オタクヘッドで何が悪い! 第二話 後編
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 九月一日  駅前デパートにて

 

「はい、到着です。」

 恰幅のいい運転手に開けてもらい、俺たちはタクシーを降りる。

「はい、じゃあみんな今日もお疲れ。マキ。また明日な」

 運転手にタクシー代を払った前崎さんが駅に向かっていく。

「はい。お疲れさまでした」

 ぺこりと一礼をした俺たちはそこで前崎さんと別れた。

「じゃあ後は帰るだけだね」

「いや、まだだ。今日このまま罠を仕掛けて直接犯人を捕まえる」

「え!?こ、これから?さすがに無理なんじゃ…………」

「篠塚、場所と準備は?」

「オールグリーンです。準備完了しています」

「よし。じゃあ行くか」

 

「ど、どこに…………?」

 

 

 

 

 こうして俺たちは駅前から徒歩十分くらいの一軒の廃ビルの中にいた。

 篠塚はケータイで他のメンバーに連絡を取っている。

「こんなところで待っていれば本当に来るの?」

 不安そうにマキが俺に尋ねた。

「ああ。ここにいれば絶対に来る」

「そうなの?ならいっそ警察も呼んだほうが……」

 その質問に俺は笑いながら返した。

「いやあ無理無理。そもそも警察読んだらストーカーと一緒に俺たちも不法侵入でつかまっちまうよ。それよりもマキ」

「な……何?」

 俺はマキの目を真っ直ぐ見る。

 

「この後、何があっても前を向けるか?」

 

「ど、どういうこと?」

「この後の結果によっちゃあお前の心に深くて大きな傷ができるかもしれない。それでも、お前は前を向いていけるかって聞いているんだ」

「ちょっとよくわかんないけど………………うん。きっと大丈夫。多分」

「そうか。なら、良いんだ。っと、さっそく来てくれたみたいだぜ」

 

 

振り向くとそこには、まだ残暑も厳しいというのに厚手のコートを着て、サングラスにマスクの男が立っていた。

 

 

「嘘……なんでここにいるってわかったの?」

 怯えた声でマキが震える。

「マキさん。俺の後ろに」

 篠塚がマキと男の間の位置で立ち塞がる。

「おい……僕のマキから離れろ………………」

「ひっ」

 男が冷静にそう脅す。マキが篠塚の後ろで小さく震えた。

「おいおいマキが怖がってんじゃねぇかよ。そう怖い顔すんなって」

 

 

「サングラス(それ)つけたままじゃあ見え辛いでしょ。外したら?前崎信吾マネージャー」

「「!!」」

 

 

「なんで僕だと?」

男――――前崎信吾はマスクとサングラスを外して聞いてきた。

「いいの?そんなあっさり認めちゃって、なんなら『たった一つの真実見抜く、見た目は子供、頭脳は大人』名探偵風に名推理を披露してやるけど?」

「疑うのはよしてくれ。僕は二人の帰っていく方向がいつもと違うから追いかけたんだ。仮に僕が犯人だとして、証拠はどこにあるっていうんだい!」

 前崎が語気を強める。

「ハッハァ!それもそうだな。んじゃ、教えてやるよ。なんでわかったか」

 俺は向こうからしたら最高にウザそうに推理を始める。

 

「まず最初に、どーしてアンタがここに来れたのか、答えは簡単。マキのケータイにある。マキ、ちょっとケータイ貸せ」

「え?…………はい」

一瞬戸惑いながらもマキは俺にケータイを手渡した。

「ちょっとごめんな。よ、っと。」

 俺はマキのケータイのストラップの猫を分解する。

「ちょ!ちょっと!何してんの!」

「いやーこうでもしないと出てこねぇんだよ。GPSが。ほれ」

「……嘘…………」

 マキが息を飲む。

かくして、猫の中からは小型の機械らしきものが出てきた。

「元々このストラップのフィギュアは分解できるようになってんだ。で、アンタはこれを頼りにここまでやってきた。違う?」

 俺がGPSを取り出したことに前崎は一瞬驚いていたが、すぐさま表情を戻した。

「…………いつの間に人のあげたものにそんなものを仕込んでいるんだい?大人をからかうのもいい加減にしてくれ。」

「ハハッ咄嗟の言い訳にしちゃあ悪くないんじゃねえの?じゃあよ、もう一つ。この手紙だ。こいつがヒントになった」

そう言って俺はポケットから手紙を取り出し、前崎の目の前でヒラヒラと見せつける。

 

「毎日送られてきたこの手紙、住所もなけりゃ郵便局の判すら押してねえ。これじゃ、直接本人の家に送るしかねぇんだよ。でもよ、ここでお前さんはあるミスをした」

「ミス?」

 

「マキはなぁ、住所なんざ公開してねえし、ブログなんかもやってねえんだ」

 

「だからどうしたっていうんだ。僕はマキのマネージャーだよ。住所の一つくらい――」

「はぁいビンゴ!そう。お前みたいにマキの身内でもなきゃ知る方法なんてねえんだよ。よって、こいつは身内の犯行だとわかる」

 俺は指をパチンと鳴らし前崎の言葉の隙間を突く。

「だから僕だって?ふざけるな!この業界だけで何人人がいると思っているんだ!」

「…………吠えるのは自由だが、アンタさっき言ったよなぁ、『帰っていく方向がいつもと違うから追いかけた』って。おかしいなぁ〜いつもさっさと別れちまうんだろ?なんで知ってんだよ。このルートがいつもと違うって」

「そ……それは…………」

「いつもマキの後をつけてたから知っちゃったんだよなぁ?ん?」

「く……」

「自分で自分の首絞めてんだよ。バカだなぁ」

 

「くくく……ハハハハハ!大した妄想だね、感心するよ。いい加減諦めてくれないか。何度も言うが僕はやってない。これ以上の会話は無意味だ。マキ、早くこちらに来なさい」

「おいおいお〜い。バレそうになった途端いきなり愛の逃避行開始ですかぁ?させませんよーう。篠塚ぁ!」

「はい!ヘッド、こちらに」

 そう言って篠塚はタブレットPCを取り出す。

「おい、何を始める気だ。そんな物取り出して、一体何をしようっていうんだ」

「まま、ちょっとビデオを見てもらおうと思ってね。逃げるならせめてこれ見てからにしてくれよ」

 そう言いながら俺はケーブルを俺のケータイとタブPCに繋ぐ。

「さて、ここで前崎さんに一つ質問です。あなたはここに来る途中、駅前のデパートに寄りトイレに行きましたね?ではでは、そこの個室には一つでも鍵がかかっていたでしょーかっ?」

 焦った顔で前崎が喚く。どうやらトイレに行ったのは図星のようだ。

「な、何で僕がトイレに行ったなんて知っているんだ。君こそストーキングしていたんじゃないのか?」

「んなこたどーでもいい。さっさと答えろ。個室に鍵はかかってた?かかってない?」

「…………かかってない。僕が入った時には誰もいなかったし、誰も入ってこなかった。誰も出てきていない。完全に僕一人だった。だからなんだっていうんだ」

「OK!ではではこちらの映像をご覧くださーい。あポチっと」

その映像は前崎を驚愕させるものだった。

 

「ハーイどうも〜智将の成田で〜す。ただいまトイレの個室に鍵もせずに籠ってま〜す。こうしているとどうやらストーカーさんが来るみたいなんですが、果たして……ってあー誰か来た」

 そういってカメラ担当の成田は一度黙る。どうやら隣の個室に入ったようだ。

 隣の個室から前崎の声が聞こえてくる。

「クッソ……邪魔なんだよあの害悪どもが……僕のマキちゃんにペタペタ近づきやがって…………僕の愛の邪魔をするなよ……」

 成田が隣に聞こえない小声で呟く。

「いや〜あれが話に聞いていたストーカーですか。なかなかの変態発言をしてますね〜」

 ゆっくりとカメラが個室の壁を越えて隣を映し始める。

 そこには必死になってスーツを脱ぎ、コートを着る前崎の姿があった。

 着替えが済んだのか、前崎はマスクにサングラスの恰好でトイレを後にした。

 『収録』を済ませた成田が自撮りをしながらコメントをする。

「まさかこんな簡単に犯人さんに会えるとはさすがヘッドです。以上、現場から成田がお送りしました〜現場にお返ししま〜す」

 そこで映像は終了した。

 

 

「いかがでしたか〜前崎さん、いないと思ったトイレの個室、しかも隣にカメラが潜んでいるというのは!?ビックリしたでしょーね。でもねぇ、こっちはあなたの変態レベルに鳥肌が止まりませんよ!」

「なんでだ!あのトイレになんで人がいるんだ!」

「なぁに、マキの身内でいつもどこかから見ているのなら、一番追いかけやすいポイントがある。それが駅前のデパート。そんでそこのトイレで待機、その後GPSを頼りに最短ルートでたどり着く。そう考えてトイレに仲間を潜ませたってわけだ。トイレにはわざと鍵をかけないように連絡しといたしな」

「ど……どういうことだ……」

「その質問は「なんでカメラの存在に俺が気付けなかったのか」てことでいいのかな?なーに、人の思考の盲点を突いたのさ。「全部個室で静かなら確認するまでもない」ってな。まさかそこに鍵もかけずに誰かがカメラ回しているだなんて普通は思わないってわけ。どう?さすがに諦める気になってくれたか?」

 はい、推理終了。完全(ではないかもしれないが)論破成功。

「前崎さん…………どうしてこんなことするんですか、どうしてッ……!」

 マキが涙で目を潤ませながら前崎に聞く。

 

 

「なんでって……君が好きだからだよ。マキちゃん」

 

 

 何かが吹っ切れた前崎は俯いた姿勢のまま小さく笑っている。

 前崎はおもむろに自分のコートを脱ぎ棄てた。そこには隠しもせずに『MAKI?』と書かれたTシャツ。

「やっと本性見せたなド変態野郎」 

「ククク……ヒハハハハ!そうさ、その通りさ!僕ちゃんはマキが好きだからマキの全てを守ろうとしたんだ。何も問題無い!誰にも文句は言わせない!さぁ、さあさあさあ!とっとと僕のマキから離れてもらおうかこの害悪共が!」

 前崎は高笑いをしながら俺たちに指を指す。

 マキが声を震わせながら、泣きながら今まで信じてきた人である前崎を見る。

「嘘……嘘だ…………前崎さん……」

「…………マキ、辛いとは思うがあえて言わせてもらう。これが現実だ」

「…………!」

 マキが言葉を失い崩れる。

「大丈夫だよ、マキちゃん。君は僕ちゃんが死ぬまで愛してあげるからねぇ……」

 ヤンデレと表現したら各界隈に怒られそうなトーンで前崎がマキを慰める。

 俺は思わず乾いた笑いが出た。

「ハッハッハ、本当に底知れぬ変態だな」

「キモいですね」

 もはや遠まわしに言うことすら辞めた篠塚。

「うるせぇ!この害悪がぁ!だいたい、テメーラみたいなやつの話を仮に警察が聞いたとして、信じるわけがねえだろボケが!」

 激昂した前崎に対し、俺はきょとんとした顔で答える。もちろん演技だが。

「そうかな?結構物的証拠はそろっていると思うけどな〜。あ、でもストーカーは立派な犯罪だしな〜」

「ほらみろ!そんなずさんな証拠で不良なんて社会のゴミが愛に勝てる訳ね〜んだよ!」

 鬼の首でも取ったかのように前崎が喜ぶ。

「ま、確かに俺らみたいなのの言葉は信用ならんだろうな」

「ハッ!ざまーみやがれ、僕ちゃんの愛に―――――」

 

 

「なら、信用できる第三者からの証言ならどうかな?」

 

 

「は?頭湧いてんのかお前、そんな奴いる訳ねぇだろ!    ま、うちの事務所の社長だったらワンチャンあるかもしれねぇがな」

 かかった。

「ほうほう、それはいいことを聞きました、さて、ここでスペシャルゲストに来ていただいております。さっそく登場していただきましょう!」

「はぁ?」

 

 

 

「マキやアンタと同じ会社のすっごく偉いお方、声優育成でおなじみ

 株式会社ワンダースタジオ  社長  有馬創路さんでーす」

「はーい、どうもー社長の有馬でーす」

 

 

 

「「!?」」

 

 その場にいた、俺と社長、篠塚以外の二人(マキと前崎)が固まった。

 気にせず俺は続ける。

「社長、わざわざお越しいただき、ありがとうございます」

「いや〜まさか久々のメールが『ストーカー犯がわかったので、協力してほしい』なんて内容だから驚いたよ。ま、一番驚いたのは信用していた社員がドが付くほどの変態ってことだけど」

 社長がゴミ虫を見るような眼で前崎を見る。

「な…………なんで……しゃ……社長が……ここに……」

 前崎が驚きのあまり腰を抜かして震える。

 俺はありったけのドヤ顔で答える。

「これがお前が害悪だなんだと馬鹿にした奴らの力だ」

 

 

「う、うあああああああああああ!!!!!」

 

 

 前崎が懐からナイフを取り出す。

「僕ちゃんは何も悪くなんかない!愛を育てることの何がいけないって言うんだ!そうだ、僕ちゃんは正しいことをしているんだ。文句なんて言わせない。ここにいるマキ以外のやつら全員殺して、僕ちゃんの愛の楽園を、エデンを作るんだ!」

 相も変わらずドドドド変態なセリフを吐き続ける前崎、しかしその眼は確かに、ここにいる真実を知った者たちを殺そうとしている眼であった。

「僕ちゃんの育てた愛を世界に羽ばたかせるんだ!それが育成愛(マネジメント)ってものの醍醐味だろう。お前らは愛の邪魔をするゴミだ!クソ虫だ!害悪だ!そんなんで社会に出たって何もできないさ、せいぜい引き籠って死んでけばいいんだ!」

「おいおい、なんか好き勝手言ってくれてるなぁオイ」

「まぁ、変態は何をどう足掻いても変態ですからね」

 俺と篠塚が前崎を冷めた目で見る。

「――――つうかさ、ファンってーのはそういうものじゃ無えだろ」

「煩い煩い!!お前らにこの僕ちゃんの愛なんてわかりっこないんだ!」

「いーや、わかるね、なんてったって俺たちもマキのファンだからなぁ。自分たちの好きなモノやヒト、対象が世間に褒められるのは応援しているこっちだって嬉しいさ」

「――――――鬼頭君…………」

「ならっ!僕ちゃんの」

「だからこそ、許さねぇンだ。それこそ夢に向かって頑張るやつの足を引っ張るやつなんざクソくらえってな。テメェのやってることは応援でも育成愛(マネジメント)でもねぇ!ただの自己満足(じこまんぞく)なんだよ!このド変態!」

 

 

 

「…………う、うああああああああああ!!」

 

 

 

 前崎がナイフを振り回しながら、まっすぐ俺に突っ込んでくる。

「鬼頭君!!」

「ヘッド!!」

 いきなりの反撃についてこれなかったマキと篠塚が揃って叫ぶ。

 

 

 だけどこんなもの、音ゲーで鍛えた俺の反射神経には止まって見えた。

 

 

 振り切った前崎の腕の間を縫ってやつの眼前に一気に迫る。

 驚いてたたらを踏んだ隙を逃さず前崎の両目に眼潰しをかます。

 前崎が両の目を押さえ、ナイフを落とした。

 すかさず落っこちたナイフを安全な場所へ思い切り蹴飛ばす。

 得物を無くし、無防備になった前崎の胸倉を左手だけで掴み上げる。

「ずいぶん言いたい放題言ってくれやがったけどよ………………」

 フリーになった右手を自分でも砕けるんじゃないかという力で握りしめる。

 やっと涙目で見えた前崎に、俺はどう映っただろう。

「あ――――悪魔――――」

 ……………………やっぱりか。ま、いいか。

「俺に言わせてもらえりゃーよ…………」

 大きく息を吸い、一番言いたい言葉を探す。

 あった。

 

 

 

カゲロウデイズ第一巻・第一話『人造エネミー』より抜粋―――

 

 

 

「お前みたいなクソ野郎こそ、一生牢屋にでも引き籠ってろよ!」

 そう叫んだ俺は加減もせず、思い切り右手を振り切り、前崎の顔を殴った。

 

 

 

 鼻血やら奥歯やらを撒き散らして前崎がぶっ飛ぶ。

 サッカーボールのように二回跳ねた後、前崎はその場で気絶した。

 

 

 

「あ〜〜〜〜すっきりした。やっぱこういうクソ野郎は殴るのが一番だな」

「ヘッド!ご無事ですか!」

 あわてて篠塚が駆け寄る。

「おー平気平気。どっこも問題なし」

「すいません……俺がいながらこんな危険な目にヘッドを……右腕失格です!同じように殴り飛ばしてください!」

「ヤダよ!なんで男を二連チャンで殴り飛ばさなきゃならねぇンだ。……お前がずっとマキのそばにいてくれたからこういうことができるんだ。やめんじゃねえ」

「ヘッド…………相変わらずカッケーっす」

「そりゃどうも」

「鬼頭君」

「あ、すいません有馬さん。なんかいろいろと」

「いやぁいいんだいいんだ、無事、ストーカーも捕まえられたし、後はこっちに任せてくれ。ただ……一つだけ、一つだけ社長として頼みがあるんだ」

 

 そう語る有馬社長の後ろに、マキの姿は無かった。

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 マキは廃ビルの裏口にいた。

 やはり信用していた人に裏切られていたのは応えたのだろう。いつもヒマワリのように元気な彼女は、ひどく萎れていた。

「いたいた、おーい、マキ、大丈夫か」

「…………鬼頭君。」

「しばらくしたら警察が来るらしい。社長が言ってた。それまでマキのことを頼むって。俺社長に直々に頭下げられたの初めてなんだけど。」

「……そう……ねえ、ちょっと身の上話して、いい?」

「いいよ」

 特に断る理由もなし。

「ありがとう…………あのね、あたし、小学生の頃に学校でいじめられてたんだ」

 マキは変わらぬアニメ声でそう語り始めた。

「やっぱりこの声は昔からいじめの的でね、よく馬鹿にされた。親に理不尽に当たり散らしたこともあった。それぐらい、自分の声が嫌いになってたんだと思う」

「…………まぁ、子供のころはみんな、良く言えば純粋。悪く言えば思いやりのないこと言うからなぁ。気持ちはわかる」

 俺も昔はそのオタク趣味で何度も孤立した。その都度ケンカして、それで今の俺がいるんだと思う。

「でね、ずっとアニメを見てて、こんなあたしでもできることがあるんだろうなってボンヤリ考えながら生きてた。そんなある日、駅前の本屋さんで、社長に会ったの」

 あそこに通い詰めてたのか、あの人。

「お店の中でぶつかっちゃって、すぐに謝ったら、『きみ、その声で働いてみないかい?』って。最初は変な人だと思ったけど、これまでのことを話したら、あの人は親身になって話を聞いてくれて、『君のために全力でサポートする』なんて言われてさ。あたしもそれから頑張ってみようって思ったの。」

「ほんで月日は流れ」

「…………前崎さんに出会ったの」

 まだ、割り切れないのだろう。さん付けで呼ぶあたり、気持ちが整理できてないんじゃないかと俺は思う。

「初めて会ったのに気さくに接してくれて、『君の声は君にしかない一つの宝だ』って言われて。今思えば、このころからキザ臭くて、危ない人だったんだよね…………」

 マキの声が震える。

「ねえ……あたし…………何を信じていけばいいのかな……もう何も信じれなくなりそうだよ…………」

 

 あくまでマキは笑顔を作った。

涙を流しながら。

 

「…………自分を信じればいい、なんて在り来たりなことしか言えなさそうだな。カッコ悪いなぁ、俺。でもさ、本当にそうなんだって思うよ。ちゃんとお前の中に、自分を好きになれた自分がいるんだから。これからもその自分と付き合っていけばいい。嫌になっても一生離れられないし、一生背負わなきゃいけないから……えーっと……くそ、慰めるのヘタクソだな俺。だから何が言いたいかってーと…………」

 目の周りを赤く腫らしたマキがくすりと笑う。

「わ、笑うなよ、これでも真剣に考えてんだぞ」

「ごめんごめん。そんな気じゃなかったんだけど、さっきの煽っていくスタイルを見た後だと、ね?」

「まあな。普段は達者な口だけど、いざって時はコミュ症なんだな。俺」

「それも鬼頭君らしいよ。…………ねえ、これから私どうしたらいいと思う?」

 すっきりした笑顔で上を見るマキ。いつの間にかあたりは暗く、街灯が点き始めていた。

 

 

 

新世紀エヴァンゲリオン第6話より抜粋――――

 

 

 

「笑えば…いいと思うよ」

「だね。ふふっありがとう。なんか、元気出た」

「そりゃよかった。んじゃ、帰るか」

「うん」

 俺とマキは連れだって皆の所へ戻る。

 と、

「ねぇねぇ鬼頭君」

「ん?どした?」

「これからは鬼頭君だとなんか他人行儀だからケンちゃんって呼んでいい?」

「お好きにどーぞ。あ、でも極端に変なのはナシな」

「わかった。ねぇねぇ」

「今度はどした」

「手、繋いでいい?」

「…………ホラ」

 俺は後ろ手に右手を差し出す。

「うん♪ありがとっ!」

 にっこり笑って手を繋いだその瞬間、平然を保ちつつも、俺の心の中では

《イヤアアアァァァッッッホオオオォォォ!!!》

 俺は天高く舞い上がっていた。

 

 

 

 

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 九月六日  教室にて

 

「不仁田さん、この数学の問題解ける?」

【その問題なら、(x+a)をAとして因数分解すれば簡単に解けますよ。】

「わっ本当だ!ありがとう不仁田さん。もしかしたらまた聞きに来るかも。そのときはまた、お願い!」

【はい、また聞きに来てください。】

 マキが俺のクラスに転校してきて一週間が経った。

 すっかりクラスに馴染んで今じゃ人に教える立場になっている。

 仕事に支障が出るから、と相も変わらずマスク姿なのだが、毎回毎回スケッチブックはさすがに面倒らしく、PDAで会話するようにしたらしい。どこの首なしライダーだ君は。

 と、俺のケータイが震える。マキからメールが来ていた。

 

『また今日の放課後、遊びに行くね〜♪』

 

 俺たちと仲良くするのも継続中だ。今は新しいマネージャーが見つかるまでの間、社長直々にマネジメントするそうだ。まったくあの人は俺たちに出来ないことを平然とやってのけるッ!そこにシビれる!あこがれるゥ!

 さて、相変わらず俺たちは己が趣味に走っているが、まさかこんな形で女子が入ってくれるとは思わなかった。最近男ばっかでむさくるしかったからちょうど良かった。

 俺は少し考えた後、こう返信した。

 

「今日は駅前のゲーセンに行くから、サイフに余裕持たせとけよ」

 

 俺のオタクライフは更に楽しくなりそうだ。

 俺はケータイをポケットにしまうと移動教室のため、ロッカーから教科書を――――

「ヘッド、こちらに次の授業の教科書など一式が揃っております」

「…………一つ、なんで違うクラスのお前がここにいる。二つ、なんでお前がこっちの教室の次の授業を把握している。三つ、どうして俺のロッカーの鍵の暗証番号を知っている」

「時間割でしたら黒板に貼ってありますし、暗証番号でしたら、ヘッドが【教えられないよ!】で入れているのを覚えていたまでです。すべて、右腕として当然のことです」

「もういやあああぁぁぁーーー!」

 

 

 

 

 

説明
長らくお待たせしました。後編です。
以前に比べてもうちょっと腕が上がっているんじゃないかなー、とささやかながら思っとります。
引き続き他作品ネタ有です。どんどんコメントください。

追記、最終部分で手厳しいご意見を頂きました。改めて、この作品を読む際は他作品様の名言、ネタ等を使っているため、不快に思われる方もいらっしゃるかもしれません。あらかじめ、ご了承ください。
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コメント
なかなかいい解答編だと思います。いうなればエヴァの名言は口説き文句ではありません(waz_woz)
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