黒外史  第九話
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黒外史  第九話

 

 

 袁紹と袁術が軍を動かし、十常侍を筆頭に宦官を虐殺、劉弁の即位を画策した。

 一刀は北郷軍の将の活躍と、董卓の策により劉協を帝位に就ける事で、袁紹軍と袁術軍を退ける。

 袁紹と袁術は反逆者の烙印を押されて洛陽から逃げ出し、他にも何進派の武将や

野望を抱く者が洛陽から姿を消した。

 

 

 その三日後。

 

「一刀様にお会いしたいと申す者が正門に来ておりますが、如何致しましょう?」

 

 高順が一刀の仕事部屋に報告に訪れ、直立不動で指示を待つ。

 一刀は劉協に頼まれ、今回の騒乱を処理する対策本部長の任に就いていた。

 他の外史での記憶を持つ一刀だから、戸惑う事無く仕事は進められた。

 しかし、高順の報告を聞いて疲れた顔で溜息を吐く。

 

「はあぁ……またかよ…………こっちは城内の片付けの指示出しで忙いってのに………」

 

 緊急で与えられた仕事部屋には、各部署から既に被害状況を書いた竹簡が届けられている。

 だが、それ以上に一刀へ挨拶に来る者の方が多かった。

 袁紹を退けた後、大慌てで転がる様に参内した皇甫嵩を皮切りに、

宦官文官武官が次々と一刀の下にやって来る。

 皇甫嵩は一刀の後見役だから当然なのだが、それ以外の殆どが一刀のこれから

手に入れるであろう権力が目当てだ。

 

『西園八校尉の中軍校尉だった北郷一刀は、今回の騒動で見事に協王子を守りきり、

皇帝の即位に尽力した事で次期大将軍に一番近い』

 

 こんな噂が瞬く間に広がり、正式に決まる前にコネを作っておこうという訳である。

 

「で、今度は何処の誰さんが挨拶したいって?」

 

 ウンザリと応える一刀に、高順は気の毒に思いながらも使命感にも似た気持ちで告げた。

 

「それが官吏ではなく、一刀様にお仕えたいという志願の若者でして、

襄陽から来た諸葛孔明と申す者です。」

 

「諸葛…………孔明?」

 

 一刀の頭に朱里の可愛い笑顔が浮かんだ。

 

(いやいや、待て待て!いい加減に学習しろ!姿形は正史ベースで考えるんだ!

…………しかし、この時期に向こうから現れるって事は朱里の要素も含んでるって

事だよな?しかも劉備が居るのに俺の所に来るってのも妙な話だ……………

取り敢えずどんな奴か会ってみるか…………)

 

 一刀は高順に案内してもらい部屋を出た。

 

(今までの事が有るからな。会話をする前に遠目でその姿を見て慣れる様にしよう。)

 

 物陰からこっそり覗くと、正門の広場には取り次ぎを待つ人が数人たむろしていた。

 ここで待たされるのは城勤めではない下級の役人や商人といった、身分の低い者だ。

 

「(どれどれ………んんっ!?)」

 

 その内のひとりに羽毛扇で口元を隠し、クリーム色のスーツを着てふんぞり返っている

背の高い男が居た。

 

「(一刀様、あの淡黄色の服を着た者が)」

「(いや、何故か一目見て判った………………俺は出掛けて留守だったと言って

追い返してくれ。)」

 

「(は?お会いにならないのですか?私も少しだけ話をしましたが、博識で頭が切れる者だと思いますよ。)」

 

 一刀は顎に手を当てて考え込んだ。

(これがSLGなら一も二も無く仲間にする所だけど………俺の勘があいつは危険だと

警鐘を鳴らしている!高順は何か気に入っているみたいだな………それっぽい事言って

納得させるか。)

 

「(いいか?これは採用試験だ。三日後にもう一度来る様に言ってくれ。

その時に『宮廷の文官採用の推薦状を書いてもいい』みたいな事も言うんだ。

あいつが心底俺に仕えたいのなら三日後に来るだろうし、ただ官職に就きたいだけなら

推薦状を受け取る筈だ。

高順が能力を認めた男なら、帝の力になるのだから損はしないだろ?)」

 

「(なる程、我らの様な忠誠心が持てるか試すのですな。では行ってまいります。)」

 

 一刀は高順を見送り、大きく溜息を吐いた。

 

(さてと、それじゃあ俺はわざと孔明の目に付く場所をウロウロして居留守だと

悟らせよう。これであいつは俺に仕えようなんて気が失せるに違いない。)

 

 

 

「はわわ!北郷様はお出かけされてしまったのですか。」

 

 羽毛扇で口元を隠した諸葛亮は驚きがっかりした…………風を装った。

 何しろ目の前に立つ高順の後方、かなり離れてはいるがフランチェスカの制服姿が

ウロウロ歩き回っているのだ。

 『天の御遣いの衣』として有名なその姿を、諸葛亮も数日前洛陽に来たばかりの時に

街で見かけて知っていた。

 

「一刀様はお忙しい身なのでな。済まんが三日後にまた来てくれんか?」

 

「三日後ですか…………」

 

「何しろ今回の騒ぎで宦官だけではなく、文官も大勢殺されたので人手不足だ。

何なら朝廷で働かぬか?推薦状を書くぞ。」

 

「いえ、私がお仕えしたいのは北郷様であって、漢王朝では有りません。」

 

 高順は周りに人が居る宮廷の正門で、堂々と言い放つ諸葛亮に度肝を抜かれた。

 

「それでは三日後に。」

 

 一礼して諸葛亮は踵を返す。

 

 が、

 

「おお、そう言えば高順殿は北郷様とどの様なご関係で?」

 

「あ?…………ああ、私は并州から一刀様と一緒に戦って来た。丁原様がお亡くなりに

なり、一刀様が後を継がれてからは腹心のひとりだと自負している。」

 

「いえ、そうではなく……………閨でのご関係は………」

 

「ば、馬鹿を申すなっ!わ、私ごときでは………その………出来ればいつかは捧げたいと

思っているが…………」

 

 諸葛亮の目が輝いた。

「成程!『北郷様×高順殿』がお望みなのでしゅね!♪」

 

「こ、こら!声が大きい!!」

 

「いえ!とても良いお話が聞けました♪三日後に高順殿へ土産を持って参りますので

お楽しみに♪」

 

 今度こそ諸葛亮は正門をくぐり、赤い顔をした高順を残して帰って行った。

 

 会話の内容までは聞こえなかった一刀は、諸葛亮が帰った事で胸を撫で下ろし、

仕事を再開する事にした。

 そして仕事の忙しさをバネに、諸葛亮の事を綺麗さっぱり頭から追い出した。

 

 

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 三日後。

 

「一刀様。諸葛孔明がやって参りました。」

 

「は!?」

 

 一刀は高順が何を言っているのか本気で解らなかった。

 しかし、五秒後に三日前の出来事を思い出す。

 

「来たの?ホントに?」

 

「はい、今は客室に通しております。」

 

「………………………………もしかしてあの時、俺の姿が見えなかったのか?……」

 

「はい?」

 

「いや、何でもない………………ところで高順、その手に持ってる薄い本は何だ?」

 

 高順の右手には見慣れない本、いや、有る意味一刀の見慣れた本が大事そうに

抱えられていた。

 表紙は手で隠されているが、見える範囲に『南郷一人×』と書かれている。

 

(南郷一人って俺の名前のカモフラージュかよ!)

 

「こ、これはその!ええと………………兵法の注釈書ですっ!!」

 

「ちゅうしゃくしょ…………」

 

「そ、そうです!諸葛孔明が己の才を我々が判断する材料にと持ってきた物ですっ!!」

 

「そうか……………」

 

(嘘なのは判っているんだけど、本の内容は絶対に見たくない!

薄い本一冊なら賄賂だと騒ぐ奴も居ないだろう………)

 

 一刀は本の事を不問にして、どうやって諸葛亮を追い返すか考える事にした。

 そこへ書簡の束を抱えた陳宮が現れた。

 

「何やら兵法の注釈書と聞こえましたが、何事なのですか、一刀さま?」

 

(そうだ!音々音に追い返す知恵を借りよう!)

 

「実は今、俺に仕官したいっていうのが来てて」

「ああ!高順殿が言っていた!そう言えば今日でしたな。なるほど、その者が

書いた注釈書ですか。軍師のねねが評価してやるのです。」

 

 陳宮は素早く高順の手から薄い本を奪い取ってしまった。

 

「うわ!こ、こら陳宮!」

 高順が慌てて取り返そうとするが、陳宮は小さい身体を上手く利用してすり抜け、

本を開いた。

 

「どれどれ?六韜か?三略か?どんな………注釈書………ですか………な………………」

 

 高順は顔を両手で覆ってしゃがみ込んでしまい、陳宮の顔は見る見る赤くなり、

一刀はげんなりした顔で見守った。

 

「これは……………………………孫子なのですっ!!」

 

「は?」「え?」

 

「な、中々見事な描写、いや注釈なのです!これはねねも同席して為人を確かめましょう!」

 

「いや、俺は会わないつもりなんだけど…………」

 

 一刀の漏らした呟きに、高順が驚いた。

 

「一刀様!?今日も会わないとは、また忠誠の覚悟を試されるのですか!?」

 

 一刀に詰め寄る高順を陳宮が服を引っ張って止める。

 

「そ、そのお考えは良いと思うのです!今の一刀さまには誰でも簡単に仕える事は

出来ないと知らしめる事にもなるのです!良からぬ者を近付けない予防策になるのです!」

 

 一刀も中々良い言い訳だと思い、陳宮の案に乗っかった。

 

「うん、音々音の言う通りだ!これで諦めるなら縁が無かったと云う事だな♪」

 

 高順は渋々従う事にした。

「では、次は何日後に来る様に伝えますか?」

 

「そこは音々音に任せよう。待たせすぎかと思うくらいでも構わないぞ♪」

 

「御意なのです!この陳公台にお任せなのですよ♪」

 

 陳宮は高順を引き連れて、意気揚々と客室に向かった。

 

「さて、俺は窓の外の、向こうからよく見える場所に行くとするか。」

 

 

 

「これを書かれたのは貴方なのですか、諸葛孔明殿?」

 陳宮は先程高順から奪い取った薄い本を卓の上に置いて示した。

 表紙には『南郷一人×高順 愛欲譚』と書かれている。

 

「はい♪これは私が書いた物です。高順殿との短い会話の中に北郷様への熱い

一途な想いが感じられ、妄想が溢れて止まりませんでした♪」

 

「は、恥ずかしい事を申すなっ!」

 高順の顔は先程から赤いままだった。

 

「おや、高順殿にはお気に召しませんでしたか?」

 

「い、いや、その……………実は大変気に入っている……………」

 

「なんや、順ちゃん♪実はムッツリ助平やったんやな♪」

 

 この部屋に来る途中で合流した張遼が、高順の後ろからチャチャを入れる

 

「…………順……羨ましい。」

 

 そして張遼の横に並んで呂布も居て、指を咥えている。

 

「んまぁ!高順ちゃんとご主人さまがこんなこんなこんなこんな事にいいぃぃぃい♪」

「ぐぬぬぅ!けしからん!けしからんがとても羨ましいぞおおおぉぉぉぉおおおっ!!」

 

 更に貂蝉と卑弥呼も同席し、卓の上の本を二人で開いて目を血走らせていた。

 その光景を孔明は笑って眺めた後、本題を口にする。

 

「所で、北郷様は?」

 

「う、うむ!済まぬが一刀様は今日も忙しくてな…………」

 嘘をつく後ろめたさに、高順は孔明の顔を見ないで返事をした。

 

「左様でございますか…………」

 残念そうに応える孔明を気の毒に思った高順が思い切って顔を上げると、孔明は窓に目を向けている。

 会話の切掛にと高順も窓の外に目を向けた。

 

「ぶふっ!」

 

 窓の外。生垣の向こうの庭で一刀が万里亜と遊んでいる。

 事件以降、日中に表に出られなかった万里亜は喜び、全力で一刀に飛びついて来る。

 一刀が万里亜を受け止めては放り投げ、着地した万里亜が走ってまた飛びつくのを繰り返していた。

 更にその様子を、十常侍の養子の亜璃西たちが微笑んで見ていた。

 

 それは『稚児と戯れて悦に入る北郷一刀』にしか見えない。

 

「北郷様がお忙しいのであれば無理は申せません。後日、また改めて出直しましょう。」

 

「そ、そうか!?す、済まぬな…………」

 何事も無かった様に振舞う孔明に、高順は冷や汗を流しながら応えた。

 

「所で皆様。この高順殿に差し上げたのと同じ様な物を、皆様を主役に書かせて頂きたいのですが、よろしいですか?」

 

 孔明の言葉に高順以外の五人の目が、車のLEDヘッドライトの様に輝いた。

 

 それを了承と受け取った孔明は深く頭を下げる。

「では六日後にまた参上致します。」

 

 孔明が出て行った後、貂蝉、卑弥呼、呂布、張遼、陳宮は妄想の世界に旅立っていた。

 高順は一人、窓の外を眺め溜息を吐いた。

 

「これが天の国のやり方なのだろうか?…………」

 

 窓の外では一刀が万里亜に頭を齧られていた。

 

 

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 所変わって荊州は長沙の城。

 

「はわわああああああああああああああっ!!?」

 

 ひとりの若い文官が仕事部屋で手紙を広げ、椅子から立ち上がって叫んでいた。

 

「ひゃわわっ!諸葛瑾さん!?どうしたんですか一体!?」

 

 一緒に書類を片付けていた同僚が驚き椅子から転げ落ち、四つん這いで床から声を掛ける。

 

「し、失礼、魯粛どの…………手紙の内容が信じられず、つい声をあげてしまいました………」

 

 諸葛瑾は謝った後も手紙の内容が信じられず、もう一度手紙に書かれた文字を目で追った。

 

「ああ、さっき届いた弟さんからの手紙ですね?ご実家で何か有りましたか?」

 

 魯粛は四つん這いのまま諸葛瑾の机へ移動し、手紙を覗き込む。

 

「手紙を寄越したのは下の弟の均なのですが…………上の弟の亮と洛陽に向かうと………」

 

「はあ………洛陽の都で見聞を広めるんですね。良い事だと思いますけど?」

 

「普通に考えれば、黄巾の乱も治まり良い時期だと思います。問題は弟の亮本人で………

あいつは変人なんです!」

 

 諸葛瑾は拳を握って真顔で言い切った。

 

「変人?それを言ったら、私も故郷では狂人と言われましたから心配要らないですよ♪」

 

 魯粛は故郷で苦しむ領民に、蔵をひとつ空にするほど施しをした事があった。

 それを知った親族が、『あいつは家を潰す気か』と大騒ぎになったのだ。

 

「魯粛どのの様な義による行動なら私は大いに賛同します。しかし亮は………孔明は………」

 

 諸葛瑾の顔が一気に暗くなった。

 

「以前こちらに仕官する様に手紙を書きましたら………………………………………

『仕官したくないでござる』『仕官したら負けだと思う』などと訳の解らない返事を

寄越してきました!!」

 

「…………………はあ……………………」

 魯粛の目は点になっていた。

 

「家事の一切を下の弟に任せて、自分は部屋に引きこもって本ばかり読んでいる!

それでいて『管仲、楽毅にヲレはなる!』と言ったり、

『現実なんて愚者の指す象棋と同じ』と言ったりと、支離滅裂で訳がわかりません!

そんな亮が自分から洛陽に行くなどと、一体何が有ったと言うのか………」

 

「ええと………ひとつ判る事は、諸葛瑾さんがその変人の弟さんを長沙に仕官させて、

孫堅さまの軍を弱体化させるつもりだったという事ですね!」

 

「違いますっ!!孔明は変人ですが頭は私より良いんです!

あいつが孫堅様を直接見れば、王の器に感銘してまともになると思ったからです!

それに、あいつも塾の師より『伏龍』と評された程の才の持ち主!

孫堅様のお役に立つに違いありません!!」

 

「なぁんだ、そうですかぁ♪諸葛瑾さんは弟さんの自慢がしたかったんですね♪

てっきり何処かの間者ではと疑ってしまうところでしたぁ♪」

 

「……………色々と言いたい事が有りますが………もういいです、それで。

そんな弟が何故、洛陽まで旅をしようと思い至ったのか?その方が気掛かりですし。」

 

「噂の『天の御遣い』を見に行ったのではないですかぁ?」

 

「…………『天の御遣い』…………孫堅様が洛陽からお戻りになって、何度も口にする名ですな。

『江東の虎』が気に入る程の人物………ですか………」

 

「孫策さまと周瑜どのも目にされた筈。話を聞かれてみてはいかがですかぁ?」

 

 孫策、周瑜、魯粛、諸葛瑾は歳が近く、何かと集まっては話をする仲になっていた。

 

「孫策様の勘か…………理屈で判らないのだから頼らせて頂きますか。」

 

 この時の諸葛瑾は、孔明が本当に『天の御遣い』目当てで洛陽に赴いていたとは、本気で考えてはいなかった。

 

 

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 孔明が二度目の訪問を終えてから六日後。

 約束の日となり、三度孔明は宮廷の正門を訪れていた。

 そして今日はひとりではなく、弟の諸葛均を伴っている。

 

「しゅ、朱里お兄ちゃん………この格好、は、恥ずかしぃ………」

 

 諸葛均は水鏡塾の制服を着ていた。

 つまりそれは本来の恋姫である朱里と同じ服である。

 いや、スカートの丈が朱里の物よりも更に短かった。

 諸葛均は今も顔を真っ赤にしてスカートの裾を引っ張り、下着が見えない様に努力している。

 実に完璧な『デビュー直後の男の娘』の仕草だ。

 

「はっはっは♪その恥じらう姿が可愛いですよ♪」

 

 孔明はいつもの羽毛扇で口を隠して弟を眺めていた。

 

「これなら北郷様の心を掴む事が出来るでしょう。」

 

「はわわ!?それってどういう事ですか!?」

 

 実の兄の言葉からは嫌な予感しか感じない。

 それまで赤かった顔が瞬時に青くなった。

 

「((桃桜|ゆすら))は何も気にせず、北郷様の言う通りにしていればいいんですよ♪」

 

 桃桜とは諸葛均の真名である。

 そして孔明の言葉から、兄は自分を貢物として連れてきたと理解した。

 出来れば理解したく無かったし、これが夢だと思いたかった。

 そんな現実逃避をしていたので諸葛均は背後の気配にまるで気が付かなかった。

 

「諸葛亮!?何故貴様がここに居るっ!!」

 

 

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 一刀は高順と共に客室へ向かい廊下を歩いていた。

 

「一刀様、諸葛孔明の忠誠心はもう疑いようが有りませんよ♪」

 

 高順は孔明が一刀へ会いに来た事を素直に喜んでいる。

 

(くそっ!前回あいつが帰った後で高順に『次来たら無条件で迎え入れる』なんて言わなきゃ良かった。)

 

 一刀は未だ納得していなかった。

 

(だが、まだ手は有るぞ!左慈、于吉、董卓があいつを仲間にするのを拒めば良いんだからな。三人を呼ぶ様に指示を出さないと………)

 

 そんな事を考えながら客室の扉を開く。

 

「お前が諸葛亮かあ♪面白え♪」

「これは頼もしい味方が増えましたね。」

 

 董卓と于吉が孔明とにこやかに挨拶をしていた。

 それを見た一刀の握っていた扉の取手がミシミシと音を立てる。

 その後ろから左慈が近付き声を掛けた。

 

「この外史の諸葛亮は頼りになりそうじゃないか、北郷。

さっきは諸葛均を諸葛亮と間違えたが、こいつならあの弟がいても気にならん♪」

 

 珍しく上機嫌な左慈に、一刀は訝しんだ。

 

(こいつら何を企んでやがる?)

 

 警戒しながら客室に入ると、中には貂蝉と卑弥呼、呂布、陳宮、張遼が既に揃っている。

 そんな腹心の揃う中で、一刀と孔明は遂に正面から対峙した。

 

「初めまして、北郷一刀様。私の姓は諸葛、諱は亮、字を孔明と申します。

荊州は襄陽の隣、隆中から参りました。

兄は長沙太守、孫文台様に仕えておりますが、私の目には北郷一刀様こそが

この乱世を治める方とお見受け致しました。

もし私を北郷様の臣にお加え下さるのなら、私の真名、『朱里』と弟の身を御預けする所存にございます。」

 

 包拳を掲げ、深々と頭を下げる孔明。

 しかし、一刀はその言葉の最後の部分に引っ掛った。

 

「弟を………預ける?」

 

「はい。こちらが私の弟の諸葛均でございます。」

 

 諸葛均は兄に促され、隠れていた物陰からおずおずと姿を現した。

 その姿に一刀は目が零れ落ちる程見開き、顎が外れる程口を開いて驚いた。

 

「はわわ………しょ、諸葛均でしゅ……あう、かんじゃった………」

 

 

 それはどう見ても一刀の知る『朱里』だった。

 

 

(一体何がどうなってるんだ!?この朱里は朱里じゃなく諸葛均で、あっちの諸葛亮の真名が朱里で、でも見た目がクリームな孔明で……………うがあああああああ!訳わかんなくなってきたあああああああああああっ!!)

 

「どうですか、桃桜。初めてお会いした『天の御遣い様』は?」

 

 孔明の問に諸葛均は顔を赤くして俯き、上目遣いで一刀を見た。

 

「は、はい…………その……想像してたの違って…………とても、その……素敵な方でしゅ………はわわ、またかんじゃった…………」

 

 一刀の頭の中は、目の前に『朱里が居る』事でいっぱいになっていた。

 

 動かない一刀の横から、于吉が進み出る。

「どうやら異存は無い様ですから、諸葛孔明。貴方は今から北郷一刀の家臣です。

私の名は于吉。共に北郷一刀を支えて行きましょう。」

「はい、宜しくお願い致します。どうか私の事は『朱里』と真名でお呼び下さい、于吉さま♪」

 

「俺の名は左慈。お前とは気が合いそうだ。よろしくな。」

「はい、こちらこそ。左慈さま♪」

 

「オレの名は董卓仲穎。真名は月だ。オレは一刀の家臣じゃなく同盟者だが、お前ともヨロシクしてやんぜ♪」

「はわわ!貴方が涼州の董卓様でしたか!こちらこそお引き回しの程、宜しくお願い致します………所で一刀様とのご関係は?」

「ばぁか、野暮なこと訊くんじゃねえよ♪」

「成程、成程♪これは失礼いたしました♪」

 

 一刀が混乱して動けない中、孔明と管理者三人は勝手に盛り上がっていく、

 諸葛均は動かない一刀が心配になり、勇気を出して近付き声を掛けた。

 

「あの…………ご主人さま、大丈夫ですか?」

 

(ご主人さま、ご主人さま、ご主人さま、ご主人さま、ご主人さま…………………)

 

 一刀の頭の中でエコーを掛けたその言葉が山彦の様に繰り返される。

 

「朱里いいいいいいいいっ!!」

 

 遂に限界を超えた一刀は諸葛均に抱き付いた。

 

「はい、何か御用でしょうか?」

 

 一刀の視界を孔明のドアップが遮った。

 

「お前じゃねええええええええええええええっ!!」

 

「はわわ、朱里は私の真名ですが?おお!ほら、均。ちゃんと真名をお預けしなさい。」

 

「は、はい!お兄ちゃん!僕の真名は桃桜です、ご主人さま♪」

 

(見た目が『朱里』なのにボクっ子!?……………そうだ、この子は孔明の『弟』なんだ。

つまりこの子は完全な『男の娘』かっ!!)

 

 一刀の中の『朱里』と『桃桜』の違いが、一刀を徐々に現実へと戻していく。

 

「それでは、ご主君。この諸葛孔明がご主君に天下を取らせて、人々が『水魚の交わり』と羨む仲になってみせますよ♪」

 

 孔明はまた羽毛扇で口元を隠し、流し目で一刀を見た。

 

「『水魚』じゃなく!俺とお前は『水と油』だっ!!」

 

「はわわ!それは…………上と下に重なる関係という事に…………」

 

「ちっがあああああああああああうっ!!!」

 

 左慈、于吉、董卓は、一刀と孔明の掛け合いを、実に楽しそうに眺めていた。

 

 

 そして貂蝉と他の五名は………孔明から貰った薄い本を、目を血走らせて読みふけっていた。

 

 

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 丁度その頃。

 またしても洛陽の城壁の上に立つ、一人の姿が在った。

 

「ふっふっふ。感じるぞ!混沌と戦乱の匂いをっ!

 

そして運命によって集う戦士の魂をっ!!

 

この洛陽を中心に、美々しき蝶が!

 

『マスク・ザ・パピヨン』が乱舞する時がやって来たのだっ!!

 

あーーーーーーっはっはっはっはっはっはっはっ!!」

 

 

 

 

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あとがき

 

 

この孔明ですが、

『クリーム』と聞いて判らない方は

ニコニコ動画の『中華武将祭り』をご覧下さい。

 

ご存じの方はこいつが本性の極一部しか見せていないとお判りでしょう。

本家『クリーム』にどこまで迫れるか判りませんが

頑張りたいと思います。

 

はわわ三兄弟

特に諸葛均ですが、本家『朱里』のカワイイ部分のみを抽出したキャラにするつもりです。

真名の桃桜は『朱』よりももっと淡い色をイメージして付けました。

 

 

魯粛

『恋姫†英雄譚』からの第二弾です。

ひゃわわ軍師って…………。

 

 

作品紹介の『???』

 

答えは趙雲子龍でした。

以前投稿イラストで見た『マスク・ザ・パピヨン』のいい笑顔が頭から離れません。

 

説明
今回はどこにもシリアスが有りません。

初登場キャラ:諸葛亮・諸葛瑾・諸葛均・魯粛・???(シークレット)

シークレットはあとがきで答えを出します。
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コメント
北山翔馬さん>漢女たちも期待している事でしょう(笑) かなりの『キレ者』にしたいと思います(笑)(雷起)
北山でございます。そこの漢女たちよ。たぶんその御方はネタに事欠かないだろうから、思う存分楽しめますぞ(笑) そして少しどころか、かなりの変た……もとい切れ者がやってきますね(笑)(喜多見功多)
qishengさん>勝ちとか負けとか有りません。みんなと一緒に新しい世界に踏み込めば、怖いものなど有りませんw(雷起)
水と油で上と下の関係、、 おー うまいと思った自分は負けなのかなぁ? (qisheng)
禁玉⇒金球さん>クリームをお尻、いえ、お知りではありませんか。お知りでなくても楽しめる様に書きますが、予備知識としてお知りの方がより楽しめると思います。 やはり『尻ass!』とタグがあるのですからお尻で逝かせたいですねw(雷起)
nakuさん>愛※!確かにそうですねww 尻assネタが今回無かったですね、何とかしなければ! 愛※が愛?に進化するかもw(雷起)
nakuさん>自分も「一刀は男の娘相手ではそろそろげんかいかな?」と思っていますw 孔明にはまだまだキモくなってもらいますw この世界の無職変態は高い所が好きみたいなのでお役人さんが大変ですねww(雷起)
さすらいのハリマエさん>ですよねーw(雷起)
殴って退場さん>自分も思い付いた時にそう思いながら採用しましたww(雷起)
クリームが何なのかは存じ上げませんが知らない方が良いのでしょうか?。そろそろいい加減「ヤらないか?」ではなく「ヤッた」になりそうで恐ろし楽しみです、今の所『尻ass!』を名乗っていいのは天和のみですねケツからグッと逝きましょう。(禁玉⇒金球)
混沌の極みだよね♪(黄昏☆ハリマエ)
クリームの姿に朱里の口調…。不気味としか言い様がないなww。(殴って退場)
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