超次元ゲイムネプテューヌ 未知なる魔神 プラネテューヌ編
[全1ページ]

「……ゼクス!」

 

仰向けに倒されるゼクスは妹の声にうっすらと目を空けた。周囲を見渡すが、既に女神達は姿はなかった。

なぜとどめを刺さなかったかとゼクスは思いながら、青い青空を見つめていた。腹部に風穴が空けられたはずだが、その場所には包帯が巻かれており応急処置をしたのは、吹けば飛んでいきそうな少女かとゼクスは小さく笑った。

 

「まだ死にたくなかったが、まさか人間に助けられるとは生きていれば珍しい事もある物だ」

 

「……最初から、女神達は貴方達を殺すつもりなんてありませんよ」

 

「女神として、その行動は常識に外れているが……なるほど我は最初から負けていたという訳か」

 

今まで味わった事がない清々しい気分だった。

全力でぶつかりあう意思と意志から来る戦いはいっそ快楽的だと言ってもいい。この世を否定する守護女神達が歩む先、それは彼女たちが太陽となって人々を導くだろう。何百年も何千年も何万年も彼女たちが歩みを止めない限り、それに付いていくあの二人の様な少女がいるかぎり、ゲイムギョウ界がどんな危機に陥ったとしてもきっと乗り越えられる。

 

「我も、父も変わる時かもしれない。だからこそ、イストワール、お前に隠していたことを話そう」

 

「……隠していたこと?」

 

イストワール、ゲイムギョウ界の歴史を刻む存在故に彼女は何度も知り、何度も忘れてしまう空の真の目的。

如何なる存在でも構わないともう一度会いたいという儚き願い。

そんな恋焦がれる乙女の様な思いが狂人をさせた。

全てを管理することで世界の寿命を延ばし続け、生まれるその時まで世界に孕まし続けさせる。

ゼクスは語り始める。ゲイムギョウ界に極大の嫌悪を抱きながら、ゲイムギョウ界という母体を守ることを決意した弱く硬い空の事を。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その場は血の海だった。

引き千切れた腕と斬られた腕、あり得ない角度で曲げられた足は折れた骨が皮膚と突き破っていた。

バチバチと火花を上げる禍々しきプロセッサユニットは見るも無残なほどに破壊尽くされ、それを纏う光の剣が突き刺された肉の塊は沈黙していた。

その近くで荒い呼吸を繰り返す血のシャワーを浴びた偽りの女神。形だけの神。

神々しきプロセッサユニットは鮮血によって穢され、常識が見れば誰もが逃げ出すだろう化物に変貌している。

 

「…………」

 

光無き瞳で震える血で染まった手を見つめる宝石のような紅色の双眸。

これはあの時の状況とよく似ていた。

良かれた行動をしたのに何故か心が痛くて、それが我慢できなくて誰にも会いたくなくて部屋に閉じこもった時に勝手に入ってきた親友とその娘。いつもは気軽にあいさつできるその光景はとても鬱陶しくて、とても疎ましい物に感じて手当たり次第に周囲の物を投げつけた行為が今でも忘れれない。

 

「煩い、煩い、煩い!!」

 

誰も関わるな。誰も喋るな。誰も話しかけるな。と毎日のように親友とその娘が来るごとに怒鳴り散らした。

時に親友の従者も部屋を破壊して襲ってきたが、その時は血だらけにながら殺し合い続けた。

そうしていく毎日の中で漸く、親友達は来なくなった。その変わりに邪神が来たことが扉を開けた瞬間に攻撃をして強制的に退場させた。精神が擦れて歪んで、現実から逃避するようになってしまった。それは旧神による精神操作の従うだけの人形と化していってしまった。その結果、邪神すら近づく者はいなくなり、最後は自身も意味も分からず親友に攻撃をした挙句、精神を破壊してここにいる。旧神による束縛からは気持ちの治まりと同時に振り切ったが、振り返れば家族のように暮らしていた親友や仲間たちは誰もいなくなっていた。

 

「……死にたい」

 

心からの言葉だった。

居なくなってしまえば、悲しむ人はいるだろうがそれは時が癒してくれる。だからいいのだ、夜天 空は世界に存在するべきじゃない、当たり前の事なのだ。だけど、ひそひその自殺の準備を始めた空は最後の仕事として彼女と会ってみたくなった。無論、それは可能性があるもののそれは天文学的数値での可能性でありどれだけ時間が掛かるのか分からなかった。

なら、この世界軸で終わらせようと空は思った。

最初から彼女を忘れたこの世界は空が嫌いだった。

彼女以外の女神もどうして彼女と違うんだとあまり好きにはなれなかった。−−−だけど、会ってしまった。親友に会ってしまった。何もかもを忘れても、名前を呼んでくれる親友がそこに居たのだ。

 

だけど、こうなった。

昔のように自身のやることにいつも難癖つけて喧嘩を仕掛けてくる紅夜だからこそ、もう嫌だった。忘れようとした記憶を穿り返される。力強く絞めたはずの蛇口からは楽しかった思い出が大量に溢れてくる。

 

「オリジナルは…怒っていた」

 

肉の塊が喋りはじめる。人の形を造るように再生していく。

掠れた声でボロボロの顔で紅夜は空を見る。

 

「だけど、お前を憎んではいなかった」

 

空の震える手が止まる。亡くなった腕は既に復元されている。折られた足も元通りになって、両足で立ち上がる。

 

「仕方がないぁって感じだった」

 

「煩い!」

 

感情のまま空は紅夜を殴りつける。

狙いは頭部だった。地面を蹴った加速で血が道を作りながら空の拳は紅夜の顔に突き刺さる。めきっと嫌な音がしても、紅夜の紅い烈火の瞳は空を離さない。

 

「ここまでやってきておいていきなり死にたいとかふざけるなぁ!!」

 

「---ッ!?」

 

再び纏ったプロセッサユニット、突きだされる拳。

幾億の戦闘経験を受けてきた空の情緒は不安定でも体は的確に動き、それを微かに体を動かすだけ回避する。だが、頭に突き刺した拳を紅夜は顔で掃い、地面に散乱していた黒曜日を素早く取ると振り上げる。当然、空は振り上げられる瞬間に地面を蹴って後ろに下がっていたので斬撃は掠りもしなかった。

 

「死ねば全部は解決したりはしない!誰かが傷つく、それも生きている間の一生後悔するような傷を残すんだ!お前にはそれが分からないのか!?」

 

「煩い、煩い!その顔でその声でそれ以上、喋るなぁ!!!」

 

幅の広い剣を抜き取り高速で空は紅夜に斬りかかった。それを二刀に構えていた黒曜日で防御する紅夜だったが、徐々に押されていく。

 

『……おい、お前本当にふざけるなよ?』

 

「お前も黙れぇ!!」

 

『テメェ……!紅夜をキャプテンと見てんじゃねぇだろうなぁ!!!』

 

「ッ!?」

 

息を呑む空にデペアは更に憤慨した声で叫ぶ。

 

『お前が傷つけたんだろうが!!お前が壊したんだろうが!!それを謝りもしないで媚びるように近づくお前は反吐が出るほどの最低野郎だ!!』

 

「お前の身に何が合ったのかは分からないけどなぁ……!お前がどれだけ凄い奴でもお前は一人なんだ!お前hは一人でしかないんだよ!!」

 

デペアは激怒する結局、都合のいい者しか見ていない空に。

紅夜は必死で伝える。女神無しでは生きていけない世界を造り出した空だからこそ分かっている筈の事を。

 

『おい、まさかと思うけどな、似たようなことか?』

 

「……ッ」

 

『おい、何か言えよ。お前はこの世界の守護者と語りながら、お前は何を待っている!?あれほどの事をしておいて、お前のやることは人探しか!?少しくらい罪悪感はないのかよ!!!あの娘たちを泣かせておいて、お前は一緒に誤ってくれる奴を探しているとしたらキャプテンが許してもボクは一生お前を軽蔑する!いや、呪ってやる!!!』

 

「お前はこの世界を嫌っている。人間を憎む奴が、それを守護しようとする女神、お前は好きになりそうな要素は一つないからな!」

 

「黙れ黙れ黙れ黙れぇぇぇ!!!!!!!」

 

力のまま空は紅夜を弾き飛ばした。そのままアサルトモードに変形をして黄金の鉤爪は躊躇なく胸に突き刺した。肉を切り裂き、骨を砕く。人間であるなら心臓を貫通されて即死しているが、持ち前の不死により紅夜は生かされていた。

 

「ゴフッ…黙る気は……ない!」

 

『今のお前は歪んだ((人形愛好家|ピグマリオンコンプレックス))だ!存在した者を一番理解した自分に酔って理想で作った人形をニヤニヤしながら壊して作り出しているキチ〇イだ!』

 

「違う……!」

 

押しているのは圧倒的に空の方だったが、震えて首を左右に弱弱しく振って否定するその姿は今にも壊れてしまいそうだった。

 

『何が違う!?』

 

「悪いんだ。この世界がレイちゃんを忘れたから、僕はもう一度、彼女に会いたかったんだ」

 

恋に狂った魔物は、心を教えてくれた親友の面影に苦しむ。

逃げようともその意志の強い瞳からは逃げられず、逃げるように突き刺した鉤爪を紅夜の体から抜いた場所を取った。ぶらりと腕をから滴る血を見ながら空は思い出す。そうこんな血の様な炎が世界を焼いたあの時を。

 

「あの災害を糧に軍事拡大を広げようとする人間の暴走をレイちゃんは必死に止めようとした!このままだと資源を奪い合うようになるって唱えたけど人間はそれを無視した!それでも平和と安泰を願い祈った女神は守ろうとした人間達に全身犯されて!!罵倒の中で無残に殺されたんだよ!!」

 

「−−−−」

 

紅夜の脳裏に浮かんだのは、自分の信仰する女神を崇め他の女神を死んでしまえと活動する狂信者達だった。

蛆虫が沸き、それを必死で取り払うようにガリガリと頭を掻き始める。直ぐに空の手が紅く染まっていく。

 

「何も悪くなかったんだよ…。ただ今の女神のように誰もが笑顔になってほしいって、そんな夢物語を真剣に考えた優しかったレイちゃんは厄介払いで殺されたんだよ?人間はレイちゃんとその信仰者がいると軍事増強が難しいと言う理由で殺したんだよ?ねぇ、明日が今日より幸せであるようにと言える娘が人殺しなんて出来ると思う?」

 

「……ああ、出来る。出来てしまうんだよ空、それが人間という生き物なんだ……」

 

尊敬していた人が突然、女神であり仲間を殺せと命じてきた。

それを否定すれば殺された。紅夜も経験があった。

 

「その最後はどうなったと思う?戦争だよ。女神は魔神として戦争の火種の材料にされて誰からも恐怖される存在と共に同時に支配の象徴になった。レイちゃんを殺された時から人種は真なる自由を獲得出来たてね」

 

それは自由の解放というより欲望の解放だった。

女神による正しき事を言う存在はいなくなり、自ら墜ちていく人間を誰も止めることは出来なかった。

 

「最後は滅んだ。あぁ、僕が全員殺してやった」

 

楽しかった思い出は焼かれ消えた。

生きる意味が彼女と会うことで生まれ始めていた空の幸福な時間は最も嫌悪した人間が破壊していった。

故に空は怒り狂った。それはその時に掛けられていた((旧神の証|エルダーサイン))を破壊するほどの暴怒であった。

 

「何もかもがどうでもよくなった。死のうと思って邪神皇と殺し合って死んだよ。あぁ……死んだと思った」

 

空の手を覆っていたブレスレットが解除されその手が露出する。

不安定に歪んだ五芒星の内側に炎のような目が描かれた証だ。それは邪神に対抗するべく編まれた聖なる刻印。

 

「だけどね。あいつ等は僕の体に旧神の鍵・儀典を組み込むことで無理やり蘇生させた。そして僕の機能が思わず邪神皇を取り込んだ。結局、欲しくも無かった力だけが手に入って僕は首輪を付けられてこの様だ」

 

「……その旧神の鍵・儀典を使ってレイちゃんって言う人を復活できるんじゃ…」

 

『破壊神の真の目的は人類抹消だ。そんな奴に世界を改変させるような奴を対処もなく持たせるか?』

 

「そういう事……これは、他人の意志じゃないと動かせないんだよ。僕は媒体なんだよ。これは僕の意地じゃ使えない。そして、レイちゃんの存在を知る存在は僕以外誰もいない。この世界のどこにも」

 

あはははははと空は声を高々に笑う。

自暴自棄の哄笑、大切な物を守れず自死に待っていたのはとんでもない力と完全に縛るための首輪。

 

「だかラ可能性に頼るンだ。レイちゃんと会ウ為に」

 

「なるほどな」

 

ああ、確かにそれなら嫌いな世界を守れる。

どんな手段を使っても女神と言う価値観を守っていき、世界を永続していくために。

美しき白金のプロセッサユニットに光が灯り始める。ほぼ、全てを吐き出した空は既に目前の紅夜を紅夜として認識できない。地獄の深淵の中で必死に光を追い求めるとても可愛そうな人。

 

「デペア」

 

『同情で辞めるだなんて言わないよね』

 

はっ、と紅夜は笑う。

確かに悲しかった。これだけの事を続けるだけの意志の強さはあると思った。

理解できないほどの底なしの悲しみと苦しみと怒りと絶望があの歪んだ空を作り出している。恋に狂った魔物、己の存在を許すことが出来ない破綻者。

 

「あいつ見ていると俺もああなっていたかもと思う」

 

『そうだね。君の存在からして、女神にまだ剣先を向けていないこと自体が奇跡だね』

 

「だからこそ、あいつを助けたい」

 

『あんな奴を助けるねぇ、正気の沙汰じゃない』

 

デペアの言うことにそうかもしれないと自負できる。

でも、目の前の空は泣いている。己の無力を呪うことしか出来ず、誰にも伝えることが出来ないままその心底で好きだった人を求める一度は曲がった真っ直ぐな姿勢。そのレイちゃんは空にとって太陽だったのだろう。紅夜が女神に抱く思いよりずっと強い思いは長い年月と憎しみに歪みとなってしまった。そうしなければ耐えられなかったから。

 

 

「行くぞ相棒。((冥獄神・天堕毒龍|ブラッディハード・ドラグーンサマエル))だ」

 

『ああ相棒、殴ってやろうぜ。あの飛べない翼を持つ天使が飛べる程の勢いで』

 

 

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