超次元ゲイムネプテューヌmk2 希望と絶望のウロボロス
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「持ってきたシェアクリスタルが小さくて全員復活は無理だった見たいだな。まぁ、欲を絞って六人を復活じゃなくて、一人か二人を集中させて助けようとすれば話は別だったかも知れないな。甘い、甘い」

 

誰にも悟られることなく全てを傍観していた黒コートに身を隠した影のようなレイスは、岩陰から姿を現し、地面に落ちた輝きを失ったシェアクリスタルを拾い暫く観察した後、ポケットに押し込んだ。そして、三年前に倒し、捕縛した女神達を見つめる。

四人ともレオタードの様な服装をしたおり、一人を除いてスタイルは抜群であり、凡人ならばだらしなく涎が口から滴ることすら気づかないほどの絶世の美人揃いである。加えて、機械的な触手に体中を縛られているこのシチュエーションだ。苦悶の表情で歪みながら、弱弱しく抵抗らしい抵抗をしない彼女たちの姿を見れば、禁断の性癖に目覚めても可笑しくはないだろう。

 

「……最初は興奮してたけど飽きたな。あぁ、眠い。」

 

くわぁーとフードの中で大きくため息を吐いた。誰もが絶賛するほどの物でも、それを三年見続ければ至高の宝石であっても飽きる事間違いなし。何か進展があれば別だが、残念ながら抵抗されると立場が悪いという理由もあり、そういうお楽しみは無いのだ。

名も知らぬ部下が、日々の発散にそういう店を紹介してくれたことはあるが、可愛い部下が目を光らせているので無理だろう。もし行くことになったら絶対に泣かれる。

頭を掻きながら、厄介だと呟きながら歩くその先は、大きく削れた岩石。先ほど女神候補生によって吹き飛ばされた四天王の一人、ジャッジ・ザ・ハードの元だ。一応レイスにとっては上司に当たる人物だ。

 

「おーい、派手にぶっ飛ばされたけど大丈夫か?」

「…………」

 

意識が別の場所にあるのか、それとも別の事を考えているのか、後者は性格的にありえないかもしれないが、レイスの声に息を吹き返したようにその巨体を漸く持ち上げた。体中には砂埃が被っており黒色の鎧がまるで錆びているように見えた。

 

「あの程度、なのか」

 

|無傷《・・》のジャッジは吐いた感情は落胆だった。

 

「あれが俺の敵なのか、実れば俺を絶頂させる程の敵となる((守護女神|ハード))が……」

「心配する俺は無視かよ」

 

レイスがため息を吐き、ブツブツと呟き意識が別の世界へ旅をしているジャッジに対して問題ないと結論を立て、背を向けた瞬間、凶刃が振り下ろされた。

地面が爆発すると錯覚するほどの轟然の一撃。

その狙いは間違いなく狂わずレイスを狙って放たれた死への裁き。

しかし、その一撃が粉砕したのは地面だけであり、いつの間にかレイスはジャッジの振り下ろしたハルバードの隣に立っており、爆風に煽られたコートと共に、脱げないようにフードを片手で抑えた姿でジャッジを見上げる。

 

「おい、いきなり攻撃するって何事だ」

「……………」

「俺は聖人じゃないし、お人よしでもないぞ、怒る時は怒るぞ」

「やはりお前しかいない」

 

はい?と頭を傾げるレイスにジャッジはハルバートの刃を地面から抜かし、その刃の先端をレイスの振れるギリギリの所で止める。

 

「俺を満足できるのはお前しかいない。お前しか俺を絶頂に導いてくれない。鮮血と喝采で得られる快楽に溺れさせてくれるのはお前しかいない……!」

「いや、そんな愛の告白みたいに言われても困るんだけどな」

「ーーーくくく、ははははっははははっははは!!!もう我慢できねぇ!!誰もが味わったことのない境地へ!!闘争と戦意の果ての終わりを一緒に逝こうぜ−−−レイスゥゥゥゥ!!!」

「殺し愛しようぜと仰る上司がいる職場、これが噂のブラック企業ならぬブラッディ企業か…!!」

 

漏れ出す暴走した殺意が溢れた瞬間には黒と白の双大剣を顕現させたレイスは無尽蔵に乱舞を展開された破壊の咆哮を受け止めきって見せた。女神より明らかな反射速度と長年培っていた武術の技術に更に血を滾らせたジャッジが更なる速度と破壊力を込めて嵐の如く襲い掛かる。常人では一瞬にして血と肉の塊へと変貌するだろう無慈悲な裁きを二つの閃光が叛逆する。体格差では圧倒的にジャッジが上回っているのだが、故に動きが大振りとなり、素早い動きを見せるレイスは、暴虐に流れる大きな波を大海を泳ぐ鮫の如き鋭い斬撃が、ジャッジの体に薄くだが大量に傷跡を刻んでいく。

既に体全体を血に染まっていくジャッジだが、一度火照った殺意と愛情は暴走車のように過激に稼働して止まることを知らない。欲望のままに暴力を振りまき、致命的な攻撃は避け続くが散弾のように飛び散る石片を全て躱すことは不可能であり闇色のコートは桜が散るようにボロボロになっていく。

 

「ひひひひひひひ!!!!」

「下品な笑い声していると女にモテねぇぞ−−−ジャッジィィィィ!!!」

「お前と戦えるのなら女なんていらねェんだよーーーレイスゥゥゥ!!!」

 

なお、この二人の地形すら変えてしまうほどの熾烈な攻防劇は勇気ある四天王の一人が止めるまで続いた。

 

 

 

 

 

 

白い霧のような物が掛かって体の感覚がなく、まるで幽霊のように彷徨っている気分で漸く彼女は自分の見ているのは夢だと実感できた。

目の前には薄暗い洞窟の中で一人の少女が膝を抱えて蹲っていた。薄ピンクと白色のハイソックスにセーラー服のような淡いワンピースの服装をした健気に可愛らしい少女だ。しかし腰まで伸びた薄紫色の綺麗だった髪は、土や草で汚れており、同じように服も転げ落ちたように汚れていた。

 

あの日、少女は−−−ネプギアは家出をしていた。

理由は愛しい姉が自分を相手にせず、新しく仲良くなった男の人と仲良くなったからだ。

所謂嫉妬だと彼女自身も分かっていた。それでも、彼女はあまりに世間に触れる機会はなく、彼女の見る世界にはいつも一緒にいた姉という存在はあまりに大きく、同時に依存しやすい存在だった。

故に自分に向けてくる笑顔と彼に見せる笑顔。それは守護女神戦争に向かう際に見た姉の自信に溢れた大好きな笑顔とは違って、輝きが違っていた。

 

それを理解した時、ネプギアはこう思ったんだろう−−−『自分のいるべき場所が無くなっていく、否奪われている』事に。

そんな思いに自身でも驚く程に警戒心と敵意で彼に接した。そして、それを味方するどころか、彼を庇う最愛の姉の姿にネプギアの決定的な物が壊れてしまった。

 

後は簡単な話だった。否定して目の前の世界から背を向けて逃げ出し、姉の言葉にも耳を貸さず無我夢中で走った。走って、誰も知らない場所に行きたかった。

 

そして不注意から崖から転落、人間であるのなら大怪我は確定だが女神候補生という仮にも人間を超越した女神の存在故に重傷ほどではなかった。しかし、足を痛めて歩くことすら困難になっていた。

激しい痛みに漸く気持ちが落ち着き辺りを見渡すと既に夕日は沈み闇夜が空を覆い始めていた。場所は見知らぬ森の中、モンスターの増量が無くなったとしても、その時はまだゲイムギョウ界にはモンスターが存在しており、真面に歩けないネプギアは格好の餌食だと言ってもいい。

だが、モンスターの脅威を考える程にネプギアの精神状態は冷静ではなく、迷子になった子供のように姉の名を叫んだ。現実は非道で、涙と声が枯れても誰もネプギアの手を取る者はいなかった。

結局、あの男を怨めばいいのか、自身の愚かな行動を憎めばいいのか、正当化する思いと自己中心的な想いがグルグルと回り、完全に真夜中になり遠くから遠くから響くモンスターの咆哮に漸く現状の置かれている状況を理解して危機感が生まれ、偶然見つけた洞窟に身を隠すことになった。

 

そして−−−。

 

 

 

「懐かしい夢……」

 

カーテンから差し込んだ陽光に薄らと卵のような丸い瞳を空けた。

見慣れた天井、まだ眠気は重く鎖が体を縛っているような感覚。顔だけを動かして、近くの時計を見るともう起きてもいい時間だと思考して、重々しく上半身を起こした。目に入ったのはお気に入りの寝覚まし時計の横に置いてある大切な写真。

唯一の姉の姿が抱き着いて、自分も思わず抱き着いて、息苦しそうな顔をする彼の姿。

 

「お兄ちゃん……どうしているんだろう」

 

あの家出兼迷子事件。ネプギアが入ったのは運悪くそこの森を主である危険なモンスターの巣であり、夜に戻ってきたそのモンスターと接触して食べられる寸前に姉と彼が駆けつけてくれたのだ。二人の圧倒的な力の前に主はあっと言う間に瞬殺され、彼は謝罪の言葉を姉からは涙を流しながらの謝罪の言葉だった。直ぐに彼はネプギアを抱え、そのままプラネタワーに直行。そこには看護師になったばかりの姉の親友とプラネテューヌに籍を移したもう一人の親友が待っていて、色々とそれからは大変だった。一つだけ確かなのはプラネテューヌの教祖に正座で長い時間、説教を受けた事だろう。

 

「考えても仕方ないよね……。お兄ちゃんは別の世界に居るんだし、空さんがいないと連絡できないし、……でも」

 

あの時、あの夜の様に、助けてほしかった。出かけた言葉を心で抑えた。

ブラッディハードがどんな存在であるかは既に教えてもらっているし、理解も出来ている。それに最初から五年から、十年ほどはこちらの世界に戻ってこれないと伝えられていても、気持ちは晴れる事はなかった。重い気分のまま着替えを済ませ、旅の準備の為に日用品を入ったバックを持った所で扉がノックされる。。

 

「起きていたのねネプギア」

「……あ、おはようございますアイエフさん」

 

扉が空き、姿を現したのは姉の親友で良くしてもらっているアイエフの姿だった。髪は撥ねている所を見ると彼女もまだ起きたばかりらしい。

 

「用意は出来たかしら」

「あ、はい。ユニちゃんは…?」

「コンパが行っているわよ。これからイストワール様の部屋で合流して、これからの事を話すわ。……ごめんなさいね」

 

突然謝罪の言葉を口にするアイエフにネプギアは、作り笑顔でいいですと答える。

三日、それがギョウカイ墓場から無事に救出された二人の女神候補生が休養の時間だった。ネプギア自身は三年間も長時間囚われた感覚があり、肉体的にまだ重りが付けられているようで、腕が鈍ったと言ってもいい、そしてなにより精神的には辛い事が合った。

女神候補生として修練は欠かせなかったなのに、絶対的な力を前に敗北して囚われた。いくら、あの場所が原因で弱体化したとしても、あの堕天使のようなプロセッサユニットを纏った女神は、ネプギアともう一人の女神候補生、ユニと協力しても全く歯が立たなかった。

 

「私が、私達が頑張ればきっと……」

 

もっと力があれば、お姉ちゃんの助けに……押し殺すように呟かれた言葉にアイエフの表情が歪む。

プラネテューヌに戻り起きたネプギアはまだ落ち着いた様子だったが、ユニの場合は姉がいないと知ると傷を気にせずもう一度ギョウカイ墓場に行くと言いだし、イストワールが必死に説得していた姿が未だに濃く記憶に残っている。

それから目の前のアイエフは会うごとに謝罪の言葉を口にしている。己の無力を呪うような声で。

気持ちのどこかでは恨みの言葉を吐いていたかもしれない。でも、日々が経つごとにむしろ彼女達は自分から死地に向かって女神候補生を救出したのだ。マジェコンヌによってシェア率が8割も抑えられているこのゲイムギョウ界の中で果たして命を賭けてまで女神の為に尽くそうとしている人は少ないと言ってもいい。結局の所、感情の問題だった。

 

「お願いだから無茶しないでね。私も付いていくから」

「ありがとうございます」

 

自分の身を案じてくれている想いに感謝しながら、改めて考え直す。

このゲイムギョウ界で出来ることを。

まだ終わっていないと、まだ((自分たち|女神候補生))が残っていると言い聞かせながら、底から溢れる感情と共に静かに言い放つ。

 

「私だって−−−女神だから」

 

握りしめたその手は、未だ何も掴めていない。

 

 

説明
その2。

因みにこの物語は
女神側(ネプギア、空、紅夜視点が多め)
マジェコンヌ側(主にレイス)
???側(主に???視点)となっております
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超次元ゲイムネプテューヌmk2 上司とよく殺し愛をする組織 

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