戦国†恋姫〜新田七刀斎・戦国絵巻〜 第7幕
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 第7幕 挟撃の挟撃

 

 

 

 

 

 

 

「えーっと・・・君たちは?」

「あ、えと、あのぉ・・・」

「なんですか、この怪しい男は!とても将には見えないですぞ!どーん」

 

評定の間では歓迎ムードではなかったものの、宴ともなると周りの将も剣丞を快く思うようになっていた。

剣丞もハイテンションなその場に流され、多くの武将とその顔(包帯グルグル巻き)を合わせた。

 

盛り上がった宴が終わり、翌日の朝。

自室で寝ていた剣丞を叩き起こしたのは、昨日の宴よりもハイテンションな少女であった。

 

(確か昨日はこの2人は宴にいなかったなぁ)

 

「あっ、私・・・長尾景勝と申します・・・美空お姉さまに顔くらい合わせておけって言われて、ひぅ」

「空さまーーーー!どうしてくれるのですかー!怪しい包帯男に挨拶した瞬間気絶してしまいましたぞ!どーん」

 

どーんどーん喧しい少女の後ろに隠れるように挨拶をして気絶した忙しい少女は、どうやら昨日美空が言っていたもう1人の護衛対象のようだった。

 

「ええと、その子が空ちゃんなわけね。ところで君は?」

 

今までの怒りはどこへやら、少女は胸を張って笑顔になった。

 

「よくぞ聞いてくれたのです!愛奈は樋口兼続。人呼んで愛に生き、愛に死ぬ愛の守護者にして空さまの守護者、愛奈なのですぞ!どやぁ」

 

愛奈はドヤ顔で剣丞を指さしながらどやっていた。

その大声に、気絶していた空も目を覚ます。

 

「あれ、私・・・」

「大丈夫?空ちゃん」

「ひぅ!」

 

剣丞を見た瞬間、空は再びカッと目を見開き体を硬直させる。

 

「ああー気絶しないで!自己紹介くらいさせて!」

 

困った顔で頼むと、空はプルプルと震えながらコクンと頷いた。

剣丞はしゃがみ、目線を相手に合わせて言う。

 

「俺は新田七刀斎。美空と君の護衛をさせてもらうことになったんだよ」

「護衛・・・?」

「そう、護衛」

「異議あり!どーん!」

 

剣丞と空の間にどんと割り込んできたのは、怒った顔をした愛奈であった。

 

「な、なんだぁ?」

「空さまの護衛はこの越後きっての義侠人、樋口兼続の役目。貴様など認めないのですぞ!どやぁ」

 

剣丞はこの瞬間思い出した。

屋敷にいた頃、姉たちに振り回されていた記憶を。

 

(め、めんどくせぇ・・・)

 

しかし、剣丞はこういった理不尽な相手の仕方を心得ている。

 

「愛奈と言ったな、君に問う」

「な、なんですか・・・どやぁ」

 

剣丞は大げさな動作で愛奈の方を向いた。

 

「君は愛の守護者と言ったな」

「そうですぞ。愛と義は我が血肉なのです!どーん」

「ならばその義、仲間である俺にもあるんじゃないのか!?」

「ぐ、確かにそうですが・・・どやぁ」

 

勝利を確信し、ニヤリと笑う。

 

「それを認めないということは、君の大好きな愛と義に反する!君は俺を認めるしかないのだあああぁぁ!!」

「ど、どやあああああぁぁぁ!!」

 

後ろで爆発が起こってそうな勢いで、愛奈は倒れ込んだ。

 

「ど、どやぁ・・・どやぁ・・・」

「ふっ、勝った・・・」

(こういうタイプには理屈より勢いだからな。ありがとう、春蘭姉ちゃん、鈴々姉ちゃん)

「小さい子相手に何してんのよ・・・」

 

勝利の余韻に浸る剣丞の後ろから声が聞こえてくる。

 

「あ、お姉さま」

 

振り返ると、呆れた顔をした美空がいた。

 

「顔を合わせておけとは言ったけど、言い負かせとは言ってないわよ」

「いや、こうでもしないとだな・・・」

「愛奈は秋子の子供だから、泣かすと後で怖いわよ?」

「ええっ!秋子さん子持ち!?・・・やっぱり・・・」

「あんた・・・それ秋子に聞かれないようにね。一応愛奈は養女なんだから」

 

美空は冷や汗を額に浮かべると、部屋の隅へと剣丞を引っ張った。

 

「空、愛奈の相手をしておいて」

「わかりました、お姉さま」

 

 

空と愛奈に聞こえないように声を潜める。

 

「あんたの顔を隠すって話あったわよね?」

「ああ、だからこんな包帯巻いてんだろ」

「評定の後職人に頼んだらね、一晩で作ってくれたわよ」

 

美空は木箱を開け、中身を剣丞に見せる。

 

「仮面・・・?」

 

中には1つの仮面が入っていた。

 

「今李典と名高い越後の職人に作らせたんだから、大事に使いなさいよね」

「・・・なるほどね」

 

今李典という異名からハズレはないんだろうなぁと察する。

 

「でも、仮面だったら目から下を隠すんじゃないのか」

「それは具足の仮面ね。あんた、兜被るの?」

 

よく田舎に行くと家に飾られている具足についている仮面は、目元から顎までを隠すものが多かったが、剣丞が受け取った物は目元のみを隠すものだった。

 

(戦国時代も色々とジャンルはあったんだな)

 

「さっそく着けてみなさいよ。空と愛奈だったら顔を見られても大丈夫だと思うし」

 

部屋の隅から戻り、空と愛奈の目の前で包帯を外していく。

あらわになった剣丞の素顔に、空と愛奈は意外そうな顔をしていた。

 

「なんだ、包帯で隠しているからてっきり不細工だと思ってたですが・・・どーん」

「・・・・・・ぽっ」

 

あまり悪い印象は与えなかったようで安心し、仮面を付ける。

 

「どう?」

「うん、似合ってるじゃない」

 

仮面は目の部分に穴が開いているので、視界も遮らない。

職人の技か、着け心地も違和感なかった。

 

「これでバッチリね」

「御大将、質問があるのです!どーん」

 

愛奈が手を広げて美空に尋ねた。

 

「何?愛奈」

「別に顔に問題があるわけでもなく、傷も負ってない。なのに何故顔を隠すのか気になるですぞ!どやぁ」

(この子、意外と鋭いな・・・)

 

意外とよく気付くのか本能に敏感なのか、目敏い愛奈に剣丞はその評価を改めた。

 

「まぁ色々とね、皆に覚えてもらうなら仮面の武将って覚えた方が覚えやすいでしょ」

 

美空がとりあえずの理由を話す。

後から聞いた話だが、空と愛奈はこの時、田楽狭間の天人のことをまだ知らないということだった。

 

(秋子さんの子で、秋子さんは直江景綱・・・この子は樋口兼続・・・直江、兼続・・・!?)

「愛奈、君はいつか性を直江にするのかい?」

「当然ですぞ。母たる直江性を受け継ぐは子である愛奈の役目!どやぁ」

「そ、そうか、わかった」

 

直江兼続といえば現代でも有名だ。

目の前の愛奈が言い伝えられているその直江兼続なのかはわからないが、その素質はあるのではないかと思えた。

 

「さぁ、行くわよ。愛奈、空をよろしくね」

「了解ですぞ!どーん!」

 

話が終わったと判断した美空は空と愛奈をその場に置き、剣丞を連れて部屋を出た。

 

廊下を進む美空についていく剣丞。

 

「おい美空、行くってどこに・・・」

「もう、鈍いわね剣丞は」

 

大手門を出て、城下町を出る。

着いたのは、多くの兵隊が整列した広場だった。

 

「戦よ」

 

 

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 越後 国境付近

 

長尾家が誇る6千の兵が、規則正しく隊列を組んでいる。

その陣頭には、美空をはじめとした長尾の誇る武将が馬を進めていた。

 

「いきなり戦だってのに、よくこんだけの兵が集まったな」

「それだけ私の軍が優秀ってことよ」

 

美空の傍らには、仮面を付け剣を7本持った剣丞の姿がある。

出陣の際、他の将にはその特徴的な姿に確実に覚えられていた。

 

「この辺でそれなりに大きな力を持つ豪族が反乱を起こしたらしいのよ。まったくめんどくさいったら・・・」

「だからってこんな大軍で押し寄せなくてもいいんじゃないのか?」

「普通ならね」

 

美空は山々に囲まれた遥か遠くを指さした。

ちょうど進路上にあるであろう方向だ。

 

「この先は、武田の領地なのよ」

「ウチと武田は仲が悪いですからね。国境付近にもなると緊張状態が続いてるんですよ」

 

斥候指揮のために先行していた秋子が戻ってきていた。

 

「御大将、斥候を放ったところこの先10里ほどのところで5千ほどの敵が陣を敷いているそうです」

「農民の寄せ集めが陣を?」

「はい。農民にしては統率もとれ、その陣立は予想以上にしっかりしたものだったとか」

「変ね・・・当たるときには注意しろと皆に伝えておいて」

「御意」

 

秋子は馬を走らせ、後方にいる他の将たちのもとへ行った。

 

「・・・まさかね」

「どういうことだ?」

「いえ、なんでもないわ。急いでないし、あと一刻もしたら会敵するだろうから、準備しときなさいよ」

 

通常、将には兵が割り当てられる。

例えば、先鋒の柘榴には2千の騎馬兵が与えられるなどだ。

 

しかし、護衛である剣丞に兵は当てられていなかった。

 

「まぁ剣丞は護衛だから私が怪我しないよう気を付けるだけだけどね」

「が、頑張るよ・・・」

 

「スケベさーん!ちょっと来てほしいすー!」

 

後ろの方から柘榴の声が聞こえてきた。

スケベという呼び方に他の将からなんだなんだという声も聞こえてくる。

 

「あんな呼び方されたら行きたくなくなるなぁ・・・」

「行きなさい。他の者との連携も将として大事なことよ」

「ううーわかったよ」

 

将や兵たちの白い眼を浴びながら、剣丞は柘榴のもとに向かった。

 

 

「おい柘榴!頼むから他の人がいる時にスケベとか呼ばないでくれ、印象が悪い!」

「ええーだって新田さんスケベじゃないっすかー。それより仮面似合ってるっすね」

「あ、ありがとう・・・って、騙されないぞ!」

「あちゃーバレちゃったっすか。流石スケベさん」

「だーかーら!」

 

剣丞は次々と反論を述べたが、すべて柘榴の「いいんすか?胸を揉んだこと噂になったらまずいっすよ〜」という言葉に一蹴され、結局スケベというあだ名は不動のものとなった。

 

「それよりスケベさん。御大将の動きには注意した方がいいっすよ」

「美空に?またどうして」

「御大将、よく単騎で突出する癖があるっすから・・・護衛頼んだっすよ」

「おいおい勘弁してくれよ・・・というか柘榴はそれを教えるためだけに?」

「御大将も大切っすけど、スケベさんもいきなり死んだらかっこ悪いっすからね!」

 

柘榴はニヒヒと笑うと、隊の指揮に戻って行った。

 

 

「スケベ」

「うわあぁ!松葉、急に後ろから話しかけないでよ!」

 

美空のもとに戻ろうとした剣丞の肩を、手に持った番傘で叩いたのは肩にドデカいアーマーのようなものを付けた松葉だった。

 

「スケベ、御大将は馬の扱いに長けてる。追いつくのは大変。それだけ」

 

松葉はそう言うと、剣丞の返事を聞く前に馬を返していった。

 

「・・・なんやかんやで心配してくれてるのかな」

 

とりあえずそう思うことにした。

 

 

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 一刻後 国境付近

 

「見えてきたわね・・・」

 

敵と思われる軍団が山の間の開けた所に陣をとっていた。

 

「報告にあったように、5千くらいの武装した農民たちね」

 

立て続けに放っていた斥候の報告では、農民たちは鉄の槍を持っているらしい。

 

「農民なのにそんなの使えるのか・・・せいぜい竹槍とか鍬とかだと思ってたけど」

 

横にいた剣丞がそう呟いたのを聞いて、美空は意外そうに目を丸くした。

 

「あら、剣丞にしては目の付け所が良いわね」

「にしてはって何だ。あと呼び方は七刀斎じゃないのか」

「私たちだけちょっと先行してるから別に聞こえたりしないわよ」

 

そんなことより、と美空が続ける。

 

「あんたの言う通り、普通の農民の一揆とかって農具を武器代わりにするのがほとんどなのよ。だから普通の武器が使われることはまず無いわ」

 

通常、農民は武器を買う金など持っていない。

故にに5千もの農民が、徒士が使うような武器を持っているのはおかしいというのが美空の考えであった。

 

「いくら豪族といっても5千人分の武器を用意するなんて到底無理だわ。一体何が・・・」

「御大将!敵を見て皆逸ってるっす!突撃していいっすかー!?」

 

突出した2人に、興奮気味の柘榴がやってくる。

彼女は自前の槍を持ちながらうずうずしていた。

 

「そうね、考えててもらちが明かないし、柘榴は副将を適当に1人つけて撹乱してきなさい。兵の采配と突撃の合図はこちらでするわ」

「了解っすー!!」

 

乗っている馬から飛び上がるかのように返事をした柘榴は、美空のところに来た時より速いスピードで隊に戻って行った。

 

「いいの?敵もよくわからないのに」

「柘榴なら簡単にはやられはしないわよ・・・誰かある!」

 

すぐさま数人が馬に乗ってやってきた。

 

「隊を分ける。柘榴に騎馬2千で突撃を、秋子は弓騎馬千で先行する騎馬隊の援護を、松葉は足軽千で後詰を。私は残りの騎馬隊2千を率いて遊撃を行う!」

 

部下に指示を終え、美空は遥か前方――敵軍を見据えた。

その顔にはうっすらと笑みが浮かんでいる。

 

剣丞はその様子を固唾を飲んで見守っていた。

 

「これより敵軍を強襲する!我こそはと思う者は手柄を立てよ!」

 

【オオオオォォォーーーーー!!】

 

「逃げ惑い、赦しを請う者には慈悲を!刃向う者には痛みを!!」

 

【オオオオオオオオォォォォーーーー!!】

 

「毘沙門天の旗を!」秋子の合図で「畏」の旗があがる。

その旗を見て、兵士たちは更に雄叫びを大きくした。

 

「我らには毘沙門天の加護がある!恐れず進め!突撃ィィーー!!」

 

 

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美空の号令と同時に、1つの部隊が駆け抜けていく。

 

「一番槍は、この柿崎景家のものっすー!武功を立てたい者は続けっすー!!」

 

その後で、もう1つの部隊が通り過ぎて行った。

 

「弓騎馬隊、遅れないで!先行した味方を援護しますよ!」

 

柘榴と秋子の部隊が駆けて行ったところで、遅れて松葉の足軽隊が通り抜けていく。

早い所だと、既に戦闘が始まっていた。

 

「オラオラ!死にたくなければ早く逃げるっすー!」

 

柘榴は槍を縦横無尽に回し、敵を蹴散らす。

その後ろからは千人による矢の雨。

農民の軍はあまりに速い突撃に軽い混乱状態となっていた。

 

「報告より数が少ないわね・・・どこかに伏兵を潜ませてるのかも。私たちはそれを探すわよ!」

「お、おう!」

 

美空の素早い馬捌きに剣丞も狼狽えながら着いていく。

しかし、馬に慣れない剣丞に美空は減速を余儀なくされた。

 

「あんた、遅いわよ!皆の行軍を妨害する気!?」

「ご、ごめん!馬なんて慣れなくて」

「もう、仕方ないわね!こっちに乗って!」

「ええっ、どうやって!?」

「飛び乗るのよ!あんたの馬は他の者に任すから」

 

そんなの無茶だ、という抗議も聞かず、美空は剣丞とピッタリ馬を付けた。

 

「早く!」

「クッ、わかったよ!」

 

一か八か、馬の鞍を足場に隣に飛び乗る。

美空の馬は急激に増えた背中への負荷によろめいたが、それでも耐えてみせていた。

 

「良い子ね・・・剣丞、あんたも感謝しなさい」

「あ、ああ。ありがとう」

 

その礼で帰って来たのは、1度の嘶きだった。

 

 

松葉の隊も合流し、今のところ戦況は長尾勢に有利だった。。

 

「隊もついてきてるわね。このまま迂回して敵の後方に回り込むわよ。伏兵がいるなら挟撃を恐れて出てくるはず」

 

美空の合図を見て、副将たちもまた部下へ伝達していった。

 

 

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 森の中

 

背の高く葉も茂っている木々の中には、太陽の光も届かない。

しかし、戦場の様子はしっかりと見ることができる。

そこに身を潜めることなく佇む2人の人影。

 

「どうだい?金神千里で何か見えたかい?」

「作戦通り、農軍の半分が長尾勢に当たってる。敵の武将は柿崎景家、甘粕景持、直江景綱」

「おや、向こうの総大将がいないみたいだね」

「残りの半分がいないのを警戒して、迂回して挟撃するみたい。これも作戦通りだね」

「ふむ・・・良い頃合いだね。そろそろウチらも出ようか」

「あっちょっと、待ってよぉ〜!」

 

 

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伏兵に遭遇することなく、美空の部隊は敵軍の後方に回り、柘榴たちと挟撃をすることができた。

一気に攻めたいが、敵の抵抗も激しい。

 

美空と剣丞は数人の護衛を付けて丘から戦場を見下ろしながら顎に手を当てた。

 

「・・・変ね。包囲されれば諦めて命乞いなり脱走なりするはずなのに」

 

農民は誰一人として、降伏も遁走もしていない。

むしろ、必死の抵抗がみてとれる。

 

「美空、なんか横の山から敵の援軍っぽいのが出てきたぞ!」

 

剣丞の報告に、美空もその方向を向き確認する。

予想通り、農民の軍の残りだった。

 

「私達が通って来た方向じゃない。敢えて素通りさせたっての?」

 

援軍が来たことにより、敵の士気が目に見えて上がっている。

 

「柘榴たちはまだ手こずってるの?たかが農民に」

 

 

「なんか、気持ち悪いっすね・・・」

「面倒。足掻きがしつこい」

 

柘榴や松葉たちは、手を抜いているわけではなかった。

しかし、会敵したときと違い、農民たちの動きに妙に連携があるのだ。

彼らはまるで壁のように横に広がり、柘榴たちは足止めされている形になっていた。

 

 

それは美空の部隊にも同じで、騎馬隊特有の突破力をなかなか発揮できないでいる。

 

「なぁ美空、柘榴たちのところに戻った方がいいんじゃないのか?」

「どうしてよ。せっかく包囲も出来て挟撃中なのよ?」

「でも俺たちの部隊は完全に孤立してる。あの農民たちが柘榴たちを無視してこっちに攻めて来たら・・・」

 

剣丞の言うことはわからなくもない。

柘榴たちの活躍によって敵軍のうち2千ほどは倒しているが、残りの軍勢が一気にこちらに攻め込んでくるとなると、それ相応の覚悟が必要になるだろう。

しかし、そうなっても農民たちが美空の部隊を攻めたてる前に柘榴の部隊に瞬時に蹴散らされる。

隊の練度も将の質も違う農軍相手だからこそ、美空はたかをくくっていた。

 

そこに、血相を変えて飛び込んでくる者が1人いた。

 

「ほ、ほ、ほ報告!」

 

その男の顔を剣丞は覚えていた。

確か、挟撃する前に四方に出した斥候の1人だ。

だが美空から命令を受けていた時には健康そのものだった顔は真っ青で、汗の量も尋常ではない。

 

「我らが隊の後方5里、騎馬隊6千を確認!!」

 

その報告は、美空にとって目を見開かざるを得ないものだった。

 

「な、何ですって!?」

「旗印は四つ割菱!武田の軍だと思われます!!」

「んなっ・・・!」

 

その報告が本当なら、戦況はガラリと変わる。

各部隊の位置としては

 

    秋子、千

 柘榴、2千 松葉、千

 

    農民(合流後)、3千

 

    美空、2千

 

    武田騎馬隊、6千

 

となり、今までしていた挟撃を今度は自分がされることになるのだ。

いくら美空でも、2千の軍で6千を抑えることは難しいだろう。

 

「あ、あんのバカ光璃イイイィィィーーーーー!!」

 

美空の絶叫が戦場に響く。

その声は絶望よりも怒りを多く含んでいた。

 

 

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多くの馬の駆ける音。

他の勢力を大きく上回る練度の騎馬隊が、風のように速く疾走していた。

 

「ここまでは順調だけど・・・上手く行くかなぁ?」

「心配性だなぁ湖衣は。確かに天下の軍神が治める地だけあって、この辺の豪族や村の調略は遅れていたけど、それもようやっと済んで今まさに越後の龍の首元まで飛び込んだんじゃないか」

「一二三ちゃんはそう言うけど、うぅ」

「なぁに大丈夫さ。お屋形様も討ち取る必要まではないって言ってたし、気楽に行こうさ」

 

一二三と呼ばれた女性は気軽そうに。

湖衣と呼ばれた女性は不安そうに。

2人は自勢力の誇る騎馬隊と共に、迫る戦場へと駆けて行く。

 

(挟撃を挟撃で返される。越後の人修羅が今どんな顔をしてるのか、想像しただけでも楽しくなるってもんさ)

 

 

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天を仰ぐ美空を見て、剣丞は息を整えていた。

周りの光景がまるで額縁で飾られた絵画のように別世界に感じられる。

 

(もうすぐ武田の騎馬隊が来る・・・日本一と言われた騎馬軍団が)

 

剣丞は落ち着いた声を発した。

 

「美空、今すぐ農民たちを突っ切って他と合流だ。後退しつつ春日山城に人をやって援軍を呼ぼう」

「えっ?あ、あぁそうね」

 

美空は心底驚いた顔で剣丞を見る。

 

「武田の騎馬隊が来たらおしまいだ。それまでになんとか突破するよ」

「剣丞、どうしたの?妙にしっかりしてるじゃない」

 

まだ付き合いが短い美空でも、剣丞の微妙な変化に気付いていた。

 

「別に、昔兵法をたくさん教わったからね。どういう時にどうすればいいか、わかるつもりだ」

「確かにその言葉、嘘じゃなさそうね・・・いいわ。今回はあなたの判断に乗ってあげる」

 

というより、他に打つ手がないといった方が正しかった。

 

「柘榴たちは武田が来てることを知らない。俺たちのスピー・・・速さが重要になる。用兵は任せたよ」

「誰に物を言ってるのよ。心配無用だわ」

 

美空が不敵に笑い、丘を降りて指揮に回る。

 

(なんだろう、妙に頭が回るし言葉もすぐ出てくるな)

 

青い羽織を追いながら、剣丞は独り言ちた。

 

「七刀斎・・・」

『あぁ?なんだ、交代か?お優しい剣丞さまにゃやっぱ戦なんて「俺は――」

 

装備する7振りの刀。

腰にある柄を握り、一気に引き抜く。

仮面の下に決意の火が灯る。

 

 

「――俺は今日、人を殺すかもしれない」

 

 

 

説明
どうも、たちつてとです
個人ではなく軍団と軍団がぶつかり合う戦闘も書くのは大好きなのですが、それが上手く伝わるかどうか・・・というデジャブ的なことを思いながら投稿させていただきます

最近は1話1話書き終わるごとに「次はどうしようかなぁ」とか「こうしたら面白いかな?」とか「意外性を持たせたいなぁ」とか色々考えて楽しいです




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コメント
>>正宗サン様 恋姫でも私は同じ感想を覚えました・・・ww(立津てと)
>>mokiti1976-2010様 一二三みたいな人をギャフンと言わせたい人は多いのではないかと思います 私は踏まれたいですが(立津てと)
>>naku様 不幸ツン娘軍師のことも思い出してあげてください(´;ω;`)(立津てと)
>>本郷 刃様 俺TUEEEにはならないと思いますが、原作の剣丞君は少し頼りなさ過ぎて・・・ww すこし上方修正かけようと思いました!(立津てと)
この変な子達が戦国乱世に名を轟かせた名将達とは世も末だな…(正宗サン)
まさか伝説の名軍師の弟子ともいうべき人が敵方にいるなど武田方も思いますまい。(mokiti1976-2010)
剣丞に兵法を教えた人達は天下に名を轟かせた軍師たちですからね、並みの兵法ではなんとかしちゃうでしょう(本郷 刃)
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