戦国†恋姫〜新田七刀斎・戦国絵巻〜 第11幕
[全13ページ]
-1ページ-

 第11幕 内乱勃発

 

 

 

 

 

 

 

 昼過ぎ 春日山城 

 

先の評定から数日が経ったある日。

 

「報告!本庄どのら開戦派の将が謀反を起こしました!!」

「ようし鎮圧!」

「「「「「はっ!」」」」」

「早いよ!」

 

まるで台本でもあるかのように動く美空や諸将たちに剣丞は突っ込まずにはいられなかった。

 

「何よ七刀斎。兵は神速を尊ぶのよ?」

「いやわかってるんだけどさ。わかってるんだけどさ」

 

場馴れしすぎだろ、と言おうと思ったが知っているのでやめておいた。

 

「御大将、今届いた報告によると敵は4千の兵を率い西の山の麓に陣を敷いているもようです」

「ありがとう、ご苦労様」

 

秋子の報告を受け、すぐさま出陣の支度を整える。

 

「兵は?」

「はいっすー!急だったからあんま集まらなかったっすけど、5千用意できたっす」

「そんくらいいればじゅうぶんよ!」

 

柘榴も松葉も、既に戦闘準備は万端といったところだ。

剣丞もトレードマークである制服の上からホルスターを身に着け、臨戦態勢を整えた。

 

そろそろ出陣かと思われた時、美空から剣丞に唐突な知らせがあった。

 

「七刀斎、今回の戦であんたに500の兵を預けるわ」

「え、ええっ何で!?」

 

美空の護衛に専念だと思っていた剣丞は面を喰らっていた。

 

「今回は私の護衛は必要ないからあんたの兵の指揮が見たいと思ってね」

「そんなんしたことないぞ!」

 

兵の指揮はおろか戦すら慣れていない現代人の剣丞にとっては無理難題といってもおかしくはない。

しかし美空はそれでも剣丞に兵を預けてきた。

 

「あんたなら大丈夫よ。それに隊を率いて戦場を駆け巡るなんてそうそうできることじゃないと思うわよ」

「でも俺に部隊を率いて何をしろってんだよ。なにもできないぞ?」

「遊撃よ。困った味方がいたら助けたり何かあったら私に報告したり・・・まぁ自由にやってみなさいな。何もしなくて見ているだけでもいいわよ」

 

どうやら戦場に慣れてほしいというのは本当のことであるようだった。

 

「うーん・・・じゃあわかったよ、やってみる。兵はどこにいるんだ?」

「大手門のすぐ傍に警備小屋があったでしょ?その前に待機させてあるから」

「わかった。顔合わせてくるよ」

 

頑張ってね、という声を背中に受け、剣丞は自分の部下となる兵達を見に行った。

 

「果たしてあいつらの手綱を上手く取れるかしら?楽しみだわ」

 

美空は黒い笑みを浮かべながら自分の隊の準備を始めるのだった。

 

 

-2ページ-

 

 大手門警備小屋前

 

その場所に向かうと、美空が言っていた通り500人ほどの兵隊が剣丞を待っていた。

どんな者達だろうと内心ウキウキしていた剣丞が彼らに近寄る。

 

「えっと、俺が新田七刀斎だけど君達が美空に言われた・・・?」

「「「「「あぁん!?」」」」」

 

500人が一斉に剣丞を睨む。

あまりの迫力に一瞬チビりそうなった。

 

(み、美空ーーーーー!!聞いてないぞこんなのーーー!!)

 

剣丞がそう思うのも無理はない。

待ち受けていた500人の部隊は誰もがガラの悪い、現代で言えば不良やヤクザのような雰囲気を醸し出していたからである。

更に隊員のほぼ全員がガチでムチな筋骨隆々のいかにも武闘派な連中ばかりなのだ。

この光景に剣丞は屋敷にいた頃、姉だか兄だかわからない筋肉でパンツ一丁の毎週日曜6時半からよく聞くような声をした怪物も一緒にいたことを思い出した。

これがハンマー投げや重量上げなどのパワー競技のオリンピック選手の寄せ集め軍団だと言われても納得してしまうだろう。

 

「テメェ何者だ?」

 

その中の1人が前に出て剣丞を見定めるように尋ねる。

 

「あ、あぁ俺は新田七刀斎で」

「んなこたぁどうでもいいんだよ!何でここにいるんだ?」

 

早くも萎縮しそうだった。

 

「いや、俺は美空に言われて・・・」

「あぁ?御大将に・・・?」

 

美空の名を出してようやっと殺気が10分の1ほど収まる。

 

「じゃあテメェが新しい俺らの頭か」

「まぁ、そういうことに・・・なるんじゃないかな」

 

仮面に刀を7本装備という出で立ちをしているのにも関わらずお互いの恐ろしさはどっこいどっこいであった。

 

「そうか、わかった」

 

すると納得したようで、一斉に浴びせかけられていた殺気がスッと止んだ。

 

「だが俺達はあんたを頭だって認めたわけじゃねぇ」

 

と思ったら再び殺気が剣丞を貫く。

 

「そうだそうだ!」

「俺達を縛る奴なんてこの世にいねぇ!」

「殺ッちまえェッ!!」

 

出陣の準備で城中が騒がしいが、ここだけは違うベクトルで騒がしかった。

 

(おいおいどうすりゃいいんだよ・・・まさか美空の奴、これを見越して)

『ヘヘッ、いいじゃねぇか』

(七刀斎?)

『コイツら全員のしゃあお前も頭だって認められるんじゃねぇか?』

(あ、あのなぁ、よく見てみろよ。あんな丸太みたいな腕にラリアットでもされたら体千切れちまうぞ)

『鬼も同じような体格してんだろ。逆にこいつらをうまく使えば鬼にも対抗できるかもしれねぇ。オラ頑張れ』

 

だが七刀斎の言うことももっともだった。

このようなオラオラ集団だからこそ、力での統率も必要だ。ならばその力を見せつければいい。

 

「わかったよ・・・この中で一番腕の立つ奴はいるか?」

 

剣丞がそう声をあげる。

その瞬間、飛んでいた罵詈雑言が一瞬で止んだ。

 

「どうだ、この中で一番強い奴に俺が勝てばお前達は俺の事を認めるか?」

 

挑発するように言う。

すると予想通り、1人の男が前に出てきた。

男の体は見ただけで他の者よりも筋肉量が違っていることがわかるほどだった。

 

「なら俺が相手になろう。いいな?」

 

男が振り返り他の隊員達の確認をとる。

すると「いいぞ!やれやれ!」といった喧騒が返って来た。

 

「よし、じゃあ始めようか。そちらからどうぞ」

 

敢えて男に先手を譲る。

ここは完全なる勝利を見せつけてやらないと部下は付いてこない。そう思った。

 

腰にある刀を鞘ごとホルスターから抜く。

 

(この体格なら鞘くらいだったら大丈夫だろ)

 

男はしっかりと刀を抜いていた。

剣丞と同じくらいの長さの刀を構えているはずなのに、彼が持つとまるで脇差のように感じてしまうところもまた恐ろしかった。

 

「なら遠慮なくいくぜ!」

 

男がその体格に見合わないスピードで踏み込んでくる。

一瞬その動きに驚いたが、剣丞はすぐさま反応した。

 

「おうらぁッ!」

 

刀が振り下ろされる。

しかし剣丞はヒョイッと横に避けて見せた。

「おおぉ」という感嘆の声が聞こえてくる。

 

「チッ、すばしっこい。オラァッ!!」

 

次は横薙ぎだ。だがこれもジャンプして避ける。

 

「なッ、た・・・高い!」

 

そのジャンプは自重や刀の重さを無視した、一気に2メートル強ほどの大ジャンプだった。

 

「うおおおおぉぉぉッ!!」

 

剣丞が鞘に収めたままの刀を振りかぶる。

男の方は防御すべく刀を上に向けて横向きに構えていた。

 

振り下ろし、相手の刀をぶつかり合うと、男の方の刀が砕けるように折れた。

 

「何ィッ!?」

 

そのままの勢いで男の肩口に鞘をめり込ませる。

男は唸ると、その場にしゃがみ込んだ。

 

「俺の勝ちだな」

 

剣丞が刀を肩に担いで堂々と宣言した。

 

 

-3ページ-

 

 数分後

 

出陣の準備を終えた美空が様子を伺いに大手門へと向かっている。

その顔はいたずらっ子のような笑顔で満ちていた。

 

「さぁ〜て、剣丞はどうなったかなぁ〜もしかして反発されてボロ雑巾みたいになってるとか!」

 

スキップ気味に警備小屋へと着く。

 

「どう剣丞、具合は――」

 

「はい、じゃあ50人1組の隊を作ってー」

「「「「「ハイッ!!」」」」」

「組頭は列の先頭に立ってね」

「「「「「ハイッ!!」」」」」

 

 

ルンルン気分でやって来た美空を待ち受けていたのは、500人がビシッと隊列を組んで並び、剣丞の指示を受けている光景だった。

 

「なっ・・・なっ・・・ええぇッ!?」

「あ、美空」

「「「「「御大将、チーッス!!」」」」」

 

あまりに予想外な展開に美空があんぐりと口を開ける。

威勢の良い500人の挨拶と共に剣丞が美空のもとへと歩いてきた。

 

「どうしたの?そんな顔して」

「い、いやいや、あんたこそこいつらどうやって手懐けたのよ!?」

「えっ?そりゃあ話し合ってだけど」

「話し合ってぇ!?」

「だよねー?」

「「「「「ハイッ、新田の旦那は俺達の頭ッス!!」」」」」

「だってさ」

 

剣丞が勝利した後、「俺も俺も!」といった感じで数人が腕試しを申し込んできたが、これは暴れたかったのか同族とじゃれあいたかったのか七刀斎が出しゃばり、まとめてボコボコにしていた。

 

「そ、そう・・・」

「それでどうしたの?もう出陣とか?」

「え、ええ!出陣よ!」

 

本当は泣きを見ているであろう剣丞を見に来るつもりだったとは言えず、美空は渋々全軍に出陣の指示を出すのだった。

 

 

-4ページ-

 

 春日山城西 岩場を臨む平原

 

「本庄達が陣を敷いてるのはあの岩山の麓よね?」

「はい。しかしあそこは別に要所でもなく守るに難い場所のはずですが・・・」

「どんな作戦があるかわからないわ。慎重に軍を進めるわよ」

「はっ、全軍に伝えさせます」

 

先鋒を柘榴と松葉に任せ、本陣である美空と小荷駄隊を率いる秋子は進軍方針を話し合っていた。

 

 

そんな中剣丞は遊撃ということもあって先鋒と本陣の間を進んでいた。

 

「旦那、敵の待ち伏せを警戒しつつ慎重に進め。だそうですぜ」

 

チンピラ風(大半がそうなのだが)な足軽が美空の指示を伝えてくる。

 

「わかった・・・皆!」

 

急に声を張り上げた剣丞を、500人の部隊全員が見た。

 

「俺達は七刀斎隊となってこれが初陣だけど、誰も死ぬことなく城に帰るぞ!」

 

誰もが静かに聞いている。

しかし、口々にこう言う者もいた。

 

「帰るっつってもなぁ・・・」

「俺達は旦那や他の将達と違ってただの徒士だし」

「減ったらまた補充される矢みたいな存在なんすよ、俺達」

 

聞くと彼らは元々柘榴の部隊だったようで、本来なら千人いたとのことだった。

しかし、度重なる戦によりその数は段々と減っていき、最終的には半分になってしまったというのだ。

 

「お、おいおい。なんでそんなこと・・・」

「勿論、柘榴の姐さんや御大将がどうこう言うつもりじゃねぇ。俺達は元を質せば人として数えられない足軽なんだからよ」

「けど俺達だって生き残りてぇんだ」

 

七刀斎隊らしからぬ辛気臭い雰囲気が隊に広まる。

 

(なんで、皆同じ人間なのに・・・)

 

剣丞は、どうにかして頭らしいことがしたかった。

 

「なら俺が守ってやる!」

 

隊員達は光でも見るように馬上の剣丞を見上げた。

 

「お前達は生きている人間だ!消耗品でもなんでもない!」

「旦那・・・」

「だから皆揃って生きるんだ、いいな!?」

 

隊員の中には感極まってむせび泣く者まで出てくる。

剣丞の言葉は隊員達の心を打っていた。

 

「そんなこと言ってくれた大将はあんたが初めてだ・・・!」

「一生着いていくぜぇ!」

「「「「「オオオオォォォーーーー!!」」」」」

 

 

「なんか前の方でうるさいのがいるわね・・・柘榴の隊?」

「あれは七刀斎さんの隊ですね」

「まったく、ちょっとは静かにできないのかしら?」

「それにしても、あの荒くれ集団をまとめるなんて・・・七刀斎さんは凄いですね」

「幕府のお墨付きだからね、当然でしょ」

 

秋子をはじめとした事情を知らない将達には幕府から斡旋させられてきたという設定を貫き通している。

それに加えて先の武田との小競り合いでの実績もあって、剣丞の実力は家中で認められるところであった。

 

「御大将、そろそろ例の場所です」

「わかったわ。なら始めましょう」

 

美空は並足の馬の上に器用に立って高らかに声をあげた。

 

「長尾の武士たちよ!この内乱を鎮めて我らが越後の地を盤石なものとする!各々励め!」

 

その声に鬨の声で返す諸将や兵隊達。

いよいよ戦いが始まろうとしていた。

 

 

-5ページ-

 

 謀反側 本陣

 

「フン、青二才共が来たか」

 

本庄をはじめとした開戦派の将が卓を囲むように座っていた。

卓の上には大量の袋が乗っている。

 

「本庄どの、これが南蛮僧から手に入れた、飲んだら瞬時に千人分の力を得るという丸薬ですな?」

「うむ、そうだ。ザビエルと名乗る南蛮僧がしっかり4千人分を置いていきおったわい」

「ほら北条、お前の部隊にも飲ませておけ」

「は、はい・・・」

 

北条高広は受け取った隊の人数分の丸薬が入った袋をじっと見る。

その顔には困惑が浮かんでいた。

 

「あのー本庄どの、本当にこんな方法でいいんですか?」

「何を言う北条。御大将などと言われて図に乗っている小娘の鼻を明かし、越後をあるべき姿に戻すにはこの方法しかないのだぞ」

「そうだそうだ、今更どうした高広」

「では我らは足軽達に呑ませて来よう」

 

諸将は次々と陣を出ていき、残されたのは本庄と北条のみとなった。

 

「どうした北条、行かぬのか?」

「俺は反対です!このような外法で越後を救おうなど・・・!」

「ほう、では裏切るのか?」

 

本庄が剣を抜き、立ち上がる。

 

「違います!間違った道を歩いている本庄どのをお諫めしようと――」

「たわけが!」

 

北条が反応する間もなく、本庄は一瞬で間合いを詰め、北条を斬り捨てた。

 

「なっ、何故このような・・・強さ・・・」

「1粒だけでこの効き目・・・安心しろ北条、お前の部隊には拙者が呑ませてやる」

 

本庄の笑い声と共に、陣の周りにも笑い声と呻き声が響き渡る。

しばらくして、西の山の麓から人間はいなくなった。

 

 

-6ページ-

 

「報告!前方5里に敵部隊を確認!」

「5里?意外と動きが遅いわね・・・」

 

意気揚々と進む長尾勢。しかし、その勢いはすぐに削がれることとなった。

 

「報告!放っていた草が全滅しました!」

「全滅・・・!?」

「あ、いえ・・・1人帰って来たんですけど・・・」

「すぐ呼びなさい」

 

やってきた草の唯一の生き残りは、片腕を失っていた。

 

「お、御大将・・・化け物です。敵は人間ではありません!」

「どういうこと?」

「あの体躯にあの牙や爪・・・あれじゃまるで・・・・・・」

 

美空が続きを促してもその草から反応が無い。

見ると草は既に絶命していた。

 

「どういうこと・・・?まるでこの前の・・・」

「報告!柿崎衆が先行した模様です!」

「ッ、あの馬鹿!また独断先行して・・・今すぐ呼び戻しなさい!」

「ハッ!」

 

戦の経験はまだまだ浅い方だが、美空には何ともいわれぬ違和感と不安感に支配されていた。

 

「御大将?」

「多分間に合わないわね・・・秋子、剣丞を呼んで」

「りょ、了解」

 

使番をやってすぐ、剣丞が馬に乗ってやってきた。

 

「どうしたんだよ、美空」

「七刀斎、変なのよ。本庄は機敏な部隊運営で他国にも知られてるんだけど、その動きも遅く、柘榴も勝手に先に行っちゃったわ」

「相手の調子が悪かったんじゃないの?あと柘榴ならそれも不自然じゃない気がするんだが」

「それに、気になる報告もあったの」

 

報告しながら絶命した草の話をする。

 

「それって・・・鬼じゃないか!」

 

どうやら剣丞にはわかったようだった。

 

「でも、なんで鬼が?」

「それはわからないわ。私達本隊はこのまま進むから、剣丞は松葉と一緒に柘榴の援護に向かいなさい」

「わかった!」

 

 

急いで馬を走らせ、隊と合流する。

 

「皆、走るぞ!」

「旦那、どうしたんですかい?」

「松葉と合流して柘榴を助けに行く。もしかしたら敵は人間じゃないぞ」

「人間じゃないって、どういうことですか?」

「話は後だ。駆け足!!」

 

 

人数が少ない分機動力のある七刀斎隊は他よりも速く動き、松葉の隊と合流した。

 

「松葉!」

「スケベ、どうした」

「柘榴が危ない。急いで救援に行こう!」

「?柘榴が・・・?」

 

松葉は首を傾げていたが、美空の命令だという旨を伝えると、首を縦に振った。

 

(鬼は間違いなく足軽より強い!柘榴の部隊は確か千だったな・・・間に合うか?)

 

もし4千の敵がすべて鬼となっていたら、柘榴の騎馬隊千ではとても太刀打ちできないだろう。

自分達がいかに速く動けるか、それが重要だと思えた。

 

「七刀斎隊、疲れてるだろうけどもっかい駆け足だ!一気に前線まで行くぞ!」

「「「「「ヘイッ!!」」」」」

 

威勢の良い返事を聞き、剣丞は再び山に向かって馬を駆けさせた。

 

 

-7ページ-

 

 岩場

 

柘榴もまた、迫る暗雲の存在を感じていた。

 

「柿崎さま!前方に変な奴らがいます!」

「変な奴らっすか?」

 

副将からの報告を聞き、柘榴は一旦部隊を止めて様子を見た。

 

「な、なんっすかあれ!?」

 

遥か前方に見えた軍隊。

それらは人というにはあまりにシルエットが大きかった。

 

「着ている甲冑の家紋は本庄どのの家のものです」

「本庄のオッサンはいつから化け物になったっすか・・・」

「どうします?」

 

腕を組んで考え込む。

敵の数は4千だという。もし目の前の軍がその4千人の軍隊なら、敵はかなり強いだろう。

 

「・・・柿崎衆、突撃準備っす!」

「ええっ!?あの中にですか!?」

「虎穴に入らずんば虎児を得ず。手柄を得たけりゃ突撃っすー!」

 

柘榴率いる騎馬隊千は、拭いきれない不安の中、ゆっくりと動く異形の軍勢に矢の如く突撃していった。

 

 

-8ページ-

 

先頭を切る柘榴の槍が目の前にいた鬼を貫く。

それに続き、他の者達も次々と槍を突き出し、敵を貫いていった。

 

「越後にその人ありと言われた柿崎景家の突撃、その身で受けてみろっすー!」

 

敵部隊の真ん中をこじ開け、馬の突破力で道を作る。

突き刺された鬼は塵となって消えていった。

 

「おらおらおらーッ!死にたい奴からかかってくるっすー!」

 

槍を振り回し、迫りくる鬼を次々と突き刺し、斬り裂き、貫く。

目指すは敵部隊の縦断だ。そのために速度を維持し、一刻も早く通り抜けなければならない。

そうしなければいかに鬼といえどもこちらを捉える前にやれるだろう。

 

しかし、鬼の力も強かった。

 

「グゴオオオオォォーーー!」

「うわぁっ!」

「ぎゃああぁぁ!」

 

中には1撃で死なない鬼もいる。そんな鬼は手を伸ばし、その大きな爪で馬や人を抉っていった。

 

「ガアアアアァァーーーッ!!」

 

「くっそぉ!」

「し、死にたくねぇ!」

「腕がぁぁ!」

 

柘榴の後ろから多くの断末魔が聞こえてくる。

 

「もうすぐ突っ切るっす!皆気張るっすー!」

 

後ろを振り返る暇など無い。

柘榴自身も予想外の鬼の強さに驚いていた。

 

やがて鬼の隊列を抜け、向こう側へと突き抜ける。

後ろを見ると、閉じていく鬼の壁とその奥で悲惨な光景が繰り広げられていることがわかった。

 

「ハァッ、ハァッ、ハァッ、無事っすか?」

 

部隊は目に見えて減っている。

残った人数は目算800といったところだった。

 

「柿崎さま!あれ!」

「うっひゃーマジっすかー!?」

 

山の方角を見ると、今抜けた部隊と同じ数ほどの鬼の軍団が遠くにいることがわかった。

 

「まさか今抜けてきたのが半分だったとは思わなかったっすね・・・」

 

思わず苦虫を噛み潰したような顔になる。

それは皆同じ心持であった。

 

「合流されて挟撃される前にとっとと本隊と合流するっす!もっかい抜けるっすよー!」

「「「「「はっ!!」」」」」

 

再び馬を奮い立たせる。

迂回をすれば被害は少なく済むのだろうが、そうなると目の前に広がるこの世のものとは思えない軍勢の事を美空に報告ができない。

苦汁を飲んで時間を優先させるしかない。というのが柘榴の考えだった。

 

「よーっし、じゃあ早速・・・」

「かっ、柿崎さま!」

 

突撃の指示を出そうとしたところで副将から悲鳴があがる。

 

「なんすか・・・なッ!」

 

今から抜けようとする部隊の方を見て、柘榴も驚かずにはいられなかった。

鬼達は今まで進行していた足を止め、180度展開してきたのだ。

 

それは柘榴の部隊を狙っていることを如実に現していた。

 

「「「ガアアアァァァァーーーーーッ!!」」」

 

前列にいる鬼達が飛び掛かってくる。

虚を突かれた形となり、隊は混乱状態と化した。

 

「皆落ち着くっす!馬の分位置はこっちの方が上だから落ち着いて対処するっす!」

「駄目です柿崎さま!敵が強すぎて・・・ぎゃあぁ!」

 

ついには副将も倒され、鬼は柘榴の所にも急襲してきた。

 

「クッ、皆撤退っすー!とにかく迂回して、挟まれる前に逃げるっすよー!」

 

辛うじて動ける兵を連れ、一心不乱に馬を走らせる。

戦いになると俊敏だが、行軍そのものは遅い鬼の速度では柘榴達の騎馬隊に追いつけない。

それもあって柘榴達はなんとか逃げることができた。

 

「残ったのはざっと見て300っすか・・・このまま回り込んで合流を・・・」

「うわああああぁぁぁぁーーーーッ!!」

「ッ、何事っすか!?」

 

隊の後ろの方から点々と悲鳴があがる。

急いで振り返ると、鬼が再び現れていた。

 

「なっ、なんでこいつら地中から!?」

「岩陰からも出やがった!」

 

確かにここは岩の平原のようなものだ。岩陰にならいくらでも身を隠せる。

しかし、地中から出てくる鬼には生き残った兵達にもなす術はなかった。

 

「地中から伏兵!?やばいっす、倒れた味方は置いてとっとと逃げるっすよ!」

 

兵達は必死に手綱を握る。

しかし、馬もそうとはかぎらなかった。

 

突撃からすぐさま撤退というハードワークに倒れる馬もいる。

さらにすれ違いざまに攻撃を受けた馬もいる。

そういった馬に乗った者達は慌てて自分で走るか、驚いたり茫然としている間に鬼に殺されるかだけであった。

 

「こんな作戦・・・開戦派にそんな頭の良い連中いたっすか・・・?」

 

 

-9ページ-

 

最早鬼だけとなった謀反の軍隊に理性というものは無い。

だが、本庄の命令だけには将兵関係なく従っていた。

 

「フハハハハハ!あの南蛮人の言うことは神の啓示か!言われた通りにしただけであの柿崎景家の動きが思うままよ!」

 

本庄は自ら動き、柘榴の部隊を目指している。

先鋒として放った2千の鬼はその頑強さで柘榴を追い込み、それ以外の敵を足止めしている。

 

「最早人間など、恐るるに足らず!一気呵成に全滅させてくれようぞ!」

 

馬を使わずとも驚異的な移動速度を誇るこの力に高笑いが止まらない本庄。

やがて彼は、遥か前方に槍を振り奮闘する姿を視認した。

 

 

-10ページ-

 

「やっぱり、鬼の軍勢・・・!」

「なに、あれ・・・」

 

剣丞と松葉の隊は遅ればせながら鬼と会敵していた。

だが初めて見る人ならぬ姿に誰もが戦慄する。

 

「お、おいアレなんだよ・・・人じゃねぇじゃんか」

「なんて恐ろしい・・・どんな外法を使えばあんな姿になるのだ」

「本当に勝てるのか?」

 

兵達から弱音があがるのも無理はない。

松葉はおろか、何度か鬼を見た剣丞でさえも甲冑に身を包むその姿に戦々恐々としていたくらいなのだから。

 

「スケベ、柘榴は・・・」

「多分柘榴の事だから、こういうのを見ても突撃しちゃうだろうな・・・多分こいつらの向こう側にいるんじゃないのか?」

「なら、こいつらを全滅させて柘榴を助ける」

 

普段寡黙な松葉が饒舌になるほどに、事態は切迫していると見て間違いなかった。

 

 

「旦那ァ!俺らァもうたまりませんぜ!」

 

剣丞の部隊からも声があがった。

 

(やっぱりビビるよな・・・そりゃそうさ。俺だってビビって)

「早くあいつらぶっ殺しましょうや!」

「そうだそうだ!姐さんを助けるんだよ!」

(ってハイテンション!?)

 

恐れをなした松葉の隊と違って、剣丞の隊は意気軒高としていた。

 

「お前ら・・・大丈夫なのか?」

「何言ってんですか旦那。こんな奴らに足踏みしてりゃあ、それこそ姐さんがやばいですぜ!」

「とっとと突撃すんぞ!」

「「「「「オオオオオォォォーーー!!」」」」」

 

鬼に勝るとも劣らない声をあげ、七刀斎隊の面々は拳を振り上げた。

 

「・・・スケベ、お前の隊どうした」

「さぁね、だけど好機だ。松葉、鬼の引き付けを頼む」

「スケベはどうする?」

「俺の隊は遊撃が専門だ。柘榴の部隊を探して援護する」

「わかった」

 

役割も決まり、剣丞はとにかく柘榴の部隊を探すことを隊に指示する。

いよいよ動こう、というところで松葉は再び剣丞に声をかけた。

 

「スケベ」

「ん、なんだ?」

「・・・・・・死ぬな」

「・・・あぁ、お互いにな!」

 

松葉は目で、剣丞は拳を突き出してお互いの武運を祈る。

彼女がフッと口角を上げたのを確認して、剣丞は鬼の隊を回り込むように戦闘を避けて行軍していった。

 

 

-11ページ-

 

松葉の隊が鬼の軍に攻撃を開始したのとほぼ同時に、本庄は柘榴と対峙した。

 

「グハハハハ!ついに貴様1人だな、柿崎景家」

「うわぁもしかしてあんた、本庄のオッサンすか?」

 

柘榴の目の前に立つ男は最早人間の姿をしていない。

肌の色はドス黒く変わり、筋肉や骨も変形を繰り返し戦闘的なフォルムを形作っている。牙や爪も人ならざる形だ。

 

「いかにも拙者は本庄繁長。だがそのような名などもういらぬわ!人間など拙者の足下にひれ伏すただのゴミ!!」

 

そういう本庄の爪や腕は、血で染まっていた。

 

「この化け物達は元々はあんたの部下っすよね?」

 

柘榴が倒した鬼達は塵となって消えてしまったため、周りに倒れているのは柘榴の部下だけだ。

伏兵の鬼もすべて倒し切ることはできたが、その代償として柘榴の部隊は全滅してしまっていた。

今は兵士たちの屍が点々とした岩場で柘榴と本庄1vs1といった構図になっている。

 

「鬼か。そうだとも」

「鬼っていうんすか・・・言い得て妙っすね」

 

言葉は軽かったが、柘榴の槍の穂先は真っ直ぐ本庄を捉えている。

 

「ほう、拙者と戦うつもりか?人智を超えた力を手に入れた拙者と!」

「その自信、すぐに打ち破ってやるっす!」

 

両者が同時に動く。

本庄は爪を、柘榴は槍を前に突き出し、2つの影が交差した。

 

「・・・・・・」

「・・・・・・グフッ」

 

決着は一瞬だった。

 

 

-12ページ-

 

「ふっふーん、柘榴の勝ちっすねー」

 

槍を肩に担ぎ、倒れ込んだ本庄を見下ろす柘榴。

本庄は腹部を深く斬り裂かれ、ほぼ即死の状態だった。

 

その姿を背に、柘榴は立ち去ろうとする。

 

「さってと、馬もやられちゃったっすし、柘榴だけでも皆と合流するっす」

「本当にできるのか?」

「ッ!?」

 

後ろから聞こえる声。

それは、たった今倒したばかりのはずの声だった。

 

後ろを振り向かないまま、咄嗟に前へヘッドスライディングの要領で飛び込む。

 

「ガアアァァッ!!」

「うわっ、あっぶなかったす・・・」

 

柘榴の頭のすぐ上を、丸太のような物が通り過ぎて行った。

 

「既に4粒飲んだ・・・力が溢れて止まらんわ!!」

「クッ、死んでないっすか」

 

急いで距離を取り、構える。

見ると本庄の姿は大きく変わっていた。

 

「あれっ、さっきこんなにデカかったっすか・・・?」

 

懐から取り出した袋から小さな丸薬を数粒取り出す。

それを飲み、本庄はゴキッバキッとグロテスクな音を出しながらまた姿を変えていった。

 

「フハハハハ!10粒ダァ!殺してやるゾ・・・!」

 

変形した本庄の体はゆうに3mに届き、筋肉量や牙・爪の長さ鋭さが増大している。

その大きさに耐えられなくなり、ついに身にまとっていた鎧すらも割れて地に落ちた。

 

「うっひゃあ・・・ちょっとマジで勘弁してほしいっす」

 

完全に見下ろされる身長差になり、1歩後ずさる。

だが本庄はズシンズシンと地鳴りを響かせながら距離を縮めていった。

 

「さァ戦え!闘争だ!」

「ええい、ままよっすー!」

 

槍を持って突進する。

狙うは首だ。

 

「ヌゥゥァ!」

 

横から振られる筋肉の塊のような腕を避け、ジャンプをした柘榴は一気に本庄の首を捉えた。

 

「この程度で柘榴を倒せると思ったら、大間違いっすよーーッ!!」

 

穂先が首に触れる。

とった――そう思った瞬間、柘榴の槍は本庄の巨大な手に掴まれていた。

 

「なっ・・・!」

「そうだな・・・間違いだッた・・・」

 

本庄が掴んだ槍を振ると、その槍を持っていた柘榴も同時に振られる形になった。

 

「だガ、拙シャを倒せると思ってもオオ間違いだ!!」

 

そびえる岩目掛け、柘榴を槍ごと投げつける。

柘榴は空中で体制を整えるも間に合わず、その岩に背中を叩きつけられる形となった。

 

「カ―――ハッ・・・!」

 

声も出せずに倒れ込む。

一瞬呼吸もままならないほどのダメージが柘榴を襲った。

 

「やはりこの力は凄い!」

 

重い足音を響かせ、本庄が近づいてくる。

 

「アノ南蛮人め・・・鬼になルと種が活発になると言っていたが・・・」

 

本庄は動けない柘榴を片手で軽々と持ち上げると、彼女の上半身の服を引き裂いた。

 

「な、何を・・・するっすか・・・!」

「その通りではないか!情欲も溢れ出るわ!」

 

豊満な胸があらわになるも、ダメージのせいか指1本動かせない。

 

「鬼の種・・・貴様なら相応しいダロう」

「ッ、嫌っす!」

 

これから自分が何をされるのか瞬時に理解した柘榴は、残った力を振り絞って身じろぎをした。

 

「無駄ダ無駄だ、孤立無援となった貴様を助けに来る者などイナイ!」

「嫌っす!嫌っす!化け物に操をささげるなんて、絶対嫌っすー!」

「ホう、貴様、生娘だったか」

 

今度は下半身の布に手をかける。

 

「なァに心配することは無い。しバらくは生かしてやるのだからな・・・」

「いやっ・・・嫌っすーーーーーー!!!!」

 

叫んだ瞬間、フッと柘榴を拘束する力が無くなった。

 

 

「へ?わわわっ!」

 

手からスルリと抜け、重力に任せ地上に落ちる。

まだ満足に動けない柘榴は受け身をとる間もなく落下していった。

 

だが、いつまで経っても彼女を着地の衝撃を襲うことなく、代わりに何かに抱きかかえられる感触が包んだ。

 

「あ、あれ・・・?」

「大丈夫か?」

 

痛みを覚悟して閉じていた目を開けた柘榴の視界に映ったのは、仮面の下で激しく燃える優しい瞳だった。

 

 

-13ページ-

 

「キ、貴様・・・」

「面と向かって自己紹介をするのは初めてだったな」

 

柘榴を下ろし、器用にホルスターを付けたまま白く光を反射する上着を脱ぐ。

 

「新田七刀斎、ブチ切れモードだ」

「もー・・・?何を言ってイる」

「柘榴、これ着て」

「へっ?・・・ッ、わああぁ!」

 

その上着を柘榴に差し出すと、最初はキョトンとしていたが自分の姿を見て急いで掴み取っていた。

 

「す、スケベさん。どうしてここに・・・?」

「ずっと探し回っててな、そこのデカいのがいい目印になったよ」

 

剣丞が見据える本庄は、両腕がダランと下がっていた。

 

「両腕の筋を斬った。もうその腕は上がらないぞ」

「この太刀筋・・・やはり貴様、たダ者ではないようだな。ダガッ!」

 

本庄は腕を軽々と動かして見せた。

ブンブンと空気を裂く音が聞こえる。

 

「浅かったか?」

「いいや、見事であッたゾ。だが拙者の体はいくらでも蘇る!」

 

本庄の腕の筋は再生していた。

だが剣丞はそれがどうしたと言わんばかりに歩みを進めていく。

 

「だったら、蘇らんなくなるまでやってやるさ」

 

刀を2本抜き、両手に持つ。

そこで自分の内からあがる声を剣丞は聞いた。

 

『おいおい、お前にアイツが倒せるのか?なんだったらオレが代わるが。つーか代われ』

「うるせぇ、お前の力は借りない」

『ほーう言うじゃねぇか。結局まだ殺人回数0回の剣丞クン?』

 

七刀斎の言う通り、剣丞は決意はしたが実際にはまだ人を斬っていない。

甘いのだろうか、とは思う。

 

(けど・・・)

 

≪俺は今日、人を殺すかもしれない≫

 

国境付近で七刀斎に言った覚悟。

その覚悟は変わらず、剣丞の中にあった。

 

その瞬間、剣丞の刀に異常が見られた。

 

「スケベさん、それ一体・・・」

「おわぁ!なんだこれ!?」

 

刀が光り輝いていた。

その様子に持ち主である剣丞も驚きを隠せない。

 

だが、驚いている暇は無い。

気を取り直して、光る刀を向けて剣丞は言い放った。

 

「お前は鬼だ。お前は人じゃない。人じゃないなら俺は容赦しない!」

「何を馬鹿なこトを・・・ヌエエエエアァァァ!!」

 

人の胴体程ある腕が剣丞に襲い掛かる。

しかし、剣丞はそれを見切ってすんでのところで躱して見せた。

 

「ナッ!」

 

横に回り込み、腕を斬りまくる。

 

(なんだ?光ることにも驚いたけど、この切れ味・・・)

 

今までの刀の切れ味とは、明らかに違う。

まるで熱したナイフでバターを切るかのように、鬼である本庄の腕を骨も筋も肉も関係なくスウッと通っていった。

 

(でも、今はありがたい!)

 

みるみるうちに輪切りになっていく腕。

痛みを感じるのか、本庄は呻くと後ろに飛び退いた。

 

剣丞は深追いを避け、その場に留まる。

本庄も反撃はせず腕を再生させながら剣丞を睨むだけだった。

 

「ぬゥ、ならば!」

 

本庄が吼える。

それはまるで遠吠えのようで、遠くへ遠くへと言った感じの声だった。

 

「ス、スケベさん!向こうから何か来るっす!」

 

柘榴が座ったまま砂塵が舞う方向を指さす。

なんとかそれまでの体力が戻ってきてくれていたかと安心すると同時に、剣丞は何が来るのかをうっすら感じていた。

 

「くっ、鬼の軍団か・・・まるで狼だな」

「まずいっすよスケベさん・・・だとしたらその数は多分2千くらいっす」

「なんだって!?」

「旦那ーーーーー!!」

 

七刀斎隊の面々が遅れてやってきた。

 

「お前達、鬼が来る!なんとか対処してくれ!」

「ヘイッ!ですが旦那は・・・?」

「俺はこのデカいのを相手にする。鬼は強いから2人1組になって当たってくれ」

「わかりやした!」

「あと、誰か柘榴を安全な場所に避難させといてね」

「ヘイッ!!」

 

七刀斎隊は剣丞の指示通り2人組を作り、鬼を待ち構えた。

 

「じゃあ続きだぞ、テメェ」

 

再び本庄に向き直る。

既に腕の再生は終わっているようだった。

 

「グッ、グハハハハハ!確かに孺子と侮るには慢心が過ぎたか・・・ならバ」

 

本庄は足元に転がっていた袋を掴み、中から大量の丸薬を手の平に出した。

 

「ッ、あれは・・・?」

「気を付けるっすスケベさん!あの変なのを飲んでから本庄のオッサンはめちゃめちゃ強くなったっすよ!」

 

七刀斎のメンバーに肩を支えられながら、柘榴が叫ぶ。

剣丞はそれを聞いてある合点がいった。

 

「薬・・・?」

「南蛮人め、もっト数を用意すレばいいもノヲ!」

「南蛮人・・・ザビエルか!」

 

手の平いっぱいに出した丸薬を一気に飲み込むと、本庄は更なる呻き声を上げた。

 

「グウウウウアアァァァァッ!!」

 

オーラのような煙が体から立ち上る。

明らかに苦しんでいる、と剣丞には感じられた。

 

(柘榴は・・・運んでくれたか)

 

鬼の軍勢が迫っている今、あまり遠くに行かせるとかえって危険だ。

それを考慮してくれたのか、隊員は柘榴を遠すぎない場所に置いてくれていた。

ざっと100mくらいであろうか、これくらいなら戦っていて巻き込むことは無いだろう。

 

 

やがて煙が止み、本庄がゆっくりと完全に鬼と化した顔を上げた。

 

「サァ、殺シてヤル!!」

 

鬼の軍勢もまもなくやってくる。

それがもし本庄が後方に置いていた残り2千の部隊であれば、500人しかいない七刀斎隊は確実に潰されるだろう。

だが、ここで背を向けるわけにもいかない。

 

「伯父さんのことを支持するわけじゃないけどさ」

 

剣丞が独り言ちる。

本庄は何を言っているんだという感じであった。

 

だが、後ろで休んでいる柘榴を見て、剣丞は再び2本の刀を構える。

 

「女の子に乱暴する奴は許せないんだよ!」

 

剣丞は渾身の力で、本庄に斬りかかっていった。

 

 

説明
どうも、たちつてとです

ただ名前有りなだけでちょいキャラだったらオリキャラにならないよね・・・?とビクビクしながら書いております

おそらく次で第一章的な感じのお話の大きなものは終わって次のお話へシフトしていくので、これからもよろしくお願いします



※支援・コメントいつもありがとうございます!
総閲覧数 閲覧ユーザー 支援
1958 1790 8
コメント
>>mokiti1976-2010様 ぶっちゃけ本庄のおっさんのラストもこんな感じで・・・おっとっと 柘榴の操の行方はどうなるのでしょうか私にもわかりません(立津てと)
>>本郷 刃様 とりあえず荒くれ部隊を書きたくて仕方なかったんです!ww(立津てと)
>>正宗サン様 その点織田信奈の野望は容赦なかったですね(立津てと)
何か本庄のおっさんが破裂寸前の風船みたいに見えるのは気のせいだろうか?それと柘榴の操は無事で何より…すぐに剣丞に捧げられそうな気もしますが。(mokiti1976-2010)
七刀斎隊のテンションが気に入りましたww(本郷 刃)
性別逆転すると何だか姫武将達は同族や親族を殺した事がなさそうに見える(正宗サン)
タグ
戦国†恋姫 新田剣丞 柿崎柘榴景家 長尾美空景虎 甘粕松葉景持 直江秋子景綱 

立津てとさんの作品一覧

PC版
MY メニュー
ログイン
ログインするとコレクションと支援ができます。


携帯アクセス解析
(c)2018 - tinamini.com