真・恋姫†無双〜比翼の契り〜 一章第一話
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 黄巾党および首謀者である張角が討ち取られた。その報は瞬く間に大陸を駆け巡った。

 しかし、賊に苦しめられていた民達が安堵の息を付いたのも束の間、朝廷にさらなる激震が起こる。

 

 漢の皇帝、霊帝の死去。

 

 民達の信が失われていたとはいえ、この国の支配者だった帝が死んだことにより、水面下で燻っていた権力争いが表面化した。

 朝廷を牛耳る宦官・十常侍と、軍の全権を握る何進とが、己が擁護している皇太子を即位させようと躍起になっていた。

 聡明であるがゆえに武力による圧政を否定した劉協と、力を用いれば誰も逆らう者がいないことを幼い頃より見せつけられていた劉弁。

 

 二人の皇位争いはあっという間に決着が付いた。

 何進が己が所持する武力を背景に、劉弁を即位させたのだ。少帝弁の誕生である。

 しかし十常侍も黙ってはいなかった。

 何進の義理の妹である((何太后|かたいごう))を騙り、何進を宮中に誘き出し暗殺。何進の副将であった袁紹はこの事に気付くと十常侍を急襲。そのほとんどを殺害した。

 混乱の最中、十常侍の筆頭であった張譲は劉協を連れ洛陽からの脱出を謀り、董卓により暗殺された。

 董卓は劉協を擁立し即位させ、自身を相国というこの時代の最高官位に即させた。

 董卓の一手によって収束したかに思われた醜い権力争いだったが、これに異を唱えるものがいた。

 袁紹である。

 本来であれば報復を成功させた自分が恩賞を戴くはずであったのに、董卓というぽっと出の田舎者にその地位を奪われたと逆上した彼女は各地に董卓の噂を流布し、さらには董卓を逆賊とし討伐することを目的とした連合、反董卓連合を結成。

 大陸各地の諸侯や豪族にその旨を書き留めた檄文を飛ばしたのだった。

 

 

 

 

 洛陽城城壁。

 俺は見張り台の上に立ち、目下で行われている調練の様子を眺めていた。

 

 洛陽城内での悲惨なる出来事。そして巻き起こる波乱と混乱。

 機に敏な諸侯達が続々と洛陽周辺から姿を消していく中、俺達は洛陽に留まっていた。

 いや、正確には『俺』だけか。

 洛陽の民達に私情が無いといえば嘘だが、それだけで敗戦の濃い戦いに身を置くほど馬鹿ではない。

 皆、俺の様子を気にしつつも言葉にはせず日々を過ごしていた。

 先日梟へと降った烈蓮もそうだ。

 彼女は『王でも軍師でもない私は((政|まつりごと))には口を挟まない』と明言し、代わりにと梟の調練を買ってでた。

 それまでの梟は、主な任務に直結する気配を消す鍛錬や急所を的確に狙う((術|すべ))、捕縛術に籠城を前提とした隊列に連携など、隠密および防衛のみに力を注いできたと言っても過言ではなかった。

 だが、烈蓮は違う。

 彼女の調練は、攻めに全ての比重を置いていた。

 相手が攻めることを許さない苛烈なる攻めに特化したものだった。

 梟は基本的に一対一では戦わない。必ず二対一ないし、三対一になるよう絶対の命令が置かれている。

 それを踏まえ、互いが干渉しないよう交互に攻め立てる調練を施していた。

 その連携速度は凄まじく、一度攻勢に出れば((拐|かい))と呼ばれるトンファーに似た武器を使用する想愁でさえ、三対一だと手こずるほどだった。

 彼女が数日で皆に受け入れられたのも、この調練により早々に実力を見せつけたのが大きいだろう。

 今では想愁や華煉と酒を飲んでいるところをよく目撃する。もちろん俺も何回か同行した。

 酒盛りと鍛錬しかしてないな……。

 

 やがて各地へ檄文が飛び回り始めた頃、相国となった董卓殿から一人の使者が訪れた。

 使者の持っていた書簡に書かれていた内容はたった一つ。

 

『洛陽を守るため、力を貸してください』

 

 三ヶ月前の南陽の借りを笠に着るような言葉であったら、俺は手を取らなかった。

 でも彼女は、己ではなく街を守ることを求めた。

 この人は死なせてはならないと直感した俺は、洛陽を守ることを決めた。

 所属としては一時的に董卓の配下ということで、第三師団を任されることとなっている。

 ちなみに第一師団は呂布、第二師団には張遼と華雄が付いている。

 

 董卓のおかげで洛陽はかつての活気を取り戻し、街にも人が多く戻ってきている。

 それ故に、突然組まれた連合を前に民達の退去が間に合っていない状況だった。

 つまり、今回の戦はどれだけ時間を稼げるかが重要になるのだ。

 間に合わなければ洛陽で戦うわけにはいかず、民達を守るため董卓は自らの身を差し出すかもしれない。

 それをさせないために、兵達には梟ほどとまではいかないが、槍を一斉に突き出す、矢の交換を速やかに行う、はしご式の消火作業など。籠城に必要な最低限の動きと連携をスムーズに行えるよう調練を施していた。

 

 

 

「ここにいたのか」

 

 声が聞こえた方向に顔を向けると、いつの間に来たのか華煉がいた。

 

「珍しいな、外に出てくるなんて」

 

「君がいつまでたっても戻らないからだろう。茉莉ちゃんが心配していたよ?」

 

 言われてすぐにその光景が目に浮かんだ。

 すぐ戻るって言ったからなぁ。

 

「……しっかし、このままじゃ持って三日ぐらいじゃないかな?」

 

 華煉の目は調練をしている兵達に向けられていた。

 籠城のエキスパートから見て三日か。

 

「じゃあ華煉が調練を見てくれよ。それならもう少しマシになるだろ」

 

 今調練をしている想愁には悪いが、こと籠城側の戦略において、華煉を超える者は俺の知る人物の中にはいないと思っている。

 

「嫌だね。動くのは嫌いなんだよ」

 

「こいつ……」

 

 実は以前、華煉に梟の防衛訓練を見てもらったことがあるんだが、ほんの少し見ただけなのにアドバイスが的確だった。

 どういった状況を想定しているのか、という前情報もなく数分見ただけで、だ。

 

「そ・れ・よ・り・も! ソレの使い勝手はどうだい?」

 

 華煉が指しているのは俺の腰に下げられたモノ。

 通常のモノよりもやや長め。それでいて硬さは一級品。綺麗に描かれた反りはその存在を猛々しく見せ、先端は上を向いている。

 いまだ試作品の域を出ないらしい為、銘などはないが、日本でかつて使われていた脇差と瓜二つの刀だった。

 

 今朝方、手渡されてからすぐに警邏に出ていたから手触りだけしか確認していなかったか。

 見張り台から降りた俺は脇差を抜き、一連の型を行ってみた。

 

「……」

 

 何度も繰り返した型に少し違和感を感じた。

 軽い……か?

 

「…………」

 

「前のものより長いから、まだ寸止めは厳しいか。欲を言えばもっと重くして欲しかったぐらいかな」

 

 脇差を鞘に納めながら、感じた違和感を口にした。

 ……ん? 華煉から反応がない。

 見ればぽーっとした顔で呆けていた。せめて口は閉じようか。

 

「おい」

 

 声を掛けても変化がないので鞘の先端で額を小突く。

 

「あいたーっ!! な、なななな、なにをするんだね!」

 

「声を掛けても反応しないからだろ」

 

「またか! ……それで、えぇ〜っと……」

 

「だから、刀身が長いから慣れるのはもう少し時間が掛かるのと、もっと重くしてくれてもよかったよ」

 

「それでも軽いのかい!? 強度の確保でかなり重い材質になっているはずなんだけど……」

 

 むしろそれ以外に違和感がないほうが驚きなんだがな。

 

 

 結局、それから次に作るために色々と情報交換やら意見やら、型を行ったりしていたら夕暮れになっていた。

 急いで屋敷に帰ると玄関には笑顔の茉莉が。

 華煉だけはそのまま茉莉に((執務室|奥の部屋))へと連れて行かれた。

 その際、俺は小さく小言を言われただけで、そんな俺を見た華煉が物凄い形相で睨んだ瞬間、茉莉の腕が華煉の首にキマり、もがく華煉の姿を最後にその日は二人に会うことはなかった。

 

 

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【あとがき】

 

 え〜 皆様お久しゅうございます

 九条です

 

 2週間までに更新します宣言早くも途切れる!

 ええ、適当ですみません

 言い訳はありませんが、強いて言えば最近MH4始めました(ぁ

 

 今回は説明と定期的に行われるヒッキーこと華煉イジメ回

 脇差の説明は一見アレに見えたかな? ちょっと意識して書いてみました

 

 説明系は個人的に色々と悩んだ結果、こんな形に

「なんでこうなるの?」「これだけの情報で普通は選ばんでしょ」とかあれば聞いて下さい

 答えるかもしれません

 

・ルビに関して

 こう読ませたいと思った時や、個人的に読みづらいものに付けています

 邪魔であれば削除します。こちらもご一報くだされば対応します

 

・最新話更新に伴い、第六話の加筆修正前のバージョンは削除しました

 

 

 8/22には「剣の街の異邦人 〜白の王宮〜」のPC版が発売……。

 それまでには一話書きたい所存です。

 

 

 毎回毎回あとがきが長くなっているので、今日はこのへんで。

 ではまた次回でお会いしましょー!

説明
一章 反董卓連合編

 第一話「檄文と道」
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コメント
>観珪さん もはや跡形なんてないですが、これ一応『リメイク』作品なんですよね……(爆(九条)
月ちゃんも大変な役回りですよねー 連合を相手取らなければならないなんて。 今回は梟の面子がいますし、新たな展開に期待しておりまするー!(神余 雛)
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