黒外史  第十話
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黒外史  第十話

 

 

「ご主君。洛陽の街に怪しげな賊が現れたという報告が来ていますよ。」

 

「そうか。それじゃあお前は今から牢屋に入ってそこから出てくるな。」

 

 朝の清々しい空気に満たされた一刀の執務室で、今日も爽やかに一日が始まった。

 先日仕官した孔明と一刀の笑顔での会話は、早くもこの部屋での日常風景となっており、見ている人を和ませる。

 

「はっはっはっ♪賊を捕える策を講じる私が牢屋に入っては指示が出せないではないですか♪」

「安心しろ。『怪しげな』って付いてるから間違いなくお前の事だよ。お前が牢屋に入れば万事解決だ♪」

「私は仕官して以来、この城から出てないので、残念ながら私の事ではないですな♪」

「そうかそうか。そのアリバイは俺が綺麗に消しておいてやろう。魔女裁判式に♪」

「私のアリバイ工作は完璧ですよ♪あっはっはっはっはっはっはっ♪」

「やっぱりテメェなんじゃねえか♪あっはっはっはっはっはっはっ♪」

 

 実に心温まる日常の一コマだ。

 

「なんか楽しんどる所すまんけど、一刀はん。実はウチもその賊の姿見とるんや。そいつは明らかに朱里とは別人やったで。」

 

 張遼の言葉に一刀が真顔になった。

 

「張遼。こんな奴を庇っても碌な事は無いぞ。」

「いやいや!そうやのうてやな!その賊は明らかに武人やったんや!顔はけったいな仮面で隠しとったけど!」

 

「仮面っ!!?」

 

 一刀がそのワードを耳にして最初に思い浮かべたのは、もちろん華蝶仮面だ。

 

「その仮面!もしかして蝶の形をしていなかったかっ!?」

 

 一刀は張遼の両肩を掴んで、絶対に首から下を視線に入れない様に顔を近づけた。

 最近説明を省いていたが、張遼の胸には相変わらずブラが巻かれているからだ。

 

「しとった…………一刀はんの知り合いなんか?」

「い、いや………………………そんな奴が居るって噂を耳にした事が有ってな………」

 

 外史に関わる事なので、一刀はそう誤魔化す。

 

「華蝶仮面が洛陽に現れたか………」

 

「かちょう仮面?いや、そいつは五胡風に『マスク・ザ・パピヨン』って名乗っとったで。」

 

「『マスク・ザ・パピヨン』!?……………どんな格好だった?」

 

「白い服を着て、得物は槍。但し、穂先を二本にした特殊な槍やった。」

 

(特徴は星とよく似ている…………やはり『趙子龍』なんだろうか?)

 

 一刀は『マスク・ザ・パピヨン』が趙雲だと仮定して、この時期に洛陽へ現れた意味を考えてみた。

 最初に思いついたのは『何処かの勢力の間者として洛陽の様子を探りに来たのではないか?』だった。

 

(そうであればその勢力とは幽州の『公孫賛』か?)

 

 一刀はこの外史の公孫賛の情報を殆ど聞いていなかった。

 劉備達が居たにも関わらず、その手の話を何も聞き出していない。

 何故かというと一刀は彼らに支援はしていても、深い会話は避けて来たからだ。

 

(余り深く関わったら、三人が菊花の契りとか言って無理やり『連ケツ』してきそうだったしな……………)

 

 一刀にとっては『公孫賛の情報』よりも、『お尻の貞操』の方が大事だった。

 

「そんな特殊な槍の使い手が、幽州の公孫賛の所に居たという話を聞いた事が有りますな。」

 

 孔明が羽毛扇で口元を隠して呟いた。

 

「お前、そんな情報をどうやって入手したんだ?」

 一刀は怪訝な顔で振り返る。

 諸葛均から聞いた話では、孔明はほぼ引き籠り生活をしていた。

 テレビもネットも無いこの世界で引き籠れば、世間の情報は絶対に手に入らない。

 

「私の友人から聞きました。」

「お前に友達なんか居るのか?」

「はっはっはっ♪何を言っています、ご主君。そこの霞殿を始め、北郷軍の方々とは真名を交換した間柄。当然、襄陽にも友くらいはおりますよ。」

 

(俺は、お前がその相手を本当に『友』だと思っているのか、問い質したかったんだがな。

張遼が傷つくから今は突っ込まないでおいてやる!)

 

「その友達の名前は?」

「徐元直と?士元といいます。」

 

(…………………正史の孔明も変人扱いされてたけど徐庶と?統は理解者だったもんな。)

 

「話を戻しますが、その二人から聞いた情報では、その槍使いは公孫賛の下を離れたとか。」

 

「離れた……………そうか………」

 

 一刀は他の外史での星の行動や、正史の趙雲の事が有るので納得する。

 

(しかし、そうなると趙雲が洛陽に現れた目的は何だ?)

 

「まあ、洛陽に現れた槍使いが、公孫賛の所に居た者とは限りませんが。」

 

「はあ!?お前が言い出した事じゃないか!」

 

「いえいえ、私が今語ったのは巷で囁かれる噂です。何処かでその噂を聞いた者が、その槍使いを装っている可能性も有りますよ。」

 

 孔明の眼が怪しく光る。

 

「こうして噂になるくらいですから、公孫賛の所に居た槍使いはかなりの腕の筈。霞殿は先程見たと言われてましたが、その時の詳細を教えて頂けますか?」

 

「実はそれ、昨日の話やねん。数日前から城壁に変な奴が勝手に登って来るいう報告があってな。警備の兵では捕まえられんっちゅう事で、ウチが出張ってん。

そんでウチが見回っとる時にそいつが現れよったんや。

高笑いをして城壁の上に立って、『私の名はマスク・ザ・パピヨン』っていきなり名乗りよってな。

向こうが名乗ったんならウチも名乗らな失礼や思うて『ウチは天の御遣い北郷一刀の将、張文遠や!』って言うたんや。」

 

(どう考えても本名じゃないのに、ちゃんと名乗り返してあげるなんて………)

 一刀は可哀想な者を見る目で張遼を見ていた。

 

「んで、あいつはウチの名前を聞いて、今度は挑発してきよった。

『噂の天の御遣いの将の力!試させてもらおうっ!』」

 

 張遼は『マスク・ザ・パピヨン』のセリフに感情を込めて、完璧に再現していた。

 孔明が『詳細に』と言ったのを何か勘違いしているらしい。

 

「『捕まえられるなら捕まえてご覧なさぁい。うふふふふ〜♪』って走り出しよってな、ウチも『まて、こいつめ〜♪』って追いかけたんやけど、城壁を五周してしも捕まえられんで逃げられてしもた。」

 

 本来の星と霞なら悪ふざけでそんな事もしそうでは有る。

 だが、目の前の張遼が浜辺のバカップルみたいに男を追いかけているのを想像してしまった一刀はゲンナリした。

 

「ほんであいつは去り際に『私を捕らえたければ天の御遣いを連れて来るがいい!ははははははは♪』と言い残して街に消えよった。」

 

「これはいけませんな。ご主君を名指しされてしまった以上は何としても捕らえねばなりません。では、早速参りましょう!」

 

 孔明は即座に深刻な声で決断を下した。

 その顔は満面の笑顔だったが。

 

「……………お前は何を考えてやがる?」

 

 一刀は警戒心剥き出しで孔明を睨んだ。

 

「その賊を捕える方法に決まっているじゃ有りませんか。まあ、面白そうな方ですので仲間にしようとも考えていますが。」

 

「仲間に?」

 

「霞殿を翻弄するくらいの能力を持っている様ですから、我が軍の戦力強化になりますよ。

ご主君は見つけてくれた霞殿にご褒美を差し上げてもよろしいのではないですか?」

 

「褒美か………城壁を五周も追い駆けてくれたんだからな……どんな方法であれ…」

 

 賊を逃がしてしまった張遼を慰める意味でも、一刀は声を掛けようと再び張遼に顔を向ける。

 

 張遼は目を閉じ、唇を突き出していた。

 ちなみに一刀の手は張遼の肩を掴んだままである。

 

ズゴンッ!!

 

 反射的に一刀は頭突きを張遼の鼻っ面に叩き込んだ。

 

「げはあっ!」

 

 張遼はまるで稟の様に鼻血を噴いて倒れた。

 

「……………え、ええパチキや………ご、ごほうびもろたで♪」

 

 張遼が喜んでいる様なので問題は無いようだ。

 

 

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 一刀が何事も無かった様に張遼に背を向けた時、部屋の扉が開いた。

 

「ウホッ!いい男?」

 

 部屋の出入り口で、見知らぬワイルドなオヤジが一刀を熱い視線で見つめている。

 久々に聞いたその言葉で、一刀は警戒するより先に暗澹たる気分になった。

 

「おっと、失礼♪儂の名前は馬寿成。西涼の馬騰と言った方が分かりやすいかな?」

 

「え!?西涼の馬騰!?」

 

 一刀はお尻を庇いながら、目の前のオヤジを注意深く観察する。

 がっしりとした体躯で『歴戦の勇者』と言う言葉が具現化した様な男だった。

 その後ろから、馬騰とは正反対に小柄で華奢な董卓が現れる。

 状況から考えて董卓が馬騰を連れて来たのだろうと一刀、孔明、張遼は判断した。

 しかし董卓はイラついた顔をして大股で一刀に向かって来る。

 

「おい!北郷!あの蝶々野郎が現れたんだな!」

 

 董卓は一刀の胸元を掴んで、不機嫌に言い放つ。

 実はこれまでどの外史でも、董卓は華蝶仮面と対峙してきた。

 いや、おちょくられてきたと言った方が正しい。

 

「董卓、落ち着け。確かにそれっぽいのは現れたけど、そいつは『マスク・ザ・パピヨン』と名乗ってるんだ。」

 

 一刀は董卓の手を握って、冷静に語りかけた。

 

「なんだそりゃ?…………やっぱりこの外史じゃ色々と歪んじまうのか………」

 

 董卓は一刀の胸倉を掴んだまま思案し始めた。

「それよりも、董卓。お前、馬騰と知り合いなのか?」

 

「ンあ?テメェはオレの領地が何処だか忘れてんじゃねえだろうな?」

 

 片眉を吊り上げて睨む董卓は、月とは別人だと認識していなければトラウマとなって人間不信に陥るレベルの表情をしていた。

 

「いやそれは判ってるけど………お前今まで教えてくれなかったじゃん。」

 

「それはなぁ……」

 董卓はそれまでの不機嫌な表情から一転して、疲れウンザリしたものに変わった。

 

「月くんずるいよ!儂が西涼に戻ってる間にそんないい男とウホッな関係になってるなんて!」

 

 一刀の目が点になった。

 何しろ先程までワイルドオヤジと思っていた人間が、貂蝉の様に身体をくねらせているのだから。

 

「真名で呼ぶなつってんだろうが、ションベンオヤジ!それにこいつ、北郷一刀はオレが昔から狙ってた獲物なんだよっ!」

 

「あぁ♪月きゅんの可愛い顔で容赦のない罵倒♪お尻がキュンキュンしちゃう〜?」

 

 一刀は錆びたブリキの人形の様に首を動かして董卓に顔を戻した。

「……………なあ、董卓……………この人本当に馬騰さん?」

 

 その問には馬騰本人が答えた。

 

「如何にも!儂こそが戦場に於いて『総攻めの馬騰』!閨では『総受けの寿成』と呼ばれたその人よっ!!真名は翔だ!」

 馬騰は胸を張って堂々と宣言した。

 

「「そんな個人情報いらんわ。」」

 

 初めて一刀と董卓の息がピッタリ合った瞬間だった。

 

「おおそうだっ!月きゅんと一刀きゅんの二人から同時に攻められるというのもアリだな♪」

 

「なにバカなこと言ってるんだよ、親父!」

「((鶸|るお))の言うとおりだぞ、バカ親父!」

 

 そう言って出入り口の陰から美形の青年が二人飛び出して来た。

 更にもう二人、青少年と少年が入って来る。

 

「お父さんズルいよぅ!((蒼|そう))も仲間に入れてぇ♪」

「そん時は蒲公英も呼んでね〜♪」

 

「「蒼!蒲公英!お前らも黙ってろっ!!」」

 

 

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 真面目な青年二人によって、場が落ち着きを取り戻した。

 

「バカ親父が迷惑かけた…………あたしは馬超。このバカ親父の長男だ。」

 

 一刀は声で馬超だとすぐに判っていた。

 そしてこの真面目な性格に安堵する。

(良かった………これなら耐えられる…………)

 

「本当にスイマセン、北郷殿。わたしは次男の馬休です。」

 

(こっちも真面目な奴だ!………そうだよ!俺はこういう人材が欲しかったんだよ!)

 

 だが、一刀はひとつ見落としていた。

 いや、見ていなかったと言うべきか。

 一刀は既に長い時間をこの外史で過ごす内に、おっさんとアニキのスカートを視界に入れない様になっていたのだ!

 そのため、馬超と馬休がミニスカートである事に気付いていなかった!

 

「蒼は三男で馬鉄っていうんだ♪よろしくね♪」

「蒲公英は三人の従弟で馬岱だよ♪」

 

(この中で一番の危険人物は馬岱か!性格がたんぽぽと同じなら、後ろも前も油断出来ないぞ!!)

 

「さて、こちらの自己紹介も終わった所で………北郷一刀殿。」

 

 馬騰が初めて真面目な顔になった。

 

「この度の袁紹の反乱から劉協さまと劉弁さまを救って頂いた事。誠に感謝する。」

 

 馬騰は一刀に深々と頭を下げ、馬超、馬休、馬鉄、馬岱もそれに倣った。

 

「先程、劉協さまと劉弁さまから事の詳細を教えて頂いた。北郷殿も我ら馬一族と同じに漢王朝の忠臣であると。これからは力を合わせ、逆賊共を倒そう。」

 

 この言葉から馬騰の事を、伏寿となった劉弁が正体を明かす程の信頼をしているのが解る。

 そして馬騰の瞳に燃える信念を感じ取り、一刀も深く頭を下げる。

 

「こちらこそ宜しくお願いします。」

 

 その態度に馬騰は、初めて『北郷一刀という人間』を見た気がして口元が緩んだ。

 

「劉弁さまが袁紹に殺され、劉協さまが帝に即位されたと報告が来た時、儂は猛烈に後悔した。洛陽から離れるべきでは無かったと。儂も劉弁さまと劉協さまが仲の良い兄弟である事を知っていたのに…………」

 

「馬騰殿…………」

(そうか…………この人も俺と同じ様にあの二人を下らない後継者争いから救いたかったんだな………)

 

 

「儂の夢はお二人に我が尻を使って頂く事!その夢がまた見られると分かった時!儂はっ!」

 

 

ゴキッ!

 

 熱弁を奮い始めた馬騰は馬超に殴られ、潰れた蛙の様に床へ倒れた。

 

「ごめんな、こんなバカな親父で……これでも戦じゃ本当に強いんだ……あ、そうだ!さっき賊を捕まえに行く話をしてただろ。盗み聞きする気は無かったんだけど聞こえちまってさ。あたし達にも協力させてくれよ♪」

 

 馬超の申し出は自分達の力を一刀に見せる為と、一刀を含め北郷軍の力を測る為だった。

 一刀は馬超の考えを読んで頷く。

 馬超ならば言葉を交わす以上にその方が解り合えるという確信が有った。

 

「そうだ、俺の所の将を紹介しておく。」

 

 それまで控えていた張遼が一刀に応え、前に出た。

 

「ウチは張遼文遠や。よろしゅうな。」

 

「へえ、あんたがあの『神速』か。」

 馬超の言葉に侮りの色は無い。素直に興味を持った目をしていた。

 

「ああ、そら一刀はん達に会う前に付いた渾名や。一刀はんに比べたらウチなんか鈍亀やで。」

 

「「「「ええっ!?」」」」

 馬超だけでは無く、馬休、馬鉄、馬岱も驚きの声を上げ、一刀を振り返った。

 

「それはまあ………賊を捕まえる時に、機会が有ったら見せるよ。それよりも馬超達は張遼の事を知ってたんだな。」

 

「あたしらの所には騎馬で強い奴の噂はすぐに聞こえて来るからな。河北では『神速の張遼』と『白馬義従の公孫賛』は特に有名だぜ♪」

 

(董卓の奴があんな感じに言い淀むから心配になったけど、結構いい感じじゃないか♪)

 

「それと、こっちは軍師の……………お前、何してんの?」

 

 孔明は凄いスピードでメモを書きまくっていた。

 

「いえ、妄想が溢れて止まらなくなったので、書き綴っていました。もう終わりましたのでご安心を。」

 

 言い終えると同時に筆を置いて馬超に頭を下げる。

「初めまして。私は諸葛孔明と申します。噂に名高い『錦馬超』殿にお会い出来て光栄です。」

 

「ああ、よろしく頼むぜ♪」

 

「それでは早速ですが、件の賊を捕えに参りましょう。」

 

「ちょっと待った!その前に!」

 

 馬超は今までで一番緊迫した顔で孔明を睨んでいた。

 

 

「ここから一番近い厠はどこだ?」

 

 

 よく見ると馬超、馬休、馬鉄の三人が額に脂汗を流している。

「厠でしたら、そこを出て左の突き当りに…」

 

「わかったありがとう!」

「あ!翠兄さんズルい!」

「蒼もう限界だから先に行かせて!」

 

 三人は争いながら部屋を飛び出して行った。

 

「………………なあ、董卓…………」

「これだからこいつらメンドくせぇんだよ………おい、馬岱!このおっさん、気絶しながら漏らしてんぞ。何とかしろ!」

 

「ええ?伯父さんまたなの?しょうがないなぁ。」

 

 アンモニア臭の漂いだした部屋で一刀はゲンナリし、張遼は苦笑し、孔明は微笑んだ。

 

「これはまた楽しい人達が加わりましたね♪」

 

「楽しくねえっ!!」

 

 

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 一刀はひとりで城壁の上につっ立っていた。

 

 馬超、馬休、馬鉄が厠から戻り、馬岱が馬騰のシモの世話を終え、その馬騰が意識を取り戻してから、一刀達は北郷軍の将と合流した。

 そこで孔明が『マスク・ザ・パピヨン』を捕える策を伝えた。

 

 その策とは、簡単に言えば一刀を囮に『マスク・ザ・パピヨン』を誘き出し、全員で取り囲んで捕えるという物である。

 

 そんな訳で現在実行中なのだが、一刀が城壁の上に来てから既に二時間が経過していた。

 

「張遼の話からすぐに出て来るかと思ってたのに……………何かバカバカしくなってきたぞ………」

 

 一刀は暇を持て余して何気なく城壁の下を見ると、マスク・ザ・パピヨンを捕まえる為に隠れている筈の全員が飯店の軒先に卓を並べて、飲茶をしていた。

 その中には左慈と于吉もしっかり混じっている。

 笑い声も聞こえ、すっかり馬一族との懇親会となっている様だ。

 

「うがああああああああああああああああっ!やってられるかああああああああっ!!」

 

 一刀は走って城壁を降り、全員の前にやって来た。

 

「おや?どうしました、ご主君?」

 

 孔明は悪びれる事無く、湯呑を手にしながら平然と問い掛けてきた。

 

「小休止だっ!」

 

 一刀は肩を怒らせ、ドカリと縁台に腰掛けた。

 そこに陳宮が申し訳なさそうに湯呑を持ってやって来る。

 

「あ、あの、お疲れ様なのです………」

 

「あ、ああ。ありがとうな、音々音。」

 

 態度から陳宮は何度も声を掛けようとしてくれていたと一刀は理解した。

 孔明を始めとする何人かに止められ、来られなかったに違いない。

 一刀が微笑みかけると、陳宮は安堵の息を吐いた後、顔を赤くしてモジモジし始めた。

 

「た、食べ物も持って来るのです!」

 

 走って飯店の中に入っていく陳宮を目で追った一刀は少し癒された気分だった。

 陳宮から貰ったお茶を飲むと、心が更に落ち着いた。

 視界の端に肉まんが有るのに気付き手を伸ばす。

 

「音々音は冷めたから新しいのを持って来てくれる気なんだな。別にこれでも構わないのに……………ん?まだ温かいじゃないか、この肉まん。」

 

 

「それは私のおいなりさん。」

 

 

 一刀の目に大きな蝶の仮面が映った。

 

 一刀は恐る恐る自分の右手に視線を動かし、握っている物を確認する。

 

 

「ぎゃあああああああああああああああああああああああああっ!!」

 

 

 その叫び声に驚いた全員が見た物は、まるで中二病患者の様に左手で右手首を掴んで転げまわる一刀と、ブリッジをする様に身体を畳んで縁台の横で擬態する仮面の変態だった。

 

「「しまった!その手が有ったか!!」」

 

 貂蝉と卑弥呼が心底悔しそうに叫んだ。

 それは他の何人かの心の声でもあった。

 

「はーーーっはっはっはっはっ!初めまして、天の御遣い北郷一刀殿。そして北郷軍の猛将達!私は美の化身『マスク・ザ・パピヨン』っ!!」

 

 マスク・ザ・パピヨンはバネ仕掛けのカラクリの様に跳ねて立ち上がった。

 その姿は星と同じ白いタイツ状の足袋と赤い花緒の黒い下駄。

 しかし同じなのはそこまでで、他に身に着けているのは仮面と白いブーメランパンツだけだった。

 この姿を張遼は『白い服を着ていた』と表現したのだ。

 

「マスク・ザ・パピヨン!あなた仮面の力に飲まれているわねぇ〜!」

「うむ!真の仮面の戦士と比べ、凰羅がまるで足りぬわっ!」

 

 貂蝉と卑弥呼は指を差して『マスク・ザ・パピヨン』に指摘した。

 

「ふん!その様な大口は私に勝ってから言うのだな!」

 

「やはり口で言っても解らぬ様だな。」

「ここは本当の力を見せてあげましょ〜〜〜う!気分はエ〜〜〜クスタシ〜〜〜〜♪」

 

 貂蝉が空中に飛び上がると、その体が輝いた!

 

「クロスアウッ!!」

 

 卑弥呼も上着を脱いでジャンプした!

 

 そのまま二人は城壁の上に降り立つ。

 

 

「愛と正義を守るため!」

 

「我らの夢を守るため!」

 

「「美々しき蝶が今舞い降りるぅ!!」」

 

 

「艶めく踊り子ぉ!貂華蝶!」

「恋の預言者!巫女華蝶!」

 

 

「「華蝶の宿命により只今参上ぅ♪」」

 

 初めてその姿を見る者達は、全員が目を奪われていた。

 それはマスク・ザ・パピヨンも例外ではない。

 

「う、美しい…………ならば私も本気を出そうではないかっ!」

 

 マスク・ザ・パピヨンはブーメランパンツの両脇を指に掛け、高速で腕を振り回し出した!

 

「ふおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおっ!!」

 

 パンツの両脇をクロスさせる様に肩に掛けると、マスク・ザ・パピヨンの凰羅が飛躍的に増大した!

 

「はーーーーっはっはっはっはっ!これでも私が未熟と」

「うるせえええええええええええええええええええええええええええええええっ!!!」

 

 ようやくダメージから回復した一刀の怒りの拳がマスク・ザ・パピヨンの顔面を捉えたっ!

 

ドゴオオオオオオオォォォオオォォオオオオンッ!!!

 

 吹っ飛んだマスク・ザ・パピヨンは城壁にぶち当たって大穴を開け、大量の土煙を上げた。

 その様子を馬一族の面々は唖然と眺め、身動きが止まっている。

 やがて土煙は晴れると、マスク・ザ・パピヨンは壁から下半身だけを出して失禁していた。

 

「はっはっはっ♪私の狙い通り、マスク・ザ・パピヨンを捕える事が出来ました♪」

 

 いつもの様に羽毛扇で口元を隠し、孔明はドヤ顔で言い切る。

 

 

「嘘ぬかせっ!!」

 

 

 一刀は近くの井戸で手を洗いながら突っ込んだ。

 

 

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「私の名は趙雲子龍と申します。この度は救って頂きありがとうございました………」

 

 捕えた『マスク・ザ・パピヨン』を城に連れ帰り、治療をして寝台に寝かせていたのだが、目を覚ました彼は憑き物が落ちた様に人が変わっていた。

 貂蝉と卑弥呼が指摘した通り、趙雲は仮面に精神を乗っ取られていたのだ。

 

「気にしないで、趙雲ちゃん。あなたなら仮面を使いこなす事ができる様になるわ♪」

「うむ。我ら二人が鍛え直してやるから安心せい。がっはっはっはっ♪」

 

 趙雲は貂蝉と卑弥呼と固い握手をして涙を流した。

 そして趙雲は一刀に向き直ると深々と頭を下げる。

 

「北郷様、貴方は私の恩人です!どうか主と呼ばせて下さい!」

 

「それはまあ………構わないけど………」

 

 一刀は趙雲の話を聞いて同情していたし、仲間にする事自体は反対ではなかった。

 ただ、孔明に踊らされている様で、納得しきれないのだ。

 

「ありがとうございます!大事な所をあの様にまさぐられた以上は、私の体は主の物です!この命、お好きなようにお使い下さい!」

 

 一刀はまた暴れだしそうになる右手を左手で押さえ込んだ。

 

「それでは主!早速ですがお伝えせねばならぬ事がございます!」

 

 趙雲の真剣な眼差しに一刀は頷いた。

 

 

「袁紹が反北郷連合の檄を諸侯に呼び掛ける書簡を送っています!それには帝の廃位も記されているらしいのですっ!」

 

 

「なんだって!?帝の廃位っ!?」

 

 一刀は連合の結成は有るだろうと予測していた。しかし帝の廃位は完全に予想外だった。

 

「帝を廃するなんて、諸侯が賛同しないだろう!」

 

「いえ………袁紹は劉虞殿を次期皇帝に立て、檄文をばら撒いています。我が友、公孫賛伯珪殿をお救い下さい!」

 

 

 

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あとがき

 

 

今回は今までで一番変態度が高い気がします。

 

馬騰は当初、孫堅と同じくらい怖いオヤジにするつもりだったのですが

改めて字(あざな)を見ると寿成。

寿成⇒受精⇒総受け

頭の中で瞬時に決まり、違う意味で怖いオヤジになりましたw

真名の『翔』は翠と並べると『しょうすい』www

 

馬休と馬鉄は作品紹介にも書いた通り『恋姫†英雄譚』から

馬休 真名:鶸(るお)

馬鉄 真名:蒼(そう)

Baseson様は「フェラゲー」から「シッコゲー」に移行させたいのでしょうか?

もしそうなら、ファンとして全力で応援致しますwww

 

マスク・ザ・パピヨン

こちらも当初はジャイアントロボの『マスク・ザ・レッド』を

ネタにする筈だったのですが

武装錬金の『パピヨン』を教えて頂き、そちらを調べている内に

気が付いたら原典である変態仮面に行き着いてしまいました。

 

 

さて、いよいよ次回から反北郷連合が動き出します!

 

 

 

説明

初登場キャラ:馬騰、馬超、馬休、馬鉄、馬岱

馬休と馬鉄は恋姫†英雄譚から
http://baseson.nexton-net.jp/koihime-eiyuutan/character/index.html

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コメント
さすらいのハリマエさん>変態仮面は最高ですwww(雷起)
nakuさん>『ん』がつく前にケムリが出るまでヤって強制終了の可能性もw(雷起)
よく見たら、変態仮面の一部分ジャン?!あれはあれで面白かった・・・・(黄昏☆ハリマエ)
「り…立派なイチモツ」「つ…突き刺したい」「い…逝くううぅぅうっ!」『アッーーーーーー?』      こんな遊びですねwww(雷起)
nakuさん>今、思い付いたのですが、一刀が思い切り握った所でパピヨンがイっちゃうのも有りだったかも。 陳宮大人気!やはりショタを集めたシーンをやらねば!(雷起)
牛乳魔人さん>潰された方は地獄の苦しみですが、握り潰してしまった方はその感触がトラウマとなって一生苦しむと思います………あ、本来の恋姫になら握り潰されるのも…(;゚∀゚)=3ハァハァ(雷起)
禁玉⇒金球さん>馬超の「俺のケツにションベン」もですが、馬鉄の公式キャラ紹介に書かれていたセリフもいつか言わせたいですねwww そして陳宮を始め、ショタキャラ全員と一刀の会話シーンを近いうちにヤリたいです!(雷起)
北山翔馬さん>新キャラが、被ってでも個性を手に入れているから、残念さんはますますおいてけぼりにwww(雷起)
北山翔馬さん>喜多見康太さんへの見事な返し!ありがとうございますwww(雷起)
殴って退場さん>一刀が変態の精神汚染から逃れる為に、男の娘に手を………これが一番可能性が高そうですwww(雷起)
全身タイツ筋肉さん>マスク・ザ・パピヨンの再登場をお楽しみに♪(雷起)
さすらいのハリマエさん>自分も頭の中も本作側が浸透する前にこっちで染まりそうです。それに公式から怒られるのではと心配ですw(雷起)
「ん?まだ温かいじゃないか、この肉まん」「それは私のおいなりさん」「ぎゃああああああっ!!」 グチャ 「ぐぎゃあああああああああああああああああああああああああっ!!」 だと思ってなんか股間がヒュンッてなった(牛乳魔人)
『友』突っ込まない…変態仮面…失禁一家…きっっっっつー!!吹っ切れてきたと思っていたのだがまだ私は『そっち側』の住人ではなかったようだほっとした、何時か※したように『俺のケツにションベン以下自粛』が来そう。音々が一刀の恋乙男の最右翼に上昇中だが…youヤッちゃいなyo(禁玉⇒金球)
失禁家族に超変態仮面。英雄譚もそうですが、個性カブるのってどうなんですかね?www どこかの残念さんが黙っていないような気がwww(喜多見功多)
北山でーす。喜多見から「どうしたらいいかわからないの」とメールを貰い、見てみたらなるほどwww とりあえず「喜べばいいと思うよ」とは返しておきましたwww(喜多見功多)
今回も精神的にきつかったww。変態度を増していく度に一刀の純潔が破られるのが時間の問題のような気がするww。(殴って退場)
馬騰もきつかったがパピヨンが全部持っていった感が・・・(全身タイツ筋肉)
このままだと本作のほうのとらえ方がこっち(ウホッ!やらないか?)と思ってしまいそうで怖い・・・・(黄昏☆ハリマエ)
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