月に花束を
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St. Valentine's day

バレンタインデーの歴史は、ローマ帝国の時代にさかのぼるとされる。

当時、ローマでは、2月14日は女神・ユノの祝日だった。ユノはすべての神の女王であり、家庭と結婚の神でもある。翌2月15日は、豊年を祈願する(清めの祭りでもある)ルペルカリア祭の始まる日であった。当時若い男たちと娘たちは生活が別だった。祭りの前日、娘たちは紙に名前を書いた札を桶の中に入れることになっていた。翌日、男たちは桶から札を1枚ひいた。ひいた男と札の名の娘は、祭りの間パートナーとして一緒にいることと定められていた。そして多くのパートナーたちはそのまま恋に落ち、そして結婚した。

ローマ帝国皇帝・クラウディウス2世は、愛する人を故郷に残した兵士がいると士気が下がるという理由で、ローマでの兵士の婚姻を禁止したといわれている。キリスト教司祭だったウァレンティヌス(バレンタイン)は秘密に兵士を結婚させたが、捕らえられ、処刑されたとされる。処刑の日は、ユノの祭日であり、ルペルカリア祭の前日である2月14日があえて選ばれた。ウァレンティヌスはルペルカリア祭に捧げる生贄とされたという。このためキリスト教徒にとっても、この日は祭日となり、恋人たちの日となったというのが一般論である。

 

 

朔夜はそこまで読んでぱたんと本を閉じた。綺麗とは言えない手口でとはいえ、膨大な量の本を貯蔵するこの里は、隠れ里でなければ日本一の図書の里だろう。村は大きな蔵のなかに有り、住居空間を除いたほぼ全ての壁に本棚が埋め込まれ、そこにびっしりと本が詰まっている。それでも収納が足らずに床のあちこちに本が積んである始末だ。

書籍の幅は広く、際限がない。絵本もあれば外国の文字で書かれた小難しい哲学やら政治の本まで、しかもそれが整理もされず適当に詰め込まれているもんだから、目当ての本を見つけるのにも一苦労である(最もその本の持ち主である里の長たる鴇は、一度読めば内容を覚えてしまううえに、どこにどれを置いたか割に正確に覚えているようで、困ったことは無いようだが)

普段そうそう訪れたりしないこの里を朔夜が訪れた理由は、至って簡単だ。峠にある茶屋では毎月のように祭りの騒ぎが上がるつい先日は節分、その前は正月。異国の祭りを仕入れてくることも珍しくない。その茶屋で先日、新しい祭りが仕入れられていた。バレンタイン、冒頭で朔夜が調べていたそれだ。またやあの女将の金づるになることに気づいた人間もわずかだろう、基本的に人がいいここのつ者連中や、お尋ね者であろう偽り人まで、みな見たこともない異国のお菓子に一様に目を輝かせて、送り先に頭を悩ませていた。勿論、朔夜もそうと分かりつつも、楽しみにせずにはいられなかった。だから、こうして偽り人たる教え子、鴇のもとに訪ねて外来の本を鴇が訳したそれを、わざわざ掘り返してまでバレンタインを調べに来たのだ。

 

「(恋人たちの日…)」

 

それが元の形なのだろう、あの女将が祭りを盛り上げるために話を大きく、また恋人に限らず家族や友人にと枠を広げることで利益をあげようという寸法なのだろう。

 

「(それに思いっきり乗っかるつもりなのですけれどね…)」

 

いつも世話をかけているカワイイ子供たちに、できればみんなにチョコを贈りたい。ひとりひとりには無理でも、何かお菓子が作れないかとたくさん資料をひっくり返し、異国に詳しいという知り合いもつかまえて、チョコレートケーキという焼き菓子を作ろうと思っていた。

 

しかしもうひとり、贈らねばならない人がいることを、忘れたくなかった。

『雀崎花月』…偽り人集団三日月屋の若頭であり、朔夜の旦那であった男だ。もう、十四年も前に里で起きた火事から子供を助けて、火に巻かれて亡くなった。今でも、朔夜にとっての恩人であり、主であり、最愛の人である。

 

「(ああ…そういえば、あの人は甘いものが好きだった…)」

 

壁に寄りかかり、とじた本を傍らに置いて、そっと目を閉じる。瞼の裏に映るのは、いつだってあの人の笑顔だった。

 

 

 

「もう!若ってばまたそんなもの食べて!それで夕飯いらないとか言いだしたら露草姉さんに言いつけますよ!!」

 

花月は甘いものが好きな男だった。あんこや砂糖菓子を好み、逆に辛いものは好かなかった。逆に、三日月屋で家事一切を取り仕切る露草は辛いものが大好きだった。

 

「あいつの飯は辛くて食えたもんじゃない!!せめてお前か孔雀が飯を作れっていつも言ってんだろ!?」

「少しのわさびでギャーギャー騒ぐ若がおかしいんですよ。全く。せっかく食後にと大福を頂いてきたのに」

 

そう言うときまってなんだと早く言えよと彼は怒った。今現在進行形で土鍋であんこを抱えていても、そういうのだ。

 

 

 

「なあ、姫知ってるか?」

「何をですか?」

 

ふと、花月が突然そう言い出したことがある。もう慣れた、野宿の晩だった。彼は手にしていた真っ白な大福を大きく掲げると、まるでお月様が大福になったかのように重ねて笑った。

 

「月には、死者が住まう都があるというそうだ。満月の晩には、あちらとこちらが繋がると聞く。」

「珍しい…伝承ですか?」

「まあな…」

 

そう言うと掲げていた大福をポイッと口に投げ入れて、そうして彼はにいっと笑った。

 

「俺が死んだら、満月の度に俺に大福を頼んだぜ?姫さん」

 

 

「朔夜さん?」

はっと、朔夜はその声に思案をやめて目を開いた。そこにいたのは医者の…たしか木菟といったか。最も本名ではないだろうが。優しい栗毛を柔らかく揺らした彼に、朔夜は微笑む

 

「すみません、長居してしまって」

「いえ…どうせ姫はこのところの寒気のせいで床に伏してますし」

 

姫。かつて自分が呼ばれた呼び名で、教え子が呼ばれている。それがなんだかおかしくてクスクスと小さく漏らした。

 

「あれ、バレンタインなんて変わったもの調べてたんですね。」

「ああ…仲間内で盛り上がったのでどうせならと思って…知ってるんです?」

「ええ…まあ本で読んだ程度ですが。チョコレートの他に花を贈る習慣もあるとか。いいですよね、俺も今年はやってみようかな。」

「ふふっ、何を贈るんです?」

「何がいいかなあ…あ、葛根湯?」

 

くすくすとお互いの笑い声が広がる。ここが偽り人の本拠地であることを忘れるほどに穏やかだった

 

「花…かあ…」

「花を贈られるんですか?だったら薔薇ですね…バレンタインといえばっていうのもありますが…」

 

そう言うと木菟はいたずらっぽく笑って、聞いた朔夜も耐えられずくすくすと笑った。

 

 

 

 

 

 

白い薔薇の花束を満月の夜に月の映る湖へと沈める。

白いバラの花言葉は尊敬、そして

「私はあなたに、相応しかったでしょうか…花月さん」

 

“私はあなたにふさわしい”

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

(途中からわからなくなって支離滅裂ですやばい)

 

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もうなにが書きたかったのかわかりませんorz
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