あなたのすきな、わたしでいたい
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「――んー、こんな感じかなあ…?ね、如月ちゃん。どうかな?」

「ええ、ばっちりだと思うわ」

 

……睦月ちゃんの言葉に、私は頷きを返す。ええ、とっても可愛いもの♪

睦月ちゃんは、服の着心地にちょっとだけ違和感のあるような、そんな表情をしているけれど。

 

「……睦月ちゃん、如月ちゃん。準備できたなら写真、取りましょうか!」

「はーい!」「はぁい♪」

 

 

 

 

――ここは、リンガ泊地、鎮守府。

海より来る異形の存在、『深海棲艦』に対抗するべく作られた前線基地。

 

だけど、今日は。

ちょっとだけ、趣が違う――かしら?

 

 

 

 

 

 

 

***

 

 

「――最前線で戦うエースの、写真が欲しい?何よそれ」

「ええ。深海棲艦との戦いで、最前線で活躍する艦娘と提督の写真が欲しい……と。

 そう、本土から依頼が来ていたんです。何でも、新聞社の記事に乗せる写真が必要、という事で」

「いや、意味分かんないわよ。こっちは毎日必死に戦ってるってのに……。

 ……いいわ、祥鳳。その依頼書、偵察機に括り付けて送り返してきなさい」

「え、ええっと……」

 

 

「……およ?」

「……あら?司令官、どうしたのかしら?」

 

 

――お昼時の、鎮守府、執務室。

私と睦月ちゃんは、厨房で作らせてもらった昼食を手に、執務室の扉を開けたところで――

司令官と祥鳳ちゃんが、言い争いをしている場面に遭遇した。

 

今日の司令官のお仕事は、書類仕事が一杯あって。

それで、お昼ご飯を取る時間も惜しそうな状態だったから……。

手伝いをしていた私と睦月ちゃんで、お昼を作ってきた、のだけど。……ちょっと離れていた間に、何かあったのかしら?

 

 

……そんな風に考えていたら、

 

 

「……あ、睦月さん、如月さん!」

 

 

祥鳳ちゃんが、執務室の入り口で立ち止まる私達の方を向いて。

長い黒髪を大きく振りながら。振り返りざまに――言った。

 

 

 

 

「お願いします、提督の説得に協力してください――!」

 

 

 

***

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***

 

 

「――最前線で戦うエースの、写真が欲しい、ね……。成程、ねえ?」

 

執務室に入り、作ってきたお昼ご飯を置いて。

睦月ちゃんと私は、司令官と祥鳳ちゃんに向き直り――改めて、祥鳳ちゃんの話を聞く。

 

 

……なんでも。

 

本土にとある新聞社があって。

その新聞社では、本土にある鎮守府……横須賀や、舞鶴等の鎮守府での、活躍の記事を載せていて。

 

その新聞社が、本土以外の場所で活躍する提督や艦娘たちの記事を、特集として組みたい――

そう、言ってきた。という事かしら、ね?

 

 

……祥鳳ちゃんの話を聞き終わって。

 

「んー、いいんじゃないかなあ……。こういうのも、必要だと思うのです」

「私も、睦月ちゃんに賛成かしら。広報っていうのも大事なものだと思うわよ、司令官?」

 

私と睦月ちゃんの意見は、同じ。

こういうのも、やっぱり必要だと思うし……やってもいいと思うのよね?

 

……だけど。

 

 

「駄目」

 

 

……司令官は、頷いてくれないのよね。

それも、なんだかむすっとして。

 

「……むー」

 

……私の横にいる睦月ちゃんは、司令官とは正反対の意見なのに。

司令官と、同じような表情をしていた。

 

 

「……ね、司令官。どうしてダメなのか、聞いてもいいかしら」

「……」

 

きっと、司令官に理由を尋ねないとわからない。私はそう思って、司令官に理由を聞く。

けれど、司令官は口を開いてくれなかった。……もう少し、押した方がいいかしら。

 

「……司令官?」

「…………。いや、だって、ねえ……」

 

……すると、はあ、とため息をついてから、司令官は渋々と口を開いて、

 

 

 

 

 

 

「――うちの鎮守府のエースって、睦月と如月でしょ?

 ……私、可愛い私の嫁と義妹を見世物にしたくないのよ」

 

 

 

 

 

 

 

……その言葉に。

 

「…………っっ」

 

睦月ちゃんは照れ。

 

「…………はぁ」

「…………んもぅ、公私混同じゃない」

 

祥鳳ちゃんと私は、揃って溜め息を吐いた。

いえ、司令官にそう言ってもらえるのは嬉しいわよ?大事にしてもらえてる、ってことだもの。

でも、それは……ねえ?

 

「し・れ・い・か・ん。公のお仕事、それも本土の大本営から届いた依頼を、そんな理由で断ったらダメよ?

 公のお仕事には、私情を持ちこまないの」

「だってー……これ、向こうが得するだけで私達なんの得もないじゃない。

 それなのに、睦月と如月の写真だけ持ってかれる、とか。……私の写真は、別にいいけど」

「普段、十分に便宜を図ってもらってるんだから、そのお返し……っていう事でいいじゃないの、もう。

 ―― "私達のための" 化粧品やアクセサリなんかの流通、認めてもらってるんでしょう?」

「……う゛」

 

 

最前線で戦って戦果を挙げる私達のために、司令官が上層部に掛け合って。

そうして今、この鎮守府には。化粧品や衣服、アクセサリ、本。そういった、趣味の品が多く揃えられている。

戦う事だけが、私達の日常じゃない。女の子らしい暮らしも必要だって、そう言って説き伏せたのよね。

 

……そう考えると、今回の広報も私達の戦果の結果、という事になるのかしら?

 

 

 

「んもう、仕方ないんだから……。それじゃあ私達にも得があるように、こうしましょうか?」

 

 

***

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***

 

「……え、新しいカメラもらえるんですか!?」

「ええ、ちょっと型落ちしたものにはなるけれど……本土で、2年前くらいに出たもの、って言ってたかしら?

 それを、今回"から"の撮影のために使いたい、っていう事で、買って貰ったのよ♪」

「……凄いわね、如月ちゃん」

 

――数日後。

鎮守府に届けられたカメラを前に。私と睦月ちゃん、司令官――それに。

写真の撮影っていう事で、青葉ちゃんと、機械に強い夕張ちゃんとで集まっていた。

 

届けられたカメラは、一つじゃなくて。

それぞれに機種や、形の違うカメラが――合計6つ。カメラバッグや、三脚もついてきていた。

 

「ひゃー、新しいカメラも中々いいですねえ……!一眼じゃないのはちょっと重さが足りない感じはありますけど、

 でもこのコンパクトさも……いいなー……!デジカメですよコンパクトデジカメ!」

「最近のって、色々な機能がついてるのね……。AF、手振れ補正……へえ」

「……えいっ!試し撮り行きますよ睦月ちゃん!」

「おぉー、カメラってこんな色々……にゃっ!?青葉ちゃん、いきなり撮っちゃダメー!」

 

青葉ちゃんと夕張ちゃんは、色んな機種のカメラに早速興味を引かれたみたい。

カメラを色々といじって、どんな事が出来るか確認してる。……ふふっ、楽しそうね?

 

……そして。そんな二人の様子を見ながら、私は司令官に声を掛ける。

 

「ね、どうかしら司令官。これならいいんじゃないかしら?」

「……全く、如月はほんと良く考えてくれるわね」

 

そう言ってから、溜め息を一つついて。

 

「降参よ、降参。遠征する子達に持たせるには、悪くないと思うわ。

 ……うちの参謀は、ほんとに優秀なんだから」

「あら、睦月ちゃんほどじゃないわよ?司令官の『お嫁さん』にはさすがに負けるもの。……ね♪」

 

 

……そう。

私達は、今回の写真撮影の依頼に対して……いくつかの提案をした。

 

ひとつは、撮影を行うためのカメラを用意してもらう事。

ひとつは、これから以降の撮影依頼にも対応できるように、カメラを鎮守府用に正式に購入してもらう事。

そして、最後の一つが――遠征をする部隊用に、哨戒時の情報収集手段として、カメラを用意してもらう事。

 

 

……って、いうのは建前で。

 

「遠征に行く子達にも、新しい楽しみをあげたい。だからカメラ……ねえ」

 

 

――これが、本当の狙い。

 

 

「ふふ……行った先の風景を撮るのも、悪くないでしょう?それに、印刷すれば鎮守府でギャラリーもできるし。

 いろいろな場所の写真を見られるのって、いいと思うの♪」

「趣味は活力になるものねえ……。技術の指導は青葉が、整備と調整は夕張がいるし。

 本当に、よく考えるわね」

「うふ……、いいのいいの、あまり褒めないで♪」

 

 

……そうして、私達が話している間に。

 

「ふぇぇ……変な顔の写真、いっぱい撮られちゃったよぅ、如月ちゃん……」

「むはー、いいですねえ!このカメラ使い込み甲斐有りますよ!青葉もう大感激です!」

「うん、整備性も悪くない……わね。遠征に持っていくには防水が必要だから、その辺り何とかしましょうか」

 

睦月ちゃん、青葉ちゃん、夕張ちゃんの方も、ある程度試し撮りが終わったみたい……かしら?

それじゃあ――

 

「それじゃあ、睦月ちゃん。――撮影、頑張りましょうか♪」

 

 

***

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***

 

 

「――はい、睦月さん、如月さん。これが今回の撮影用の衣装です」

 

 

……鎮守府内に設けられた、撮影場。

そこに移動した私達に、祥鳳ちゃんはそう言って服を畳んだ状態で手渡す。

 

渡された服は、白がベースに、襟とスカートが深緑色のカラーリングの制服。

その服を一目見て、……『予想した通りに』睦月ちゃんが不思議そうな声を上げた。

 

「……およ?祥鳳ちゃん、これ睦月達が来てる服だよね?着替えなくても、今着てるのでいいんじゃないかなあ?」

 

その服――私達の服とよく似たそれを見て、睦月ちゃんは首を捻る。

まあ、そういう反応になるわよね?

 

「ふふ……違うのよ、睦月ちゃん。この服、実は長袖なの。ほら、こうやって――」

 

そう言って、私は畳まれた服の肩口の部分を両手で摘まんで、広げる。

広げられた服は、私が言った通り。腕の部分が、今の私達の服の様なものではなくて……長袖になっていた。

 

「弥生ちゃんと卯月ちゃんの服を参考に、私達の服を長袖にしてみたの。

 祥鳳ちゃんと熊野ちゃん、それに鈴谷ちゃんにお願いして作ってもらったのよ♪」

「おお、ほんと……。でも、どうして?睦月、今の服で大丈夫だよ?」

 

睦月ちゃんは、不思議そうな顔をする。

その睦月ちゃんの疑問に答える――前に、ちらりと。私は、司令官の方を見て、

 

「ええ、ちょっとね?『かわいい睦月ちゃんの肌を見せたくない』お節介な誰かさんから、

 撮影用に新しいのを仕立ててほしい、っていうお願いがあったの。…………ね、し・れ・い・か・ん?」

「ちょっ、言うなって言ったでしょ如月!!」

「あら、司令官?……如月は『誰かさん』として言ってないわよ?」

「……うぐ」

 

ちょっとだけ、司令官をからかってみたり。……ね♪

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「――んー、こんな感じかなあ…?ね、如月ちゃん。どうかな?」

「ええ、ばっちりだと思うわ」

 

……睦月ちゃんの言葉に、私は頷きを返す。ええ、大丈夫。普段と違う長袖の睦月ちゃんも、とっても可愛いもの♪

睦月ちゃんは、服の着心地にちょっとだけ違和感のあるような、そんな表情をしているけれど。

うーん、普段がパフスリーブの服だものね。……私も、ちょっと動き難い感じがあるかしら。

 

腕を曲げたり、振ってみたり。そうして、少しずつ着心地に慣れていく。

ある程度慣れたところで、艤装を付けて――

 

 

「……睦月ちゃん、如月ちゃん。準備できたなら写真、取りましょうか!」

 

 

――付け終ったタイミングを見計らう様に、夕張ちゃんから声が掛かる。

 

 

「はーい!」「はぁい♪」

 

その夕張ちゃんの声に、私達は応えて。

 

 

「わ、いいじゃない。よく似合ってるわよ」

「えへへ……ありがと、夕張ちゃん!」

「まあ、当然と言えば当然かしら……なーんてね♪ふふっ。

 ……あ、そうそう。睦月ちゃん、弥生ちゃんと卯月ちゃんから預かり物があるのよ。

 折角だから『これ』を付けてみてほしい、って」

「……あ、お月さま。そっか、睦月と如月ちゃんは持ってないもんね。

 ふふふ、お姉ちゃんにお任せなのです……!お月さまも付けて、頑張ってかっこよく写っちゃうよー!」

 

 

 

 

そうして――撮影が、始まった。

 

 

 

 

***

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***

 

 

 

「……はい、お疲れ様。いい写真、撮れたと思うわ」

「お二人と、司令官と、あと弥生ちゃん達の分も!焼き増しのお役目、この青葉にお任せください!」

 

 

――撮影が、終わって。

夕張ちゃんと青葉ちゃんは、撮影に使った機器を片付けはじめて。

その横で――私と睦月ちゃんは、司令官に声を掛けていた。

 

「んーっ……おわったぁ!うーん……いつもと服の着心地が違うと、戸惑っちゃうのです」

「お疲れ様、睦月、如月。……うん、いい写真撮れたと思うわ。大丈夫。

 撮った内の何枚かから『検閲』してから本土に送るわね」

「もう、司令官たら……」

「はあ……。本当に提督って、睦月さんと如月さんが大好きなんですね……」

 

司令官の言葉に、祥鳳ちゃんは呆れた様に項垂れる。んもう……。

……と、そんなことを思ったとき。

 

 

 

「……ね。あの、ね?」

 

 

不意に――睦月ちゃんが、司令官に質問をする。

腕の当たり――普段の服では肌をさらしている辺りをちらりと見ながら、そっと、うかがう様に。

 

 

「睦月の服、どうかな?普段とは違うけど――普段のと、今の長袖の。どっちがいいって思う?」

 

 

睦月ちゃんにそんな質問をされるとは思っていなかったのか。司令官は、ちょっとだけ考え込む。

そして――

 

 

 

 

 

「んー……私は、やっぱり普段の服の方が好きかも。だってそっちの睦月の方が、活動的で――

 元気いっぱいな感じだし、ね。私は睦月のそういう所も好きになったんだもの」

 

 

 

司令官は、そう言って。

それに睦月ちゃんは――

 

「……えへ。………それじゃ睦月、いつもの服に着替えてくるのです!」

 

 

そう言って。さっきこの服に着替えた、私達の部屋に――戻っていった。

嬉しそうな顔で――ほんのちょっぴり、顔を赤くして。

 

 

 

 

 

 

――私達の部屋に戻ると。

睦月ちゃんは、もうパフスリーブのいつもの服に着替えていて。

先程まで来ていた長袖の服を抱きしめたまま、幸せそうな顔をしていた。

 

そんな睦月ちゃんの姿を見て――私は、ふふ、と笑う。

私も、その気持ち――何となく、わかるもの♪

……うん、でも一応、聞いておこうかしら♪聞いたら私も、もっと幸せになれる気もするものね?

 

 

 

 

「――ね、睦月ちゃん?さっきの司令官への質問の時、睦月ちゃんすごく嬉しそうだったわよね♪

 どうしてか、聞いてもいいかしら?」

 

睦月ちゃんは、私の方を向いて――えへへ、と笑ってから。

 

 

「だって、いつもの睦月が一番大好きだって、言ってもらえたんだよ?

 いつも一緒の私が一番いいって、言ってもらえたんだよ――?

 だからね、如月ちゃん。たまにはちょっと雰囲気を変えてのお着替えもいいけど――」

 

 

 

 

 

 

 

「睦月は、大好きな人の、いちばん大好きな睦月でいたいのです!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そうして、写真に関するひと騒動が終わって。

私達は、またいつもの日常に戻っていく。

 

 

ただ、前とちょっとだけ違うのは――

 

 

「あっ、あの……!電、写真が何だか変なふうに撮れてしまったのです。はわわ、どうしましょう……」

「あー、これはちょっと撮り方が悪いかもです。写真の撮り方にも、いろいろ技法があるので……

 そこから教えていきましょうか!取材だけでなく撮影の事も、青葉にお任せです!」

 

「作戦が完了しましたよ!えへへ、見てくださいこの写真!大潮、頑張って撮りましたよー!」

「ああ、その機能はね。ここをこうして、こうで……あ、五月雨ちゃんもいじってみる?」

「え、いいんですか?それじゃ夕張さん、ちょっと失礼して……」

 

 

鎮守府に、カメラが何台か増えたこと。それを使って、写真が撮られるようになったこと。

それと――。

 

 

 

「……えへへ」

 

 

 

 

睦月ちゃんが司令官の横で、たまに思い出し笑いをするようになったこと。

――かしら、ね♪

説明
睦月結婚もの第4話。
――ある日鎮守府に、本土から一通の連絡が届きました。その内容は――鎮守府で戦う提督とエース達の、写真が欲しい!?
そんな、ひと騒動。

***

こんばんは、くれはです。一番くじ引きました。睦月如月のセル画を手に入れました。きゃっほぅ!
一番くじの睦月と如月の衣装がおニューのものになってたので、つい妄想が爆発して筆が走ってしまいました。
推敲なんてどこかへ飛ばす勢いで書いちゃいましたよもう!ああもう、睦月かわいいなあ…!
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艦隊これくしょん 艦これ 睦月 如月 睦月(艦隊これくしょん) 如月(艦隊これくしょん) 女性提督 百合 ケッコンカッコカリ 

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