魔王は勇者が来るのを待ち続ける
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「魔王は最後のほうで出る」

 

 

 

 

 

 甲冑を纏った巨人。4つの赤き瞳が敵を射抜く。

『だからっ! どうしてっ! こんな国さっさと見捨てたほうがいいんじゃないか?』

 女性の怒号がソラの操縦席に響く。彼は困ったように笑う。

『まあまあいいじゃない。女の子は可愛いよ?』

『言うてる場合か!』

「みんな抑えて」

 ソラの機体。魔剛騎ヴァンは跳躍して、敵のメアドロイドに飛びかかる。そのまま至近距離でマナライフルを発泡。敵の胴体に大きな穴が穿たれる。

 ソラが初めてヴァンを乗った時は数年前。その時はまだ試作騎扱いだったが、今では先行量産騎として着実に生産されている。画期的な規格を導入することで飛躍的に能力の向上ができていた。

『あーしっかしこのスライムの感触なれないー!』

『そう? 僕は気持ちがいいと思うよ?』

 彼らの機体にはスライムが一匹ずつ搭乗していた。スライムは魔力を抱負に持っているものの使えることが出来ない魔物である。魔族の中に多かれ少なかれそういう種族がいる。そこに目をつけた開発班はスライムを搭乗させることを提案したのだ。

『私語を慎め』

 ソラの背後に立ちまわる機体。が、直後に緑の光線がその機体を襲う。マナ干渉爆発で機体は爆発四散する。

 ソラのヴァンを含めて4騎のヴァンが敵の大群を掃討した。上空には魔神騎が1騎。ヴァンと同じ甲冑。しかし各部に緑に光る宝玉があり、背中には大きな赤い羽があった。

 魔神騎ヴィンは上空から、ソラ達に情報を送っている。戦闘には参加しないのはマナの濃度を考えてだろう。

『各々方。そろそろ丘陵地帯だ。どうやら予想通りバカやっているよ』

 上空の魔神騎の情報に女性は怒鳴った。

『だあーッ! どうしてこうバカの尻ぬぐいばっかりなのよ!』

『美人に尻ぬぐわれたいんだよ』

『うっさいあんたのケツに蹴りを叩き込むわよ!』

『それはそれで』

『うげっ!』

『私語を慎めと言っている』

「じゃあ、駆け足で行きましょうか」

 

 

 

 

 

 丘陵地帯で軍隊は睨みあっていた。小高い山の上で陣取っていたリュミエールの防衛軍は、その場から動けないでいる。対してギィーゴ軍はそこを取り囲み。相手をあぶりだそうと待ち構えていた。山の上に陣取ってしまったがために身動きが取れなくなったのだ。高いところは確かに見晴らしもよく、相手の出方を伺える。ので、防衛するのに向いていると思うだろう。だが、その周りを取り囲まれてしまえば身動きも取れなくなってしまう。そういう欠点もあった。そしてリュミエールの軍勢は動けずに、相手の出方を待たねばならなくなってしまったのだ。ギィーゴの将軍は相手が痺れを切らすまで、優雅に纏うと考えた。しかしその目論見は意外な形で崩れ去る。

「敵襲!」

 土煙が上がると、ギィーゴの魔剛騎がバラバラになりながら上空を舞っていた。緑の球状の光を纏うヴァンが疾駆する。それは物理的な効果があった。球状の光に触れたモノは弾き飛ばされていく。

 その様子を遠くで見ていたギィーゴの将軍は唸る。

「魔衛騎にマナプロテクトだと?!」

「いえ、あれは魔結晶が少なすぎます」

「なんだと……あれが魔剛騎だというのか? 信じられん……」

 ギィーゴの将軍は即座に撤退を通達。リュミエールの軍勢は窮地を脱したのだった。

 

 

 

 

 

「あーもうっ! 本当に使えない連中ばかり」

 金髪碧眼の女性が叫ぶ。カチューシャと髪を止めていた紐を解いた。その流れるような金糸に、まわりに居たリュミエール軍の男子兵士は見入っている。ソラの目の前に座ると、頬をふくらませた。

「クレアさん落ち着いて」

「落ち着いていられるか! あたしらの国が戦争状態になってるのよ。おまけに助けに来たら来たで、体の良い使いっ走りよ! あんたなんか思わないの?」

 ソラは笑って「慣れてますから」と答える。クレアは眉間に皺を作って不満を露わにした。

「国は心配なのはわかります。でも大丈夫ですよ。なにせクレアさんの国ですよ?」

「自分が自分の国の一大事に、その戦場に立てないのよ? こう……むきーってならいの?」

「わかります」

「でしょ?」

「でも大丈夫ですよ」

 ソラの根拠の無い自信と、笑顔にクレアは黙り込んだ。

「ま、まああんたと一緒に戦場にいられるし。それはいいかもね」

「こちらこそ、クレアさんと一緒に戦場で戦えて嬉しいです」

「え? 本当?」

 不機嫌だったクレアの顔に花が咲く。

「はい。頼もしい仲間です」

「ぬぐぐぐぐぐぐ」

 そしてすぐに不機嫌に戻る。

「ダメだよソラ君。そこは嘘でも――美しい女声といられて嬉しいです――って言っておかないと」

 茶化した男性の弁慶の泣き所に蹴りが入る。クレアの一撃だ。男は「痛い」と悶え苦しむ。

「大丈夫ですか? ラッセルさん」

「ダメかもしれない……。ソラ、女はお淑やかに限……ブヘッ!」

 ラッセルは言葉を言い終える前に、空中を飛ぶ。クレアの右の拳が真っ直ぐに振りぬかれたのだ。ラッセルは穏やかに笑いながら「これも悪くない」と地面で大の字になった。

「ったく、お前らは……もう少し仲良く出来ないのか?」

「出来ません」

 クレアは即答だった。対してラッセルは地面に倒れたまま「美人とは仲良くしたいです」と笑う。そこへ1人の男が足早にやってきた。

「ウラベ隊長。本国からの伝令です」

 男はクレアとラッセルを諌めていた男、ウラベと呼ばれた男に竹簡を差し出す。ウラベは受け取ると、素早く広げ、目を走らせる。

「帰還命令だ。リュミエールに他の国の軍隊が到着するらしい」

「予想よりも早いですね」

 ウラベは「ああ」と答える。

「いいじゃない。こんな国さっさとおさらばして、自国を守るべしね」

「僕ぁ、美人さんと仲良くなりたかったな。ここの将軍付きの秘書さん美人なんだよ?」

 クレアは嬉しそうに。ラッセルは哀しそうに言う。ウラベも表情は安堵していた。やはり自国が戦争状態にある中、他国のために戦うことは、腑に落ちないのだろう。

「明日、港を発つ。各々準備しろ。それとソラ。ありがとう。お前のお陰で我々は無事全員帰れるよ」

「いえ。皆さんと一緒に帰れるのは、俺としても嬉しいです」

 ソラは満面の笑みを浮かべる。

 

 

 

 

 

 魔王は書斎で戦闘の報告書に目を通していた。

「リリーシャ君が抑えてくれているようだね」

「彼女が居なければもう少し早く突破されていたかもしれません」

「後はリュミエールもなんとかなりそうだね。他国の軍勢がこうも到着が早いとは」

「ええ」

「これで勇者が来てくれれば最高」

「最低ですよ」

 宰相は素早く魔王の言葉を否定する。

 

 

 

 

 

〜続く〜

 

説明
60分で書くお話
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