ワールドエンド 1
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 人の世の繁栄は、同時に地上の荒廃を促がしていった。飽くことなき人の夢は大地を削り、その崩壊とともに夢も潰えた。

 夢と希望をなくした人類は、それでもなお惑星を食い荒らす。

 それは、夢のためなどではなく、ただ生きるために。

 荒廃のすえ、その大半を水に沈めた大地。そのわずかに残った緑にすがった人類と仄暗い海底に追いやられた人類。夢を失ってなお争う、霊長。人類は何も学ばない。

 

 

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 深度150メートル。揺れる小型潜水艇の中で少女は呻いた。食料も酸素もまだ十分にある。少女の心配ごとはそんなことではなかった。

「見失った……」

 ターゲットの喪失。レーダー上に数分前までは確かに点っていた赤い点。それが今は見る影もない。問題は、自分と機械どちらの過失であるか、だ。

 機械の故障であったならばまだ救われる。たしかにそれ自体は深刻な問題点ではあるが、そうであったのならばただ帰還すれば済む話である。任務は失敗になるがそれはもはや論点ではない。敵を見失った時点で任務は失敗したといってもいい。つまり、ここからは任務失敗後の算段である。

 もし仮に自分の過失による喪失ならば、敵の索敵に引っかかった可能性が高い。ましてここは水中。錬度ははるかに向こうが上だ。

(逃げ切れるか……?)

 冷静な自問自答。批評家の彼女は冷徹にNOと言う。しかし軍属としての彼女がそれを許さない。

 2つのコントロールスティックを強く握りなおし、上唇を軽く舐める。真実の答えがどちらにあるにせよ、今とるべき行動はたったひとつ――

 これは戦略的撤退。つぶやいて彼女は右のフットペダルを軽く踏み込んだ。わずかすらも音を立てず、小型潜水艇は後退を開始した。まるでそれが合図であったかのように、再びレーダーに紅点が点る。

 明確な舌打ち。そして彼女は躊躇わずにエンジンに火をいれた。幻想の深海に似つかわしくない駆動音。もはや敵に発見された段階に至って静動行動は意味をなさない。ここからはまさに全力である。

 正面のモニターに映る敵影。人型の巨人が2体。そのはるか後方に四足の蟹。その体躯は人型の巨人3体分はあろうかというほどである。

「蟹の親子が1組……人型が1機足りないな……」

 人型アーマー・デバイス――通称『AD』、元は水中掘削用の作業ロボットであったが、長くにわたる地上との戦争のなかで戦闘用にその存在を昇華させていった水陸両々の戦闘兵器である。

 そしてそのADから繋がるケーブルの先にいるのがその長期運用を可能とさせている小型母艇『キャンサー』、ADの長距離運搬とその行動時の酸素、電気の供給をメインとした指揮官機である。

 その運用は常にフォーマンセル。つまり、キャンサー1機とその最大積載量であるAD3機。これが水中に追いやられた人類の王国『ワールドエンド』の基本小隊である。

 であるならば、1機足りないのである。少なくとも眼前に迫る部隊には。

(伏兵か……?)

 やっかいだな、舌打ちは魚雷の発射音にかき消された。残り弾数は3。おまけに偵察用の小型潜水艇である。その装甲は紙に等しい。

 しかし、その魚雷に対しては敵の装甲とて紙のようなものである。ただし、当たればの話だが。

 正確にキャンサーをロックオンして放たれた魚雷は、その相手に対していささか直線的な軌道を描きすぎていた。そしてそれは見事にバルカン砲によってあっさりと迎撃される。その衝撃波が海を揺らした。

 彼女も当たるなどと思ってそれを放ったわけではない。目くらましのようなものだ。

 しかしそれは、さして効果のある行動ではなかったようである。3方向からの十字砲火がそれを物語っていた。

 薄い装甲を掠める弾丸の雨。小型の、しかも潜水艇にとってはその雨粒ひとつひとつが必殺の威力を持っている。それを潜り抜けるのは棒のない綱渡りにも等しい。

(……当てる気がないのか?)

 目的は生け捕りか。まぁ、妥当な作戦だな。数分にして3度目の舌打ち。状況は佳境へ。展開は最悪なものになりつつあった。

 

 

説明
やらないで後悔するよりやって後悔するほうがいいって言うけどさ。
現実はやるんじゃなかったって後悔することのほうが多いんだよね。
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コメント
a feeling of the deathさん>そういってもらえるととても嬉しいです。もっとはやく文が書けるようになりたいものです……(篇待)
区切り方がうまいですね。先がすごく気になります。(feeling of the death)
サモエドβさん>その作品は読んだことがないので、今度読んでみることにします(篇待)
かるく、有川さんの『海の底』を思い出しました(エニグマ・アノニマ)
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