真恋姫†夢想 弓史に一生 第九章 第十六話
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〜奏side〜

 

 

 

「凌統様!! 袁紹軍、袁術軍が動き始めました。」

 

「見えてるよ。お頭の指示通り事を運ぶから、合図があるまで隠れてな。」

 

「はっ!!!」

 

 

あたいたちは今、水関の門上で直ぐには分からない場所に隠れている。

 

お頭の作戦は至って簡単だ。

 

兵糧に誘われてやってきた両軍を水関の門を使って二つに分断、内側に残されたやつらを掃討してあたいたちはそのまま虎牢関に離脱するって言う話だ。

 

ただ、敵の掃討はそこまで思いっきりやる必要は無く、途中でも帰ってくるように言われたが……敵を倒すまたとない機会になんでまた……。

 

どうせならやれるだけやっておけば良いのに……。

 

まぁ、お頭の考えることだ。あたいはそれに従うしかないね…。

 

 

 

 

 

戦において策と言うものは、勝利を掴む上でなくてはならないものである。

 

中でも奇策、妙策と言うものはその戦の勝敗をひっくり返すほどの力を持っているとお頭は言っていた。

 

だからこそ各国に軍師がいて策を練るのだが、こと徳種軍に関して言えば、策を考えるのは軍師ではなく総大将が練る。

 

では軍師はと言えば、その策に補填すべきところがあれば付け加え、修正し、下準備をしている。

 

残りの将は、煮詰まったその策の全貌を総大将自らに説明してもらい作戦を展開する。

 

が、あたいはその策の目的を全て理解することは出来ていない。

 

小難しいことが多いし、仮定の話があるからごちゃごちゃになる。

 

だからこそ、あたいは言われたとおりのことを忠実にやり遂げるしかないのだ。

 

 

 

 

では何故このような形式を徳種軍では取っているかと言えば、まず第一に策を思いつくのが聖だからである。

 

聖の思いつく策というのは基本的に寡兵で大人数を倒すことを目的としたものが多く、そのためより複雑な手段を迅速に行うことが必要になることが多い。

 

その全てを理解するにはそれなりの学と戦術の基本を学んでる必要があり、農村出身者の多い武官の者達では、理解が追いつかないのである。

 

それならばいっそやることだけ理解してもらって動いてもらう方が効率がいいと考えるのも無理は無い。

 

そしてもう一つは情報の拡散を遮断するためである。

 

策を練る以上、その策の概要が他国に漏れるのは避けなければならない。

 

そのため、なるべくなら策の概要を話す機会は少なくしなければならないのだ。

 

だからこそ聖は、作戦は基本的に口頭で伝え、全貌を何かに記すことはしない。

 

一見危ういこの方式だが、聖の策の効果が戦に与える影響が大きいことが皆知っていることと、皆に憧れ、尊敬されている聖だからこそ皆文句を言わず、今の今まできている。

 

勿論、それは今この現場を預かっている奏も例外ではないのだ。

 

 

 

 

 

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「そろそろ、両軍が入ってくる頃かね…。」

 

 

 

門の外側を見ると、金色の鎧を付けた兵士と銀色の鎧を付けた兵士が物凄い勢いで兵糧目指して走ってきた。

 

その雰囲気はまさに獣の如く、その鬼気迫る表情にあたいは少し気圧されてしまった。

 

 

「……腹が減ると人はあそこまで変わるもんなんだね……。味方ながら、お頭の作戦はむごたらしいよ…。」

 

 

 

兵糧の山に飛びつくその姿を見ていると、まるでイナゴの群れが米に群がっているようで気持ちが悪い。

 

気分を害するあの光景をすぐさまにでも蹴散らしたいところだが、まだ門の外には数多くの兵がいてもう少し相手を引き込まなければ大きな打撃にはならない。

 

と言うことは、まだまだあのイナゴの群れは増えると言うことか……。

 

 

 

 

「……まったくうじゃうじゃと…。あの数相手にまともに戦いたくは無いね。」

 

「そっすねぇ…。いくら錬度が低いからといっても、あの数相手に被害を抑えるのは厳しいでさぁ…。」

 

「勇もそう思うかい?? あたいもそう思うよ。でも、お頭の策なら何とかなるんだろ??」

 

「そうでさぁね。お頭の策なら相手に大きな被害を見込めるし、此方の被害も少なくすみそうですし、最善の策だとは思いますぜ。」

 

 

 

あたいは勇のその言葉に少し驚いて固まってしまう。

 

 

 

「……?? どうしたんでさぁ、姉御?」

 

「……勇お前、お頭の作戦分かってんのか??」

 

「えっ…?? へぇ、まぁ分かっていやすよ。確かに難しいし把握しづらいとは思いやすが…。と言うか、みんなの前で説明してたじゃないっすか。あれを聞けば何となくは掴めるとは思いやすよ。」

 

「………。」

 

 

 

唖然とするあたいを他所に、勇は「どうして今さらそんなことを」と言い出しそうな顔をしている。

 

どうやら策の全貌が分からないのは、難しいことから避けようとする自分の甘さが原因であるらしい…。

 

この戦が終わったら、少しは勉強しようと心に誓った奏であった。

 

 

 

 

 

 

「よし、そろそろだね……。合図を!!!!」

 

 

 

 

 

ジャーン!!!!!! ジャーン!!!!!!

 

 

 

 

 

合図の銅鑼が鳴り響くと、開いていた門が徐々に閉じ始める。

 

 

その光景に、外に居た袁紹軍、袁術軍の兵士は驚きを見せるが、既に中に居た兵士達はそのことに気付かない。

 

完全に兵糧のことしか目に無いようだ…。

 

 

完全に門が閉まりきった時になってようやく違和感に気付いた兵士達だが、時既に遅く軍を二分されてしまっている。

 

 

 

「放て!!!!!!!!」

 

 

あたいの合図で部下が、門の外にはお頭特製の火薬瓶なるものを、門の中には兵糧の山に向かって火矢を放つ。

 

 

 

 

「「「「「ぎゃあああぁぁぁ!!!!!!!!!」」」」」

 

 

 

門の外に張り付いていた者たちは、火薬瓶により負傷する者、その恐怖を思い出したもので溢れ恐慌状態に陥っている。

 

そして門の中に居た者たちは、飛んできた火矢に射殺されたり、その火が群がっていた兵糧の一番下に隠されて置かれていた火薬瓶に引火して爆発、これにより吹き飛ばされたりしている。

 

此方も外同様に恐慌状態だ。

 

 

「よしっ!!! 策はなった!!!!! 後はあいつらを奇襲して数を減らしたら、お頭たちの下へ帰るだけだ!!!! 皆、気合入れていきな!!!!!!!」

 

「「「「「「へい、姉御!!!!!!!!」」」」」」

 

「突撃!!!!!!!!!!!」

 

「「「「「「うおおおぉぉぉぉ!!!!!!!!!!!!!!」」」」」」

 

 

突然のことで混乱してる袁紹・袁術軍は取るに足らない相手で、此方が突撃を仕掛けると蜘蛛の子を散らす勢いで逃げ出すが、そこは門を閉じてることもあり逃げることも出来ず、その数を激減させていく。

 

これならば全滅させることも出来るのでは?

 

 

「よしっ!!!! じゃあ、もういっちょ突撃して敵を殲滅―――。」

 

「駄目っすよ姉御!!!!!! お頭に帰って来いって言われてんすから、ここは素直に帰りやしょ!!!!」

 

「うぐっ…。だがよ、今襲えば敵を殲滅―――。」

 

「じゃあもし今ここで突撃して、お頭の作戦が崩れることになったとしても、それでも良いんすか!!!??」

 

「うぅ……。分かったよ……。まさか、勇に怒られる日が来るなんてな…。」

 

「良いから行きやしょ!!!!! ここで下手に何かするより、お頭の言った事を上手くやり遂げたって報告した方が、良くやったってきっと褒めてくださるっすよ!!!!」

 

「………そうだな。よしっ!!!! 良いかいお前ら!!!! あたいたちはお頭の指示通り虎牢関に帰還するよ!!!!!」

 

「「「「「「応っ!!!!!!!」」」」」」

 

「そうすれば、お頭に褒めてもらえるぞ!!!!!」

 

「「「「「「応っ!!!!!!!!!!!!!!!」」」」」」

 

「(お頭に褒めてもらえると言っただけなのに……こんなことで元気になる姉御は可愛いな…。)」

 

「〜〜♪」

 

 

 

そのまま上機嫌に虎牢関へと帰る奏とその隊員達であった。

 

 

 

 

 

 

 

 

そしてこの後、再び門の閉じた水関であったが、何者かが内側から門を開けたことで水関は再び開門、隙を伺いながら前線へと移動していた孫策軍が、袁紹・袁術軍の隙を見て関に駆け込み、旗を立てたと報告を受けた。

 

 

こうして水関の戦いは終結し、水関は連合軍の手に、そして攻略の功績は孫策軍に与えられたのだった。

 

 

 

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〜○○side〜

 

 

はぁ……はぁ……。

 

 

―――居たか!!?

―――いやっ…こっちには居ないみたいだ。

―――急いで見つけるぞ!!!!

 

 

がちゃがちゃと着ている鎧を鳴らしながら兵士が廊下を此方とは違う方へ駆けていく。

 

その姿を見て一つ深い息を吐くと、ゆっくりと兵士達とは反対方向へと歩き出した。

 

 

 

 

全くもって何故自分がこんな扱いを受けなければならないのか…。

 

途方に暮れる思考の中で憎き奴らの顔が浮かぶ。

 

………それもこれもあの小娘たちの所為である。

 

せっかく洛陽まで招いて、帝の傍で仕事をさせてやったと言うのに、田舎娘の分際で私を処罰するだと??笑わせるな!!!!!

 

恩を仇でしか返せぬ愚者などに、この私がやられてたまるものか!!!

 

考えれば考えるほどイライラが募るが、今後のことを考えると不安である。

 

今、洛陽では私は指名手配されているだろう。

 

そのため町を警邏している兵士の数は増えているし、その監視の目を盗んでこの町の外に出るのは難しい。

 

一体どうすればよいのか……。

 

 

「………お困りですか??」

 

「っ!!!?」

 

 

声のした方に振りむくと、白い羽織物を着た眼鏡の男と茶髪の背の低い男が立っていた。

 

おかしい、先ほどまでそこには誰も居なかったと言うのに……。

 

 

「き…貴様らは何者だ!!!!??」

 

「ご安心ください、張譲様。私どもはあなた様の味方でございます。」

 

「味方……だと……??」

 

「はい。董卓軍により一斉に宦官たちの排斥が行われている現在。お味方はそうはいませんよ。」

 

「……うむ…。それは…確かに……。」

 

「そうでしょう。それに、あなた様は前々帝劉宏様の代より宮中に努めている身。それを排斥しようなど、あのものたちの頭が可笑しいとしか言えませんね。」

 

「そうだ!!! そうだとも!!!!! 私は長いことこの中華の中枢であるこの宮中で働いてきたのだ!!それがあんな田舎出身のぽっと出に良いようにされてたまるか!!!!!」

 

「素晴らしい意気込みです。」

 

 

……なんだ??

 

この者達は私の味方であると言うのか?

 

先日掴まった時に全て私の私兵は使い切っていたと思ったが、まだ隠れていたのがおったか…。

 

それならば、あいつらに一泡拭かせてやるために、今はこの者達と一緒に行動し、私兵を増やさねば……。

 

 

「確かに、私兵を増やすのは一番良いとも思えますが、もっと良い方法があると言ったらどうしますか??」

 

 

思っていたことを読み取られたかのように感じて動揺する。

 

いやっ、それよりも……。

 

あいつらに一泡拭かせる絶好の作戦をこの男達は持っているという。

 

果たして嘘か誠か……。

 

とにかくまずは話の概要を聞かなくては……。

 

 

「もっと良い方法があるだと?? ふん、どうせそう言って私に取り入りたいだけであろう…。」

 

「滅相もございません。私どもは役職などそういう類には一切興味はございません。」

 

 

表面上だけの軽薄な笑い顔を作るその顔は好きにはなれないが、どうやら媚を売ったりとかそういう類で助けようと言っているわけではないようだ。

 

 

「………では、その方法とやらを話してみせよ!!!!!」

 

「申し訳ありませんが張譲様。その前に私たちもあなた様の御力を知りたいのです。」

 

「何だと!!!! 貴様ら、私を愚弄する気か!!!!」

 

「いえいえ。そうではございませんが………。張譲様の野心というものが気になってましてな…。」

 

「野心…??」

 

「えぇ。今現在の皇帝の劉協陛下は、年若く政事や内政などを行うにはまだむかないようです。そんな帝の行う政治でこの世に平和など再び訪れましょうか??」

 

「…………。」

 

「私はですね、張譲様のように長年経験されてきた方ならともかく、あんな若い皇帝では中華は今後が不安なのですよ…。」

 

「…………私にどうしろというのだ。」

 

「何、やっていただくことは簡単です。現皇帝、劉協を殺せば良いのです。そうすれば、子供の居ない漢王朝はその力が衰退し、この国を支える新たな主導者が必要になる。そこに…。」

 

「そこに私が付けば、私は皇帝としてこの国に必要とされ、命令一つであいつらに復習をすることが出来るということか……。」

 

「その通りでございます。それで、この話にのっていただけるのでしょうか??」

 

「………初めこそあんた達を怪しいと思っていたが…今更に怪しいと思えてきた。お前らの目的は何だ?金か??」

 

「いえいえ。私たちの目的などございませんよ…。ただ単に私達は困っているだろう張譲様の手助けをすることが出来ればそれで良いのです。」

 

 

薄気味悪い笑顔ではあったが、こいつらを上手く使えば先ほどの話のような展開になることはありうる。

 

ならば、私はやってやろうではないか…。

 

なに、皇帝がここで殺されたところで、また劉弁の時見たく煙に巻くことは出来よう。

 

更に今回はこの前のように、ぎゃんぎゃんとうるさい何進はもう居らん。

 

これは、私にも運が巡ってきたな…。

 

にやっと口元を歪める張譲。

 

その姿を見て、ほんの僅かににやっと笑った二人組。

 

眼鏡を駆けた于吉とは対照的に、もう一人はなにやら闘志をむき出しにしているのだった。

 

 

 

 

 

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弓史に一生  第九章  第十六話     暗雲  END

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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後書きです。

 

第九章第十六話の投稿となりました。

 

皆さんいかがだったでしょうか??

 

 

 

さて、今までは名前だけ登場していた張譲さんですが、そんな彼に接触する二人組みが……。

 

まず間違いなく今後一波乱ありそうな状況に聖はどのように対処していくのか…。

 

お楽しみにお待ちください。

 

 

 

冒頭の説明書きで書いたことですが、ここでアンケートをとりたいと思います。

 

テーマとしましては「バレンタインにちなんだ話なら、この人が良い」です。

 

補足しますと、昨年のクリスマスみたいに今度のバレンタインでもその日にちなんだ物語を投稿しようかなと思っている次第です。

 

ただ、誰で書こうかまだ決めていないので、もし皆さんからの要望があればそれに沿いたいと思います。

 

 

 

以下の番号から選んでその番号でコメントください。(○番の内の一人メインでって言うのもリクエストOKです。)

 

 

@芽衣&奏

 

A橙里&雅

 

B麗紗&蛍

 

C朱熹&紫熹

 

D音流&偉空

 

Eその他

 

 

 

 

アンケートの期限は今週一週間(2月9日(日)まで)

 

そこまでで多かったリクエストの内二つを纏めた作品を当日に上げたいと思います。

 

また、本編の方ですが投稿は2月16日(日)に投稿する予定です。

 

 

それでは、皆さんからのリクエストをお待ちしております!!!!!!

 

説明
どうも、作者のkikkomanです。

本当は昨日投稿しようと思っていたんですが、修正を加えたことで今日投稿になりました。

また、後書きではアンケートをとりたいと思いますので、是非ともご参加ください。
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コメント
>禁玉⇒金球さん   コメントありがとうございます。 そうですね……。作者の考えではこれ以上やる気は無かったんですが………少し考えてみますね。(kikkoman)
@しかあるまいて、もっとエゲツなもっとやれな展開希望致します、まだ温い特に劉備に対して。(禁玉⇒金球)
>nakuさん  コメントありがとうございます。  そうですね……。私の場合は今後のこともあるので……って感じですが、他の人はどうなんでしょうね…。一番は最大勢力だからだとは思いますが…。(kikkoman)
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