「真・恋姫無双  君の隣に」 第12話
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愛紗ちゃん達に別れを告げられてから、私と朱里ちゃんは客人として御遣い様のお世話になってます。

どうしたら良かったのかなって、ずっと部屋に閉じ篭もって考えてたんだけど、黄巾の乱を終わらせて寿春に戻られた御遣い様に告げられました。

「働かざるもの食うべからず」

ぐうの音も出ない言葉を告げられて、今は朝から晩まで働きづめです。

確かにその通りだけど、ちょっと働きすぎじゃないかなあ。

朱里ちゃんは楽しそうだけど。

 

 

「真・恋姫無双  君の隣に」 第12話

 

 

忙しいけど、戦の無い日々はいいよな。

本当に戦なんて百害あって一利なしだよ、遠征から帰る度にそう思う。

金食い虫だし、戻ってから滞ってる政務を取り戻すのに、どれだけの時間と手間がかかるか。

一応は七乃が最低限をこなしてくれてるけど、本当に最低限なんだよな。

むしろその辺りを完璧に見切ってるよ、その、愛し合ってからは尚更掌で転がされてる気がする。

よそう、この考えは精神衛生上よくない。

頼むから凪を見習ってくれ、あの真桜や沙和だって以前とは比べ物にならないくらい頑張って働いてるのに。

客人の劉備と諸葛亮にも働いてもらってるしな。

人手が足りないのも事実だけど、働いている方が考え過ぎずに済むだろうし、篭っててもいいことない。

あと黄巾討伐の論功行賞があって、朝廷から美羽が漢の後将軍の地位を授けられた、美羽や俺達にはどうでもいい事だけど。

ていうか何で手柄を立てて褒美を貰うこっちが、逆に使者に対して礼の賄賂を渡さなきゃならないんだよ。

乱が終わって他にやる事はいくらでもあるだろう、本当に腐ってやがる。

他に華琳や雪蓮達も新たな官職を受けたそうだけど、特に領土が増えたわけでもない。

名を世間に広げる以外、実利はほぼ無しだ。

関羽は平原の相に就任した。

将としては申し分ないと思うけど、官吏としてどんな施政をとるのかは気になるな、俺のいた世界では何故か商売の神様でもあるし。

霞と呂布は董卓の臣下だから功績は全て董卓のものと、董卓自身は何の功も聞かないけど。

ただ領地の天水では評判がいいんだよな、おまけに可愛い娘だと聞くし。

とにかく、今後の為に最重要で情報収集だ。

袁紹は、まあいいか、斗詩、頑張れ。

長沙に戻った蓮華達から戦勝の祝賀と頑張ってると記した手紙を貰った、文通も悪くないな、七乃に中身を細部まで聞かれてその日の晩は激し、コホンコホン。

天和達は今は華琳のところで巡業中。

待遇改善に関してはどうしたものか、華琳のところは甘くないだろうし、こっちでは少しくらい、でも待遇に差をつけるのは拙いしなあ。

 

はわわ、凄いです、本当に凄いです。

水鏡塾在学中に今後の為にと思って雛里ちゃんと訪れた時も衝撃的でしたけど、実際に政務に携わると、その凄さを全然理解出来てなかったのが分かりました。

伝統を大切にしつつ革新的な事も進められてて、領地中の皆さんが凄くやる気に満ちてます。

戦傷した人達や働き手を失ったご家族にも働き場所が用意されて、何らかの役目が与えられるようになっています。

治安に関しても警備隊の働きは素晴らしくて、悪い事をすれば誰であっても法の下に処罰されます、ですが更正の機会も与えられてます。

関所は通行料を取られる事が無くて、むしろ案内所兼相談所になっていて出入りはほぼ自由です。

情報が漏れるのではないかと気になったので、御遣い様にお聞きしましたが。

「細作?好きににさせればいいよ」

って大物過ぎましゅ。

「やってみたい事があったら試していいよ、相談はしてね」

本当にありえません、私は只の客人ですよ!

桃香様も色々と役目を任されていまして、日々お忙しそうです。

「働かざるもの食うべからず」

この言葉には続きがありました。

「その代わり、働く分には必ず報いる、それが俺の政の方針だ」

桃香様には御遣い様から学んで頂けたらと、期待している私です。

 

心臓が外に聞こえそうなくらい早打ちしてる。

曲がり角から慎重に前方の様子を探って、突然後ろから声を掛けられました。

「劉備、こんなところで何をしておるのじゃ?」

「袁術さん!し〜、見つかっちゃいます」

物凄く驚いたけど、袁術さんでよかったあ。

連日、連日、働きづめで、やっと一段落したんだよ。

でも御遣い様はきっと新しい仕事を持ってくる、もう絶対。

何であんなに仕事好きなんだろ?御遣い様って、仕事で身体が出来てるんじゃないかな。

「それで何をしておるのじゃ?」

「アハハ、街にでも出かけようかなあと思いまして」

「それはよいが、何故コソコソしてるのじゃ?」

「その、仕事虫に見つかると仕事が寄ってくるんです」

「仕事虫?何じゃそれは?」

私の行動は袁術さんに不思議なようで問いかけられっぱなし、拙いよ、早く城から出ないと。

「そうだ!袁術さん、街を案内していただけませんか?」

「かまわんぞ、妾も丁度出かけようと思ってたところじゃ。本当は七乃も一緒だったのじゃが一刀に捕まっての」

やった、今が好機。

「行きましょう、さあ行きましょう」

 

「此処は軍事演習場じゃ」

「いいか、一人一人の力は弱なれど、集となればその力は何倍何十倍となる。例え相手を倒さずとも、足止めするだけでも立派な功となるのだ」

楽進さんの声が響いてて、凄い、本当に兵が集団で生き物のように動いてる。

「劉備も大将だったのじゃろう、やはり厳しく訓練しておったのか?」

「く、訓練はあまりしてなかったと思います」

兵士さん達は私と同じで農民の出だから仕事があったし、戦は愛紗ちゃんと鈴々ちゃん頼りの戦術が殆んどだった。

「ほう、訓練無しとは凄いのじゃ。見ての通り、一刀や凪達は護る為に生きる為にと、とても厳しく訓練しとるからの」

・・護る為に、生きる為に。

 

鍛冶区域に案内されて、あれは朱里ちゃんと李典さん?

「お〜、美羽に劉備はんか。どないしたんや、こんなとこに?」

「うむ、劉備に街を案内しておるのじゃ。真桜、何を作っておるのじゃ?教えてたもれ」

李典さんが造っていたのは、全自動カゴ編み装置から朱里ちゃんが思いついた物だって。

「はい、上手くいけば身体が不自由になられた方でも作業がこなせる筈です」

「これなら大将が勧めてる政に役立つで」

取っ手を回すだけの簡単な仕組みで、誰でも出来そうだね。

「でも、身体が不自由な人に無理に働いて貰わなくてもいいんじゃないかな?」

そんなの可哀想に思う。

「大将が言うには、何もしない方がよっぽど辛い言うてたわ。どんな小さな事でも人に役に立てる事をしてたら、人は人でおれるってな」

そうだった、私も何も出来ないと思ってた時、苦しかったんだった。

 

「皆、来たのじゃ〜」

子供達が袁術さんを見つけて一斉に駆け寄ってくるよ。

「此処は色んな事情で親を失った子供達が集まって住んでる施設なの」

途中で合流した于禁さんが説明してくれた。

「同じ様に子を失ったお母さん達に世話をして貰ってるの、経営は国でしてて、お給金も出してるの」

袁術さんはよく顔を出して、一緒に遊んだり歌を唄ったりしてるって。

改めて思い知る、戦は勝っても犠牲者が出るんだよ。

女の子が私に一輪のお花を差し出してくれた。

お礼を言って一緒に遊んだ、子供達は楽しそうに笑ってたよ。

 

袁術さんは于禁さんと一緒に城に戻ったけど、私はもっと色々見てみたくなって気がついたら日が暮れてたよ。

お腹空いたな、近くに食堂があったよね。

あれ?何か賑やかだよ?

私がお店に入ろうとしたら後ろから声を掛けられて、振り返ったら張勲さんが居た。

張勲さんが口に指を当てて、付いて来る様に手招きする。

私は黙って付いていくと、お店の裏口に来て中に入った。

お店の隅に出たみたい、店内を見回したら御遣い様がたくさんの人に囲まれながら話をしてた。

「おっちゃん、前に教えてくれた事が役に立ったよ、ありがとう」

「それは難しいな、何とか工夫できないかなあ」

「おばちゃん、この新しい料理いけるよ、食材の生産地の村と相談してみよう」

「駄目、絶対駄目!危険だから」

「へえ、そんな噂流れてるんだ。ところでその種馬の噂、どこまで広がってるの?」

私は呆然と眺めてたよ。

集まってるのは付近に暮らしている人達のようで、何の遠慮も無く御遣い様に話しかけてる。

それこそ老若男女問わずだよ。

とても、眩しい光景だった。

私が夢見た、愛紗ちゃん達と成し遂げたいと思っていた皆の笑顔がある。

涙が流れて、張勲さんに促されてお店から出る。

「お食事は城に戻るまで我慢してくださいねえ」

「あの、御遣い様はいつもこういった事をしてるんですか?」

凄く聞きたくて、食事の返事もそっちのけで詰め寄ったよ。

「歩きながらお答えしますよ」

御遣い様が治安回復の為に、街の人達に話を聞きまわった事が切っ掛けで。

先程のところだけでなく他にもあって、月に一度位で場を設けてるんだって。

「凄いなあ、本当に凄い。私なんかと全然違うよ」

「そうでしょうか、一刀さんと劉備さんは似てると思いますが」

とんでもない事を言われた。

「そんな訳ないじゃないですか!一つも似てるところなんてないですよ」

「私から言わせれば根本はそっくりです。要は一歩一歩進もうとしてるか、到達地点だけを見ているか、それだけの事です」

「それだけって」

「申し訳ないですが貴女は私達の仲間ではありませんので、これ以上お答えする気はありません」

それからは会話も無くて、私は言葉の意味をずっと考えてた。

 

 

集会を終えて、城に戻る途中で沙和に出会う。

「さ〜いしょう、今帰りなの?」

そういえば、この呼ばれ方も違和感が無くなったな。

凪には宰相、沙和にも宰相、真桜には大将、以前の隊長と呼び方が似てるしな、随分出世したけど。

「沙和こそ随分遅いじゃないか、何かあったのか?」

「書類仕事に時間かかったの、仕事多すぎなの」

それを言われると辛い。

「そうか、お疲れ様。食事がまだなら街の皆から貰ったものがあるけど、食べるか?」

「貰うの〜、部屋に戻って凪ちゃんも呼ぶの」

「凪は近郊の村に行ってるから今日は戻ってこないぞ、それに真桜は?」

「真桜ちゃんはさっき顔を出したけど、今日は鍛冶場で泊り込みだって」

真桜にも色々お願いしてるからな。

「それじゃ、真桜には差し入れを持ってくか。美羽達も、もう休んでるだろうし」

「やった〜、宰相と二人きりなの」

こっちが赤面することを言って腕を抱え込まれた。

おまけにそのまま差し入れを持って行く事になって、半眼の真桜に俺の食う分も取られた。

 

「沙和、自分ずるいやんか、独り占めする気かい」

「前の遠征で真桜ちゃん口付けしたって自慢してたの、お互い様なの」

真桜ちゃんと話をした後、宰相と一緒に城に戻って沙和の部屋で食事をしてるの。

宰相は何か落ち着かない感じなの、沙和のこと意識してるのかも。

種馬の宰相だから、誘惑したらきっと食べられちゃうの。

本当は沙和も凄く緊張してるんだけど、いい女はそれを隠すものって阿蘇阿蘇に書いてあったの。

それに、その前に宰相には聞きたかったことがあるの。

「ねえ、宰相。沙和たちが籠売りに来た時、沙和達が遠くから来たのが分かってたような返事したの、覚えてる?」

宰相が驚いてるの、思い出したみたいなの。

「それに稟ちゃん達から聞いたけど、華琳様に仕えたい気持ちを知られていたって」

宰相は黙ったまま。

「あとこれが一番不思議なの。この前の遠征で天和ちゃんが歌を聴いて皆が泣いてたの。沙和も真桜ちゃんも凪ちゃんも、あの華琳さんも涙を流してたの」

あの歌を聴いてたら胸の中に大きな穴が開いたみたいで、どうしようもなく悲しくなったの。

辛そうな顔をしてる宰相に、沙和は迫って聞いてみる。

「宰相は何を知ってるの?沙和にとって、皆にとって何なの、教えて欲しいの!」

宰相は少しして口を開いてくれた。

「胡蝶の夢だよ」

知らない言葉なの、聞き返そうと思ったけど先に言われたの。

「説明は出来ない、これは俺がこの世界に来たときに自分に課した事なんだ。今を生きている皆に、沙和に背負わせられない事だから」

沙和は分かったの、これは宰相の誓いなの。

「勝手な事を言うけど聞かなかった事にして欲しい、俺は皆との未来を掴む為にここにいるんだ」

沙和と宰相は見つめ会って、

「じゃあ、これからもずっと一緒なの?」

「ああ、ずっと一緒だ」

「いっぱい愛してくれるの?」

「ああ」

「それならいいの、宰相、大好きなの」

「俺も沙和が大好きだよ」

宰相の温もりを感じて、幸せに包まれながら思ってた。

きっといつか話してくれるよね、隊長。

 

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あとがき

早いものでもう2月です、寒い日々が続きますが春の兆しも見えてきました。

この作品に目を通していただけてる方には本当に感謝です。

どうにか黄巾の乱鎮圧までこぎつけ、華琳も登場できて一段落です。

それにしてもヒロインが多いというのは本当に大変です、私みたいに皆好きだと尚更です。(一刀はもげればいい)

他の作品を読ませていただく時に感心する事が多々あり、非常に参考になります。

今後もどうぞよろしくお願いします。

説明
一刀のもとで居候中の桃香
一刀の政をどう受け止めるのか
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コメント
沙和は何か思い出しそうな感じですかな?しかし…種馬の噂て…北郷、お前…お前…(嫉妬)(はこざき(仮))
終盤はともかく初期の桃香はマジでカリスマのみのお花畑娘だからなぁ。やっぱ蜀には一刀がいないと(アカン)(黒乃真白)
噂の種馬か………美羽も食ったと思われてるんだろうな………(地球ジェット…)
うわさになってる種馬って・・・・・・いや、なんでもない。(アルヤ)
働かざる者食うベからず、私の上司にいやその…素晴らしく的を得たお言葉ですね。(禁玉⇒金球)
桃香は一刀を見て少しはよくなってくれるのかね〜今後に期待ですな!(nao)
最後に隊長って沙和が呼んでるのがいいですねぇ(shirou)
一歩一歩を大切にする一刀と、到達地点だけを見ている桃香…その違いは非常に大きいですね。しかし相変わらずの仕事嫌いだな、桃香は。(Jack Tlam)
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諸葛亮 劉備 沙和 真桜  七乃 美羽 北郷一刀 真・恋姫無双 

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