真・恋姫無双 〜新外史伝第124話〜
[全3ページ]
-1ページ-

「ふぅ…」

 

「ご主人様、紫苑さんたちの心配するのは分かりますが、溜め息ばかり吐かれますと幸せが逃げると言いま

 

すよ」

 

紫苑が出発して3日経過したが、心配のあまり仕事中何度も溜め息を吐く一刀に朱里が注意する。

 

「でも仕方がないよ、朱里ちゃん。今回の交渉かなり難しい話だから、ご主人様が心配するのは無理ないよ」

 

今回、紫苑や真里(徐庶)が不在になったため、臨時で一刀や朱里の手伝いをしている雛里が一刀の心情を

 

察してフォローを入れてくれた。

 

「確かにここで心配しても仕方がないけど、やはり皆の事が気になってね」

 

するとコンコンと扉が叩かれ

 

「入っていいよ」

 

一刀の返事が聞こえると扉が開く。

 

「ご主人様!お茶持って来たよ〜♪」

 

メイド服に身を包んだ桃香がやって来た。今日は雛里が一刀の手伝いをしている為、何時より一生懸命、仕

 

事をしなければ張り切っていたが、そんな桃香を見て一刀は

 

「ありがとう……ってそんなに急ぐと危ないから」

 

声を掛けたが

 

「大丈夫、大丈夫……ってキャー!」

 

大丈夫と言ったその次の瞬間に桃香は転び、見事にお茶を零していた。

 

「はわわ!」

 

「あわわ!桃香様、何をしているのですか!?」

 

桃香の転倒を見て慌てふためく朱里と雛里。それを見て一刀は逆に気が紛れてたのか、微笑を浮かべながら

 

「やれやれ仕方がないな」

 

と言いながら片付けを手伝い始め、そして一刀は自然と紫苑たちがいる東の空に目をやっていたのであっ

 

た。

-2ページ-

〜晋〜

 

「陽炎様、魏攻略の準備ですが、後、冀州の兵が集まり次第、何時でも出陣できます」

 

司馬懿(陽炎)に報告しているのは、先の一刀暗殺未遂により制裁を加えられた葵、曾て鐘会と呼ばれた人物であった。

 

彼女は無断で一刀暗殺を謀り失敗、その詫びの為、名目上死刑となり、桃香と同様その名を失い現在は杜預

 

(注「とよ」と読みます:字を元凱。詳しくはウィキペディア参照してください)と名乗っていた。

 

そして顔の両側にそれぞれ三本の創があったが、これは陽炎から制裁を受けた時に、付けられた傷が跡とし

 

て残ってしまった。

 

更に髪を短く刈り上げ、更に顔の下半分を布で覆い隠し、以前の雰囲気と全く違うため、兵はこの人物を鐘

 

会と気付いていなかったのであった。

 

報告を聞いた陽炎は

 

「分かったわ。引き続き兵を集めてちょうだい」

 

「では私はこれで…」

 

「ちょっと待ちなさい。貴女に話があるの」

 

報告を終えて下がろうとした葵に陽炎が呼び止めた。呼び止められた葵は制裁を受けた事もありやや強張っ

 

た表情を見せる。

 

そんな葵の姿を見て、陽炎は軽く微笑む。

 

「そんな緊張しなくていいわ。今更、貴女の命を奪うことはしないから」

 

「はぁ…」

 

陽炎から言われても葵は簡単には警戒を解かなかったが、陽炎はそれを気にせず話を続ける。

 

「フフ…まあいいわ。何故、私が貴女の命を奪わなかったか、その理由分かるかしら?」

 

「……いいえ。私ごときが陽炎様の心中、読むことなど…」

 

葵は不用意な回答をせず、言葉を選んで答える。

 

「そんな口調、貴女には似合わないわよ。私は、貴女のその性格が羨ましいわ」

 

葵は陽炎の真意が分からなかったが、陽炎は話を一方的に続ける。

 

「貴女の欲望と野心の強さ、そしてそれを隠そうとしないところにね」

 

葵の欲望と野心の強さは、元々欲の少ない陽炎から見れば自分が持っていないものを持ち、そして己に対し

 

て忠実である。陽炎から見れば、ある意味分かりやすく、変に無償の忠誠を誓う者よりも信用が出来ると感

 

じていた。そんな葵を陽炎は羨ましく思っていた。

 

「私の無いものを貴女は持っている。だから私はそんな貴女が気にいっているのよ。私は、曹操に誘わるの

 

が嫌で袁紹殿に仕えたが、その袁紹殿が敗れたから、曹操に対抗するために仕方なく立ち上がったわ。もし

 

これが最初に北郷一刀に誘われていたら、私も喜んで仕えたかもしれないわね…。今となっては無理な話で

 

しょうけど」

 

「なぜ今、この話を私に…」

 

葵はここまで開襟した陽炎を見るのは初めてだったので、

 

「何故かしら、貴女を見てそんな話を急にしたくなったの。もういいわ下がっても」

 

「陽炎様。下がる前に一言だけいいですか」

 

「私は何があろうとも、一生貴女の部下です。それだけは信じて下さい」

 

思わぬ葵の言葉に陽炎は一瞬頬が緩み

 

「分かったわ。では次の魏との戦い、それを証明してくれるわね」

 

「必ず、期待に応えてみせます」

 

葵は力強く答えたのであった。

-3ページ-

〜魏〜

 

一方、魏では晋の防御策に激論が繰り広げられていた。

 

その中心は桂花と風で、桂花の案は残った戦力を全て注ぎ込み晋との決戦に挑むというもので、正に乾坤一

 

擲の策で、これには桂花と犬猿の仲である春蘭も賛成していた。

 

一方、風の案は主力を山東半島に移動して防衛線を短くして守備を固め、いずれ晋が蜀か呉と戦う時に反撃

 

で出るまで耐えるという案であったが、いずれも一長一短があり、話が纏まって無かった。

 

それと二人とも蜀の参戦については考えていなかった。だが、それについて桂花は、男の助けはいらないと

 

いう感情的な、そして風は最悪を想定しての事であったが。

 

だが華琳は、このままジリ貧で倒されるよりは勝負に打って出た方が良いという桂花の案に傾いていた。万

 

が一敗れ、司馬懿の前に屈するよりも華麗に滅びた方が自分らしいという考えもあった。

 

そんな中、稟からの書状が届き、華琳は使者の兵から手紙を受け取り、手紙を読むと華琳は、最初は喜びの

 

表情を見せたが、段々顔が険しくなり、最後には怒りの表情を隠そうともせず、

 

「何よ、これは!」

 

手紙を読み終えると同時にその手紙を地面に叩きつけたのであった。

 

「ど、どうされたのですか!?華琳様」

 

普段ここまでの怒りを見せない華琳を見た桂花は恐る恐る声を掛けると華琳は

 

「この手紙を読んで見なさい!」

 

桂花と風が手紙の方を指差す、そして二人は手紙を拾い上げて読むと

 

「えっ!?」

 

「なるほど〜」

 

その手紙の内容を見ると二人の表情は対照的であった。

 

稟から手紙の内容は、書き出しは一刀たちのお蔭で秋蘭が救助され、その後、蜀との交渉不成立となったこ

 

とが書かれていたが、華琳にとって一番の衝撃であったのは秋蘭が紫苑の策もあるが、自ら一刀に嫁いだ事

 

が書かれていたことであった。そして最後に紫苑が秋蘭らを連れ魏に今後について交渉に訪れることで締め

 

くくれていたが、それを見た華琳は秋蘭の行為に対して烈火の如く怒った。

 

一応、稟の手紙では秋蘭が嫁いだ理由の一つに魏の為を思っての事は書かれていたが、華琳にとっては飼い

 

犬に手を噛まれた行為としか思えなかった。

 

風は手紙を読んで、ある程度の理解を示したが、桂花は

 

「やはり、男って屑よ!あの男が秋蘭を無理やり手籠めしたに違いないわ!」

 

「何!それはどういう事だ!」

 

それを聞いて春蘭が血相を変えて桂花に詰め寄ろうとしたが、

 

「待ちなさい!春蘭」

 

華琳は春蘭を止めて、手紙の内容を話す。春蘭はそれを聞いて秋蘭の生存していたことに安堵したものの、

 

秋蘭が一刀のところに嫁いだ事に対して

 

「信じられん…どうしてだ、秋蘭」

 

呆然自失の状態になってしまった。すると風が

 

「華琳様〜手紙では北郷紫苑さんが秋蘭ちゃんとこちらに来ますが、どうするおつもりですか?」

 

「そんなの決まっているわ!捕まえてしまえばいいのよ!!」

 

桂花の意見に風は呆れた表情をしながら

 

「桂花ちゃん、それ本気で言っているのですか?そんなことすれば、蜀は晋と手を結んでしまい、そして西

 

涼から騎馬隊がやって来て、あっと言う間に蹂躙されてしまいますよ」

 

「じゃあ、どうするつもりよ!」

 

「まずは向こうの話を聞いてからでしょうね〜」

 

「何、生ぬるいこと言っているのよ!」

 

「待ちなさい、桂花。風、向こうは兵を出すつもりは無いが話し合いに来ると書いてあるけど、これはどう

 

いう目的かしら?」

 

少し冷静になった華琳が風に質問する。

 

「この手紙だけでは難しいですが、考えられるとしたら呉に援軍を出して貰うのでは?」

 

風の考えは、蜀から直接兵を出すことは出来ないが、代わりに同盟国である呉に援軍を出して貰うのではな

 

いかと考えられた。稟の手紙にも、理由は不明であるが蜀と呉が会談することも書かれていたのであった。

 

ただ稟の手紙に一点隠されている事があった。稟には今回の件について全て話したが、一刀は稟が手紙を送

 

る際、一つだけ条件を付けたのであった。

 

「秋蘭の件はいいけど、今回の計画について手紙で書かないで欲しい。秘密の保持というのもあるけど、手

 

紙では伝わりきれない部分があるから、先に聞いて変に曹操さんに誤解を招きたくないんだ。それに二つも

 

同時に嫌な事を聞くと余計に気分が悪いだろうから」

 

という一刀の言葉を聞いて、稟も華琳の感情面の事を考えて段階を踏んだ方が良いと判断して、これを承諾

 

したのであった。

 

「そう…取り敢えず、あれこれ考えても仕方が無いわ。まずはいつでも兵を動かせる様、準備をしておきな

 

さい」

 

「それで会談の事だけど…、このまま向こうの言いなりにされるのは癪ね。それに私の“秋蘭”を奪い取るな

 

んて許せないわ。桂花」

 

「はい!」

 

「私たち“魏武”のやり方で出迎える準備をしなさい」

 

「華琳様、それはどうかと〜」

 

風は桂花にそのような形で出迎える準備をさせたら、話を拗れさせる可能性があるので忠告するが、

 

「貴女の忠告は、今は受けないわ」

 

感情的になっている華琳は風の忠告を退けた。

 

紫苑たちはこのような状況を待ち受けている魏に知らず向っていたのであった。

 

 

 

 

説明
今回は晋と魏の動きを中心に書きましたが、特に華琳と桂花は随分と小物に見えてしまいます。

元々桂花はあまり好きではないので、これでも良かったのですが、華琳については予想以上に小物化になってしまいました。

華琳ファンの方には、このような扱いをして大変申し訳ありません。私自身、華琳についてはどちらかと言えば好きな方です。それでも良ければ読んで下さい。

では第124話どうぞ。
総閲覧数 閲覧ユーザー 支援
4820 3936 42
コメント
雷起さん>ああ…紫苑の琴線に触れてしまったのですね…。(殴って退場)
紫苑vs華琳の舌戦!ものすごく楽しみです!!紫苑は若返っているけど実際は一番B・・・いえ、人生経験が長ゲフッ・・・・・・・(雷起)
牛乳魔人さん>次回は紫苑と華琳との対峙をどう書くのか、自分でも楽しみです。次回も面白かったと言えるよう頑張ります。(殴って退場)
平野水さん>これで本当に手を掛けてしまったら、まず蜀・晋・呉で袋叩きに遭うことは間違いないでしょう。(殴って退場)
陸奥守さん>ここの華琳は無印恋姫+演義というキャラで考えて貰えればいいかと。残念ながらこれで小物臭するキャラになってしまいました。(殴って退場)
naoさん>大概、どんな時でも私情で動くといい結果は無いですからね…。(殴って退場)
雪風さん>今のところは出兵しないだけ兵の命は失わずに済みますが、会談の結果がこれがどうなるか…。(殴って退場)
nakuさん>次回は色んな意味で話がまとまるかどうか…。難しいところです。(殴って退場)
雪月さん>どちらかと言えば、感情的になり過ぎて周りが見えていないという感じですね。ここは人生経験の豊か(長いは禁句w)紫苑がどう料理するか見物です。(殴って退場)
D8さん>魏はどちらかと言えば、ワンマン社長的な運営ですからね。順調な時は良いが、駄目になると崩れるのが早いですから。(殴って退場)
ataroreo78さん>これで次回合間を入れたら、怒るでしょうねw。(殴って退場)
劉邦征棟さん>この流れから行ったら、どう見ても良い目は無いでしょうねw。(殴って退場)
makeさん>もう将棋の投了前というところですね。この最後の一手が紫苑の手になるのかどうか…。(殴って退場)
たっつーさん>これで風まで離反してしまったら、魏は完全に崩壊の一路を辿ってしまいますね…。(殴って退場)
h995さん>エリートの弱みというべきか逆境に弱いところが出ています。そんな人は計算高すぎて自分の思う通りにいかないと何もかもおかしくなり、自ら泥沼に嵌りこんでいるということですね。(殴って退場)
禁玉⇒金球さん>次回は会談の予定ですが、これが一波乱か大荒れか、それとも嵐になるのかお楽しみということで、引き続き応援よろしくお願いします。(殴って退場)
レヴィアタンさん>華琳は同情できるが、桂花については完全に鼻をへし折らないとどうしょうもない気がするw。(殴って退場)
ohatiyoさん>流石に自分の物と豪語していた秋蘭を一刀に奪われたらね…。(殴って退場)
Jack Tlamさん>「武」とついている時点で既で礼節はないですね。無くした物のが大きいから余計に感情的になっている面が出ているといるということです。(殴って退場)
紫苑には「人の上に立つ者」としても「女」としても格の違いを華琳に見せ付けて欲しいですな(牛乳魔人)
まあここの華琳は原作ほど誇り高くないからね。いい意味でも悪い意味でも。(陸奥守)
魏はもう駄目くさいなw華琳が私情で動いてるからな^^;(nao)
忠臣の忠言を拒む君主・・。これがどう響くか・・。今の魏は過去の蜀・・そう呉討伐へと舵をきりつつあったあの蜀に近いわね。(雪風)
華琳さんの思考がカチコチですな これでは紫苑の思うツボのような・・・ いい薬になるといいなぁ(雪月)
これで魏は衰退がほぼ確定しましたな。どうせろくなやり方じゃないのだろうし。てゆうか魏って曹操の意見に対して反対する人が風以外いないのですね。秋蘭がまだそうなのかもしれませんが。重鎮どもがそろいもそろってそんなんじゃダメだろうに。(D8)
わくわく・・・。次回はポップコーン用意して読もっとww(ataroreo78)
碌な目に合わないだろうな。 華琳は・・・・・。(劉邦柾棟)
今の華琳は理解も納得も出来てないんですねぇ・・・『魏武』のやり方では信用ガタ落ちですよね・・・・・あれ?これ詰んでません?(make)
まぁ華琳はもはや傲慢ともとれる気位の高さとより高みを追求する完璧主義者な所があるので、一度扱けると高転びに転んでしまう可能性が高いと思われます。そんな折に、愛妾でもある腹心が両方の意味で寝返ったわけですから、彼女の心はきっと高転びにどこまでも転げ落ちていくでしょうね。(h995)
まぁね、飴と鞭を駆使して約束も違えて所謂汚い手で(見事な策でした)妾にされたってのも紛れもない事実ですから怒りもしますよね。今後も楽しみですが黄忠さんもいらん事で激昂しそうな素敵な予感。応援してます(* ̄・ ̄)ノ^☆チュッ♪. 。(禁玉⇒金球)
あ〜あ〜。・・・なんか桂花は納得できるが・・・華琳まで冷静さを失ったら終わりやね〜www まあ、冷静さを無くすのも仕方ないとは思うが。今後の華琳に期待・・・できる・・・かな〜?続き楽しみにしてます!(レヴィアタン)
やっぱり冷静ではいられないか……(ohatiyo)
おいおい…これはもう駄目ですね。どう考えても「魏武」のやり方とやらが礼節の欠片もないものにしか思えない…風の忠告も無駄になってしまいましたか。結局、華琳は大人ぶっているだけの小娘という印象がここまで残ってしまいましたね…(Jack Tlam)
タグ
恋姫†無双 真・恋姫†無双 北郷一刀 華琳  桂花 

殴って退場さんの作品一覧

PC版
MY メニュー
ログイン
ログインするとコレクションと支援ができます。


携帯アクセス解析
(c)2018 - tinamini.com