The Duelist Force of Fate 35
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第三十五話 決闘者の邂逅

 

「僕は『忍者マスターHANZO』でダイレクトアタック!!!」

あっさりと血に餓えたアルクェイドの肉体が切り裂かれ、跡形も無く消滅する。

同時に彼女そのものようなカードが一枚。

彼の目の前で結晶化した。

「ふぅ。これで八人目・・・どうしてこんな事になったんだろう」

愚痴った彼は溜息を吐いた。

凡庸な顔立ち。

何か取り立てて優れたものを感じさせない姿。

唯一彼が持っていそうな属性に言及するなら、それは人柄の良さそうなところだろうか。

血煙に曇った眼鏡を拭きつつ、彼は一人空を見上げた。

黒い月。

何処までも落ちていきそうなソレが空に出て以来、全てが狂った。

いつか見た夏の再現。

覚えていないはずの刹那の夢。

そこに至る戦いの数々。

思い出した事は多い。

(・・・間違った未来のアレは倒したはずなんだけどな。早く元凶を見つけないと)

また誰かが夏を呼んでいるのは必定。

繰り返される惨劇に出でるのは友人や知人の姿をした影。

(それにコレも・・・一体どういうカラクリなんだか。一応、デッキそのものは減らないようだけど・・・)

彼は己の左腕を見た。

いきなり現われたディスクと四十枚のデッキ。

嘗て己の体で戦い抜いた夏とは違う。

ゲームにおいて全ての決着が付くという謎仕様。

「はぁ・・・」

そのカードゲームを知っていたからこそ何とか対応したものの、その戦闘方法は恐ろしく歪だ。

ライフが文字通り己の命だとすれば、遊戯は命掛けの戦いと変わりない。

それこそライフを払って発動するカードは命を賭して使うものとなる。

(ライフは戦った後もそのままって事は0になったら・・・やれやれ)

愚痴っていても仕方ないと手の中のカードをデッキに加えて彼が歩き出そうとした時だった。

「あ」

バッタリと路地裏を曲がった瞬間に人影。

咄嗟に背後へと飛んだ彼だったが、その複数の影に顔を顰める。

(相手は四人!? 逃げられるか!!)

さすがに全員を相手にしてやってのける程の腕は彼も持ち合わせていない。

「兄さん?」

「え・・・」

聞き覚えのある声に彼の力が抜けた。

「何だ。驚かすなよ。秋葉か・・・」

「何だとはあんまりじゃありませんか!? どうしてこんな物騒な夜に出歩いていると思っているんですか!!?」

「ストレス発散とかじゃないのか?」

「〜〜〜!!!」

「まぁまぁ、いいじゃありませんか。秋葉様」

おおらかな声が兄弟喧嘩が勃発しそうになる場を治めた。

「姉さん。レーダーに反応が・・・」

「それじゃ、メカヒスイのサーチアンドデストロイモードを発動しておいて。翡翠ちゃん」

「サーチアンドデストロイモード・ヲ・ハツドウ・シマス」

彼ら全員の間で僅かに緊張が緩んだ時だった。

【ニャニャニャ。さすがカオス最高の戦士。同じ混沌を統べる者としてその性能羨ましい!!!】

【このターンで決め切れないとは・・・だが、次のターンが貴様の最後だ!!!】

「あれは!!?」

彼が驚きに目を見張る。

ネロ・カオス。

混沌を統べる獣。

黒いコート内部で紅い瞳を蠢めかせる男がビルの間を高速で移動していく。

【次のターン? 何か汝は勘違いをしていないかね? そろそろアレが出張ってくる以上、此処で仕留めさせて貰おうか。我輩まだ死にたくないからニャー】

それに対するように黒い正体不明のネコ型生物が不敵に嗤った。

【!!!】

【!!!】

「秋葉達は此処で待ってろ」

「あ、兄さん!? 不用意に出て行ったら!!?」

彼が両者を追い掛ける。

「ッッッ?!!」

二つの混沌が移動していくルート上では無数の影がそれぞれ腕にディスクを抱えて戦っていた。

多くの姿は彼にも見覚えがある者ばかりだった。

炎を纏う男。

眼鏡を掛けたシスター。

暴走した恋人。

芝居掛かった狂人。

紫色の髪の少女。

死んだクラスメイト。

他にも同じ顔で別物のように振舞うモノが多数。

少なく見積もっても数百人では利かない。

まるで戦いに引き寄せられるように影達が争う二つの混沌へと集っていく。

Duel。

Duel。Duel。

Duel。Duel。Duel。

Duel。Duel。Duel。Duel。

Duel。Duel。Duel。Duel。Duel。

Duel。Duel。Duel。Duel。Duel。Duel。

Duel。Duel。Duel。Duel。Duel。Duel。Duel。

Duel。Duel。Duel。Duel。Duel。Duel。Duel。Duel。

Duel。Duel。Duel。Duel。Duel。Duel。Duel。Duel。Duel。

Duel。Duel。Duel。Duel。Duel。Duel。Duel。Duel。Duel。Duel。

Duel。Duel。Duel。Duel。Duel。Duel。Duel。Duel。Duel。Duel。Duel。

Duel。Duel。Duel。Duel。Duel。Duel。Duel。Duel。Duel。Duel。Duel。Duel。

Duel。Duel。Duel。Duel。Duel。Duel。Duel。Duel。Duel。Duel。Duel。Duel。Duel。

Duel。Duel。Duel。Duel。Duel。Duel。Duel。Duel。Duel。Duel。Duel。Duel。Duel。Duel。

Duel。Duel。Duel。Duel。Duel。Duel。Duel。Duel。Duel。Duel。Duel。Duel。Duel。Duel。Duel。

Duel。Duel。Duel。Duel。Duel。Duel。Duel。Duel。Duel。Duel。Duel。Duel。Duel。Duel。Duel。Duel。

加速度的に集っていく戦いの波。

誰が何を倒したのか定かですらない。

そんな混乱の巷に声が響く。

【―――Duel Target Lock On】

影達の全てが、あらゆる力を持つ者達が、その言葉に戦闘すら止めて黒い月を見上げた。

月を背に一人の男が空に浮かんでいた。

紅いジャケットに紅い帽子のGパン姿。

「あ、あの人!?」

追い掛けてきた秋葉が思わず口走った。

【Duel!!!】

男の腕から伸びた光の紐が無数に地上へと吹き伸びる。

 

――――――!!!!!

 

その数、ざっと1000。

乱入した『彼』はたった一人全ての者達に戦いを挑む。

ドローの声が高らかに響き渡る。

【創造の代行者ヴィーナスを召喚!!!】

千人の内の誰かが言った。

【『エフェクト・ヴェーラー』の効果を発動!!!】

続く凡そ千ターンにおいて、モンスターの召喚など些細な抵抗だと彼らは知っていたが容赦等しない。

【ヴィーナスの効果を発動。ライフを500払う】

嘲笑。

失笑。

哄笑。

苦笑。

あらゆる笑みが飛び交う。

ライフを払い効果が無効になったモンスターの効果を発動させる。

それは無為にライフを削る行為だ。

そんなものに何の意味があるのかと彼らは嗤う。

彼のターンに続く者だけが、その行為を静かに見つめていた。

【ヴィーナスの効果を発動。ライフを500払う】

その効果の発動に対して巨漢は何もしなかった。

いや、彼らの誰もが何も出来なかったと言うべきかもしれない。

効果を無効にしたモンスターにもはや使い道なんてないのだから。

そう、彼らは知っていたのだから。

いや、知っているつもりだったのだから。

彼ら千人の手札には凡そ『エフェクト・ヴェーラー』だけで三百枚。

彼のモンスター効果なんて通すわけがない。

彼ら千人の手札には『D.Dクロウ』が百枚近く。

墓地で効果を発動させるわけがない。

彼らは強者であり、己の分身たるデッキを持って戦う者ばかりだ。

そのデッキの内実は殆どが効果で相手を叩き潰すものばかりだ。

相手のカードを無効にする者。

相手のカードを除外する者。

相手のカードを奪う者。

相手のカードを破壊する者。

除去、大量展開、パーミッション。

これらに特化した彼らのデッキはターンが回ってきたならば、相手をオーバーキルするのは容易。

誰かが嗤った。

気でも違ったか。

誰かが言った。

諦めましたか。

誰かが噴出した。

何の意味があるって言うのよ。

【ヴィーナスの効果を発動。ライフを500払う。8000−7500=500】

やがて辿り着く500の限界(リミット)。

まるで意味不明。

自身で自滅する暴挙。

これから千ターン続くであろう猛撃をどうやって凌ぐのか誰もが理解不能。

 

そう、だから、彼ら千人は何もしなかった。

 

如何な守りを固めようと突破してみせるとの自信を覗かせて。

 

【手札より『禁止令』を発動】

 

ただ、疑問符を浮かべる以外何もしなかった。

 

その傲慢なまでの強さへの自信が運命を決したとも知らずに。

 

【『緑光の宣告者』を宣言】

 

そうして彼らの勝機は永遠に失われた。

 

誰も今、自分達が窮地に立っている自覚すらなかった。

 

彼はカードを一枚セットする。

 

最後の切り札の名が、厳かに告げられる。

 

【『大逆転クイズ』】

 

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そもそも相手が複数人いるDuelで相手とのライフを入れ替えるというのは普通ならば相手を選ぶべき効果である。

 

相手のライフが一律でなければ、Duelの性質上、不均衡なライフというのは平等ではないのだから。

 

だが、今現在。

 

彼の相手は1000人。

 

バトルロイヤルですらなく千対一の構図。

 

更にライフは一律8000。

 

そして、侮った故に彼らの行動は遅きに失する。

 

―――絶望。

 

手札誘発で効果ダメージを防ぐカードなど彼らの手札には存在しなかった。

 

彼らの誰もが流行の最先端を往くが如くアドの取れないカードなどデッキには入れていなかった。

 

強者故に強欲なまでの最速の勝利を求めた結果。

 

相手を妨害をするカードはあろうと相手の効果ダメージを手札から防ぐカードなんて入るわけもなかった。

 

【カード名を宣言。モンスターカード】

 

故に彼らはその宣言が外れる事を望む以外に何も出来なかった。

 

【自分の手札とフィールド上のカードを全て墓地に送る。自分のデッキの一番上にあるカードの種類を当てる。当てた場合、相手と自分のライフポイントを入れ替える】

 

手札から『禁じられた聖杯』を始めとしたカードが落ちていく。

 

「・・・・・・」

 

そっと、カードが捲られ、公開される。

 

そのカードの名は。

 

【光の創造神 ホルアクティ】

 

効果解決時、墓地に送られたセットカード『黒いペンダント』が儚い音を立てて砕け散り。

 

千の攻撃の火蓋は切られる事すらなく。

 

呆気なく彼らは消滅した。

 

彼らの様子を見ていた遠野家の誰もが絶句していた。

「ワンターン・サウザンド・キル」

誰が言ったのか定かでは無い。

虚空に佇む彼の下に無数のカードが集っていく。

「ヤバイニャー。やっぱり、未来から来たロボは溶鉱炉じゃないと倒せないのかもしれん」

混乱のどさくさに紛れていつの間にか足元にやってきていたネコ・カオスがひょっこりと当然のように遠野家の面々に混じっていた。

「我輩も月細胞野郎との約束果たしに行こうか。マジカル・アンバーの最終計画が発動する前に何とかしないと色々ケリ付かないしニャ〜〜」

トコトコと遠ざかっていく猫型生物の戯言など、誰も聞いてはいない。

彼と彼の周囲に浮遊するカードの群れに誰もが意識を奪われていた。

彼の周囲に展開されたカードが列を成し、巨大な魔法陣を三咲市上空に構築していく。

強大な、あまりにも強大な魔力の本流。

都市の各地で戦っていた影ではない本体達すら、その力の出現に上空を見ざるを得なかった。

 

吸血鬼化した己を倒しながらさつきが。

 

己を失った自分を倒しながらシオンが。

 

嘗て負けたワラキアを前にしてリーズバイフェが。

 

夜の空を見上げる。

 

――――――。

 

まるで魔術刻印のように。

 

あるいは神代の魔術のように。

 

又は大聖杯を構築する彼女の魔術回路の如く。

 

広がっていくのはこの世界のものとは異なる理。

 

「何だ?!」

 

遠野志貴は知らない。

 

その術式が如何なる効果を持っているのか。

 

それでも彼の目には一つだけが見えていた。

 

直死の魔眼によって。

 

空の異常の中心が何であるかが。

 

「あれは、何んだ!?」

 

世界に【彼ら】が顕現していく。

 

【彼らの城】が顕現していく。

 

遥か未来。

 

人類の滅びし星で稼動した世界最大のモーメント。

 

遊星粒子に導かれて、落下してくる都市の如き巨大構造物。

 

【アーククレイドル】

 

その最中から四つの影が虚空に佇む彼の下へと降り立った。

 

「此処が最後の地ですか?」

鋼の仮面の中で目が優しく細められる。

 

「随分と面倒な事になっているようだが?」

人智を超えた鋼の巨躯が周囲を威圧する。

 

「ふ・・・これが最後か。存分に戦わせてもらおう」

美しいとさえ言える罪人の顔(かんばせ)が笑む。

 

「ご苦労様。そう言いたいところだけれど『収穫』を本格的に始めよう」

何より先を往く疾走者が鋭い視線を投げる。

 

 

【終わりし世界(Zone)を救う者】

【絶望に抗い自己を対立(Aporia)させた者】

【罪に塗れても矛盾(Paradox)を貫き通す者】

【その背に二律(Antinomy)を負いし者】

 

そして、最後に黄金の髪を持つ女が、復讐から解き放たれた女が一人―――。

 

「全ての未来を私達の手で・・・きっと・・・必ず」

 

―――彼の前に降り立ち、頷いて。

 

 

今、五つのカードが掲げられる。

 

 

無数の影達が都市から消え失せたのはそれから十数分後の事だった。

説明
戦いは開始と共に終幕を迎える。
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月姫 Duel Fate 聖杯戦争 ワンターン・サウザンド・キル 

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