最悪のBlackout
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リカの手から携帯をもぎ取ろうとしたその矢先、携帯が高らかに着信音を上げた。液晶を覗いた。発信者は・・・・・・鞠川静香だった。

 

「貸せ!」

 

携帯を奪い取ると、耳に当てた。

 

『圭吾?』

 

スピーカーモードに切り替えてリカにも彼女の声が聞こえる様にする。

 

「静香!良かった・・・・・無事だったか。俺とリカも大丈夫だ。今どこにいる?」

 

『東坂二丁目の高城さんのおっきい家だけど・・・・・あ、後リカの鉄砲とか持ち出しちゃったんだ。』

 

一心会の所か。よし・・・・それなら一先ず安全だ。装備も食料も、必要な物は潤沢にある。それにリカの銃を引っ張りだしたのなら一先ずは安全だろう。恐らく扱い馴れてる生徒が一人入る筈だ。

 

「それは別に構わないわ。本当に無事で良かった。」

 

「今からどこに向かうつもりだ?」

 

『私以外のグループにいるのは生徒だから、家を回って行くつもりだけ』

 

ブツッ!

 

「おい!」

 

「静香!?」

 

突如、電話が切れた。画面からきな臭い異臭が漂っている。幾らボタンを押してもうんともすんとも言わない。

 

「見て、空が・・・・!」

 

俺の前に影が現れた。それもハッキリと。夜に近付きつつあるのに、影がある。明らかに何かがおかしい。振り向いた瞬間、空が十数秒間明るくなり、空港の蛍光灯や滑走路のランプなどが全て消えた。無線もうんともすんとも言わなくなった。

 

「リカ・・・・」

 

「ええ。可能性ありと思っていた事が現実になってしまった。」

 

リカは手持ちの銃のサイトを覗き、ドットが無いのを確認すると、全ての銃からそれを取り外し、投げ捨てた。今さっき起こった現象の呼び名は色々ある。高高度核爆発、電磁パルス。

 

「おい!一体何がどうなってるんだ!あんた警官だろ!?説明してくれ!何で携帯が使えないんだよ!」

 

「EMP攻撃だ。」

 

噛み付いて来たアラサーのサラリーマンの質問に答えてやった。

 

「簡単に言えば、今後一切電子機器は使えないって事よ。集積回路が焼けてもう使い物にならない。」

 

俺が吸っていた葉巻を俺に返したリカが代わりに分かり易く簡潔に説明した。何時に無く厳しい表情で。これで現在の状況変化はBadからWorseどころの話じゃない。無線で部隊の連中と連絡を取れなくなると言うのは非常に不都合だ。部隊の命は団結と連携。それが今たった一つの行動によって一気に突き崩されてしまった。

 

「更に言えば、私達はこれから本当の闇を知る事になる。まあ、懐中電灯位ならまだ使える筈だから大丈夫よ。それに給油車で起こした爆発もある。あれも篝火ぐらいにはなると思うし。」

 

燃え続けてくれればの話だがな。島にいる以上、灯りがどこにも見えないと言うのはかなりの痛手だ。仮に海自が来る前に洋上空港から脱出する事が出来たとしても、見当違いの方向に進んでしまってはそれこそ自殺行為でしかない。

 

「リカ、どうするよ?部隊の統制が乱れて完全に崩れるのは時間の問題だぞ?」

 

「確かにな。けど、だからと言ってここにいる人間を放って置く訳には行かないだろ。」

 

「それは、警察官としての言葉か?それとも田島博之と言う一人の人間としての言葉か?」

 

「・・・・・何が言いたい?」

 

俺の言葉に田島は眉根を寄せた。

 

「お前に大切な物が存在する様に、俺にも存在する。悪いが、今の俺にとってリカや静香より大事な人はこの世に存在しない。まあ、俺と両親も含めたら五本の指に入るが。」

 

それはともかく、と俺は続けた。

 

「気を悪くしないで欲しいが、二人が側にいれば、俺は他の人間がどうなろうがどうでも良い。正直、今俺達が守る様に言われた市民は足手纏いだとしか思えない。やる事と言えばぎゃーぎゃー文句やら御託を並べるだけ。役に立つ奴、立とうとする奴は両手足の指で数えられる。海自が救出に来るまでここに留まれば、確かに安全だ。けど、俺はそれを待てる程が気が長くない。加えて、静香も今現在感染者から逃げ惑ってる。どこの誰と一緒にいるかは知らないが、俺達みたいなプロが不在でどれだけの間生き延びられるか分からない。だから、街に出る。」

 

「圭吾・・・・」

 

「止めても無駄だぞリカ。俺は行く。一人ででもな。海保か海自の小型船が何隻かメンテの為にここに出されているのを覚えてる。対EMP処置はしてある筈だから、問題は無い。リブボートか何かで街に向かうさ。明け方に俺は出る。」

 

それだけ言い残すと、俺は警備車両に放置したままの荷物を取りに行った。重火器を入れた黒いダッフルバッグは何故か最初に運んだ時よりも重く感じた。ふと右手を見ると、震えている。

 

「震えるな・・・・・」

 

ビビってる場合じゃない。そんな事は後で幾らでも出来る。だが、やるのは今じゃない。俺は、ここで一人助かるつもりは無い。静香を助けて守らなければならない。あいつ一人じゃ、危なっかし過ぎるからな。

 

「さてと、明日に備えて寝るか。」

 

腕時計のアラームを設定すると、堅い床の上に横たわって目を閉じた。そして腹式呼吸を繰り返すと、ゆっくりと微睡んだ。

説明
いよいよ脱出の手筈を整えて行きます。
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