インフィニット・ストラトス―絶望の海より生まれしモノ―#116
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「全滅、だと!?三機のゴーレムIIIが輸送艦と三十年物の((老朽艦|ロートル))相手に全滅したというのか!」

 

所長室を経て今は『亡国機業』の事実上の首領の居室となったIS学園の元学園長室はヒステリックな女性の声がとどろいていた。

 

声の主――この部屋の今の主でありこの騒ぎの『首謀者』である彼女、マージ・グレイワースの表情は憤怒に染まっている。

 

『しかし、実際にゴーレムの反応は消失しており、おそらく撃墜されたとしか…現在、戦闘ログを確認中ですが…』

 

「なんだ、はっきりしろ。」

 

『ゴーレムを撃墜した相手は、ISと推定されます。』

 

「馬鹿な!ISコアは全て我々が―――」

 

「大変です!」

 

唐突に現れる白衣姿の研究者。

ノックもせず、いきなり飛び込んできたことに対して罵声を浴びせようとしたマージであったが、それほどまでに動転する事態のほうを優先することにした。

――心の中では、その研究者の首を飛ばしながら。

 

「一体、何があった。騒々しい。」

 

「IS学園から回収したコアに巧妙に作られた偽物が混ざっていました!だまされたんです!」

 

研究者が差し出す((六角形のメダル状のもの|ISコア))には、なんとも気を逆なでするような表情をしたウサギが『あかんべー』している姿が落書きされていた。

 

「っーーーー!!」

 

怒りの絶頂。

 

だまされ、コケにされ―――マージの高すぎるプライドはほんのわずかであっても傷つくことを許せなかった。

 

「―――――――――!!」

 

言葉にならない叫びは、机に対する殴打という形でぶつけられた。

 

 * * *

[side:鈴]

 

「―――という感じに、頭に血が上って怒り狂っているんじゃないかな。」

 

帰ってきてみたら束さんと見知らぬ人と昼間に病院で会った千冬さん似の女の子も一緒の状態でブリーフィングが始まり、『相手の首領の性格プロファイリング』を聞かされていた。

 

蛇足だけど、自己紹介をそのまま信じると『見知らぬ人』は『スコール・ミューゼル』、『千冬さん似の子』は『マドカ・O・ミューゼル』というらしく、義理の姉妹らしい。

かなーりうそ臭いけど、名前を呼ばれたときの反応からして、『スコール』『マドカ』は本名かそれに近い呼ばれなれた名前らしいのは確かだろう。

 

「あちらも、こちらがISを保有しているのは把握しているだろう。だとすれば、次は全力で潰しにかかってくるはずだ。――完璧主義者のお嬢様からすれば、この『失態』は許せないだろうからな。」

 

まあ、確かに。

『ISは独占してるから言うことを聞け』なんて言っておきながら、別の勢力がISを持ち出してきたんだから。色々と気まずいに違いない。

 

「だが、いくら偽物を掴ませたといっても連中が保有するISコアは少なく見積もって四百以上。その全てを機体に組み込まれたら勝ち目はほぼ無いだろう。」

 

「現時点で、学園が確保しているISコアは三十二機分。そのうちで稼動状態にあるのは二十七機ですね。」

 

「ウチのをあわせても三十程度か…厳しいな。」

 

いや、それは『厳しい』なんてもんじゃない。

相手が持ってるISコア全部が組み込まれていたら戦力比は十三対一、その半分でも六対一になる。

 

「せめて、あと五十、いや三十でいい。腕利きが乗るISか、それに匹敵する戦力があれば…」

 

うーん、とうなるような声が誰からとも無くあがる。

 

そもそもであたしらがISを持っているのは織斑先生が独断でISコアを偽造させ秘匿したからであって、束さんが居るからできたことだ。

ISコアの偽造など、普通はできない。

 

故に、敵は増えても味方は増えることが無い。

それこそ、出てきた無人機を叩き落して、そこからコアを回収するなりしない限り。

 

それ以上にISに対抗できる非IS兵器というのも中々に難しい。

この間の駆逐艦は一方的にやられることはしなかったが、IS一機が護衛についた状態でようやく『勝負になる』レベルでしかない訳だし。

 

それこそ、『秘密兵器』がどこからか湧いて出ない限りは―――

 

うなり声ばかりの沈黙を破ったのは『ピピピ』という電子音だった。

 

一体何の音かといえば、山田先生の通信端末の呼び出し音。

 

「ちょっと失礼しますね。」

 

そういって物陰へと移動した山田先生の周辺に空間投射ディスプレイが展開されるけれど、こちらからは音は聞こえないし画面も見えない。

 

――おそらく、それくらいの機密情報なのだろう。

少なくとも、あたしら生徒や外部の人間に聞かせていい類ではないことは確か。

 

「!―それは本当ですか!?」

 

驚いたような――いや、正真正銘の驚いた声が上がり、一斉に視線が山田先生に向けられる。

 

『一体、何事か?』とみんなの目が問いかけているが山田先生はかけらも気付いていないらしい。

 

「はい、分かりました。すぐに準備を始めます。はい、お願いします。――では。」

 

ウィンドウが閉じられ、山田先生がこちらに戻ってくる。

 

開口一番の一言は想いも寄らないものだった。

 

「戦力のアテができました。」

 

「へっ!?」

 

それに対して、一斉に疑問の声をあげてしまった私たちはきっと悪くない、と思う。

 

「それは、どういう…?」

 

「これから忙しくなりますよ。((IS学園|わたしたちのいえ))で好き勝手やってくれた連中にお仕置きするための準備が山ほどあるんですから。」

 

私たちからこぼれた問いを完全に無視した山田先生は、いつもどおりの朗らかな童女のような笑みを浮かべていた。

――その言葉に込められた黒々として鋭い刃物のような切っ先をまったく隠さずに。

 

ピ、と音を立てて空間投射ディスプレイが開く。

 

「ヴァリエール先生、整備課と港湾管理部の担当教諭を大至急集めてください。」

 

ヴァリエールって、センパイが言ってた『整備課のツンデレ教師』って有名な、あの?

 

何ゆえにその名前が出てくるのか、整備課の先生を何故集めるのか、不思議で仕方ないが次の言葉で私たちは耳を疑った。

 

「何のため?――((二個大隊相当|七十二機))のISとその支援装備の受け入れ準備ですよ。」

 

いっせいに、視線が目を丸くしている束さんに集まる。

 

「!?」

 

『違う、私じゃない!』

そういわんばかりに慌てて手と首を左右に振る束さん。

 

その慌てようからして、まったく知らなかったらしい。

 

――ISの開発者が知らない、七〇個ものISコアをこのタイミングで持ち出してきた『何者』かが居るってことなんだろうけど…

 

「今度はこっちから殴りこみに行く予定ですから。はい、大急ぎで生徒には気取られないようにお願いしますね。」

 

通信を終えた山田先生は物凄くイイ笑顔を浮かべていた。

 

まるで、千冬さんのような狼や豹を髣髴とさせる好戦的な笑みを。

 

「それでは皆さん、今日のところは休んでください。明日から、本当に急がしくなりますから。」

 

ふと気付けば、時計が指す時刻は深夜二時半。いわゆる『丑三つ時』という時間だ。

 

「くれぐれも、ここでのことは内密にしてくださいよ。漏らしたら漏らした人と漏らされた人の両方が表社会から排除されちゃいますからね?」

 

釘を刺してくる山田先生に、束さんや『マドカ』『スコール』さんたちもコクコクと首を縦に振った。

 

――あんな恐ろしい脅され方したら誰も漏らそうだなんて思わないわよ、普通。

 

そんな感じに竦んでいる私たちを余所に、ルンルンとか言い出しそうな山田先生が退出してゆく。

 

「…山田先生、なんか変わったわね。」

 

「そうだな。ある種のふてぶてしさというか、貫禄がついた気がするぞ。」

 

「さっきの笑い方、完全に織斑先生と同じだよね。」

 

「そうですわね。流石は先輩後輩…で済まされるものでもなさそうですし…」

 

「あの、春に生徒を前にしてオロオロしていた人とはまるで別人だな。」

 

そして、口々に出てくる『山田先生の変化』へのつぶやき。

 

そんな中で、ただ一人、束さんだけが沈黙を守っていた。

いや、何か考え込んでいるというべきか…

 

「姉さん?」

「束さん、どうかしたんです?」

 

気になったらしい、箒と一夏が束さんに声をかけると『ハっ』と我に返ったように二人のほうに顔を向ける。

 

「あ、ごめんね。どうしたのかな?」

 

「いや、さっきから何か考え込んでるみたいだったから…」

 

「ああ、ちょっと気になることがあってね。」

 

「気になること?」

 

「今回、日本政府が持ち出してきた七十個ものISコアについて。」

 

その言葉に、その場の全員がピクリと反応した。

 

「七十なんて数、IS学園分も含めた日本の所有コア数よりも多いのに、どうやって用意したの?ISコアの輸送の際には必ず全てが学園の港を使っていたというのに。」

 

言われてみれば、そうだ。

国際IS委員会が割り振ったISコアの個数はどんなに多くても一カ国に対して十個程度。

IS学園での運用のために例外的に多く配布されている日本でも五十個に満たない数であることは国際IS委員会が公表した資料にしっかりと明記されている。

 

「それじゃあ、日本政府が用意したISコアはなんだって言うんですか?」

 

「おそらく、この一件のために新造されたものなんじゃないかな。」

 

はぁ?

 

「ISコアの新造!?」

 

「それ、束さん自身が不可能だって言ってたじゃないですか。」

 

「うん、((私|・))にはね。」

 

シャルロットの問いへの答えに頭の理解が追いつかない。

 

それって、どういうこと?

 

「それは、どういう意味なのですか?」

 

ラウラの、警戒するような声に対して、束さんは自嘲的な笑みをこぼした。

 

「私は、((I|・))((S|・))((コ|・))((ア|・))((の|・))((組|・))((み|・))((立|・))((て|・))はできるけど((IS|・))((コ|・))((ア|・))((そ|・))((の|・))((も|・))((の|・))((を|・))((作|・))((る|・))ことはできないから。」

 

悲しみと、愛しみと、懐かしみと…そんな、いろんな感情が混ざり合って出来上がったような、儚さすら感じさせる笑みを浮かべて束さんは言う。

 

「みんなには、話してあげてもいいかな。――ISがどうやって世に送り出されたのか。そして私とちーちゃんと、私たちの初恋の相手のお話を。」

説明
#116:動き出す物、語られる真実

そろそろ最終決戦も間近になってきたので伏線回収始めないと。
あと、就職が決まりそうなので執筆がさらに遅くなりそう…

まあ、趣味で書き続けますが。
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