オタクヘッドで何が悪い!
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   オタクヘッドで何が悪い!

                         

 

「ヘッド!今度の会合はいつ開きましょう?水曜ですかね?」

 

 そう俺に問いかけたのは白の特攻服に身を包んで白色に染めた髪をオールバックにしたヘアスタイルのちょっと時代遅れの恰好をした誰がどう見てもヤンキ―、篠塚(しのづか)だった。

 

「ヘッド?聞こえてますか?」

 

 篠塚は不思議そうに俺のほうを覗き込む。

 ちなみにここは学校の部室棟の空き室。昔は盛んだったこの高校の部活も野球部やサッカー部のような定番の部活ぐらいしか残っていない。しかも基本的に空き教室に対しては学校側はノータッチなので俺達のような不良が占拠しても何も言われない。

 

「水曜がダメだといつが良いですかね、金曜?それとも来週の……」

「うるせえ!ちょっと今フリスちゃんの萌えボイス聞いてんだ!静かにしてろ!」

「は、ハイィ!すんませんっした!」

「あと、会合は明日火曜日に開く。他にもそうちゃんと伝えとけ!」

「はい!」

 俺は持っている携帯ゲーム機をスリープモードにするとイヤホンを外し、篠塚に叫ぶ。

 じゃあなんでこの俺鬼頭(きとう)健哉(けんや)がそんな不良の巣窟にいるか、賢い皆さんならもうお気付きだろう。

 

 

 鬼頭健哉、十六歳。ヲタク。ここ、北辰高等学校で不良のヘッドをしています。

 

 

 なぜこうなったのかはちょっとだけ時を遡(さかのぼ)る。

 

 

 バリバリのアニメオタクである両親の血をしっかりと受け継いだ俺はやっぱりオタクとして育った。

 オタクの人生は楽じゃない。ゲームが強い程度ならまだ友達といえる奴はいたけど、弱冠九歳にして二次元に俺の嫁を見つけた辺りから何かがおかしくなった気がする。

 からかわれ、馬鹿にされ、時にいじめられるターゲットになったが、それでも俺は気丈に生きた。好きなものを否定されて腹が立たない訳がない。そんな俺は売られたケンカは全て買い、その全てを返り討ちにしてきた。

 ケンカもできない体力じゃ数量限定発売のゲームを買う行列に並ぶことすらできないからな。

 そうして一部異質に、それ以外は割と平凡に生きてきて、こうして今の北辰高等学校に入学した。

 

 そして入学して三日目のこと、入学初日からそのヲタク気質を余すところなく発揮した所、元々この学校にいた不良に目を付けられたのが始まりである。

最初は穏便に済ませようと思ったが、カツアゲに呼び出された先で(ちなみに今のこの部室。)リーダー格の清水とやらが漫画をぞんざいに扱っていたもんで、持っていた月刊コミックジーン(かなり分厚い。タ●ンページおよそ二冊分)で血祭……返り討ちにしてしまった。

漫画を投げ捨てたのに腹が立ったのと、自分が「キミが、泣くまで、殴るのを、やめないッ!」って言ったこと以外覚えていない。まぁ俺のケンカは大体いつもこんなだ。それから清水はまっとうな学生に戻ったらしい。まぁそんなことは置いといて、問題はその後だ。

清水の手下だったやつらが「舎弟にしてくれ」と言ってきたのだ。普通の人なら断る所だろうが、教室にも部活にも(元々入ってないが)居場所がない俺にとって唯一安らげる所ができた瞬間だった。

俺はそうしてヘッドになるにあたって幾つかのルールを作った。

例えば「タバコ禁止。吸った者は制裁を加える」とか、「毎週、二〜三種類深夜のアニメを見てお気に入りのキャラを決めること」といった、これから先の俺のヤンキ―生活を優雅にするためのものと言って良いだろう。

最初は「こんなパンピー(古っ)がするような真似を?」と聞かれたが、「少なくともタバコを吸ってないだけでも不良として質が悪い」と言ったところ、あっさり信じ込んで受け入れてしまったのだ。

そうして今に至るのである。

今ではすっかりヤンキー集団からオタクの集まりに近い何かに変わっているが、学校側も他の生徒たちも知らず、『うちの高校の不良のトップが新一年生に代替わりした』ぐらいしか伝わってないらしい。

まあ、特に問題ないけど。

 

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 火曜日    部室にて会合

 

「今日はヘッドからある重要な話があるそうだ!お前らしっかりと聞け!」

「「ハイ!」」

 篠塚が会合を始める。

 彼、篠塚(しのづか)恵一(けいいち)は俺が返り討ちにしたその日に最初に俺の仲間になった一人で、今やすっかり俺の腰巾着だ。

「それではヘッド、ドーゾ」

「おう。ありがとう。さてお前ら、いつも俺のワガママに付き合ってくれてありがとう。今日みんなを集めたのは、今度の夏、みんなである場所に行こうと提案したいからだ」

「と、いうと、どこに?」

自称グループの知将、成田(なりた)が尋ねる。

 

「ああ、みんな、コミケって知ってるか?」

 

「それはもしやあの夏と冬に開催されるというあの超有名な楽園の祭典の?」

「まぁオンリーイベントを含めるともっとあるがメインは夏と冬だな。そこに俺達で行こうと思う。ちょっとした旅行ってとこだ」

 おお、とメンバー全員がどよめく。

「なお、日程や必要な持ち物は随時連絡していくが、基本的にみんなに守ってもらいたいことがある」

「それは?」

 篠塚が興味津々に聞いてくる。

「それは…………『人に迷惑をかけない』だ。全員これを死守してもらう」

「な、なぜそこまで?」

「うむ。俺達、立派なオタク達は世間一般には少々よろしく思われてない節がある。今回はそのイメージを払拭するのと、もっとオタクは良い奴なんだというのを世間様に認知してもらうため、マナー向上を目的とした旅行でもある。いいな」

 

「「「「「わかりました!」」」」」

 

 全員が威勢のいい返事をする。

「よし、今日はこのへんで解散!」

 

 

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当日。    八月十一日

 

京浜東北線の始発がもうすぐ出発しそうな時間帯、まだうっすらと空が白んできた頃に全員が集合した。

 

「松井(まつい)、来たな。ヘッド、ヘッドを含め八人全員集合完了しました」

篠塚が言う。しっかり手帳に書き込むあたり、今日は完全にサポートに回る気らしい。

「おし。じゃ、行くぞお前ら。ちゃんとルールは覚えているな?」

「「「「「人に迷惑をかけない」」」」」

「よし。出発!」

 

 

 目的地までは電車を乗り継いでいく。間違ってもバイクで乗り込みとか次から出禁を食らうような真似はしない。

 衣装もきちんと伝えており、特攻服でも、係の人に捕まったり警察に職務質問をされないように、ヤンキーが主人公の漫画を読ませ、その中でも自分のお気に入りのコスプレをさせた。これなら元々ある特攻服にちょっと手を加えるだけで済むためお財布にも優しい。中には自分で『魁?●塾』とか読んだらしく、自分から勇ましい剣●太郎の服装をわざわざ作ってきた気合十分の奴もいた。

きちんと事前に伝えておいたのが功を奏したのか、既に何を買うかでワイワイと話している。しかも電車に乗ったら他の乗客の迷惑にならない小声で話している。ホントに不良だよねこの人たち。「修学旅行どこ行く〜?」みたいな雰囲気なんですけど。

 

 りんかい線に乗りかえる。これで乗り換えはせずに真っ直ぐ目的地まで行くだけだ。

「もうすぐですね、ヘッド。俺昨日から興奮して寝れませんでしたよ」

 ウキウキ目を輝かせながら篠塚が話しかける。ああ、初めて俺が行った時もこんな気分だったな。

「そうだな、この分なら冬も行けそうだな。ん、おい尾田、席譲りな」

「あ、どうぞ」

すかさず尾田がお婆さんに譲る。うむ、こういう動きもだんだん慣れてきたな。良いことだ。

「お兄ぃさん達、ありがとうねぇ。最初はちょっと怖そうかなぁと思ったけどねぇ、いい人で良かったわぁ」お婆さんが柔らかく笑う。皆つられて笑顔になった。

「いえいえ、学生の身としては当然のことです」

 俺達は胸を張らずにここは謙遜する。ここで得意げになると「どう?俺ら良い奴やろ?ドヤッ」みたいな感じになって周囲から反感を買う恐れがあるので形だけでも謙虚にするのがポイントだ。

 

 ドアが開き、新たに何人か乗ってきた。この時間帯になってくると、通勤のサラリーマンも乗ってくるようだ。

 俺はその乗客の最後のグループに目を奪われた。

 チェック柄の上着にジーパン、頭にはバンダナ、ショルダーバッグを背負い、その手にはカメラ。顔にニキビを作った大学生ぐらいのその目立つ男達はいかにもステレオタイプのオタクだった。

 男達は真っ先に窓際へと進んでいく。今俺達がいるのは先頭車両なので、男達の眼と鼻の先にはもう運転席がある。何かを話し合って決めたのか、男達は驚愕の行動に出た。

 自分たちのバッグから次々と折り畳み式の三脚を取り出すやいなや、勝手に窓を開けて外を撮り始めたのだ。

 

《こいつら、鉄道オタクか…………》

 俺は瞬時に悟った。バズーカ砲みたいな巨大レンズを自分の一丸レフカメラにくっつけた一人が身を乗り出して写真を撮り始める。電車は結構なスピードで走っているからかなり危ない。そのうち一人が運転手に向かって叫んだ。

 

「運転手さん、もうちょっとスピード下げてください」

 すかさず聞こえる警笛の音、警告音だ。

 これは誰がどう見ても危ない。俺が車掌だったら迷わず取り押さえている。

「あ、警笛とかいいんで、早くスピード落としてください」

 警笛がいくら鳴っても鉄道オタク達は写真を撮り続ける。その様があまりに自分勝手過ぎるのでだんだん腹が立ってきた。

「あいつらうるさいですね、ちょっと行ってきて注意しましょうか」

 俺の思いが伝わったのか、篠塚が席を立とうとする。その目はケンカ直前のギラギラした目つきだった。

「待て、気持ちはわかるが一旦落ち着け」

俺はすかさず制止する。

「しかし、これは目に余る行為です。とっとと捕まえて警察にでも突き出して…………」

「だーかーらー落ち着けって。いいか?今行ってもお前のことなんざ見向きもしねぇ。一歩間違ったら逆にお前が警察に突き出されるかもしれねぇって言ってんの。皆お前とおんなじ気持ちだ。だからこそ、一旦落ち着け」

「は、はい。すいませんっした」

 頭が冷えたのか篠塚が席に座りなおす。よかった。このままトラブルにでもなったら警察沙汰でコミケになんて行けなくなる。

 俺がそう安堵した時とほぼ同時に、鉄道オタク……面倒だから鉄オタでいいや。その鉄オタどもに向かって一人のサラリーマンが近寄っていく。よく見ればさっき鉄オタどもと同時に乗りこんだ人だ。

 パリッとスーツを着こなしていかにも勝ち組ビジネスマンの風格を漂わせている彼は鉄オタどもに向かって一喝した。

 

「君達、周りの迷惑になっているのがわからないのか、」

 そうそう、こうして注意してくれる人がいるんだ。だからわざわざ俺たちが行く程ではないんだ。

「さっきからスピードを落とせとかなんだとか、ここは君達の家じゃないんだぞ。聞いているのか?」

 このまま彼らがおとなしく諦めてくれればそれで…………

「あ、偽善乙ですwww」

「てかウザいんですよね〜そういう暑苦しいの、やめてもらえます?」

「なっ…………」

 

 そこでサラリーマンは撃沈。くるりと向きを変えて肩を落として戻ってきた。

 

 

 

       プチン。

 

 

 

 その時、俺達の思いが一つになった。

 

「おい成田、お前カメラについて詳しかったよなぁ」

「はい、ですがおそらくアレは中にSDカードが入ってるタイプの奴ですが」

「構わん。あのカメラからデータは取り出せるんだろ?なら十分だ。篠塚と二人でSDカード取り出して片っ端からへし折れ。松井と尾田は三脚を壊して神海と荒川、山内の三人はケータイを人質に取れ」

「了解しました」

「お任せを」

「「「「「ウス!」」」」」

 

 

 行動開始。窓に張り付く鉄オタ改めクズ鉄どもを窓から引き剥がし、カメラを強奪。成田と篠塚に渡してデータを全て無かったことにする。言葉で通じないなら物で伝える。それが月刊誌一つで不良のトップに勝った「月刊誌の悪魔=コミック・ディアボロス」の異名を持つ俺のやり方だ。

 

 

「な、何するんだ!」

「はーい、動かないでね〜動くと君たちのケータイの大事な大事な思い出も粉々に消えちゃうよ〜?」

「こいつら、ケータイを人質に…………」

 急にごつい体躯の男達に取り押さえられたクズ鉄どもは動揺を隠せず吠える吠える。俺達はその目の前で三脚を足でへし折っていく。

「あぁ!その三脚高かったんだぞ!どうしてくれるんだ!」

「さーてどうしてくれようかな〜君達カメラや三脚よりも自分の身の安全を気にするほうが良いんじゃないかな〜?」

「で、ここを開くと中に入っているから、壊す」

 

バキッ、まず一枚。

 

「こうか?お、出た」

 

ベキッ、続いて一枚。SDカードが折られる度に、まるで自分の骨が折られたかのようにクズ鉄どもがビクつく。

 

「成田、一個こっちに」

「へいへい。どーぞ」

 俺は驚きと怒りとほんの少しの恐怖が混ざったような顔のクズ鉄の前で見せびらかすようにSDカードをへし折って見せた。

「お、お前ら、一体いきなり何なんだ!人のカメラを勝手にメチャクチャにして、三脚もこんなに……弁償だ!弁償しろ!」

 山内に取り押さえられていた一人が反抗する。残りの二人も負けじと「そうだ、そうだ!」「訴えるぞ!」と声を荒げる。

 すかさず俺は最初に吠えた仮にクズ鉄Aとするそいつの胸ぐらを掴み上げ、そのまま言い返した。

「上等だゴラァ!テメーラがやってることがどんだけ人様に迷惑被っているか法廷で叫んでやろうかあァン?なんならこの車両にいる皆さんが証人になってくれると思うぜぇ、そうでしょう?皆さん!」

すかさず他の乗客に同意を求める。「お前等のほうが百倍うるせーんだ!」「もっと周りを考えてよ!」「とっとと降りろ!」おお、皆さん怖い怖い。

「で、でも、このひとたちは、ぼ、ぼくらの………」

 狼狽えながらクズ鉄Aがどんどん涙目になる。

 すると先ほどのお婆さんがゆっくり立ち上がり、諭すように言った。

「この人達はずっとおとなしく座ってこんな婆さんに席まで譲ってくれたんですよ。なのにあなたたちときたら我儘で、自己中心的で、おまけに身勝手。この人達のほうが孫みたいでよっぽど可愛いわ。」

 お婆さんナイスフォロー。グッジョブ。

 仕上げに俺の最後の一言。

「いい加減にしろよ。さもないと………………」

 

 

 

 『天体戦士サンレッド』より抜粋。―――――――――――――

 

 

 

「膝の皿抜き取るぞゴラァァ!」

「ヒイイィィィ!」

 

 

 

 クズ鉄Aは泡を吹いて倒れた。振り向くと乗客皆がサムズアップしていた。

 

 

隣の車両からそんな彼らを見つめる二つの目。

「いいな、ああいうの。カッコいい。」

天使のような甘いアニメ声で一人呟く。

 

 

 それから俺達は、駅員にクズ鉄三人を預けた。最初は駅員に不審がられたが、乗客皆が駅員に本当に何があったのか説明してくれた。サラリーマンの「ここは俺達に任せて先に行け!」的な眼差しをきっと俺達は一生忘れない。

そうして俺達はコミケを思う存分満喫した。みんな狙っていたものを買えたようで顔がホックリしていた。

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 帰り道、ふと俺は考える。

 正直俺は今のこの立場に満足している。何か腹が立ったら不良の名の下に攻撃できるし、その上で自分の好きなサブカルチャー関連にのめり込むことができる。いわば武装したオタク集団なのだ。納得のいかないことには徹底的に戦う俺に凄く合っている。絶対にこの居場所は離さない。離したくない。

絶対に守り抜いてやる。俺はそう決意した。

 

 

コミケの帰り道、全員集合の点呼をとった後、篠塚が聞いてきた。手にはケータイが握られている。

「ヘッド、これから手の空いてる奴ら呼んでご自宅までお送りしましょうか?」

「は?時間を考えろよ。これからバイクで送迎なんかしたらご近所の皆さんに迷惑だろ。電車で行きと同じように帰るんだよ」

「あ、そうですね、俺としたことが『人に迷惑をかけない』を忘れてました。スンマセン。軽率でした」

「いやぁ、わかってればいいんだ。それに電車での帰りってのもなかなかオツってもんだぜ」

 俺はしたり顔で篠塚にそう言った。

「?…………そうなんすか?」

 

 

 

「ヘッドの言ったことが今わかりました。確かにこれは良いですね。両手にズシリとくる同人誌の重み、いまだ冷めやらぬ高揚感、まだウキウキしてますよ」

「そう、こうやってテンションを高いままに帰るのが良いんだよ」

 こうして俺と篠塚はゆっくりと京浜東北線に揺られて帰ったのだった。ちなみにこの後、二人の家が意外と近所だということに篠塚が気付いて翌日から俺の出待ちをするようになったのはまた別のお話。

 まだまだ俺の楽しい愉しいヤンキーライフは始まったばかりだ。

 

 

 

 

説明
人生初の投稿です。不良ものを書きたくて書きました。連載の予定です。不良ものですが、抗争やら、カツアゲやら犯罪のような教育上よろしくない行為はさせないつもりです。物語上、器物破損や暴力行為、脅しまがいの行為をしてますが、広い心でけらけら読んでもらえると幸いです。


どちらのジャンルかわからないので二次創作に一応入れました。
また、この作品には世に出ている様々な他作品様のセリフやらネタやらを引用しております。あらかじめご了承ください。
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コメント
ギャグ優先で話の内容はよいと思いましたが特殊でもない読み方にルビふるのは読みにくくなっているところがあります。(waz_woz)
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初投稿 不良もの 一応ギャグ 他作品ネタ有 ヒロインがまだ出てない 

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