PHANTASY STAR ONLINE2 レゾンデートルのカギ ♯00:紅に染まるソラ
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この無限に広がる銀河をゆく宇宙船、アークスシップからなる船団ーオラクルー

 

そのうちの一つ、アークスシップ第18番艦 ベオークで。

 

蒼く澄み渡った空を。

 

偽りの空を、少女は見上げた。

 

 

 

 

 

PHANTASY STAR ONLINE2

レゾンデートルのカギ

 

♯00:紅に染まるソラ

 

 

 

 

 

アークスシップ 第18番艦 ベオーク

 

その内部は、軍用地区、産業地区などに区分けされており、それぞれが効率的に役目を果たしていく。

 

そのうちの一つ。

 

市街地に面した農業地区の一画、小さな丘の上を一羽の鳥が飛んでいく。

 

その先の高層ビルのモニターでは、女性キャスターが『ベオーク、本日の設定天気は快晴です。夜には雲ひとつない満点の星空が楽しめるでしょう。』と視聴者に微笑えんだ。

 

画面を横切った鳥は、一定の高度で上昇を諦め、再びもと来た方へと引き返してゆく。

 

風の流れを読み、本能的に知っているのだ。

 

この空が作りものであることを。

 

その先にあるのは宇宙船の内壁であり、この空が有限だということを…。

 

「カ?ノンちゃん♪」

 

はしっ。

 

「ひゃあっ??」

 

突然視界が真っ暗になり、空を見上げていた少女 カノンは素っ頓狂な声を上げる。

 

「ふっふっふ?、だーれだっ。」

 

背後から、からかうような声。

 

聞き慣れたその声は、言うまでもなく…

 

「お姉ちゃんでしょ、もう!」

 

そう言って背後から伸びた、目を隠す腕を払いのけると…

 

「ざーんねん!」

 

目の前でカノンの姉、サーシャがニヤニヤと手を振る。

 

カノンとお揃いの、ただし倍は長いブロンドの髪を靡かせ、背後を指差す。

 

「え?」

 

そんなはずはない、姉の声を聞き違えるはずは…と掴んだ手を辿ると…

 

「ざーんねん、私でした?♪」

 

「ルチルちゃん!?」

 

見慣れた赤髪の同級生、ルチルと…

 

「おはようカノンちゃん。ごめんね?ルチルちゃんとお姉さんが悪戯しようって言うから…」

 

同じく同級生の栗毛の少女、シェリアがいた。

 

「ちょっとシェリア?、私とサーシャお姉さんのせいにするつもり?止めなかったシェリアも同罪だよ!」

 

「ええっ、そんなぁ。私は別に…」

 

「えっと…みんないつの間に?」

 

そんな三人を見て、状況が飲み込めていないカノンが青い目をパチパチさせる。

 

「いつの間にって…」

 

サーシャの足元には、収穫された果実のはいったバスケット。

 

そして、いつも通り迎えに来たルチルとシェリア…あ。

 

「お姉ちゃん、今何時…?」

 

「ん?えーっと…7時半だね。」

 

…やっぱり。

 

「はぁ。」

 

私が夢にうなされて起きて、朝食の後ここへ来たのが7時だから…

 

(30分もぼーっとしてたなんて、ね…)

 

そう認識すると、なんだか恥ずかしくなってくる。

 

なにしてんだろう私、みたいな…。

 

「カノンちゃん、どうかしたの?」

 

「最近学校でも上の空だよぇ?。」

 

「…えっとね、最近、変な夢ばかり見るんだ。」

 

「変な夢?」

 

「…うん。」

 

それは決まって同じ内容で、日を追う毎にモザイクがかった映像が鮮明になっていく。

 

空を走る亀裂、燃える街並み、倒壊するビル、泣いている私、そして…炎の中の二人の少女。

 

その夢は毎晩脳内をループしていて、私の頭を悩ませる。

 

(なんなんだろう、これ…。)

 

「カノンちゃん、またぼーっとしてるよ?」

 

心配そうにシェリアが覗き込むと、この空気を見兼ねたルチルが…

 

「なんかさ?、よくわかんないけどっ。」

 

じゃじゃん♪と脚を突き出す。

 

「昨日、パパに新しい靴を買ってもらったんだ?♪」

 

ふふん、いいでしょーと笑うルチルを見て、私もわぁーっと感嘆の声を上げる。

 

成長期の彼女の足よりワンサイズ上の、持ち主の髪と同じ赤い靴は、おろしたて特有の皮の匂いとツヤを放っていて。

 

「いいなぁ?。」

 

「でしょ??♪」

 

別に私の靴が汚ないとか、そういうわけじゃないけど…新品の綺麗な靴を履きたい気持ちは誰にだってあると思う。

 

「カノンちゃん。次のテストで満点が取れたら、なんでも好きなものを買ってあげるから頑張って?」

 

「本当?!」

 

サーシャの言葉に、カノンの表情がぱあっと明るくなる。

 

「ふふっ、カノンちゃん。やっと笑ったね?」

 

「ほえ?」

 

サーシャはカノンの頭にぽんっと手を乗せ、

 

「ずっと難しい顔してたから。ちょっとだけ心配しちゃったな。」

 

と微笑んだ。

 

「ごめんなさ「でも。」

 

言葉を遮り、優しく頭を撫でるサーシャ。

 

「まさかこれで笑うなんて、現金な妹だなぁと思って笑」

 

「うぅ…そんなこと…」

 

あるのかもしれない、と俯いて赤い頬を隠す。

 

別に、ものに釣られたとかじゃないもん…。

 

「さてと。カノンちゃんもからかえた事だし。三人とも、そろそろ行こっか♪」

 

「「はーい!」」

 

「お姉ちゃん、楽しそうだね…」

 

ご機嫌な姉に苦笑しながら、カノンも後に続いて車を目指した。

 

 

 

 

この時、時刻は午前7時38分。

 

彼女の運命を変える出来事まで、あと数分のことだった。

 

 

 

同日、午前7時46分。

 

ベオーク市街エリア。

 

最初に異変に気付いたのは、いつも通り仕事場へ向かう男性会社員だった。

 

真面目な彼はいつもならば足早に歩を進め、駅へと向かうのだが。

 

今の彼はその場で足を止め、空を見上げていた。

 

周りは見渡す限りの平地で、小さな建物が何軒かあるのみだ。

 

にも関わらず、彼の周囲だけ…日陰に入ったかのように暗かった。

 

「雲…?」

 

怪訝そうに呟いた彼の目線の先には、今朝テレビで快晴と告げられた青空を覆う、黒い巨大な影。

 

雲というよりは、雨雲に近いかもしれないが…その大きさは嵐がくるのでは?と思わされる大雨クラスだ。

 

だが、おかしい。

 

そもそもこのベオーク、ひいてはアークスシップに本来天気という概念はない。

 

宇宙を漂う鉄の箱は惑星ではなく、あくまで人口の巨大なドームのような入れ物に過ぎず、天候の変化などはあらかじめ決められた予定に沿って人の手で再現されている。

 

つまり、天気予報は予告された天候設定の報告、完全なる予定調和なのだ。

 

その外れるはずのない予報が今、目の前で外れている。

 

驚きに固まるのも無理はない。

 

ここで産まれ育った彼の人生で、これは経験したことのない未知の現象なのだから。

 

当然それは、ベオークで暮らす全ての船民に言えるわけで…

 

既に彼以外にも多くの異変に気付いた人々が、足を止めて空を見上げていた。

 

ピリッ…

 

影の中を、赤い電流が走る。

 

次の瞬間、影の半分が異様なスピードで形を変える。

 

まるで、カーテンの向こうで人が手を振り上げたような…

 

 

 

 

 

約一分前。

 

ベオーク中枢エリア、航行管制室。

 

気だるそうに外を眺める二人の男性アークス。

 

今日は運がいい、そう笑い合った2人の仕事は索敵用の各種レーダーやモニターで外の様子を監視する、恐らく最も楽な仕事だ。

 

なぜならアークスシップはデブリがぶつかった程度ではびくともしないし、宇宙空間でアークスシップに異変があったとすれば、かのダークファルスのアークスシップ襲撃の様な大事件ぐらいで、普段はぼーっと部屋にいるだけの暇なもんだ。

 

ピピッ

 

「ダウト。」

 

ポーカーを嗜む男性の背後で、モニターが切り替わる。

 

「おい、なんか映ってんぞ。」

 

「あぁん?どうせデブリだろ。いいからカード見せろよ。」

 

「ハハ、ちげぇねぇ。じゃ、オープンだ。ダウトだったよな?ざんね」

 

ビーッ!ビーッ!ビーッ!

 

「「!?」」

 

残念だな、そう誇らしげに笑おうとした彼の声を、大音量の警報が打ち消す。

 

「何事だよ、ちくしょう!」

 

「ダーカー反応…?こんなところで、こんな大きさ、ありえねぇ…」

 

「おい、後ろ!モニターを見ろ!」

 

「!?」

 

二人の目線の先。

 

先ほど切り替わったモニターを埋め尽くすほどの巨大な影。

 

「なんだよこれ…」

 

「ダーカー反応がある、ダーカーだ!」

 

「んな訳あるかよ!こんな大きさありえねぇ、こんな奴がレーダーをくぐり抜けてここまで来れるはずねぇだろ!」

 

「だけどよ…!!」

 

言い争う二人の前でモニターの映像が変化する。

 

「「っ?!」」

 

モニターに映るのは、巨大な目だ。

 

戦慄する二人は ソイツ と目が合ったような寒気に襲われ、その身を固める。

 

やがてソイツはモニターから距離を取り、巨大な腕を振り上げる。

 

「あいつ、な、なにを…」

 

「殴る気だ…この船を、殴るつもりだ!!」

 

ヒュォッ…

 

ズウゥゥゥウン!!!!

 

その巨体にはおおよそ似つかわしくないスピードで振り下ろされた腕が、装甲を貫く。

 

「ダーク…ファルスだ…。」

 

抉られた装甲に赤い閃光が走り、ダーカーの群れが転移されてくる。

 

「間違いない、ダークファルスだ…。」

 

転移されたダーカー達は、外壁から内部へ侵入し、次々と壁を破っていく。

 

「っ、怯えてる場合じゃねぇ!司令部に通信だ!」

 

 

 

 

 

 

同刻、市街エリア中央地区。

 

高層ビルが立ち並ぶ交差点に、カノン達はいた。

 

渋滞のなか、先程の振動で信号も止まり、街はパニックに陥っていた。

 

「お姉ちゃん、今の…」

 

「私は様子を見てくるから、三人はこのまま車にいて。いい?動いちゃダメだからね?」

 

そう言って車を出たサーシャ。

 

悲鳴と怒号の響く中、辺りを見回す。

 

地面に少し亀裂がある程度で、特に…

 

「なんだよあれ…」

 

「空だ、空を見ろ!!」

 

「え…?」

 

見上げた先には、穴があいて骨組みが露出した空…

 

まるで空を描いた絵画を破ったようなその穴から、赤い光と共に無数のダーカーが押し寄せてくる。

 

赤い閃光は凄まじい勢いで拡大していき、ベオークの空を埋め尽くしていく。

 

「カノンちゃん、皆、すぐ降りて!!」

 

不安そうに帰りを待っていた三人は、サーシャの様子を見て顔色を変える。

 

「お姉ちゃん?そんな慌ててどうし「いいから早くっ!ここから走って、一番近いシェルターに逃げ込むの。お願い、急いで!!」

 

血相を変えて叫ぶサーシャを見て三人も慌てて車を飛び出す。

 

「なに、あれ…」

 

血の海のような紅い空を見て、シェリアが怯えた声を出す。

 

「あれ、何か降って来てる!」

 

未だに転移されてくる、数え切れないダーカー…

 

「いいから走って!こっち!」

 

サーシャの先導で、三人はシェルターを目指して走る。

 

「きゃあぁぁっ!!!」

 

視界の端で、蜘蛛のような形のダーカー、ダガンが女性の背中を切り裂く。

 

「っ!」

 

「いやぁぁあっ!!」

 

倒れた女性が貪られる光景を直視したシェリアが、悲鳴と共にうずくまってしまう。

 

「シェリアちゃん、立って!」

 

「カノンちゃん、怖いよ、足が動かないのっ!」

 

「シェリアちゃんは私が抱えていくから、二人は先に走って!」

 

見かねたサーシャがシェリアに駆け寄る、その瞬間…

 

「お姉ちゃん、後ろ!!」

 

「え…?!」

 

何もなかったはずの空間に、鎌のような鋭い腕をしたダーカー:ディカーダが現れる。

 

振り下ろされたその腕がサーシャを切り裂く瞬間、寸前に持ち上げた鞄を盾にして、鞄ごと切り裂かれるギリギリのタイミングで身を逸らす。

 

追撃の構えを取るディカーダ。

 

間違いない、こいつの狙いは…

 

(わたしだ…!)

 

状況を悟ったサーシャは、反対方向に後ずさりしながら三人に叫ぶ。

 

「皆はそのまま走って!そのまま真っ直ぐ、学校に繋がる曲がり角にシェルターがあるから!」

 

ヒュォッ!

 

再び振り下ろされた鎌を躱し、反対方向へ走り出す。

 

「え、お姉…ちゃん…?」

 

「必ず私もいくから!走って!お願い!!」

 

「お姉ちゃ…」

 

ズゥン…!!

 

追いすがるカノンをサーシャと引き裂くように、目の前にビルが倒れてくる。

 

へたぁっと座り込んだカノンは大粒の涙を流し、泣き叫ぶ。

 

「やだよ、怖いよお姉ちゃん…置いてかないでよぉっ!!」

 

「カノンちゃん、シェリアちゃん…うぅっ…」

 

泣き叫ぶ二人に不安を煽られ、ルチルも顔を歪める…が、歯を食いしばり。

 

「二人とも!…私だって、怖いよ、すごく怖い。でも、走らないと皆死んじゃうよ!!」

 

二人の手を握り、ぐいっと引き寄せ、立ち上がらせる。

 

「行くよ。走るの!サーシャお姉さんが言ってたとこまで、全力で!!」

 

ルチルが手を引く形で、三人が走り出す。

 

「うん、私、怖いけど…死んじゃうのはもっとやだ!!」

 

「カノンちゃんも、シェルターでお姉さんを待とう?きっと、きっと大丈夫だから!」

 

「…ぐすっ、…うん!!」

 

 

 

 

それからは、無言で走り続けた。

 

道中、ダーカーから逃げ惑う人、傷つき、倒れる人々…

 

地獄のような光景を尻目に…それでも走り続けた。

 

やがて、ようやく目的地に着いたとき、一番乗りのルチルは…絶望の中で呟いた…

 

「そん…な…」

 

シェルターの入口は無惨にも崩され、その周囲に倒れる人々…中には武器を持ったアークスまで倒れている。

 

その中心に、一際巨大な…ダガンを巨大化したような、クモ型のダーカーが鎮座している。

 

「きゃあぁぁっ!!」

 

!!

 

悲鳴にルチルが振り返ると、シェリアが飛行するダーカー:エル・アーダに連れ去られる瞬間だった。

 

「やめて!シェリアちゃんを離して!」

 

追いすがるカノンの後ろに、魚型のダーカー:ダーガッシュが迫る。

 

「カノンちゃん、逃げて!」

 

「え…あぁっ!!」

 

振り向いたカノンの足をダーガッシュの牙が削り、激痛に倒れ込む。

 

「カノンちゃん!」

 

駆け寄るルチルの背後で大型のダーカーが両腕を振り上げる姿が見えた…

 

「ルチルちゃん、来ちゃダメぇぇっ!!!」

 

ダーカーが振った腕から放たれる紅いかまいたちが、ルチルに向かい…

 

カノンの目の前で、その両足を削ぎ落とした。

 

衝撃でルチルの身体は宙を舞い、カノンの目の前に、今朝おろしたばかりという、自慢の靴が落ちてくる。

 

ルチルの足が、未だ履いたままの靴が…。

 

 

 

 

 

 

 

それからのことは、何も覚えていなかった。

 

気が付いたら、やたらテンションが高い大声のお兄さんに救助されていて、全身が痛むけど、助かったみたいで…。

 

でも、お姉ちゃんや皆のことは、誰に聞いても教えてくれなかったんだ…

 

 

 

 

この日の一年後、私はアークスに入ることになる。

 

何故かこの日を覚えている人は誰もいなくて、私はずっと、一人だった。

 

ひとりぼっちに、なったんだ。

 

 

 

説明
物語の開始から一年ほど前。少女の運命を大きく変えた、あの日。
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タグ
小説 アンスール PSO2 

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