極悪の聖者達
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極悪の聖者達

 

 

 

「また『やった』んだ?報酬は?お菓子一年分か?」

「そんなに安くないな。下衆のつぶし合いとはわけが違うんだぞ」

 

部屋の中は暗い。月の光ぐらいしか光源がない。月光を反射して光ったのは杖であるようだ。過剰精錬のお高い杖だろうが、奴がそれを手に入れた過程と代償を考えるとアサクロの自分ですら頭痛がしてくる。

 

「お前こそ随分繁盛してるな。悪魔払いはそんなに金になるのか」

「.............病んでる人が多いからね」

 

くくくく、と笑ってるこいつの方がよっぽど悪魔だ、と思う。金持ちの悪霊ツキだの、先祖の因縁だのといった妄想に真面目に付き合うどころかあおりにあおって形ばかりの浄化の儀式をする。飲むように渡す聖水には薬が..............ああここから先は俺ですら外道すぎて考えたくもない。

 

「あいつらは自分で自分に祟ってるのさ。なんか言いたそうだけど、別にいいだろ?先祖代々、友人だろうが恩人だろうが踏み台にして今の地位にのし上がったような金持ち連中だの、貴族連中だの...........奴らは少しばかりの安らぎが欲しい、俺はその対価をもらう。俺はいっぺんも『これで問題が解決します』だの『病気が治ります』とは言ったことないよ?」

 

こいつの着ているのはハイプリーストの神々しげな衣装だが、実際、グラストヘイムのイビルドルイドみたいな格好の方がお似合いだと思う。自分のやってることもそう褒められたことではないが、俺には一応自分なりの基準というものがある。しかしその基準と言うのが、結局こいつの言う「あいつら」に対するものと同じなのがなんとも...............

 

「俺は形ばかりの救いを与える。お前は絶望を与える。どちらも意図するところは同じとは、笑えるね」

 

彼はそう言うと、ふいに後ろのドアに行き、すっと開けた。

 

「勘だけは相変わらずいいのね」

 

ドアの向こうにプリーストの女が立っていた。時々、小さな男の子を連れているのをよく見る。彼女が預かっている、孤児らしいが。

 

「勘ぐらい良くないと、長生きできないからね」

 

彼はプリーストから書類を受け取ると、御苦労さま、と言ってまた扉を閉めた。その短い間に、俺がプリーストとアイコンタクトしていたことはばれているんだろうか、どうなんだろう。

 

「そろそろ帰る。報告もしないといけないしな」

 

追手を撒くためにいったん教会に逃れてきただけなので、そんなに長居する気もなかったのだが、腐れ縁のこのハイプリに見つかったので、夜中のお茶などに付き合わされてしまった。

 

「...........ゲフェンの彼女はあきらめたらしいな。まああんな塔に閉じ込められたままじゃね」

 

報告書を読みつつ彼はつぶやいた。報告書にはなんだかよくわからない文字が書いてある。自分が字を読めないわけではない、これは教会の聖職者だけが使う文字だ。せっかく読みにくくしてあるものをわざわざ教えてくれるのには理由がある、が。

 

「あっちはあれでいいだろう。魔法使いどもはもう少し融通が効くし、まだ気が付いていない。癖のあるのは教会のご老体、か」

 

そう言いながら対人用のカタールを取り出して見せる。

 

「...............そこまでではないと思うな。まだ早い」

 

彼はそういうと、カタールの先に人差指を向けて、ほーりーらいと♪と軽くつぶやいた。ぱしっと小さい光がカタールを弾いた。

 

「怨念で真っ黒だよ」

「お前の腹の中ほどじゃない」

 

よくこれでハイプリーストなどという職業がつとまるものだ。初仕事で過呼吸を起こして動けなくなり、危うく追手に捕まりそうになった俺よりよっぽど暗殺者向きなのではないだろうか?

 

「じゃあ、本当にそろそろ退散するとしよう。ゲフェンはしばらく監視だけでいいだろうし、こちらもまだ動くには時期尚早のようだからな」

 

いささか破れかけたマフラーを首に巻きなおして立った。

 

「首を常に覆わないと落ち着かないのは治らないんだな.....まあ、それで落ち着くのなら安いもんだしな」

「正装だよ。仕事の『相手』の最後を看取るわけでもあるからな。礼は尽くすさ」

 

交渉するには相手の弱点を突いておいてから優しくフォローして落とす、というのがこいつの持論であるらしいが、さて今日はこれから何人目の女と過ごすつもりだろうか?全く俺は男で良かった。

 

良く見るとこいつの部屋には、戦闘の際の装備こそ充実しているが、装飾らしいものは何もない。机と椅子と、タンスに本棚にベッド。必要最低限だ。生活に興味がないのだという。生きていくのに必要なのは

 

「まぁその点俺は可愛い女の子さえいつも横にいてもらえればそれでいいんだ」

「女の子はマフラーか。常に人肌が感じられないと落ち着かないとか病気だろ」

「でも絶対に二股かけたりはしないよ。いつも一人にすべてを捧げてるんだから」

 

言葉にウソはないんだが、こいつがどういう基準でその都度の女性を選んでいるのかを知っている俺にはもうただの外道にしか見えない。このままいるとますます疲れてくる気がしたので、退散しようとしてふっと言ってみた。

 

「...............あのプリーストの子、強くなったなぁ。前はお前に何か言われたってろくに返せもしなかったじゃないか」

「そんなのアコライトのときの話だよ」

「お前が面白がって面倒見た子だな。お前の性格でなぁ。偽善か?」

「そんなんじゃない」

 

少しからかってやろうとしたら意外に強い口調で返ってきたので少し驚いた。

 

「............俺の為にやったんだ」

 

説明
ほぼ一年ぶり更新で....今回は短めですが、また更新し始めたく思いますのでとにかく再びの一歩を踏み出してみました。爽やかに行きたいところですのですがすがしい程の極悪二人組です。
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