欠陥異端者 by.IS 第十六話(ひと夏)part1
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[チュンチュンッ・・・]

 

零「────ん、んんぅ?」

 

ああ、朝か・・・

 

 

 

 

 

零「くうう・・・あ〜」

 

一夏「珍しいな。零がこんなに遅くまで寝てるなんて」

 

寮室に備えられたデジタル時計に目をやると、既に10時を過ぎていた・・・だが、今日に関しては何の問題もない。

IS学園は夏休みに突入しているのだ。

 

零「色々あったから、かもしれません」

 

一夏「そうだなぁ・・・」

 

言い忘れていたが、私は再び一夏さんと同室となった。

夏休みが始まった当初は、ここ行こうあそこ行こうとは言われていたものの、結局、最初の何日かは寮でグータラ過ごし、残りは『更識家』の従事に徹するつもりだ。

残念ながら、一夏さんが紹介したい友人にも会えそうにない。

 

一夏「でもさ、三日三晩もこもってたら勿体なくないか?」

 

これでも一夏さんは、自宅に戻って姉である織斑先生と過ごしたり、女子からの誘いを受けて出かけたりしている。

それはもう、夏に負けないぐらい熱烈とした争奪戦と化しているのは、言うまでもない。

 

零「プライベートだと、アウトよりインなんです」

 

一夏「確かにそんな感じはしてたが・・・あっ、なら今度、俺の家に来いよ」

 

零「いや、だから仕事で─────」

 

一夏「今日ぐらい暇だろ?」

 

零「え?」

 

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一夏「という訳で、いらっしゃい」

 

零「お、お邪魔します・・・」

 

こんな形で他人の家に入った事は初めてだ。

一夏さんの家は、思ってたより豪勢な造りになっている。一階のリビングは言う事なく、キッチンも綺麗で掃除が行き届かれている。

二階もあって、二人暮らしにしてはかなり広い。

 

一夏「まぁ、くつろいでくれ」

 

零「はい・・・」

 

促されたソファーへ座ったが、妙に落ち着かない。

一夏さんは一夏さんで、冷蔵庫から麦茶を取り出してコップへと注いでいる。

 

一夏「ほいっ。麦茶でよかったか?」

 

零「だ、大丈夫です・・・」

 

一夏「ん? どうしたんだ?」

 

零「いや・・・何でもないです?」

 

一夏「??? ならさ、二階にゲームがあっから一緒にやろうぜ」

 

零「ゲーム・・・テレビゲーム?」

 

一夏「他に何があんだよ?」

 

実を言うと、店頭で並んでいるぐらいしか実物を見た事が無い。勿論、プレイをした事も触れた事も無い。

二階へ案内された私は、整理や掃除が行き届いた部屋に進められた・・・どうやら、一夏さんの自室らしい。さすが家庭的男子・・・。

 

一夏「あ〜、どれやる?」

 

受験勉強のために使用してたのであろう参考書、娯楽用の小説に漫画・・・その下の棚に、種類別に分けられたゲームケースが並べられている。

私は、一夏さんが手に取ったものを覗き込む。色んなキャラクターが一同に密集しているパッケージだったり、逆にタイトルしか描かれてないものもある・・・何でこんなに種類があるんだろうか?

とりあえず、一夏さんのお気に入りの格闘ゲームとやらをプレイした。

 

一夏「で、このボタンが強攻撃な・・・最初はこれぐらい覚えていればいいだろ」

 

零「は、はぁ・・・」

 

一夏「お前、本当にやったことないんだな」

 

こうして、初ゲームデビューを果たす私は、一夏さんの助言どおりに操作する。

一夏さんはだいぶこのゲームについて精通していて、最初は良い練習相手になってもらった。

 

一夏「よっし、俺も本気を出すかな」

 

自信ありげに一旦、肩を上げ下げして身体をほぐす・・・ゲームごときで、そこまで気合いを注がなくても。

私はゲーム内の主人公的立ち位置にいるバランス型キャラを選び、一夏さんは癖のありそうな筋肉マッチョのボクシンググローブをはめるキャラを選択。

一夏さんのコントローラーを握る左手の指が、わきわきと動いている・・・調子に乗っているな。

初めから勝負ありの対戦開始5秒前。

手に汗をにじませながら、最低限学んだ操作方法を頭の中で反芻して、『START』の合図で操作ボタンを繰り出した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

一夏「ば、馬鹿な・・・」

 

コントローラーを零し、項垂れてる一夏さん。勝敗は10対1の私の圧勝だった。

 

一夏「いやいや、そんな事ないだろ。相手は今日はじめたばかりの素人で、しかも弱攻撃と強攻撃しか攻撃してこなかったんだぞ・・・こっちは特殊コマンドも隠しコマンドも駆使して────」

 

どうやら本当にショックだったようだ。私としては、一夏さんがこれからするであろう事が容易に予想できていたし、一回目の敗北でおおよそのパターンが見えていた。

私にゲームに対する才能があったと思うより、単純戦法に頼る一夏さんが原因なんだろう・・・それを今言えば、余計に傷つくから胸の中にしまっておく。

 

一夏「ああもう! もう一回だっ!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

一夏「いや〜、夏は家にいるより外に出た方が有意義だな〜!」

 

零(結局、こうなるのか・・・)

 

先ほどのゲームにはもう触れまい。

という訳で、今はお昼ごはんを買いに出掛けている。

 

零「って、私もいいんですか?」

 

一夏「ん? 俺はそのつもりだぞ・・・心配すんな、IS学園の食堂ほどのものは作れないかもしれないが、味は保証するぞ」

 

零「・・・」

 

少し感動を覚えた。今まで味わえなかった状況に対して、人は強い刺激を受けるものだ。

この感動は、その刺激によって起こされたものだろう・・・しかし、急に来訪した友人に対し、昼食まで一緒に取ることまで勧めるなんて、一夏さんはただの朴念仁じゃないという事か。

その後、私達は近場のスーパーに入り、私は一夏さんの品物の選別姿を感心しながら眺めていた。

 

一夏「おっ、良いナスがあるなぁ。やっぱ旬だしな」

  「う〜ん、男二人だしもっとガッツリとしたのがいいな」

  「牛肉が安い! これは買わないと、損だな」

 

零(主夫だな〜)

 

プランもない買い物だが、既に一夏さんの頭には昼の献立が浮かんでいるのだろう。お得だけの要素だけで商品に手を出さず、必要な分だけ買い物かごに入れていった。

そんな買い物も10分僅かで終わり、二つのエコバックをお互いひとつずつ持って家路に向かう。

 

零「かなり、具材が多いですね」

 

一夏「零は、俺より食べるからな。それに千冬姉が戻ってくるから、残りを冷凍しておこうと思ってさ」

 

本当、よく出来た弟だ・・・。こういう出来た弟がいる場合、上の兄や姉は大雑把でガサツという可能性があるらしい。

あの織斑先生が・・・う〜ん、ありそうで、なさそうで・・・

 

一夏「ん? あれ、シャルじゃないか?」

 

零「・・・ですね」

 

鬱陶しい日差しの中、織斑邸の玄関前をウロウロしているデュノアさんを発見。滅多に見ない私服姿だった。

 

一夏「シャル、ウロウロしてどうしたんだ?」

 

シャル「うぇええ!? い、いい一夏!?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

セシリア「それで、何でシャルロットさんがここにいますの?」

 

零(いや、それを言える立場に、あなたはいない気がするのだが・・・)

 

あの後、セシリアさんも織斑邸を訪れてきて、リビングのソファーに私、セシリアさん、デュノアさんが腰掛けている。

デュノアさんは全員を出し抜こうとして一人で一夏さんに会おうとしていた。しかし、勇気足りず玄関前をウロウロ・・・まぁ、一夏さんの「家に上がるか?」って発言が、デュノアさんの思い通りに事が進んだわけだが。

セシリアさんも考えることは同じで、駅のデパ地下にある某有名ケーキ専門店の品物を購入し、織斑邸を訪れてきた・・・という経緯である。

 

セシリア「はぁ・・・しかも、零さんまでいらっしゃるなんて」

 

シャルロット「二人で買い物してたなんて・・・なんか///」

 

赤らめるな・・・!

 

一夏「ほい、紅茶」

 

来客が三人も来ることが早々ないのか、手頃なカップを探すのに手間取った一夏は、私の居ざるさを感知せず、ケーキを皿に乗せアイスティーを置く。

一夏もソファーに座って、フォークを取りケーキを口に。

 

一夏「────おおぉ、うめぇ!」

 

セシリア「ええ、そうでしょう! わたくしが選びに選び抜いた最高のケーキですわ。美味で当然です」

 

一夏「ああ、本当にうまいぜ」

 

シャルロット「あっ、本当だ」

 

零「[モグモグ]・・・うん」

 

確かに美味しかった・・・が、そこら辺に売られているケーキとどう違うのかが分からなかった。

最高級のサーロインステーキは、溶けるほど柔らかいらしいが、果たしてその柔らかさが美味しさとイコールになっているかなんて、ただの一般人に理解できるものではないと私は思っている。

今、このケーキを口にした時と、上記のステーキについて持った感想が一致していて、とりあえず「美味しい体」を装うとしよう。

 

一夏「[モグモグ・・・ゴクンッ]せっかくだしさ、ちょっとずつ交換しないか?」

 

セシリア「え? そ、それは、まさか・・・」

 

シャルロット「食べさせあいっこ・・・?」

 

一夏「おう」

 

まったく下心がない一夏の応答に、二人はポカーンとして頭上に「・・・」が浮かぶ。

しかし、すぐに状況を飲み込んで喜びと期待を純情な瞳に宿した・・・どうもこの場に私がいるのは、間違いなのではないだろうか。

 

一夏「あっ、でも男が口付けたのなんて嫌か?」

 

シャルロット「う、ううんっ! そんな事ないよ! 絶対、ないよ!!」

 

セシリア「そ、そうですわっ!! 一夏さんのなら、むしろ食べさせてもらいたいですわっ!!────ハッ」

 

つい本心が出てしまって、我に返ったセシリアさんの頬は赤くなる。

 

一夏「お、おう・・・そうか」

 

一夏さんは珍しく困った顔をした。セシリアさんは俯き気に照れて、隣に座っているデュノアさんは羨ましそうにセシリアさんを見ている。

どんなに唐変朴、朴念仁、鈍チンと学園中の人から評価されている一夏でも、あのストレート発言に気付かないはずが─────

 

一夏「そんなにこのケーキ、食べたかったのか。悪いな、俺が取っちまって」

 

三人「・・・・・・・・・は?」

 

私達三人は顔を合わせた。照れてたセシリアさんでさえ、今は先ほどの血の気が引いていって唖然としている。

そして、盛大に三人でため息をついた。まさか、これほどまでか・・・

 

一夏「ほい、セシリア」

 

セシリア「ぇ・・・え?」

 

突如、セシリアさんの前に出されたフォークに刺さっているケーキ。一夏さんは、ケーキを落とさないようフォークを持たない手で、下に手皿を作っている。

 

セシリア「あ、あの・・・これは?」

 

一夏「ん? 食べさせてほしいんじゃなかったのか?」

 

またもや、私達三人は唖然とした。しかし、念願だったこの状況に感情が高ぶったみたいで、すぐ手を合わせて喜ぶ。

 

セシリア「ほ、ほほ、本当ですの!? で、では・・・あ〜ん」

 

一夏さんが身を乗り出して、口を開けて待つセシリアさんにケーキを食べさせる。

 

    [パクッ]

セシリア「んん!? ん〜〜〜〜♪」

 

この日、この出来事のために生きてきたと語るぐらい、幸せそうに表情に花が咲いた。

そこからしばらく、セシリアさんは幸せの余韻に浸るのだが、それを余所に今度はデュノアが身を乗り出す。

 

シャルロット「ぼ、ぼくも・・・いいかな?」

 

零(おお、大胆・・・)

 

ねだる様な上目遣い・・・おそらく、この目を向けられて拒絶しようとする人はいないと思う。

私は、上品でマナーを弁えた印象のデュノアさんしか知らないため、この行動に驚きながら一夏の餌食となった二人目を観察した。

セシリアさんと同様、この世で一番の幸せを味わったようで、しばらく心ここにあらず状態に陥った。

 

一夏「何だ、そんなにうまいのか・・・んじゃ、次は零か」

 

零「ぇっ────」

 

二人にしたように、私の方にもケーキを持ってきた一夏さん・・・いやいや、幾らなんでも────

 

セシリア「い、一夏さんっ!」

 

シャルロット「男同士で、そんな・・・」

 

一夏「ん?───あっすまん、零! つい、流れでな・・・」

 

自分の行動を省みて、フォークを皿に置き、手を合わせて頭を下げる・・・そうか、流れか・・・良かった。

私は、自分のフォークで一夏さんが食しているケーキに手をつけ、自分のケーキ一欠片を一夏さんのお皿に盛る。

その後、ケーキを食べ終えた私達は、「一夏の部屋が見たい」と訴えた女子二人に応えるべく、一夏さんの先導によって二階へ。

既に私は入室しているので、"戻ってきた"という表現が正しいのだが、ウキウキと浮かれてる女子は、部屋に入ると途端にドギマギが増す。

 

一夏「好きなとこかけてくれ」

 

シャルロット「う、うん・・・」

セシリア「は、はい・・・」

 

何でか、二人とも迷いもせずベットの方へ・・・いや、深くは考えないでおこう。

私は私で、部屋に備えられた椅子に腰掛け、一夏さんは立ったままどこに座ろうか悩んでいるようだ。

 

シャルロット「あっ、一夏。よ、よかったら・・・僕の隣────」

 

[ピンポーン]

 

一夏「ん? 今日は来客が多いな。ちょっと待っててくれ」

 

シャルロット「ぁ・・・うん」

 

一夏さんが一階へ降りていく。

すると、先ほどまでの浮いた雰囲気から、少し空気が張り詰める。

 

セシリア「しかし、本当にシャルロットさんは抜け目ありませんわね」

 

シャルロット「セシリアには言われたくないな〜」

 

お互い笑顔。だが目は笑っていない。

二人の仲が悪いという噂は入ってないから、普段は普通に接しているのだろう・・・男の取り合いになると豹変するのか。

 

零(怖っ・・・)

 

?「嫁よ。誰かいるのか?」

 

一夏「おう。んじゃ、今呼んでくるから適当にソファーに座っておいてくれ」

 

一階から聞こえる来客者と一夏さんとの会話。

 

セシリア「・・・シャルロットさん」

 

シャルロット「うん、たぶん僕と考えてること一緒だと思うよ・・・はぁ」

 

二人は諦めたかのように立ち上がり、一夏さんからの呼び出し前に一階へと降りていく。

私も静かにその後を追う。

 

零(・・・何だかんだ面白い、一夏さんの近くにいると)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

一夏「ほい、麦茶」

 

ラウラ「見事な対応の素早さだ。さすがは私の嫁」

 

セシリア(何故、こういう日に限って、こう続々とライバルが来ますの・・・?)

 

シャルロット(しかも何かラウラ、僕たちが居ても驚いていないし・・・この余裕の差はなんなの?)

 

また一階のリビングのソファーに座って、麦茶を飲みながら一つのテーブルを囲む。

しかしながら、先ほどよりも空気が張り詰めていて、私も時々吐き気を催すほどだ・・・あ〜、人の気配で吐き気が出てきたのって、編入以来かも。

 

一夏「────あっ、麦茶パック切らしてたな。ちょっと買い物行ってくるから、少し四人でくつろいでくれ」

 

シャルロット「じゃ、じゃあ僕も付き合うよ」

 

セシリア「それならわたくしも────」

 

一夏「俺だけで十分だよ。さっき零と買い物に出掛けてきたばかりだからな。必要なものは揃ってるんだよ・・・じゃあ、行ってくる。五分ぐらいで戻ってくるから」

 

ラウラ「気を付けていくのだぞ」

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・あ〜、まいった。

 

セシリア「・・・」

 

シャルロット「・・・」

 

ラウラ[ゴクゴク]

 

零「・・・[クイッ ゴクッ]」

 

三人とも一夏さん目当てで来たのに、当の本人がいないのでは当然、これぐらい気まずくなるだろう・・・一人は気にせず茶を飲んでいるが。

 

[・・・・・・]

 

零「・・・」

 

[・・・・・・・・・・・・]

 

零「・・・」

 

[・・・・・・・・・・・・・・・・・・]

 

長い・・・五分って300秒のはずだ。だが、体感ではもう十分は経過している・・・いや本当に。

時計の動く音と喉を鳴らす音しか聞こえない。もう帰りたい・・・。

 

ラウラ「[ゴクゴクッ]・・・ふぅ。そういえば、しっかりとした礼をしていなかったな」

 

零「え・・・あ、ああ、確かに"あれから"関わる機会もありませんでしたから。でもお礼なんて」

 

ラウラ「いや、そんな事はない。零のおかげで、今の私があるのだ。本当はあの帰還祝いで言うべきだったのだが」

 

あの帰還祝いは、久々に楽しい思いをしたな〜・・・と思い返していると、枠の外にいた二人が会話に参加する。

 

セシリア「ラウラさん、今の発言どういう事ですの?」

 

シャルロット「"今の私があるのだ"・・・って、何か壮大だね」

 

ラウラ「すまないが、話すつもりはない。私自身、にわかに信じがたいものだからな・・・しかし、零には感謝している」

 

零「私も感謝してますよ。少しは丸くなれた気がしますから」

 

IS学園に来てからというもの、物凄い速さで自分の変化を感じられた。ラウラさんだけの一件だけじゃなく、その他もろもろの出来事が全て、成長の糧となっている。

 

セシリア「確かに、以前に比べて接しやすい────あっ、失礼しました。上から目線の発言でしたわ」

 

零「気にしません。分かってましたから、そう思われているの」

 

セシリア「申し訳ありません」

 

再度、座ったまま深く頭を下げてくる。私は「いえいえ」と謙虚に対応した。

 

シャルロット「・・・ちょっと聞いていいかな?」

 

零「はい?」

 

シャルロット「前に話したとき・・・あっ、僕がまだ"シャルル"の時なんだけど、屋上でご飯食べた事覚えてる?」

 

確かその後、デュノアさんに耳元で囁かれて、変な声を出して、注目を浴びてしまったっけ。

 

シャルロット「僕たち売店に一緒に行ったでしょ。あそこでさ、「無理しなくていい」って言ったよね・・・あれ、どういう意味だったの?」

 

零「そのままの意味・・・は、あの時と同じ返答ですね。何かすごく無理しているというか、気を張っているというか・・・今にして思えば、"女"っていうのを悟られないよう必死になって疲れているように見えたんです」

 

もう一つの理由としては、悟られないようにしようとした代償として、自分に嘘をついている気もして、"自分に嘘をつく”ところが案外、自分と似ている気がしていたから。

 

ラウラ「ほう。良い観察眼しているのだな」

 

セシリア「わたくしも、まったく気づきませんでしたわ・・・しかし、これからどうしますの?」

 

デュノアさんに尋ねたセシリアさんの顔は暗い。私は、男装の事情を知らないので席を外すべきか外さないべきかを悩み、一言断ってお手洗いに行こうと決めた。

 

シャルロット「さぁ・・・学園にいる間は安心だけど、卒業後は────」

 

ラウラ「監禁・・・もしくは黙殺、か?」

 

零「っ・・・」

 

思いがけない単語が思考をフリーズさせた。

 

シャルロット「ラウラ、落合君がいるから・・・」

 

ラウラ「むっ、すまない。私としたことが・・・」

 

セシリア「・・・」

 

この重苦しい空気が、先ほどの発言が空想めいたものでなく、現実的に迫ってくる危機だと私は直感させた。

心臓を握りつぶされる感覚に襲われる。

 

一夏「おーい、戻ったぞー」

 

シャルロット「あっ、おかえり、一夏」

 

玄関から一夏さんの声が消えると、デュノアさんの表情が一変した。先ほどまでと同じ、気品が溢れる人懐っこい顔。

他の二人もそれに合わせて、"いつも通り"に振舞いだす。

 

箒「なんだ、誰かいるのか?」

 

鈴音「・・・まさかっ!?」

 

シャルロット・セシリア「「え?」」

 

ラウラ[ゴクゴク]

 

案の定、いつもの五人衆が、ここ織斑邸に終結することになった・・・しかし、心臓の締め付けが治まる事はなかった。

 

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零(ふぅ・・・抜け出すのに苦労した)

 

お約束通り、あの場に五人が揃ったことでそろそろ私も限界だった。という訳で、あの場から退散する手を取ったわけだが────

 

箒『ま、まあ、待て。そんなに急がなくてもよいだろう」

 

鈴音『そ、そうよ!』

 

セシリア『もう少し、この場にいても罰は当たりませんわ』

 

シャルロット『だ、ダメかな?』

 

ラウラ『ダメだな』

 

零(いや、あなたが答えるな・・・)

 

何かと理由を付ければ帰れると思った私が馬鹿だった。

まさか、中立的立場にいる人まで、恋愛戦争に引き込もうとするなんて・・・まぁ、戦いの基本は数で当たる方がいいから、味方を増やすのは当然と言えば当然。

ってな訳で、それから三十分近く、ムカムカ+ムズムズするやり取りと聞かされ、見せられ、限界の限界を超えて、半場逃げ出すように織斑邸を出た。

 

千冬「落合、こんなところで何をしている」

 

零「織斑、先生・・・」

 

駅に向かう道中、私服姿の織斑先生と遭遇した。

 

千冬「珍しいな、外出とは。どこに出ていたんだ?」

 

零「・・・それは、先生として聞いているんですか?」

 

臨海学校の件もあり、私は警戒気味に聞き返した。すると、先生は「そうだ」と短く答え、私の回答を待つ。

 

零「一夏さんの家に、行ってました」

 

千冬「ほう・・・なるほどな。他に誰かいるのか?」

 

少し微笑みながら言った「なるほど」についての意味は分からないが、質問に対しては嘘偽りなく答える。それを聞いた先生は、バツが悪そうに髪をかいた。

 

千冬「あいつは、まったく・・・ああっ、呼び止めて悪かったな。気をつけて戻れよ」

 

零「はい」

 

私の横を通り過ぎた織斑先生。私は振り向かずに駅へと向かう。

気分は冷え切ってきたのに、上を見上げれば夏の日照りがチクチクと肌に突き刺さってきた。

 

零「・・・あつっ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

特に行きたい場所もないので、学園に戻ってきた。

警備の人に学生証を見せて門をくぐると、校舎前に見覚えのある制服を着た女生徒が、重そうな段ボールを二つも抱えてよろよろと歩いている。

 

本音「あ〜! れいち〜ん! やっほ〜〜――――あわわっ!?」

 

声をかける前に私の存在に気付いたようだが、そのせいで態勢を崩してしまう。

 

零「げっ」

 

本音「おっとっとっと〜!!」

 

[ガシャンッコンッ!!]

 

見事に私と布仏さんが衝突して、段ボール内のものがぶちまけられた。

どうやら、中身は何らかの工具だったみたいで、もろに喰らった脳天に激痛が走る。

 

零「くぅぅ・・・!」

 

本音「だ、だいじょうぶ〜!?」

 

布仏さんは、前のめりに倒れこんだおかげで大した怪我はなかったようだ。

すぐに私の上に乗る工具を振り払って、抱え起こしてくれた。

 

零「は、はは・・・それにしても、この工具は一体?」

 

正直、「大丈夫」ではなかったので答えを濁し、身体を起こしながら近くに転がる部品一つを手に取った。

 

本音「え〜と、え〜と・・・えへへ〜」

 

零「どうしてそこで照れるんです?」

 

本音「いや〜〜まぁ〜〜・・・うん〜〜」

 

答えを渋っている様子が見え見えで、私も困惑を隠せなかった。

しかし、ここで無理に聞く必要もないので、とりあえず散らばった工具をまた段ボールに移そうとしよう。

 

本音「あっいいよ〜、私のだから〜!」

 

零「そうもいかないでしょう」

 

本音「むぅ〜〜〜」

 

抗議の眼で訴える布仏さんを無視し、とりあえず壊れている云々は気にせず、段ボールに詰め込む。

後に布仏さんも加わって、二人がかりで詰め込みを終わらせた私は、一つの段ボールを抱え上げた。

 

零「よいしょっ・・・結構、重いですね」

 

本音「そ、そこまでしなくても────」

 

零「また落としたら洒落にならないので」

 

本音「むぅ〜〜〜〜〜〜〜〜〜!」

 

表情から想像するに「それはれいちんが、急に現れたからだよ〜」とでも言いたそうだ・・・だが、先に話しかけたのは布仏さんだ。この言い訳は通じない。

しかし、一つの箱だけでも10キロはありそう・・・これを二つだから20キロ。よく持ててたものだ。

私は、ふて腐れ気味の布仏さんの先導で校舎に入り、目的地である"整備課実習棟"まで付いていく。

 

零(そういえば、布仏さんは整備課志望の生徒だった気がする・・・じゃあ、これは"整備課"で使う機材か)

 

自問自答を繰り返し、私自身が納得する答えを導き出したころには、目的地に到着していた。

私達が入室したのは、整備課実習五棟。広さはないが、IS一機を収納できる設備もあるし、機材も充実している。

 

本音「もうほんっっっと〜に、ここでいいよ〜!」

 

入り口傍に段ボールを置く。

これ以上、私が深く関わらなくてもいいだろう。布仏さんの様子を見ると、尚更、ここで身を引く事が正しい選択のように思った。

 

零「分かりました。でも、今日みたいに無理しないで下さい」

 

本音「う、うん・・・ごめんね」

 

いつもの間延びが無い。かなり真面目に返答しているのだろう。

なら、もう忠告しない・・・そう思い、私はズキズキ痛む頭を擦りながら一年寮に戻ろうと───

 

本音「あ────」

 

零「ん?」

 

本音「ありがと、ね。助かったよ〜」

 

零「うん」

 [ニコッ]

 

本音「///」

 

どうも、布仏さんの前だと自然な笑みを出せる。

これも心を開いていると同等なのかもしれないが、おそらく私にとって布仏さんって"危なっかしい妹"と捉えているんだと思う。

 

零「妹・・・」

 

家族、か・・・

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

楯無「おっかえりなさ〜い!」

 

零「・・・何故、部屋にいるんです?」

 

※後半に続く。

説明
違うサイト先で、違う小説を投稿する事にしました。
投稿が不定期となりますが、これからもよろしくお願いします。
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