魔法使いの大家族 第8話:警護の魔法使い
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学校近くの商店街を秋、葵、伊邪那岐で闊歩する

秋と伊邪那岐は葵の三歩後ろを歩いてメロンパンを片手に持ちながら歩いている葵を見守っている

 

「だから僕らを誘ったのか・・・

こんなことだろうとつくづく予想はしていたけれど」

 

「ほうはひは」

 

葵がメロンパンを咥えながら秋に向かってくるりと振り返る

秋は少しだけドキッとしながら葵を見ていた

出会ってほんの数時間だが秋にはとてもメロンパンを咥えている葵がかわいらしく見えた

自分を誘惑したり殺そうとした女を可愛いと思ってしまうとは

と心の中で思いながら秋は鼻をこすった

 

「雁間君?

見事に鼻の下が伸びきってるわよ?」

 

葵はメロンパンを頬張り終えると秋に食い掛かるように近寄り自分の持っていたメロンパンのかけらを秋の口に放り込んだ

メロンパンの味はたった120円ながらとても秋にはとてもおいしく感じた

本当に美味しいのかそれとも葵のくれたものだからおいしいのかそれとも疲れているからおいしいのか

だが秋はこのメロンパンを買った店を兄二人に教えてもらっていたのでやはり話題の店だからかと

考えをまとめた

 

「私がメロンパンを食べるなんて意外だった?」

 

「そんな事はないけど

神ヶ原もそういう話し方というか・・・

名家生まれのお嬢様なのにそんな姿を見せるのかと」

 

秋の少し前を歩いている葵は前を見ずに秋と伊邪那岐を見ながら手を後ろで組んで歩く

視線は伊邪那岐、秋、伊邪那岐、秋と交互に見つめている

秋は不思議そうに伊邪那岐は照れながら葵を見つめ返した

 

「こう言ってはなんだけれど

二人ともちょうどいい凸凹コンビだと思うの

そもそも丁度いい凸凹なんておかしいと思うのだけれど」

 

「丁度いい凸凹コンビなんて言葉初めて聞いたぞ

そもそもそれじゃあ僕が伊邪那岐より身長が低いみたいじゃないか」

 

実際に秋は伊邪那岐よりも遥かに背は低い

秋が173cm

伊邪那岐が2m48cm

差は歴然である

だがこの二人が並んでいる様を葵は楽しみながら見ていた

 

「お嬢様というか名家のお方は買い物とかしないのか?

こんな安っぽいって言ったら悪いけど・・・

お前のことだから買い占めたりとか運転手やら執事やらメイドやらに買わせることだって」

 

「雁間君?

私はお金持ちで美少女でツンデレ完璧美少女かもしれないけれど

そんな退屈な事はしないわ

並んでこそおいしかったり

売り切れということを感じる事もできるんだもの

一般の方と言ったら失礼だけど

これが私の贅沢なの学校の購買でも自分でパンやお弁当を購入したいのだけれど

でもシェフが作ってくれる

別に頼んでもいないのに

一度でいいから焼きそばパンを食べてみたいわ・・・

ほら私って可愛いでしょう?」

 

「最後の言葉で台無しだぞ!?

焼きそばパンぐらいなら僕が買ってきてやるから

金持ちでも大変なんだな

ある意味尊敬したよ最後の台詞以外はな」

 

「ふふふふふ

雁間君は体だけじゃなくて心も童貞なのね」

 

「やかましい!

女の子とこんなに長く居る事なんて人生で初めてなんだよ!」

 

「あらそうだったの?

じゃあ私が雁間君の心の童貞を最初に奪ってしまった罪な女にされたわけね

童貞面してなかなか狡い真似してくれるじゃない」

 

「心も童貞でツッコミたかったが・・・

それだけでお前が自分で罪な女宣言するなんてな・・・

なんか突っ込む気が失せてきたよ」

 

「公衆の面前で突っ込む突っ込まないなんてやらしい事言わないで雁間君」

 

「やらしいのはお前の頭だろうが!」

 

「あら失礼しちゃうわ

私はただの潔白で可憐な美少女なのに」

 

「さっき自分で罪な女とか言ってたじゃないか・・・」

 

秋が呆れながら肩を落とすと葵がある店の前で止まった

とても絢爛豪華な外観をしておりとてもではないが秋の様な人間では入れないような店であった

ガラス張りの建物に服を着たマネキンが数体ショーケース内で着飾ってポーズをきめている

しかし葵の目線はその隣の建物に向いていた

普段、秋が行くのも当たり前の様な服屋

絢爛豪華とは言えないがそれなりに背伸びした感じの外観の服屋

その店先に置いてあるマネキンが着ている服に葵は興味深々だった

 

「そっちの方がいいのか?」

 

「ええ」

 

「それぐらいなら僕でも買えるものだぞ?」

 

「金持ちで潔白で可憐な美少女でツンデレの私も普通の服装?って言うのかしら

そういうのに憧れたりする年頃なのよ」

 

「一般市民にはお前のそのお年頃がよくわからないぞ」

 

「ドレスや高い服よりもこっちの方が私は好きなのよ

ブランド物や宝飾品よりも質素というか謙虚というかただ豪華絢爛じゃ意味が無いのよ

着てるだけ付けているだけじゃ雁間君みたいな童貞は鈍感だから気付かないのよ」

 

「まぁ僕も質素な感じの方が好きだったりするけれども」

 

「そう

だったら雁間君の好みに合うような服を買ってこようかしら」

 

秋のトレードマークの様な髪の毛がピンと張る

 

「まっまぁ・・・僕の好みに合うのは別として買い物したいのならしてくるといい

僕は出口で待っているから」

 

「あら貴方のアホ毛はこっちに来たいと言わんばかりに張っているけれど?」

 

「アホ毛じゃない!寝ぐせだ!まるで人の髪の毛を生き物みたいに」

 

「ふふふふふ

私の気のせいかもしれないわね

それじゃあ行ってくるわ」

 

そう言って葵は自分で扉を開いて店の中に入っていった

服屋の外には秋と伊邪那岐がポツンと店の階段を椅子代わりに座っている

そこだけ切り取ってしまえばシュールな二人

 

「秋、なかなか葵はいい人ではないか」

 

「はてさて・・・それはどうかな」

 

「メロンパンを頬張っているときは心が動いたぞ」

 

「お前ってほんとに意思が弱い召喚者だな」

 

「はっはっはっはっ!前の主にもよく言われたよ」

 

「ここまでくるとその背中に背負っている大剣がとても弱々しく見えるな」

 

「ふっ・・・可愛い女の子にはかなわないのだよ

どんな立派な剣士でもな」

 

「ドヤ顔で自慢できることじゃないぞ・・・」

 

大声で笑う伊邪那岐

秋はふと辺りを見回した

疎らに親子連れ、カップル、夫婦、学生服の人

ただっぴろいアスファルトで舗装された歩道

秋にはその中でも一人の全身白色のタキシードに白い帽子そして右手にはTと書かれた腕章をつけた男が目に入った

 

「秋」

 

「あぁわかってる」

 

秋は気付いていた

あのタキシードの男は国魔高校一等生だという事を

腕章は限られた一等生しかつけられない

Tでも高校生ではかなりの実力者に入る

ただ夏希や生徒会長が異常なだけであって侮れないのは確かである

秋はよく観察しながら男を見つめた

目的地が決まっているのかじりじりとこちらに向かってくる

 

「怪しいな」

 

「うむ。かなり怪しい」

 

「お前が言えた義理じゃないけどな」

 

「なにぃ!?」

 

男は服屋の前までくると立ち止まり秋を見下すような目で見降ろした

白いタキシードとお河童頭に無理やり被せた帽子

それに似合わず男は秋を汚物を見る様に見下していた

 

「雁間秋か」

 

「そうですが?」

 

「これは失礼失礼

吾輩の名前は関秀才(せきしゅうさい)

一等生だ二等星の貴様がここで何をしている?」

 

「ここで座っているのに理由がいるのでしょうか?」

 

秀才がイライラしているのが目に見える

人と話すときは帽子を脱げって習わなかったのだろうか?と伊邪那岐が秋に尋ねたが男との距離が近いため無視せざるを得なかった

 

「そういう事ではない

なぜお前如き二等が吾輩の葵を誑かしてくれているのだ?

今すぐ理由と経緯を述べよ

そうすれば厳罰は無しで許してやる」

 

これには流石の伊邪那岐も痺れを切らし背中の大剣を抜いた

だがそれよりも先に秋の右手が秀才の顔面を捉えていた

秋の右拳の威力はすさまじかったのかそれとも秀才の鍛え方が足りないのか

秀才はアスファルトの地面を転がり自分の左頬を抑えてうめき声をあげながら倒れた

それを見て伊邪那岐は秋に拍手を送った

 

「お前かセンサーに引っかかってたやつは」

 

「きっ・・・貴様ぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!

吾輩の顔を・・・・!顔をぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!」

 

激情しながら街中で叫ぶ秀才

秋はめんどくさいことをしてしまったと反省していた

 

「めんどくさい一等生だな」

 

「二等が一等を殴るなどと・・・なんと無礼な!

どちらが優れた人間かわかっているのか!

この大馬鹿者めが!」

 

立場逆転、今度は秋が秀才を見下しながら秀才に近づく

 

「一等様はそんなに偉いのか?

違うだろう?二等だって同じ人間なんだぜ?何が違う

兄弟で区別されるそれはなぜだろうか?

お前みたいにくだらん考えを持っている馬鹿がいるからだろ?

魔法を使う皆さんが大好きな神様は平等を祈ったりしてるんだぜ?」

 

「なぁにを戯けたことを!

才能ある人間が才能の無い人間を馬鹿にして何が悪いというのだ!

才能がないなら才能が無いなりに生きていればいい

魔法も使えん人間以下に吾輩たち一等生に説教を垂れる資格は無いわ!」

 

街の人たちが秋と秀才に視線を集める

注目されるのをあまり良しとしない秋はその場から今すぐ逃げ出したい思いだっただろう

普段の秋なら少なからずそ思うはずだ

しかし、今の雁間秋は違った

 

「お前みたいな人間こそ人間以下だと思うよ

僕はつくづくそう思う

あんまり桜の言ってたことはここではしたくないからな」

 

「はんっ!あのバカの言うことなど信じるものか!

精神や心に異常を来しているからお前みたいな無能が強い妄想話をしているのだろう?

吾輩より上の魔法力などあのバカ小娘には無いに決まっている!」

 

伊邪那岐が秀才に向かって大剣を振り下ろそうとしたその時

秋の蹴りが今度は秀才の鼻を捉えていた

 

「ぐぎゃぁ!」

 

奇声をあげながら地を這う秀才

遠くから国魔高校の風紀委員が近づくのがわかる

 

「僕を馬鹿にしてくれるのは大方構わないが

家族を馬鹿にするのは許せないな

何よりも馬鹿なら馬鹿であるほど自分が弱いことや才能が無いことを認めないんだな

僕はそういう人間が大嫌いだ

君みたいな一等生しか知らないが僕は君とは違う神ヶ原を尊敬する」

 

「なっ!秋!何やってんだ!」

 

風紀委員からかけつけたのは秋の兄である夏希だった

顔を真っ青にして夏希は秋に自分が暴力をふるった秀才の正体を知る

 

「あのな秀才はな・・・

学校に通う生徒の中で有数の金持ちなんだぞ?

そんな生徒を殴ってしまうとは

よっぽど尋常じゃない事があったんだろうな

それよりもほらよ」

 

夏希は自分の持っていた包帯を差し出した

人に暴力をふるうことの慣れていない秋の手は真っ赤になっていた

 

「雁間君・・・

ある意味感謝できるようなできないような

彼はストーカーみたいなものだったしあまり好んでいなかったの」

 

「おっ神ヶ原さんか」

 

夏希が葵に手を振る

 

「ご無沙汰しています」

 

葵は夏希に頭を深々と下げる

 

「そうか・・・そういうことか」

 

「申し訳ありません

雁間君に暴力をふらせてしまいました」

 

「いや・・・別にそれは困ったことじゃないんだが

向こうの両親がどう言ってくるかだな

めんどくさい親子だぜ?

秋、フォローはするが最悪、殺されるかもしれんな」

 

「大丈夫です

雁間君は誰にも殺させはしません

雁間君を殺されるぐらいなら私が雁間君を殺します」

 

「お前・・・二つの意味でやっちまってるな」

 

救急車から降りてきた風紀委員に起こされた秀才は秋を睨んでいた

 

「許さんぞ・・・

雁間秋!この関秀才!!!!!!

お前から受けたこの屈辱を決闘でつけるぞ!!!!!

勝負は三日後!国魔高校の中央広場だ!」

 

そう言って秀才は救急車で運ばれた

夏希は救急車に乗って病院まで秀才を引率した

秋はまだ秀才に睨まれている気がしてたびたび後ろを振り返った

 

「決闘を申し込まれるなんて雁間君やるじゃない

それじゃあ家まで続けて送って行って頂戴」

 

「この状況でよく僕に送ってなんて言えるな・・・」

 

「だって雁間君が人を殴るなんてよっぽどの事があったのに違いないわ

それに言ったでしょう?秀才の事は気に入ってなかったのよ

私の雁間君を怒らせるということは私を怒らせることと一緒なのよ」

 

「いろんな意味で心強いよ

ありがとう」

 

「私より雁間君の方がツンデレよね」

 

「一言余計だ」

 

二人の後姿を見て笑顔を浮かべる伊邪那岐

 

「主よ。秋はちゃんと成長しておるぞ」

 

そう言って自分の胸元に下げられたお守りを握ると伊邪那岐も走って二人の後ろに付いて行った

 

 

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ツンデレ 主人公無双・・・? 魔法 学園 

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