恋姫無双 武道伝 6話
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時は少し遡る

 

「・・・ふぁ」

 

ぱちりと目を開ければそこには薄暗い木造の天井。それは見慣れた自分の部屋のものではない。どこだろうかと考えるのと、自分はよくわからん世界に飛ばされたんだったと思い至るのはほぼ同時。

 

「今日は村人に活をいれるんだったな。あー、もしかしたら手合せもあるかもな」

 

今日一日の内容を考えながら身だしなみを整える。と言っても一張羅なのでしわ伸ばしをするだけだ。部屋の片づけも敷き布を畳むだけですぐ終わる。星はまだ寝ているようで、静かな寝息が聞こえてくる。部屋にいても仕方がないので日課の鍛錬でもするかと部屋を出る。階段を下りたところで女将を見つけたので、水と少量の酒を頼む。朝食は星たちが起きてからでいいだろう。酒飲みが多いのか、すぐに出された酒を、一口指ですくって舐める。果物の甘い匂いが鼻腔を抜ける。

 

「藍苺酒か、水に匂いがつくかもしれんな」

 

「朝からお酒とはいい身分ですねー」

 

振り返れば程立がテトテトと歩いてくるのが目に入る。こいつ、こんな早くから起きてるからいつも眠いじゃないのか?

 

「今日はおにーさんにお願いがあって特別早いだけなのです。普段の風は日が高く上るまでおねむなのですよー」

 

「俺の心が読めるのか」

 

珍妙なりと驚けば、おにーさんの考えそうなことを言ってみただけですと返された。普段からどう思われてるか自覚はあったんだな。

 

「そんなことよりお願いがあるのですが、風の話は聞いてくれないんですかね?」

 

「ああ、すまん。で、お願いとはなんだ?そんな改まって」

 

 

 

 

「・・・と、いうわけでして」

 

「ふむ、なるほどな。いや全然わからん。ちゃんと説明してくれ」

 

いきなり話を端折ろうとする程立に、しっかりした説明を求めると、おにーさんはノリというものが足りていませんなどとぶつぶつ言いながらも内容を話してくれた。

 

「・・・つまり俺から護身術を学びたいと?」

 

その内容は、自分と戯士才は知略に自信はあるが、武に関しては丸っきりということ。今までは盗賊などに襲われても星が常に近くにいたし、襲ってくるのもせいぜい4、5人程度のものだったが、これから賊討伐をするのならそうはいかないということだった。

 

「なのでせめてわが身を守れるくらいにはしておきたいのですよ、風もできるだけ死にたくはないですし。それにおにーさんの武は星ちゃんのように高い身体能力が必要というわけでもなさそうですし」

 

一度見ただけでそこまで見抜くか。いや面白い。内心で程立に喝采を送る。

 

「そういうことならわかった。教えよう。だが条件がある。それを飲めないなら却下だ。」

 

「まさかおにーさん、風のかわいさに情欲が沸いて・・・」

 

「一つ、学ぶ以上真剣にやること。不真面目手抜きで身に着けた技は己だけでなく周りも傷つける。一つ、いたずらに人に教えぬこと。護身程度とはいえ、悪用されれば傷つく者が出てくる。教えるのならば、その者が道を外した時に殺す覚悟ができてからだ。そして最後の一つ、決して生きることを諦めぬこと。恥は後から雪げても、死んでしまってはそれもできん。どんな生き恥を晒そうが生きること。いいな?」

 

程立の下らん冗談は無視し、条件を上げていく。とは言っても普通に考えれば当たり前のことばかりだが、この時代の人間は生き恥を晒すくらいなら死を選ぶ奴の方が多いかもしれない。生きるために技を伝えるのに自ら命を絶つなど許しはしない。

 

「我が真名、風に賭けて誓いましょう。誓いの証として我が真名をおにーさんに預けましょう」

 

いつもの眠たげな表情ではなく真剣な表情で。とても美しい包挙礼をとる程立。思わず見とれてしまうほどだった。

 

「あ、ああ。ならこれからは風と呼ぼう。俺は真名の代わりに幼名子文を預けよう。よろしくな、風」

 

「こちらこそですよー」

 

先ほど女将が持ってきてくれた水で乾杯をする。さすがに村人の前に立つのに酒を飲んでいくわけにはいかない。

 

「では早速だが外に行こうか」

 

「おにーさんは随分せっかちなのですねー」

 

「もともと体を動かすつもりだったからな。どうせ時間もあるんだ、早くしろ」

 

 

 

 

「それで、どんな技を教えてくれるのですか?」

 

軽い準備体操を終え、白み始めた空の下で風と向き合う。

 

「お前に教えるのは八番拳という拳だ。この拳は相手の攻撃を受け流し、崩す。型は六十四手あり、奇襲攻撃に優れている」

 

左足を軸に、右足を交差させるように前に出し、両手は拳を握らず広げて構える。そのまま円を描くようにすり足で動く。

 

「この拳の動きは円を描くのが特徴でな、ちょっと打ってみろ」

 

言われた通り、へろへろだが拳を打ってくる風。その腕を掴み、引き寄せながら体を半回転、風の後ろを取る。

 

「今のは星の時にも使ったな。本来なら反転するときに手刀が腹部に、反転しないならそのまま掌底が顎を砕く」

 

「なるほどー、相手の勢いをそのままこちらの攻撃に生かすわけですね。八番拳などというより連環拳とでも言った方がいいのではないでしょうかー」

 

「拳の名なぞ好きにすればいいさ。この拳の套路は流麗でな、時に余興としても使えるんだ」

 

基本となる走圏から、八母掌までを風と一緒にやっていく。当然風は型もなにもあったものではない。それで構わない。一度技の流れを体の中に作れば進歩は速くなる。独自に変化も加えられる。技とはそうして磨かれていくと俺は思っている。その時だった。

 

「とーう」

 

空から白い何かが降ってきたのは。

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あとがき 

 

どうも、やはからです。遅くなってしまいすいませんでした。というのも二月の頭に発売されたDS版闘神都市やらドラクエイルルカやら先日発売の恋姫対戦やらが重なりまして。加えて仕事が12時間の5勤1休になったりして大変だったものですからへへへ。

 

さて、武道伝ではできるだけいろんな武術を出せたらなあと思っていますが、私の文章力の無さからどんな動きか伝わりにくいかと思います。そこで作品内で出てくる技について、私が参考にした動画をあとがきで紹介していこうかなあと思います。

 

星と李文の戦いで李文が使った『打開』

これは八極拳が好きな人は説明するまでもないですかね。そんな人も一度は見てほしい動画。ニコニコ動画にて『めーりん演舞4』。この動画の作者さんは怒りの鉄拳やらサイクロンZやら、いろんな映画の動きをMMDで表現しています。個人的に一押しなのでぜひ見てください。

 

今回でてきた八番拳。いわゆる八卦掌ですね。こちらは映画『グランド・マスター』をぜひ。主役はイップマン。ドニー・イェン主演のイップマン葉問とは全くの別物です。この作品では形意拳、洪拳(もどき)、詠春拳、八極拳、八卦掌が出てきます。ちなみに武術指導は『酔拳』や『蛇拳』、『マトリックス』で有名なユエン・ウーピン。レンタルはなかなかありませんが、もしあれば見てみるのもよいかと。それではまた次回まで

説明
お待たせしました、武道伝6話です。
今回はちょっとだけ武術も出てきます。ちなみに李文君は未婚です。破戒僧とはいえ僧なので。
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