東方騒園義 えくすとら3
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東方騒園義 えくすとら3

『守矢神社の新年会』

 

 正月も過ぎ、新年の空気も街から消えた週末のとある日。

「「「新年あけましておめでとうございます」」」

 守矢神社の客間では晴れ着を着た三人の挨拶が響きわたった。

 守矢神社では身内による遅めの新年会が開かれていた。

「初詣の騒動も終わって、ようやくこれをやって年が明けたって気になるね」

 守矢神社の現責任者であり、家主でもある八坂神奈子が手に持ったお猪口に継がれた日本酒を豪快に飲み干して笑みをこぼす。

「そんな事言ったって、神奈子は何もしてないじゃんかよう」

「こら、いつも言ってるだろ? 目上の人間には『さん』付けしろって」

「えー? だって、神奈子だしぃ」

「だってじゃない」

 そう言って神奈子と言い合いをしているのは、洩矢諏訪子。

 東風谷早苗の従妹にあたり、今はこの守矢神社に東方学園の小学部に通う為に下宿をしているのだった。

「二人ともそこまでにしましょうよ。 折角の新年の席なんですから、つまらない話はまた今度にしましょうよ」

 この守矢神社を今切り盛りしているのは神奈子ではなく、間違いなく早苗であり神奈子は早苗が新年の行事を行っているのをただ見ていただけであったのだった。

「神奈子は見てるだけで、ホント何もしてなかったんだし……」

「そんな事言っても早苗が自分でやるって言ってた訳だし、私の所為じゃないよ?」

「それはそうだけど……」

「そうですよ。 私がやるって言ったんですから神奈子さんの所為じゃないですよ」

 ここ数年、諏訪子が守矢神社に下宿するようになってから行われているやりとりに、早苗は少しほっと安堵のため息をついた。

「ん? どうしたの?」

 そんな早苗の事を諏訪子は不思議そうに見つめた。

「……なんでもないよ。 ただこういう毎日がいつも続けばいいなって……」

 どこかしんみりした早苗の言葉に思わず神奈子も諏訪子も黙り込んでしまう。

 そんな所に、その空気を打ち消すかのように来客を知らせるチャイムが鳴り響いたのだった。

「はーい、どなたですか?」

 ゆっくりと立ち上がった早苗が、来客を迎えに玄関まで向かった。

 引き戸の扉を開けるとそこにいたのは博霊霊夢と伊吹萃香であった。

 霊夢の姿を見た早苗は思わず身構える。

「い、一体何の用よ、わざわざ家までやって来るなんて!!」

「私が来たからってそんな風に身構えなくても良いじゃない」

 どこかがっかりしたように肩を落とした、霊夢はため息を一つ吐く。

「何って今年はまだ新年の挨拶をしに来てなかったから、と思ってね」

 霊夢のその言葉を打ち消すかのように伊吹が楽しそうに口を開いた。

「ホントは今日辺りいつもの新年会をやってるんじゃないかな?って思ってやって来たんだよな? 霊夢?」

 楽しそうにそう言うと萃香は手に持った荷物をすっと早苗の前に突き出す。

「これ霊夢からの差し入れ、松前漬けだって」

 そんなやりとりを早苗達がしていると諏訪子が奥から姿を現した。

「早苗ー、どうしたの?」

 早苗の後ろからひょいと顔を覗かせる諏訪子は霊夢達の姿を見ると早苗の後ろから手を振った。

「全然戻ってこないから、どうしたかと思って来てみたけど、霊夢達が来てたんなら早く教えてくれれば良かったのに」

 残念そうにしている諏訪子を見て、萃香が嬉しそうに手を振った。

 守矢神社で博麗神社の事をライバル視しているのは主に早苗だけであった。

「諏訪子あけおめー、今日の新年会に参加してもいい?」

「いいよー」

「ちょ……諏訪子……」

 あっけらかんと承諾をされ早苗が慌てるが、諏訪子は何故早苗が慌ててるのか判らずにきょとんと早苗の事を見つめる。

「まーまー、良いって言うんだし、お邪魔するねー、霊夢入ろう?」

「ちょ……萃香!!」

 そう言って霊夢の手を引いて霊夢と萃香は中へと入り、その二人を慌てて早苗と諏訪子は追いかけたのだった。

 

「ねーねー霊夢ー、これ美味しいよー?」

 上機嫌で手に持ったグラスを萃香は差し出す。

 差し出されたグラスを受け取りそこから漂ってくる香りの正体に気がついた霊夢は慌てる。

「ちょっとこれお酒じゃない。 誰よ萃香にお酒を飲ませたの」

 霊夢はそう言って部屋の中を見渡した。

 だがそこの中でお酒を飲んでいるのはただ一人しかいなかった。

「神奈子さん? まさかあなたが飲ませた訳じゃないですよね?」

「そんな勿体な……、じゃないそんな事をするわけ無いじゃないか……、あ……」

 反論しようとした神奈子だったが、何か思い出したような表情を浮かべる。

「そう言えばさっきそこのグラスについだカクテルが無くなってるな……。 ひょっとして……?」

 そこまで聞くと霊夢は萃香に聞いた。

「ねぇ、萃香。さっきそこにあった飲み物飲んだ?」

「んー? そこにあったオレンジジュースなら飲んだよー」

 ふわふわ揺れながら、空になったグラスを指さして萃香が答える。

「やっぱり……」

 指さされたグラスの臭いをかいで霊夢は頭を抱えた。

「優秀な霊夢さんどーしたんですかー?」

 そこへ追い打ちを掛けるように、頬を赤らめた早苗が霊夢に抱きついてくる。

「ちょ……早苗、あなたも飲んだでしょう!!」

「飲んだって何をー?」

 気が付くと、萃香と同じようにふわふわしている早苗を見て霊夢は神奈子を睨み付けた。

「何でこうなりそうなのに止めてくれ無かったんですかっ?」

 早苗に抱きつかれ、それを必死に振り払いながら、神奈子を非難するが、当の神奈子は聞こえないふりを決め込んでいた。

「なーなー、霊夢ー? 暑くないかー?」

 唐突に萃香がそんな事を言い出す。

「え? 暑くなんて……」

「そうかー? 私は暑いよー、早苗もそう思うよね?」

「そうですねー。 そう言われると暑い気がしますねー」

 早苗が萃香の意見に同意すると、何やら楽しそうに萃香は手をわきわきさえて霊夢に近寄ってきた。

「そういう訳で暖房の効きすぎみたいだから霊夢も脱いで涼しくなろー」

「良いですねー、涼しくなりましょー」

 そんな事を言い出しながら萃香と早苗は揃って霊夢の服を脱がしにかかる。

「ちょ……やめなさい、二人とも、って見てないで助けてよー」

 ちゃっかり傍観者を決め込んでいる諏訪子と神奈子に霊夢は助けを求めるが、諏訪子は困ったような笑みを浮かべ、神奈子はニヤニヤ楽しそうな笑みを浮かべていた。

「ちょ……そこはくすぐったいって……」

「良いじゃん良いじゃん、無礼講無礼講」

「そうですよ、霊夢、今日は無礼講です」

 萃香と早苗は口々にそんな事を言いながら霊夢ににじり寄った。

 霊夢はそのまま白い肌を覗かせるはだけた服を直す事も出来ずに諏訪子の後ろに隠れようとするが、早苗の伸ばした手に捕まって、そのまま引き倒されてしまう。

 そして早苗と萃香の二人は霊夢の服に手を掛けようとするが、そこで力尽きたように二人とも動きを止める。

 目を閉じていた霊夢はそろそろと瞳を開けると、自分の膝に覆い被さるようにして寝息を立てている早苗と萃香の姿を見た。

 そこで大きく安堵のため息をつくと、困ったように二人を指さした。

「二人とも寝ちゃったけど、どうしましょう?」

「まー、その二人が言っていた通り今日は無礼講だ、そのまま寝かしてやんなよ」

「あ、私毛布取ってくるね」

 そう言って諏訪子が部屋を出て行く。

「早苗がこんな風にはしゃぐのは、霊夢がいるときくらいなんだ、大目に見てやってくれ、な?」

 神奈子が普段のいい加減さからは考えられないような、真面目な口調で霊夢に話しかけた。

「ええ、そうですね。 私も彼女の良いライバルでいられるように今年も頑張りますよ」

「そうか、すまんな」

 どこか照れたような様子で神奈子が鼻の頭を掻いて、寝息を立てている早苗の事を見つめた。

「毛布取ってきたよー、ってどうしたの?」

 どこか先ほどの賑やかな雰囲気とは違う霊夢と神奈子の雰囲気を諏訪子は感じ取る。

「ん……? 何でもないよ、毛布ありがとな」

 霊夢に萃香の分の毛布を渡しながら神奈子はそう言うと、寝息を立てる早苗に毛布を掛ける。

「今年は肩肘張らずに上手くやんなよ」

 そう神奈子は小さく呟き、早苗の白い額にかかった髪の毛をすいた。

 守矢神社の新年はこうやって、賑やかながらもどこかしんみりして始まったのだった。

 

Fin

 

Written by RenFujimori 2009.January.

Copyrightc 上海アリス幻樂団様&藤杜錬

 

 

 

説明
『東方騒園義』は私がサイトで展開している東方Projectの二次創作小説です。
現代の高校を舞台にした異世界パラレル物の小説でえくすとらシリーズは番外編の短編シリーズです。
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東方Project 博麗霊夢 東風谷早苗 伊吹萃香 現代学園物 オリジナル設定 東方騒園義 

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