Need For Speed TOHO 第12話 VSヒメ 前篇
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 午後10時半、キャンデンビーチを少し外れた渓谷。ヒメはここをバトル場所に指定してきた。

「・・・・・・」

 私は頂上でヒメの到着を待つ。強い風が私の髪を乱して鬱陶しくて仕方ない。

 タイヤ・ブレーキに厳しい勾配のきつい峠道、お世辞にも広いとは言えない道幅。そして波打った舗装・・・。ランエボが相手だと考えると、私にとってはかなり厳しいバトルであることは明白。むしろ向こうはそれを見越してここをステージに選んだのかもしれない。

「ん・・・」

 下の方から軽いエキゾーストノートが響いてきた。ガードレールの向こうの谷を見ると、黒とピンクのランエボが、一台の黒塗りのベンツと山をあがってくるのが見えた。

「いよいよお出ましか・・・」

 私は暴れる髪を抑えながら、ベンツのコクピットに収まる。

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 ウォッチビュー:萃香。

 

「なぁ勇義、本当にこんなとこでいいのかい?」

 魔理沙とランエボの王女様のバトルステージとなった渓谷。私達はそのちょうど中間地点と言える辺りにクルマを止め、アリス・勇義・パルスィとともにギャラリーに訪れていた。

「他にどうしようもないしな。こう狭い峠じゃ、見たいとこも自由に見れんし」

 そう言って勇義はコンクリートで整備された山の壁に造られた階段に腰掛ける。

「今回のバトル、どう思う?」

 おもむろにアリスが口を開いた。勇義は彼女にあまりいい感情を持っていないのか、少し怪訝な顔をした。(この時私はアリスが魔理沙に金を賭けていることを知らなかった)

「お世辞にも有利とは言えないね。こう狭い峠じゃ、大柄且つ車重の重いベンツじゃ不利にも程がある。カーボンパーツの多様でノーマルに比べても相当軽くはなってるけど、ランエボと比べちゃうと100s以上は楽に違うだろうね」

 そもそも魔理沙のベンツと向こうのランエボとじゃ、シャシーもそうだがエンジンの大きさも全く違う。ベンツの5リッターオーバーのV8に対し、ランエボは軽い2リッターエンジンにターボチャージャーを追加したもの。初代からエボリューション\まで続いた伝統ある4G63エンジンは、データも豊富で信頼性も抜群。600ps、700ps程度では全く音をあげない傑作エンジンだ。

「とはいえ、奴さんもそう簡単に事は上手く進みはしないだろうね。大きな落とし穴があることも事実だし」

「落とし穴?」

 

 ウォッチビュー:魔理沙。

 

 姫のエボが見えてから数分したころ、ベンツのバックミラーにあのエボの姿が映し出された。

「・・・・・・」

 ゆっくりと私の横にエボを並べるヒメ。一度私の方へ視線を向け、すぐに前方へ目を戻す。

「言葉は、不要か・・・」

 私はそう呟き、視線を前に戻す。

 ヒメの執事と思われるスーツ姿の男性が二台の間に立つ。そして両腕を真上に挙げ、スタートの合図を告げる。

「っ!!」

 直後、勢いよく男性の手が下ろされ、バトルがスタートする。

「チッ・・・!」

 スタートはやはりトラクションに勝るエボが前に出る。流石に4駆のトラクションは化け物だ。

 1コーナーへと二台がなだれ込む。ヒメのエボは一瞬コーナーと反対方向に車体を向けるフェイントモーションを見せ、4駆独特のゼロカウンタードリフトでコーナーを抜ける。

(舐めんな・・・っ!)

 それに続いて私もベンツのテールを少し流し、最小限のカウンターで1コーナーをクリアする。

「く・・・!」

 しかし、エボの背中を追おうとアクセルを踏み込んだ瞬間、波打った舗装にリアタイヤを取られ、姿勢が乱れる。

(くそ・・・!想像以上にやりづらい。だがここで冷静さを欠くのは愚の骨頂だ。どうにか耐えないと・・・)

 深夜の峠に二つの咆哮を響かせながら、私たちは峠を降りていく。

 

 ウォッチビュー:萃香。

 

「始まったみたいだね」

 上の方から凄まじいエキゾーストノートとスキール音が聞こえてくる。

「ねぇ萃香」

「ん?なんだい?」

 ここまで自分から口を開くことが無かったパルスィが私を呼んだ。

「さっき、あんたが言ってた「落とし穴」ってどういうこと?」

 どうやらさっきの私の発言が気になっていたようだ。

「ん?ああ、アレね。別に大きな意味はないよ。ただひとつ、「盲点」があるのさ」

「盲点?」

 ランエボやインプレッサなど、ラリー系の4WDマシンの使い手にたまにある、たった一つの盲点。

「こういった峠レースっていうのは、あくまでアンダーグラウンドな存在なわけだけど、このレースを極めた先の延長線上には、公道レースの頂点、世界ラリー選手権(WRC)があるわけじゃん?」

「まぁ、大雑把に言えばそこに繋がるかしらね」

「でもって、ランエボやインプレッサみたいなクルマ・・・、特にランエボは「グループA」っていう狭い規格の中で戦ってたクルマだから、市販車の時点で相当なモデファイが施されてる。市販車の状態でもかなり完成度が高いんだ」

 奴さんが乗るエボ[はすでに三菱がWRCから身を引いた時代に造られてるクルマだけど、CN、CP系の第2世代のグループA時代の血は色濃く残されてる。でなきゃストックの状態であれだけのクルマは造れないだろう。それにあのモデルには実際にWRCで採用され、CT系から市販化されていた「ACD(Active Center Deff)」と呼ばれるかなり高性能な可変式のセンターデフもあり、フルタイム四駆特有のターンインでのアンダーステアが解消されている。

「そんなWRCの世界でてっぺんを取り続けていたクルマが、こういう公道レースでも最強だっていう、一つの信仰みたいなのがあるんだよね」

「ふぅん・・・」

 ロータリーをこよなく愛しているアリスはあまり興味なさげに耳を傾け、そもそも四駆を毛嫌いしている勇義はむすっとした表情で頬杖をついている。

「まぁ確かに、シルビアと遜色ない車重に軽い2リッターターボエンジンを載せて、それを4WDで武装しているのは確かに驚異的だけど、実際ラリーってさ、もともと土の上とか雪の上とか、悪路を走る競技じゃん?舗装路でも雨ならまだしも、今みたいな完全ドライのターマック(舗装路)じゃ、4WDの恩恵も絶対とは言えないよ。一昔前のグループBでも、初めてラリーに四駆を持ち込んで、圧倒的な強さだったアウディ・クワトロも、ターマック路面じゃ二駆のランチア・ラリー037には適わなかったってことさ」

 

 ウォッチビュー:魔理沙。

 

(くっそ速えぇ・・・!)

 ジリジリとその差が広がっていく。この光景を目の当たりにすると、いかに4WDというシステムが画期的なのかを思い知らされる。

(とにかく焦るな、カッカするな・・・!ここで焦ってタイヤを酷使するのは厳禁だ。萃香との作戦通りに事が進めなきゃ、それこそ本末転倒だ・・・)

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・・・・・・・・・

・・・・・・

・・・

 バトルの前日。

「いいかい魔理沙。相手は公道レースで1、2を争えるランエボが相手だ。峠のバトルじゃベンツは決して有利なマシンじゃない。むしろ不利な材料しかない」

「あ、ああ・・・」

 ヒメとのバトルで伝えたいことがあるという萃香の呼び出しに、私は彼女のガレージを訪れていた。

「勝つためには、まず向こうのトラクションに騙されないこと。ドライの舗装路なら、4駆だろうと2駆だろうと蹴っ飛ばしにはそう大差はない。タイヤサイズを考えれば、その差はさらに縮まるはずだよ。ベンツの方がタイヤサイズが圧倒的に大きいからね」

「お、おう・・・」

「とにかくバトル前半は無駄なホイルスピンはさせずにタイヤのマネジメントに集中して。魔理沙の実力なら、そこまで致命的な差は開かないはずだ」

「だといいが・・・」

 いつになく饒舌な萃香に押されながらも、私は明日のバトルのシュミレーションを組み上げる。

「勝負は勾配がきつくなるバトル後半。相手のペースはおそらくこのあたりで落ち始めるよ。そこを上手く突くには・・・」

・・・

・・・・・・

・・・・・・・・・

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 萃香の言ってること通りに事が進むのなら、この区間ではタイヤの事に集中しなければならない。ここでダメならすべてダメだ。ほぼ背水の陣にも近い状況下での戦いは、決して楽な物じゃない。萃香の推測が当たってればいいが・・・。

 

 ウォッチビュー:萃香。

 

「それで?散々能書き連ねたのはいいけど、勝つ算段ってのは本当にあるのかい?」

 散々ランエボのウンチクを語られた勇義は、いつの間にかかなり機嫌を悪くしていた。

「勿論。でなきゃ前日にあいつを呼び出したりしないよ」

 4WDに隠された、もう一つの落とし穴。それは・・・、

「ズバリ、フロントタイヤの使い方さ」

「フロントタイヤ?」

「そ。FRやMRのような後輪駆動車は、クルマを止めるのはほとんどフロントタイヤの仕事だけど、加速はリアタイヤの仕事だろう?でも4WDは加速にもフロントタイヤを使うからね。ランエボは先にフロントタイヤが苦しくなり、後半に必ずコーナー突込みが鈍ってくる。そこを上手く突いていく作戦さ」

 もちろん、いくら魔理沙がタイヤに気を使ったところで車重的な事を考えれば、物理的な限界はある。しかしそこにしかチャンスが無いのも事実だ。

「お?」

 その時、上へ続く道の林の間から光が漏れ始める。どうやら近いようだ。

「来るぞ!」

 勇義が声を荒げた直後、黒とピンクのエボ[が現れる。タービンが過給する心地良いサウンドを残して私たちの目の前を通り過ぎていく。

「魔理沙は・・・」

 エボに遅れること数秒、魔理沙のベンツが姿を現した。スーパーチャージャー特有の金切音を響かせて、私たちの視界から消える。

「ふむ・・・。6秒差か、若干焦ってるみたいだけど、そこまで悪くはないマージンだね」

 私は手に構えたストップウォッチの数字を見て呟く。

 目の前から離れていく相手に対し、せっかちな魔理沙にしてはよく頑張った方だろう。勝負はここからだ。

 

説明
萃「スーパーチャージャー出力再上昇。Fuel Rom、パターn・・・」

魔「私のクルマをどこぞの鎧核みたいに扱うのやめてくれないか」


 12話です。今回少し長くなってしまったので前後編に分けてます。主な原因は萃香のウンチクg(百万鬼夜行 アッー!

 今回Dネタ多めです、ご了承ください

 本作品は上海アリス劇団様・東方projectとエレクトロニック・アーツ様・Need For Speed Most Wantedの二次創作作品です。
 原作ブレイク、キャラ崩壊、独自解釈設定を多く含みます。物語そのものや、二次設定の使用、キャラクターの人選等不快感を覚える方は閲覧をお控えください。
 また、この物語はフィクションです。劇中のカーアクション等は非常に危険です。実際のクルマを運転するときは法規上の交通ルール・モラル面の交通マナーを守り、安全運転を心がけましょう。
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伊吹萃香 霧雨魔理沙 蓬莱山輝夜 東方Project Need_For_Speed 

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