先生
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 先生はいつものように中庭のベンチでのんきに昼休みを過ごしていた。女子が数人で先生に声をかけて、談笑して去っていった。私は先生が一人になったのを見はからって、近づいた。うちわをあおぎながら青空を眺める先生の前に立つ。

 

「なんだ、立川じゃん」

 

 先生は私を見るなり笑った。私は無表情のまま聞いた。

 

「なんでいつも一人なの?」

「そんなことないよ」

「一人が好きなの?」

「苦手なんだよ。職員室」

 

 先生は笑う。やわらかいお陽さまみたい。

 

「立川はなんだ? 友達いないのか?」

「苦手なの。教室」

「なんだ同じか」

 

 うちわをパタパタあおぎながら、笑顔でつぶやく。私はしゃがみ込んで先生を見上げる。

 

「あのさ」

「うん?」

「先生は、先生らしくないね」

「ははっ、かみさんにもよく言われるよ」

 

 溶けかけた氷がカチンと一瞬で凍る感覚。足がすくんだ。しゃがんだまま動けなくなる。先生の足元を見つめる。いつもサンダルの足元。

 

「どうした?」

「ちょっと貧血」

 

 先生はうちわをあおぐ手を止める。

 

「大丈夫か?」

「大丈夫じゃない」

 

 先生は慌ててうちわをベンチに置き、私の腕を掴もうとした。

 

「さわらないでっ」

 

 先生の手が止まる。予鈴のチャイムが鳴る。私はカチンカチンに冷えきった氷の身体を何とか動かし、立ち上がった。

 

「そのうちわちょうだい」

 

 先生の横にあるうちわを指差した。

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「保健室いくか?」

「いい。うちわあおぐから」

 

 先生はぽかんとして、やがて笑顔になる。

 

「真面目だな立川は。でも心配だから五時限目は保健室で休んでな」

「心配?」

「うん」

 

 嬉しいじゃないかコンチクショウ。

 

「……うちわくれたら保健室いく」

 

 先生は仕方ないなと笑ってうちわを差し出した。

 

「ほら。保健室であおいでな」

 

 私は先生と別れ、保健室へ行くふりをして、中庭の花壇の隅にしゃがみ込んだ。先生がいつも愛用してるうちわ。お店の宣伝が入ってるうちわ。本鈴が鳴った。うちわにポタリと涙が落ちた。声を押し殺して泣くと喉が痛い。でも涙が出る。ポタポタ落ちる。喉が痛い。落ちた涙がじわじわとうちわに染み込んでいく。

 

 太陽が眩しかった。その日も先生はやっぱり中庭でくつろいでいた。

 

「よぉ、また一人か?」

「先生こそ」

 

 先生は笑いながら扇子をバッと開いた。

 

「なにその扇子」

「お前にうちわあげちゃったから新しく買った」

「…似合わない」

「やっぱり?」

「ウソ」

「どっちだよ」

 

 そしてまた笑う。いつものやわらかい笑顔。顔が熱くなるのを感じて、慌てて目をそらす。

 夏休みの予定を聞かれたから、その前に宿題なくしてって言っておいた。

 

 

 

おわり

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短編小説です。
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