戦国†恋姫 短編集I 大掃除をしよう
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大掃除をしよう

 

「これより、剣丞隊長屋の大掃除を始める。皆、準備はいいか」

 

 頭に頭巾、右手に乾いた雑巾、左手に濡れた雑巾、腰に箒。

 多分完璧なフル装備(?)となった俺は、目の前に並ぶ仲間達に視線を巡らせる。

 

「はい、問題ありません」

 

 俺の声に答えたのは、長い黒髪で目元を隠した少女、竹中半兵衛重治。通称は詩乃。今孔明の異名を持つ我が剣丞隊における軍師である。頭巾と割烹着を身に纏い、両手それぞれに箒とちり取りを持つ彼女は、いかにも若奥様といった感じだ。

 

「ええ。さっさと始めてしまいましょう、ハニー」

「早く終わらせて『一発屋』のご飯を食べたいの!」

 

 梅や鞠、他にも多くの女の子達の声が続く。うん、皆やる気は十分みたいだ。

 

「よし、それじゃあ掃除開始だ。夕刻までには終わらせるぞ!」

 

『おー!』

 

 

 

 

 元々、剣丞隊の長屋では定期的に掃除をしてくれるお手伝いさん達がいたため、埃や雑草だらけの見るに堪えない惨状になっていたということは無い。とはいえ、自分達が暮らす場所の掃除を人任せにしているばかりでは良くない。特に今回は何ヶ月も留守にしていたため、お手伝いさん達には多くの負担をかけてしまった。だから、昨日から彼等には感謝の気持ちを籠めて、長期間の休暇を与えている。

 それに、鬼との戦いが終わったといっても今後は伊達や島津といった群雄達との戦いが待っているため、『鬼』ではなく『人』と戦うために気持ちを切り替える必要がある。そこで俺が考えついたのが大掃除である。

 伯父さんの家で暮らしていた頃にも、敷地内の掃除を頻繁にさせられていた。なんでも、『身の回りを綺麗にできる者は気が引き締まり、何事も精力的に取り組むことができる』のだそうだ。

 確かにその通りだと思う。誰だって不衛生な環境に居たくはないし、薄汚れた武器を使いたくはない。小夜叉や綾那が武器を手入れしているのが良い例だろう。

 そんなこんなで始まった大掃除。伯父さんの屋敷の掃除で手馴れていた俺は、早々に自分の持ち場の掃除を終え、他の人達の手伝いへと向かった。

 まずは誰のところへ行こうかな。

 

 

 

●その1……詩乃&梅&雫の場合

 

 最初に俺は書庫へと足を伸ばした。書庫には軍師である詩乃が剣丞隊に所属して以来収集し続けている多くの本があるため、梅や雫を加えた3人で担当して貰っている。だが、本が多いため人手がもっと必要になるだろうと考え、俺も手伝うことにしたのである。

 

「3人共、何か手伝うことはある、か……」

 

 障子を開けた俺の目に映ったのは――

 

「殿方はこのような行為も好きなのですね。勉強になりますわ」

「詩乃さん、この本借りて行ってもいいですか? こ、後学のためにも是非……」

「良い本に目を付けましたね、雫。それは私が持つ本の中でも特にオススメの1冊です。

 天より舞い降りた青年と筋骨隆々の漢女の純愛物語。最初に見かけた時は理解に苦しみましたが、今では何度も読み返したくなるほどにハマってしまいました。作者の『覇和×亜和』殿の文才には脱帽です」

 

「……」

 

 山積みの本に囲まれながら衆道の本を読み耽る少女達。腐ってやがる、掃除を中断するのが早すぎたんだ。

 

 

 

 俺は無言でその場を後にした。

 

 

 

●その2……綾那&鞠の場合

 

 「にげる」コマンドを使った俺が訪れたのは中庭。そこでは綾那と鞠が草むしりをしているはずである。元気いっぱいで足腰の強い彼女達のことだから、もしかしたらもう終わっているかもしれない。そう考えながら中庭に辿り着くと――

 

 

 

「おりゃおりゃおりゃおりゃなのですー!!」

「うりゃうりゃうりゃうりゃなのー!!」

 

 

 

 中腰になって、生い茂る雑草を引っこ抜いて投げ捨てながら駆けまわる幼女達の姿があった。

 それだけならまだ良かったのだが……。

 

「うわぁ……」

 

 2人は地面を掘り返しながら雑草を引っこ抜いているため、彼女達が駆け抜けた場所は穴だらけになっていた。砂埃が舞い、凹凸だらけになった中庭は、掃除を始める前よりも悪化している。

 

「剣丞様! 言われた通り、雑草を根こそぎ引っこ抜いてやったのです! どや!」

「褒めてほしいの、剣丞!」

「…………ウンソウダネエライネー」

 

 棒読みになりながら頭を撫でてやると、2人は大層喜んだ。これから地面の凹凸を無くす作業をしなければならないと思うと気が重くなるが、可愛い女の子の笑顔を見せられてしまうと、仕方ないかと諦めてしまう。我ながら甘いなぁ。

 

 

 

●その3……八咫烏隊と小波の場合

 

「確か、この辺りだったよな……」

 

 次に向かったのは、長屋からやや離れた場所にある川原。烏や雀、八咫烏隊の娘達には洗濯をお願いしてある。小波はその護衛兼お目付け役だ。

 

 俺が辿り着く頃には半分程終わっており、衣服は物干し竿に通され風に揺られていた。普段から自分達で洗濯をしていただけあって、シワが付かないような干し方をしていて良い手際だった。

 まあ、ここまでは良かったんだが。

 

「ねぇ、小波。これはどういう状況なんだろうね」

「申し訳ありません、ご主人様……」

 

 眼下には、仰向けに転がる小波と、彼女の腕や足に引っ付いて寝息を立てる幼女達。羨ましいぞ、そこ代わって下さい。

 

「短時間の休憩の筈が、気がつけば皆に群がられてしまい、身動きが取れなくなってしまいました。引き離そうにも、穏やかな寝顔を見てしまうと何もできず……」

「ウンソウダネシカタナイネー」

 

 口から漏れるのは、乾いた笑い声。小波がオロオロと何かを言っていたが、あいにく聞き取ることは出来なかった。

 大掃除、今日中に終わるのだろうか……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「で、結局まだ大掃除は終わっていない、と」

 

『はい、面目次第もございません』

 

 長屋の前で、小料理屋の看板娘に土下座する剣丞隊一同。端から見たら非常にシュールな光景なんだろうな。実際、長屋の前を通る人達がドン引きしているし。

 

「剣丞、言っていたわよね。『夕刻までには完了する。大掃除の後でウチのご飯を食べる』って。それが何? 私の目が節穴じゃなければ、大掃除を始める前よりもひどくなっている気がするんだけど」

「……ありのまま今日起こったことを話します。

 真面目に掃除しているだろうと思っていた人が新たな扉を開いていたり、昼寝大会が開かれていたり、隆起しまくった地面を直したり……(中略)……。結局、大掃除は明日以降に持ち越しとなりました。

 何を言っているのかわからないとお思いでしょうが、俺も何が起きたのかさっぱりです。肉体的にも精神的にも疲労が蓄積されました。

 道術とか蒼燕瞬歩とかそんなチャチなモンじゃ断じて無い。もっと恐ろしいモノの片鱗を味わいました」

「はいはい、字数稼ぎ乙。というか敬語は別にいらないから」

 

 実際大変だった。今述べた3つの他にも、調理場の掃除をしていたころと歌夜が増殖した《飛翔するG》を発見して大騒ぎした挙句、ボヤ騒ぎが起きてしまったり。

 追加の掃除道具の買い出しから帰ってきたひよが書庫に向かうと、うっかり転んで書庫の棚が崩れ落ちたり。

 助っ人として来たはずの小夜叉が綾那と模擬戦始めたり。

 

「まったくもう。私は『大掃除お疲れ様』という気持ちを籠めて料理を配達してあげたのよ。こんな荒れ放題の場所で食事をしても美味しくないと思うんだけど? ねぇ、アンタ達」

 

 きよちゃんから放たれるのは、対峙する者を全て萎縮させる程の覇気。気が弱いひよなんか、ガタガタ震えている。今なら一葉や美空、光璃にも勝てるんじゃなかろうか。

 

「くっ……。どういうことだ! このオレが一歩も動けねぇなんて!」

「これが、きよの本気なのですか。綾那と小夜叉の2人がかりでも勝てる気がしないです……」

 

 やはり君達でもダメか。

 

「ね、ねぇ。雀達、もうお腹ペコペコだよ。早くご飯食べさせてよぉ。お姉ちゃんもそう言って…………ヒィ!」

「(ビクッ!)」

 

 きよちゃんがひと睨みすると、雀と烏はそれきり口を閉じた。もっとも、烏は元々喋らないが。

 

「私はね、今とっても機嫌が悪いの。アンタ達は一発屋のご飯を美味しく食べる準備をしてくれなかったし。ここに来る前にも酔っ払いのするおっさんに絡まれたし。アンタら全員に文句でも言わないと気がすまないわ」

 

 それってただの八つ当たりじゃん。きよちゃんって意外と短気――

 

「剣丞、何か失礼なこと考えなかった?」

「イエイエソンナコトハアリマセンヨー」

 

 心を読まれただと!? まさかこれが、きよちゃんのお家流だとでも言うのか!?

 

 

 

「さあ、懺悔の用意はできているかしら? フフフフフ……」

 

 

 

 その後、俺達剣丞隊の懺悔タイムが始まった。BGMは皆の腹の音。ハモった時は思わず『おおっ』と声を出してしまった。

 夕飯にありつけたのは月がてっぺんまで昇った頃。冷め切った握り飯を死んだ目で食べながら俺達全員は心の中で誓った。いつも掃除をしてくれるお手伝いさん達に改めて感謝して、日頃から真面目に掃除をしようと。そして、もう二度ときよちゃんの機嫌を損ねるようなことはしまいと。

 

 

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あとがき

 

 久遠とか美空とかも出そうかと考えましたが、キャラが多くなりすぎると書ききれなくなるので断念しました。

 

 どんちゃん騒ぎを期待していた方には申し訳ない。

 

 まあ、一葉様が来ても「今はまだ余が働く時ではない」とか言ってサボっていそうな気がしますが。

 

 

 次回も気長に待っていてくださると嬉しいです。

 

説明
戦国†恋姫の短編集その10。
気がついたら約2ヶ月ぶりの更新となってしまいました。待っていた方がいたのなら、申し訳ないです。
今回はハーメルンの方で提供されたネタの一部を使用させていただきました。
自分でネタを考えることができなかった非力な私を許してくれ(LPを0にしながら)

ハーメルン様とのマルチ投稿です。
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コメント
うわぁ〜 現状が目に浮かぶ………。 次回もお待ちしていますから。(いた)
>>mokiti1976-2010様 そうです、あの方々です。八百一が嫌いな軍師はいないのです。(レモンジュース)
こっちでも軍師連中は腐るのか…作者の『覇和×亜和』ってもしかしてあの方々?(mokiti1976-2010)
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戦国†恋姫 恋姫 新田剣丞 剣丞隊 きよ 

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