アクセル・ワールド 〜Blaze Brave〜 第2話 entrance:入学
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第2話 entrance:入学

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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2046年4月7日 7時30分05秒 桜上水5丁目瓜生家 瓜生暁隆

 

 

 

 

 

昨日の肌寒かった天候が嘘かのように晴れ渡った日の朝。

 

古めかしい目覚まし時計が掻き鳴らすその見た目に似合ったベル音ををどうにか止めた瓜生暁隆は、20秒程

フリーズした様に静止して思考を起こしてから立ち上がると、隣の部屋の洗面所の鏡と向かい合った。

 

…いよいよ今日がきてしまった…

 

昨日瀬菜が笑顔で「きっと大丈夫ですよ!」と言ってくれた時は不安もどこかへ飛んでいったのに、一晩寝る

とまた不安と緊張が戻ってきてしまっている。

 

そんな自身の悶々とした気分の中で、暁隆は鏡を見ながら髪の手入れと朝の支度を済ませてハンガーに掛っている新品の学生服に手を伸ばす。すると

 

「アキくーん、朝ご飯出来たわよー」

 

と暁隆の心情とは正反対の爽やかな声が下の階から響いた。

 

「今、行きまーす」

 

下にいる声の主に聞こえるように返事をした暁隆は、急いで学生服に着替えて真新しい学生鞄を掴むと、自室を出て家族の待つリビングへと階段を駆け下りた。

 

「おにーちゃん、おはよー」

 

「おはよう、香苗」

 

ベビーチェアーにちょこんと掛けて可愛らしく挨拶をくれた義妹の((瓜生香苗|うりゅうかなえ))に優しく言葉を返すと、暁隆は電子新聞を読んでいると思われる義父の((瓜生聡一郎|うりゅうそういちろう))の隣の椅子に腰を下ろした。

 

「父さんも、おはよう」

 

「…あぁ、おはよう。…昨日はゆっくり休めたか?」

 

手元の端末で電子新聞を閉じた義父は、静かな声ではあったが返事と共に労わりの言葉を掛けてきた。

 

「うん。最近は"うなされなく"なってきたし、調子が良いよ」

 

「……そうか…」

 

そうしたやり取りをしていると、キッチンから義母の((瓜生真知子|うりゅうまちこ))がご飯と味噌汁、焼きたてのベーコンエッグの乗った皿を人数分トレーで運んできた。

 

「二人とも朝から声に張りがが無いわね〜。しっかり食べでテンション上げてかないとだめよ」

 

「ママ、てんしょんってなぁに?」

 

「元気の無い人に、『元気だせ〜〜』…って元気をあげるおまじないよ」

 

自身や義父とは違う快活な声を食欲をそそる匂いを漂わせる皿を各自の前に広げながら、香苗の質問に答える真知子。

 

母の返答を聞いた香苗は両手を開いて高くかざすと、それを兄と父に向けてヒラヒラとふりながら呪文を唱える様に「パパ!おにーちゃん!てんしょん〜〜」と元気一杯に呟いた。

 

自分を慕ってくれている義妹の可愛い仕草に勇気づけられた暁隆は義父と顔を合わせて苦笑すると、義母が作ってくれた朝食に箸を伸ばしていた。

 

 

 

 

 

「今日はごめんなさいね。せっかくの入学式なのに行ってあげられなく…」

 

明らかに他の皿のよりも厚みのあるベーコンに舌鼓を打ちながら食事を楽しんでいる暁隆に、真知子がそう話しかけてきた。

 

「別に気にしなくていいですよ。それより香苗に付いててあげて下さい、風邪も治りかけですし」

 

「ママ、にゅ〜がくしきってなに?」

 

「お兄ちゃん、今日から新しい学校に通うのよ。入学式はその学校に入りますっていう儀式みたいなものよ」

 

「えぇ〜ずるい。カナもおにーちゃんとがっこうにいく!」

 

…あぁ、俺はなんて幸せなんだろう…

 

"あの日"、世界の全てに絶望していた自分がこんな温かい日常を過ごせているのはこの人達がいてくれているからだ。

 

そう考えると、自然と心が温まってくるのを暁隆は感じていた。

 

「香苗がもう少し大きくなったら、その時はにーちゃんと一緒に登校しようね。」

 

「うん!するぅ〜〜」

 

目玉焼きの黄身を口元に付けながらニッコリと笑う香苗の頭にそっと手を伸ばして撫でると、暁隆は皿に残っていたベーコンの切れ端を口に入れて席を立った。

 

「…もういくのか?」

 

「うん。美浦さんと一緒に行く約束してたから」

 

「アラアラ、最近の子供は早いって聞いてたけどアキくんもスミに置けないわねぇ〜」

 

「そんなんじゃないですよッ/////。じ、じゃあ行ってきます」

 

義母の一言で赤らめてしまった顔を見られまいと、暁隆は学生鞄を持つとそそくさと玄関へと向かったのだった。

 

 

 

 

 

8時14分17秒 桜上水5丁目 美浦瀬菜

 

 

 

 

 

「暁隆君、待たせてごめんなさ〜い」

 

叔母の保子と共にアパートを出た美浦瀬菜は、これから通学路となるであろう道を駆けていると、目標の人物を見つけて声を掛ける。

 

「いや、僕も丁度今家を出たとこだったから大丈夫だよ」

 

「そうですか、……こうして見ると暁隆君ってホント大人っぽいですね〜」

 

「えっ!?そ、そうかな…」

 

ブレザーを着こんだ暁隆の姿は彼自身の言動もあってか、とても入学初日の中学生とは思えない落ち着いた雰囲気を醸し出している様に瀬菜の目には映った。

 

「美浦さんも制服似合ってるよ」

 

「あ、ありがとうございますッ/////」

 

さらりと言われた褒め言葉に顔が熱を帯びるのを感じながら瀬菜が歩き出すと、暁隆もその歩幅に合わせて並

んで歩き始めた。

 

 

 

 

 

暁隆と並んで、アパートや住宅地の立ち並ぶ細道を歩くこと数分。

 

「楽しみですね、学校生活」

 

春めいた心地よい風の吹く中、瀬菜は暁隆にそう呟く。

 

「美浦さんが不安な事とか無いの?」

 

「もちろん人並みに不安な気持ちもありますけど、それ以上に楽しみですね」

 

「……美浦さんはすごいね…僕なんか朝起きた時は不安と緊張で少し考えちゃったよ。…もし僕らよりもハイ

レベルで悪質なバーストリンカーがいた場合はどう対処すべきかとか…」

 

「昨日あんなに対策を考えたんだから大丈夫ですよ!それに友達になれるような人だったら学校生活がもっと楽しくなるかもしれませんし♪大丈夫、大丈夫〜」

 

「ふっ…そうだね、もっと前向きに考えてみるよ」

 

そういって苦笑する暁隆と並んで歩いていると、これから彼と通う事となる都立御子島学園の校門が見えてきた。

 

しかし、暁隆はすぐに門をくぐろうとはぜずに立ち止まると、周りをさり気なく見渡してから仮想デスクトッ

 

プを開いて操作を始めた。

 

それを見て瀬菜も仮想デスクトップから≪ブレイン・バースト≫のコンソールを開く。

 

すると、瀬菜のデュエルアバターであるカナリー・エーデルに暁隆のデュエルアバターであるサラマンデル・

ブレイブからタッグ要請が来ていた。

 

「…昨日打ち合わせたとおり、ダッグを組んだ状態で学園に入る。そして、学内ローカルネットへ接続する事になったら僕が加速してバーストリンカーの有無を探る。……手順は大丈夫だね?」

 

「了解です。ダッグにしてればよっぽどレベルが高くて勝つ自信が無い限りソロで乱入される確率は少ないから…ですよね?」

 

「そういうこと。とにかく充分注意しないとね…」

 

「だいじょーぶです!きっとなんとかなります♪」

 

表情を曇らせる暁隆を元気付けようと、笑顔を浮かべる瀬菜。

 

…きっと大丈夫。楽しい学校生活になる…

 

そう自身に言い聞かせるように心の中で瀬菜は呟いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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11時27分22秒 都立御子島学園中等部1年2組 瓜生暁隆

 

 

 

 

 

入学式のお決まりとも言える学園長の長い挨拶を含めた入学式がようやく終わり、決められたクラスの教室へ

と移動して少々げんなりした気分で椅子に寄り掛る暁隆。

 

瀬菜と同じクラスになった事は非常に幸運だったが、今現在そんな彼女は自身の席で多くの男子生徒から質問攻めのあっている最中であった。

 

可愛らしく守ってあげたいお姫様といったイメージの瀬菜が人気者になるのはなんとなく予想できていた。

 

対して、自身の予想以上に自分に話しかけてくるクラスメイトが皆無に等しいこの状況に、暁隆は少々物悲しい心持であった。

 

…まぁ、こんな顔に火傷の痕がある不気味な奴には話しかけ辛いよな…

 

そんな状況を冷静に分析してなんとなく納得できてしまった暁隆だったが、それはそれでまた寂しい気分になってしまう。

 

時折少し困った表情で自分のほうを向いてくる瀬菜に微笑みで返してから一呼吸つけると、暁隆は鞄から義父に頼んで製本してもらったお気に入りの小説を取り出した。

 

そして本に挟まれている瀬菜がプレゼントしてくれた手作りの押し花の栞を取ってページを開くと、暁隆の思考は文字が織り成す幻想的な世界へと自然と引き込まれていった。

 

 

 

 

 

「はい、皆さん。これからホームルームを始めます。各自決められた席に着くように」

 

ガラガラガラっと教室の戸が開く音と同時に落ち着いた雰囲気の眼鏡を掛けた30代ほどの女性が教室に入って

きた。

 

その音で思考を現実に引き戻された暁隆は、本を鞄にしまうと背筋を正して教壇のほうを向いた。

 

今まで楽しい会話に花を咲かせていた同級生たちも、そそくさと自分の席へと戻っていく。

 

ホームルームが始まると、"((胴森梢恵|どうもりこずえ))"と自己紹介した担任の先生は事務的だが丁寧に都立御子島学園とこれからの学園での生活について説明していく。

 

そしてホームルームも佳境に差し掛かった頃、梢恵は仮想デスクトップを開く動作を見せた。

 

「それではこれより、全員に学園内ローカルネットのアカウントを配布します。接続が可能かどうかチェックを行い、不備がある場合は申し立てるように。以上でホームルームを終わります。本日の学園からの日程はこれにて終了ですが、部活動や委員会の見学は可能なので興味のある活動には積極的に参加してみるように。以上。」

 

そういってホームルームを終わらせて梢恵は教室を後にした。

 

残された生徒達は再び近くの席の同級生と会話を始めるが、暁隆はすぐに自身の仮想デスクトップを開いて学内ローカルネットへと接続すると、周囲には聞こえない声で小さくつぶやいた。

 

「バースト・リンク!」

 

バシイイィィッ!!という衝撃音と共に暁隆の見ている世界が薄いブルーへと変色して静止する。

 

そして、自身の体も現実のものとは異なる自作した二足歩行の龍が羽織袴と二本差しを纏っている仮想アバターに変化していた。

 

すなわち、暁隆の音声発信に反応したブレイン・バーストプログラムによって『初期加速空間』が構成された状態となったのだ。

 

それを確認した暁隆は、≪ブレイン・バースト≫のアイコンを龍鱗で覆われた人差し指でクリックして起動すると、すぐさまマッチングリストを表示しようとする。

 

学内ローカルネットに接続した状態で加速してマッチングリストを開いたという事は、そこに表示されたアバターはこの学園内に存在するバーストリンカーのものであるとほぼ確定できる。

 

もし自身のブレイブと瀬菜のエーデル以外のアバター名がマッチングリストに存在した場合、暁隆はそのバーストリンカーと交渉ないし何らかの対処を行わなくてはならない状況に立たされる事となる。

 

そして、相手が好戦的で交渉不可能なハイレベルのリンカーであったりしたら、自分と瀬菜のバーストリンカー生命は一気に窮地に立たされてしまう事にもなりうる。

 

―それだけはどうしても避けなくては!―

 

『無制限中立フィールド』で巨獣級エネミーと一人で対峙してしまった時の様な緊張感をどうにか押し止め、マッチングリストに指を伸ばしてタッチした。

 

マッチングリストには下から≪カナリー・エーデル Lv3≫≪サラマンデル・ブレイブ Lv4≫と表示されていた。

 

そして、さらにその上に≪マラカイト・キャバレリー Lv4≫≪アドニス・セントール Lv5≫と二つのデュエルアバター名が刻まれている。

 

―アドニスに……マラカイトッ!!―

 

そう驚きの声を上げようとした瞬間、暁隆の仮想アバターを支える地面が消失し、世界が暗転した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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12時02分07秒 御子島学園ローカルネット≪世紀末≫ステージ サラマンデル・ブレイブ

 

 

 

 

 

地面に着地した暁隆は、すぐさま周囲の状況を確認した。

 

ボロボロに崩れかけ下駄箱へと続く入り口はふさがれているが、自身の左手に見える建造物が御子島学園の新校舎である事は理解できた。

 

すると現在自分が立っている場所は、今朝校門から入って新校舎ロビーまで歩いた石畳の道で間違いない筈だが、目視できる風景は現実のそれとはあまりにかけ離れた惨状を成していた。

 

キレイに整地され芝生が広がっていた場所はコンクリートで塗装され、さらに亀裂が至る所に走っている。

 

木造の旧校舎も半ば半壊しており、校門は鉄筋コンクリートや乗用車の残骸によって完全に塞がれている。

 

ドラム缶の中で何かを燃料として燃え上がる炎が発する灯りのみが、暁隆のデュエルアバター≪サラマンデル・ブレイブ≫の紅蓮の甲冑を鈍く光らせている。

 

「…≪世紀末≫ステージか」

 

そう呟くと暁隆の後方、旧校舎方面から地面を叩く足音が響いた。

 

「あk…、ブレイブ君〜」

 

咄嗟に背中に担いだ状態で装備されている強化外装≪フレイム・ブリンガー≫に添えた手を放すと、暁隆は後方かっら駆け寄ってくる瀬菜のデュエルアバター≪カナリー・エーデル≫のほうへと歩み寄った。

 

「エーデル、大丈夫?」

 

「はい、平気です。ブレイブ君こそ大丈夫ですか?攻撃されてないですか?」

 

「いや、まだ攻撃は受けてない。でも、そろそろ相手も動くはずだ」

 

そう瀬菜に声を掛けたまさにその時、ブレイブの右側―新校舎の方向―を指していたガイドカーソルの矢印が真後ろの方向へと時計回りに移動し始めた。

 

瀬菜も同じくカーソルの動きに気付いたようで、暁隆と共に新校舎端の校庭へと続く小道に目をやる。

 

「マッチングリストを確認する前に加速しちゃったんですけど、タッグの状態で対戦を挑んできたって事は高いレベルのバーストリンカーさんだったってことですか?」

 

「いや、そうじゃないんだけど……ある意味それ以上に厄介かも」

 

声に緊張を滲ませながらの瀬菜の質問に、瀬菜のそれとは異なる緊張した声で答える暁隆。

 

そしてついに、暁隆はその相手“達”を肉眼で捉えた。

 

自動車やバイクの車輪が地面を噛む音とは異なる馬蹄を踏み締めるような快活な音を響かせ、新校舎端から二

人…いやッ、二つの騎影が姿を現したのだ。

 

向こうも此方を目視で確認したようで、かなりの速度で走らせていた“馬脚”を徐々に緩めてスピードを落としつつ接近してくる。

 

瀬菜の前に立った暁隆は、近づいてくる二人のアバターへとしっかりと目を向けた。

 

暁隆達から見て左手側のアバターはエーデルよりも小型で青緑色の光沢のある装甲を纏いカウボーイハットを被っている。

 

しかし何よりも印象的なのが、RPGに出てくる聖剣の様な美しいデザインの一角を額に持つ“馬”に騎乗している事だ。

 

乗り手よりも鮮やかな緑色の光沢を光らせるその姿は、≪世紀末≫ステージの殺伐とした風景と相反してまるでオブジェのように壮麗としている。

 

対して、その隣を一角馬と同じ歩幅で歩み寄ってくるアバターは、ある意味それ以上に印象的で“異様”な形状を成していた。

 

斧槍状の武器を携え、光沢を持たない紺青色の重装甲と二本角の兜型のフルフェイスとを纏う体躯は、ゆうに2mを超えて3mに達しようかというほど高い。

 

そして下半身は、馬を模したような形状の胴と四本足がその巨体を支える様に形成されている。

その姿はまさに、ギリシャ神話に登場する半人半馬の怪物ケンタウロスを模しているかのように厳粛な様相を

醸し出していた。

 

青緑色のアバターは暁隆達の2mほど前で騎馬を停止させて鐙から降りると、ゆっくりと近づきブレイブの前に手を差し出した。

 

「よ、久しぶり。それからよろしくな、ブレイブ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

entrance:入学 END

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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主人公とヒロインに加えてメインキャラとなる二人のデュエルアバターの登場でした♪

 

次回、ついにかれらのアバターの能力が明らかにッ!!

 

長い間引っ張ってスミマセンorz

 

どうか次回もお楽しみに!

 

ではッノシノシ

 

PS:感想・批評などありましたらどんどんお願いします(自分もうれしいのでwww)

 

 

 

 

 

 

説明
遅くなりました!
第2話になります。
誤字や脱字、感想などありましたら、遠慮なく書き込んでください!
では、どうぞ!

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コメント
本郷さんへ 色々とどうもありがとうございますorz。どうぞ楽しみにしてて下さい!!(遼東半島)
敵ではなかったので良かったと言うべきでしょうかねw・・・まぁこれからの彼らの学園生活に期待ですね!(本郷 刃)
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