インフィニット・ストラトス―絶望の海より生まれしモノ―#121
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「まったく、世界征服するなら『掛かって来い』と相手の万全を待つくらいの度量を持っていて欲しいものだな。」

 

「そんな、無理言わないであげてくださいよ。誰もが先輩みたいな人じゃないんですから。」

 

ゴーレム襲来の報を受けた千冬と真耶の反応は、意外と落ち着いたものであった。

 

「でも、何というか本当に中途半端ですよね。全力を受けて立つわけでもないし、完全に出端をくじくわけでもないし。」

 

「おおかた、癇癪でも起こしたのだろう。苦労を知らないお嬢様らしいからな。」

 

その実、二人の予想は見事に的を得ていた。

 

理由はともかくとして、ゴーレムが出撃を始めた原因は亡国機業の長である((筋金入りの箱入りお嬢様|マージ・グレイワース))が起こした癇癪が原因であることには変わりは無いのだから。

 

「護衛艦隊や航空隊の集結はできていないが、((主力部|IS))隊は万全の準備を整えているからな。」

 

――『亡国機業に動きあり』の第一報を受け取った時点で、集結地点を相模湾へ切り替えた護衛艦隊との合流のために鈴代ら『国連軍特別派遣部隊』は既にこの島を出立している。

 

さらに、その彼女らを受け入れる母艦として作戦に参加する予定であった『いずも』『いわて』の先日の学園生輸送のために任地を離れており、現在は横須賀に停泊して補給を受けているところだという。

 

『人間万事塞翁が馬』とはよくいったものである。

 

合流予定時刻は、『まもなく』。

多少の前後はあるにせよ、ゴーレム襲来よりも確実に護衛艦隊への合流のほうが早い。

 

「さて、こちらの準備のほうはどうなっている?」

 

「((黒ウサギ隊|シュヴァルツェ・ハーゼ))、学園組ともども、港で乗艦準備中です。」

 

「そうか。」

 

この作戦は正面から押しかける方と裏口から殴りこみに行く方の両方が主力部隊であった。

それが故に学園教員部隊の半分が『特別派遣部隊』へ同行しておりその代わりに((黒ウサギ隊|シュヴァルツェ・ハーゼ))の面々が学園組に同行することになっている。

 

――どちらにも正規軍人と学園関係者を配置するためであり、学園に((黒ウサギ隊|シュヴァルツェ・ハーゼ))の隊長であるラウラが居るための措置でもある。

 

「では、征くとしようか。」

 

「はい、((IS学園|わがや))を土足で踏み荒らしてくれた分の((お仕置き|おれい))をしにいきましょう。」

 

 

一行を乗せた二隻の護衛艦が出立したのは、その半刻ほど後のことである。

 

 * * *

 

「それでは、ブリーフィングを始めます。」

 

真耶の声が、臨時の作戦会議室となった艦内食堂に響く。

 

「現在、侵攻中の亡国機業無人機部隊は小笠原諸島近傍を通過し、まっすぐこちらへ向かってきていることが判明しています。」

 

テーブルの上に広げられた地図に、一本の線が入れられる。

 

それが、現在の予想進路であり侵攻中の道筋そのものであることは、言わなくても判っている。

 

「途中の小笠原や自衛隊硫黄島基地を無視したことから、おそらく敵の狙いは本土爆撃、もしくは敵対勢力である我々の殲滅にあると考えられます。」

 

そこで、地図の上に二つのコマが乗せられる。

 

「護衛艦隊と((国連軍特別派遣隊|IS隊))は現在、敵予想進路上を移動中。――真っ向からぶつかって敵戦力をそぎ落とすべく戦闘を行います。」

 

双方の速度から計算された、交戦予定位置に丸印が書かれる。

 

そして、その丸印を掠めるようなコースで、もう一本の線が延ばされる。

 

「我々は戦闘領域の片隅を突っ切って敵本丸を強襲、制圧します。」

 

まだ日本領海内に居るらしい『亡国機業』が根城と化した((人工島|メガフロート))。

それがいるであろう場所につけられたバツ印を、真耶の指が叩く。

 

「あらましは以上ですが、何か質問は?」

 

そこで、真っ先に手が挙がったのはラウラだった。

 

「はい、どうぞ。」

 

「戦闘領域を突っ切る必要はないのでは?」

 

ラウラが言いたいのは少し迂回すれば十分に回避できるリスクだということだ。

 

「それも考えましたが、この艦の速力などを考慮した結果なるべく直線であるほうがいいとの判断になりました。」

 

「いったい、どれくらい?」

 

「現在の速力が三〇ノット。天井は…まあ、満載でも四〇ノットオーバーは軽いですよ。」

 

『しまかぜ』と『((その姉妹艦|はたかぜ))』は伊達ではないと、艦の代表として参加する艦長は笑いかける。

 

四〇ノット、時速に換算すると七十四キロメートル毎時。

満載状態でそれなのだから、燃料を使って軽くなった状態であればさらに早くなるのだろう。

 

――かつて日本最速を誇った駆逐艦の名を継ぐに相応しい快速艦だ。

 

それならば下手に舵を切って速度を落とす必要もないだろう。

 

「それに、場合によってはこちらに敵ISを誘引して本隊の突入を支援するかもしれませんから。」

 

「なるほど、そういうことか。」

 

それでラウラは納得したらしく、その反応を見て周囲の面々も疑問なしとしたらしい。

 

「当座は、先行する本隊を追うことになりそうですな。」

 

「場合によっては、そのまま本陣に討ち入りすることになるかもしれませんね。」

 

「そうなってくれれば、ありがたいのですがね。」

 

だが、それは希望的観測にもほどがある願いであることは重々承知していた。

 

故に『主力部隊が会敵』の報がその後まもなく届けられたことに対しても『ああそうか』と思う以外に何も起こらない。

 

戦闘準備の発令と事前の作戦会議で定められたとおり、IS隊の半分が『しまかぜ』から『はたかぜ』へと移乗するだけである。

 

 

 

ふと、見上げた空。

 

そこでは蒼い大海原の上に広がる大空を舞台に熾烈な空戦が繰り広げられていた。

 

 * * *

 

「隊長!別働隊が!」

 

「判っているわ。―――でも…」

 

『いずも』の上空で戦闘指揮と支援砲撃を行っていた鈴代の元に届けられた報告は作戦が予定通りに進行している報告であり、上手くいっていない報告でもあった。

 

――別働隊は作戦通りに動いていた。

 

だが、本隊のほうは若干上手くいっていない。

 

予定よりも広がってしまった戦闘領域は彼ら別働隊が通過するはずの海域まで含んでしまっていた。

 

 

 

このままでは敵中突破を余儀なくされる。

 

たとえ、快速を誇る二隻であっても多数のISに群がられてはあっけなく沈められてしまうだろう。

 

だが、打つ手が無い。

 

腕利きの部下や各国の精鋭が集まってなお突破できずに居るのだ。

 

晶が預かる後方支援部隊が前に出ても混乱を呼ぶだけであり逆効果にしかならないだろう。

 

―――さて、どうすべきか。

 

艦隊が保有する艦対空多弾頭誘導弾は『虎の子』というべき代物だ。

 

そう易々と使うわけにはいかないし、『それ』の使用については艦隊の司令部が判断することだ。

 

晶の職責では要請することこそできるが指示することはできない。

 

 

 

それに、前線では部下である沙紀や志保らが敵と入り乱れた乱戦を繰り広げている。

 

そんなところにミサイルを撃ち込むなど、正気の沙汰ではないし、後に構える第二陣を叩くには位置が悪い。

 

――打つ手なしか?

 

『何か手は―――』

 

そう辺りを見回したとき、それは始まった。

 

 

 

どこか遠くで鳴り響くブザー音。

 

続く音は雷鳴の如き轟音であり、何かが風を切る音であった。

 

 

 

 

 

不意に、ゴーレムの一体が『何か』に衝突されて水面に叩きつけられる。

 

高々と上がる水柱にその場に居る全員が目を奪われた。

 

 

 

「――――は?」

説明
#121:出陣



なんか、回りくどくなりがちなところがあるのが悔やまれる。
けど決戦を海の上にしちゃった以上これを避けるわけには…

まあ、艦隊決戦なんて真似はIS相手じゃできませんし。

次から本格的に主人公たちのターンかな?
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インフィニット・ストラトス 絶海 

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