真・恋姫†無双〜黒の御使いと鬼子の少女〜 6
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〜どこかの街〜

 

「はい確定。ここは東京じゃありません」

 

 まだ疑っていたのか、北郷は街へ入った瞬間、そんなことを呟いていた。

 

「ホント……何がどうなっているんだかなぁ……」

「何がどうなっているのかが分ったところでこの状況が変わるわけではないだろう」

「そりゃ、そうだけども……」

 

 と、そんな会話をしていると、前から張飛がプンスカという音が似合いそうな怒り方でこちらへ走ってきた。

 

「お兄ちゃんたち、何やってるのだ? 鈴々は腹ぺこなんだから早く来るのだ!」

 

 そう言って、北郷の手を掴み、俺の手を掴もうとしたところで、その手は両方とも雪華が掴んだ。

 

「せ、雪華?」

「……むー」

「? とにかく早く来るのだ!」

 

 そのことを張飛は特に気にしなないで、北郷だけ引っ張って店の中へ入ってしまった。

 

「俺たちも行くぞ」

 

 と、いつもなら雪華が引っ張るところなのだが、何故だか、不機嫌そうにその場を動こうとしない。

 

「……あー」

 

 どうやら、少し妬いているようだ。さっき外套の中でしていたことも、構ってほしいというサインだったらしい。

 

「……落ち着いたら遊んでやるから、少し我慢しろ」

「本当?」

「約束だ」

「……ん!」

 

 とたんに機嫌が良くなり、さっきの張飛のように俺を引っ張って、さっき二人が入って行った店へ俺たちも入って行った。

 

〜店内〜

 

「ふぅ」

 

 そこで食事を済ませて、俺は一息ついた。和食や、野外料理という意味での野食ばかりだったので、久々の中華料理は美味かった。雪華はデザートのゴマ団子を美味しそうに齧っている。北郷も俺と同じように一息ついたところで、劉備が姿勢を正してこちらへ話しかけてきた。

 

「それでね、北郷様、御剣様」

「さっきの話の続き、か?」

 

 こくりと頷いて、彼女は真剣な目で話を始めた。

 

「さっきも説明した通り、私たちは弱い人が傷つき、無念を抱いて倒れることに我慢が出来なくて、少しでも力になれるのならって、そう思って今まで旅を続けていたの」

 

 そこまで言って、彼女は少し視線を下げて、悔しそうに唇を咥えて、話を続ける。

 

「でも……三人だけじゃもう、何の力にもなれない。そんな時代になってきている……」

「官匪の横行、太守の暴政……そして、弱い人間が群れをなし、さらに弱い人間を叩く。そういった負の連鎖が強大なうねりを帯びて、この大陸を覆っている」

「三人じゃ、もう何も出来なくなってるのだ……」

 

 それに続いた二人も、本当に悔しそうに話している。だが、その後を話し始めた劉備の目には強い光が宿っていた。いや、正しくは三人とも、だが。彼女たちは、折れていない。

 

「でも、そんなことで挫けたくない。無力な私たちにだって、何か出来ることはあるはず。……だから、北郷様、御剣様!」

「は、はい!?」

「…………」

「私たちに、力を貸してください!」

「ほわ!?」

 

 二連続で素っ頓狂な声を上げている北郷をちらりと横目で見てから、俺は彼女たちの目へ視線を移した。本当に、本当に強い光だ。でも、その光は、淡い。いや、儚い、とでも言うべきか。

 

(……甘いな)

 

 彼女たちがなそうとしていること、それは結局、一面性だけのもの。その裏で流される涙を知らないとしたら、ただの世間を知らぬおめでたいお嬢様だ。また、彼女の中での弱者とは一体何なのだろうか?

 

(とりあえず最後まで聞くとするか)

 

 お嬢様かどうかを判断するかは、その後でも十分なはずだ。

 

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「天の御遣いであるあなた達が力を貸してくだされば、きっともっともっと弱い人達を守れるって、そう思うんです! 戦えない人を……力無き人を守るために。力があるからって好き放題暴れて、人のことを考えないケダモノみたいな奴らを懲らしめるために!」

 

 身を乗り出して、そう訴えかける彼女の瞳には、少し涙が浮かんでいた。そこからわかったのは、お嬢様でも、それなりの芯を持つ人間だということ。だが、所詮はお嬢様だ。

 

 しかし、その言葉に打たれたのか、北郷は少し悩むようなそぶりをした後、口を開いた。

 

「だけど……俺は君たちが考えている、天の御遣いなんて云うすごい人間じゃないよ? 普通の、どこにでも居る学生だ。……そんな、人間が人を助けるなんてこと、出来るのかな?」

 

 それは、自身の疑問と、彼女たちへの問いかけの二つの意味があるように感じられた。北郷の中でも、やはり迷いがあるのだろう。そして、俺も彼に続いて自身の意見を述べた。

 

「俺も似たようなもんだ。出来ることと言えば、人を斬る事ぐらいしかない。ある意味、天の御遣いとは真逆の存在ともいえるぞ?」

 

 その言葉を聞いて、口を開いたのは関羽だった。

 

「……確かに、あなた達の言うとおりでしょう。ですが、正直に話せば……あなた達が天の御遣いで無くても、それはそれでいいのです」

「そうそう、天の御遣いかもしれないってのが大切なことなのだ」

「どういうこと?」

 

 北郷は分かっていないようだが、これは……

 

「我ら三人、憚りながらそれなりの力はある。しかし、我らに足りないものがある。それは……」

「名声、風評、知名度……そういった、人を惹き付けるに足る実績がないの」

 

 やはり、そういうことか。

 

「要は、天の御遣いが仲間に居るぞって風評を利用して、乱世へ踏み込んでいく、そういうことだな?」

 

 その言葉に、彼女たちは大きく頷いた。確かに、この時代ならばそういった手段はかなり有効だ。特に、人集めに関してはかなりの効果が期待できる。だが……

 

(それは、その“神輿”が集中的に狙われることを示す)

 

 そうなれば、数多の暗殺者がその“神輿”を狙いに来る。そうなると俺にとっては、少々めんどくさいことになる。

 

 敵の暗殺者が真っ先に狙うとしたら、雪華だからだ。見た目はあまり強くなさそうだが、劉備とて、この時代の人間、いざとなれば少しは戦えるはず。北郷も、まぁ、戦えなくはないだろう。だが、雪華は違う。彼女は戦えない。狙われたらなすがままになるしかない。

 

(決まったな)

 

 俺は、この時点で結論を決めた。あとは、北郷の意見を聞くことにしよう。

 

「…………」

 

 彼は、目を閉じて、静かに考えを巡らせている。その様子を固唾をのんで見守る彼女たち。

 

「すぅ……」

 

 一度、深呼吸をして、北郷は彼女たちへ向き合った。自身が導き出した結論を告げるために。

 

「……わかった。俺で良ければ、その神輿の役割、引き受けるよ」

「ホントですか!?」

 

 その答えを聞いた時、彼女の顔は、ほんとに嬉しそうだった。だが、次の一言で一気に凍りついてしまう。

 

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「ああ、一宿一飯……正確には一飯かな? その恩義だってあるし。俺で良ければ」

 

 北郷も“あれ?”といった表情で三人を見つめ返してしまう。かく言う俺も、この雰囲気は訳が分からなかった。

 

「……一飯の、恩?」

「一飯の恩、ですか……」

「一飯の恩……」

 

 三人三種、さまざまな反応だが、どれも同じ単語を繰り返す。そこで俺は気が付いてしまった。いや、本当は気が付きたくなどなかった。だが、北郷はいまだ気がつかないのか、“何かマズイこと言った?”と聞き返している。

 

 その言葉に三人は、非常に気まずそうにとんでもないことを口にしやがった。

 

「えーと、あの、ですね、天に住んでいた人だから、お金持ちかなーと、思って、ですね」

「天の御遣いのご相伴にあずかろうと……」

「つまり鈴々たちはお金を持っていないのだ♪」

「“はぁあああああああああああああああ!?”“えーーーーーーーーーーーーーーっ!?”」

 

 こ、こいつ等! 何かを言う前に、殺気全開で背後から何かが近寄ってくる。後ろを振り向けば、

 

「ほぉ……」

 

 店の女将が、オーラを滲ませて立っておいででした。張飛が“げっ! なのだ”なんてふざけたことを言いているが、女将には水どころか、油にすらならない。

 

「あんたら全員……一文無しかい!」

 

 劉備と関羽は必死に言い訳をしようとしているが、女将の耳には入らない。だが、この場でみすみす食い逃げ犯の汚名を着るわけにはいかない。

 

「ま、まて女将! 俺は金を持っている!」

 

 その言葉に三人の目が輝くが、先に断っておかなければならない。

 

「お前らの分はないからな?」

 

 希望から絶望へ、そして。

 

「ケチぃ!」

「そのぐらいは払ってくれてもいいのだ!」

「くっ!」

「いや、ちょ、ええ!?」

 

 理不尽な怒りへと変わっていく。だが、本当に財布の中にあるのは俺と雪華の分くらいで、って!?

 

(しまった!)

 

よくよく考えれば、財布に入っているのは戦国時代のお金。この世界で役に立つはずがない。いや、一つだけあった!

 

「お、女将、すまんがこれでいいか?」

 

 そこから出したのは、いくつかの銀貨だった。お金は使えなくとも、貴金属としてならば問題はないはず!

 

「ほぉ、銀かい?」

「これで、俺とこの子の分は足りるはずだろ?」

 

 俺が食べたラーメンと、雪華が食べたチャーハンとゴマ団子、そのくらいだったらお釣りが!

 

「うーん、ちと足りないね? この重さだと」

「なんだと!?」

 

 そんなバカな!? 唖然とする俺へ女将はその理由を語る。

 

「だって、その女の子、さっきからかなりのゴマ団子食べてるよ?」

 

 言われて後ろを振り返れば、

 

「?」

 

 彼女の前には山積みのお皿が積み重なっており、こちらへ振り返った彼女の手には、運ばれてきた時と同じくらいの大きさのゴマ団子が……。

 

「まぁ、あの子の分くらいだったら足りるけど?」

 

 女将は指を鳴らしながら俺に近づいてくる。

 

「……ふっ」

 

 やはり、あの4人を見捨てようとした罰なのだろう。これは。

 

 そして、コミカルな打撃音が店の中に響き渡った。

 

「お、お願いですから、話を聞いてくださ〜い!」

 

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あとがき〜のようなもの〜

 

みなさんどうも、おはこんばんにゃにゃにゃちわ。風猫です。

 

前回のコメント欄にも書いてありましたが、飯屋騒動です。でも、原作でも思ったんですけど、天の国=金持ちって図式はどこから来るんでしょうかね? いまだに謎です。

 

にしても、神経痛が痛い! 朝は金属製のぶっとい杭で叩かれているようなギンッ! とした痛みが断続的に続いていてつらかったんですけど、今は薬を飲んでだいぶ落ち着いて、金属製の杭で叩かれている程度の痛みが何十秒ぐらいにキンッ! ってくる感じです。

 

皆さんも、お体には気を使ってください。では、何かありましたらコメントの方に(あと、ネタバレはダメですよ?)お願いいたします。それでは、また次回〜

 

……だから、石ネタは当分使わないってば。

説明
白髪の鬼子と黒の御使いの、守るために戦い抜いたお話

真・恋姫†無双の蜀√のお話です。

オリジナルキャラクターが蜀√に関わる話なので、大筋の話は本編とほぼ同じですが、そういったのがお嫌いな方はブラウザのバックボタンをお願いします。

大筋は同じですけど、オリジナルの話もありますよ?(´・ω・)
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コメント
コメントありがとうございます! nakuさん、医者には今日入ってお薬もらってきたんで、たぶん大丈夫ですw 地球ジェット…さん、頑張って更新していきますw あと、劉備一行については、まぁ、長い目で見てくださいw(ちなみに作者も劉備はあまり好きじゃなかったりw 好きなのは関羽です)(風猫)
ツナまんさん:恐縮です、とかく嫌われがちな劉備ですがはっきり物言うメンター/助言者が居ればいくらかマシに成ると思いたいので…助言者に確固たる権利と地位を与え、仲間の名の元に責任転嫁をさせず上下関係と決定権と責任をはっきりさせればOK。極普通の組織作りだけなのです。(禁玉⇒金球)
一刀はついていくのか、御剣はどうするのか!?更新楽しみにしてます!!(地球ジェット…)
禁玉⇒金玉さんいいこと言った。というか所持金の確認もせずに店に入る一行も毎回どうかと思うが・・・(ツナまん)
↓悪気がないとは尚悪い!、法は無知を許さず!!、相互理解の為にもO・HA・NA・SHIと「話し合い」を推奨致します、あと賠償金と慰謝料も!!。主人公ならばきちんと道に背かない方向を示してくれると期待してます、倍返しだ!! (禁玉⇒金球)
ツナまんさん:ちょっとした作業なら何とかなるんですけどね〜 とりあえず早く治ってほしいw お気遣いありがとうございます!(風猫)
禁玉⇒金球さん:お、おっふ!? まさかそのような返しが来るとは…… ま、まぁ、本人たちに悪気はないはずなので……(風猫)
体調不良なのにご苦労様です。しかし雪華にはどこか親近感が湧きますね。うちのオリ主が半妖だからでしょうか?今後ともがんばってください。(ツナまん)
見捨ててはないでしょ、たかりまたは強請の被害を避けた正当行為です、あと詐欺の片棒担がされてます。(禁玉⇒金球)
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鬼子 真・恋姫†無双 オリジナルキャラクター 蜀√ 

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