咲夜「え？え？あいつって、女性に人気あるのか？」

ちょっと想像できなっか

悠里「結構いますねー。顔は渋くてかっこいい方だし、物腰は柔らかいし、話は聞いてくれますし。

なんていうか、理想の大人の男って感じではあるんですよね」

月「東さん、素敵ですよね…」

詠「月！？」

咲夜「ゆ、月！考え直せ！零士だぞ？あいつはあれだ、鬼畜だぞ？

人を貶めることに全力を掛けて愉悦を感じるような人間だぞ？それでもいいのか？」

月「でも、私たちには優しいですよ？」

咲夜「そ、そうかもしれないが…」

詠「月？さすがに東は…そ、そうよ。歳が離れすぎてると思うわ！（零士27歳）」

月「そんな事ないと思うけど…

それに詠ちゃんだって、この前東さんに買ってもらった髪留め、嬉しそうに眺めてたよね」

詠「ゆ、月！なんでそれを！？」

悠里「ほっほーう？これは深く聞かなきゃいけないかなー？」

悠里は悪い顔して詠に詰め寄った。

本来なら止めていたかもしれない。だが、私も少し、ほんっとうに少しだけ、興味があった

詠「べっ、別に大した事じゃないわよ！ただちょっと、この前買い出しについてった時に…」

詠「結構買ったわねぇ。これが全部無くなるって言うんだから、驚きよねー」

零士「それだけお客さんが来てくれるって事だね。ありがたい事だよ」

詠「そうねー。………あ」

零士「ん？あの雑貨屋さんが気になるかい？荷物は持っててあげるから、見ておいで」

詠「え？い、いいわよ！別に………」

零士「…ふむふむ。…店主、そこの髪留めをくれるかい？」

店主「へいまいど！こちらのお嬢さんにでいいのかい？」

零士「頼むよ」

詠「ちょ！なんで僕がそれ欲しいって…じゃなくて！

なんで東が買ってんのよ！ホントいいわよ！」

零士「うーん…じゃあ、これはいつも頑張ってくれている詠ちゃんに、

僕から感謝の気持ちとして、贈らせてくれないかな？」

詠「な！？…う、ど、どうしてもって言うんなら、貰ってあげないこともないわ！」

零士「ふふ。どうしても」

詠「あぅ……あ、ありがと…」

悠里「かぁーっ！キザったらしいなぁ東おじさん！」

月「その日以来、一日一回は、その髪留めを見てるんですよ」

咲夜「へ、へぇー」

なんだよ。ずいぶん優しいじゃないか零士のやつ。

私には最近、そう言ったものは買ってくれないくせに

悠里「月ちゃんは、東おじさんのどんなところにドキッとした？」

月「へぅ、ど、ドキっですか…」

悠里「ほれほれー、いっちゃいなよー！！」

月「あ、あの…」

月「あ、東さん。おはようございます。朝ご飯もうすぐできますよ」

零士「おはよう月ちゃん。いつもありがとうね。手伝おうか？」

月「大丈夫ですよ。もうできますので」

零士「そっか。うん。美味しそうだね。ありがとう。いただきます。

……うーん、このお味噌汁、美味しいなぁ」

月「本当ですか？」

零士「あぁ。僕なんかのより全然美味しいよ。うん！この魚も、程よい塩加減で美味しい」

月「ありがとうございます」

零士「ほんと、月ちゃんのお味噌汁は毎朝食べたいなぁ。

…あ、なんか今の結婚の申し出みたいだね」

月「け、結婚！？」

零士「うん。僕の国では、ベタな文句でさ。

毎朝お前の味噌汁が食いたい、結婚してくれ！ってね。

まぁ、実際そう言って結婚の申し出する人は見たことないけど……

ってあれ？大丈夫月ちゃん？」

月「へぅ……」

咲夜「結婚…だと…？」

月「へぅ…」

悠里「あたしも毎朝月ちゃんのお味噌汁食べたいなぁ」

悠里の言動は放っておくとして、月がそんなにも零士と親しげにしていたとは思わなかった。

確かに、月が料理をするようになってからは、一緒にいた時間が増えたようだったが。

時間が増えたといえば…

咲夜「れーん！」

恋「…よんだ？」ひょこっ

私が恋を呼ぶと、恋は店の入り口からひょこっと顔を出し、こちらに近づいてきた

咲夜「恋、お前は零士の事どう思っている？」

そう。恋は何気に零士といる時間が多い。

気づけば零士が恋をおんぶしているなんて光景、当たり前になりつつある

恋「……？？」

悠里「あー恋ちゃん。東おじさんの事は好き？」

恋「……ん」

恋はコクリと頷いた。

なんだか、判断しづらいな。この好きは、一体どういう意味の好きなのだろう

月「うーん…恋さんにとって、東さんはどういう人ですか？」

恋「………………お父さん？」

なるほど。恋にとって零士は父親か。そうかそうか。なら背負われているのも頷けるな

悠里「お父さんかぁ。そんな気はしてましたけど、面白味がないですねー」

月「そういう悠里さんは、東さんの事どう思っているんですか？」

詠「そうね。一人だけ言わないのは、公平じゃないわよね？」

咲夜「悠里。言え」

こいつは一番の古株だが、私とべったりしているせいで、そういう話にはなった事がない。

私がいじられる、なんてことはあるが

悠里「あたしですか？もちろん好きですよ」

咲夜・月・詠「…」

ずいぶんハッキリすんなり言われたせいで、一瞬思考が停止してしまった。

恋が私の裾を掴み「ご飯」と言ってくれなかったら、固まったままだったかもしれない

悠里「あ、でも、みんなみたいに異性としてのそれかは、わかんないんですよねぇ」

詠「なによそれ。ハッキリしないわね」

月「あくまで家族、そういう事ですか？」

悠里「まぁ、もしかしたらそうかもしれません」

咲夜「は！お前だって面白味がないじゃないか」

悠里「あはは！でも油断して、ダラダラしてたら、私があっという間にかっさらっちゃいますよ？

俊足は、恋愛でも速いんです！」

月「へぅ、負けません！」

詠「か、勝手にしたらいいんじゃない」

カランカラン

秋蘭「やぁ、お邪魔するぞ」

凪「失礼します！」

咲夜「おっと！いらっしゃい」

入ってきたのは秋蘭と凪だった。

珍しい時間に、珍しい組み合わせだな。いつもは二人とも、夜に来るのに

悠里「あれ？珍しいですね。お二人がご一緒で、しかもこんな時間に来るなんて」

秋蘭「私も凪も、先程まで仕事で昼食を逃してしまったからな」

凪「はい。私も秋蘭様も、今日は午後からの仕事はありませんので、

一日ゆっくり『晋』で過ごせたらと思ったのですが、よろしいですか？」

咲夜「あぁ、構わないぜ。飯はどうする？」

秋蘭「夜も頂きたいからな、なにか軽めのものを頼む」

凪「私は……あれ？東さんはいらっしゃらないのですか？」

な？まさかこいつ…

咲夜「お前、零士目当てか？」

凪「っ！」びくっ

悠里「ちょ！咲夜姉さん雰囲気がヤバイですよ！なんかただの人殺しみたいな雰囲気出してますって！」

咲夜「む、悪かった」

凪「い、いえ。大丈夫です」

月「ちなみに東さんでしたら、華佗さんのお願いで龍退治に出かけました」

秋蘭「龍か。それはなんとも、でかい仕事だな」

私と月は秋蘭たちにフレンチトーストを作ってあげた。

サンドイッチか迷ったが、時間が時間だけにこういったお菓子のような食べ物にしておいた

凪「たまには…甘いものもいいですね」

秋蘭「これは珈琲とよく合うな」

咲夜「これもまた、零士がこだわり抜いて作った品だからな」

悠里「あ！お二人は東おじさんの事どう思います？凪さんはわかりますが」

凪「ど、どうって……って！わかりますってどういうことですか！？」

悠里「いやぁ、あれだけの熱視線で東おじさんの事見てたら…」

秋蘭「あぁ。誰でもわかると思うぞ」

凪「あ、あわあわ…」

咲夜「…」

や、やっぱりそうなのか？あの熱っぽい目はやはり好意を抱いていたのか？

詠「……咲夜、あんたまさか、今気づいたんじゃ…」

咲夜「な！そんなわけないだろ！知っていたさもちろん」

おい。なんだお前らのその生暖かい視線は。そんな春蘭を見るような目で見るんじゃない！

月「あ、あはは。あ、あの、ではまず凪さんから東さんのお話を聞きませんか？」

凪「い、いや、あの…」

秋蘭「凪、別に無理にとは言わんさ。ただ、もし話してくれたら、力になれるかもしれないだろ？」

凪「あぅ…」

聞いていて、上手い事言ったなと思えた。秋蘭の奴、実は一番楽しんでいないか？

凪「あの、東さんとお会いしたのはとある飲食店でして。

多分初めて出会った頃から意識はしてたんだと思います。私の趣味を否定しませんでしたから…

それで一緒に訓練をした日に、あの方の強さを知って。

そしてその日褒めて下さった事がとても嬉しくて、それで…」

それからは、多分私達も知っている。

よくうちにきては、零士と話していたからな。凪の趣味ってのは、恐らく激辛好きの事だろう。

あれについていけるやつなんて、零士くらいしかいないからな

そして当の凪は顔を真っ赤にしていた。これ以上聞くと凪が壊れそうな気がした

悠里「うわぁ、知ってたけど凪さんおっとめー！」

詠「悠里、あんまりいじってあげない。そろそろ爆発しちゃうわよ」

月「秋蘭さんはどうですか？」

秋蘭「む、私か？そうだな…良い男だと思うぞ？気が利いて、包容力もある。

華琳様と姉者程ではないにしろ、男の中では間違いなく一番じゃないかな」

少し楽しそうに言っているあたり、半分くらいは冗談かもしれないな。

だがそれでも秋蘭が評価していることはわかった

そして包容力、という単語で、一人の姫君が零士にベタ惚れだったことを思い出す。

雪蓮は確か、孫堅さんが亡くなった時に、零士に慰められ惚れた、なんて言っていたな。

普段の雪蓮からは想像ができないが、零士を見ると恥ずかしくて上手く話せないくらい惚れていたはずだ

月「へぅ、改めて、東さんって人気ありますね」

悠里「これでも一角ですからねー。街を歩けば、もっと出てきそうなもんですよね」

詠・凪「はぁ…」

月は感心したように、詠と凪は重いため息をつき、そして悠里と秋蘭はその光景を楽しそうに見ていた

恋が羨ましいな。私も、あいつを父親って見れたらよかったのかもしれないが…

悠里「まぁでも」

すると悠里がこちらを見てニコッと笑った