恋姫無双 武道伝
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「おにーさん、おにーさん、大丈夫ですか?」

 

何やら声が聞こえてくる。なんとなく眠そうな声だなと思いつつ、声の主の気配がすぐそばだと感じるとすぐさま目を開ける。するとそこには頭に変な人形を乗せた少女が、まるで珍しいものを見るような目で見つめてきていた。どうやら自分は寝ていたらしい。それも彼女の背景から察するに青空の下で。

 

「お目覚めのようですね〜。いくらこのあたりは治安が良くなったとは言え、こんなところで寝ていては襲ってくださいと言っているようなものですよ〜?」

 

「・・・ああ、そうだな」

 

俺は目の前の少女に返事をしつつ体を起こす。彼女に害意は感じられない。たまたま倒れていた人がいたから声をかけたというところだろう。その証拠にすぐそばに彼女が乗っていたと思われる馬が佇んでいた。今時鐙も着けないで馬に乗る奴がいるのか。そんなことを考えながら、俺は素早く体に意識を巡らせる。体に異常はない。誰かに襲われ打ち捨てられたわけではないようだ。服装もいつもと変わらぬ袈裟を纏っている。普段決して手放さない錫杖と酒の入ったひょうたんも、体のすぐ近くに落ちていた。そのことに安堵しつつ、なぜ自分はこんな晴天の下大地に寝そべっていたのかと首をひねる。

 

「お兄さんはもしかして僧侶さんなのですか?」

 

錫杖を握り、袈裟を整える俺を見ながら女が聞いてくる。俺を坊さんだと信じているからか全くの無防備だ。先ほど襲われるとか言っていたくせにと呆れてしまう。

 

「坊さんと言えば坊さんだが、坊さんからしてみれば坊さんとは認めないだろうな」

 

俺の言葉に少女はスゥッと目を細める。先程までの眠たそうな目は人の心の奥底までもを見抜くような目に変わっていた。

 

「それはつまり・・・」

 

ダダッダダッ

 

す目の前の少女が言葉をすべて口にする前に馬蹄の音がそれを遮った。

 

 

「風!あまり勝手をしては凛がうるさいぞ?」

 

 

馬はそのまま俺と少女の間に入る。馬が止まるとひらりと一人の少女が俺の前へと舞い降りる。いつでも振るえるよう槍を構えている。とはいえ別段敵意も殺気も感じない。害意はないが警戒はしているといったところか。もしくはこちらに害意がないのを分かっていてやっているのか・・・。

 

「うー、それはご勘弁願いたいですねー」

 

「無理だな。私に風が勝手に進路を変えたと言いに来た時の表情はなかなかの迫力だったぞ」

 

槍を構えた少女はニヤリと意地の悪そうな笑みを浮かべる。人懐っこそうな顔立ちにその笑はとても似合っていた。

 

ダダッダダっ

 

そんなやり取りをしているうちに、三匹目の馬と三人目の少女が現れた。理知的な瞳にメガネを掛けた理知的な、頭の硬そうな子である。

 

「風、勝手に進路を変えられては困ります。星殿に追いつくのがどれだけ大変か分るでしょう?それに一人になったところを襲われたりしたらどうするのですか。」

 

案の定学校の先生のように正論を並べてお説教をしている。されてる側と言えば・・・

 

「・・・ぐぅ」

 

「寝るな!」

 

「おおぅ、あまりにいい天気なのでつい」

 

「姉ちゃんのご機嫌は曇天のようだがなー」

 

「こらこら宝慧、凛ちゃんの心は私たちが無事だったことで今は晴天なのですよー。

 

「おっと、そいつはすまねぇ、無粋だったな」

 

・・・この子は一人で何やってるんだろう?メガネの子も額を抑えてるし、もしかして

 

「かわいそうな子とか思ってんのかい、兄ちゃん?」

 

心を読んできやがった。というか腹話術で一人会話とかかわいそうな子でしかないだろう。

 

「おれっちには宝慧という立派な名前があんだぜ?そんじょそこらの人形と一緒にされたら困るんだぜ」

 

こんなことを言っているが声はやはり目の前の少女と同じもの。というか隠す気もないようなのだが。

 

「それで風、こちらの方は?」

 

この中で一番真面目そうな少女が人形少女に問いかける。あ、そういや誰も自己紹介してなかったな。

 

「こちらの方はですねー、一応僧侶さんらしいのです」

 

「一応?」

 

「俺は破戒僧だ。性は李、名は文、字は同臣という。ここで寝てた時にそこの子に声をかけられたらしい。」

 

「らしい?それに破戒僧というのはどういうことですか?」

 

破戒僧とはその宗派によって決められた戒律を破った僧のことだ。普通は戒を破ってもちゃんと罰を受ければ破戒僧とは呼ばれない。俺の場合、くだらん男尊女卑の考えや意味のない苦行、民にお布施をねだりながら高圧的なあり方に嫌気が差して宗派を離れた結果、元同宗派の爺どもに破戒僧と呼ばれ、寺のある街に近寄ることを禁止されていた。まあそんなこと無視していろんな街に立ち寄っていたのだが。

 

「それはそれは、まともな思考の方のほうがはじかれるとは、僧侶の世界も大変なのですね。しかし肝心のここにいた理由というのは・・・?」

 

「それが、俺としても目が覚めたらここにいたという状況で、全く把握できてないんだ。昨日は確かに滄洲の宿で寝たはずなのに」

 

「滄洲?どこですかそれは?聞いたことがありませんね」

 

は?いくら田舎とはいえ、聞いたことがないとは言いすぎだろう。いや、言いすぎじゃないか?確かに用事がなければ人は来ないし、基本的に用事なんかない小さな村だからな。

 

「まあド田舎だからな。幽州にあるんだが」

 

「ほう、幽州といえば白馬義従で名高い公孫賛殿の治める地だな。なかなかのやり手で烏桓、鮮卑といった異民族ともうまく交流を持っていると聞く」

 

今まで黙って槍を構えていた少女がおもむろに口を開く。公孫賛って三国時代のか?それに烏桓といえば遥か昔に漢と同化したはずだろう。公孫賛の名を知っているということはそれなりに教育は受けただろうに、こんなことを言い出すとはこの子もどっかおかしいのかな。よく見れば服装もなかなかきついものを着てるし。

 

「なんでそこで三国時代の英雄の名が出てくるのか分からないが、その幽州で間違いないよ」

 

そう答えると、三人の目が変なものを見るものへと変わる。え、なんで俺が変なこと言ったみたいになってるの?どう考えてもそっちの槍の子のほうが変なこと言ってたでしょ。

 

「おかしなことを言う。今は漢一国の時代であろう。今まで三国に割れたことなどあるまい。むやみなことを口にしてはいつ首を撥ねられるかわからんぞ?」

 

「それに公孫賛さんも優秀ではありますが英雄というにはどうでしょうかねー、うまく収めているとは言え周りには異民族、南からは袁紹さんがいますから、あまり長生きできなさそうですが」

 

「待て待て待て、今、漢の時代と言ったか?公孫賛は幽州を治めてて、袁紹とにらみ合いをしていると?」

 

慌てて聞き返すと、それがどうしたという目を向けられる。

 

「悪い、ちょっと混乱してるみたいだ。今の皇帝の名を教えてもらえるか?」

 

「そんなもの劉宏様に決まってりるだろう」

 

今度こそ凍りついた。どうやら俺は三国時代にいるようだ。それも劉宏が健在ということは反董卓連合も起きていないはずだ。もしかしたら黄巾の乱もまだ起きていないかもしれない。なんとも難儀な時代に来てしまった頭を抱える。それでも不思議と受け入れてしまえるのは、自分の適当な性格か、はたまた元いた世界に未練がないのか。

 

(まあ後者だな。)

 

もともと自分のいた世界には嫌気がさしていたところだ。中国人の誇りである『武』は本来の目的を失いただの殺人のための力となり、人が持っている五常の心は忘れ去られた。他人を蔑ろにし、恩を仇で返す様な人間が圧倒的に多くなっていたからだ。さらに質の悪いことに、そういう人間ほど他人の揚げ足を取るのがうまい。自分のいた宗派の爺どももまさにそんな人間達だった。

 

「ところで君たちの名を教えてもらえるか?そこの風ってこと凛って子はわかったんだが、君は?」

 

一回呼んでた気はするが、一度で覚えられるほど記憶力はよくない。それに風と凛という二人も本名ではないだろう。そんな事を考えながら聞くと・・・

 

ヒュッ

 

鋭い怒気と共に突きが飛んできた。額めがけて走るそれを、首をひねって躱す。躱されたと見るとすぐに少女は間合いを詰め、空いた手で拳を打ち込んでくる。槍の速さ、判断の速さ、風を切る拳の重さ、どれも名のある武術家だろうと思わせるものであった。しかし

 

「ふんっ!」

 

俺が槍を掴み、思い切り引き寄せるとそれだけで重心を崩してしまいたたらを踏む。そのまま槍をひねり少女の手から奪い取ると、綺麗な首筋にピタリと突きつける。

 

「くっ・・・」

 

「なんのつもりだ、いきなり襲いかかってくるとは?」

 

いくら破戒したとは言え、見ず知らずの少女に殺意を向けられる覚えはない。そんな理不尽を向けられて理由を聞かずに許せるほど俺は出来た人間ではない。

 

「貴様は許しもなく二人の真名を呼んだ。それだけで斬りかかるには十分な理由だろう!」

 

「マナ?」

 

マナってあれか、大地を満たす氣みたいなもののことだろうか。うん?でも二人のマナって言ったしな。愛、学、真名、はて、イマイチピンと来ない。

 

「すまん、詳しく説明してくれ」

 

一人では答えに到達できなさそうなので、人形少女に説明を求める。眼鏡は・・・ダメだ、槍少女同様全身から怒気を放っている。怖ぇ。

 

「おにーさん、真名を知らないんですか?真名とは、その人そのものを表す聖なる名なのですよ。ですので本人が認めたもの以外、決して呼ぶことは許されません。最悪今のように命を狙われても文句は言えないのです」

 

「聞いたことないぞ、そんな文化。そもそも呼ばれるのが嫌なら日常生活で使うな。それでいきなり斬られたらタマったもんじゃない。」

 

そんな文化、史書でも口伝でも聞いたことはない。もしかしてただ三国時代に逆行しただけじゃなくて、少しずつ史実とずれているのか?

 

「それはそうなのですが、やはり勝手に真名を呼ばれた私たちとしてはまず謝ってほしいかなーと思います。あと星ちゃんも離してあげて欲しかったり」

 

「・・・ああ、悪かった。知らなかったとはいえ不快にさせたのならこの通り謝る。すまなかった。」

 

少女の首に突き付けていた槍を地面に突き刺し、二人に対し頭を下げる。納得はしていないが気は納めてくれたのか、少女たちから発せられていた怒気が消えた。

 

「では改めて自己紹介をしますねー。私の性は程、名は立、字は忠徳といいますー」

 

「俺の性は宝、名は慧、字は割礼だぜ、よろしくな兄ちゃん」

 

人形少女と人形が挨拶してくる。しかし宝慧割礼って・・・この時代にはまだキリスト教もイスラム教も伝わってないだろうに。これもズレなのだろうか。

 

「私のことは戯志才とお呼びください」

 

眼鏡少女はそう言ってそっぽを向いてしまう。まだ怒っているようだ。戯性って珍しいな。

 

「・・・性は趙、名は雲、字は子龍という。いきなり槍を向けて済まなかった」

 

頭を下げて名乗る少女の名を聞いて、今度こそ俺は固まってしまう。それはそうだ。趙子龍といえば歴史上の人物の中でも屈指の人気を誇る人物で、知勇兼備の英雄ではないか。それが目の前に、それもなぜか見た目麗しい少女の姿でいるのだから。

 

「趙子龍?常山の趙子龍か?五虎将軍の・・・?」

 

「五虎将軍は聞いたことはありませぬが、常山の出で間違いありませぬ」

 

俺が出身を知っていたことを不思議に思ったのだろう、訝しげな顔をしている。しかし俺はそれどころではない。なにせあの英雄趙子龍にあっているのだから。

 

「ところで李文殿、よければ私ともう一度手合わせ願えないだろうか?」

 

そんな喜びに浸っていると、趙雲からそんな申し出をされた。いきなり槍を振るってしまったこと、そしてそんなことをしてなお、武器まで奪われてしまったことが彼女の武人としての矜持を傷つけているらしかった。気持ちはわからないでもないが・・・

 

「それはまず程立殿と戯志才殿に許可をもらうべきではないのか?あなたは護衛も兼ねているのだろう?」

 

そう言って二人の方を見る。

 

「私は星ちゃんにお任せしますよー」

 

相変わらず眠たそうな声で了承する程立。あとは・・・

 

「私たち二人の命も背負い戦うのなら、私も構いません」

 

おいおい、まるで俺が勝ったら殺されるみたいな言い方だな。まあ乱世の時代ならそういったことが日常茶飯事なのかもしれないが。

 

「決まりましたな。そうと決まれば早速お願いいたします」

 

そう言って数歩下がり俺との距離を開ける。そんな趙雲に向かい俺は先ほど奪った槍をポイと投げ渡す。趙雲は受け取ると、手の中でくるくると回す。俺はそんな趙雲を横目に錫杖とひょうたんを程立に手渡す。

 

「この趙子龍も舐められたものだな。我が槍を捌くのに獲物などいらぬと申すか。」

 

武人の顔になった趙雲が、己の武を侮辱されたと怒り立つ。なんかみんな怒りっぽいのかな。昔の人の寿命が短いのにはこのあたりも関係してたりするんじゃなかろうか。

 

「趙雲殿の獲物が槍ならば、俺の獲物はこの肉体よ。見もせず憤るは侮辱と変わらんぞ」

 

それだけ言って俺は構えを取る。それを見て趙雲も穂先を下げ、構えを作る。辺りにはピリピリとした緊張感が走る。

 

「ッ・・・ハァッ!」

 

その緊張感を先に破ったのは趙雲だった。先ほどとは比べ物にならない速度で距離を詰め、俺の水月に向かって突きを放ってくる。が、俺は柄を左手で掬い上げるようにして軌道をそらす。そのまま一歩踏み込みつつ、手首を返し柄を握り引き寄せる。必殺の気合を込めた槍が、力のベクトルを替えられたことで体が崩れてしまう。当然そんな隙を逃すはずがなく、空いた右手で投げとば・・・そうとしたのだが、咄嗟に身をかがめる。

 

ブォン

 

頭の上を凶悪な風切り音と共に脚が通り過ぎていく。槍が引かれるやいなや、飛び込んで蹴りを放ってきたのだ。しかし無理な体勢からの蹴りは、着地から次の動作までを途切れさせる。俺は趙雲の腹部に手を当て、鋭い震脚とともに体を思い切り開く。八極拳、打開。急激に体を開き、ゼロ距離からでも爆発的な威力を放つ、まさに名前通りの殺手である。

 

「うぐっ・・・」

 

趙雲は衝撃に吹き飛ばされ地を転がる。その手には槍もなく、腹を抑えている。これでは続行も無理だろう。俺は観戦者の二人に目を向ける。二人共黙って頷くのを確認してからうずくまっている趙雲に近づき、座らせてやる。

 

「目を瞑って力を抜け。意識を地面の感触に向けるんだ」

 

趙雲が指示通りに目を瞑るのを確認したあと、両手で背中をさすり、腰骨の少し上を点穴してやる。最後に懐から雲南白薬を取り出し飲ませてやる。

 

「すまない、もう大丈夫だ。」

 

そんな訳ないだろう。八極拳はそんな生易しい拳法ではない。一撃必殺の名の通り、殺人を目的として作られたものだ。まともに食らってすぐ立てるような人間はいない。しかし趙雲は止めようとする俺を無視し、体を俺に向け背筋を伸ばす。

 

「私の負けだ。あなたの武を侮辱したこと、この通り謝罪する。すまなかった」

 

真摯に、まっすぐと謝罪の言葉を口にする趙雲に、思わずいい女だなと思ってしまう。そしてやはり彼女は歴史に名を残す、かの趙子龍なのだとも。

 

「李文殿、よければ私を弟子にしていただけないだろうか?この趙子龍、恥ずかしながら万夫不当と思い上がっていたが、目が覚めた思いがする。どうかお願い奉る」

 

俺としては是非もない。英雄に自分の技を教え、師と呼ばれるのだから。それに行く宛も路銀もこの世界の知識もない自分にとって、旅の連れができることは非常にありがたいことだった。だが、史実では趙雲は蜀の将になるはずだ。残念ながら俺は劉備が好きではない。大徳と謳っておきながら、関羽が討たれると復讐に走り張飛までも失い、国力を低下させた暗愚の王だと思っているからだ。どうせなら覇道をひた走る曹操か、少数精鋭の呉に行きたい。なので

 

「俺は弟子を取る気はない。技なら勝手に盗め。手合わせだってしてやる。師弟なんて堅苦しい関係よりは、戦友くらいのが気が楽でいい」

 

こう答えた。趙雲は義に厚いが己の仕えるべき相手を他人任せにするような人間ではないはずだ。こういっておけば俺に対し変な恩を感じることもないだろう。趙雲もそう言われるのであれば、と納得してくれた。

 

「だが李文殿には是非我が真名を受け取ってもらいたい。私が目標とするものとして是非!」

 

さっきまでその真名が原因で襲いかかってきてたのになあ、などと思いつつ、真名を預けられるということは信頼をしてもらえたと思っていいのだろう。ありがたく受け取ることにする。 

 

「我が真名は星、どうかよろしくお願いしますぞ」

 

「ああ、だが俺には真名が無いからな・・・幼名の子文を預けよう。俺のことはしぶんと呼んでくれ」

 

「終わりましたかー?」

 

真名と幼名の交換を終えると、風と凛がこちらにやってきた。どうやら待っていてくれたようだ。

 

「ああ、待たせてすまなかったな。・・・っとと」

 

起き上がろうとしてふらついた星に肩を貸して支えてやる。

 

「おとなしくしてな。下手に動くと辛いだけだぞ。ところで三人はどこに向かうんだ?できればご一緒させてもらいたいんだが。」

 

「私たちは仕えるべく主君を探して旅をしているところです。残るは公孫賛殿を見極めるのみとなりましたが。」

 

「公孫賛が仕えるに値しないと思ったときは誰に仕えるんだ?袁紹か?」

 

「確かに袁紹さんは強大で器も大きいですが、その大きさゆえに私たちが軍に関われるようになるには何年もかかってしまうでしょうねー」

 

「名を挙げたいなら公孫賛じゃないのか?人手もないし、すぐに起用してくれそうだが。」

 

「公孫賛殿の器にもよりますが、先ほど言ったとおり公孫賛には地の利がありません。いくら名を挙げられても、死んでしまっては意味がありませんからね」

 

俺の疑問に戯志才が答える。なるほど、確かに袁紹では時間がかかりすぎ、公孫賛では先が見えない。となれば・・・

 

「曹操ってとこか」

 

霊帝崩御前ということは、孫家もまだ袁術の配下にいる頃だろう。蜀の劉備はもう義勇軍を立ち上げているかもしれないが、まともな目があれば、弱小勢力の劉備についても利がないことは見えるはずである。それに対し曹操は、乱世に入るかなり前から陳留を治めていたはずだ。宦官を親族に持ち、夏侯兄弟という有能な将もいる。加えて曹操は実力主義で、能力さえあればすぐに取り立ててくれる。仕える側としてはもってこいだろう。

 

「ええ、今のところ曹操様に仕えようと思っています。ただ・・・」

 

「ただ?」

 

「・・・ブハッ」

 

いきなり戯志才が鼻血を吹き出して倒れた。なんだこいつ。

 

「はーい凛ちゃん、トントン」

 

「・・・うう、すいません風」

 

程立が支えながら首を叩いて鼻血を止めてやると、戯志才も鼻を抑え起き上がる。

 

「このように、凛ちゃんは曹操さんのことになると妄想が膨らんで鼻血が吹き出してしまうのですよー。なのでこれが治るまでは曹操さんのところには行けないかなーと」

 

意味がわからん。が、まあこの二人がいいならそれでいいのだろう。ふーんと適当に返しておく。

 

「星はどうするんだ?仕官先は決まっているのか?」

 

「私は今のところ誰に使える気も無い。曹操殿も魅力的ではあるが、何やら同性愛の気があるらしいからな。まあ時が来れば向こうから話が来るだろうよ」

 

「それが一番いいかもしれないな。さて、向かう先は幽州として、近くに街はないのか?もうじき日も暮れる。宿を探さないとな」

 

うっすらと空が赤らんできている。流石に荒野で野宿など勘弁願いたい。

 

「確か近くに邑があります。今日はそこで休ませてもらいましょう。ですが李文殿、脚はどうされるので?」

 

三人は馬だが、俺は徒歩。流石に馬に並んで走るなど無理だ。

 

「星、乗せてくれ」

 

「あいやわかった。後ろに乗りなされ」

 

星に相乗りを申し出ると、二つ返事で了承がもらえた。程立からひょうたんと錫杖を返してもらい、趙雲の後ろに乗る。

 

「鐙なしで乗ったことはないからな。悪いがしがみつかせてもらうぞ」

 

「鐙とは敷き布のことか?馬も乗れんとは少しばかり情けないな」

 

そんなことを言いながら、掴まる事には了承をもらえたのでしがみつく。

 

「では行くか」

 

三頭と四人は近くの邑に向かい走り出した。

?

 

説明
恋姫の世界にもしも武術家が舞い降りたら?というお話です。主人公は対人ではかなり強いですが、三国志の知識はそこまでありません。武術でオラァしていきますが、進んだ技術を持っているというだけで、武将たちのように人間離れした性能は持っていません。二次創作、原作無視、キャラ崩壊も多少ありますのでご了承ください。
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コメント
qishengさん、コメントありがとうございます。そのうち話に出すつもりですが、主人公は中国人です。天の御使いは別にいます。(やはから)
おー これはまた楽しみな設定だ、  たいていは日本にいる設定みたいだがこれは 中国にいる設定でいいのかな?(qisheng)
2828さん、コメントありがとうございます。いろんな恋姫ssで御名前拝見してます。主人公はその性格から流派に拘らず、いろいろな武術を体得しています。なので棒、根、槍等が使える設定です。それも後々話に出そうと思います。(やはから)
kazoさん、コメントありがとうございます。基本無手ですが、中国武術をメインに考えているので、槍術等も使える設定です(槍術は全然わからんのですが)(やはから)
杖術もつかえそうだな(2828)
乱世を無手で乗り切る!すごく面白そうです!続きに期待してます!(kazo)
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武術 三国志 恋姫 

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