恋姫無双 武道伝 9話
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「武において重要なのは技や力ではない。そんなものはいずれ身についてくる。真に身につけなければならないのは精神の強さだ」

 

馬歩の構えで内功を練る者たちの間を歩きながら武は何たるかを説いていく。この者たちは義勇軍の中で武の資質がある者たちである。とはいえただでさえ数の少ない義勇軍だ。その中で資質があるものなどたかが知れている。数えて10人ほどしかいない。これからの調練でさらに人は減るだろう。

 

「武は本来身を守るための技術だ。敵を打ち倒すのは、相手が攻撃できないようにするのが身を守るのに一番手っ取り早いからだ。それを勘違いしてはいけない。武は人を傷つけるのが目的ではない」

 

時折腰の高くなったものに注意しつつ言葉を紡ぐ。瞑想状態に近い彼らの心に言葉は深く染み込んでいくはずだ。

 

「故に武を修めた者は仁義を重んずる。自らを厳しく戒め、他者を思いやる。それを忘れてはならない」

 

柏手を一つ打ち、今日はここまでと合図する。合図とともに馬歩を解き、それぞれ解散していく。その中に一人、馬歩を解かず静かに内功を練る者がいた。先日手合せをした楽進である。

 

「今日は終いだ。過ぎたるは及ばざるが如しとも言う。あまり根を詰めすぎるな」

 

この娘、真面目なのはいいが時に度を過ぎるようで、先日俺や星に負けた時も遅くまで鍛錬をしていた。

 

「・・・李文殿、手合せをお願いできないでしょうか?」

 

またか、と内心溜息をつく。俺達に負けてからというもの、楽進は毎日手合せを申し込んできた。それも星ではなく俺にである。おそらくは同じ徒手で戦う身として技を盗みたいのであろう。素晴らしい向上心だ。だが焦りのあまり盲目になっている節がある。己に足りないものが何かも分かっていないように感じられるのだ。

 

「またか。手合せはいいが今回は少しやり方を変えよう」

 

ならそれを教えてやるのも年長者の務めだろう。そう思い、普段とは異なる舞台を提案する。

 

「それはどのように?」

 

「お互いの左腕を常に触れさせながら組み手をする。半身になって左腕を前に出せ」

 

楽進が言われた通り腕を伸ばすと、李文も腕を伸ばし、お互いの腕が交差する。

 

「この修練においての決まりは左腕を離さないこと。俺に有効打を入れたら勝ち。それ以外は何でもアリだ。気張ってこいよ」

 

いかな達人と言えど距離が近ければ近いほど肉体の反応には時間がかかる。己の経験からそう知っている楽進は、李文の提案した勝利条件はいささか難易度が低く思えた。

 

 

 

 

「そろそろ終いだな」

 

そう李文が口にしたのは一刻後。結局楽進は一打も入れることが適わなかった。速さで後れを取っているわけではなかったはずだ。だが有効打どころかまともに触れることもできなかった。

 

「この修練は推手という。本来なら打ち合いは第二段階で、第一段階は押し合いをするだけだ。接した腕を中心に相手の力の動きや重心の移動を感じ、それを受け流す柔の力をつける修練法だ。今回組み手をしたのは、お前にその柔の力の下地がどの程度できているかを確かめるためだった。結果としては論外だったがな」

 

論外、と言われ楽進は落ち込んでしまう。今まで積み上げてきたものはなんだったのか。これがその辺の人間に言われたのなら反論できるが、武人として圧倒的な実力差がある李文に言われると反論のしようがない。

 

「お前の拳は所謂剛拳。力で相手を打ち倒す拳だ。その功夫は大したものだ。しかし柔よく剛を絶つという言葉があるように、剛一辺倒では柔の拳に優れた者に後れを取るかもしれない。また、自分より強い剛のものにあたった時、そのいなし方を知らねばまともに戦うこともできずに敗北してしまうだろう。そうならないためにもこれからは柔の拳も学ぶといい。そうだな、さしあたって今日やった推手、これを明日から程立と共にやるといい。やり方は程立にも説明しておこう」

 

あいつに教えた八番拳の修練にもなるしな。

 

「わかりました。必ずや柔の拳、身に着けて見せます!」

 

先ほどとは打って変わって気合の入っている楽進。己が身に着けるべきものを提示されたことで迷いが払拭されたのだろう。これならきっとまだまだ強くなれる。いつか本気で腕を比べてみたいものだ。

 

説明
武道伝9話になります。慣れてきたところでまた持ち場チェンジですよ・・・
どんなに遅くなろうとも失踪はしないので安心してくださいねー
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