戦国†恋姫 短編集G メイド・イン・オワリ
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メイド・イン・オワリ

 

 

 

 鬼との戦いが終わり、一時の平穏を手に入れたある日の昼下がり。俺は、とある店を訪れていた。

 俺が店に入ると、店長はニヤリと笑みを浮かべ、店の奥へと案内してくれた。

 

「これが頼まれていたブツだ。気に入ってくれたかい、旦那」

 

 店長が見せてくれたブツは、俺がイメージした通り…………いや、それ以上の出来だった。

 

「完璧だよ。やはりアンタに依頼して正解だった。本当にありがとう」

「それはオレの台詞さ。あそこまで詳細な図とそれに篭められた旦那の想いを見せられちゃあ、応えないわけにはいかねぇよ」

「壁サークル常連の姉ちゃん達に鍛えられたからな。あの程度の絵を描くことぐらい、たいしたことはないさ」

 

 八百一本を描くために、イベント前は不眠不休を強いられ、手伝わされたあの日々。辛かったけど、それが今ここで役に立っている。ありがとう、朱里姉ちゃん、雛里姉ちゃん。

 

「『壁さーくる』の意味はわからんが、とりあえずすげぇことはわかった。

 ともかく、ちゃんと活用してくれよ旦那。オレの技術の全てを注ぎ込んで作りあげた最高傑作なんだからな」

「そんな約束、するまでもない。俺とアンタの想いが詰まったコイツを使うんだ。必ず成功するさ」

「へへ、ちげぇねぇ……!」

 

 そうして、俺と店長は握手を交わし笑い合う。これがあれば長年の夢を実現できる。さあ、待っていろよ――

 

 

 

 

 

 ――結菜!

 

 

 

 

 

 

 

「…………これは、なに?」

 

 その日の夜。俺は結菜を部屋へと呼び出し、店長から貰ったブツを広げて見せる。

 だが彼女から返って来たのは、蔑むような視線と言葉だった。ありがとうございます。我々の業界ではご褒美です。

 

「メイド服さ。結菜に着てほしくってね!」

 

 俺はサムズアップして答えた。あれ、更に視線が冷たくなったぞ。

 

「『冥土服』ってなによ。死人の服を私に着ろと?」

「字が違うぞ。メイド服っていうのはな、俺の世界では侍女さんが着る服とされているんだ。家事全般が完璧な結菜には似合っていると思ったんだけど、ダメ?」

 

 結菜は、詠姉ちゃんにそっくりだと初めて会った時に思った。それも似合う理由だと考えたんだが……。

 

「こ、こんな服着られるわけないでしょ! フリフリでヒラヒラだし! 胸元開いてるし! しかも丈が短すぎじゃない!」

 

 そう、このメイド服は詠姉ちゃんが着ていたものと基本的には同じものだが、胸元が大きく見えるようにしてある。また、スカートの丈も膝より少し上と、かなり短い。激しい運動をすれば見えてしまうかもしれないというチラリズムを演出してみた。

 

「最近何かしていると思っていたけど、まさかこんな服を着せるためだったとはね。予算はどうしたのよ」

「予算についての心配はいらない。このメイド服を作るために金を貯め続けてきたからな」

 

 良いメイド服を作るためには、いい素材が必要。だから、この世界に来てから今まで、少しずつ小遣いを貯めてきたんだ。おかげで、一葉が公の場で着るものと同等の素材を入手することが出来たのだ。

 

「ちなみに、俺がやったのは意匠を考えて書くとこまでだ。あとは尾張に最近できた服屋に依頼した」

「……こんな意匠を考える剣丞にも呆れるけど、その服屋もよく作ったわね。なんていう人なのよ?」

 

 まあ、言ってもいいか。本人から口止めもされていないし。

 

「そこそこ有名な人だし、結菜も名前程度なら聞いたことあると思うよ。知らないかな?」

 

 

 

 

 

 ――加藤段蔵って人。

 

 

 

 

 

「……………………はぁ!?」

 

 10秒程俺達の周りを静寂を包み込んだ後、結菜が驚愕の声を上げる。当然の反応だ。俺も本人から聞かされた時はしばらく唖然としていたからな。

 

「加藤段蔵ってあの『飛び加藤』よね? 長尾家や武田家に一時期仕えていたっていう……。そんな人がなんで服屋を経営しているのよ」

「そう、その『飛び加藤』さんだ。口髭がかっこいい渋いオジサンだったよ」

 

 俺がメイド服の作成を依頼した加藤さん。彼は光璃の家から出た後、もう何処かに仕えることが面倒臭くなって、1人で鬼を狩りながら民を助け、少しずつ金儲けをしていたらしい。

 そして鬼がいなくなって稼ぎがなくなると、偶々近くに来ていたという理由で尾張に服屋を開店。そのまま現在に至るというわけだ。

 なぜ服屋なのかというと、単に彼の趣味らしい。加藤さんは可愛い女の子に着て貰うための服を20年以上作り続けてきた。その結果、肉眼だけで女性のスリーサイズを特定する力を会得したというのだ。

 彼が開店した服屋『((鳶|とび))』は大盛況。絵は描けるけど、実際に作ることが出来ない俺にとって、そんな店が出来たというのは僥倖だった。

 情報を聞きつけた俺は早速『鳶』に向かい、デザインしたメイド服を作って貰えないかと依頼した。すると彼は小さな子供のように目を輝かせて承諾してくれた。俺がデザインしたメイド服を大層気に入ってくれたらしい。

 

「――その後、3日間ほとんど休まずに作り続けてようやくこのメイド服が完成したというわけだ。

 頼む結菜。俺は、君ならこのメイド服が似合うと確信している。加藤さんも綺麗な女性が良い服を着ることを望んでいる。そんな俺達の魂が篭められたこのメイド服を是非着て欲しい。この通りだ!」

 

 俺は畳に頭を擦り付けて懇願する。我ながらみっともない行為だと思うが、ずっと夢見てきた結菜のメイド服を拝むためだ。この程度、どうってことない。

 

「……はぁ、そこまで言われたら渋ってる私が悪者みたいじゃない。わかったわよ、着てあげる。1回だけですからね」

「ありがとう結菜! じゃあ、俺は一旦部屋の外に出るから、着替え終わったら呼んでくれ」

 

 そう言って俺は部屋を後にした。メイド服を着た結菜のイメージはある程度固まっているが、所詮はイメージに過ぎない。実際はどれ程までに素晴らしい姿を見せてくれるのか。あぁ、楽しみだ。

 

 

 

 

「メイド服、ねぇ……」

 

 剣丞が部屋を出たのを確認すると、手に取ったヒラヒラの服を眺めながら小さく呟く。

 確かに可愛い服だと思う。でも、本当に私が着て似合うのかどうか少し不安になる。

 もしもこれを着た私を見て、本当は似合わなくて残念そうな顔をされたらどうしよう。愛する人からそんな顔をされるのは辛い。自分から頼んでおいて勝手に失望するような人ではないということはわかっているが、それでもやはり不安なものは不安だ。

 こういう可愛い服は双葉様のような方が似合うのではないか。どうして彼は私が着ることに拘るのだろう。

 

「……考えていても仕方ない、か」

 

 耳を澄ませてみれば、陽気な鼻歌が聞こえてくる。余程楽しみにしているのだろう。それならば、さっさと着替えてあげなければ失礼だろう。

 それに、どうせ今回限りなのだ。騙されたと思っておくか。

 

 …………本当に騙されたのではないかという気もしたが、その考えは頭の隅に追いやることにした。

 

 

 

 

「着替え終わったわよー」

 

 部屋を出てから10分程経っただろうか。着替え終えた結菜の言葉が聞こえたと同時に襖を開く。少し乱暴だったのか、横から変な音が聞こえたが、それを気にする余裕が俺には無かった。

 だってそこには――

 

 

 

 

 

 ――メイド服を纏った天使が舞い降りていたのだから。

 

 

 

 

 

「け、剣丞。そんなに見ないでよ。恥ずかしいじゃない……」

 

 大きく開いた胸元から覗く巨乳と、下着が見えそうな程に短めのスカートが恥ずかしいのか。両手で隠しながら縮こまる結菜。すっげー可愛い。

 純白のヘッドドレスとエプロン、濃紺のスカートという基本の配色。だが、肌を大きく露出したその姿は色気が前面に押し出され、陰から主を支えるという『メイド』という役職からはかけ離れている。そんなアンバランスさがまた素晴らしい。

 この世界に来て本当に良かった。

 

 ありがとう、俺をこの世界に飛ばしてくれた人。

 ありがとう、俺にイラストを描く技術を叩き込んでくれた姉ちゃん達。

 ありがとう、俺のためにメイド服を着てくれた結菜。

 

 新田剣丞は日本一、いや、世界一の幸せ者です!!

 

「もの凄く喜んでくれているのは嬉しいんだけど、大量に流してる涙と鼻水と涎をなんとかしなさい。あと、心の声漏れてるわよ」

 

 いけないいけない。俺としたことが感激のあまりトリップしていたようだ。それより今はストリップしたい気分だ。マジで結菜のちょいエロメイド服姿は危険かもしれない。毎日のように色々な女の子とイチャイチャしている俺でなければ、理性が完全崩壊していたことだろう。

 今夜はまだ長いんだ。メイド結菜ともっと楽しみ――

 

 

 

 

 

「ほう。何やら騒がしいと思ったら随分とお楽しみのようだな、剣丞、結菜」

 

 

 

 

 

「「!?」」

 

 唐突に後ろから聞こえる声。振り返ると、

 

「げえっ、久遠!」

 

 我が正妻の1人である久遠が怒気を放ちながら君臨していた。

 

「こ、これは違うのよ久遠! 剣丞が無理矢理……!」

 

 俺以外に見られたくは無かったのだろう。結菜は必死で久遠に弁解する。必死で否定する度に胸が揺れ、ミニスカートが舞う。いやぁ、いいものを見せていただきました。

 一方の久遠は、

 

「結菜が今までになく着飾っているというのに、何故我を呼ばぬのだ!」

「「…………は?」」

 

 変な方向で怒っていた。てっきり結菜にコスプレをさせていたことを怒られるかと思っていたんだが。

 

「滅多に着飾ろうとしない結菜がせっかくお洒落をしてくれたのだ。剣丞だけが楽しむのは不公平であろう!」

「す、すみません……」

 

 何故か敬語になってしまった。

 そうか、久遠は結菜の夫だもんな。ちゃんと呼んであげるべきだったな。

 

「久遠。私のこの格好、変じゃない……?」

「変なわけがないだろう。結菜が着ているのだ。似合っているに決まっている。むしろ、我もその服を着てみたいとさえ思っている」

「そ、そう……」

 

 さすが夫婦。あっという間に百合百合しい雰囲気が出来上がっていた。眼福です。

 

「ごめんな、久遠。結菜を独り占めしようとしちゃって。俺の考えが足りなかった」

「なに、気にするな。我も同じようなことをしたかもしれないからな」

「ありがとう。そう言ってくれると助かる。あと、このメイド服はまだ試作品ということで、1着しか用意できていないんだ。随分と気に入ったみたいだし、もし良ければ追加で作って貰えるよう頼んでおくよ」

「デアルカ! 感謝するぞ、剣丞!」

 

 メイド服が着られることに喜ぶ久遠の瞳はキラキラしていて、まるで宝石のようだった。可愛いなぁ。

 隣に座るメイド結菜もそんな久遠を見て恍惚としていた。可愛いなぁ。

 

「さて、それじゃあ今夜のところは2人でメイド結菜を愛でるとしようか。ククク……」

「そうだな。結菜よ、今夜は寝かせないぞ。フフフ……」

「ふ、2人共目が怖いわよ……!」

 

 俺と久遠は口を三日月状に歪めながらメイド結菜へとにじり寄る。

 

 さあ、お楽しみはこれからだ……!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 次の日、黒焦げの男女が発見されるという事件が発生した。被害者達は共に鼻血を流し、満足げな表情をしていたという。

 また、尾張のとある服屋でのみ販売されている『冥土服』なるものが兵や民を問わず大流行し始めたとか。

 

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あとがき

 

Q.加藤さんって何者?

A.服屋を営むナイスミドル。加藤さんならなんとかしてくれる!

 

 なんでもできるオッサンということで創ってしまったオリキャラ・加藤さん。

 今後は私の作品で剣丞くんがヒロインにコスプレさせていたら、だいたい加藤さんのおかげ。

 

 

 

 さて、次はもう1つの作品でも投稿してみるかな。

 

説明
戦国†恋姫の短編その8。
・10秒で考えたサブタイトル。
・ウチの剣丞くんがどんどん変態になっていく。
・唐突なオリキャラ。

ハーメルン様とのマルチ投稿です。
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コメント
>>いた様 私は歴史についてそれ程詳しくないので、そのような人がいることを貴方のコメントで初めて知りました。ありがとうございます。ある程度調べてみて、もしも話に盛り込めそうなら、彼または彼女を登場させることを考えてみます。(レモンジュース)
追加 タイトルも秀逸だと思います!(いた)
次回も気になって、覗いてみましたらすげぇと驚いてます。 ……まさか、古着屋の甚内さん(元忍者 のち江戸で古着屋を開いた人です)と知り合いでは?(いた)
>>mokiti1976-2010様 双葉様は戦国†恋姫の中では『メイド服』が似合う女性ベスト3に入る、はず。(レモンジュース)
>>アルヤ様 吹っ切れた結果取り返しのつかないことになってしまった……。後悔はしていない。作者も加藤さんも。(レモンジュース)
>>naku様 北郷家の男は誰もがこんなものでしょう、きっと。ちなみに、剣丞くんの変態力は一刀さんにはまだまだ遠く及ばないはず。(レモンジュース)
メイド服を来た双葉様のお話も希望。(mokiti1976-2010)
飛び加藤の意外なその後www(アルヤ)
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戦国†恋姫 メイド 新田剣丞 結菜 短編 

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