リリカルHS 52話
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「隊長……俺…隊長の役に…立てましたか……?」

 

 

 

「馬鹿野郎!!テメェ、なんで俺なんかを庇った!?畜生!衛生兵!さっさと来い!!」

 

 

 

「隊長……俺…あなたの隣で戦えて……幸せ…だったっす……」

 

 

 

「おいやめろ!そんな事言うんじゃねぇ!!まだだ!絶対に!絶対に生きて帰るんだ!」

 

 

 

「へへ……隊長……あなたは…本当に……お優しい……俺なんかのために…泣いてくれて……」

 

 

 

「もういい!もういいから!!これ以上喋るな!」

 

 

 

「隊長……あなたなら……この国を……より…よく……俺…みま…って……」

 

 

 

「……おい?何目ぇ閉じてんだよ?起きろよ…おい!!テメェ何勝手に死んでんだよ!?

おい!?起きろよ!?起きてくれよ!?おい!!!?」

 

 

 

 

 

レーゲン「……きさん!しきさん!!」

 

士希「っ!?」

 

レーゲンに起こされ、目を覚ます。全身は汗まみれで、瞳には…

 

レーゲン「大丈夫ですか、しきさん?酷くうなされていましたが…」

 

レーゲンが心配そうな表情でこちらを伺っている

 

士希「……あぁ、大丈夫だ。心配かけたな、レーゲン」

 

レーゲン「いえ…あの、本当に大丈夫ですか?」

 

士希「……あぁ。少し、夢見が悪かっただけだ」

 

まだ深夜2時か。起きるには早過ぎるな

 

士希「さぁ、レーゲン。もう少し寝よう」

 

レーゲン「……はい」

 

レーゲンは犬型に変身し、俺の横にちょこんと寝転がって、やがて眠りについた。

恐らく、心配して俺の隣にいてくれたのだろう

 

士希「ありがとうな、レーゲン」

 

俺はレーゲンを優しく撫で、横になり、瞳を閉じる。瞳を閉じた時に、雫が流れるのを感じた

 

 

 

あの時の夢…

 

 

 

きっと、一生忘れる事のない、俺の過去の失敗

 

 

 

この夢を見る度に思う

 

 

 

俺なんかが、生きている理由なんてあるのだろうか

 

 

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ザフィーラ視点

 

 

 

士希「お、先に着いていたか」

 

ザフィーラ「来たか、士希」

 

10月上旬。時刻は午前4時過ぎ。私は何時ものようにロードワークに出て、

そしていつもの海岸で士希と合流する。何時からだったか、私はこうして、

早朝に士希とトレーニングに励むようになっていた

 

雑賀士希。本名は東士希と言ったな。今年の4月に出会った奇妙な男で、

今となっては主はやての恋人だ。夏の終わり頃にようやく士希が男を見せ、

晴れて想いは成就した。その後も、何事もなく円満な関係を築いている

 

士希「よし、なら走り込むか」

 

ザフィーラ「あぁ」

 

今日もまた、士希と共に訓練に励む

 

士希「んー!大分涼しくなってきたなぁ。今年は夏が長かった分、少しひんやりするくらいだ」

 

こいつは訓練中もよく喋る。

女性のように、機関銃の如く話す訳ではないが、それでもよく話してくる

 

ザフィーラ「日本は湿気もあるが故だろうな。

あのジメジメとした空気が、さらに暑くさせていた」

 

そして、私も以前はそこまで喋る方ではなかったが、士希の影響からか、

以前よりも言葉数が増えた気がする。私自身、この変化や時間を嫌ってはいないがな

 

士希「そう言えば、ザフィーラは狼型になれたよな?

あれ、夏はキツくないか?湿気で毛がゴワゴワになりそう」

 

ザフィーラ「キツくない、と言えば嘘になるが、主はやての魔力供給を考えれば、

普段は狼型でいる方が良いからな」

 

士希「へぇ。そういや確かに、レーゲンも犬型でいる時の方が、魔力食われないな」

 

なるほどなぁ、と士希は納得している様子だった。

士希は魔力消費について、深く考えている訳ではないようだ

 

士希「それにしても、確かに日本の湿気は凄いよな。

日本に来る前はアメリカの北部に居たんだけどさ、アメリカの夏はいいぜー。

気温があっても、空気はカラッとしてるから過ごしやすい」

 

ザフィーラ「ほう。ミッドチルダも空気は乾燥しているから、気温の割りに汗はかかないぞ」

 

士希「あれ、そうだっけ?いつだったか、DSAAの本選見に行った時は暑かったけどなぁ」

 

ザフィーラ「それは人の熱気ではないか?」

 

士希「あぁ、なるほど」

 

このように、何てことない会話が続く。以前は無駄話に何の益も感じた事はないが、

士希と話すようになって、こういう時間も悪くないと考えつつある

 

 

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ザフィーラ「そう言えば、夏休み前にシグナムと戦ったらしいな」

 

私と士希は浜辺に降り、ストレッチをする。

その間に、以前リインフォースが話した事を思い出した

 

士希「あぁ、まぁお互い本気ではやってないがなぁ」

 

ザフィーラ「お前の本気か。少し興味あるな」

 

士希の強さは少し異常だった。おおよそ、一般の人間が出来る動きの範疇を超えている。

幼少の頃より鍛えられたと言っていたが、それは想像を絶する内容なのではと思う

 

士希「俺の本気かぁ。ザフィーラならわかると思うが、

俺の技は超実戦的な部分が多くてな。いかに確実に、相手を制圧するかにある」

 

士希の技は柔術や合気等、多くの格闘術を取り入れ、それを状況によって使い分けている。

また、体術では一撃必殺を心がけている事から、戦場で使う事を想定されているのだろう

 

ザフィーラ「ずっと気になっていたが、士希はやはり、戦場帰りなのか?」

 

士希「んー…まぁ、な。賊の多い世界だったしなぁ」

 

賊がいるような世界なのか

 

ザフィーラ「士希が放つ雰囲気は、修羅と言っても過言ではないのだがな。

あれは確かに、地獄を経験した事のある気配だ」

 

その点においては、私達と変わらない。我々もかつては、戦乱の世を生きていた。

記憶の大部分は失われていても、時々思い出すほどの地獄

 

士希「そうだな…やりたくてやった訳じゃない、ってのは言い訳だな。

守るために戦って、多くをこの手で殺めた。慣れちゃいけないとわかっていても、

心を守るために慣れようとする。それ故に、鬼になっていた。

それは体に染み付いちまって、わかる奴にはわかるほどのもんになった。

シグナムはそれに気付いて、俺を殺人鬼と呼び、そして警戒しているんだ」

 

ザフィーラ「済まんな、我らの将ともあろう者が」

 

士希「いやいいさ。主人想いのいい将じゃないか。それに俺は…」

 

士希は少し悲しそうな、そんな瞳で海を眺めていた。

その意味が、この時の私にはわからなかった

 

士希「ま、関係ない話だ。今じゃただの料理人。そしてはやての恋人だ。

今鍛えている技だって、はやてを守る為のものだ。さぁ、今日も付き合ってもらうぜ」

 

ザフィーラ「あぁ。こちらも、よろしく頼む」

 

 

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我らの訓練の締めは、いつも決まって組手をする事にある。

お互い、魔力を使わない、純粋な体術のみの組手。故に、技術が磨かれて行く

 

士希「ヒュー!今のは危なかった!」

 

私の繰り出す拳や蹴りは、全てことごとく避けられていく。

士希の戦闘スタイルは、彼の驚異的な視力による見切りを基本としたカウンタースタイル。

受ける事はほとんどない。確実に避け、反撃の刹那を伺っている

 

ザフィーラ「オォォ!」

 

力を込め、体重を乗せた突きを繰り出す。自分自身の中でも、かなり鋭い一撃だ。

そして確実に入れる為に、士希のボディを狙う

 

士希「チッ!」

 

珍しく、士希が受けの構えを取り、そして私の突きを相殺するように、向こうも突きを繰り出した

 

結果、一瞬の膠着状態が生まれる。だが、純粋なパワーなら此方が上だ

 

士希「うおっ!」

 

士希は耐え切れず、私にわざと大きく吹き飛ばされ、体制を立て直した

 

士希「かったいなぁ、オイ。手が痺れやがる」

 

そう言う士希だが、表情は笑っていた。

そして恐らく、私自身も笑みを漏らしているに違いない。

対等な者との組手など、なかなか出来ることではないからな

 

ザフィーラ「フッ、氣を使っても良いのだぞ?」

 

士希「あはは!使わないから、こうやって磨かれていくんだよ!

男なら、何にも頼らず、純粋な力ってのに憧れないか?」

 

ふむ、それはどうだろうな?だが確かに、さらに強くなりたいという気持ちはある

 

ザフィーラ「しかし、士希の力の本質は、技術による物が多いのではないか?」

 

砕かれない力で全てを飲み込むようなタイプには見えないが…

 

士希「あーまぁ、確かに実戦では、指揮をしたり、策を弄したりすることの方が多いし、

実際俺も、そっちの方が得意ではある。だが…」

 

士希は私の方を見て、屈託のない笑顔で言い放つ

 

士希「男に生まれたんだ。自身の力だけで戦いたい時もある。

だから訓練くらいは、いいかなってな!」

 

ふふ、士希は意外と、単純なのかもしれないな。嫌いではないがな

 

士希「さぁ、まだまだ付き合ってもらうぜ!」

 

ザフィーラ「ふっ、来い!」

 

 

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士希「ふぅ……今日はこんなもんかな。毎朝悪いな」

 

時刻は午前6時ごろ。この時には陽も昇り、明るくなっている。

そして何時ものように、この時間をもって訓練は終了する

 

ザフィーラ「いや、こちらも良い刺激になっている。お互い様だ。それより士希…」

 

士希「ん?なんだ?」

 

ザフィーラ「お前、今日はどうしたのだ?」

 

私の発言に、ドリンクを飲んでいた士希の手が止まった

 

士希「…なにがだ?」

 

ザフィーラ「今日のお前の拳には、雑念が感じられた」

 

最初は何も思わなかった。

士希が妙に力比べをしようとするような戦い方も、単純に力を付ける為だと思っていた。

だが、打ち込むにつれ、それは疑問に変わっていった。

まるで、戒めるかのように自己を傷つけているような…そんな気がした

 

士希「……あれだ、少し、夢見が悪かっただけだ。心配することはないぞ?」

 

士希は笑って言って見せた。嘘は感じられない。

だが、主はやても言っていたが、士希は何かを隠している。

もしかすると、それに関係するのかもしれない。

だが、本人が言いたくない事を聞くのも、少し気が引ける

 

ザフィーラ「…そうか。何かあれば、いつでも頼るのだぞ?」

 

士希「あぁ、ありがとうザフィーラ」

 

だから、私からはそう言うしかなかった

 

 

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はやて「お、おかえりザフィーラ。今日も士希と?」

 

家に帰ると、主はやてが朝食を作ってくれていた。台所から、とても良い香りが漂ってくる

 

ザフィーラ「ただいま帰りました、主はやて。主の言うとおり、士希と訓練して参りました」

 

はやて「相変わらず早起きやなぁ。あいつ絶対また寝てるで」

 

主はやてはケラケラと笑いながら言う。その姿が、とても楽しそうだ

 

ザフィーラ「主、少しよろしいですか?」

 

はやて「ん?なんや?」

 

ザフィーラ「今日の士希は、少し様子がおかしいと思われます」

 

私の言葉に、主はやては凄い勢いでこちらに振り向いた

 

はやて「な、なんかあったん?」

 

主の表情は、目に見えてわかるほど、心配している様子だった

 

ザフィーラ「いえ、具体的に何かあったかどうかはわかりませんが、

今日の士希は心ここに在らずといった様子でした」

 

はやて「心ここに在らず?なんでやろ?」

 

ザフィーラ「わかりません。本人は悪夢を見たからと言っていましたが…」

 

はやて「悪夢?それでザフィーラが心配するほど、様子が違う?」

 

ザフィーラ「はい。恐らく、士希が隠している何かに関係する事かと」

 

はやて「……そうか。わかったザフィーラ。教えてくれてありがとうな」

 

ザフィーラ「いえ。主はやて、あなたを護る盾の身ではありますが、

どうか士希を支えてあげてください」

 

私は主はやてに頭を下げる。主に頼み事をするなど、本来は間違っているのだろうが…

 

はやて「任せてザフィーラ。上手くやってみるわ。

何気に、ザフィーラにお願いされるんて初めてやな。

家族のお願いやし、こりゃさらに頑張らんとな!」

 

きっと主はやてなら、士希を救ってくれる。私はそう確信していた

 

 

 

説明
こんにちは
今回はザフィーラ視点で送る、男二人のお話
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コメント
遂に士希の過去がわかる日が来るか……(ohatiyo)
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リリカルなのは オリキャラ 八神はやて ザフィーラ 

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