真・恋姫無双 〜新外史伝第123話〜
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晋との交渉後、魏からも使者がやって来たが、使者としてやって来たのは稟であった。

 

今回の使者として華琳は色々と考えたが、桂花は男である一刀を嫌っている上、以前使者と来た翠に対して

 

暴言を吐いた経緯もあり除外、風についても以前愛紗を罠に掛けたことがあり諍いがある恐れがることから

 

これも除外、そして消去法で稟が選ばれたのであった。

 

と言っても元々の能力が高く、個性の強い魏の軍師の中では一番の良識と言っても過言では無かった。

 

そして稟が一刀への見舞いの言葉を述べた後、話は本題に移る。

 

「ところで北郷様、二つほどお話したい事がありますが」

 

「何?」

 

「まず一つ目ですが、今回の晋の行為、我々も許しがたい一件です。ここは、私たちと手を結んで晋を打倒

 

しませんか」

 

稟の口から出た晋に対する共闘であるが、これがもう少し早ければ魏と手を結ぶ事も考えたが、先に晋と手

 

打ちしたため、一刀の性格上これを反故することは考えられなかった。

 

だが秋蘭の事もあるので、一刀は

 

「話は分かりました。まずは貴女に会っていただきたい人物がいます。璃々、“彼女”を呼んできてくれ」

 

「うん、分かった」

 

璃々が一旦部屋を出た後、連れて来た人物を見て稟は顔色が変わった。

 

「秋蘭殿……生きていたのですね」

 

秋蘭生存の噂は聞いていたものの、実際にその姿を見ると嬉しさと共に驚きを隠せなかった。

 

「ああ、そこにいる一刀殿に助けられて、今こうしてこの場にいることができた」

 

「それはどういうことですか」

 

一刀は事情を説明したが、事情を聴くと稟の顔は渋い表情に変わってきた。

 

というのは秋蘭が紫苑の強引な手段で一刀に降る形で嫁いだ事やそれを拒絶せずに素直に降ったことに怒り

 

と困惑が表情に表れていた。

 

「北郷一刀殿、北郷紫苑殿、貴方たちはこのような手段を取って恥ずかしくないのですか!」

 

稟は一刀たちを批判するものの、紫苑はそのような批判は承知の上で表情を変えずに

 

「あら、そうかしら。貴女の主君、曹操さんも可愛くて才能のある女の子を見れば他勢力でも引き抜くこと

 

を厭わないでしょう。私もそれと同じことをしただけですわ」

 

これは以前、華琳が愛紗を引き抜こうとしたことに対して揶揄したのであるが、これは当時劉備軍の弱体化

 

と華琳が愛紗を欲していたというのが目的もあり、実際に紫苑が言ったことは間違いでは無かったことか

 

ら、稟は黙るしか無かった。

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「稟、確かに私は一刀殿には嫁いだが、これは異性として好きになっただけだ。そして華琳様を裏切ったつもりは毛頭ない」

 

「それはどういう意味ですか?」

 

「では聞くが、この状況で魏は晋に勝つことができるか?」

 

「それと今回の件と何の関係があるのですか」

 

「まあ聞け、このままだと魏は晋に滅ぼされる可能性が高い。だから私は卑怯者と言われるのを承知の上で

 

一刀殿にお願いをしたのだ」

 

秋蘭の言い分に怪訝な顔をする稟。

 

「そこからは俺が話をするよ」

 

今まで黙っていた一刀から漸く事情を話すと分かったので、稟も聞く姿勢を整える。

 

「まず結論から言うと、蜀から魏への援軍は出せない」

 

「な、何故ですか!?」

 

現状の魏の国力では晋の攻勢を防ぐのがやっとの状態で、この状況が続けば衰弱死するのは時間の問題で、

 

蜀が晋を攻撃して貰えれば事態は好転して再び魏が中原へ進出することが可能であるが、その前提条件が崩

 

れれば魏存亡にも関わってくる。

 

「こちらにも都合があるので、それは言えない。だから援軍の件は諦めて欲しい。でも君たちを救う用意は

 

ある」

 

「援軍を出さずに私たちを救うって、そんな都合のいい方法があるのですか!」

 

一刀の謎々の様な話に怒り心頭になる稟。

 

「ああ、あるさ。でも君たちにも代償を払って貰う必要はあるけど」

 

一刀の冷静な口調に稟は冷静さを取戻して落ち着いた口調で

 

「では、聞きましょう。その方法とやらを」

 

「それじゃあ…」

 

一刀の説明は稟だけでは無く、初めて説明を聞いた秋蘭。それに紫苑と璃々以外の将も驚きを隠せなかっ

 

た。

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「……このような事は、流石に私の一存では決める事はできません」

 

「だろうね。それにこの作戦は呉の協力も必要だ。それにそちらから呉へ協力を依頼しても恐らく無理だろ

 

う。俺達でも頼んで引き受けてくれる可能性は良くて五分五分だ。だがこれ以外の方法に他の方法があれば

 

いいけど」

 

「説明を聞いて秋蘭殿の行動は分かりましたが、まだ私たちが負けると決まった訳ではありません。私たち

 

が勝てば問題はありません」

 

稟は秋蘭が一刀に嫁いだ事で、蜀と魏の架け橋になろうという心算は分かったが、今、晋に備え戦っている

 

者に取っては秋蘭の行動が裏切り行為に見える恐れがあり、また稟にも意地というものがある。

 

「稟、頭を冷やさぬか。お主らはそれが厳しいと分かって、こちらに来たのではないのか」

 

「それは…」

 

「確かにお主が言うとおり勝てれば問題は無い。もし敗れた場合、南は呉、北と西は既に晋に押さえられ東

 

は海で逃げ場所が無い状態だ。そして絶地に追い込まれお主たちは非業の死を遂げる可能性が高い。それが

 

臣として正しいことなのか」

 

旧知である星から正論を言われると稟も返す言葉が無い。

 

そしてしばらく静寂が流れ

 

「……分かりました。取り敢えず、私からこの事については曹操様に話をしておきますが、今の状況では、恐

 

らく曹操様はこの話は受けないと思います。それに今回の秋蘭殿の取った行動は、曹操様に取って感情的に

 

も受け入れがたいものです」

 

「曹操様は、そのような屈辱の生を受けるよりも栄光のある死を選ぶでしょう」

 

「では私が魏に行って、曹操さんに今回の経緯を説明して説得しますわ」

 

「えっ?」

 

「紫苑、それは危険だ!」

 

「そうだよ!わざわざ紫苑が行く必要なんてないよ!」

 

稟は驚きの声を上げ、翠や蒲公英などは反対の声を上げる。

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「なぜ紫苑が行く必要があるのだ?その理由を聞かせてくれ」

 

皆が反対する中、星は紫苑に質問する。

 

「今回の秋蘭さんの一件、もし秋蘭さんを止めなければそのまま魏に帰国していた。そのまま帰らせたら、

 

折角ご主人様が命を掛けて守った命は無駄になる恐れがあったわ。だから私は自分の判断でこうしたの。だ

 

から今回の責任が私にあるわ。お願い、ご主人様に皆ここは私に任せてくれないかしら」

 

「駄目よ。私が代わりに…」

 

「いいえ、璃々さんには呉に使者として行っていただく重要な役目がありますので代わることは無理です」

 

これを止めたのは真里であった。

 

璃々が紫苑に代わって使者に行くつもりであったが、璃々は一刀の見舞いのお礼に“天の御遣い”の一人とし

 

て、呉への使者と行くことが内定していたのでこれを外す訳には行かなかった。

 

取り敢えず、稟には一度席を外して貰い再度皆で話し合いをしたが、

 

「紫苑どうしても考えが変わらないのか」

 

「ええ…こうなる事は覚悟の上でしたから」

 

一刀は心配になり翻意させよう紫苑を説得するが、紫苑の考えは変わらなかった。

 

「だが今の魏は、既に追い詰められている状態。秋蘭さんには申し訳ないですが、万が一紫苑さんを人質に

 

して晋との戦いに参戦を要求されたら、これに従うしかありません」

 

朱里の意見は尤もであった。

 

「勿論、私も同行して姉者や他の者にそのような事はさせない」

 

「ですが、もし曹操さんが紫苑さんの命を取る様に命令した場合、秋蘭さんどうするつもりですか?」

 

朱里の最悪を想定した質問を聞いた瞬間、皆の目は自然と秋蘭に注がれた。

 

「その時は……華琳様を敵に回してでも、我が命を持って紫苑殿を守る。それが命を救われたせめてものの恩

 

返しだ」

 

秋蘭の覚悟を聞いた皆は反論することは無かった。そして紫苑の魏への派遣が決定的となり、随員として

 

「向こうで翠に喧嘩を売った小娘(桂花の事)が、紫苑さんに何か文句を言うかもしれないから、私も行く

 

よ」

 

と戦える軍師である真里(徐庶)と稟や風と旧知の仲である星が護衛として行くことになった。

 

そして帰国する稟と共に紫苑たちは魏に向け出発し、その後璃々も呉に向け出発したのであった。

 

 

 

 

 

 

説明
今回は会談の模様ですが、少々短めかもしれません。

では第123話どうぞ。
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コメント
雪月さん>確かにこの回の稟が言っていたようにこのままでは「屈辱の生より栄光のある死」を選ぶ可能性は高いでしょう。焦点は会談で華琳が覇王として誇りを貫くか説得に応じるか全ては紫苑に掛っています。(殴って退場)
陸奥守さん>対談の一番のガンとなりそうな桂花や春蘭あたりを色んな意味でボコボコさせないと話は収まらないでしょうね。(殴って退場)
私が想像する華琳の性格ならば、屈辱の生より誇りある死を願う事でしょう  ですが、恋姫魏本編でもそうでしたけれど、一刀並びに秋蘭達が絡む事によって、人間味溢れる華琳であるならば、生きる道もあるのかなとも思えます(雪月)
雷起さん>そこまで言っていただき光栄です。一刀たちに助けられ生まれ変わったとも過言ではない秋蘭。華琳信奉から脱皮して更なる成長を期待させたいですね。(殴って退場)
nakuさん>ここの紫苑は心理戦では他の将より上回っていますからね。また予想外の発言で場を翻弄させるか見物です。(殴って退場)
naoさん>まあ間違いなく桂花はブチ切れて罵倒するのは誰もが想像できますねw。交渉については一筋縄でいかないでしょうが。(殴って退場)
ataroreo78さん>華琳や盲目華琳崇拝者である桂花がどういう因縁を紫苑に吹っかけてくるのか自分でも楽しみです。(殴って退場)
ohatiyoさん>そう言っていただき嬉しいです。だが秋蘭の思いが華琳たちに通じるかどうか…。(殴って退場)
Jack Tlamさん>桂花の罵倒、春蘭の実力行使…。……すぐに想像できそうで、もっとも有りうる光景ですねw。(殴って退場)
h995さん>追い込まれている所為で、見る物が見えていないという焦りですね。魏のメンバーが精神的余裕がない状態で紫苑たちの来訪を聞いて、どういう対応するか次回あたり書きたいと思います。 (殴って退場)
たっつーさん>まあ隣りはね…輩かチンピラのみたいに因縁を付けたり、近所のおばちゃんみたいに悪口を言いふらすのを自慢しているのでしょうw。(殴って退場)
神木ヒカリさん>ジャイアニズムの精神(自分の物は自分の物、他人の物は私の物)の持ち主である華琳が自分の所有物という憚らない秋蘭を一刀に取られたということに怒り心頭であることは間違いないでしょう。(殴って退場)
雪風さん>あとこれに国の面子(体面)や感情というのが要素が入ってきますからね。特に今回は感情という面が大きいと思います。(殴って退場)
紫苑にフルボッコされる魏の面々の涙目しか思い浮かばない。(陸奥守)
”華琳さま命”だった秋蘭の今の覚悟に、武人としての誇りと一刀への愛を感じます!ますます秋蘭の活躍に期待しちゃいます!頑張れ、秋蘭!!(雷起)
桂花とかは裏切り者よばわりでぶちきれそうだなw華琳は怒りは感じるだろうが抑えそう(nao)
相手は「あの」紫苑さんだからね。華琳らがどこまでやれるか見物ですな。(ataroreo78)
秋蘭の覚悟格好良いな(ohatiyo)
もう嫌なフラグが立ったような感じですね。華琳がそうしないまでも桂花あたりは紫苑を相当に罵倒し、侮蔑するでしょう…春蘭も内容は簡素になるやもしれませんが、同様の行為に出る可能性がありますね。しかし稟ほどの軍師が蜀と晋の手打ちがすでに成っているという簡単な答えに辿り着かないというのは、最早晴らし難い暗雲が魏の未来に…(Jack Tlam)
……普段なら、対晋同盟に対してNoと言われた時点で既に晋との間で手打ちしている事に思い当たっているはずですが、それに思い当たらない当たり、どうやら稟も相当に焦っているようですね。軍師ですら焦りで目が曇っている魏の現状において、紫苑達の身に何か良くない事が起きなければ良いのですが……(h995)
華琳がどんな対応をするのか楽しみです。(神木ヒカリ)
外交交渉・・それには色んな種類ありそれぞれ仕方もあり・・・・・武力交渉・援軍交渉・協定(同盟)交渉・物資交渉・そして交渉成立には利害や利害以外の思惑が絡む・・はてさてどうなるやら(雪風)
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恋姫†無双 真・恋姫†無双 北郷一刀 紫苑 璃々 

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