島津一刀と猫耳軍師 2週目 第19話
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馬騰との戦いのあと翠は取り敢えず牢屋に入れられる事になった。

 

その時ずいぶんと愛紗と鈴々は驚いていた。まぁ自分たちにつづいて見知った顔が同じ牢屋に放り込まれれば無理もないか。

 

馬騰の死のショックは相当大きかったらしく、牢屋に入れられてからすっかり消沈し、食事もほとんど取らなくなってしまったらしい。

 

話しをするにしても今は時間が必要だろうと思ってそっとしておいてある。

 

ここの所の各勢力の情報はきっちり探っているが、結局華琳達は動かず終い、孫権についても同じく動いたという情報は入ってきていない。

 

変化があったのは袁紹。なんと驚いた事にまともに政をやり始めたという。

 

絶対劉備が裏で何かやってる、というのがそれぞれの一致した意見。だってあの袁紹だしなぁ

 

こちらはといえばまぁ例によって戦後処理で大わらわ。

 

戦のあとというのは政の仕事が一気に増える、というのは経験上知ってる。

 

まぁ無理をするのも何だし俺はいつものペースで仕事をしていた。

 

しかしいつものペースというか作業時間の長さが相当異常らしいのが最近分かってきた。

 

仕事の速度自体は紫青や桂花、朱里には全くかなわないんだけど、

 

この世界に来てからのいつもの作業時間は大体、朝起きてから夜眠くなるまで。

 

朝起きて、天泣を起こして、鍛錬して目をさまして、それから夜寝るまでずっとデスクワーク、この合間に警邏や訓練が入ってきたりする。

 

休日など無い。……慣れって怖い。

 

おかげで各方面から心配されて忙しいというのに休みを言い渡された。

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でまぁ休みと言われても特にやることがないわけで。

 

結果として城内をぷらぷらしているのだけど。

 

庭で休憩中の張燕を発見した。そういえば仲間になってからゆっくり話しもしてなかったなぁ。

 

ってわけで声をかけてみることに。

 

「や、仕事には慣れた?」

 

「おや、北郷かい。仕事はまぁそれなりさ。

 

流石に盗賊やってるのとは勝手が違う。でも全うな仕事ってのも悪くないさ、いい加減盗賊なんて商売もイヤになってたからね。

 

好きで盗賊やってる奴なんかそう多くないよ、たぶんね」

 

「そっか」

 

「あんたにゃ感謝してるよ、気が向いたら今度あたしの部屋に来なよ。礼に白兎と一緒にいい目を見せてあげるからさ」

 

「はは、考えとく」

 

そこで背後からごく小さな殺気を感じた。とっさに鉄扇を広げ、盾にすると、カンと軽い音を立てて何かが地面に落ちる。

 

視線を落とせば、ドングリ……?

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「くぅ、気づかれたぁ」

 

そういえば白兎は俺とほぼ同じタイプの将だっけ。そこには、ドングリを防がれたのを見て悔しそうな表情をしている白兎がいた。

 

「白兎、ただでさえあたしらは元盗賊ってんでいい顔されないんだから、いらない火種を作るんじゃないよ。

 

北郷がそういうイタズラを気にしない方っていっても、他人が見てたらそうじゃないかもしれないからね」

 

「はーい。それより菖蒲、言われたの買ってきたよ」

 

白兎が小脇にかかえているのは本。

 

現代風に言えば、小学生の国語の教科書ってところだ。

 

「人前で出すんじゃないよ、全く……」

 

バツの悪そうな顔をして俺から視線をそらすのが、普段の姉御的なイメージとギャップがあって中々破壊力が……。

 

「一応一軍の将になったんだから、文字の読み書きぐらいできなきゃカッコつかないだろ?」

 

「あれ? でも兵法はある程度知ってるんじゃ?」

 

「白兎に兵法書を読んでもらってたんだよ。この子は読み書きは出来るから」

 

「やる気があるなら桂花達に話しを通すけど……、勉強したいっていうなら多分丁寧に教えてくれるとおもうよ。

 

多分その本読むより大分よく頭に入るとおもうし」

 

俺もずいぶん助けてもらったことがあるし……。

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「ほんと、あんたも人がいいねぇ。あぁ、そうだ。忘れてた。

 

あんたにゃ真名を預けとくよ」

 

「じゃあ私も。私は椿花だよ」

 

「ん、嬉しいけど、白兎もいいの? 菖蒲にも預けてないんじゃ?」

 

「預けてるよ、ただ、ここ一番でしか呼んでくれないんだよねー」

 

そういってわざとらしく椿花がため息をつき、それをみて菖蒲が苦笑を浮かべる。

 

「自分みたいなのが呼んだら真名が汚れるから、普段は呼ばないんだって。

 

一刀も、私達が仲間になった時に真名を預けてくれたけど、菖蒲に呼んでもらったこと、無いでしょ?」

 

「あー、そういえば……」

 

菖蒲には字で呼ばれてたきがする。今日もそうだったし。

 

まぁ性分なんだろうとおもって気にもしなかったけど

 

「でー、一刀は菖蒲の部屋に行くの? 私はこんなだし経験無いからあんまり期待しないほうがいいよー?

 

菖蒲はいいよねー、出るとこ出てて。」

 

などといいつつ自分の平たい胸をぺたぺたと触る椿花。

 

「あ、でも私みたいなのが好みだったら私の部屋にきてくれてもいーよ? そしたら一対一で色々してあげちゃうよー?」

 

「ぶっ」

 

椿花の言葉に思わず吹いた。周りで誰か聞いてないだろうなと思わず周囲を見回したり。

 

冗談だと思う事にしてせっかくさらっと流したのに、何で掘り返すんだこの子は!

 

っていうか聞いてたのかよ! 色々してあげちゃうって凄い興味あるけどさ!

 

この子も可愛いし。……、暗器使いってのが怖いとこではあるけど。

 

「菖蒲は私の恩人だし、その菖蒲を助けてくれたんだから私の恩人も同じ。

 

だからそれぐらいのことはしたげるつもりだよ」

 

「俺、そんな大したことしてないと思うけどなぁ」

 

実際功績を上げたのは菖蒲や椿花自身の頑張りによるものだし、俺はちょっとその道を示しただけなんだけど。

 

「それぐらいにしときな。さて、そいじゃ私はそろそろ仕事に戻るよ。

 

白兎、警邏に行くからついてきな」

 

「あいあいー。それじゃ、またね一刀」

 

そういって、菖蒲と椿花は仕事に戻っていった。

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「北郷よ、居るか?」

 

「開いてるよ」

 

と、部屋に入ってきたのは赤みがかった茶髪の女の子。翠の髪を赤っぽくした感じか。

 

長い髪を大きなリボンで一つにまとめて、膝丈のスカートにパンストかニーソか、それに長袖の上着、色合いは地味な色が主になってる感じ。

 

年の頃は予想だと月の下で麗ちゃんの上、ぐらいに見える。

 

名前は白人子和−はくれんしほう−というらしい。

 

俺が洛陽に来てからというものチラホラと俺の部屋に現れるようになった子なんだけど。

 

正直いって、誰それ? って感じなんだよなぁ……。

 

全く覚えの無い名前だし。

 

割りとしっかりした子で、政務の事を色々聞いてきて、時には自分の意見を言ってくれる事もある。

 

それにしても何か表情が暗いなぁ……

 

「お茶でもだそうか」

 

「すまんな、気を使わせて。しかし無事に帰ってきてくれて何よりだ」

 

そういえば馬騰軍との戦いのあと俺の部屋に来るのは初めてだっけ。

 

確か最初の時は……

 

たしか、洛陽に来てから1ヶ月ほど経った頃。

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ドアが叩かれ、開いている、と答えれば入ってきたのは見覚えの無い子だった。

 

「あれ、どちら様?」

 

「私は白人子和。天の御遣いという男を探しているのだが……」

 

「あー、それ多分俺の事だよ、ほら」

 

そういって、いつの間にか俺の身分証のようになっている鉄扇を広げて見せる。

 

「お前がそうなのか、思ったより普通だな」

 

「よく言われるよ。あんなのは称号で俺はただの人だし。

 

ただ少し、違う知識や常識を持ってるだけの異邦人だよ。

 

聞いてるかもしれないけど、自己紹介しとくよ、俺の名前は島津北郷」

 

「ん、名は聞いている。実は、後学のために仕事ぶりを見せてもらえ、と言われてな。

 

邪魔でなければでよいのだが……」

 

なんというか、ロリ声でこの口調っていうのもどうなのか、などと思ったりしないでもないが、

 

まぁこれはこれでアリ……なのか?

 

しかしこの子も年齢不詳だな。一体いくつなんだか。

 

「別に構わないよ」

 

俺がそういえば、椅子を持ってきて俺の横にすわり、食い入るように俺の手元に視線を向ける。

 

まぁ正直邪魔といえば邪魔なんだけど、気になるし。

 

でも、勉強したいっていう人間を無碍にする気にはなれなかった

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「私達には及びもつかん発想をするのだな」

 

しばらく俺の仕事を見た子和の感想がこれ。

 

まぁ確かに、この時代の人から見ればそうなんだろうなぁ……。

 

「そう大したことはしてないんだけどね」

 

「謙遜するな、その知識や発想が洛陽を1ヶ月でずいぶん変えたそうじゃないか」

 

「俺ばっかりの力じゃないよ」

 

俺が来る以前に月がずいぶん頑張ってたし、俺の考えをうまく形にしてくれる桂花や紫青がいてこそだしなぁ。

 

「なぁ北郷よ、天の御遣いというのは、戦乱の世を治めるために現れると聞いたが、実際どうなのだ?

 

ただの人だという北郷自身の考えは」

 

「俺の考えてる事はもっと小さいよ。少し、身の上話をしていいかな?」

 

「ん、聞こう」

 

「俺にはさ、身内が一人も居ないんだ。みんなのいう『天』からこちらに放り出された時から。

 

その時、仲間になってくれた糜芳や糜竺、荀ケ達はみんな家族も同然。

 

洛陽に来て間もないけど、張遼や華雄とは旧知だけど、あの2人もそう

 

身近にいる兵も、みんな家族だと思ってる。親しくしてくれる街の人たちは皆友人だとおもってるしね。

 

だから、俺は家族や友人のために仕事をする。ただ独りだった俺を慕ってくれる人への恩返しっていったら変かもしれないけど」

 

以前華琳にしたような話しをする。振り出しに戻っても、やっぱり俺の考えは変わらない。

 

今は太守ではなく一介の将、兼文官だけど。それでもできることはいろいろあるとおもうから。

 

「ただ独り、か。その家族や友人の中に私は入るだろうか?」

 

「子和が俺の事を嫌いでないならね」

 

「なら、これからもよろしく頼む」

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これが子和と最初に会った時。それから時々俺の部屋に来るようになった。

 

「なぁ北郷よ、少し相談があるのだが……」

 

「相談?」

 

「ああ、実は先の戦でな、私に良くしていてくれた者が帰らぬ人となったんだ……」

 

「……」

 

どうにも表情が暗いとおもったらそれでか。

 

戦に人死はつきもの、だから戦なんて無い方がいいと思うけど、やっぱりそれはなかなか叶わない。

 

だから俺は人死が少なくなるようにできることはやって努力したつもり。それでもどうしたって0にはできない。

 

俺自身だって、この手で何人も殺したんだから。

 

「だがな、彼は、その……。あまりいい評判のない人間でな? 私は彼のために泣いてやる事ができなかった。

 

本当はその墓に花の一つでも手向けてやりたい。感謝の言葉の一つでもかけてやりたい。

 

しかしそれすら叶わなかったんだ。私はどうすればいいだろうな?」

 

「それで子和が楽になるなら泣きたいなら泣けばいいと思うし、花を手向けたいならそうすればいいと思う」

 

「だが、そんな姿を誰かに見られたら困る」

 

「でも、そうしたいんでしょ?」

 

俺が問いかければ、ゆっくりと頷く子和。

 

「なら行くよ」

 

「え? ちょっ……!?」

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俺は子和の手を引いて街へと連れていった。最初こそ驚いた表情を見せたものの、その後は大人しくついてきた。

 

途中、花を買い、連れて行った先は……、やっぱり洛陽にも作った例の墓。週一ぐらいで参りにくるのは相変わらずだ。

 

戦から日が浅いせいか、墓にはたくさんの花が手向けられている。

 

「こんなものがあったんだな。戦場で果てた英雄の墓、か」

 

「俺が頼んで作ってもらったんだけどね。

 

下に亡骸が埋まってるわけじゃないから、本人の墓に参るようなわけにはいかないけどさ、

 

ここなら誰か遠慮することもないから」

 

「……そうだな」

 

花を静かに墓に供え、手を合わせれば子和もそれにならう。

 

目を閉じてしばし黙祷。隣からは小さく嗚咽が聞こえてくる。

 

「北郷よ……、すまない、少し、縋らせてくれ……」

 

その声と同時に、ぐいと横から引っ張られたかと思えば、子和は両手で俺の服を握りしめ、額を胸へ押し付けてくる。

 

「大丈夫、気持ちはちゃんと届いてるはずだから」

 

死者に気持ちが届く事を俺は知ってる。

 

だから俺は今ここに居る。あの時……。死者がその身を滅ぼしてまであの世から俺を引きずり戻してくれたのだから。

 

「きっと、ずっと子和を見守っててくれるとおもうよ」

 

頭に手を乗せて撫でる。何もいわないけど、軽く、手に頭を押し付けて来るから多分嫌がってはいないとおもう。

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「見苦しい所を見せたな……」

 

漸く落ち着けば、一歩離れる。

 

「見苦しくなんかないとおもうよ、俺もここで泣いたことあるし」

 

「異邦人のはずのお前が、この国の者のために涙してくれたのか?」

 

「国とかは関係無いよ。俺にとっては皆大事な友人だから」

 

誘われて一緒に酒盛りをしたこともあるし、馬鹿話をしたり猥談をしたり、

 

上司部下というのはあったけど、それでも仲は良かった。

 

だから死に別れるのは辛い。

 

「そう……だったな。そろそろ戻ろう、誰にも言わずに出てきてしまったから心配されていると困る」

 

「あ、ごめん。無理無理つれてきちゃったから……」

 

「いや、嬉しかった。また頼む」

 

子和はそういって俺に笑いかけてくれた。

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とんとんとドアが叩かれる。開いている、と声をかければ入ってきたのは霞。

 

「ご主人様今手ぇあけれるん〜?」

 

この顔は何か企んでる顔だなぁ……。

 

「開けれるけど、どうかしたの?」

 

「月ちゃんが呼んどるから、行ったってくれへん?」

 

「月が?」

 

なんだろう、俺なんかヘマでもしたかなぁ……。

 

「分かった、すぐ行くよ」

 

と、霞から月の居る場所を聞いてみたものの、指定された部屋は確か空き部屋だったような……。

 

まぁ考えてみてもしょうがないし、俺はその部屋に向かって見ることにした。

 

その部屋のドアをノックして、ドアを開ける。

 

中には誰も居なかったけど、驚いた。本当に驚いた。だってそこは……。

 

「俺の部屋……?」

 

そう、前の世界で俺の過ごしていた部屋がそっくりそのまま再現されていた。

 

窓の外の景色こそ違えど、執務机も、寝台も、壁の行灯?も。飾りに置いてあった槍も。

 

うわ……、羅漢銭を投げて柱につけた傷まで……。

 

確かによくよく見ると細部は違うけど、よくここまで……。

 

感慨に浸っていると、とんとんとドアがノックされる音。ついいつもの調子で開いてるよ、というと

 

「本当にすぐいらっしゃったんですね、本当は待っているつもりだったんですけど……」

 

「月に呼ばれたからすっとんできたんじゃないの?」

 

「えっ?」

 

入ってきたのは月と詠……なんだけど。

 

俺……夢でも見てるのかな。

 

「何よ、ボクの顔に何かついてる?」

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とても馴染みのある、懐かしい姿、メイド服を着て2人はここに現れた。

 

以前と同じに、お茶の用意をして。

 

「詠ちゃん、言わなきゃならない事はそんなことじゃないでしょ?」

 

「う……」

 

「言わなきゃならないこと?」

 

「お帰りなさい……、『ご主人様』」

 

「っ!」

 

意味を理解するのに少しかかった。

 

『帰ってくるよ。必ず』

 

『名にかけてでも?』

 

『もちろん。北郷一刀の名にかけてでも』

 

『ちゃんと、帰ってきてくださいね……?』

 

思い出す、最後に月と詠と3人でお茶を飲んだ時の事を。

 

あの時、絶対に帰ってくると約束してそれがかなわなかった事を。

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「ちょ、ちょっと! あんた何泣いてるのよ!」

 

言葉が出ない、俺は2人に言わなきゃいけないのに。

 

「やっぱり、夢で見たご主人様は、一刀さんだったんですね……。

 

最近、夢を見るんです。侍女として、この服を着て一刀さんの傍に居て、

 

一刀さんとお茶を飲んだり、お話したり……。時には、紫青さんや桂花さんも一緒に……」

 

「ボクもよ、見る夢は大体月と同じ、一刀が主でボク達はその下で侍女をやってた。

 

前に霞がそんなこと言ってたから、聞いてみたら教えてくれたわ。

 

その夢で見たことは間違いなく事実としてあったことだって。

 

最初は信じられなかったけど、話もしないのに夢で見たことを次々に言い当てられたら信じるしかないじゃない」

 

「最後にお茶を飲んだ事も。確かに私、夢に見たんです。

 

その後霞さんにお願いしたことも。ご主人様を連れ帰ってきてくださいって……。

 

一刀さんがその約束を果たせなかった事をとても気にしていらっしゃることも……教えてくれました」

 

「それで月と2人で時間を見つけてこの部屋を再現したのよ、思い出せる限り。

 

あんたの帰ってくる場所を、ね」

 

「あの……、私達、余計なことをしたでしょうか……?」

 

俺はゆっくりと首を横に振る。もう大丈夫……、少し落ち着いたからいえる。

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「ただいま……。お茶に……しようか?」

 

笑う、きっと不格好な笑いなんだろう、でも俺は精一杯笑う。

 

2人が思い出してくれたことが嬉しいんだから、例え夢という形ででも……。

 

「はい」

 

月が返事をして、お茶を入れてくれる、その間に、詠は俺にハンカチを差し出してくれた。

 

「あんたが約束を果たした事、この賈文和がたしかに認めたわよ」

 

「ありがとう……」

 

「ほら、座りなさいよ、あんたの定位置に」

 

「でもいいのかな? 今は俺の方が配下なのに」

 

「いいんです。どうぞ……」

 

俺が座ると月と詠が対面に座って……。懐かしい……、本当にあの頃に戻った気がする。

 

差し出してくれるお茶をゆっくりとすする。おいしい、涙の味がするのがいただけないけど……。

 

「それに、劉協様は一刀さんをとても気に入ってらっしゃるようですから。

 

よくしってらっしゃいますよ、一刀さんの仕事ぶりも、その影響で洛陽がどう変わって行っているかも。

 

もしかしたら、近いうちに私より上の地位をいただけるかもしれませんよ?」

 

いやいや、今の月の官職は相国だから確かそれより上はなかったような……。

 

ていうか俺、実は劉協に会った事無いんだけど。

 

城で顔合わせる事って無いしなぁ、どうにもこの城というのが

 

多分だけど、俺のいい加減な知識をもとにして作られてるらしく

 

劉協の城の敷地内に俺や月の普段仕事をしてる城がある、という構造になっている。

 

まぁ別の建物だし顔をあわせる事も無い、というわけ。あっちの城に行く用事も無いしなぁ……。

 

パイプ役は月がやってるし……。

 

「かつては大陸を総べた王だったんですから、私より向いていると思います」

 

「月が良くても、周りが納得しないって」

 

「ふふ……」

 

小さく笑う、不平を言う人が周りに居ると思いますか? とでも言いたげな笑み。

 

月にはかなわないなぁ……。

 

それから、以前と同じようにしばらく他愛無い話しをして時間を過ごした。

 

「この部屋は、私室として使ってもらっても構わないので」

 

「ありがと、そうさせてもらうよ」

 

最後に月がそういったので、俺はゆっくり頷いた。

 

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あとがき

 

どうも黒天です。

 

今回新キャラが登場しました。

 

子和は本当は馬騰戦の前に出す予定だったんですがうかと忘れておりまして……。

 

洛陽に来て間もない頃から居た事になっております。

 

一刀が誰だこれ? って言っている通り、白人子和は偽名です。誰だかはおそらく簡単に分かるとおもいます。

 

ウチの外史では能動的かつ結構フリーダムな人になる予定。誰だか、書いて置いたほうがいいですかね?

 

さて、今回も最後まで読んでいただいてありがとうございました。

 

また次回にお会いしましょう。

説明
今回は、新規加入した菖蒲、椿花に月、詠の拠点。それと今回は新キャラが1人出てきます。さて、色々思い出した月が一刀のためにしたこととは?
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コメント
この展開はすごいと思いました。あれ、画面が歪んで前が見えない…(ハンカチを抑えつつ)(はこざき(仮))
>>孫緑さん 調べてみました、ジョジョネタだったんですな。確かに子和にしても月詠にしても入り込める空気ではないですしね・・・w(黒天)
>>陸奥守さん そろそろ出番を用意しようとおもってるのでボチボチでしょうか?(黒天)
もうそろそろ色々な意味で可愛そうな人に愛の手を。あと今回の月詠の行動めっちゃ感動した。(陸奥守)
>>naoさん 白人子和の正体は、知らぬは一刀だけ、とかなりそうな……。思い出した事は、覚えていないことで一刀は相当なショックを受けていたので、それもあってより嬉しかったとおもいます(黒天)
>>たっつーさん 秘密の私室で……。これは捗る。(黒天)
>>h995さん 確かにホームシックのような描写って一切無かった気がします。ゼロの使い魔は見たこと無いですが精神誘導はあったりするかもしれないですね。そうですね、これでようやく『帰ってこれた』わけですしね(黒天)
>>nakuさん そろそろ牢屋から出てもらわないとですね、董卓に下るにしろ劉備の所に逃げ帰るにしろ……。食っちゃ寝生活で大分体重が増えて体が鈍ってそうだ……。(黒天)
白人子和が劉協ですな〜w一刀よかったな月と詠が夢でも思い出したことをしれて;;(nao)
……よくよく考えてみれば、無印で一刀はよくホームシックに罹らなかったものです。その辺り、ゼロの使い魔の才人の様に精神誘導されているのかもしれませんが。それだけに、この月と詠の心配りにはグッと来たことでしょう。(h995)
>>孫緑さん さすがに今回はもげろと言ったら可愛そうかも……。かなりわかりやすく書いたつもりなので、子和の正体は結構みなさん分かったみたいですね(黒天)
>>いたさん 蔡ヨウ、ではありませんでした、ちなみに白人子和の名は、劉協の字の伯和の伯を分解し、並び替えて性と名に当て、『伯』や『仲』を親にもつ子の字によく用いられた『子』を伯の代わりにくわえて『白人子和』となりました。(黒天)
>>Jack Tlamさん 財布の紐を握る官職ですか、調べてみるとかなりの権力を持っていたようですね(黒天)
>>D8さん 正解です。月と詠の会話が気に入っていただけたようで幸いです(黒天)
>>Jack Tlamさん そうですね、正解もあるので言ってしまいますが劉協です。なので彼女が言う帰らぬ人とは馬騰の事、ですね。一刀は気づいていませんがw(黒天)
まさか…蔡ヨウ(史実で董卓の屍の前で泣いた役人)か娘の蔡文姫とか?(いた)
追伸 …ん?よく考えたら、相国より上の立場は確かにないかもしれないけど…後漢王朝では尚書が実質的に政権を握っていたような気が…まさかっ!?(Jack Tlam)
白人子和=劉協しか思い浮かばない・・・ここの劉備もいろいろ暗躍しますな。最後の月詠のシーンでホロリときました・・・(D8)
白人子和…一体誰なんだ…口調からしてそれなりの地位にある人間なのかもしれませんが…(Jack Tlam)
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