って来た。

すると我先にと、

「本物の愛紗なのだ!」

「愛紗ちゃん!?」

と、鈴々と桃香の二人が愛紗のもとに駆け寄り、抱きついた。

俺も遅れて愛紗のもとに駆け寄り、

「……愛紗……本当に……ほんとうに無事でよかった……!」

と、思わず目を湿らせてしまった。

「……ご主人様、桃香様、ご心配をおかけして申し訳ありませんでした。それに恋・ねねよ、お前がいなければ私は死んでいた。改めて礼を言うぞ」

そう言うと愛紗は俺を真っ直ぐ見つめてくれたかと思うと、

「ご主人様が恋をよこしてくださったと聞きます、それなのにご期待を裏切るような不甲斐ない敗戦……」

と言って、目を伏せてしまった。

この態度は許しておくわけにはいかない。

「なに言ってるんだ! 俺だけじゃない、桃香も鈴々も愛紗が生きて帰ってくれることが一番嬉しい。それに、桃園での契りを忘れたのか!? 期待を裏切るとは、愛紗が一人で死んじゃうことだ!」

と言って、俺は愛紗の手を抱き寄せた。

「……ご主人様……」

愛紗は白い頬を赤く染め、

「……そうでした、ね。この関雲長ともあろう者が忘れておりました。しかしもう二度と忘れませぬぞ!」

と、俺の手を握り返してくれた。

「そうだ! もう一度契りを結ぼう、今度はみ〜んなで!」

桃香が表情をぱっと明るくしてそう言うと、鈴々も

「みんなで宴会なのだ!」

と明るい声を響かせる。

愛紗も「やれやれものの雅も解さぬ」といったことを呟いたが、その表情は明るい。

成都の桃が満開を迎える夜、俺たちは新たな契りを交わした。【了】

説明
蜀ルートにて、赤壁後も鼎立が続いたらという設定で書いております。

一話完結です。

よろしければ、お付き合いくださいませ。

その他単発集:http://www.tinami.com/view/65323

〔追記〕
本当に多くのご反響をいただきまして、ありがとうございます!
皆様から、続きをとのお声をいただき嬉しさでいっぱいです。
そこで現在、そのお声にお応えできればと思案の最中でございます。
しかし、私の力不足から未だ具体的な予定は立てられないでおります。
ですが、近いうちに必ずや!
申し訳ありませんが、今しばらく、今しばらくお時間をいただければと存じます。

[追記2]
遅くなりましたが、続編を書かせていただきました。

第一部「途上の分かれ道」:http://www.tinami.com/view/78077
第三部「血路」:http://www.tinami.com/view/77811
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コメント
ええ話や( ⊃ДTT)(零壱式軽対選手誘導弾)
多くのコメントをいただき、感謝感謝にたえません! 本当にありがとうございました!(山河)
申し訳ありません! 本来でしたら、一つ一つにお返事をするのが筋なのでしょうが、「追記」というかたちで上記させていただきました。どうかご無礼をお許しください。(山河)
お見事!(FLAT)
うるうる(っT)(祭礼)
感動です。このままいざ五丈原!(クォーツ)
よかったと思います。しかしここまでやると一刀消えてしまいそう・・・(k3)
惜しい…こんなにも良作であるのに一話完結とは…OTZ(MiTi)
ええ話やw 孫呉が裏切ったって事を除けばw この話の続きがあるといいなって思いました^^w(Poussiere)
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