恋姫OROCHI(仮) 一章・弐ノ伍 〜競演〜
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「ここは…」

 

剣丞以下四名が時を越える。

周りにはほとんど何もない荒野が広がっていた。

剣丞には見覚えがない。

 

「ここは……洛陽と函谷関の間あたり?」

 

蒲公英が遠方の山々などを見て確かめる。

 

「左様です。ここから数里ほど西方が函谷関となります」

 

音も無く管輅が現れる。

 

「よしっ!じゃあ翠姉ちゃんを助けに行くぞ!」

「「「はいっ!」」」

 

 

 

 

 

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………………

…………

……

 

 

 

「しゃらああぁあぁ!!!」

 

翠の銀閃が振るわれるたび、鬼の命が次々と散っていく。

武力は圧倒的に翠のほうが上手だ。しかし――

 

「グアァァーー!!」

「ちぃっ!」

 

次々と襲い来る敵に、翠は苦戦を強いられていた。

 

(蒲公英は無事に逃げられただろうか?)

 

援軍を呼んで来い、とは言ったが、距離と状況を考えれば、まず間に合わないだろう。

なんとか蒲公英だけは助かってくれれば…

 

翠はちらりと函谷関の方を見やる。

関を越える鬼の量が徐々に増え始めている。

紫苑も厳しい状況なのは間違いない。

 

(だからこそ、あたしがここで踏ん張らなきゃならないんだ!)

 

と、心の中で気合を入れたのが裏目に出た。

その僅かな思考の隙を突き、

 

「ガァッ!!」

 

背後から敵の爪撃が迫る。

 

「しまった――――」

 

 

 

――――防げないっ!!

 

 

 

 

 

 

 

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「させるかいっ!!」

 

ブシャッ、と嫌な音を立てて、翠に迫った魔の手が切り落とされる。

輝くは白銀の偃月。

 

「お、お前は……」

「よっ、翠!なんや、苦戦しとるやないの」

 

翠の眼前に颯爽と現れ、馬から飛び降り、不敵な笑みを浮かべる女武士が一人。

さらしに着流しの粋な立ち姿の主は、魏の猛将・張遼だった。

 

「霞っ!?お前、どうして……」

「詠んとこに、なんや、変な化け物がおるっちゅー報告があって、なっ!」

 

ブンッ、と飛龍偃月刀を一振りすると、襲いかかろうとした鬼の首が十ほど飛ぶ。

 

「軽い物見のつもりやってんけど、こりゃ大当たりやったみたいやなっ!」

 

飛び掛ってきた鬼を斬り上げ、真っ二つにする。

突如現れた強敵に、鬼もわずかに腰を引かす。

 

「そうなのか…」

 

地獄に仏が現れ、ホッと息をつく翠。

と、

 

「そうだ!蒲公英!蒲公英は!?蒲公英と会わなかったかっ!?」

「蒲公英?いやぁ、会わんかったけど…」

「そっか…」

 

違う道を通ったのかもしれない。

だが、霞の話を聞く限り、洛陽方面には敵影はないのだろう。

とりあえず、蒲公英の身は安全だろうと翠は一息つく。

 

「ああっ!」

「な、なんや!?」

「紫苑!霞、函谷関で紫苑がこいつらの群れの侵攻を防いでるんだ!お前が一緒に来てくれれば助けられる!」

「わちゃー…紫苑も無茶しよるでぇ。函谷関かて、方向逆やんか」

 

元々函谷関は、中原から関中への侵攻を防ぐための関だ。

なので、関中側からの侵攻に対する防御力は無いに等しい。

人が登る用の階段もついているので、かなりの量がこちらに漏れているのだろう。

しかし、その突破された鬼の量を見るに、陥落しているわけではないはずだ。

 

「よっしゃ!ほな、紫苑助けに行こか?ここで死なれた日にゃ、璃々に合わせる顔が無いで」

「ありがとう!それじゃ、行くぜっ!!」

「あぁ。錦馬超と遼来々の競演といこかぁ!」

 

二人は同時に駆け出す。

白銀の十文字と鈍色の半月が躍るたびに、化け物が次々と姿を消していく。

翠と霞は、無人の野を行くが如く、まっすぐに函谷関へと駆けていった。

 

 

 

 

 

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「ふぅ……ふぅ……」

 

紫苑は肩で息をする。

その右肩の感覚も、ほとんどなくなっていた。

いったい何本の矢を射ったのか覚えていない。

年は取りたくないものね、と心の中で自嘲する。

 

と、前方から何度目か分からない敵の大波がやってきた。

鉛のような身体に鞭打って、紫苑は一度に十本の強弓を放つ。

タンッ、タンッ、という音を響かせ、全てを確実に敵の眉間に命中させていく。

最初は手足を狙い、敵の無力化を図ったのだが、手足に矢が刺さっても構わず突進してくるので、頭を狙うしかなくなっていた。

その集中力も、紫苑の力を少しずつ削いでいった。

紫苑や隊のものがどれだけ速射をしても、それ以上の敵が向かってくる。

その上、人間では考えられないような身体能力で関を登ってくるものまでおり、かなりの数、突破されている。

 

(このままではマズいわね…)

 

そんな思いが頭を過ぎった。そのとき

 

「黄忠さま!矢の在庫がなくなりました!」

 

そんな報告が入る。

携帯していた量はごく僅かだったし、最近は関として用いていなかった函谷関に、そこまで潤沢な物資があるわけでもなかった。

 

「くっ……分かりました。敵は充分に引き付けました。総員、撤退の準備を…」

「紫苑ーー!無事かっ!?無事なら返事してくれーー!!」

「関開けてんかー!?化け物ども、うちらがぶっ殺したるでーー!!」

「翠ちゃん!?霞ちゃん!?」

 

関の下から翠と霞の声がした。

助けに来てくれたのだろうか?何にしても今はありがたい。

 

「翠ちゃ…」

「ふむ…貴方がこの関の指揮官のようですね」

「えっ……」

 

振り返ると、そこには他の化け物より二回り以上も大きな体躯の化け物が立っていた。

 

「どうも進行速度が上がらないと思っていたら、いやはや、無謀にもこんなボロ関を拠り所に戦う将がいたとは……」

「あ……あぁ………」

「目障りですね」

 

恐怖で動けない紫苑。

目の前の化け物は、その丸太のような腕を振り上げ……

 

(ご主人様……璃々――――)

 

 

 

 

 

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「見えたっ!」

 

散発的に現れる化け物を屠りながら、函谷関へと辿り着いた翠と霞。

 

「よっしゃ、まだ陥ちてへんな!」

 

関の扉は固く閉じられたままだ。

紫苑もまだ無事の可能性が高い。

 

「紫苑ーー!無事かっ!?無事なら返事してくれーー!!」

「関開けてんかー!?化け物ども、うちらがぶっ殺したるでーー!!」

 

必死に呼びかけるが返事は無い。

関の上に人の気配はあるのだが……

 

ズゥゥゥゥ………………ン!!!

 

突如、関の上から轟音が鳴り響いた。

 

「な、なんだ!?」

 

パラパラと頭上から小石が降ってくる。

何か良からぬことが起こったに違いない。

 

「おいっ!紫お…」

「アカンっ!翠、下がりぃ!!」

 

霞が翠の後ろ襟を思いっきり引っ張る。

 

「けはぁっ!……お゛い霞、何を……」

「えぇから走り!早うせんと巻き込まれるで!!」

「なにっ?」

 

翠の耳に、ドオォン、ドオォン、という鈍い音が入ってくる。

音の方を見やると、関の扉にひびが入り、それは徐々に大きくなっている。

 

「ヤバイ!」

 

翠と霞は急いで扉から離れる。

間一髪。

大きな破壊音と破片を撒き散らし、関の扉は大破した。

そこから、まさに堰を切ったように化け物が溢れ出してきた。

 

「ちぃっ!」

「アカン翠!ここは逃げるで!!」

「でも紫苑が…」

「あの紫苑やったら危険察知してもう退いとるに違いないて!」

「でも…」

「でもも杓子もあるかいっ!ここでアンタに死なれたら、今度はウチが蒲公英にどない説明すりゃえぇんや!!

 どのみちあの数はウチらだけじゃ無理や!とにかく一旦退くで!」

「あ、あぁ……」

 

なおも後ろ髪を引っ張られる翠をたしなめ、何とか退かせる。

が、その間が致命的だった、

足早の化け物に対応している間に、徐々に後方の敵本隊に迫られる。

そして、ちょうど翠と霞が合流した地点で、二人は敵に囲まれてしまった。

 

「ちぃっ!馬ぁ帰したんは失敗やったなぁ」

 

乗ってきた馬を洛陽に帰したことを今更ながらに悔やむ霞。

悔やんだ所で、この状況は変わらない。と、

 

「これはこれは、蜀の馬超将軍に、そちらは……魏の張遼将軍ではありませんか」

 

ズゥン、ズゥンという足音を立てながら、一際大きな化け物が、化け物の壁を掻き分けて進み出た。

 

「うわ、キモッ!この化け物しゃべれるんか!?」

「あぁ、どうやらこの化け物どもは、変な飲み物を飲まされた人間のなれの果てらしいからな。理性を保てる奴もいるんじゃないのか?」

「えぇ、その通り!この溢れる力!研ぎ澄まされる五感!あなた方には分からないでしょうね!!」

 

天を仰ぎ、一匹悦に入る。

別に分かりたないわ、と悪態づく霞。

 

「この力を思う存分振るいたいと思っていた所。あなた方が丁度いい。関の守備隊長如きでは、満足な運動も出来ませんでしたからね」

 

人であった時、どのような人物であったかは窺い知れぬが、人を小馬鹿にしたように肩を竦める。

 

「待て…守備隊長、だと?まさかお前、紫苑を……」

「おや、お知り合いでしたか?什長程度だと思っていましたが、よもやあれが将軍だったとか言わないでくださいよ」

 

くっく、と下卑た声で引き笑う。

 

「あのような蟻程度の力の持ち主が将軍であれば、今の私なら大将軍や丞相……いえ、それこそ皇帝にすらなれるでしょう!!」

 

観客でもいるように、大仰な素振りで両手を広げ、空に向かって高らかに叫びあげる。

自分に陶酔しているようだ。

 

「テメェ……ぶっ殺してやるっ!!」

 

怒りに任せて、翠が突っ込む。

 

「ふっ…」

 

化け物は慌てることなくニヤリと笑うと、側に居た普通の大きさの化け物を掴むと、翠に向かって投げつけた。

 

「なっ!?」

 

慌てて飛来する化け物を切り捨てる。

が、真っ二つになった化け物の後ろから、巨大な化け物の前蹴りが飛んできた。

 

「まずっ…」

 

何とか槍の柄で受け、直撃は免れたものの、衝撃で翠の身体は後方に飛ばされる。

地面に叩きつけられる、と思ったが、

 

「っとと!危ない危ない」

 

がっちりと、霞が翠を受け止める。

 

「ごほっ…わりぃ、霞」

「なんのこれしき。ただ、春蘭みたいに考え無しに突っ込むのはアカンゆーことや。気ぃつけ」

 

パンパンと翠の腰を叩いて降ろすと、キッと化け物を睨み付ける。

 

「なぁ、アンタ。アンタが人だった時分、どんな奴やったかなんぞ、これっっっっぽっちも興味はないねんけどな?

 紫苑の力量は見抜けん。仲間を平気で捨て駒にする。アンタみたいな輩が将軍なんざ、ちゃんちゃらおかしいっちゅー話や。

 アンタが将軍になんぞなったら、それこそ国一個潰しかねんわ。

 だからな、アンタはせいぜい、地方の小役人程度がお似合いっちゅーことやっ!」

 

見得を切る霞。

霞の言葉を聞いてか、こめかみの血管がボコボコと膨らみ、わなわなと震える化け物。

 

「あっれーー?もしかして図星やったん?ごめんなー。

 せやかて、アンタからプンプンと臭っとってんもん。ただの役人やのうて小役人臭がなぁ。

 家に帰ったらちゃんと湯ぅ浴びたほうがえぇで?」

 

霞は鼻をつまむと、しっしと、汚いものをあしらう様に手を振る。

化け物の震えはより大きくなり、歯はギリギリと音を立てる。

突如、グガアアァァッという咆哮と共に口を開く。

 

「よくぞそこまで虚仮にしてくれたなっ!!いいだろう!その小役人が貴様ら将軍を八つ裂きにしてくれるわっ!!」

 

それまでの、余裕を見せながら人を小馬鹿にしたような仮面をかなぐり捨て、その風貌に相応しい、醜い内面が顔を出した。

 

「さ。やろか、翠」

「やろか、じゃねぇだろ!散々挑発しやがってよぉ!?」

「せやかて、一発言ってやらな我慢ならんかってんも〜ん」

 

そういうと、ニッと歯を剥き出しにして、いたずらっ子のように笑う霞。

が、すぐに表情を引き締め、

 

「紫苑の弔い合戦や。気張るで」

 

霞も翠と同じように怒りに燃えていた。

だが、翠が激しく燃える赤い炎なら、霞は静かに燃える蒼い炎だった。

 

「霞……」

「なんにしても、早ぅあいつぶっ殺して、周りの連中蹴散らして、もっかい函谷関行くで。あいつの話だけじゃ分からんからな」

「あぁ……あぁ!そうだな!」

「ほな、いくで翠!」

「おうよ、霞!」

 

三国きっての猛将の二人が、巨大な化け物相手に、左右から同時に斬りかかった。

 

 

 

 

 

説明
DTKです。
恋姫†無双と戦国†恋姫の世界観を合わせた恋姫OROCHI、12本目です。

時間は遡り、翠が蒲公英と別れてからしばらくの地点。
事態が少しずつ動きます。
まだ、剣丞らは活躍しません^^;

なお、筆者は生まれも育ちも関東なので、方言に齟齬がある可能性があります。
そのあたりは、よろしくご理解くださいm(_ _)m
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コメント
sugerless777さん>乞うご期待です^^(DTK)
正宗サンさん>今は政宗っつーと、英雄戦姫の政宗が出てきてしまいますw(DTK)
いたさん>ありがとうございます^^どうぞご期待下さい!(DTK)
続き期待(sugerless777)
奥州王 伊達政宗出ないかな。m(__)m(正宗サン)
どうなるかドキドキものです!!(いた)
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